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にぎやかなクラスの物語  作者: 颯待 彗
三学期~姫と真唯~
33/48

33話 演劇会の裏側で

 演劇会は近隣5つの学校合同で行われる。総泉女学園は渓愁高校の次、籤の結果大トリを務めるのが1年になったのも真唯の緊張をあおる要因になって居た。


「……緊張で死ぬ」

「ほら真唯。頑張って」

「鴻さん」


 声に振り返れば其処に居たのは清志。横には当然のように神哉も居て、司と衛理は人員整理に赴いていた。


「聞いたよ。主役だってね」

「は、はい……よりによって大トリなんですけど」

「まぁ籤の結果だからね……しかも籤引いたの神哉だろう?いい結果しか引かないよ」

「学年主任~っ」

「陽咲先生……ばらさないでくださいよ……」

「ごめんごめん。まぁ、家の高校も頑張るけど、鴻さん達も頑張って」

「ありがとうございます……」

「じゃあ案内しますね」

「ごめんね神哉。いつもいつも」

「陽咲先生の方向音痴は今更ですから」


 学年主任の2人が居なくなり、全生徒を収容すれば演劇会は始まる。




 開催校である総泉女学園には役割があった。教員たちは各々の武器を手に講堂の外に出る。


 其処に居たのはいくつかのテロリストが連合を組んだのかいつもより規模の多い一軍。それらを退け生徒達を守るのが総泉女学園の今回の役割になって居た。


「でもさ、衛理。コレ、舞台の時間は免除されるんだよ?」

「良いんだ」


 衛理はいつもの木刀を手にテロリストたちを見た。静かに迎え撃つため障壁は講堂を守る所までに縮小してある。故に爆発は起きない。


「見ていたら……泣きそうだからな」

「……そっか。うん、撮影はしているから3人で見ようね」

「そうだな。私達ならば問題ないだろう」

「そりゃありがたいねっ」


 そして、講堂の中に居る観客たちには一切悟らせずに戦闘は始まった。




 演目は進んでいく。渓愁高校2年の舞台が始まるころ、真唯達は講堂の2階部分にあるホールで最終練習を行っていた。


「それにしても。先生達見ないね」

「そうね。陽咲先生はさっき見たけど」

「だね」


 爽子と悠華。2人は今何が起きているかおおよその見当がついていた。だがそれを口には出さない。何故なら、目の前で特攻隊長は必死に頑張っている。


「えっと、ここが、こうで?」

「そうしたらこっち」

「?ん?」

「頑張って真唯ちゃん」


 真唯は夕乃と陽菜の指導を受け最後の調整に入っている。そんな彼女の頑張りを無駄にさせないためにきっとここに教師たちは居ないのだと。理解しているからこそ、口を閉ざす。


「さって。終わったら私も黒風先生に手合わせ頼もうっかな」

「それ良いわ」


 総泉女学園の出番が回ってくる。出番まで、あと少し。




 木刀で防魔法チョッキを斬り捨てる。衛理はあまりの数の多さに舌打ちした。総泉女学園の教員レベルは近隣魔法学校の中では高い方に入る。だが今回の襲撃は太陽の力の吸引力を差し引いても数が多い。少なくとも最終演目である真唯達の舞台が終わるまでに片付けなければならないが終わりが見えない。


「っ」

「衛理っ」


 雷の権能が敵を薙ぎ払う。先ほどから多方面に援軍として向かって居る神哉だった。


「大丈夫?」

「あぁ……あとどれぐらいだ」

「裏に30、こっちに60。司だけでも大丈夫そうだから置いてきた」

「そりゃ、そうだろうよ……今日はやけに張りきるな」

「だって陽咲先生に頑張りみてもらえるチャンスじゃん」

「あ~はいはい。主大好き学年主任様にとっては大チャンスでしたね」

「上で特訓してもらって大正解っそんなわけでっ行くよぉっ」


 軽い足音と共に敵陣に神哉は切り込んでいく。このまま任せても良いのかもしれない。だけれども。


「……そうだよな……」


 過ったのは今頃姫にそっくりな姿に変わっているであろう真唯の事。あの姿の真唯の元に敵を行かせたくない。勿論来てしまっても対処は出来るのだろう。それでも、行かせたくない、戦わせたくない。それは変わってしまった主へのほんの僅かに残っていた忠誠心。


「ぜってぇ此処で潰す」


 軋む身体を酷使して、衛理もまた敵陣に斬り込んでいく。表の敵は徐々に減っていった。


 その頃、裏手の敵数は15人にまで減っていた。其処に居るのはただ1人の教員。


「……鴻ではないが、多少暴れられるのを期待していたのだぞ?」


 司は剣も使わず敵を昏倒させていく。瞬きの間に敵は10人に減っていた。


「……確かに、甘くなったものだ」


 障壁の中の声を拾う。真唯達の劇は始まっていて、今まさに真唯の演技が行われている。その声から感じ取れる感情は必死、あるいは緊張。そんな真唯が居るからこそ、司は静かに敵を倒していく。


「あの努力を、無駄にはさせまい」


 冷徹無感情の魔王、史真。それでも彼は、彼女たちの為に戦っていた。




 舞台の幕が下りる。無事、真唯達は劇を終えることが出来た。拍手が起きる中真唯達は舞台から降りていく。


「し……死ぬかと思った」

「あんだけドンパチやってる真唯が死にそうになるってどんなよ」

「こんなんじゃない?」

「でも真唯ちゃんすっごいカッコいいお姫様だったよっ」

「それ良いのかなぁ?」

「良いんじゃない?今時可愛いお姫様よりカッコいいお姫様の方が需要あるわよ」

「褒められてる?」

「褒めているわよ」


 袖にはけた真唯達はそのままキャットウォークを通り先ほどまで練習をしていたホールに戻っていく。なおそこから本来見えるのは外の戦闘なのだが神哉と司の手によって認識阻害魔法が敷かれている結果、キャットウォークから見える景色は普段と変わらない学園の外だった。


「ほ~ら。投票タイムの間に撮影会しちゃいましょうよ」

「そういや撮影会って何するの?」

「仮想太陽のお姫様ごっこ」

「それセンセーへの嫌がらせじゃね?」

「想像するのは自由でしょ」


 今まで、D組の誰もが真唯に似たお姫様という存在を正しく想像できていなかった。そこに降って湧いた劇という仮想現実。嬉々として真唯を姫役に祭り上げ、髪の長さ以外同じというかつて魔法世界で衛理が言っていたことを照らし合わせて故意に疑似太陽の姫を作り上げていた。


「しょうがないじゃない。なんか私達だけ太陽のお姫様の想像が出来ていないのがなんか嫌なの」

「そりゃわかる。僕も想像つかない」

「だから気分だけでも味わっておきたいのよ」

「なるほど……じゃあしょうがない?のか?な?」

「じゃあ真唯。ウィッグこっちね」

「……長くなった」

「六嘉さんと六陽さんを参考にもう少しだけ長くしてみました」

「アレは長すぎだよ」


 かの双子女王の髪は立ってギリギリ床に付くかつかないかの超が付くほどのロングヘア。いま真唯の手にあるウィッグは腰まであるウィッグだった。


「休憩挟むから時間あるけど時間なし。さっさと撮っちゃうわよ」

「は~い」


 ウィッグをかぶり、調整しながら真唯は鏡の中を見た。そこには、まだ太陽が人間界以外に失われていた頃、魔法界に殴り込みをかけて、六嘉、六陽の罠にはまり、射かけられた時に幻のように見た彼女が居た。自分はもう失われてしまうから、どうか従者を泣かせないでくれと願った彼女。あの後鏡を見ても似ているとは納得できなかったがこうしてメイクも施され、長い髪になればなるほど自分でもそうであると思うほど彼女と似ていた。


「……それにしてはセンセーの反応薄いんだよなぁ」


 真唯は知らない。進行形で衛理が必死に真唯と姫を同一視しないよう振舞っていることを。それを知っているのは司と神哉だけ。彼女たちの前では決して見せない衛理の意地だった。


「真唯~」

「うん、今行くっ」


 そしてD組だけが楽しい撮影会が始まる。彼女たちは知らない。太陽の姫の素が所作以外ほとんど真唯と同じであることを。故に深窓の姫君を目指し撮影会は行われていった。




 どさりと衛理は座りこむ。最後の1人を倒し、魔法対策課が駆け付けたところで気力が尽きた。他の教師たちも過度の疲労で膝をついている。


「……っ……は……くっそ」

「だ、大丈夫ですか黒風先生」

「俺は何とか……早川先生こそ」

「詠唱科にこの人数は酷でした……」

「戦闘科、俺と内藤先生、竹内先生で4割ですからね……」

「他先生方が総出で1割……未満ですね」

「で、残りが」


 1年詠唱科担任の早川と衛理は前を見る。其処に居たのは元気に魔法対策課の南場課長に話しかける神哉と、無表情でテロリストを集める司の姿。実質6割以上はこの2人が刈り取っていた。


「……雪柊先生はあの細さで無尽蔵ですね」

「あれでたまに戦闘科の方に混ざりますからね」

「他の学年主任、大林先生と権藤先生もへとへとなのに」

「神哉を基準にしない方が良いですよ。アレは別格と言う奴ですから」

「黒風先生だって座りこんではいますけど4割の実質3割は黒風先生でしょうに」

「まぁ。あのD組とあの2人を見てれば自然とね……でも久しぶりに鴻に獲物譲らなくて良い戦闘だったので楽と言えば楽でしたけど。アイツ薙ぎ払うと拗ねて長い」

「鴻さんらしいなぁ……そう言えば劇、見なくて良かったんですか?」

「見ていたら間に合わなかったでしょうに。ま、録画を見る予定なので大丈夫です」

「そうですよね……」

「はいはい。雑談はそこまで」


 ふわりと温かさが衛理と早川を包む。振り返れば其処に居たのは1年治癒科担任の佐藤。治癒回復魔法を掛けられれば衛理はすんなりと立ち上がった。


「流石、1年治癒科」

「今ので立てるまで回復する黒風先生が一番強いのですがね」

「えぇその通り。ですが黒風先生は早急に講堂に戻る必要があるかと。あまり長きに不在を続けるとあの戦闘科が怪しみます」

「大埜と木原辺りは察してそうですが、まぁ鴻にバレたら煩そうだ。行ってきます」


 障壁をロック解除し、中に入る。講堂1階部分のドアを開ければちょうど結果発表の時間だった。


『優勝は……総泉女学園1年チームっ』


 歓声が、拍手が沸き起こる。総監督の夕乃と、何故か本番で使ったウィッグよりさらに長いウィッグを被った真唯が飛び跳ね喜びを表している。


「衛理」

「陽咲先生。どうでした家の奴等」

「カッコいいお姫様って言うのもアリだとは思ったよ」

「そりゃ重畳」

「……外は?」


 清志は教員の為外で起きていることも知っている。それでも終わったことと衛理は外を示した。


「神哉と司が後片付け中です……時に、鴻のウィッグ、劇中あの長さでしたか?」

「ううん?背中ぐらいまでの。結果発表の舞台に出た時はアレだった」

「……あいつら鴻使って遊んでるなありゃ」

「でも驚いた。ウィッグとは言え髪の長さだけであんなにもアエトス様のようになるんだね」

「陽咲先生は……そっか。小さい頃の姫しか知らないんでしたっけ」

「小さいって言っても人間年齢で言うところの小学校低学年ぐらい?」

「どうです?成長後の姫風の鴻は」

「普段の鴻さんも、あの鴻さんも、可愛らしいよね」

「普段の方を可愛いと言えるのは神哉と陽咲先生ぐらいのものですよ」

「そうかな?」

「そうです」


 舞台上の真唯を衛理は見つめる。喜びに沸く総泉女学園1年組の中心で真唯は笑っている。あの笑顔の為ならば、テロリストに向っていっただけのことはあった。


 ガチャリと神哉と司が中に入ってくる。それが合図。会は終わり、観客たちが出口へ向かう流れに逆らって衛理と神哉、司は舞台に近付いていった。その姿に気付いた真唯が舞台上から衛理たちに手を振る。


「鴻」

「センセーっ勝ったよっフルコースっ」

「ちょうどお前用に司の調整も終わったところだ。ご褒美はきちんとやらないとな」

「いやっほぉっ」

「ほら真唯、着替えないと」

「わかってるっ」

「そういや鴻さん、髪どうしたの?長くしてる」

「遊んでたら時間になってそのまま来ちゃった」

「んじゃ、センセー達また後でっ」


 パタパタと舞台袖にはけていく真唯達。観客が居なくなった最前列に衛理は座りこんだ。神哉と司もその脇に並ぶ。


「……おい誰だ姫の髪の長さⅮ組にリークした奴」

「僕じゃない」

「私でもないな」

「……陽咲先生でもないだろうから、偶然か?もしくは双子女王、あるいは冥王」

「後者はなさそうだけれども、そうだね……果てしなく懐かしい」

「そうだな……まぁ、今の鴻ではあの髪の長さは絡まりそうだ」

「かもね」

「あの長さで戦闘が出来てこそ、姫だろうな」


 本当の彼女を知る3人は笑い合う。講堂には誰も人が居なくなっていた。




 ふと、真唯は誰かに見られている気配に振り返った。だがそこにあるのは無人の舞台だけ。


「真唯?」

「ん、何でもない」


 気のせいだろうと真唯は思った。それよりも早くウィッグを脱ぎたかった。太陽の姫がこの髪の長さで動き回れたことを真唯は感心していた。動いただけで髪が絡まる。壊さないうちに脱いでしまいたくて、真唯は割り当てられた楽屋階に向っていった。



 ゆらゆらとその影は揺れる。笑うように揺れる。


「みぃつけたぁ」


 誰にも悟られず影は消える。そこには何も残らなかった。






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