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にぎやかなクラスの物語  作者: 颯待 彗
二学期~神様と『魔王』~
30/48

30話 彼女と彼の違い

 彼はその時まで何処にでもいる普通過ぎる勤め人だった。


 5年前の熱病からの魔法取得事件、彼に与えられた力はささやかな火の力。それで良いのだと、その程度で良いのだと彼自身も思っていた。


 だが世界は突如彼に生命創造という膨大な力を与えた。


 最初、彼は思ったと言う。選ばれたと。特別な力を手に入れた自分は選ばれたのだと。


 しかし、周囲はその力を見ると徐々に彼から離れていった。会社の同僚たち、上司、部下、近所の住人、そして、妻と子供すらも生命創造の力を厭い離れていった。


 だから思ったのだ。こんな力なくなってしまえば良いと。


 そんな彼の願いも虚しく生命創造の力は次々と不思議な事態を彼にもたらしていく。前世の自分の姿であるというアイオエル。死ぬ前と死んだ後も見た彼はあまりの情報量に3日3晩魘されたという。


 そうして彼は思い至った。現在も在位している最高神と魔王は難しくても、百日間の最高神の魂ならば使えるのではないか。その魂で、その最高神の力で、自分の力を無くしてしまえるのではないか。


 だがその道のりは果てしない。どうやって魂を探し出すか、どうやって幽界に行くか、どうやって階層主の権能を手に入れるか。思い当たったのはアイオエルの死後起こった天上界暗殺事件、そして人間界で夏に巻き起こった太陽消失未遂事件。彼は繋げて考えた。そして探した。この世界に生まれ変わっているであろう天上界の姫君の魂を。その為に生命創造の力を駆使して魔法テロリストを幾つか組織ごと取り込み、組織と成し、『幽暗』として太陽の姫君を探し出した。


 その太陽の姫の生まれ変わりであろう真唯を探し出したのと、清晃の魂の欠片を持った兄の靖也を見つけたのは同時だった。太陽の、炎の力を持て余しかけていた靖也に声を掛け、妹の力を無くしてしまおうと囁けばすぐに靖也は協力した。


「そうして……貴女に辿り着いたのだ」


 総泉女学園の校庭に、鵜木の独白が落ちる。真唯はしゃがんだままそれを聞いていて、周りもまた聞いていることしかできなかった。


「埒外の太陽の力、その、力を持っている、貴女も、疎まれていると思って、いた。だが、貴女は、笑っていた、多くの仲間たちと、共に……いったい、何が、違うのだろうか?」


 鵜木の問いかけに、真唯は立ち上がり伸びをする。視線の先には中学の校舎が存在している。


「ちょっとだけ僕の話も聞いてよ。実はさ、小6の時、鵜木さんと同じ状況だったんだよね僕」

「そう、なのか?」

「うん。魔法使えるようになって、そんな中、炎の力だよ?先生もクラスメートも遠巻き。だから兄ちゃんは僕を魔法戦闘科が整備されてすぐだったこの総泉女学園に入れてくれたんだ。頭良くないから奨学金だって使えないのに、それでもってね」


 思い出すのは中学の入学式。学年主任は現在既に慣れ親しんで久しいが当時は新任教師だった神哉で、クラス担任は高校進学と同時に定年退職をしてしまった、それでも実技の腕は一流だった老教師。新しい環境になっても真唯は怖かった。あの炎を見せたならばみな怖がってしまうのではないかと。


 故に最初、真唯はクラスの端で静かに過ごす生徒だった。にぎやかさとは無縁、それで良いのだと思っていた。


 だがその日は訪れた。中学のグラウンドで魔法特訓をしていた1年生の授業に魔法テロリストが襲撃を掛けてきた。逃げるしかない生徒達、守るべく魔法を準備する教師達。だがそれより先にテロリストの手が真唯と同じようにクラスの端で大人しくしていた生徒に伸びた瞬間、真唯の押さえつけていた正義感と炎の力が爆発した。


「その子に、触るなぁぁぁっ」


 手加減を知らなかった当時。真唯は推進で使った分以外の炎の力を思いきりテロリストにぶつけていた。結果、防刃防弾防魔法効果が付与されたテロリストのベストを溶かし、衣服迄焦がしてグラウンドの端まで吹き飛ばした。当時はまだそこまで力が強くなかった真唯だが今その勢いで蹴り飛ばしたならば文字通り塵も残らない。そうしてクラスメートを逃がした真唯は開き直った。怖がるなら怖がればいい。自分の力はこれなのだから。その想いで、真唯は炎の力を背後に展開させた。


「燃やされたい奴から、かかってこいっ」


 あいにく当時の魔法テロリストたちにそこまでの度胸は無く、その時点で全員が失神。教師たちの手で運ばれる中、真唯は焦げたグラウンドを見ながらやってしまったと少しだけ後悔に苛まれていた。


 それを打ち破ったのはいくつもの足音。


「ちょ、鴻さん凄いじゃないっ何あの力っ」


 それは爽子と初めて話した言葉。


「鴻ちゃん結構熱血系?あ、だから火があの威力?」


 当時も学級委員長だった悠華の言葉。


「鴻さん、あの、助けてくれてありがとう……すごく、カッコよかったっ」


 自分の手で助けた陽菜の言葉。


「てかアレ火の力で治めて良いの?」

「わからん。炎レベルだけど鴻さんぐらいしか出せなさそうな予感」

「凄いったった1人の炎使いっ」

「あの威力なら無理していたんじゃない?」

「実力テストとか大変そうだね逆に」


 クラスメート達の言葉。


 泣きそうになった。自分は此処に居ていいと言われたような気がして。それでも言葉を紡いでいた。


「その……さ……怖くないの?」


 震えそうになる言葉。その言葉に彼女たちは笑って答えた。


「全然っ」

「魔法戦闘科行くならあれ位出来なきゃって事っしょ」

「いつか乗り越えてみせるから覚悟してね鴻さんっ」


 わいわいと真唯を囲むクラスメート達。その姿に、ようやく真唯は笑みを浮かべた。


「……真唯で良いよ」


 そうしてにぎやかすぎる戦闘科の中心へ真唯は躍り出た。事前に真唯から伝えてあった老教師はそのにぎやかさに眩しいものを見るように接し、全部知っていた学年主任は安堵の息を吐いた。


 当時30人居た戦闘科D組だが中学から高校に上がる際5人減っている。それぞれ家の都合で各地へ転校と相成った生徒達、時折真唯の元にも連絡が着て、自分たちの授業レベルが高すぎたことを今更ながらに気付き、中2の時に行い始めた的当てが苦行と愚痴をこぼす程度には未だに仲が良かった。


 そして、今居る25名、真唯を除けば24人。全員が真唯の力をそうであると認識し、当然の物と扱っていた。


 くるりと、真唯は鵜木の目の前で視線を高校校舎へ向ける。


「だからさ、鵜木さんと僕の違いって、この力を認めてくれる誰かが居るか居ないかだったんだと思うよ」

「認めて、くれる」

「うん。認めるって言うか、受け入れてくれる、受け止めてくれる人。僕の場合は最悪学年主任だけだったとしても大丈夫だったけどね」

「……君の力の為に居た僕だからね」

「今は知ってる。でもさ、僕だって鵜木さんと同じだと思う。あのまま誰にも炎の力を、太陽の力を受け止めてもらえなかったら……誰かが居なかったらきっと壊れていた」


 鵜木は顔を上げて真唯を見る。彼を見下ろす真唯の瞳は真剣だった。


「壊れて、きっと誰彼構わず燃やす、それこそテロリストになっていたかもしれない」

「……」

「でも、学年主任だけじゃない、クラスの皆が、僕を認めてくれた、受け止めてくれた。だから此処に居られる。みんなの中で笑って居られる……きっと、それが鵜木さんと僕の違いだよ」

「そう……か……そう……なのだな……」


 ぱたりと地面を水滴が濡らした。静かに涙する鵜木。それを見た神哉と司は校庭に張っていた人避けの結界を解除した。神代の人避けの結界、人間界では誰にも破ることのできないその膜が解除されると教師たちのざわめきと、警察の魔法対策課の駆け付ける音が響く。既に周辺で暴れていたテロリストたちは軒並み捕縛されているのか聞こえていなかったサイレンの音も周囲に響き渡っていた。


「雪柊さんっ」

「南場課長。あそこで座っている黒いのが『幽暗』の頭目、『魔王』鵜木です。無力化には成功しています」

「本当に貴方方は……まぁ良いでしょう」

「……あぁ……私こそ『魔王』鵜木……頭目でなくなれば、ただの鵜木だ……」


 魔法対策課の警察官が鵜木を取り囲む。D組と教員たちは離れたところでそれを見ていた。


「……あのっ俺も『幽暗』に協力していました」

「兄ちゃん?!」


 靖也は立ち去ろうとした警察官たちに名乗りを上げる。振り返って何かを言おうとした鵜木も、驚いて後ろから駆け寄る真唯も、靖也は振り切りその場に立つ。


「真唯、ケジメって大事だと思うんだ」

「でも……」

「……わかりました。署までご同行を願えますか?」

「はい」


 鵜木のように手錠はかけられず、警察官に伴われて靖也は連行される。その背に、真唯は声を掛けた。


「兄ちゃんっお墓さ、綺麗にしておいたから、帰ってきたらお墓参り行こうねっ」


 その声に、靖也は一度だけ振り返り、笑みを浮かべた。


「うん。一緒に行こうね」


 斯くして、『幽暗』の主力と構成員の大半は逮捕された。警察のざわめきと入れ替わりで教員たちや生徒達のざわめきが押し寄せてくる。


「雪柊先生、黒治先生、黒風先生っ」

「里旗さん。学校側の被害は?」

「怪我人が少し居ますが1年の治癒科で対処が可能な範囲です」

「そうか……」

「このクラスが居なくてもその程度の被害なら十分だと思うよ。神哉、俺は学校戻るから。何かあれば連絡を」

「わかりました」

「とりあえずお疲れ、真唯……真唯?」


 ふらりと、その身体は傾ぐ。誰よりも早く反応したのは衛理。寸でのところで受け止め、衛理は素早く真唯の状態を確認した。自分の学校に戻ろうとした清志も検査魔法で確認する。


「大丈夫、過労だね」

「近隣5件の襲撃排除、鵜木との第1戦、兄貴を庇っての怪我、そこから復帰戦と……そりゃいくら鴻でも疲れるな」

「とりあえず保健室に」

「背負おう」

「良いのか?司」

「講師に出来ることなど限られているからな。神哉は学年主任の任ともう1つの任で忙しいだろうからな」

「保健室迄は行くよ。擦り傷しか怪我が無いクラス担任も仕事が無い」

「う……と、とりあえず鴻さんはお願い」

「任された」

「私らはどうします?」

「怪我が無いなら教室に。怪我があるなら……里旗。1年以外の治癒科で手透きは?」

「2年治癒科が。全員教室で待機して居なさい。そちらに治癒科を向かわせます」

「は~い」

「黒治先生、真唯お願いします」

「あぁ」


 司の背に背負われ、気休めでもと衛理のジャージが掛けられた真唯は暖かい背中で穏やかに眠りについていた。




 大規模襲撃事件から5日。近隣すべての学校がそうであるように、総泉女学園も終業式を迎えていた。その朝、元気よく扉を開く姿があった。


「おはようっ」

「真唯。調子よさそうじゃない」

「間休みはずっと寝てたけどね。黒治先生のご飯マジ美味い」

「なるほど、黒治先生のお世話になってたわけか」

「でもそう言えばさ、黒治先生って2学期限定の臨時講師って話聞いたんだよね」

「あ、私もその話聞いたわ」

「え~そりゃ黒風先生でも実技は十分だろうけど黒治先生も居て欲しい」

「心配することは無いぞ?」


 開いていた扉から衛理が入ってくる。まもなくホームルームのチャイムが鳴る頃。衛理はいつも通り時間より少し早く教室に辿り着いていた。


「というと?」

「本来は『幽暗』対策で司は学園に赴任したんだが、まぁ偉そうな部分を抜けば勤務態度は問題なし、加えてお前等みたいなのから上級生に至るまで授業評判も良し。あと本人の希望もあって臨時講師から正規講師に変更になったよ」

「じゃあ来学期も黒治先生の授業受けられるんだ」

「まだ黒治先生と組み手やってないもんっ楽しみっ」

「そっちは待て。今、神哉と俺とあと陽咲先生加えてお前と手合わせの組み手になるべくランクを落としてる最中だ」

「総がかりでってやっぱりすごい」


 チャイムが鳴る。生徒達がぞろぞろと講堂に入ってくる姿を神哉の横で司は見ていた。


「でもさ、引き込んだ僕が言うのもなんだけど本当に良かったの?」

「構わない。魔法省の仕事は退屈だったからな。それよりも面白いという感情で溢れているあのクラスを観察する方が有意義に過ごせるだろうからな」

「……そっか……」

「で?人参を切ることが出来るようになったのか?今晩は我が家で清志を加えてお疲れ様会とやらを執り行うのだろう」

「き……きれる……はず」

「こりゃ今日の調理班からも神哉は外しだな」


 愉快な会話をする学年主任と講師の元に生徒達を座らせた衛理が合流する。お疲れ様会は衛理と清志の発案でもあった。


「衛理ぃ」

「鍋の具材準備程度出来るだろう」

「そう言う不器用さんの為に今は鍋キットていうもう切れてるお野菜とか乗ったセットが売られれるんですぅっ」

「アレは1人鍋に対応してないだろ、確か」

「どうせ神哉の事だ、二日連続で鍋なのだろう」

「うぐっ」

「……さて、終業式始まるか」

「あとで覚えててよ衛理も司もっ」


 同じ頃、渓愁高校でも終業式は執り行われていた。あの襲撃事件で大きなけがをした生徒は誰も居ない。神哉の張った結界はただしく生徒達を守った。


「今日のお疲れ様会楽しみだな」


 そして、近隣すべての学校の終業式は恙なく終了した、生徒達は冬休みへの楽しみと、短くとも存在する課題への憂鬱を抱え、一斉に解き放たれる。そんな中を真唯は弾むように走って最寄り駅へ向かって居た。乗る電車は此処数か月で慣れ親しんだ方向とは逆。全ては明日に回すつもりだった。


 実家への道のりを進む。そして、勢いのまま真唯は実家の玄関を開けた。


「ただいまっ兄ちゃん」


 玄関まで漂ってくる出汁の香り。肉じゃがが入った鍋を片手に、靖也は真唯を出迎えた。


「おかえり、真唯」


 中へ駆け込む真唯。その手にあるカバンの中には総合A評価の通知表が入っていた。





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