表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
にぎやかなクラスの物語  作者: 颯待 彗
三学期~姫と真唯~
43/48

43話 ようやく手に入れた

 真唯が行方不明になって3日が経過した。


 朝のⅮ組ホームルーム。居ないクラスの中心を案じ皆一様に静かだった。


「先生……探査魔法の結果って」

「ぶっ倒れない程度にとどめさせているが空振りだ。司と清志のバックアップの元、地球全土に範囲を広げても鴻の力を見つけられなかったらしい」

「そんな……」

「……」


 沈痛な面持ちになる衛理を見てクラスの誰もが押し黙る。自分たちも辛い、だがおそらく一番辛いのは衛理なのだ。その表情からは真唯を守れなかったという想いがひしひしと伝わってきていた。




 同じ頃、清志もまた暗い気持ちを隠し切れずにいた。福水瑠莉はこの3日間学校に来ていない。魅了されていた生徒達は期間が短かった者たちから順に魅了が切れていっている。


「……どこかで、どこかで会っているんだ……それさえ思い出せたのなら」


 自分が思い出せていたのならば、真唯を危険な目に合わせずに済んだのではないか。兄である靖也からは教師陣を信頼しているため全て任せると言われているため真唯の行方不明は何処にも漏れていない。それでも何かできたのではないかと考えるのは元最高神として、教師として、当然の結果だった。




 がらりと神哉がⅮ組に入る。魔法基礎学の授業だが全員それどころではないだろうと推察していた。


「学年主任」

「……ごめん、まだ」

「謝んないでよ……」

「そうそう」

「あ、あの、無界に連れてかれちゃったとか、無いですか?」


 控えめに発言したのは陽菜。全員が顔を上げるがさすがにと神哉も首を振った。


「無界は本来無王以外の生命体が存在を確立できない世界なんだ。僕ですら最高神の姿で行って、長期滞在は不可能だ」

「じゃあ無理か……」

「でも他の階層に連れてかれた可能性は無い訳じゃないと思うんですけど」

「流石に……だって階層移動は階層主の権能だよ?」

「でもアコニトってのは無界から消えた、つまり無界から動けたってことですよね?」

「………………そう、なるね。盲点」

「じゃあ」

「もう此処でいいや……行くよ」


 神哉は探索魔法を横ではなく縦に展開する。階層を縦断しての探索魔法。そうして見つかった太陽の力は、2つ。


「天上界のは1学期鴻さんに置いて行ってもらった力……もう1つは……ぇ?」

「学年主任?」

「なんで幽界に……太陽の力が」

「真唯しかいないっしょっ」

「アイツまた1人先に階層主と会ってるの?」

「いや、あの幽王がアコニトに協力している可能性は低い。ちょっと待って、ガチで呼び出す。魔法基礎学は自習。戦闘科授業までに幽王連れてくる」

「お願いしますっ」


 見つけた希望の光。神哉は階層移動の権能を使い、その場から消えた。




 ふわりと神哉は学年主任姿のまま、幽界に降り立つ。無界では最高神の姿にならなければ存在を保てないがこちらは逆。人間界以外の全ての魂が入る領域であるがゆえに最高神の姿にはなれない。


「幽王忘斗ぼうとっ居るんだろう」

「……煩いなぁ」


 かつんと足音が響く。無界とは違ってこの世界には底が存在する。夜空の髪に夕焼けの瞳を持つ青年は心底面倒だという顔を隠さずにそこに立っていた。


「なんだ、深皇か。わざわざ幽界下り迄お越しで何用かな」

「今この世界に太陽の力が持ち込まれている。何か知らないか」

「太陽の?そんなわけあるか。あの力が1000年前この幽界で何をしたか知らないから」

「……ならば自分で探ってみると良い」

「……良いだろう」


 忘斗の探索魔法が展開される。表情がこわばるのを見た神哉はため息を吐いた。


「言っただろう?」

「そんな、だが、なんで」

「……あぁもう。まどろっこしいっ」


 ガッと神哉は忘斗の首根っこを掴んだ。夕焼けの瞳が驚愕に染まる。


「おいおい嘘だろ深皇」

「良いから、さっさと来いっっ」


 そして、忘斗と深皇は上へと向かって登っていくこととなった。




 同じ頃、人間界、総泉女学園の1年用戦闘フィールドでは戦闘科授業が始まろうとしていた。


「は?幽王を連れてくる?」

「それは……さすがの神哉でも不可能ではないか?」

「でも学年主任そう言って階層移動しちゃったんで」

「……おい、俺より幽界に詳しい魔王殿よ。幽王は大人しく来てくれる性質か?」

「いや。アレはひねくれているからな……おそらく」

「は~な~せ~っこのバカ最高神っ」


 ふわりと人影が降りる。片方は神哉。そしてその神哉に掴まれている夜空の髪の青年を見ると司でも目を見開いた。


「……本当に連れてきたのか、あの幽王を」

「あぁもうっ本当に人間界だしっ俺人間界好きじゃないんだけどっ」

「ぐだぐだ言ってると現時点人間界最高戦力と書いてⅮ組と読む彼女たちを解き放つよ」

「なんだよその脅しっ」

「……学年主任、この人が?」

「そう。幽王、忘斗。で?君自身が太陽の力の存在を確認したわけだけれども……君が指示したわけじゃないんだよね?」

「当たり前だろ。あんな扱い切れない代物、一時たりとも幽界に入れたくなかったよ」

「……おう、階層主だろうともアエトス様の悪口言うなら俺が相手になるぞ」

「事実だろう」


 忘斗は立ち上がる。Ⅾ組と衛理に凄まれ、階層主である司と神哉も取り囲む中、逃げ場が無いと判断した忘斗はため息を吐いた。


「1000年前、あのお姫様が幽界入りした。それは理解しているな?」

「人間界以外の魂はすべからく幽界へ落ちる。当たり前だろう」

「その当たり前に落ちてきたお姫様の魂はな、剥き身で太陽の力を持っていたからか幽界にある魂を根こそぎ冥界に上げ始めたんだ。太陽は昇っていくものだからな」

「それは秋央さんに聞きました。最終的には入るべき魂すら弾いたって」

「……そう、入るべき魂すら弾いた。でも入ったばかりのお姫様の魂に其処迄の力は無かった。せいぜい幽界の底に居た億単位で眠っている魂を引き上げる程度だ」

「それはそれで凄い」

「だがな、俺が式典から幽界に帰った頃の事だ」


 思い出すのは式典での騒動の後、アエトスの魂が幽界に入っているだろうことを思って憂鬱になりながら帰ったあの日の事。彼はその目で見た。


「……お姫様の魂に、故意に触れた魂が存在した」

「魂に、触れた?」

「あぁ。そう表現するしかないほど明確にアレは触れていた。そうしたらどうなると思う?」

「……想像もつかないな」

「俺も想像すらしていなかった。太陽の力は幽界全土を照らし尽くした。幽界を空っぽにするほど根こそぎ魂を冥界に上げ、入ろうとする魂すら幽界に入れなかった」

「……その、触れようとした魂は?」

「逆に弾き飛ばされたはずだ。俺もそこまで詳しく見ることができたわけじゃない。眩しくてそれどころじゃなかったしな」

「冥界の逆ってことは」

「無界……じゃあもしかして」

「アコニトの可能性は高いな」

「姫を魂の段階から狙っていたのか」


 アコニトが幽界に居る確率も高まり、D組の皆は決意を固める。クラスの中心の為ならば、どの階層だろうが言ってやるという気概だった。そんな彼女たちを忘斗は眺める。そして口の端を吊り上げた。


「……おい深皇、この娘どもが人間界最高戦力と言いたいのか?」

「その最高戦力のさらに最高が今問題になって居る太陽の力を持つ子だけれども、彼女たちが最高戦力であることに変わりは無いね」

「じゃあ簡単だ。特別に幽界に招いてやる。深皇、それに史真の手駒は幽界にはもともと入ることはできない、だがこの娘たちなら幽界には入れる。最高戦力を使ってさっさと太陽の力を引き取ってくれや」

「……良いだろう」

「決まりだ」

「でも残念。ちょっと準備が必要でね。放課後まで待ってもらおうか」

「はっ……そんな刹那を惜しむほど落ちぶれちゃ居ねぇよ」

「交渉成立」


 忘斗は先に幽界に戻ることになり、Ⅾ組の面々はそれを見送る。勿論神哉に詰め寄ることも忘れない。


「学年主任~っ」

「だってまだ鴻さんの行方不明僕等から出てないんだよ?残りの授業サボったらバレちゃうじゃん」

「そうなんだけどぉっ」

「……神哉」

「わかってる。放課後まで待てたのなら、武器携帯を許可します」

「よっし、言ったわね」

「武器の為なら待つけど」

「それに、放課後ならさらに援軍呼べちゃうってね」

「清志も巻き込むのか?」

「本当は巻き込みたくないけれども、今は陽咲先生も人間だから入れるし」

「それにアレも戦力になる。思い悩んでいたようだからな、存分に暴れさせろ」

「……だな。よっし、お前等。残りの時間使って最終調整だ」

「は~いっ」

「待ってなさいよ真唯っあとアコニトとか言う奴っ」


 燃え上がるⅮ組メンツを見て衛理はようやく表情を和らげる。あの時とは違う、自分にはこんなにも頼れる生徒が一緒なのだ。勿論矢面に立つ気ではある。だがその背を任せられるのは彼女たちを置いて他にない。


「準備してくるね」

「おねがいしますっ」


 最終調整と称された戦闘科授業を終え、昼休みの後、詠唱科の座学が入る。1年担当教師の早川は若干殺気立つⅮ組メンツを見ながら何事かと疑問に思いつつ教壇に立った。


「あれ、鴻さん今日も休みなんだね」

「みたいです」

「黒風先生も心配なさっていたみたいで、具合でも悪いのかな」

「真唯だって風邪の1つや2つ引きますって」

「拗らせてそうだけどね」

「そうだね。具合良くなると良いんだけれども」


 当たり前だが言えなかった。この後放課後D組全員で行方不明になって居る真唯を奪還しに幽界に行くんですよとは。何とか早川の気をそらしつつ授業は始まった。


 詠唱科の授業を受けながら、爽子は幽界に居るであろう親友を案じた。無事だろうか、お腹減っていないと良いのだが。それでも、必ず助けに行くという気概だけは持っていた。


 6限目、治癒科の座学。1年担当教師、佐藤は相変わらず殺気立つD組を見ると溜息を零した。


「はいはい皆さん。何を殺気立っているか判りませんが落ち着きなさい」

「佐藤先生」

「治癒も戦闘も同じです。殺気立ち逸る気持ちでは上手くいくものも上手くいきませんからね」

「うぐ……正論」

「まったく、鴻さんが居なくてもこのクラスは物騒なんですから……」

「真唯が居るとさらに物騒っ」

「自信満々に言わないこと。さぁ授業を始めますよ」


 そして治癒科の座学も終わりを告げ、放課後、戦闘科戦闘服に着替えたD組は本校舎屋上に集められた。神哉はジャージで待機し、ホームルームを終えた衛理、授業の後片付けを終えた司が集まる。


「っと、待たせちゃったかなっ」


 足場固定の魔法陣を使い、清志がそこに合流する。神哉は自分で言っておいてなんだが人間界最高戦力とはよく言ったものだと感心していた。真唯は居ないがD組全員、そして衛理、司、清志、そして自分。過剰で余りある戦力が揃っていた。


「じゃあ、幽界に行きます」

「よっしっ」

「待ってましたぁっ」

「真唯だってこのクラスに居なきゃフルパワー出せないんだからさっさと回収しないとねっ」

「その通りっ」

「そう言えばあの態度悪い幽王さんで忘れてたけどさり気無く階層主コンプ?」

「うわ、そうじゃん」

「え、出来れば第一層は真唯ちゃんじゃなくて先王さんに会ってみたい。アエトスさんの魂のおかげで輪廻転生の輪に入れているんだと思うから」

「……確かに。太陽の力は全部姫ちゃんに受け継がれたから見落としているけれども」

「…………香鏡が、か?」


 その話題に、珍しく司は目に見えて嫌な顔をする。表情こそそこまで変わっていないが明らかに目が拒絶を示していた。そのあまりにも珍しい反応に、懐かしさを覚えながら清志は苦笑いを浮かべた。


「……あり得るけれども……うん、黒治先生とは会わない方が良さそうだ」

「そうなんですか?」

「え、陽咲先生僕もそれ知らないんですけれども」

「最高神時代会っている訳だろう?まぁもう正反対で、史真様がこう全力で来るなオーラを出していたのは後にも先にも香鏡様だけだったね」

「あ~……わかる。式典でお会いしたけれども司とは真逆だ」

「え、会ってみたい。是非探して」

「了解。その前に、ちゃちゃっと鴻さん救出に行きますかね」

「よっし。真唯と一緒に階層主コンプっ」


 ふわりと階層移動の権能が広がる。司と神哉の合同で張られたそれに、賑やかなクラスの面々と教員たちは飲み込まれた。屋上は静寂に包まれる。人避けの結界で、それを見た者は誰も居なかった。




 幽界の何処か。彼女はくるくると回る。渓愁高校の制服はブレザーだったが上着は脱ぎ捨てられ、ふわりと周りで浮いている。


「あははっあははははははっ」


 彼女は笑う。笑う。歓喜の声をあげている。


「ようやく、ようやく手に入ったわ」


 そして、傍らにあった縦に浮かぶ棺に手を添える。棺は透明で中に居る人物が見えていた。総泉女学園のセーラー服を身にまとった少女は棺の中で眠りについていた。


「ようやく手に入れた。私だけのお姫様」


 魂たちはふよふよと浮かびながら逃げ惑う。その棺の眩しさから逃げるように。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ