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にぎやかなクラスの物語  作者: 颯待 彗
三学期~姫と真唯~
38/48

38話 魔法界の異変

 夕方、真唯が自主練習を終え、帰りの準備をしようとしていると珍しく3年の戦闘フィールドに誰かが居ることに気付いた。


「会長……?」

「……あら、鴻さん。自主練習かしら」


 生徒会長、里旗結。まもなく新生徒会長を決める選挙があるが今この時点をもって言えばまだ生徒会長である。彼女は真唯を見ると近寄ってきた。


「あ、はい。今帰りで」

「……時間、ある?」

「一応」

「ちょっと魔法無しで手合わせお願いしたいの」


 そう言って戦闘フィールドの中に招き入れられた真唯に渡されたのは竹刀。目元に防御障壁を張られ、手合わせの準備が整えられていく。


「じゃあ、よろしくお願いしますっ」

「えぇ……」


 カンッと竹刀が打ち合わさる。時折衛理とも手合わせをし、また実家で営んでいた剣道場に今もやってくる門下生との手合わせなど、真唯の剣道レベルは高かった。


「本当に、貴女は底が知れないわね」

「でも会長も強いっ」

「学年主席というのはそういう事よ」


 普通の打ち合いが続く。真唯は一瞬だけ衛理とやっている剣術の動きをやろうとして止めた。さすがの真唯でも実践剣術の動きを此処で適応してしまえば怪我をするのが誰か判っている。


「はぁっ」

「っと」


 一閃で結の竹刀が弾き飛ばされる。カランと竹刀は落ち、一瞬静寂が訪れる。


「……本当に、貴女は強いのね」

「えっと、実家が剣道場なんで。そこで門下生の皆と混じってやってたらいつの間にか」

「そうなの?何歳からやっているのかしら」

「正式には6歳の時。でも竹刀振り回してたのは3歳ぐらいだって門下生の兄ちゃんたちは笑ってましたけど」

「……それはまた……ん?苗字鴻……鴻道場!?」

「あ、知ってましたか」

「確か師範の方が亡くなられた後も門下生が集結して各地の大会荒らしているあの鴻道場の?」

「お父さんが師範で、門下生の兄ちゃんたちも、僕の兄ちゃんも手合わせしてくれて」

「……強いのは納得しました……」


 結はため息で誤魔化すが内心は動揺していた。何せ鴻道場と言えば広い界隈で剣道をやる者、特に大会に出場するレベルの人間にとって知らない者はいない程の有名道場。その基礎を作った亡き師範が真唯の父であり、鬼のような強さを誇ると称される門下生たちと今も手合わせする真唯が強いのは当然だった。


「……貴女って引き出し型のビックリ箱ね……どの引き出しを開けても驚かされる」

「新しい僕の表現方法が来た」

「あるいはそう言った天運を引き寄せるのも貴女なのかもしれないわね」


 体育祭の一件以来、結は真唯を認めては居ないものの前より認識を改めていた。規格外に強い3教師に認められる強さを持った真唯という存在は無視できないほど眩しい存在だった。


「さて。暗くなってしまったわね」

「そう言えば。冬至過ぎてもやっぱり日落ちるの早いなぁ」

「貴女……冬至の事知っているのね」

「一応誕生日が冬至になりやすい日なんで」

「いて座?やぎ座?」

「やぎ座ですっ」

「あら。じゃあ22日ね」


 ふと結は空を見た。都会の空でも見える星はあるが圧倒的に少ない。だが、その学問はその先にある星で視るものだった。


「3年になるとね、魔法基礎学で占星術も習うの。貴女達は習ったかしら?」

「まだ。占星術に必要な道具?が1学年分しかないから占星術だけは出来ないんだって学年主任が」

「そう言えば。結構専門的な道具使うわね最初は……でも、慣れてきたのならこうして星の巡りを観察することで占うことが出来るようになる」


 真唯もつられて空を見る。まだその先を視ることのできない真唯は暗くなっていく夜空にしか見えない。そして結果を視た結は笑った。


「女難の相、出ているわよ」

「へ?」

「女子校で女難の相ってのも妙な話だけれども……あらでも結構根深いわね。気を付けなさい?」

「ど、どう気を付けろと」

「貴女ならなんとかできるわ。お疲れ様」


 軽やかに結は戦闘フィールドから出ていく。後に残されたのは釈然としない心境の真唯だけだった。



 翌日、登校して真っ先に友人たちにその出来事を語った真唯。周囲からは笑い声が漏れた。


「女難の相って真唯が?」

「逆にありえそうでウケる」

「も~美穂も爽子さんも~っ」

「でも生徒会長って学年主席なんでしょ?占星術も凄いんじゃ」

「気を付けときなさいよ真唯」

「どう気を付けろとっ」


 もやもやした気持ちのまま授業が始まる。3限目、魔法戦闘科実技の授業で憂さを晴らすべく肩慣らしの的当てといつもの魔力計特訓を速やかに終わらせ戦闘フィールドに呼び出されている魔法生物たちに向かった。


「ワニちゃん減ってるしぃっおトリ様もなんか少ないっ」

「……そう言えば、今日はずいぶんと魔法生物たちも大人しい……」


 司も訝しんで魔法生物たちを見る。とたん、表に出ていた魔法生物たちが暴れ出した。それどころか召喚の陣が開き同じく暴れる魔法生物が溢れ出す。


「衛理っ」

「前衛は魔法生物の退治、後衛は魔法生物が校舎や外に行かないように防壁をっ司っ魔法陣は任せたっ」

「任された」


 最初の指示出しが終われば指揮権は衛理から悠華と爽子に渡される。悠華は衛理と司含める前衛の、爽子は後衛の指示に当たる。


「陽菜、道路側に障壁張れる!?」

「うんっ任せてっ」

「黒治先生魔法陣解除にどれぐらいかかります!?」

「1分持たせろ」

「了解ですっ」


 宣言通り司は瞬く間に魔法陣を解除する。だが暴れる魔法生物は前衛が刈り取ってもなお余りある量湧き出ていた。


「後衛組っ空飛ぶおトリ様中心に狙撃してっアイツ等外に出したらさすがにマズイっ」

「前衛組はワニちゃん駆除よろしくっ」

「了解っ」

「司、空頼む」

「地上は任せるぞ衛理」


 雷の権能で撃ち落とせる司が後衛組の援護に回り、駆逐戦は続いていく。その中でも奮戦しているのは空中の敵を障壁でその場に押し留めている陽菜だった。


「もぉっそっち行っちゃダメって言ってるのにぃっ」


 陽菜はまだ担当する領域全面に張れるほどの能力は持っていない。だから鳥型魔法生物が飛ぶその先にだけ障壁を張り続けていた。


「障壁の扱い方、十二分に合格だな藤森」


 押し留めていた鳥型魔法生物が雷によって撃ち落とされる。光の粒になって消えるそれらを見て、陽菜は撃ち落とした司を見た。


「なんかそういうゲームやっている気分でした」

「動体視力の訓練には良さそうだな」

「っと、まだまだ気は抜けないっと」

「そうだな」


 やる気十分の陽菜を見ながら司は今までの戦闘を振り返っていた。陽菜は運動神経の面でどこか迷惑を掛けないように後衛班の後ろの方に居る印象だった。だが今、後衛班は後衛班でもほとんど前線に近い位置で障壁を張っている。その感情は誰かの役に立てる喜びに満ち溢れていて、そんな姿に司は息を吐くと校舎に向かいかけた1羽を撃ち落とした。


「後衛、気を抜くな。まだ鳥型魔法生物は残っている」

「はいっ」

「黒治先生にだけ良いカッコさせないよぉっ」


 その頃前衛は真唯と衛理が中心となり、ワニ型魔法生物を刈り取っていた。瘴気の魔獣に比べれば柔らかいその魔法生物でも数が多ければ時間もかかる。


「まだ居る~っ」

「おう鴻、防御障壁のやり過ぎで鈍ったか?」

「じょ~だんっ」


 極小の炎弾がワニ型魔法生物を撃ち抜く。魔力制御が出来るようになってから、真唯は炎弾を小さくし、その分速度にリソースを別けるようになった。結果生まれたのが高速ではじき出される炎弾。狙いは8割程度ながら対魔法生物に関しては十二分だった。


「便利そうで何よりだ」

「大物はぶわって刈り取った方が早いけど、今日はこれの気分っ」

「そうかいっ」


 火と炎が舞う。駆逐戦はいつもより時間がかかったが何とか終了し、一部生徒は座りこんだ。


「真唯……疲れ知らずねアンタは」

「そりゃね。てか、なんで魔法生物が暴れ始めたの?」

「司、魔女王達に」

「今連絡を取らせて……何?」

「何かあったの?」

「魔法界でも魔法生物たちが暴れているらしい」

「っ黒治先生っ連れてってっ」

「鴻?」

「だって六嘉さんも六陽さんも危ないって事っしょ!?」

「おっと、そういう事なら」

「へばっている場合じゃないわね」


 クラス全員が立ち上がる。さすがの司もそれには一旦制止を掛けた。


「……神哉に連絡してから向かわせてくれ」

「そうだな。言わなかったら拗ねそうだ」


 今日は魔法省の公になる仕事の為全休だった神哉に連絡を取る。だが出たのは司とは別の補佐官。


「神哉は?」

『今ちょうど会談中でして』

「そうか……伝言を頼む」

『どうぞ』

「『白と黒の元に太陽を連れ向かう』……言えば神哉なら判るはずだ」

『わかり?ました?』


 連絡を終える。一般人の口に乗せるギリギリのライン。それでも伝えなければ神哉は怒るだろう。連れて行ったことではなく、置いていったことに。


「では、向うぞ」

「はいっ」


 司がつま先で地面を叩けば現れたのはもはや馴染みとなった階層移動の魔法陣。そしてD組と衛理、司はその魔法陣に飲み込まれ、消えた。




 魔法界、本来ならば穏やかな時間が流れる世界だがその日は一変していた。荒れ果てた街並み。空を飛び、地を駆け、次々と城へ避難する住人達。その空を狙う飛行系魔法生物やワイバーンを撃退する者たち。階層は遍く混乱に満ちていた。


「落ち着いて避難せよ」

「さぁ此方に」


 陣頭指揮を執る六嘉、避難を支援する六陽。そこに一団が降り立つ。


「其方たち」

「六嘉さんっ何すればいい!?」

「……まずは住人の避難だ。空に居る障害を蹴散らしてほしい」

「了解っ射撃組っ出番だよっ」


 Ⅾ組の射撃系組が魔法世界の住人に混じって暴走する魔法生物たちを撃退する。前衛組も地上で迫りくる魔法生物の駆逐に当たる。目に見えて此方が優位に立ったことにより知らず詰めて居た息を双子揃って吐き出した。


「六嘉、六陽」

「史真。何故」

「お前たちが危機と聞いて行かねばと騒ぐ生徒を宥めるのが面倒でな」

「そういうこった。避難はどれぐらいで完了だ?」

「あの空の一団が最後の筈よ」

「よっと。とりあえず先生」

「何かな学級委員長」

「武器欲しい」

「……今回だけだからな」

「よっしゃっ」


 衛理との目くばせの後、司は物質顕現の術でⅮ組の武器を取り出した。それは何時かこの魔法世界に殴り込みをかけた時の武器をそのまま神哉が別口で保管していた物。爽子と悠華で次々と武器が回され、飛び道具組になった前衛組も空中射撃の援護に回る。そして、最後の住人が収容されると門が深く閉じられた。


「……正直助かった」

「ありがとう皆……」

「だが、魔法生物暴走の大本を断った訳ではない。この城も盤石とはいえないだろう」

「その通りだ史真……」

「はいっとりあえず質問。今魔法生物はどの方角から来ていますかっ」

「えっと、東側全体的にね」

「西側は」

「断崖絶壁故考えなくてもいい筈だ」

「ということはあのフォーメーション使えるわね」

「よっしゃ。Ⅾ組~っ防衛戦フォーメーションお披露目行くわよぉっ」

「おうさっ任せろっ」

「いつの間にそんなもん考えたんだお前等」

「このクラスは想像の斜め上を行くからお前たちも面白がるのだろうな六嘉、六陽」

「……そうさな」


 司の言葉に六嘉は淡く笑う。最初は真唯への興味だけだった。だが話をしていくうちにⅮ組全体に興味を持った。それは六陽も同じこと。その六陽は少し考えると陽菜へ声を掛けた。


「……陽菜さん。良いかしら」

「はい?」

「最近防衛障壁を習ったって言っていたわよね?」

「はい。まだ18面が限度ですけれども」

「十二分だ。手伝え。この城すべてに防壁を張る」

「え、えぇ!?」

「防御障壁のお勉強にもなって一石二鳥と言う所かしら」

「う~……でも、うん。頑張りますっ爽子ちゃんっ悠華ちゃんっ」

「陽菜本丸防衛了解っ」

「任せたよ陽菜」

「わかったっ」


 各々が指示された場所に付く。そんな中陽菜は案内され玉座の間に来ていた。付き添いで司も居る。


「じゃあ行くわね?基本的には小さな障壁を並べていくイメージよ」

「小さな障壁を、並べていく……」

「あぁ。そしてその小さき障壁で包み込み、大きな障壁と成す」

「包んで……大きく」


 外壁がパキリと音を立てた。瞬く間に小さな障壁は城を包み込む。そしてその面を減らし、球となった。


「あとは保持ね。これは私達も手伝うわ」

「あぁ。史真、外を頼む」

「わかった。藤森、無理はするな」

「はいっ」


 司が外に出れば其処に居たのは多数の魔法生物。竜種が操られていないのが幸いで、それ以外は殆ど揃っていた。


「剣もあるし魔法生物沢山っもやもや晴らす絶好の機会っ」

「なんかあったのか?」

「なるべく忘れてたいっ」

「あぁ女難の相、生徒会長に占星術で視られた」

「忘れてたかったのにっ」

「……女難の相……」

「里旗の占星術の成績を考えると気を付けておいた方が良さそうだな」

「センセーたちまでぇっ」

「ほら、憂さ晴らし。行くんだろ?」

「……と~ぜんっ」


 場所は正門前、真唯と衛理、司、それに数名の前衛組が準備を行う。


 魔法生物の咆哮が皮切り。


 1年Ⅾ組初めての防衛戦が幕を切った。





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