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第1話

 瑠璃崎るりさき高校2年A組——このクラスは、恋愛至上主義の教室である。


 ことの発端は、新学期に遡る。


「学生の本分は何ですか? 勉強ですか? いいえ、違います——!!」


 教壇に立った30代担任教師の此花郁美このはないくみは、最初の挨拶をそんなふうに切り出した。


「学生の本分——それは、恋愛です!!」


 勢いよく黒板に描かれた、『恋愛』の2文字。


「若いうちに甘くて苦くて酸っぱい恋愛を、できるだけ沢山経験すること。それだけが、人を成長させるのです……!!」


 陰キャでボッチで、クラスメイトの中に知り合いなど1人もいない俺が言うのもなんだが、教室にいる8割以上の生徒が「何言ってんだコイツ」って目をしていたと思う。


 恋愛というのは、たしかに青春の大切な1ピースである。

 誰しも恋愛映画やラブコメ漫画に憧れたりもするだろう。それが人間的な成長を産むことも理解できる。


 だけどそれが、それだけが学生の本分かと言われると、此花教諭の意見は非常に押し付けがましく、一元的だった。

 恋愛以外にも、部活だったり、友情だったり、趣味だったり、もちろん勉強だったり、人にはそれぞれの優先順位がある。

 それは1教師が決めるものじゃないだろう。


「今のうちに恋をしないと——禿山先生みたいになっちゃいますよぉ?」


 しかし、その鋭い追撃がごとき一言が、教室の空気を一瞬にして変えてしまった。


 禿山博之はげやまひろゆき

 瑠璃崎高校の歴史教諭。

 推定50歳。彼女なし童貞歴=年齢。

 女子生徒とはまともに目を合わせることすらできず、すぐキョドる。キモがられていることは言わずもがな。

 最近は後頭部が大変寂しいことになってきており、同情と嘲笑を呼んでいる。

 

 勉強だけはしてきたのだろう。優秀な教師ではあるのだが……いかんせん非モテ男性の代表すぎる。


「あんなふうには、なりたくないですよね?」


 男子がごくりと息を呑む。


「女子だって、他人事じゃないですよ?」


 その矛先は、女子へも向かう。


「売れ残りの女って正直なところ男なんかよりもずっと貰い手がないし、ただの社会のゴミですよねぇ……?」


 ひぇぇ、一気に話が生々しくなってきた。恋とか以前にボッチな俺でも背筋が凍る。


 そんな学生たちの様子を見て、此花教諭は勝利を確信したかのようにニコリと笑った。


「恋をしましょう。みんなが幸せになるために」


 そして、最後の爆弾が投下される。


「ここだけの話ね。恋愛的に青春を謳歌しているいい子たちには、内申も、成績も、先生がたっぷり色を付けちゃうぞ♡」


 俺の新学期はこうして始まった。

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