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にぎやかなクラスの物語  作者: 颯待 彗
一学期~太陽と魔法と。~
5/48

5話 枷と登校日と

 期末考査が終われば後は出席調整の登校日を経て夏休みに至る、学生が一番楽しみにしている頃。中休みを挟んでの登校期間。


 だが、総泉女学園高等部1年D組の教室では鬱蒼とした空気に覆われていた。


 原因である真唯はふて寝をし、その腕には腕輪の形をした枷が嵌められていた。


 枷とは本来魔法犯罪者など魔法を持たせておくには危険と魔法省の最高幹部八議席すべての了承をもって付けられる魔法封じの枷。枷の威力は絶大で、いまだかつて破られたことがないという。話を聞きつけた実験科と研究科と解析科の生徒が不謹慎を承知でと真唯に全力をもって破壊を試みさせたが真唯ですら魔法を発動することは出来ず、破壊にも至れなかった。代わりに3科は枷を削り取り組成術式から解除を試みると約束してくれたため少しは安心できたがふて寝の真唯、殺気立つD組という構造に変わりはなかった。


「っと、どうだった……って聞くまでもなさそうだな」

「魔力計はビービーうるさいのに全くなんにも発動なし。先生は?」

「他学年の学年主任、教頭、校長他学校総出で申し送りはしているんだが八議席の決定だの一点張り」

「やっぱぶっ飛ばすしかないか八議席」

「さすがに止めろ。新聞一面飾る気か」

「『女子高生、魔法省制圧か』」

「『魔法省、女子高生に占拠』」

「後者になると外聞がなぁ」

「新聞の見出し予想止めろ。ほら、ホームルーム」

「は~い」


 帰りのホームルームが行われ解散となる。ふらりと帰ろうとした真唯の肩を衛理が叩いて止めた。


「鴻、忘れ物」

「あ……ごめん先生」

「いい。今はこれぐらいしかできないからな」


 衛理は真唯に渡したリストバンドに隠ぺい魔法をかけていた。学校の行き帰りしか持たないものだが世間的にも有名な枷を付けたまま歩かせるわけには行かなかった。幸いにも真唯の保護者に当たる兄は事情を了承してくれて間休みの日も真唯は家に居るという。


「じゃあ明後日。学校で」

「ん。また学校で」


 全生徒を見送った衛理は教室への仕事を終わらせると一直線に職員室へと足を踏み入れた。がらりとドアを開ければ校長と教頭が飛び跳ねるのすら見える。期末考査終了から間休みの期間中も毎日のように申し送りをするように圧力をかけた結果だが衛理には関係のないことだった。


「校長、教頭……例の件、どうなりました?」

「そ、その件なのだけどね?雪柊先生が」

「衛理」


 数日ぶりに見るその顔に、数日ぶりに現れた事態を最初からどうにかできたであろう友人に、衛理は此処が職員室であることを忘れて殴りかかっていた。ぶつかる体、舞う書類。誰一人反応できなかったその拳を、神哉は甘んじて受けた。


「神哉ぁっテメェふざけんなっ」

「……本当に、今回の件は僕に非がある。D組の射線に立つ覚悟すらあるし、何だったら枷外した後の鴻さんに焼かれる覚悟だって出来ているよ」

「じゃあ、そんな覚悟するぐらいなら、なんで最初から止めなかったっ」


 胸倉が掴まれる。さすがにと止めようとした1年の教師達は、だが止められなかった。神哉の胸倉をつかんだ衛理は、うつむいていた。肩も震え、神哉の胸倉をつかむ手も震えていた。


「あの鴻がな、泣きそうな顔して枷を見てるんだよ」

「……」

「いくら学科がひと桁ったって教科書見りゃ乗ってる有名な枷だ」

「……」

「それを、あの鴻が、1人で泣きそうな顔をして見てるんだ。迎撃作戦をしているクラスメート達から見えない場所でっ」


 それは一昨日発生した侵入者迎撃対応の時の事。事情が事情故他クラスからも迎撃手伝いを申し入れられ複数学科での迎撃になった際、指導に当たっていた衛理は一番後ろで、その迎撃作戦を日陰から見つめる真唯を見ていた。握られた拳。そして、今にも泣きそうな、それでも泣いてはいない顔で枷を見下ろしていた姿を、衛理は一生忘れられないだろう。


「……衛理」

「ふざけんなよ神哉……アイツが何をしたって言うんだ……アイツは……鴻は……ただのバカみたいに元気な高校生だ……」

「……本当に、何も言えない……だが八議席の内7議席は鴻さんの期末考査の様子を見て枷を承認した。僕1人じゃ覆せもしなかった」


 神哉が魔法省の人間であることを教師は皆知っている。もちろん友人である衛理も。むしろ魔法省の人間が何故学校の教師をやっているのかと前は疑問に思っていた。そんな彼はたった1人、真唯の枷に反対していたのだと解る。


「……外せないのか」

「外すのも八議席での可決が必要だ。今のアイツらの考え方じゃ……まず無理だ」

「っ」

「僕だってね、微力ながら頑張ったんだよ?鴻さんの力を、炎の力を真夏に向かうこの時期に封印するその怖さを。五行説からいろいろプレゼンして、それでも……駄目だった」


 手が胸元から離される。そして俯く神哉の前に衛理の手が差し出された。


「どんな不条理を使ってでも、鴻の枷は夏休み前に外す。良いな?」

「……任せてよ。もみ消しなら大得意だから」


 立ち上がった神哉。その腫れた頬を治療すべく治癒科の教師たちが殺到する。なお崩れた書類の山は校長の無駄にため続けている書類の山だったため誰も片付けに来ず、鴻真唯枷対策本部を設置しに全教師が会議室に向かった後、立場の弱い教頭と校長が2人寂しく片付けを行っていた。




 次の登校日。真唯は走る元気も無く学校への道のりを歩いていた。隠ぺい魔法で見えなくされている腕には衛理がくれたリストバンドがあり、その下には改めて教科書で読んだ枷が嵌められている。その事実はどうしても隠れてはくれない。


「……ったってなぁ……」

「おーはよっ真唯」

「真唯ッ」

「ん?あぁ爽子さん、美穂。おはよ」

「その後大丈夫?」

「うん。兄ちゃんの手伝いできないのは悔しいけどこれで外出るわけにはいかないし。でも組み手だけなら兄ちゃんがやってくれてさ。身体は動かせた」

「そっか……」

「今日の授業さ、先生に組み手お願いすれば?」

「それ良いっ」


 ようやく真唯の顔が明るくなる。その様子に親友達は安堵した。同時に魔法省への殺意も倍増した。GOサインさえ出れば真唯が居なくても魔法省は跡形も残らないだろう。そもそも戦闘能力だけで言えば総泉女学園高等部戦闘科1年の実力は近隣の魔法学校の戦闘科が束になっても叶わない程だった。


 坂を上り切り、学校に入る。教室にたどり着くと隠ぺい魔法が解けてリストバンドが見えるようになる。それでも枷がいきなり見えるより何倍もマシで、真唯の心はリストバンドによって保たれていた。


 ホームルームの時間が近づき、衛理がドアを開けて入ってきた。ただしその手で若干しんなりした神哉を引きずってだが。


「……なんか久しぶり学主」

「何事」

「こいつが魔法省のお偉い方を学校に入れた犯人だ」


 言うが早いか水弾と風弾が着弾する。とっさに自分への防壁を張った神哉と、周りへの防御魔法を張った衛理は無傷。其処にD組の面々が集まった。


「学年主任?どういう事?」

「あ、もしかして」

「なんか知ってるの?美穂」

「ほら、テスト1日目の、詠唱科のテスト前だったかな。真唯が黒いお車で登校する学年主任見たって」

「あ、うん。見た。珍しくスーツも黒っぽかったし覚えてる」

「はいうんそれです……でも僕だってほぼ騙されたんだよ?名目上は鴻さん学年のテストを見たいって言われて案内したんだからぁっ」

「そこで怪しめバカ神哉」

「衛理の言葉のナイフが刺さるよぉ」

「と、言う訳で鴻。今日の授業はこいつと組み手だ」

「へ?学年主任と?良いの?」

「それぐらい覚悟の上だよ。でも衛理みたいに強くないからお手柔らかに」


 そうして本日の授業は開始された。だがほとんど授業にはならなかった。魔法を使わないとはいえ真唯の組み手に神哉は完全に付いて行っている。否、むしろ余裕すら持って対処している。その意外な戦闘能力の高さに衛理以外の戦闘科は唖然としながら見守っていた。


「な~にが強くないからお手柔らかに~だあのバカは」

「学年主任凄かったんですね」

「すごいくせに、何もやらない、やれないバカだからなアレは」

「衛理~っ悪口聞こえているからねっ」

「あ、めっちゃ余裕」

「ぎくぅっ」

「これ外れたらっ魔法有で学年主任とも組手やりたいっ」

「1回だけねっ」

「いやったぁっ」


 徐々に元の明るさを取り戻していく真唯。タイマーが鳴り、終了を知らせるといつもの癖で1回転しようと強く跳躍した。だが魔法がないことを忘れていたため威力が足りず、その身体は着地を失敗する前に神哉と衛理にキャッチされていた。


「ったくひやひやさせる」

「……ごめんなさい」

「神哉はもっと気を付けろ」

「ごめんなさい………」

「鴻、怪我はないな?」

「あ、うん。無い。ありがとうセンセー」

「じゃあ、神哉に説教からな」

「え、なんで」

「じゃあD組のメンツと魔法勝負するか?」

「対人魔法勝負は大学のカリキュラムだと思うんだけどぉっ」


 コントのような神哉と衛理の掛け合いに笑いが起きる。いつも通りの2人の会話に真唯もまた笑っていた。


「ほら、皆の所に戻っていろ」

「は~いっ」


 衛理のそばを離れ、真唯がクラスメートの元へ向かおうとしたその時だった。


 ぐらりと、真唯の身体が揺れた。真唯自身何が起きたのか判らない。確かに今日は一段と暑い日で、でもさっきまでの組み手はちゃんと水分補給した後日陰でやっていたから熱中症ではない。そもそも真唯は熱中症という状態に陥ったことはない。真唯にとって熱は味方でありどんなに酷暑であろうとも真唯が夏バテも熱中症になったことも生まれてこの方無かった。


 さらに身体が沈み込む感覚に、真唯も回りも慌てた。真唯の周りには呪文科の教科を真面目に受けている生徒達ですら見たことのない文字で描かれた魔法陣が展開されていて、それが真唯を飲み込んでいく。真唯自身が発動させられる訳が無いことから第三者が発動させているのは紛れもない事実。


「っ鴻っ」


 手を伸ばす衛理。だがその手は魔法陣に弾かれた。クラスメート達も手を伸ばすが不可視の壁は真唯を包んだまま。徐々に徐々に飲み込んでいく。


「衛理っどいてっ」

「D組総員っ体制を低くして目潰れっっ」


 担任の指示にとっさに従った爽子たちを襲ったのは身の毛のよだつ寒気。続いたのは雷が走る音。ちらりと目に防護魔法をかけて美穂が見たものは神哉が雷の魔力を纏わせて魔法陣に攻撃している姿だった。だがその膨大な力の雷も魔法陣に阻まれていた。


「っあ」

「鴻っ」

「鴻さんっ」


 大人たちの叫びにクラスメート達も顔を上げる。魔法陣は徐々に小さくなり、そして真唯もまたその魔法陣に飲み込まれていった。


「真唯ぃぃぃぃっ」

「鴻ぃぃぃっ」


 クラスメートと担任の叫びもむなしく、真唯は魔法陣に吸い込まれ、消えた。後に残ったのは、もがいた時に外れた片方のリストバンド。それ以外何も残さず、彼女は消えてしまった。




ぴちゃん、ぴちゃん


 水音が響く。冷たい石の上、どこからか雨漏りでもしているのか、水音だけが響き渡っている。


コツ……コツ……コツ……


 その静寂を破るように、石の上を歩く靴音が響き渡る。


 そうっと、それはそれを覗き込んだ。暗い中、照らすのはそれの持つ火ではない明かりが灯るカンテラの明かりだけ。


「小賢しいモノを付けおって」


 女の声だった。反響で少し聞き取りづらい低い声で、それでもそれは女の声だった。


「我らに成せぬことなど、無いというのに」


 パチンと指を鳴らす音がやけに響き渡る。その反響が納まると同時にゴロリと女の足元にそれは転がった。欠片はその傍に散らばっている。


「……まぁ虜囚には変わりないか……あぁ愉しみじゃ」


 再び靴音が響き渡る。そして、その牢には彼女だけが残されていた。




 ふらりとうまく動かない足を無理やり動かし、衛理はリストバンドに手を伸ばす。テスト最終日に付けた自分のリストバンド。それでもきちんと洗濯したのか綺麗で、だが渡した相手は此処にはもう居なかった。


「衛理動かないでっそのまま探知するっ」

「っ頼む」


 高位術である探知術を詠唱無しで行った神哉。その凄さに驚く余裕のあるD組メンツは誰も居なかった。ただただ望むのはクラスの中心である真唯の安否のみ。ゆっくりとリストバンドを中心に探知術は行わると神哉の表情が驚愕に染まった。


「これ……は」

「神哉?」

「学主?」

「……良いニュースと悪いニュース。どっちから聞きたい?」

「……良いニュース」

「鴻さんの枷は外れる。否、もう現時点で外れているね」

「それってどういう事?」

「あの枷誰も外せないんじゃ。八議会だかなんだか」

「八議席ね……そう、人間では、八議席の許可が下りなければ外せない」

「人間では……まさかっ」

「悪いニュース。鴻さんを連れ去ったのは人間じゃない」


 ざわりと困惑のざわめきが起きる。真唯を連れ去ったのは人間ではない。そもそも転移魔法は座標設定の難しさから高難易度魔法の中でも一部の魔法使いしか使用できないとされる魔法。それを人間が行ったのならば神哉に判らないはずもなく、ならば。


「推察だけど、鴻さんの現在位置は魔法世界。8つの階層世界の内5番目にある、人類に魔法を与えた者たちが暮らす世界だよ」


 埒外の場所に連れ去らわれた親友。その衝撃は強く彼女たちの胸に響いて行った。




 水音が響く。其処はどこかの地下牢。繋がれもせず、むしろ枷が壊された状態で彼女は眠っていた。


 ゆっくりと、瞳が開く。一瞬だけ炎の煌めきがのぞいたがそれを見ることのできた者はおらず、瞳が開けば元の茶色の瞳がきょろきょろとあたりを見渡していた。


「ここ……何処?」


 それは、遥か上層人間界にて神哉が真唯の居場所を特定したのと同時刻。


 鴻真唯はある場所の地下牢で目を覚ましていた。





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