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9話 転移者と1日教官

 困った。

 

 コレがグレイと途中から合流したジンの感想だった。

 

「俺たちはこの世界の人間ではありません」

 

 グレイの説教が効いたのか、大人しくなった青年の開口一番がコレだ。

 

 自分の手には負えそうに無いと思考を手放したくなったが、自分で首を突っ込んだのだからと意識を強く持ち話を聞いていく。

 

「元は日本という国で生活してたんですが突如この世界へ飛ばされて......それで王様達の元で保護されてたんです」

 

 青年が言いにくそうに口籠ると髪を後ろで結んだ勝気な少女が後に続く。

 

「元々私達は喧嘩もした事は無かったんです、でもこの世界に来てから高い魔力と戦闘能力がある事が分かりました」

 

 それからは、冒険者として魔獣の討伐を主に請け負って名声を積み上げていたそうだ。

 

「あぁなるほど、誰も注意する奴が居なかったんだな」

 

 確かに力に目覚めてスグに実績を積み名声を得てしまったなら増長しても仕方がないだろう。

 

 グレイとジンは青年達へ少し同情する。

 

「それでさっき......グレイさんを殴った時はまだ、どこかこの世界を現実だと思って無かったんです」

 

 青年は手の感触を確かめるように握りしめたり開いたりを繰り返している。

 

「でも、グレイさんを殴って......言葉を聞いて夢から覚めたようでした」

 

 自分で誰かの命を奪っていたかもしれないと考えたのだろう。

 

 握りしめた拳は小さく震えていた。

 

「まぁなんだ、オタクらは運が良かったな! グレイが相手なら万が一もねぇだろうよ!」

「いや、殴られたとこが地味に痛いが......」

「この坊主の魔力が乗った拳なら、魔無しなら普通は即死なんだよ常識を知りやがれ」

「我が筋肉に常識などは存在しない!」

「やかましい!」

 

 青年達の気を紛らわせる為の三文芝居。

 けれど青年達には効果があったようで少しは顔色が戻った。

 

「それにしても......この筋肉達磨にダメージを与えるとはなぁ! えっと名前聞いてなかったな」

「あっすいません! 俺は『フジサキ アヤト』って言います。フジサキが家名でアヤトが名前です」

 

 黒髪の鋭い目つきの青年『アヤト』は改めて頭を下げる。

 

 それに続いて黒い髪を束ねた勝気な少女は一歩前に出て。

 

「アタシは『フジサキ ミサキ』! そこのアヤトの妹です。グレイさん、兄が本当にご迷惑をおかけしました!」

 

 腰が折れるので無いかと心配になるほど頭を下げるミサキ。

 

 すでに気にしていないグレイは慌てて頭を上げさせる。

 

 その際にアヤトの後ろで怯えるように小さくなっていた少女と目が合った。

 

「あの......わたしは『フミノ ナミネ』です......あの、よろしくお願いします」

 

 前髪で目元を隠しながらナミネは小さく震えながら自己紹介を行う。

 

 なんとも個性的な面々だとグレイとジンが思うが一先ず置いておく事にする。

 

「アヤトとミサキとナミネか いい名前だな! それでお前さん達は黒き森の探索に参加したいんだろ? グレイにダメージを喰らわしたなら突破力の問題はなさそうだが......」

 

 ジンはアヤト達を見ながら考える。

 

 どうするか。

 

「(能力だけなら合格だが中身が伴ってねぇ......アイツらは森に篭りっぱなしだから指導する奴がいねぇ)」

 

 隣のグレイを見る。

 

 すでに自分の管轄からジンの問題へと移ったと確信したのか、マオを膝の上に乗せて良く分からない遊びをしている。

 

「(面倒ごとを俺に押し付ける気だな! そうはさせんぞ)」

 

 一瞬だけグレイとジンの視線が交わった。

 

 グレイは急いでマオを抱え上げて部屋から出ようとするが。

 

「そうだ! ここに居るグレイは魔力こそ使えはしねぇが実力はこの街でも5本の指に入る実力者でな、試験がわりにコイツに戦い方とか教えてもらったらどうだ?」

 

 一息で言い切るジン。

 

 あまりに早口にグレイは逃げるタイミングを失った。

 

 あまりにも一方的な言い分に流石に文句を言おうとするが......。

 

「本当ですか! お願いします! こんな事を頼むのはお門違いだってのは分かってます......でも! 俺に力の使い方を教えて下さい!」

「お願いします!」

「おっおねがい......します!」

 

 グレイは天井を見上げて唸る。

 

 ここまで言われて放って置くのは気が引けるが、マオの事はどうする。

 

 コチラの問題は後回しにするわけにはいかない。

 

「マオちゃんの事は俺達に任せな。商業ギルドの方に話を通して置くぜ」

 

 ジンがグレイの退路を塞いだ。

 

 正直な話、グレイに商業ギルドとの面識はない。

 

 マオの安全を考えればジンの提案は渡りに船だ。

 

 グレイは色々な言葉を飲み込んで、諦めたように肩を落とした。

 

「分かった! 今日だけだからな! 後は知らんぞ!」

「助かるぜ! それじゃあ俺はサリアに訓練場を開けるように伝えてくるから後は頼んだ!」

 

 マオを抱えて逃げるように部屋から出て行くジンを恨めしそうに睨むのをやめて、グレイは泣きそうな顔でコチラを見るアヤト達を見て口を開く。

 

「こうなったら覚悟しとけよ!

 今日一日みっちりしごいてやるからな!」

「「「はい!」」」

 

 こうしてグレイとアヤト達の訓練が始まる事となった。

  

ご読了ありがとうございました!



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