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にぎやかなクラスの物語  作者: 颯待 彗
一学期~太陽と魔法と。~
9/48

9話 騎士、そして……

 それは誰にも原因が判らない悲劇。


 突き刺さる矢、混乱するすべての階層の住人達。


 火傷を負いながら主の元へたどり着いた従者である青年の腕の中でその姫君は息を引き取った。


どの界でも彼女を暗殺する理由が無く、また本当に誰が放った矢か誰が捜索しても判らない。神と魔王ですらその矢が誰の矢か判断できなかった。


 それでも太陽の姫君は暗殺され、8層の内7層から太陽は失われた。




 魔法世界は相変わらず光魔法のランタンでかろうじて明るさを保っていた。仄暗い灯りは昼夜問わず暗い魔法世界を照らし続け、魔法世界の住人達も思い思いの時間で生活を営んでいる。魔法世界はさほど広くない。外周の町が森に沿って囲み、そのほぼ中央にあるのは白と黒の城。それが魔法世界。魔法を司る世界の全て。


 その城へ向かう森の一角に、魔物たちは集結していた。一重に魔法世界を司る女王たちを守るため。だが侵入者はものともしなかった。


「真唯っ美穂が援護するからそのまま突っ切って道開けてっ」

「陽菜ちゃん無茶しなくて良いからっ美歌っちよろしくっ」


 普段打倒しているスライム軍団に加えて1週間に1度は打倒できるワイバーンや初めて対する敵性魔物すら居る戦場。だが初めての戦場でもものともせず少女達は駆けまわる。


「これ俺引率要るか?」

「先生の引率あるから背中任せられるんですってっ」

「そりゃよかったっ」


 前を向くD組メンツとは対照的に衛理は後ろの護衛に当たる。一閃で後ろから追いかけてくるゴーレム軍団を壊滅させた太刀筋に指示役だった学級委員長、木原悠華は口笛を吹いた。


「先生やるぅ」

「さっさと進めっ」


 先陣を切っていた真唯はいつも通り戦闘をこなしていた。違うのは武器があること。剣は妙に手に馴染んで、森の一角を薙ぎ払いながら皆が戦闘しやすいように文字通り道を切り拓いていく。破壊しすぎないようにきちんと手加減はしている。今の勢いに乗ったままならばあの城ごと破壊しそうだからともいえる。


 不意に真唯は言わば総力戦は枷が填まっていた時の襲撃事件以来であることを思い出した。あの時日陰で、戦う親友達を見守るしかなかった自分は今、戦闘の最前線にいる。それがうれしくて、楽しくて。


「ぅおらぁぁっ」


 木々が薙ぎ払われる。戦場は広く取られ、戦場慣れしていないクラスメートでも戦いやすくなっていく。その口元に笑顔を乗せ、真唯は駆ける。あの女王2人に再びまみえる為に。



大埜爽子は木原悠華に次いで戦闘の指示役として立ち回って居ながら真唯から眼を離さないようにしていた。何せここは自分たちの暮らす人間界ではなくその下の階層、5階層目の魔法世界。あの日真唯が攫われてきた場所。親友として、そして真唯の機微を見続けてきた者として、もう真唯だけに無茶をさせるつもりはなかった。


 真唯はどんな時であっても泣くことはなかった。枷を嵌められた時怒りで泣いたって良かったのに、魔法世界から人間界に帰ってきた時安堵で泣いたって良かったのに。真唯は泣かない。そんな友人をいつも心配し続けるのが爽子だった。


 水魔法を纏った短刀が司令チームに向ってきた鳥型のスライムではない魔物に命中する。防御も重ねていない鳥ならば彼女たちにとってそれはただの的だった。



 藤森陽菜はD組の中では普通に分類される少女だった。成績も普通、授業態度も普通。だがにぎやかなクラスにはぎりぎり馴染む普通さだった。その陽菜は、数時間前まで武術もやったことが無い普通の女子高生だった。普段の迎撃戦はサポートに徹している。そんな彼女は支給された剣を何とか持ち上げて、風魔法を付与させて振り下ろした。


 一瞬で陽菜の前が開ける。大量のスライムたちや空を飛んでいた飛行型魔物、地を這う四つ足歩行の魔物すら一閃で薙ぎ払われた。


「ナイス陽菜っ」

「よっしっ」


 再び陽菜が構えるがその背後をスライムではない狼型の魔物が取る。だがその姿は薙刀の一閃で無に帰した。


「後気を付けて」

「ありがとう美歌ちゃんっ」


 櫻井美歌はふわりと笑うと他のクラスメートたちの援護に奔走する。一番援護に入ることが多いのは弓組。間合いに入られた敵を長柄組が討伐していく。全体的に真唯の友人組には風魔法が多い。それは必然か偶然か。


 例外の親友、鈴鹿美穂は雷属性を纏わせて矢を放ち続ける。昨日見た学年主任の矢の速さに近づけるように、ただひたすら友人たちを狙う空の生き物を狩る。誘導魔法も使ったその矢は百発百中。次々と魔物たちは落ちていった。


「皆ッ門見つけたっ」

「「ぶち破りなさいっ」」

「了解っ」


 門の前に立った真唯は司令塔2人の声を受けてあの日破壊できなかった分と言わんばかりの勢いで炎を練り上げ、門を破壊した。瓦礫となった門へクラスメート達は次々と駆け込む。殿の司令塔組と衛理が入ると魔物たちはそれ以上追ってはこなかった。


「つっかれたぁ……」

「真唯、城の中の敵は?」

「なんか甲冑だけみたいな軽そうなやつっ」

「……いや、城の中には敵は出ないだろう。女王達もそこまで愚かではない。ただ、面会した瞬間囲まれる可能性だけ考えておけ」

「判ったっ」

「で?何処に行けばその女王様に会えるの?」

「判んないっ」

「……この能天気お馬鹿さんは……」

「この手の城は大体構造が一緒だ。着いてこい」


 衛理の先導でD組の面々は静かな城の中を静かに進んでいく。もちろん警戒は怠らず、真唯は臨戦態勢のまま進んでいく。やがて、真唯はあの日見た大きなドアの前にたどり着いた。


「これっこの先に黒の女王さんが居たっ」

「当たりで良かった……行くぞ」

「了解っ」


 ぎぃと音を立てて扉が開く。広いホールになっているその場所にD組メンツが全員入るとドアが勝手に閉まった。


「おやおや。此度の来訪はずいぶん大人数だな炎の娘」

「……六嘉さん」

「あれが……」


 黒の女王、六嘉は優雅に玉座へ座っていた。その瞳は前に見た時よりもしっかりしていて、それでもなお愉快げに笑っていた。


「ふむ。運が良いな炎の娘。此度は我が正気な時。何、ゆっくりと話し合うのも良いが、ずいぶんと火力を上げたようで何よりだ」

「太陽の力に近くなったはずだよ。これでどうにかしてくれるんでしょ?」

「あぁ。とは言え、まだ足りないかもしれない。故に」


 カシャンと鎧がこすれる音が響いた。とっさに真唯と衛理が剣を向けた先。


「なっ」

「……へ?」


 そこにいたのは、服装こそ鎧と現代服で違い、髪の長さも違うものの、顔立ちは黒風衛理に瓜二つの青年だった。


「ん?あぁなるほど。どおりで魂が見つからないはずだ。とうに輪廻転生の輪に入っていたとは。いやはや見上げた忠誠心だ」

「え、なんで、センセー?」

「……黒の女王六嘉……どういうつもりだ」

「この者の名はコラキエル。かつて1000年前、太陽の姫に仕えし忠臣。この者を倒せないようでは太陽の力に至ったと認めるわけにはいかない」

「ふざけるなっ鴻、下がっていろ。俺がやる」

「うんにゃ。センセーが此処に居て」

「何を」

「あの人倒せばいいんでしょ?いつもセンセーと手合わせしてるから強いのは判る。でも、今回は負けないから」


 憤る衛理を置いて真唯は担任よりも髪の長い青年と向き合う。ふらりと青年は其の腰にはいた剣を抜いた。


「では、始めろ」


 打ち合いが始まる。真唯が戦いやすいように壁際に移動したクラスメート達は顔色が真っ青な衛理を座らせた。


「……悪い、引率なのに」

「良いけど……結局あの人って先生の何?双子のお兄さんとか?」

「……言って信じられないような事だけれどもな」

「もうここまで来たら何でもありだから言って」

「……アレは俺だ。かつて太陽の姫に仕え、そして目の前で失い、後を追った……役立たずだった前世の俺の姿だ」


 生徒達が息を飲むのを感じた衛理。だが彼女たちはあの規格外の火力すら享受した戦闘科クラス。彼女たちはそうであると飲み込むと理解が早かった。


「前世……生まれ変わり?」

「あ、だからさっき魂がどうとか」

「魂的には生まれ変わって、じゃああれ結局死体的な?」

「やだ怖い」

「え、じゃあ千年ものの?」

「無いわ、絶対無い」


 あっけなく生まれ変わりを受け入れた彼女たちに衛理はあっけにとられながらも補足する。この世界の仕組みを知っているのは女王を除けば今は自分だけなのだから。


「……俺が死んだ第二層では死体は残らない。魂と共に七層の幽界に落ちるんだが、俺は運よくすぐに輪廻転生の輪に入れた。姫の魂もさっさと輪廻転生してやがったからな」

「……じゃあやっぱりその……太陽のお姫様の生まれ変わりは……真唯?」

「んなわけあるか」


 バッサリの断言に聞こえていた真唯も、そして耳を傾けていた六嘉も思わず衛理を見た。もっとも真唯はコラキエルとの戦闘に引き戻されたが。それでも衛理は言葉を続けていく。


「確かに顔立ちは姫と鴻はよく似ている。それは認めよう。髪長くしたらまんま姫だろうよ。だがな、曲がり間違っても第1層を統べる血統の姫君だ。深窓のとは言わないがちゃんとお嬢様してるお姫様だったよ。それが鴻になり得るか?」

「うん。其れは無いね」

「真唯がお嬢様……真唯顔のお嬢様……脳が理解を拒んだ」

「姫は姫で、鴻は鴻だ。俺みたいに記憶を引き継いでいない限り、万が一同じ魂を使っていても別物だよ」


 担任の断言が聞こえてきて、真唯は心が軽くなるのを感じていた。この城で太陽の姫の生まれ変わりでないかと黒の女王に問われて以来自分が何者か判らなくなる時が不意に訪れていた。だが担任は、衛理は、おそらく姫を一番よく知っている彼は姫と自分は別物と断言してくれた。例えば生まれ変わりでも自分と姫は別物だと。それだけで心が軽くなる。


「皆ひでぇっ僕だって頑張ればお嬢様出来るかもしれないじゃんっ」

「あんたには無理だよ真唯っ」

「さっさと元先生倒せ~」

「やっちゃえ真唯~っ」

「その応援は複雑な心持ちになるが概ね同意見だ」


 真唯とかつての自分の戦闘を見つめる衛理。彼は1つだけ嘘を吐いた。もちろん式典ではきちんと礼儀作法を身に着けていたが普段の言動や行動力に関して言うならば真唯と姫は瓜二つだった。だが、それは言わない方が良いことと口を閉ざしただけ。式典の時の姫君をやっている姫しか知らない六嘉も先ほどの物言いで納得するだろう。衛理は永遠に姫と真唯は別物と言い続けるだろう。それでも、彼の心の中では時折泣きそうになるほど、真唯は姫に似ていた。


 打ち合いは続く、フェイントも効かない。だが真唯には手ごたえがあった。この目の前の青年は本当に空だ。其れこそ此処に来た時に見た鎧の兵士のように。中身が無い。だからこそ、普段は防がれる手が使える。


「そこっ」


 連撃からの突きが決まる。衛理には防がれたそれはコラキエルと言う青年の体制を大きく崩した。その両手を、真唯は狙う。


「うりゃぁぁっ」


 カランと、コラキエルの剣が地に落ちた。喉元には真唯の剣が付きつけられている。その姿に黒の女王、六嘉は笑った。


「見事なり」


 六嘉の声と共にさらさらと砂のようにコラキエルの身体が消えていく。思わず手を伸ばしたその手を取ったのは回復した衛理。その周りをクラスメート達は囲んでいく。


「炎の、否、太陽の娘よ。第一層に上がれ。彼の地に太陽の杖がある。其処に祈りを捧げよ」

「ど、どうやって」

「心配するな。俺が知っている」

「センセーっ」

「だが黒の女王六嘉。第一層までの道はどうする」

「そこに」


 六嘉が示したのは1つの階段。不自然に途切れたその道に真唯は吸い寄せられるように駆けだした。


「待て鴻っ」

「真唯っ」


 衛理の制止も聞かず、真唯は一直線に階段へ向かう。その姿に、六嘉は笑みをこぼした。身の毛のよだつ笑みを見てしまった悠華と爽子は真唯のもとに駆け出した。


「真唯っっ」


 その手が真唯に届くあとわずかの所。


 真唯の肩に、矢が突き刺さった。


「真唯っっ?!」

「鴻っっ」


 その矢は上から放たれたもの。見ればそこには白の女王が弓矢を持ち佇んでいた。


「いけないわ、あぁいけないわ。お話は最後まで聞かないと」

「姉殿よ。狙いを外してどうする」

「六嘉ぁっ」

「必要なのは魂だけであろう?ならばこうするのが一番よ」


 倒れ込む真唯。その真唯に駆け寄っていた爽子と悠華は一瞬の殺気に飛びのいた。


 広がったのは梅雨の日の再現のような炎の柱。天井を突き破らないのが不思議なくらい熱いその柱に爽子と悠華はクラスメートの元まで撤退を余儀なくされた。


「何、あの炎っ」

「……水魔法組。全力で俺に水ぶっかけろ」

「何を」

「早くっ鴻を死なせるわけにはいかないだろうっ」


 その言葉に間髪入れず水魔法組が水を放つ。びしょ濡れになった衛理は迷わずその炎の壁に向かって走り出した。


「先生っ」

「水系っ先生に水追加っ真唯の元に行く援護をっ」


 水属性組が次々と水弾を衛理へ当てていく。時折手加減を誤ってスライム戦と同じ勢いの水弾が飛ぶが衛理にとっては想定内。


 そして衛理は炎の壁に飛び込んだ。



 あの日と、同じように。






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