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にぎやかなクラスの物語  作者: 颯待 彗
一学期~太陽と魔法と。~
8/48

8話 林間学校から魔法世界へ

 魔法を扱う人類は1つだけ見落としていることがあった。それは魔法形態が詳しく伝わっていないが故のミス。


 火、水、風、土、雷。これが今現在人類に扱える魔法の種類。それ以外に魔法界には光魔法と闇魔法が存在している。そして4属性には上位種が存在していた。水魔法の上位種は氷、土魔法の上位種は地、風魔法の上位種は嵐、火魔法の上位種は炎、そして太陽。上位種の力が与えられていないがために人類は一定以上の魔法の力しか使えない。


 だが与えられていない光と闇魔法以外で唯一上位種が存在しない雷だけは特別だった。雷の力はある一定を超えると神の権能として機能する。人類でその領域にたどり着いている人物は、ただ1人。


 果たしてそれは、本当に人間なのだろうか。




 1年D組の林間学校の夜。消灯時間に騒いでいたにぎやかなクラスの面々を一喝し、その中に一番賑やかな人物が居ないことに気付いた衛理は表に出て探していた。


 彼女は案の定昼間の戦闘訓練場に居た。炎の力は使わず、素振りで昼間貰った剣を扱っている。


「練習熱心なのは良いが、消灯時間だぞ鴻」

「センセー」

「剣の扱い。慣れてるな」

「実家が剣道場でね。もう廃業しちゃったけど昔通ってた人たちがたまに来て練習してくから混ざってる」

「なるほど」

「センセーは?結構やり込んでるよね、昼間の太刀筋」


 ピクリと衛理は反応した。確かに学生時代剣道部にも入っていたが、剣の腕を一番磨いたのはそこではない。だがそれを言うつもりは無かった。それは彼にとって、思い出したくない出来事だったから。


「俺は……まぁ特殊な事情があるからな……かなり特訓したよ」

「そっか……でも火魔法使うの初めて知った。普段全然属性魔法使わないんだもん」

「高火力の前にろうそく置いても虚しいだけだろ。ほら戻れ」

「は~い」


 2人は並んで宿舎へ向かう。ふと真唯は魔法世界での出来事で疑問に思ったことを口にした。


「そう言えばさ、学年主任って人外の知り合い居るの?」

「どうした急に」

「いや魔法世界で会った黒の女王さんと白の女王さんが学年主任知ってるみたいで」

「あぁ……まぁそうだろうな……あいつは……普段はバカっぽいというかバカだが、特殊性だけ言うならお前以上に特殊な奴だ。それでいて人間の枠に収まろうと努力する」


 衛理と神哉。2人の付き合いは学生時代に収まらない。それを誰に言うつもりも無いし、言っても信じてもらえないと理解しているから今の神哉について語るのみ。それでも真唯には十分だった。


「そうなんだ……意外。学年主任ってふらふらへらへらしてるイメージ。あ、でも真面目な時はめっちゃキリッてするよね」

「それが神哉のほとんどだ。きっと異常性を出してもお前たちは何でもないように接すると感じ取っているからたまに素を見せたりするんだろうな」

「この前の雷の力とか、手合わせでめっちゃ強いとか?」

「そうだな……この前の雷が一番うっかり素を出したあたりか。それだけ慌てていたともいえるがな」

「その節はご心配をおかけしました?」

「さすがに俺も魔法世界から招待されるとは思っていなかったからな」


 会話の間に宿舎へ入る。そして真唯のあてがわれている部屋にたどり着く。まだ灯りが漏れていることに青筋を立てながら真唯に開けさせた。


「ゲッ黒風先生」

「お前等消灯時間って概念判ってるか?明日も特訓なんだからさっさと寝ろっ」

「真唯待ちでしたぁっ」

「優雅にトランプやりながら待つとは殊勝なことだ。ほらさっさと片付けて寝ろ」

「はぁい」

「じゃあ鴻。お前も早めに寝ろ」

「うん。ありがとうセンセー」


 衛理が立ち去り、5人部屋に暗闇が訪れる。だが大抵の生徒は眠らない。もちろんこの部屋も例外ではない。少女達は枕を集め、話を続ける。それが林間学校の醍醐味でもあるから。


「黒風先生と何の話してたの?」

「んと、剣の腕とか、あと学年主任の事とか」

「学年主任ってほんっと謎。魔法省のお偉いさんって噂本当みたいじゃん?最近のあの感じじゃ」

「かもね。真唯の枷についても関わってたみたいだし」

「だね。魔法世界から帰ってきて女王さん達のお手紙持ってったあとの登校日に謝られたもん。改めて~って」

「そもそもお手紙何処に持ってったって話じゃん?」

「お偉いさん確定。でも学年主任が?」

「お偉いさん?」

「……想像ができない……」


 くすくすと外にバレないように少女達は笑いあう。彼女たちの話は夜遅くまで続いて行った。


 一方その頃教員用コテージにて。


「ふえっっくしゅんっ」

「……風邪移すなよ?」

「いや、これ絶対寝る前の女子トークで僕の噂とかしてる。」

「左様か。良かったな人気者の学年主任」

「衛理の意地悪~」


 神哉の膝の上にはノートパソコン。先ほどまでその内蔵カメラで八議席が行う夜の会議にリモート出席していた。衛理だけが居る空間でしかできない仕事。普段の林間学校期間は比較的近くで行われている全クラスの合宿所に顔を出し、その間に魔法省の仕事をこなす。故に今年は圧倒的に楽をしていた。


「ほら、飲むだろ?はちみつミルク」

「貰うよ……はぁ……どうしてあの歴々は頭硬いんだろう……」

「歴々だからじゃないか?」

「ごもっとも」

「適当に切り上げて寝ろよ?お前だって明日っからまたあの元気有り余ってるクラスと手合わせ大会なんだから」

「衛理は?」

「これ飲んで歯磨いて寝る」

「健康優良児ぃ」

「うるさい不健康代表」

「あはは……」


 確かにと神哉は自覚していた。昼間はぎりぎりまで教師としての仕事を行い、夜は夜で魔法省の仕事を行う。休みのほとんどない教師という仕事の少ない休みも魔法省の仕事で埋まっていく。仕事中毒気味であることはさすがの神哉でも自覚できていた。


「でもそうさせてもらうかな。何かあれば衛理は反応できるし」

「任せろ。結界から出ても入っても察知して秒殺してやる」

「出た方は殺しちゃ駄目でしょ」

「拳骨?」

「それぐらい」

「まぁそんなもんだ。ほどほどにな。じゃ、お休み」


 衛理がマグカップを洗って部屋に戻るのを見送った神哉はソファに沈み込んだ。自分の立ち位置を把握し、出すぎないようにするのが常の事。それでも、今回だけは違う。そのように動いていた。


「……大丈夫……あんな世界はこの地上にだって起こさせはしない……そのための僕だ……」


 それでもと迷ってしまう、それでもと悩んでしまう。その姿は、まごうことなく人間の苦悩だった。




 明けて翌日。朝食後、休みを取って始まった武器への付与特訓。真唯をはじめとした早い生徒は付与した武器を使いこなし始めている。特段器用さを発揮したのは大埜爽子。水魔法によって短刀を操り的確に的に当てていく。


「爽子さんカッケぇぇぇっ」

「派手さでアンタには負けるけどね。でもなかなかに楽しいわよ」

「良いなぁ爽子……弓まだ威力出ないよぉ」

「えっとね鈴鹿さん。3年レベルなら今の速度で十分合格だから」

「え、だって学年主任もっと速度出してたよね?」

「うっ」

「お前もやるか?魔力計特訓」

「え、遠慮しておきます」


 ふむと魔力計を仕舞った衛理は美穂の的を見る。狙いは外していないし何より的自体が木っ端みじんである。


「鈴鹿。同属性でコレを目標にするのは判るがコレは鴻並みに規格外な所がある。今は3年の合格ラインで居てくれ。コレと同格が増えると俺が大変になる」

「先生……判った……でもやっぱり目指したいっ」

「思うのは自由だ。ひとまず合格組に入ってくれ」

「は~い」

「あとは……やっぱり土魔法組か」

「武器化と相性悪いからね」

「合格組を見ててくれ神哉」

「了解」


 苦戦する土魔法組と一部の通常属性苦戦組の元に衛理は向かう。とは言え神哉の側は使いこなしている一団。ふと思い立ち長柄組に声をかけた。


「棒で組み手?」

「うん。付与の基礎は完璧だから後は動けるようになってみた方が良いかなって」

「学年主任っその前にっ僕とっ竹刀でも何でもいいから手合わせぇっ」

「鴻さんは後で衛理にやってもらいなさい。僕一応長物専門だから竹刀無理」

「あはは……じゃ、お手合わせ、お願いしちゃいましょうか」

「あ、1人ずつね。さすがに複数相手はバテる」


 神哉と長柄組が手合わせを開始し、それを他のクラスメートたちが観戦するころ、数少ない通常属性苦戦組の藤森ふじもり陽菜ひなは泣きそうになりながら基本と言われた弓に向き合っていた。彼女の属性は風。風速で飛ばす姿を同属性の学級委員長で見ていたため内心焦りながら弓を引いていた。そんな彼女の背に衛理は声を掛けた。


「藤森」

「は、はいっ」

「これ使えるか?」

「竹刀……?」

「弓にも向き不向きがある。一通り使ってみたようだがこれだけはまだみたいだったからな」

「で、でも剣は……真唯ちゃんが」


視線の先に居るのは手の空いたクラスメートの棒での特訓に竹刀で付き合う真唯の姿。思わす衛理は肩を掴んで首を振った。


「鴻の剣は……派手すぎる。俺の剣昨日見ただろ?あんな程度で良いんだよ」

「そんなっ先生の剣すっごく綺麗で」

「とりあえず使ってみろ」

「……はい」


竹刀を持つ。そう言えば真唯のように剣で無くて良いのかと思う前に衛理が隣に竹刀をもって並んだ。


「いいか?剣に纏わせるのはいつもの風刃と同じ性質のものだ。要は剣の刃じゃなくてまとわせた風で斬る」

「風で……」

「行ってみろ」

「は、はいっ」


真唯のようにそこまで運動神経が良いと言う訳ではない陽菜はとことこと的へ近づく。そしてアドバイスに従い風を纏わせ的を狙った。


すぱりと、斬れた。だがそれは的だけではない、後ろに植わっていた低木の一部まで斬れていた。


「……え?」

「やっぱり剣で正解だな。鴻以外に的の後ろに影響する奴めったに居ないぞ」

「……真唯ちゃんと……同じ?」

「あぁ。合格だな。まぁちょっと運動神経に難有だが威力は問題ないだろう」

「や、やったぁっ」

「陽菜おめっ」

「良かったね陽菜」

「陽菜っちこっちで剣教えてあげるっ」

「うんっ」


呼ばれて真唯のもとに駆け寄る陽菜を見送った衛理は残る土属性組にも指導するべくそちらへ戻っていった。その表情が穏やかに笑っていたのを見る者は居なかった。


昼ご飯休憩までには全員無事3年の合格ラインに到達し、昼休憩を挟んで午後、最初に行われたのは衛理と真唯の竹刀による単純な手合わせだった。


「目元に防御魔法掛けたか?」

「要らないっ」

「……神哉」

「はいはい。要らないとか言わないの鴻さん」

「だってぇっ」

「ほら掛けたから」

「よっし。サンキュ学年主任っ」


立ち会う。そして神哉の合図と同時にそれは始まった。


「早っ」


誰ともなしに漏らしたように真唯の攻勢は早かった。だが受けている衛理だけが理解していた。この攻勢は見掛け倒しであることを。現にすべて躱しきっている。何より重心が後ろのまま、体重が乗っていない。


「っと」

「そこ、だっ」


躱しきれず剣筋が乱れた一瞬を真唯は逃がさない。全体重を掛け、打ち込む。だがその必勝の太刀筋はすぐに立て直した衛理の竹刀に阻まれた。


「ったく油断も隙も無い」

「やっぱ強いねセンセーっ」

「そりゃお前の先生やるからにはなっ」


再び打ち合いが始まる。真唯の他に唯一剣を選んだ陽菜は圧倒されるだけで、他のクラスメート達もあまりのハイレベルさに現実逃避すら始めていた。


そんな姿を見る神哉の目には別の光景が映し出されていた。どこかの庭園。紅茶を飲む自分の目の前で繰り広げられるおおよそ女の子とは思えない剣筋の少女とその教師で護衛の青年の手合わせ。あれの勝敗はどうだっただろうかと思いを巡らせたその時、竹刀が折れる音が響いた。


「げ」

「あ」

「……はいそこまで~」

「くっそもうちょいだったのにっ」

「竹刀壊すほどの突き繰り出してよくもまぁそんなこと言えたなおい」


2人の竹刀が折れ、続行不可能と判断し神哉は間に入る。真唯はまだやり足りないという面持ちだが衛理は満足げだった。


「じゃあ長柄組は僕と練習。投擲組は的当てに浮遊的用意しておくね。藤森さんは衛理に基礎練習ってね」

「僕も見るから大丈夫だって陽菜っち」

「む、無理ぃぃっ」

「大丈夫だ。怖くないから」


そうして手合わせは続き、弓組が自力で誘導魔法を編み出し、長柄の全員が3回以上神哉と手合わせをし、陽菜の動きがまだ見られるようになった頃、良い時間だと神哉はD組全員を集めた。


「さて。3年の動きは合格になった皆さんに、1年学年主任の雪柊神哉ではなく……とある組織に属する雪柊神哉としてお願いがあります」

「とあるってどうせ魔法省」

「言わないで一応……え~……このままじゃ太陽が失われるのは知っての通り。回避するためには太陽の力を魔法世界に持っていかなくてはならない。ここまでは良いね?」

「そりゃOKだけど」

「と、言う訳で。衛理引率で今から魔法世界に行ってきてもらいます」

「……は?」


突然のことにD組全員が固まる。何を言っているんだこの学年主任はと言う視線もものともしない神哉に衛理は深いため息を吐いた。


「……神哉。大幅に説明不足だ」

「え?そう?」

「……この3か月、神哉は4年間だが、観察して判ったことがある。鴻の火力が一番強くなるのはこのクラスに居る時だ。最高火力を出せれば、おそらく太陽の権能に引っかかるはず。その為にクラス全員で鴻を援護し魔法世界の女王2名の元へ向かう」

「なるほどね……確かに真唯のバカ火力はクラス内でしか見てないわ」

「この前攫われたとき単品だったもんね」

「そう言えばそうか……じゃあみんなで行こうっちょっと辛気臭いファンタジーのあの世界に」

「はいじゃあ武器持ったね?立ち位置とか戦闘形態は普段通りで大丈夫」


ふわりとD組と衛理を魔法陣が包む。それはあの日真唯を飲み込んだ魔法陣に似て、それでもそれは神哉が行使している物で。


「じゃあ、いってらっしゃ~いっ」


暢気な神哉の声を後にD組と引率の衛理は転移する。後に残ったのは静かな戦闘訓練場と、神哉だけ。


「……人間界だけじゃない。全ての階層の為に、頼んだよ」


そうして神哉も立ち去った。痛いぐらいの静寂が戦闘訓練場を包んでいた。





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