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にぎやかなクラスの物語  作者: 颯待 彗
三学期~姫と真唯~
34/48

34話 彼女の役割

 炎が凍てつくような冬の空の元舞う。


「めっちゃ楽しいっ」

「それは何よりだ」


 演劇会の後、真唯は約束通り勝利のご褒美として衛理、神哉、そして司との手合わせを受けていた。衛理と神哉が終わり満を持しての司との手合わせ。多少の炎を駆使する加速も取り入れ司との手合わせは続いていた。


「鴻さん元気だねぇ」

「まぁ鴻だからな。それにしても」


 ふと衛理は戦闘フィールドから本校舎を見る。明らかに人の少ない本校舎。それもそのはず、3年は受験の為任意登校に切り替わっていた。神哉もそのため空き時間が出来てこうしてⅮ組の授業に参加できる。


「……三学期ってのは寂しいもんだな」

「学年末だからね……そう言えば里旗さん」

「あぁ、生徒会長」

「僕らの直属後輩になる予定です」

「……あの学校に?」


 衛理、司、神哉は高校から大学まで同じ所に通っている。そしてその大学は国内有数の有名校であり、大学院在学中に突然降って湧いた資格である魔法学校教員資格が取れるほど柔軟に対応し、今や魔法省や魔法国家資格を取る最短ルートとまで言われる学校に成長していた。


「いやぁ懐かしいねぇ。さすがに僕も教員免許必要になるとは思わなかったからあわてて講義取り直して」

「あぁあったなそんなこと」

「何々?先生たちの学生時代?」


 興味を持ったⅮ組の生徒達が衛理たちの元に集まる。彼女たちも冬を経て春になれば2年生、進路という道を定めなければいけない時期が来る。


「あぁ。魔法学も他学科単位も満タンだったのにうっかり神哉の奴共通教養ギリギリで危うく留年しかけた話とかな」

「ちょ、衛理それ言わないでよっ」

「ちなみに学年主席はあそこでそろそろ止めなきゃいけない程白熱した手合わせを受けている司だったりするがな」

「さすが黒治先生」

「でも魔法教員ランクは黒風先生の方が高かったんだ」

「司と神哉が9レベルで手抜きすると解ってたら俺もそうしてたよ」

「理解。つまり実質2人も10レベルな訳か」

「そりゃ学年主任と黒治先生だもんね」

「お前等はなんか考えてるのか?大学とか」


 言われて皆考え込む。総泉女学園には付属の大学が存在している。持ち上がりでそこに行く生徒も多いが結のように外部の大学を受ける生徒も少なくない。


「一応持ち上がりを予定してますけど、いろいろ悩むんですよねぇ」

「みんなの将来の夢は?魔法対策課志望の子が多いのは知ってるんだけれども」

「ちょっと待て。その前にあのほぼ戦闘状態を止めてくる」


 衛理が司と真唯の戦闘に割ってはいる中、陽菜は1人悩んでいた。陽菜は魔法対策課志望ではない。勿論戦闘科に所属しているからには魔法を使って誰かを助けたいという気持ちが強くある。だがその将来が見えない。


「は~……戦った……ありがとうございましたっ」

「あぁ。私も久しぶりに楽しめた」

「お前らなぁ……」

「で、何話してたのっ」

「将来の夢的な?」

「魔法対策課っ本当は魔法機動隊が良いんだけど」

「女子には狭き門だからねぇ……お兄さんとしては、魔法省にお誘いしたいところだけれども」

「真唯には無理無理」

「お役所仕事、真唯に出来るかなぁ?」

「自分で言うのもなんだけど、無理だと思うよっ」

「でした。魔法省は人手不足のため広く人材を募集しています」


 投げやりな神哉に笑いが起きる。衛理は内心、生徒会長里旗結の希望職種が魔法省でないかと推察していた。職場の上司が学年主任だったと驚く結の姿まで想像し、笑みを浮かべた。


「どうする衛理。お前も魔法省来るか?」

「却下。こいつらが卒業したら適度にレベル落して教員続ける」

「そうか。お前が来てくれたのならば神哉の子守りの負担が減ると思ったのだがな」

「ちょ、司、今子守りって言ったでしょ」

「事実だろう」


 再び笑いが起こる。そんな中、陽菜は1人少しだけ暗い顔をしていた。


 帰り道、陽菜は1人昼間の話を思い浮かべていた。戦闘科の授業が終わった後もクラス内の話題は将来の事。ほとんど全員が将来の職種を見据えている中、陽菜は数少ないまだ考えていない組に入っていた。


「陽菜っちっ」

「真唯ちゃん。今日は特訓良いの?」

「黒治センセーとも手合わせしたし。今日は満足」

「そっか」


 部活に入らない2人は並んで最寄り駅までの道を歩く。その道を歩く女性の肩から掛かった荷物が浮くのを陽菜は見た。


 次の瞬間、浮いた荷物を引っ張り男が走る。女性は勢いで倒れ、ひったくりの現場に遭遇した周りは騒然となる。


「にゃろっ」

「っ」


 真唯は前に向って走っていった男の背中を追う。陽菜は迷わず倒れた女性の元に駆け寄った。


「大丈夫ですか!?」

「ありがとう……カバンは」

「今クラスの子が追って」


 目線の先、真唯の前、男は宙を舞っていた。地面に叩きつけられた男の前に立ったのは覆面パトカーから降りてきた馴染みの魔法対策課の女性警察官。


「魔法使用の窃盗、現行犯で逮捕します」

「くそぉっ」


 しばらくすれば応援で呼んだのかパトカーが到着。真唯も被害者の女性の元に戻るころには現場は騒がしくなっていた。


「えっと被害者は、あら。総泉女学園の」

「お久しぶりです門田さん」

「鴻さんと藤森さん。そちらが被害者の女性で間違いない?」

「一部始終見てましたっ」

「はい。魔法で浮かせたところから全部」

「貴女達なら調書は後日で良さそうね。申し訳ありませんがお怪我など無いか確認しますので署までご同行願えますか?」

「は、はい」


 被害者の女性を助け起こし容疑者とは別パトカーで警察署に移動させる。諸々やり切った門田は真唯を見た。


「鴻さん、いくら強いからって追いかけるのは無謀よ?」

「浮遊魔法まだ苦手で」

「まぁ浮遊魔法は2年のカリキュラムだから使えなくても正解なんだけれども」

「ごめんね真唯ちゃん私が浮遊魔法使えばよかった」

「こういう時逆なんだよね僕等」

「あら、そうなの?」

「本当は陽菜っちの方がああいう奴への対処方法沢山持ってるんです」

「そんなこと……ある、けど無いですっ体力的とかそういうのは全然だし」

「……もしかして浮遊魔法とか影縫魔法とか使えるの?」

「人並みには……戦闘するにはそれで足止めしないと当たらないので」


 陽菜はさらに落ち込みを見せる。だがそれはD組というとんでもないクラスで過ごしている弊害。門田も言ったように本来浮遊魔法は2年、足止めに最適な影縫魔法は3年で習う魔法。それ等をD組の大半は既に会得していて、一番多用しているのが試験の際、敵スライム等の足止めに使わねば当てることができない陽菜だった。


「え、それ凄い事よ?」

「そうでしょうか……」

「陽菜っち?」

「……私、皆みたいに運動神経良くないから……」

「……それは……」

「魔法対策課ってやっぱり運動神経も必要ですもんね……」

「……そうね。特に魔法対策課はあぁいう魔法を使った犯罪者に対処するから」

「ですよね……うん。わかっているんです。本当は」

「陽菜っち……」

「今日はありがとうございました。被害に合われた方、怪我してないと良いんですけれども」

「……そうね。2人には学校でお話を伺うわ。雪柊先生にもよろしく言っておいて」

「はいっ」


 その日はそこで解放された。気分がさらに落ち込む陽菜を真唯は励まそうとするが如何せん真唯はD組最高峰の戦闘能力と運動神経を持つ生徒。何を言っても陽菜の心には届かなかった。


 翌日、真唯は迷わず神哉を捕まえ、昨日合った事件と、落ち込む陽菜の話をした。


「とりあえず、犯人対処は本当に逆だね。でも藤森さんの事だからとっさに被害女性の着地に浮遊魔法かけたかもね。無意識だろうけれども」

「陽菜っちだって十分凄いのに……」

「とりあえず大体了解。対策課の人が来たら呼びに行くから」

「は~い」


 授業が始まる。担当する授業が無い神哉は学年主任室で思案していた。陽菜の様子がおかしいのは昨日の時点で気付いている。それでも相談に来るまで待っていようと思って居た。だが、その前に話を聞く必要が有りそうだった。


「雪柊先生、魔法対策課の方がいらっしゃっています」

「今行きます」


 そして滞りなく真唯と陽菜への目撃者聴取も終える。2人を教室に帰した後、神哉は南場と門田と対面した。


「今回は穏便な話で良かったです。総泉女学園の名を門田から聞いた時はまた何かあったのかと」

「と、心配していたので課長も連れてきてしまいました」

「門田君」

「っと失礼」

「僕も朝、鴻さんに聞いて驚きましたよ。あの子はトラブル吸引機みたいなところはありますが目撃者止まりしたのが驚きで」

「そう言えば雪柊先生。藤森さんの事なんですけれども」

「……自分もそろそろ話を聞く頃合いだと思って居ました。ですが、あの子は戦闘科が今の体制を続けるために必要な子」

「えぇ。雪柊先生なら判っていらっしゃると思って居ました。で、ですね。私の親友が話を聞いてこんなものを持ってきてくれたのですが」


 かたりと置かれたのは映像ディスク。そのタイトルを見た神哉は顔を上げた。


「これ」

「是非、藤森さんに見てほしくて」

「ありがとうございます。どうせなら1年全員が良いかな。迷っている子結構居るので」

「えぇ、よろしくお願いします」

「まぁいつも良いところを持っていかれていますからな。たまには大人の力も見せませんとな」

「ですね」


 和やかな談笑が終わり、南場と門田が去ると神哉はとりあえずとディスクを学年主任室の映像機器に繋いだ。再生された内容に笑みを零す。


 数日後、ロングホームルームに1年生、そして2年生も講堂に集められた。話を聞いた2年の学年主任、権藤に是非2年生にも見せてほしいと願われたからだった。


『今から見てもらうのは広域魔法防御課と言う県警本部に所属する課の紹介VTRです。見てもらえばわかると思うので、さっそく再生しますね』


 紹介もそこそこに神哉は再生を指示する。流れたのは総泉女学園が存在する県の警察マスコットから始まる紹介VTR。


「真唯、寝てない?大丈夫?」

「気になるから起きてる」

「そりゃよかった」


 真唯も起きて映像を見ている。お偉い方の挨拶は短めに、広域魔法防御課の説明に移る。


『広域魔法防御課は県内すべてで活動する課です。その特徴は魔法機動隊や各所轄に存在する魔法対策課が制圧、鎮圧を目標とするのとは対照的に広く魔法犯罪から市民を守ることに特化している所です』


 音声の説明と共に立てこもり犯の魔法攻撃から近隣住民を守るために障壁を張ったり、魔法事故の消火補助を行ったりする映像が流れる。その中には小柄な警察官も多く居て、陽菜は茫然とその映像を見上げていた。


『このように広域魔法防御課は各都道府県に存在しており』


 陽菜は昔から運動するのが苦手だった。何をするにもワンテンポズレる。そんな陽菜が総泉女学園中等部戦闘科を受験したのは単純に適性検査で戦闘科と割り振られたから以外他ならない。最初は自分が戦闘科でやって行けるわけがないと思って居た。それでも、少しとんでもないクラスに所属して、いつの間にかこのにぎやかすぎるクラスに馴染んでいて。いつの間にか高校まで来てしまっていた。


 だからこそ、陽菜にとってこの広域魔法防御課という課は初めて知る新たな職業でもあった。


『運動神経は関係なし。ちょっとの頭脳と魔法の腕さえあれば問題ありません。ただいま女性隊員募集中。是非進路選択に加えてくださいね』


 〆の言葉と共に映像が終わる。魔法省に所属している神哉にとっては勝手知ったる広域魔法防御課。少しの補足を入れようとマイクを手に取った。


『今見てもらった通り広域魔法防御課は各都道府県の警察本部に置かれている。地方公務員としてももちろん勤務できるけれどもこの課は殆どが国家公務員で占められている。ちょっとの頭脳って言うのはこの辺だね。国家公務員試験受からないと駄目だから。後は純粋に魔法の腕が試される世界だ。魔法戦闘科だけじゃなくて詠唱科、治癒科、基礎科、それに解析科の皆も将来の目標に据えて見ても良いんじゃないかと僕は思うよ』


 ロングホームルーム終了を知らせる鐘が鳴る。解散となった生徒達は思い思いに話をしながら教室に戻っていく。生徒達の後ろで見ていた衛理と司もまた席を立った。


「は~……警察の魔法課にあんなのあるんだな」

「かなり細分化しているからな。特に広域魔法防御課は大規模な犯罪の対処が多い」

「流石魔法省所属。勝手知ったるか」

「神哉が詳しい。自然と耳に入るものだ」

「そうかい。っと、G組の戦闘科授業だった」

「あのクラスはすぐオリジナルの魔法を放つからな。その内偶然にでも神代の魔法を放つのではないか?」

「ありえそうだから止めてくれ」


 衛理と司も次の授業の為に講堂を後にする。D組は教室に戻り魔法基礎学の授業準備に取り掛かっていた。


「魔法の腕だけってのも凄いわよね」

「でも国家公務員か……真唯は地頭で無理ね」

「それなんだよなぁ……地方公務員試験も頑張らなきゃいけないってのに」

「そもそも大学から違うところ行かないと。ほら、学年主任たちの出身校」

「あぁ」


 わいわいと映像の感想を言い合う生徒達の中にⅮ組の魔法基礎学を受け持つ神哉が入ってくる。当然神哉はこの時間を先ほどの映像感想で潰す気だった。どうせ2年のカリキュラム迄終わっているのだから。


「どうだった?広域魔法防御課は」

「あんなの合ったんだってビックリ」

「ね。やっぱり馴染みなのは魔法対策課だったから」

「あそこでやっていくには必須みたいな魔法があってね」


 パチンと神哉が魔法を展開する。それはおなじみとなって居る魔法防壁。


「そっか、守るなら防壁必要か」

「そういう事です。本来ならこれは3年の頭に習うのですが……D組だし、解禁しても良いかな」

「うぇぇっまた覚えること増えるの?」

「本来コレ一番覚えてほしいの鴻さんだよ?戦闘能力に比例するんだからコレの硬さ」

「なるほど。頑丈なのが出来そうですね」

「無理ぃぃっ」

「まぁでもこのクラス、規格外しか居ないから。誰が覚えても頑丈そうだ。衛理に言ってカリキュラムに組んでもらうよ」

「やったっ前々から学年主任の防壁便利そうだと思ってたんだっ」


 沸き立つクラス。そんな中陽菜は手を握りしめていた。


「……防壁……覚えれば、皆を守れる」


 自分でも出来ることがあるのかもしれない。ならば、やってみるしかない。そう思えるほど、陽菜は迷うことなくこのⅮ組の仲間だった。






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