表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
にぎやかなクラスの物語  作者: 颯待 彗
三学期~姫と真唯~
44/48

44話 その力は

 幽界は人間界以外の八層の住人たちが死したのち落ちる魂の居所。ただ其処に魂は存在し、ふとしたはずみで冥界に上がり、輪廻転生の輪に加わるまで其処にあり続ける。


「とはいえ人間界以外ではほとんど不老不死だからな。そもそも死することが少ないんだよ」


 暗い道を幽王、忘斗の明かりが灯す。Ⅾ組メンツと教員組はその灯りを頼りに進んでいた。この幽界で正確に太陽の居場所が分かるのは忘斗だけ。彼の案内で道行きを進む。


「でも死んじゃう事ってあるんですよね?」

「完全な不死じゃないからな。他殺、自殺、あと寿命を自分で定めて死ぬってのが人間界以外の主な死に方だな」

「……3番目、自殺となんか変わりあるんですか?」

「自殺はその場で死ぬが、寿命を定めてならばその寿命までは死なない。寿命があるならば不老も破られ老いる」

「八層……無界と魔界以外は行ったけどやっぱり謎だわ」

「魔界行ってねぇの?」

「……魔界ではこの者たちは扱い切れない故な」

「ずっりぃの。なぁ深皇」

「実は天界も少し立ち寄っただけで」

「……は~……これだから嫌なんだよ最高神と魔王って奴は。深皇に代わってから特に」

「史真よりはマシだと思うんだけど」

「お前のその前向きな姿勢だけは評価に値するな」


 クラスの面々から笑い声が漏れる。いつでも明るくがクラス目標だった。そんな中きょろきょろと清志は幽界を見渡す。


「……1000年前まで此処に居たと言われてもやっぱり実感沸かないなぁ……」

「そりゃそうだろうよ清晃。お前さんの魂だってそりゃ目立っていたけれどもただの魂だ。むしろ居た記憶迄持っていたらそれは正真正銘の異端だ」

「ですよね」

「やっぱりどこか違ってたんだ最高神の魂って」

「一番の違いは光だな。要職であればあるほど光る、眩しいから来るな」

「……忘斗……君ねぇ」

「さて。おしゃべりは此処までみたいだぜ?」


 ふわりと幽界の空気が流れる。忘斗は光魔法を展開、幽界の底を明るく照らした。D組の前に居たのは、眼鏡を外した瑠莉、そして、透明な棺に入れられた真唯だった。


「ふふっ馬鹿な子達。来たって無駄なのに」

「よっし、絶対潰す。今のでうちらの地雷タップダンス」

「一旦落ち着け木原」

「……福水瑠莉……否、アコニト、だね?」

「えぇそうよ?人間界の名前なんてもう必要ないモノ。我が名はアコニト。それ以上でもそれ以外でもない」


 瑠莉は、アコニトは笑う。高校のブレザーはふわりと舞い、長い髪から挑発的な瞳が覗く。


「真唯を、返してもらおうか」

「嫌よ。折角手に入れたんだもの……私だけの、お姫様」


 アコニトは愛おしそうに棺を撫でる。執着。それが今彼女を支配する感情であると司は視ていた。


「さぁ、邪魔者は排除するまでっ」


 ブレザーがばさりと投げ捨てられる。底に着いたブレザーから湧き出したのは瘴気の魔物と魔法世界の生き物たち。どちらも今までD組を襲ってきていた状態だった。


「D組は魔法生物をっ僕らは瘴気の魔物を担当するっ」

「了解っ」


 武器を手に取り、Ⅾ組メンツと教員組は二手に分かれる。そんな中、美穂は久しぶりになる弓をつがえた。


「爽子さん、悠華っ棺狙っちゃっていい!?」

「真唯なら大丈夫っしょっ」

「やっていいよっ」

「了解っ」


 威力だけで言うならばD組次点である美穂の矢が一直線に真唯の入った棺を狙う。だが確かに命中したにもかかわらず棺は傷1つ付かなかった。


「チッ外からじゃダメってこと?」

「真唯ちゃん起きてぇっ」

「真唯ぃぃっ」


 特に仲がいい勢が中心となって棺に、真唯に呼びかける。だが真唯はピクリともしない。


「よし。アコニトぶん殴って棺解除させる方が早いわ」

「悠華、そう言う所真唯に似てきてるわよ」

「爽子もでしょう?」

「……ま、そう言う事なんだけどねっ」


 戦闘は続く。数は多いが比較的戦いやすい魔法生物をD組に任せ、教員組は難敵である瘴気の魔物と対峙していた。


「だぁっほんと硬いっなんでこんなに硬いのさぁっ」

「知らん。私が最高神であったころから瘴気の魔物はこの構造だからな」

「余裕で何よりだ最高神殿と魔王殿っ」

「無茶しないでね衛理っ」

「わかってるよ清志っ」


 清志の矢が援護となり前線の3人は瘴気の魔物を駆逐していく。だが、出所であるブレザーの落ちた場所にはたどり着けずに居た。


「っちょっと忘斗っ早いところあの孔何とかしてくれないかなぁっ」

「今やってるっちょっと待ってろっ」


 戦闘から離れた場所、忘斗はそこで魔法陣を展開しながら魔物たちが噴き出す孔を何とかしようとしていた。


「いっそ先にっ」

「衛理っ」


 群れを抜け、前に出る衛理。その眼前に、矢が現れた。とっさの防衛反応で避けるが間に合わず矢は左肩に深々と刺さる。


「衛理っっ」


 矢の勢いのまま後ろに倒れる衛理。瘴気の魔物が群がろうとするがすべて司が駆逐する。衛理を立たせた司は後衛の清志の元に衛理を投げ渡した。


「……やはりあの矢も、アコニトのモノか」

「ほとんど感知不可能の矢なんて……僕達でも無理だ」


 神哉と司が前衛で駆逐しながら検分する間、衛理は清志の治療を受けていた。口径の太い矢は強い痛みを伴った。それこそ、急所を貫かれれば絶命は免れない。


「衛理、抜くからちょっとしっかりしていてね」

「あぁ……っ……」


 矢が抜き去られ、治癒術が施される。痛みは徐々に癒えていく。だが、彼女は、あの方は、そんな痛みの中でも、楽しかったと、ありがとうと言ってくれた。うっすらとほほ笑んですら居た。だから。


「コレで治療は終わったけれども、無理は出来ないよ」

「何言ってんだ清志……こっちは特大の喧嘩売られてるんだ」


 愛用の木刀を物質顕現の術で変化させる。呼び出すのは白銀の飾りに彩られ、オレンジの太陽を思わせる宝石がはめ込まれた剣。それは太陽の一族に仕える者が使う剣だからとアエトスから最初に渡された物。この世界に存在している限り、物質顕現の術で呼び出せる、過去の唯一。


「売られた喧嘩は買わないとなぁっ」

「……そうだね。かくいう僕も……かなり怒っている」


 ふわりと清志は弓矢を収納した。そして呼び出す。あの日清志が、自分が何者であったか思い出した日に呼び出した、赤い刃の中華剣、『神殺し』。剣を携えた2人は笑い合う。


「現役組に負けてられないぜ清志っ」

「うん、行こうか、衛理」


 たんっと跳躍し、前線に居た神哉と司を追い越し、剣は魔物を切り裂いていく。さすがの清志の前線参戦は神哉も司も予想外だったのか神哉は慌てていた。


「陽咲先生っ?!」

「良いんだ神哉っ」

「ほらほらさっさと潰して鴻助けるぞ神哉ぁっ司ぁっ」

「……元気そうで何よりだ」

「そういう感想?!あ~もうっちゃちゃっとやるしかないかっ」


 神哉と司も魔物たちへ足を踏み出す。長期戦の様子を呈しながら、戦況はD組サイドが有利だった。


 そんな戦闘を後ろから見ていた忘斗は言いようのない違和感に苛まれていた。先ほど衛理を狙った矢。アレは確かに太陽の姫を暗殺した時の矢と同じものだろう。出現の直前に感じられる言いようのない違和感もほとんど同じ。だが、その矢はいったいどこから現れたのだろう。


「……クソっ……並列思考は深皇の専売だってのに……」


 手元は孔の封鎖に必要な魔法陣の構築に使い、思考は矢の事に使う。こういった並列での思考が得意なのは深皇だった。戦闘しながらの思考ならば秋央や双子女王も得意とするがそれ以外の並行思考は深皇が階層主の中では断トツに得意だった。


「コレを繋げて、その周りでっ」


 些か乱暴に魔法陣を組み上げる。魔法陣の構築が得意なのは双子女王と秋央、特に秋央は元々魔王としてこの世界を任された身であったが為か構築が早く丁寧だった。


 つまりどちらも得意ではない忘斗が並行思考と魔法陣構築をやっている羽目になって居る。六嘉辺りが見たならば笑う状態だったが彼女は今居ない。


「この礼は俺からもしてやらねぇとなぁっ」


 魔法陣を展開していく。座標は、落ちたブレザー、その中に隠された魔法陣。


「即興だから成功しなかったら悪いな深皇っ」

「なんか物騒な事聞こえたんだけど忘斗ぉっ」


 ブレザーの下に落ちた魔法陣は展開を開始する。其れ迄あふれ出るほど出ていた魔物と魔法生物は一気にその勢いを失くした。


「とはいえ即興だ。破られる前に大本を叩いてくれっ」

「了解っ」

「大埜、木原、そっちはっ」

「大丈夫ですっ先生こそ怪我っ」

「かすり傷だっそっちは任せたぞっ」

「はいっ」

「お任せをっ」


 ひと段落付いた忘斗は思考を開始する。あの矢は確かにおかしい。無界の力を使って極限まで存在を無にしていることは2度目見た忘斗でもわかる事。だが、それにしてはあまりにおかしいのだ。


 物質顕現の術、何もないところから何かを取り出す術ではあるがその実、無から有を生み出しているわけではない。ただ単に、深皇ならば最高神の槍を最高神の自室から、史真ならば太古の剣を安置している場所から、太陽への忠節の剣ならば深皇が安置した剣置き場から、それぞれ呼び出しているに過ぎない。誰一人として無から有を生み出しているわけではなく、有を呼び出しているに過ぎない。それが物質顕現の術。


 人間界に魔法が贈られた際、人類に出来ない三つの事、火の力、生死の力、そして、原子の力。この中で原子の力、無から有を生み出せるその力だけはどの階層主であっても不可能な力。だったはず。


「いや……だがそうとしか考えられねぇ……深皇っ」

「何っ」

「その女の力、おそらく原子の力だっ」

「……は?」

「……なるほど。矢を呼び出したわけではない、無界の権能を織り込んだ矢を作り出したか。なるほど、呼び手が居なくても射出が可能な訳だ」

「いやいやいやいや?え、マジで言ってる?」

「漫才やるなら他所でやれそこの階層主共っ」

「言われちゃってるよ神哉っ」


 戦闘をこなしながら、神哉は与えられた情報を整理していく。原子を操る力、人間界であっても水を魔法で水素と酸素に分けることはできない、そして何もないところに何かを生み出すことはできない。あくまでも魔法はそこにある力を呼び起こすだけ。水魔法も空気中の水分を使っているだけに過ぎず、雷魔法も大気中に含まれる電可を収集しているに過ぎない。無から有は、階層主であっても生み出すことは出来ない。


「よそ見している場合かしらっ」


 あの矢が、複数出現する。だがその矢は神哉や司に到達する前に障壁に弾かれた。


「ぜぇったいっさせないんだからぁっ」

「藤森さん!?」

「出現パターン押さえました。あの矢は防ぎ切ってみせますっ」

「……心強いな」

「……そうだねっ」


 何度目かになる矢の出現を見て、神哉も確信した。アレは完全に無から生み出された矢であると。人類どころか全階層合わせての未踏となる、原子の力である。


「……原子の力、何処でその力を手に入れた」

「最初から。この力は私と共にあった……ふふっお姫様を飾る棺もこの力で作ったの。特別な、お姫様だけの」

「っいい加減にしろっもうアエトス様は居ない、其処に居るのは鴻だっ」

「いいえ?いいえ?いいえ?あの方だわ、あのお姫様だわ。ねぇアエトス様」


 アコニトは棺にしな垂れかかる。透明な棺の中、真唯は眠っているように見えた。


「先生の言う通りっそれは真唯だよっ」

「そ~だそ~だっ」

「真唯がお姫様なら全人類プリンセスだわバ~カっ」

「……えっと、そんなに言う?」

「清志は他校だからな。仕方あるまい」

「ふっ……あははははははっ」


 笑い声が幽界に響き渡る。アコニトは魔法陣を展開すると己のブレザーに重ね掛けした。忘斗の魔法陣を抑え、魔物たちが再度噴き出してくる。


「可笑しいわ。こんなに可笑しい話があったのね。貴女達が創り出したんじゃない。あの演劇会で、完璧すぎる、アエトス様をっ」

「は!?確かに真唯にお姫様やらせたけどっ」

「ちょっ先生っお姫様って深窓のご令嬢だったんじゃないのっ!?」

「っ」

「……」

「え~っと」


 衛理は口を閉ざし、司は表情を変えずに黙り、そして神哉は視線をそらした。その反応にⅮ組メンツから抗議の声が上がる。


「事情を知ってそうな従者と魔王と最高神が黙ったよ!?」

「陽咲先生ちょっと一発お願いしますっ」

「いや僕も何とも言えないんだけど。鴻さん初めて見た時あぁこの子がって一発で判るぐらいだから」

「え、じゃあマジで真唯の髪長い版がお姫様だったわけ!?」

「そしてアコニトは演劇会でそんな真唯を見に来てたと」

「……思いっきり遊んですみませんでしたぁっ」

「とりあえず真唯取り戻そう、うん。それが先、それが先」


 賑やかに戦線に戻っていくD組一同を見ながら清志は苦笑いを浮かべる。実際、清志自体は姫についてあまり多く知っているわけではない。最高神の従者だった時代、太陽の王が降りてきた際一度だけまだ幼かった姫を見ただけである。それでも当時から元気いっぱいの姫を見て、今世生まれ変わって真唯を見て、その姿に重ねるぐらいには彼女たちは似ていたのだから。


 認めたくない気持ちは解らなくはない。だからこそ、八つ当たりに近い勢いで魔物を駆逐する衛理の背を追う。


 ピクリと清志の視界の端にアコニトが映る。本当に、自分は何処で彼女を見たのだろうか。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ