あの日俺は止めなかった
藤木 辰郎
普段から寝癖が酷い。
前髪が長く、両眼とも普段から隠れてる
身長183cm。デカい。ギザ歯。
「先輩」
「あ、なんだよ急に」
「別にいいじゃないですか。学園1の美少女が抱きついてきてるんですよ?もっと喜んでくださいよ」
彼女の名前は葉月 紫陽。
銀髪に紫色の瞳が特徴的で、彼女が先程言った通り彼女は学園1の美少女である。
小さい身体可愛らしい顔立ちは学園中の男たちからアイドル的存在として好かれており、毎日毎日彼女は男たちからの告白が絶えない。
しかし彼女は見た目に反してものすごい毒舌だ。
男の一世一代の告白ま一刀両断、所では無い。既にライフがゼロの男に死体蹴りするくらい口が悪い。
調子に乗ってると女性のいじめっ子系グループがいじめをしようとした時、言葉だけでいじめっ子グループ全員が半泣きで返り討ちに会う始末。
まじで口が悪い。顔の可愛さと口の悪さに全フリしたような女の子だ。
そしてそんな紫陽とイチャイチャしている会長と呼ばれた男は大橋 裕太。
完璧超人イケメン。説明終わり。
モッテモテのヤリチンイケメンだよ。それ以上説明いるかよ、要らねぇよな。
そんな紫陽と裕太だが、紫陽は俺の彼女だ。
今、2人が家に入っていくのをただ眺めているだけの男、俺は紫陽の彼氏だ。
はい、彼氏です。
「····················ぇ」
俺の肩にかけていたカバンが地面に落ちる音が聞こえた。
しかし俺はカバンを拾うことも、その場から動くことも出来ず、ただ眺めていことしか出来なかった。
§§§
俺は次の日、紫陽を学園の屋上に呼んだ。
「··········なんですか、先輩。高校では話しかけないでくださいって言ったじゃないですか」
「は、ハハッ、ごめん」
昨日はあんなに甘えるような声で裕太抱きつきながら甘えていたのに、俺にはこの塩対応。
声は冷めきってるし、態度だってイライラを隠せてない。
そう言えばこうやって二人で話すのは何日ぶりだろう。最近は一緒に帰ろうと誘っても色々に理由をつけて断られるし、電話をかけても大抵は無視される。
最近はデートも、話す時間すらない。
その理由なんて、たった一つのなのに。
「いや、たまには一緒にお昼ご飯でもどうかなって」
「···············いいですよ。それくらい」
「え、あ、いいの?」
「なんでそんなに驚いているんですか?気持ち悪いですよ」
「あ、いやぁ、断られるかなぁって」
「別に予定もありませんし、たまには一緒に食事くらい···············一応私と先輩は付き合ってる訳ですし」
「あ、ありがとう」
そうだな、一応俺と紫陽は付き合っている。
本当に一応な。
じゃぁなんで裕太とはあんな楽しそうにしてたんだよ。
§§§
「はぁ」
さすがに一緒に帰るのは断られた。
当然と言えば当然だ。だって紫陽は裕太と一緒に帰るのだから、俺と一緒に帰るわけが無い。
今日も紫陽は裕太と楽しんでるのかな。俺には聞かせたことの無いような可愛い声で、裕太に甘えて、まるで本物の彼氏彼女のようにイチャイチャしてんのかなぁ。
昨日ラブホに行ってたし、そう言うこともしてんのかな。
紫陽はどんな気持ちで俺と付き合ってんだろ。
裕太の趣味?紫陽の趣味?紫陽と付き合って喜んでる俺を見て楽しんでる?
分からない、分からないが、今の俺は滑稽だ。
「先輩、なにやってんのスか?」
「人生という名の地獄を味わってる」
突然後ろから話しかけてきたこいつは俺の後輩。
名前は純虹。
俺の親の友達の娘って事で、よく俺の家に遊びに来たり、お互いの親が一緒に酒を家で飲む時よくついて着て、そこそこ一緒に遊ぶような中だ。
高校もたまたま一緒になって、今ではよく遊ぶ。
と言うよりこいつが俺によく着いてくるというだけだ。
体持ちっせぇし、ジト目でクマが酷い。
なんと言うか、こいつを見てると保護欲をそそられるというか、ほっとけねぇって言うか、まぁ俺にとってこいつは妹みたいな存在だ。
「何スか、それ」
「お前には分からねぇよ。地獄を知らないお前には····················」
「なんでそんな落ち込んでんスか?彼女に浮気されたっスか?」
「····················」
「ぇ、冗談··········スよね?」
「もうすぐ昼休み終わるぞ、早く教室戻れ」
「わぷっ」
何故か心配そうにしている純虹の頭をぐしゃぐしゃと撫でて、俺は先に教室に戻る。
今日も一人か。そう言えば俺、紫陽のどこを好きになったんだっけ。
「ハハッ」
乾いた笑みがこぼれる。
それを考える時点で、恋人として俺は終わってる。
■□■□■□
「おっす」
「···············なんだ純虹」
「たまには一緒に帰ろ」
そう言って手を差し出される。
手を繋げということなのだろう。そう言えば昔はよく一緒に純虹と手を繋いで帰ってたっけ。
もうずっと前の事で、高校に上がってから一緒に帰ることはなくなっていた。
それは純虹にも一緒に帰る友達が居て、俺には一緒に帰る相手が居ないという、とても単純明快な理由である。
「先輩、何やってるんですか?」
「あ、紫陽さん」
「···············先輩、今日は機嫌がいいので、先輩がどうしてもって言うのなら一緒に帰ってあげないこともないですよ」
「うぇ!?」
え、あの紫陽からのお誘い!?
普段何度誘っても「忙しいので」「関係がバレるから」ていう理由で絶対に一緒に帰ってくれないのに!?
「どうなんですか?」
「も、もちろん一緒に───」
「断ります」
「えぇ!?」
しかし、返答をしたのは純虹だった。
紫陽は一瞬なにか言おうとしたが、その前純虹が俺の腕を掴み、無理矢理教室を一緒に出ていった。
「お、おい純虹!?お前何して···············」
「···············我慢ならねぇス」
「我慢て····················」
普段から俺の後ろを着いてきて、俺の真似ばっかりする、俺にとって妹の様な存在だった。
純虹は俺にとって血の繋がらない、家族のような、それでいて何処か、それ以上の存在な気がした。
だが、恋とはどこか違う、何が違うか分からないが、「好き」だが、それは世間で言う恋愛感情の「好き」とはどこかズレている気がした。
「··········久々に飯食ってくか?」
「···············はいっス」
きっとお前には気づかれちまってるんだろうな。
俺がどうしてこんなにも悩んでるのか、なんで落ち込んでるのか。
このモヤモヤを晴らす方法も。
お前は俺と違って、賢いからな。
俺は不貞腐れている純虹の頭を撫でてやった。
「へぇ、そんな顔するんですね⋯⋯⋯先輩」
そんな2人のやり取りを影で見る1人の少女。