表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

おにぎりを握れる俺は、最強の魔法使い~侯爵令嬢たちと送る幸せな日々~

作者: まと
掲載日:2023/10/10

太陽が真上に昇る頃。俺は田んぼへ、じいちゃんを呼びに行った。

「おーい、そろそろ昼メシの時間だってー」

じいちゃんは気付かない。田んぼの奥で作業をしているし、耳が遠い。


休憩所では、ばあちゃんたちがおにぎりを配っている。

村のみんなで食べる、幸せなひとときだ。

じいちゃんにも早く加わって欲しくて、俺は身を乗り出した。

すると、足を滑らせて、田んぼに落ちてしまった。


身体を起こそうとするも、びくとも動かない。

それどころか、じわじわと沈んでいく。

「う、うわ!たすけ……」

顔も田んぼの中へ入る。そのまま下へ、下へと降下を続けた。


意識を失う直前、ぎゅるる、という腹の音が聞こえた。

こんな時でも腹は減るらしい。

俺は思った。「おにぎり、食べたかったな」と。



目を開けると、全く覚えのない場所にいた。


横になっていた、質素なベッドから身を起こす。

窓の外には森が広がる。ここは山小屋だろうか。

部屋にはベッドの他に、小さな机のみ。そこに、きらきら光る石が置かれている。

不思議な石を眺めていると、扉が開いた。


ピンク色の髪をした、ツインテールの女の子が入って来た。

「よかった。やっと起きましたね」

かわいらしい顔に似つかず、背中には大きな斧。服装も木こりっぽい。

しかし、木こりのわりに洗練された動作をする。話し方も品がある。

「ここはどこ?」

「迷いの森です。まさか、知らずに来たんですか?」

その、まさかだった。

高校の夏休みに、田舎にあるじいちゃんの家へ行き、田んぼへ落ちただけだ。


女の子は地図を持ってきてくれた。王国の地図だ。森は帝都の北に位置している。

「てっきり、魔法石の密猟業者だと思いました」

「まほうせき?」

「ええ、これです。食べれば魔法を覚えることができるんです」

彼女は机の上にある、きらきら光る石を持ってきて、俺に渡してくれた。

握りこぶしほどの大きさだ。色はピンク色に近い、オレンジ色。

「これは『火』の魔法石です」

「大きいな。このまま食べるの?」

「いえ。まず砕いて、特殊な魔法で調理します。一年くらいかかりますね」

砕くと、イクラみたいだ……。そう思うと、急に腹が空いてきた。


俺の腹の音を聞いて、女の子はぷっと吹き出した。

「良いですね、男の子らしい食欲です。えっと、名前は……」

「おうすけ。君は?」

「クララ。今、あたたかいスープを作りますね」

クララは立ち上がり、「あ。そうそう」と付け加えた。

「自分のスキルが何か、確認した方が良いですよ。スキルを使えないと森を生きて出るのは難しいです。」


クララが部屋から出て行った後、俺はスキルを確かめようとした。

「発動せよ、おうすけのスキルッ!!」

逆立ちをしたり、かっこよく叫んでみたりした。しかし何も起こらない。


手持ちぶさたにあり、魔法石を手に取った。大きなイクラみたいだ。

上にポンポンと投げて遊びながら、ふと、思い出した。

「おにぎり……」

次の瞬間、手から石は消えていた。代わりに、おにぎりが出現していた。



「かわいそうに。異世界から来て、頭がおかしくなったんですか……」

「いや、違うから!」

キッチンに持って行き、クララに報告したら、憐れむような目で見られた。

石をおにぎりにした以上、勝手に食べるのはどうかと思ったのだが。


「もし本当なら、すごいですよ。魔法石を、すぐ食べれる方法を見つけたなら」

「そんなに、すごいことなのか?丸飲みする奴とかいるんじゃないの?」

俺は空腹に耐え切れず、おにぎりを口に入れた。イクラだ。塩辛くて、うまい。


クララはコンロを直そうと、苦心している。火がつかないらしい。

「だめです。正しく調理してから食べないと、大変なことになるんです」

「……もう食べちゃったんだけど」

「え? 火の魔法石をですか?」

これだけゆっくり振り向く子を見たのは、初めてだった。


「うん。でも火の魔法を使えるかは、分かんないな」

俺はコンロに向かって、指を鳴らしてみた。

たちまち、炎が上がった。

消えたので、もう一度やってみた。炎は継続して、燃え続けるようになった。

スープの入った鍋が、コトコトと音を立てている。


「す、すごい。おうすけ、あなたは一体……」

クララは呆然としていたが、すぐに我に返った。

そして俺の腕をつかみ、顔と顔を近付けた。

「え、な、なに?どうしたの?」

「お願いがあります。もし叶えてくれたら、何でもします」

「そんなの良いよ。クララは俺を救ってくれたじゃん。で、何?」


彼女に手を引かれ、地下室へ連れていかれた。



地下室では、クララに似た女性がベッドで寝ていた。

「もうすぐ母さんは石になります。無理やり、魔法石を食べさせられたんです」

「ひどいな。そんな奴がいるのか」

「そんな奴しか帝都にはいません。お願い、母さんを治してください」

俺はうなずいた。クララの大きな瞳からは、今にも涙がこぼれそうだ。

クララが感情らしい感情を見せたのは、これが初めてだった。

今まで親の代わりに働いていて、大人びた態度が板についていたのだろう。


クララはベッドサイドのテーブルの引き出しを開けた。

「この水の魔法石を食べれば、癒しの力を得ることができます」

「分かった。おにぎりにすれば良いんだな」

「……あれ、ない?」

慌てて引き出しをひっくり返すが、結果は芳しくないようだ。

「探し物は、これかい?」

いつの間にか、地下室の入口に男が立っていた。


男は、紺色の石を見せつけている。あれが水の魔法石だろうか。

「お前は、ジュート……!」

「おい、そんな口を聞いていいのか?誰のお陰で仕事できてると思ってるんだ」

「火の魔法石だけじゃ、母さんの薬は買えません」

「他の石の許可証もくれってか?お前みたいな怪力だけが取り柄のバカ娘に?」

クララは悔しそうに唇をかみ締める。何度も繰り返された、慣れた動作に見えた。


「勝手に水の石なんて拾いやがって。金欲しいなら、乞食らしく身体でも売れ!」

俺は指を鳴らした。男の足元に炎が出現した。

「うわ、なんだこれ!?」

次に水の魔法石をめがけ、パチンと指を鳴らす。

「あちちっ!」

男が手放した石をキャッチした。そして「おにぎり!」と、叫んだ。

瞬く間に石はおにぎりに変わった。


「あれ、本当だったんですか。すごい……」

「なんだ、その白い丸っこいの?」

驚く二人を前に、おにぎりに嚙みついた。

「こんぶ味かな、これも美味い。クララ、一口いる?」

「え? あ、ありがとうございます」

小さな手に、一切れ渡す。しかし、おにぎりは手の上で消えてしまった。

「スキルは自分だけのもの。他の人に渡ると消えるんでしょうね……」

悲しそうに呟く彼女を見ていると、ふいに、男の羽交い絞めにされた。


「へへ。お前、良いスキル持ってんな。このガキより売れそうだ」

相手が見えないので、火を起こすのは危険だ。

俺は指で鉄砲の形を造り、男の顔へ向けた。

そして「くらえ、水鉄砲!」と叫んだ。

勢いよく、人差し指の先から水が発射された。


「さすがです、おうすけ」

「いいよ。それより、クララの母さんを治そう」

気を失って床に倒れた男を置いておき、俺はベッドに向かった。

生気のない顔に、ピンク色の豊かな髪がコントラストを描く。

両手を彼女にかざし、俺は言った。

「お願いだ、水の魔法……この人を、治してやってくれ」

完全な沈黙が数秒流れた。もうだめかと思った、次の瞬間。

次第に、彼女の顔色に生気が戻って来た。

「……ん、クララ?」

「お母さん!良かったぁ!」

涙ながらに喜ぶ二人。俺は腹も心も満たされて、幸せだった。



その日の夜。クララの母さんが、ご馳走を作ってくれた。

おにぎりもうまいが、他の物も食べられて嬉しい。


「何てお礼を申し上げたら良いのか……そうだ。帝都の知り合いに連絡するわ」

「あの、クララも帝都に連れて行って良いですか?」

クララはきょとんとしている。俺は続けた。

「この世界がどうか分かんないんですが、俺の世界だと、学校へ行くんです」

恋をしたり、勉強をしたり、友達を作ったり。

楽しいことばかりではない。でも、介護と仕事だけが人生でもない。


「ええ、もちろん。この子も、本来の場所に戻らなくはね」

「本来の場所?」

「あら、聞いてなかった? クララは、帝都一の名門貴族の娘なのよ」

「えええ!木こりじゃないの!?」

「この子は変わっててね、森での暮らしを愛しているの。役になり切りすぎて、変な男の人も惹きつけちゃってたみたいだけど?」

母さんは、とても怒っていらっしゃるようだ。


「はい。じゃあ、おうすけ。一緒に帝都へ行こう」

「おう。まずは迷いの森を抜けないとな」

「大丈夫だ。最強の魔法使い、おうすけがいるからな!」



こうして俺は魔法使いとして、クララと帝都へ向かった。


既に噂は広まっていて、侯爵令嬢はもちろん、精霊や王女まで巻き込んだ、

「最強の魔法使い:おうすけ」の争奪戦が繰り広げられるのだった―――

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


・面白かった

・応援してる

・長編も読みたい


と感じていただいた方は、広告下の☆☆☆☆☆より評価をお願い致します。


作者の励みになります。評価いただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ