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にぎやかなクラスの物語  作者: 颯待 彗
三学期~姫と真唯~
48/48

48話 そして彼女たちはにぎやかに

 春の足音が聞こえる頃、学年末テストの日。その日も晴天の元、歓声が上がっていた。


「いっけぇ真唯ちゃんっ」

「鴻さんカッコイイっ」


 真唯は炎弾をスライムに打ち込む。3種スライム入り乱れる中シープスライムだけを撃破するこのテスト。真唯は華麗にウルフスライムとバードスライムを避け、シープスライムを撃破していく。


 笛の音が鳴る。自動採点ボードの点数は78点。例のごとく50点が合格ラインのテスト。今回も真唯の成績はS++だった。


「よっしゃぁっ」

「これにて戦闘科学年末テスト実技を終了とする」

「いやったぁぁっ」


 テストから解放され沸く生徒達。淡々と成績を付け終わった司は彼女たちを見守る衛理に合流した。


「衛理?」

「いや……俺は5月からだったけど、それでもこの1年色々あったなと」

「そうだな。私も二学期からではあったが話題に尽きない者たちだ」

「だな……俺の積年の憂いも晴れたことだし」

「姫の件か」

「鴻で遊んでた演劇会は何やってんだお前等とは思わなくなかったけれどもアレで結果論、暗殺犯が釣れたんだ。良かったと思うさ」

「そうか……さて、成績を付けなければな。今回は治癒科も健闘を見せているな」

「あぁ言う細かい指定入れると治癒科強いからな」


 職員室に衛理が戻ればそこは採点の修羅場真っただ中。魔法基礎学を受け持っているが担当するクラスが少ない神哉だけがその山を見ていた。


「あぁ、戦闘科実技終わったんだね」

「結構好成績だよ。難易度もうちょい上げても良かったかな」

「程々にしてあげてください。家のクラス毎回戦闘科のテスト内容に戦々恐々なんですから」

「魔法基礎学科はね……広く浅くだから」

「特化組とはやっぱり違いますからね」

「雪柊先生、家のクラスの基礎科テストどうでした?」

「えっと解析科は……ちょっと幅が広かったですね。まぁ戦闘科程ではないんですが」

「ま~た鴻か?」

「こればっかりはね……でもでも、結構上がったんだよ?」

「そうですね。二学期の期末から頑張っているようで、学科も上がりましたから」

「今回も結構いい線行っていますよ」

「なら良かった。いい加減クラス成績の平均が上がってほしいと思って居た頃ですよ」


 笑いが零れる。神哉は机の上にあるテスト答案用紙を見てふわりと笑った。一番上にあったのは真唯の答案。半数よりギリギリ上の成績がそこには記されていた。



 同じ頃、渓愁高校でも学年末テストの採点に教員たちは追われていた。受け持つクラス分を終えた清志は学年主任室でコーヒーを飲む。


 転校生、福水瑠莉は最初から居なかったかのように消えていた。当然だろう、無界送りとなったならばその痕跡すら消えてしまう。残るのは記憶だけ。その記憶も渓愁高校から消え去っている。


「少し寂しいけれども、コレで良いんだよね」


 そう、コレで良い。清志が改めて自分自身で確認をしていると端末が着信を告げた。画面を見れば最近連絡を取り合っていなかった従兄弟の名前。


「もしもし?アルフレッド?」

『やぁ清志。久しぶりだね』

「どうしたんだい?こっちに帰ってきたの?」

『そうなんだよ。でね、久しぶりに会いたいなと思ったんだ。そっち仕事早く終わるかい?』

「うん、あと1時間ぐらいで終わりに出来るよ」

『じゃあ空港で待っているよ』

「暇じゃない?」

『この国の空港は飽きないからね。じゃあ都内の方でよろしく』


 電話が切られる。前々から気まぐれだったハーフの従兄弟。どうせいつもの気まぐれでの来訪。予定通りの時刻で学校を出る。電車とモノレールを乗り継いでたどり着いた空港ロビー。指定された場所に彼は居た。


「……え?」


 そう言えば、彼に会うのはこの記憶が戻った後は初めてだった。それに滅多に会わない彼の事を忘れていたのは仕方ない事。何せ記憶が戻ってからいろいろありすぎた。


「まぁ、私も思い出したのはつい最近なんだけれどもね」


 そう言って清志と同じ薄い茶色の髪色の青年は笑う。その笑顔は彼女と同じ太陽のようで。


「とりあえず、魂の娘を探しているんだけれども何か知らないかな清晃殿?」


 色彩も、姿も、声も、そして記憶も、間違いなく其処に居るのは、香鏡その人だった。


「……皆、居ますよ。皆」

「皆?どの範囲か。是非深皇殿には正式にお会いしたかったのだが。何せ彼が在位している頃は体調を崩した私だったからな。お前さんとも結局在位中は会えなかったし」

「深皇も、史真様も……呼べば、他の階層主の皆様も」

「おぉ。史真殿も居るのか。あの御仁は会うとその度に嫌そうな顔を隠さないからなぁ」

「姫は、記憶を持っていないので厳密には違う子です。暗殺事件の方は?」

「記憶の引継ぎの際に幽界入り後の記憶も持った。あの子に何もしてやれなかった自分が悔しかったなぁ」

「犯人、この前無界送りにされたばかりですよ」

「そうか。会えるか?」

「他校の子だからどうでしょう……」

「……と言うか、清志。丁寧語寂しい」

「先に清晃と呼んだのはそっちだろうアルフレッド。ちょっと待て、神哉に連絡するから」


 アルフレッドと共にモノレールへ向かう道中、清志は神哉に連絡を入れる。


『はいもしもし?』

「神哉?今大丈夫?」

『えぇ、何かありましたか?』

「……D組待望の、第一層元階層主が見つかったって言ったら、D組の皆、どういう反応するかな?」

『……え?』


 その声に、その反応に、清志は笑みを零した。




 学年末テストを終えてしばらくした頃、総泉女学園では卒業式が行われた。卒業生代表で壇上に上がったのはもちろん結。式が終わり、保護者と生徒、先輩と後輩が交流する時間、部活にも入っていないためあまり上級生との交流を持っていなかった真唯達は端でその光景を見ていた。その真唯達に近寄ったのは結だった。


「鴻さん」

「あ、会長」

「もう会長じゃないわよ」

「でした」

「……貴女は相変わらずみたいね」


 ふわりと結は笑みを浮かべる。そして学年バッジを外すと真唯の襟に付けた。それは総泉女学園ではよくある事。先輩が後輩に卒業式の日、自分の学年バッジを渡す。学年カラーは決まっているため本当に記念品としての譲渡。それに意味を見出す生徒達は多い。


「……会長、コレ」

「……貴女に張りあうのをやめた理由は、悔しいから教えないわ」

「へ?」

「ではまた何処かで」


 颯爽と立ち去る結に、真唯は何事か判らず立ち尽くしていた。その真唯の元に衛理がやってくる。


「ったく何なんだ……鴻?」

「いやなんか、わけわからない?」

「なんだそりゃ」

「センセーはどうしたの?」

「卒業生に囲まれて写真撮ってくれだのなんだの……神哉と司はまだ囲まれてる」

「記念で撮りたいんじゃないの?」

「俺上の学年殆ど持ってないんだがな」


 バレンタインを経ても自分の人気に鈍感な衛理。なお神哉と司は最後ぐらい撮影なら付き合ってあげようという親切心から長らく囲まれていた。さすがにボタンだけは死守したことは言うまでもない。




 ホワイトデー。倍返しや返礼の菓子でも意味を持つ、ある意味男性陣には試練の日。勿論バレンタインに大量のチョコを貰っていた真唯にも関係のない行事ではない。クラス分と分けた他クラス分の一口チョコを会う人に次々と渡していく。


「おはようっ」

「お、来たわね」

「クラス分はチョコ大き目にしたよっ」

「他クラス分は一口チョコ?」

「アレが一番、コスパが良い」

「そうだ、学年主任のクッキー来てるわよ。なんか黒風先生と連名だって」

「やったっ」


 教壇に置かれたクッキー缶からクッキーを受け取る。わいわいと菓子の交換会となって居るクラスの中、陽菜は真唯に包みを差し出した。


「真唯ちゃん。新作味見してくれる?」

「良いの?陽菜っちに貰ってばっかりになっちゃう。あ、2個あげる」

「ありがとう。でもお菓子の意味とか調べてたら面白いなって思ったから作っただけだから」

「意味なんて有るんだ。初めて知った」

「ちなみにクッキーはお友達って意味だから無難っちゃ無難なのよね」

「へぇ……で、陽菜っちは……パイ?」

「小さく作ったアップルパイなの」

「円周率か」

「なるほど、そういうのもありかもね」

「どういうこと爽子さん」

「偶には自分で考えなさい」


 笑いがあふれる。予鈴が鳴り衛理が入ってくるとクッキー缶は空になっていた。


「今日は一段と楽しそうだな」

「まぁ当然と言えば当然」

「そんなお前たちに、清志から連絡。清志にもチョコ渡したらしいなお前等」

「そりゃお世話になってますから」

「あっちは菓子での返礼禁止らしくてな。それでも何かできないかと考えた結果。今日の放課後、階層主の茶会だろう?」

「はいっ楽しみで」

「もっと早くに会っていたら無王さんと幽王さんに渡せたのにね」

「そっちにプレゼント送るから、それで返礼としてほしいと連絡があった」

「プレゼント?」

「中身はサプライズ、と言うか俺も知らされていない」

「何だろう」

「放課後楽しみっ」

「じゃあホームルーム始めるぞ」


 そして、放課後。いつもの学年主任室から神哉に送ってもらう魔法界での茶会。真唯達が降り立つと定位置になった秋央の横に忘斗と秦淵を見つけた。


「わぁっ無王さんと幽王さんも来てくれたんですねっ」

「……六陽がどぉしてもと聞かなくてな」

「楽しいことは、一緒が良いからな」

「さぁ席について?」

「は~いっ」

「あれ?2つ席多い?」


 何時もの席に彼女たちは座る。だがその席は2ついつもより多かった。


「遅くなった」


 トンっと、彼は降り立つ。いつもの講師の姿ではなく、魔王としての正式な姿で。その手には誰かを掴んでいた。


「黒治先生」

「なに。階層主として贈り物をされたのでな、階層主としての返礼の茶会に出るのも一興と思っただけだ。あと清志からの返礼の品も預かっている」

「えっと……その人が?」

「……いやおい、返礼とかそう言う問題じゃないだろソイツは」

「驚いた」

「そうさな……正真正銘今回の茶会、深皇は除外された形か。愉快愉快」

「もう六嘉ったら……」

「いやぁ……皆相変わらずだなぁ。無王殿迄いるとは思わなかったよ」


 ふわりとその人は笑った。その笑みが、真唯に似ていて、血縁など無い筈なのにどうしようもなく似ていて。


「初めましてになるね。元第一階層階層主、香鏡。今の名をアルフレッド・陽咲。よろしくお願いするよD組の皆さん」

「え、本物!?」

「わぁっ正真正銘階層主コンプリートだねっ」

「……お姫様の、お父さん」

「あぁ、言われずとも判るとは本当だね。我が魂の娘」

「えっと……この前めっちゃお姫様と自分は違うって断言しちゃったんですけど……」


 思い起こすのは先日の幽界での大立ち回り。自分は違うと、姫と違う人間だと断言した身であるから魂の娘と言われると気恥ずかしさと違和感が大きい。だがそれをも笑い飛ばすように彼は笑った。


「うん。優唯と君は別の存在だね。それでも魂の娘と思うのは自由だし、魂のお父さんと思っても良いんだからね?」

「……と、とりあえず……アルフレッドおじさんで」

「うん。それでいい。さて、こんな愉快なお茶会に招かれたんだ。めいいっぱい楽しませてもらうよ」

「……わかるか大埜。私がアレを苦手とする理由が」

「すっごい納得しました」

「酷いぞ史真」

「爽子さんも」


 そっくりな表情でこちらを見る2人にD組の面々だけでなく階層主たちからも笑いが漏れる。いつものように茶席は整えられ、お菓子が登場する。


「はいはい。今日のお菓子はマカロンにしてみたわ。確か特別な人という意味があるそうね」

「あ、私もバームクーヘン持ってきた。食べたことあるか秋央」

「無いから食べたいっ」

「きちんと意味があるのだろうな?」

「幸せの長続きを願うそうだ。マカロンは被ると思ったからな。あと単純に私が好きだ」


 階層主が集合した豪華な茶席。1人除外された神哉だけが恨めしそうに地上の学年主任室からその様子を見ていた。


「僕も行きたいんですけどぉっ」

『残念だな、定員オーバーだ』

「六嘉ぁ……」


 がくりと肩を落とす神哉。苦笑いで衛理と清志は肩を叩く。その手にはアルフレッドからお裾分けと貰ったバームクーヘンが存在していた。




 修了式が終われば1年という学年が終わる。春休みを経たならば2年生になる。


 春の気配が強くなるその修了式の日、ほとんど誰も居なくなった戦闘フィールドに真唯は立っていた。この1年、いろいろな事がありすぎた。


 一学期は自分の力の事。太陽の力なんて言う膨大な力を持っていることは未だに実感が湧かないが他の階層に多々行ったのもこの学期が初めてだった。


 二学期は神様たちの事。太陽の力を起点とし百日間の最高神の魂を手に入れようとした『魔王』鵜木。彼は今魔法省の管轄で監察処分中だという。生命創造の力はそれこそ人の身に余る力だから。


 三学期は自分の魂の事。自分と似ていて、自分と違う、そんなアエトス=優唯と真唯。彼女を殺した犯人を無界に送った時、何処か安堵した自分が居たのは確かだ。


 階層主が居ないと言われる人間界以外の階層主は全員会うことが出来た。定例のお茶会は来年度も続いていく。其処に秋央は言わずもがな忘斗と秦淵も参加すると言質は取ってある。アルフレッドとして生まれ変わっている香鏡が来たがったが移動に必要な力を持った司が拒否の姿勢を取った為参加は難しいだろう。よくよく考えなくても階層主の半分以上が参加するお茶会は凄い以外の何物でもない。それでも、D組の皆は普通に接している。


「鴻」


 声に振り向く。修了式だったからか珍しくスーツの衛理がそこに立っていた。ジャージの衛理ならば5月からで見慣れてしまったが私服やスーツの衛理は見慣れない。


「センセー」

「どうした?」

「いや、いろいろあったなぁって」

「だよなぁ……」


 桜が咲いて散り始めの頃、入学式が行われる。そうすれば真唯達は先輩となる。殆どが中学持ちあがりの為おそらく戦闘科の後輩は昨年迄と同じ面々だろう。


「来年の1年、僕等並みに癖強いから気を付けてねセンセー」

「マジか……こりゃ司と対策会議だな……」

「あははっ」

「笑ってる場合かお前は……」


 お馴染みとなったため息が吐かれる。諦めに近いそのため息が衛理の譲歩の証だとD組の皆は知っていた。


「それでもさ、上級生になったら後輩守る必要が出てくるわけですよ」

「だろうな。上はともかく下は守ってやらないとな……出来るだろう?」


 衛理は笑みを作りながら真唯に問う。その返事は同じく笑みで返された。


「当然っ」


 その笑顔はいつもの通り、太陽のような笑みだった。


「真唯~っ帰るわよ~」

「は~いっじゃあセンセー。また新学期っ」

「おう、気を付けて帰れよ」

「は~いっ」


 クラスの皆が居る方に真唯は走る。にぎやかな声が衛理の元まで届いてくる。


「来年の後輩どれぐらい上がってくるかな?」

「ほら、真唯の熱狂的ファンの子、あの子は意地でも上がってくるでしょ」

「居たねぇ……」

「授業どうなるんだろう。はっ遂にワイバーン様が日課に」

「ワイバーン系毎日化は3年までお預けって学年主任言ってたよ」

「じゃあ魔法生物か。六嘉さんにお世話になりますってお茶菓子作ってかなきゃね」

「武器も3年までお預けでしょぉ?2年は問題なく過ごしたいわね」

「無理無理。トラブル吸引機という名の真唯が居るんだよ?」

「遺憾の意」


 少女達の声は遠ざかって校門へ消えていく。ようやく静けさを取り戻した戦闘フィールド。衛理は再び溜息を吐くとその場を後にした。


 その光景を、神哉と司は屋上から見ていた。にぎやかな声は彼らの耳にも届いている。


「……本当に、あのにぎやかなクラスは、きっといつまでもにぎやかなんだろうね」


 笑みが零れた。



 春、入学式が行われる裏で、2年D組に進級した彼女たちの戦闘は開始される。


「よっしゃぁっ今年も行くかっ」


 真唯は走り出す。敵は敵ですらない。真唯は笑顔で駆逐戦を開始していた。


 太陽は今日も彼女たちを照らし、彼女たちは変わらない。


 にぎやかなクラスは何時までもにぎやかに過ごしていった。



【了】


彼女達1年Ⅾ組の1年間はこれにて終わり。


此処までお付き合いくださってありがとうございました。

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