表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
にぎやかなクラスの物語  作者: 颯待 彗
一学期~太陽と魔法と。~
6/48

6話 魔法世界の女王たち

 世界には8つの階層があると認識されたのは人類が魔法を手に入れてからである。どこかの宗教で信じられてきたそれとはまったく別の、人類が初めて触れるその階層。


 第一階層は天上界。空を司り人間界以外の全ての天を司る界。また人間界の月と太陽の運行もこの界によって概念的に司られている。


 第二階層は天界。神と呼ばれる存在が、天使と呼ばれる存在と暮らすその名の通りの界。神は人類を見守り、ささやかな奇跡を司る。


 第三階層は人間界。その名の通り人類が暮らす地球。物理的に階層になっているわけでは無く概念上の為きちんと地動説が適用されている。地球は丸いまま。


 第四階層は魔界。天界と対になる魔なる者の暮らす界。魔王と呼ばれる王が統べる秩序ある混沌。魔王はいい意味でも悪い意味でも何もしない。


 第六層は冥界。人間界の魂が試練を経て輪廻転生の輪に入るか七層に向かうか決める場所。地獄、あるいは天国とも呼ばれる場所。


 第七層は幽界。罪の重さに耐えられなくなった人間の魂が、あるいは魔界、天界の住人たちの魂がそっといつか上に上がれることを夢見て眠る静かな界。


 第八層は無界。其処には何もなく、落ちた者は何にもならず、何にもなれない。ただただほの暗い闇が存在する虚無の世界。


 そして、第五層。名を魔法界。本来ならば人間界以外の住人が使えていた魔法と言う技術を人間界にもばらまいた世界。幻想生物が暮らし、すべてが魔法で成り立つ世界。


 人間界の全ての魔法教育機関の最初の教科書に載るその8階層。もちろん人類で未だ立ち入った者はおらず、階層があると確認できただけで実態実情を把握した者は居ない。




 夜空には魔法のランタンが飛び交い星明りの代わりとして魔法界をほの暗く照らしていた。空には雷龍が飛び交いその雷もまた時折明るく地表を照らす。地表は人類の中世世界を真似たのかファンタジックな町並みで、低く飛ぶ魔法のランタンが町並みも照らしていた。暮らす魔法界の生き物は人間を模していて人の営みと変わらない町並みが見て取れた。


 そんな景色を、茫然と見る者がいた。地下牢の高窓までよじ登った真唯だった。視界には魔法界の街並みと共に近場の草原には授業で使った魔法植物が自生している。シープスライムやウルフスライムと言った授業でお世話になっているスライムたちも、空にはワイバーンの姿も見える。それ以外にも見たことのないどう考えても地球上には居ないであろう幻想生物たちが闊歩している。


「なに、コレ、何処、は?」


 一旦高窓から着地する。混乱する真唯の足元に何かがカランと音を立てて転がった。


「え、コレ……枷?」


 よく見ればむき出しの左手に枷が無い。慌てて右手のリストバンドをめくれば粉々になった枷が足元へ落ちていく。さらに真唯は混乱した。この枷は削れはした。だが瞬く間に元の枷の状態に戻り削っても叩いても何をしても壊れなかった。だが、今両手の枷は壊れ、破片が足元に散らばっている。其処で真唯の混乱は頂点に達した。


「……どゆことコレ……あ~もう頭脳労働班~っ僕だけじゃ対処しきれない~此処何処~っアレ何~っなんで枷壊れてんの~っ」


 わめいても叫んでも、反応はない。試しにと久しぶりに魔法を使う。炎弾は牢屋の柵に当たりはしたが無傷。黒曜石のような輝きを放つその柵はびくともしなかった。


「……魔法使えたのは良いけど……頑丈だな」


 もしかしたならば全力で叩き込めば壊れるのかもしれない。だがこの狭い空間で全力を叩きつければ自分だって危ない。そもそもここは推定されるに地下牢。上の建物に影響を及ぼしてぺちゃんこはいくら破壊常連の真唯でも嫌だった。


 こんな訳の分からない場所で死ぬことなんて絶対に出来ない。なぜならきっとクラスのみんなは、学年主任は、担任は、親友達は、自分の帰りを待っていてくれるはずだから。最後に見えたのは莫大な雷の力を行使した学年主任と担任の驚愕の顔。今嵌まっていないもう片方のリストバントと一緒に、彼らは自分を探してくれているはずだから。


 カチャカチャと軽い音が地下牢に響いた。見れば複数の甲冑兵士が此方に向かっている。そして牢の扉を開けた。


「炎の……娘……黒の女王……がお呼び……だ」

「炎の娘って……僕?」

「そう……だ」


 卓越した戦闘センスの持ち主である真唯は頭脳労働が苦手ながらも現状打破の攻略を考えていた。兵士を倒し外に出たとしてもここが何処だか判らない以上帰れない可能性は高い。ならば今だけは大人しく従って自分を呼んでいるという『黒の女王』とやらに帰る方法を聞いた方が何倍も帰還の可能性が上がるのではないか。其処まで考えたところで真唯は大人しく従うことを決めた。


「連れてけよ」

「良い……ぞ……」


 兵士たちに囲まれて地下牢を進む。やがてヨーロッパの城のような廊下へ出てさらに進む。そして一際巨大な扉の前に立たされた。


「入……れ」

「わ、判った」


 見かけに反して軽い扉が音も無く開かれる。恐る恐る中に入ればぱたんと退路は断たれた。早まったかなと少しの不安でその閉じた扉を見ていた時だった。


「そのようにおびえずとも取って食いはせぬよ炎の娘」


 少し低い女の声が響き渡る。壮大なホールの先。玉座に座っていたのは瞳も髪も服もすべてが漆黒の女。


「あな、たが黒の女王?」

「いかにも。魔法界を治める黒の女王、名を六嘉むがと申す。名を聞かせよ炎の娘」

「……真唯」

「ふむ。マイ……マイか……」

「此処、魔法界ってこと?僕を連れてきて何をする気さ」

「魔法界に連れてきたのは単に妾が魔法界を離れられぬが故。為政者としての仕事は殆ど無いが魔法界の安定のため妾だけが人間界に赴くことも出来ず、こうして其方を呼び寄せた」

「何の、為に」


 真唯は戦闘態勢で六嘉へ対峙する。その姿を見ていた六嘉は次第に笑いを零した。


「ふっははははっやはりその顔、思い出す。あの娘にな」

「誰の事を」

「『太陽の姫』」


 第三者の声に真唯は反応する。いつの間にか後ろから現れたのは六嘉とは鏡写しの顔立ちをしながらも瞳も髪も服もすべて白い女。


「ごめんなさいね。急にこちらの都合で呼び出してしまって。姉さまは今ちょうど話が通じない頃の姉様だから」

「話が通じない頃って……」

「その代わり私が貴方の疑問に答えるわ。あぁ、自己紹介が遅れたわ。私は六陽りくひ。白の女王として魔法界を治める者よ」

「白の女王と黒の女王……お姉さん?なんですか?」

「えぇ。もっとも双子だから、私の話が通じない頃に姉さまとお話しすれば私を姉と呼ぶけれどもね」

「どうなって……?」

「そこは考えない方が良いわ。貴女の傍にいる……シンヤさん、だったかしら今の名前。彼に聞けば説明して貰るわ」

「学年主任……雪柊先生と知り合い?」

「まぁ、そんな所よ。さぁこっちに。お姉さま、お茶のお時間ですわ」

「ふむ。そうか。それもまた良い」


 六陽に手を取られ、真唯が案内されたのはテラス席。其処からは先ほど地下牢から見えていた町並みがより一層近くに見えた。六嘉も席に着き紅茶とお菓子が用意される。


「……食べたら帰れなくなるとか変な魔法薬が入ってるとか」

「前者は大丈夫。それこそ其れを食べたら界から出られない呪いの魔法薬入りだった代物よ。冥界の石榴とか、ヨモツヘグイだったかしら。それはそのための食事。これはただの紅茶とお菓子よ。まぁ魔法界産だから少し不思議な味がするかもしれないけれどもね」


 彼女の話に不審な点はない。匂いも普通。思い切って真唯は一口クッキーを頬張った。普通の味。それでも少しだけ香るのは生姜の風味。


「生姜?」

「ジンジャーブレッド。魔除けや厄除けに食べるの。お口に合うかしら?」

「美味しいです」

「良かった」

「茶も入った、ならば本題に入ろう炎の娘」

「……そうね。姉さま、ここからは私が」

「うむ」


 3人が席に着く。神妙な面持ちで六陽は話を切り出した。


「貴方達人類は太陽の存在についてどう認識しているのかしら?」

「え、っと、宇宙にあって、地球が太陽の周りをまわって?」

「人間界の認識はそれであって居るわ。でもね、人間界以外の世界は違うの」

「へ?」

「8階層のお話は知っているかしら」

「は、はい。魔法界は5層目で人間界は3層目っていう」

「そう。その人間界以外の全ての層の月と太陽の運行を司っているのが第1層に住んでいた太陽の一族。ここまでは良いかしら?」

「は、はい。なん、とか」

「でもね、1000年ぐらい前に太陽の一族、その役割を担っていた太陽の姫が何者かによって暗殺されて以来物理的な太陽を有していた人間界以外すべての界で太陽は消え失せた。今外が暗いの、これ夜だからじゃなくて昼間なのよ?」

「え!?」


 言われて真唯はもう一度外を見た。漆黒の夜空にはかろうじて星は輝くが月も出ていない。灯りは魔法のランタンのみ。言われて昼と認識しても信じられない暗さだった。


「太陽がなくなって1000年、さすがに私たちも慣れてしまったわ。太陽光でしか育たない薬草が取れないのは残念だけれども、代用品はいくらでもあるから」

「真っ暗な中……1000年も……」

「えぇ……でもね、これは人間界が例外の話じゃないの」

「え?」

「時の流れが違うから時間差が出来てしまったの。1000年なんて私達魔法界の生き物にはあっという間だったわ。このままだと、人間界も太陽を失うわ」

「どう、して」


 太陽は天体として地球の外に存在している。だがと六陽は首を振った。


「太陽はそこにあるけれども太陽の光が届かなくなってしまう。だったかしら」

「左様。人間界も太陽の恩恵を失う日が訪れる」

「ほとんど時間は残って居ないわ。でもそんなとき天をも焦がす炎の柱を私たちも見つけた」

「ぁ……梅雨の時の」

「そう。貴女の魔法。本来おかしいの。魔法界が人間界に与えた魔法量は一定。その中で火の力は魔法界から太陽が消えているため微弱。あんな量の炎を操れる人間が居るわけないの」

「……此処にいるんだけど」

「左様。故に其方を此処に呼んだ」


 真唯の顔が六嘉の手に取られる。見聞するかのように眺められた後、彼女は笑った。


「貴様、本当にその力、炎の力か?」

「どういう意味ですか」

「火は太陽に通じる。天体の太陽は燃えているでしょう?だから私たちは、ううん。おそらく全ての界に暮らす人々は思っているわ。あの力は失われた太陽の力じゃないかって」

「わ、判るわけないじゃんっ」

「そうよね。ごめんなさい。本当はシンヤさんに相談して、太陽の力について相談してから貴女をお招きするべきだったのに」

「アレに相談など冗談ではない」

「姉さまはどんな時でもシンヤさんが苦手なの。だから無理やり連れてきてしまったわ」

「学年主任……どんだけスゲぇんだよ」


 脳裏に浮かぶのは3年以上真唯を、真唯たちの学年を見守り続けた学年主任の笑顔。どんな時でも笑顔の彼が居たから自分たちはいつでも冷静に何事も対処が出来ていた。ただあまりにも達観した物言いや浮世離れした言動も多いため、急に人外の知り合いが現れても真唯も、きっと待っていてくれる友人たちも担任も驚けないというのが実情だった。


「我らは故に思う。其方、あの太陽の姫の生まれ変わりではないかと」

「へ?」

「ごめんなさいね。でも本当に他人とは思えない程似ているの。彼女は髪が長かったけど、顔立ちとか、雰囲気とか。私たちも式典の時に何度か見かけた程度だからあまり詳しく知っているわけでは無いのだけれども」

「……そんなこと言われても」

「判らぬ。か。道理よ。己が何者か、何であったかを知るはあの者のみ」

「そうね……でも、貴女の力が太陽の力に似ているのはゆるぎない事実なの。それだけは覚えておいて」

「判った……」


 紅茶を飲み干す。底の方に転がっていた星の形の砂糖菓子も転がる。ころころと舌の上で転がして溶かせばふんわりと広がるミントの香りが心に出来たもやもやをすっきりさせてくれた。


「でも太陽の力って言われてもしっくりこないな」

「あら、どうして?」

「だって太陽ってぶわ~って全部照らしたり暗いものに特攻かかったりするイメージだから。特にそんなこともないし」

「それは人間界のイメージが強いわね。魔法界ではその役目は光魔法の仕事だもの」

「光魔法って、あのランタンみたいな?」

「そう。魔鉱石に光魔法を封入したランタン。暗いモノ……闇の者かしら?そう言ったものに対する威力が高いものも光魔法だもの」

「そうなんだ……授業全然聞いてないからなぁ……」

「光魔法は人間界に授けてないから判らなくても仕方ないわ」


 くすくすと六陽は笑みをこぼす。追加の紅茶を淹れてもらいながら真唯は働かない頭をフル回転させて疑問を口にしていった。


「えっとじゃあ太陽の力って具体的には」

「火の力の上位種、炎の力のさらに上位種ね。本当にただ其れだけなのだけれどもその領域に至ったのは今まで太陽の一族だけだったから」

「……僕がうっかり火力出しすぎってだけじゃ?」

「無いわね。火の威力でそれが火の力、炎の力、太陽の力と別れる筈よ。もっともどこからが太陽の力の火力になるか私達でも判らないの。比較しようにも太陽の一族、もう居ない訳だし」


 押し黙る真唯。心当たりが無いわけでは無かった。自分の威力がおかしいことぐらい自分でも気付いていた。今それに理由がつけられたようで、それでも納得はいかなかった。


「とりあえず女王様達の考えは僕が太陽の力の保持者であるってことなんだよね?太陽の力の保持者を探してどうしたいの?」

「……もちろん、太陽を8層すべてに取り戻したい。そのための道だってずっと整えてきた。後は太陽の力を持った者を探すだけ」

「……僕が太陽の力かどうか誰も判らない。なら今はまだ、女王様達に協力はできない。ごめんなさい」

「そう……」

「ならばこうしようか炎の娘」


 六嘉は立ち上がるとバルコニーの端に立った。背後に広がるのは暗い魔法界。其処に広がるランタンの明かりを呼び寄せると彼女は笑った。


「もし太陽の力を見つけることが出来たのならば、人間界に与えていない5属性も与えよう」

「え?」

「今人間界に与えている力は火、水、風、土、雷ね。其処に光、闇、水の上位種の氷、土の上位種の地、風の上位種の嵐の5属性。上位種は火と炎の関係と一緒。もっと力が出せるわ」

「うむ。だが、人間界から太陽が失われるまでに太陽の力を見つけ出せぬのならば、魔法の力、すべて剥奪しよう」

「……は?」

「姉さまの話を簡単に言うと、太陽が消える前までに太陽の力を見つけたら加護が追加、無理だったら全没収。って感じかしら」

「感じかしらってそんな簡単に言って」

「さぁ探せ。もしくは己の内から見つけてみせよ。太陽の娘」


 ふわりと真唯の周りを光が舞う。とたんに真唯の身体が浮き上がった。六嘉は笑い、六陽も笑顔で真唯に手を振っている。


「え、ちょっ」

「お茶会、楽しかったわ。今度は姉さまがまともな時にいらっしゃい」

「ちょっとぉぉぉっ」


 そして空の浮かんだ真唯の姿は暗闇に紛れ消えていった。




 声が聞こえた。自分を呼ぶ声だ。友達は下の名前で呼んでくれるし、他のクラスの知り合いも苗字だが、低い声で呼んでくれるのは教師。その中でも彼の声はもう聞きなれた声だった。


「鴻っっ」

「……あれ……?」


 目覚める。そこは連れ去らわれる前のままの学校の戦闘フィールド。周りにはクラスメートが居て、衛理が真唯を抱えていた。


「真唯っ」

「無事!?」

「あ。うん……えっと……?」

「……心配を掛けさせるな……」


 深いため息と共に真唯の身体が離される。背中が倒れるがクラスメートたちはそれをキャッチしてもみくちゃにする。女子校特有のたわむれあいの騒がしさを尻目に衛理は神哉の元に向かった。難しい顔の神哉の手には羊皮紙が握られている。


「鴻さん。ひとつだけ。君は女王に会ったのかい?」

「え、あ、はい。黒の女王と白の女王って」

「なにそれチェス?」

「……本格的にヤバい。衛理。鴻さんの経過観察は任せた。枷はもう無いしその件はこれで有耶無耶に出来る」

「お前が言うならそうなんだろうが……何事だ」

「地球と魔法……両方の危機……かな。ちょっと急いで行ってくる」

「判った」


 信頼できる友人を残し、神哉は羊皮紙を抱えて走る。その内容は概ね真唯が女王達に宣言された内容と同じ。故に神哉は慌てて魔法省に、そして政府にその羊皮紙を持ち込んだ。




 その後、国立魔法研究所からの報告で、地球から太陽の光が失われるのは今年の8月31日と確定。全世界の研究所でも同じ演算結果を出したことから人類に猶予が無いことは確実となった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ