40話 護れる力
波乱の1月が終われば2月がやってくる。そして2月がやってくるということは何が来るかと言えばバレンタインデーがやってくることに他ならない。
共学校ならばチョコとチョコで殴り合う熾烈なる戦いが巻き起こるが、あくまで総泉女学園は女子校。一部熾烈なる戦いは巻き起こるがほとんどが友チョコという名のチョコ交換会となって居る。
真唯と爽子、美穂は2月上旬の休みの日、最寄りのショッピングモールへ向かった。勿論友チョコ及び自分チョコの下見の為。普段乗り気でない真唯は今回乗り気で爽子と美穂の買い物に付き合っていた。
「え、アンタ六嘉さん達にも送る気?」
「え、ダメかな?」
「駄目じゃないと思うけど……六嘉さん達にはチョコじゃない方が良いんじゃないかな?何が良いか学年主任辺りに相談してからの方が良いと思うよ」
「そっか。じゃあ今日はガチ下見で」
「バレンタインデーに乗り気だと思ったら」
「真唯らしいっちゃらしいけどね」
特設会場は熾烈なる争いの前哨戦とばかりに混雑していた。混雑を抜けると、反対側から見知った顔が抜け出てきた。
「あっれ、悠華に陽菜」
「珍しい組み合わせ」
「いやバラバラに来たんだけど陽菜が潰されそうになってたから」
「ありがとうね悠華ちゃん……」
「陽菜はやっぱり手作り?」
「うん。今年はブラウニーの予定。あと六嘉さん達に何かあげられないかなって様子見してたら……潰れそうに」
「……何。階層主に送るの流行なの?真唯も言いだしたけど」
「でも確かにお世話になっている人にあげるという意味では合っているんじゃ」
「……よし、やっぱり学年主任に相談だ」
「だね」
「どうせならクラス連名で送った方が良いんじゃない?」
「悠華天才か?」
「へへっ」
「じゃあソレ頭に入れながらもう一周しましょうか」
「陽菜。手。はぐれそう」
「ありがとう美穂ちゃん」
5人は乱戦状態の会場を進む。やはり主な販売物はチョコ。友チョコを考える爽子と悠華は数を計算し、美穂と陽菜、真唯はデコレーションの実演に食いついていた。
そして会場を抜け、端でチョコレートドリンクを飲みながら休憩となった。
「は~……でも真唯。今年も大変じゃない?」
「大丈夫っしょ。後輩分無いし」
「そう言ってると痛い目見るよ」
「真唯ちゃん、無理なら無理って言ってね?」
「陽菜っちのお手製断った事無いっしょ?大丈夫だって」
「あら?其処に居るの」
顔を上げる。そこに立っていたのは馴染みの魔法対策課の門田環と、どこかで見たことのある女性だった。
「門田さん。お久しぶりです」
「大埜さんと鈴鹿さんと木原さんはお久しぶり。藤森さんと鴻さんはこの前ぶりね」
「お久しぶりです」
「あ、あの、そ、そちらの方」
4人がもう1人をどこで見たか思い出せない中、1人陽菜だけは明確に記憶していた。何故なら、陽菜の戦闘科に対する思いを変えたのだから。
「あぁ。ちゃんとVTR見ていてくれたんだ」
「県警本部、広域魔法防御課の拝戸紗希です。VTR出ていたし、総泉女学園にそもそもVTRを渡したの私なのよ」
「……あ、そうかどっかで見たことがあると思ったらあのVTRの最後に出てきた人だっ」
「思い出したっ」
「よく覚えてたわね、って陽菜だもんね」
「うんっあ、えっと藤森陽菜ですっ」
「大埜爽子です」
「鈴鹿美穂ですっ」
「学級委員長の木原悠華です」
「鴻真唯ですっ」
「この子達が噂の総泉女学園の子達?」
「あと20人居るけど、主力はこの子達ね。主に鴻さん」
「そうなんだ。え、広域魔法防御課来る気ない?」
「僕はちょっと無理かなって。学力面で。その代わり陽菜っちが」
「は、はいっあの、ちょっと運動神経無いんですけど、目指してみようかなって……思って……」
雑踏の中に消えそうになる陽菜の声。だが紗希は満面の笑みでその手を取った。
「嬉しいっえ、防壁張れる?何魔法得意?出来れば風か水が良いんだけどっ」
「か、風魔法で、防壁はちょっとなら」
「いや陽菜の防壁がちょっとだったら全人類防壁張れないじゃん」
「そうなの?」
「ついに20面と10連到達したもんね」
「僕まだ人間サイズも張れないってのに」
「よっしっ頑張って来てねっ一緒に働けるの、楽しみにしてるわ」
「っ……はいっ」
憧れの職業に就いている人に出会い陽菜のテンションは上がる。滅多に見ないハイテンションの陽菜の姿に仲間たちは笑顔になった。
「そう言えば門田さんと拝戸さんもチョコレートですか?」
「そ。まぁ職場チョコ?みたいな感じよ」
「難しいラインだけどね。今いろいろ煩いし」
「でも無いと無いで士気にかかわるから大変なのよ」
「なるほど。大人も大変だ」
「皆は友チョコとか?本命チョコは居ないの?」
「校外に彼氏がいるなら本命は必要ですけど、なかなか……」
「そっか。女子校も大変だ」
「ちなみに私と環は渓愁高校の卒業生なの」
「あ、だからこの辺りで買い物なんですね」
「そういう事」
穏やかな空気が彼女たちの間を流れる。その時だった。
まず彼女たちの元に届いたのはざわめき。続いたのは悲鳴。その悲鳴に門田と拝戸、そして真唯がいち早く反応した。
「きゃぁぁっ」
「通り魔だぁっ」
響いた声に、一瞬だけ真唯が止まる。その一瞬の差で真唯は門田と拝戸の後ろを走り抜けることになる。吹き抜けになって居るショッピングモールの広場。そこで風魔法を乱射する男が立っていた。風の刃は警備員が張った防壁に防がれているが威力の問題で間もなく破れそう。そんな中に門田と拝戸は迷わず飛び込んだ。
「止まりなさいっ魔法対策課よ」
「うるっせぇぇっ」
男の刃が門田に向かう。だが刃は拝戸の防壁によって阻まれる。
「まったく、こう言う奴がいるから非番でも魔法警棒携帯義務があるんだけどね」
「本当よね」
カチャリと2人の手に警棒が出現する。門田は同じ風の刃で男の刃を相殺させていき、さばききれなかった分は拝戸が防壁を張って対処していた。
「すごい……あぁ言う対人戦闘まだやったこと無いからわかんないけど……刃同士を相殺させるってすごい……」
「コレが大人の戦いって奴ね」
追いついた爽子たちも門田と拝戸の戦いに見入る。その最前線で一番見入っていたのは真唯だった。
「……珍しい。アンタが出たがらないなんてね」
「爽子さん、いくら僕でもああいう大人の戦いには首突っ込まないよ。燃えたら困るし」
「室内じゃスプリンクラーの餌食ねアンタは」
「まぁね」
「とりあえず私等は避難してる人たちに刃が行かないように注意しよう」
「だね。避難誘導は警備の人にお任せできるし」
にぎわう店内での犯行だったため避難が間に合っていない。何とか警備員たちが避難誘導を行っているが混乱は続いている。
「……避難誘導の仕方って習えると思う?」
「爽子さん、とりあえず落ち着こう。っと、結構乱打してきてるなぁ」
美穂の見立て通り、通り魔はがむしゃらに刃を出現させ始めた。門田と拝戸ですらさばき切れず流れ弾となった刃を爽子と悠華の防壁が弾く。吹き抜けの上の階は警備員が何とか弾いているが持久戦になり始めていた。
人の波からはじき出される影があった。それは小さな女の子。爽子たちの防衛ラインより外に出たその少女の姿を通り魔は見逃さなかった。今まで乱雑に射出されていた刃が一気にその少女に向かう。
「きゃぁぁっ」
門田の相殺も、拝戸の防壁も、爽子と悠華の防壁も間に合わない。土煙が舞う。
「……普段家の学校に来るテロリストより性質が悪いですね」
風魔法で土煙が晴れる。床材を壊されるほどの勢いだった風の刃はすべて少女を抱えた陽菜の防壁によって阻まれていた。
「陽菜っちっ」
「真唯ちゃんこの子お願いっ」
この中で一番安全であろう真唯に少女を引き渡した陽菜は通り魔を見据える。そして吹き抜け一帯を防壁で囲んだ。それは魔法世界で城を丸々包んだ防壁と同じ要領。一度習得してしまえば自在に操れるのがⅮ組メンツの強み。
「門田さん、拝戸さん、刃は絶対に通しません。だから制圧を優先させてくださいっ」
「……それはありがたいわねっ」
「なら、遠慮なくっ」
刃が出現を始める。だが宣言通りどの方向にも風の刃は通らない。防御に徹しなくて良いと判断した門田と拝戸は攻勢に転じる。
「陽菜っち大丈夫?」
「平気。あのお城の結界の方が大変だったから」
「そりゃ規模が違うっての」
警棒が男の手を押さえる。2人の連携で通り魔は地に伏せられた。人ごみをかき分け制服警察官が大挙してやってくる。その姿に陽菜は展開していた防壁を解除した。
「ふぅ……でももうちょい早く展開できればなぁ」
「……陽菜も十分D組の一員だわ」
「だね。戦闘に関して妥協を許さないあたり」
騒がしくなる吹き抜け広場。通り魔を制服警察官に引き渡した門田と拝戸は真っ先に陽菜の元に駆け付けた。
「ちょ、藤森さん大丈夫なの!?あんなに大規模に障壁展開して」
「は、はい。前張った時と逆側だったからちょっと展開に時間掛かっちゃって」
「ほぼノンタイム展開だったように思うのは私だけ?」
「奇遇ね紗希。私もよ」
「陽菜っち陽菜っちっ」
真唯の声に陽菜が振り返る。其処に居たのは両親に引き渡された先ほどの少女。
「お姉ちゃん守ってくれてありがとうっ」
「本当にありがとうございました」
「あ、えっと」
「……藤森さん、私達からもありがとう。あの子を助けられたのは貴女のおかげよ」
「やっぱり私ももうちょい戦闘訓練頑張らないとってことね。環の訓練漬けの理由が分かって良かったわ」
「総泉女学園の1年D組見ているとね。どんなに頑張っても頑張り足りないって思えちゃうのよ……『幽暗』を制圧した後通報され続けた署内のどうしよう感ね……」
「ふふっそういう訳で。本当にありがとうね、藤森さん」
「……えっと……その」
いつも誰かの影に隠れていた。小学校の頃は常に誰かの後ろに居て、居ても居なくてもいいようにしていた。そうすれば何もならない。そうすれば何も起きない。魔法の力を得て、中学に入ってからもずっとそうだった。援護をすれば、援護だけでも。でも、今日自分は誰かを守れた。他でもない自分が。
「陽菜っちっ」
勢いよく陽菜の背中が叩かれる。真唯は満面の笑みでそこに立っていた。
「陽菜っちの力は誰かを守れる力なんだから胸張りなよっ」
「誰かを守れる……?でもそれなら真唯ちゃんだって」
「僕のは守るっていうか攻めてって結果守るって感じだから。最初っから最後まで守れるのは陽菜っちの力だよ」
「……最初から最後まで守る……」
「守り通せるのが陽菜っちの力だからさ、僕よりずっとカッコいいよ」
陽菜にとって真唯はずっと憧れのヒーローだった。中学の時初めて真唯が炎の力を使って守ってくれたのも陽菜だった。以来憧れだった。輝く炎の力、高校に入って1学期に太陽の力と分かった真唯の力が、陽菜にとってずっと憧れだった。その憧れが、カッコいいと、自分よりカッコいいと言ってくれた。それが嬉しくて、たまらなく嬉しくて。
「……そうだと……良いな」
真唯に釣られて陽菜も笑う。ようやくの笑顔に爽子たちも安堵する。陽菜は防御の面で言えば真唯以上の実力を誇っている。それを自覚してもっと力を付けてほしいと思っているのが爽子と悠華の司令塔コンビの総意だった。
「門田君。と、拝戸さん」
「あ、南場課長」
「あ、じゃないあじゃ。非番で災難だったな」
「まぁまた手柄は総泉女学園の子に取られちゃった形ですけどね」
「正直今すぐ広域魔法防御課にスカウトしたい」
「どんなに武功を上げても学生さんだからほどほどにしなさい拝戸さん」
「課長さんお久しぶりですっ」
元気な真唯の挨拶に南場課長はまたこの面々かと思いながら向き合った。彼女等に何を言っても改善されたことなど南場が課長になってから一度も無いのだから。
「今日は暴れなかったようですね鴻さん」
「流石に室内は」
「あぁ。なるほどスプリンクラー」
「作動しても問題なんですけど邪魔だなって」
「消火剤の場合もありますし、粉塵爆発は危ないですからね」
「そういう事ですっ」
「えっと藤森さん。今回はありがとうございました。でも危ない真似はいけませんからね?」
「はい。わかっています」
「よろしい」
D組の中で聞き分けの良い部類に入る陽菜の返事にようやく南場は安堵する。だが彼は気付いていない。陽菜もまた破天荒が服着て学校に通うようなⅮ組の生徒であることを。一般人の無茶はⅮ組の些細な事に相当する。つまり、陽菜もまた一般人が言う所の無茶を平然と行うことは目に見えていた。
「さって……今日はもう帰ろうか」
「そうね。大体良いの下見できたし」
「雪柊先生に六嘉さん達に何贈れば良いか聞かないとね」
「だねっ」
少女達は笑い合う。バレンタインデーまであと少しだ。




