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にぎやかなクラスの物語  作者: 颯待 彗
二学期~神様と『魔王』~
29/48

29話 あの日まで

 兄妹の両親は妹が生まれてもなお新婚夫婦と呼ばれるほど仲は良好だった。万年新婚夫婦と揶揄されても両親は笑っていたし、兄にも妹にも優しく接していた。


 両親は剣道場を営んでいて、他にいくつもの事業を展開している起業家と言う存在で、そのすべてで生活を賄っていた。一番力を入れていたのはやはり剣道場で、何人もの門下生が常に出入りする人気の剣道場だった。兄はそんな父に剣道を習い、妹は母から護身術を習っていた。


 彼等は幸せだったのだ。


 あの、秋雨の日が来るまでは。


 世を儚んだ青年の凶刃は全てを奪い去った。優しかった母は妹を守るために凶刃に倒れた。


 そして、兄妹よりも母を取ってしまった父もまた、母の横で命を絶った。


 仲が良かったのだ。仲が良すぎたのだ。そう納得しなければ兄は納得がいかなかった。


 何故なら兄妹は突然世間に放り出されたのだから。


 多額の遺産は遺してくれた。兄の聡明な頭脳をもってすれば運営できる事業も存在していた、だが、事業はすべて遺産目当ての遠縁の親戚たちに奪われてしまった。必死に遺産だけは死守して、兄の頭脳をフル活用して特許の取得という形で奪われない資産を作り出し、何とか妹も兄も学校に通えるだけの金額を捻出している。


 何も知らない大人たちはひそひそと陰口を叩く。あの夫婦は無責任にも幼い兄妹を捨てたのだと。実際はそうなのかもしれない。本当はそうだったのかもしれない。でも、妹は言うのだ、両親は仲が良かったのだと。だから、自分もそう言うことにしている。両親は仲が良すぎて、お互いを取ってしまっただけなのだと。


 何もかもが辛かった。時折投げ出して、両親の後を追おうと考えなかったと言えば嘘になる。


 だが、兄の傍にはいつも妹が居た。大好きな、大切な、ちょっとやんちゃで、でも、誰よりも優しい妹が。


 故に兄は考えていた。妹の為に出来ることを。ずっと、魔法という力が得られてからはより熱心に。


 何故なら、妹に与えられた魔法の力は、人間界では妹しか使えないとんでもない力だったのだから。


 兄は思考する。妹の為に出来ることは。何なのかを。




 大規模襲撃の2日前、真唯は両親の墓に向かって居た。護衛に付いたのは神哉。墓地という物に縁のなかった神哉は霊園をキョロキョロと見ていたが、真唯は迷わずその墓所へ向かって居た。


「到着っ」

「……お墓……で良いんだよね?」


 世間一般の墓石イメージが縦型だがその墓石は横に広く、他の墓地から見て若干小型に見えていた。それに縦型墓石に付随する卒塔婆も見当たらない。一般的なイメージの墓石しか知らない神哉は不思議そうにその墓所を見ていた。


「なんか卒塔婆とかある方は仏教式らしいよ。家は神道式だからこの形。ってやっぱり榊枯れてるぅっ」

「榊……へぇ……司に聞いてはいたけれども捧げる物すら違うとはね」

「最高神の前で神道式やって平気?」

「信じるモノは自由で良いんじゃないかな?若干宗教観が曖昧なこの国だからこそ神も魔王も降り立てる」

「それもそうか。兄ちゃん言ってたもん。日本人はクリスマスの後に大晦日やって初詣に行った後節分やってバレンタインでひな祭りだって」

「今のだけで3つほど宗教混じっているね」

「だよね。ま、僕もこうして父さんと母さんの為に榊変えてるけれどもそこまでじゃないし」


 言いながら真唯は馴れた手つきで榊を変えていく。花も新しくし、古い榊と花は塩を撒き紙に包んでゴミ箱へ入れる。蝋燭を付け、完了と一息ついた。


「……ねぇ学年主任……家の事情、聞いてるの学年主任だけだけどさ……兄ちゃん追い詰めたの、僕なのかな」

「……どうして、そう思ったのかな?」

「だって、兄ちゃん言ってたんだもん。この力が無ければって……僕は炎の、太陽の力は気に入ってるし、大切な預かりものだと思っている。でも、兄ちゃんにとっては……邪魔、だったのかなって」

「……鴻さん」


 ポンっと真唯の頭に手が乗る。ぽふぽふと撫でる学年主任の手は中学の頃から変わらず優しい。真唯はこの手が、兄の手とは違う優しい手が大好きだった。


「お兄さんの心境は僕にはわからない。でもさ、鴻さんの大事なものを蔑ろにするお兄さんじゃない筈だよ」

「学年主任……」

「そりゃご両親の代わりに必死に生きてきたお兄さんにとっては鴻さんの力は驚くことかもしれない。普通であればと願うかもしれない。それでも、鴻さんが大事にしていると解れば、お兄さんだって納得してくれるよ」

「……そう……かな」

「きっとそうだよ……」

「へへっ……学年主任って偶には良いこと言うよね」

「偶にはって何さ……」

「普段は魔王に食育されてる多少残念な学年主任」

「ぐうの音もでない」


 2人は笑う。蝋燭の炎も風も無いのに揺らいでいた。




 目が開く。長らく気を失っていた気がした。温かい力に顔を上げれば、靖也は3重に展開された治癒魔法が発動される陣の中に居た。


「……あれ……?」

「気が付いたか」


 鵜木が、自分が『魔王』と呼んでいた存在が魔王と呼んだ青年が声を掛けてくる。見れば雷の力を使った3人の教師たちが一様に靖也を治癒魔法で包んでいる。


「とりあえず靖也君は妹さんを放してあげようか。治癒は続けるけど、普通に苦しそうだ」


 言われて、靖也は誰かを抱きしめていることに気付く。その腕の中には妹が居た。破天荒で無茶苦茶で、でも芯の通った事しかしない、父親にそっくりに育った、妹の真唯が。


 そこで靖也は今まで起きた事態を理解した。『魔王』鵜木の本当の目的、そして殺されそうになった事、それを止めようとしてくれた真唯。


「っ真唯は」

「大丈夫……元最高神×2と現役最高神の治癒魔法なんてレアですよレア」

「ったく……俺のトラウマは再びになるところだったぞ」


 真唯が怪我をした直後、真唯を抱きしめた靖也を神哉はとっさに障壁の内側まで移動させた。そして障壁の内側で、清志主体で治癒魔法を掛け始めた。その間の鵜木はトラウマ再現再びの衛理と、D組クラスメートが睨みを利かせていた。


「致命傷じゃなければ治せるね」

「逆に致命傷は無理だ。それこそ生命創造の範疇になる」

「OK。致命傷にならなければ良いわけね」

「無茶したらお前等も食育コースご招待するぞ」

「何それ」

「今は神哉用」

「学年主任……黒風先生はともかく、黒治先生に食育されたらアウトじゃ」

「なんでばらすのさ衛理ぃっ」

「こいつらが殺気立ちすぎだからな。なごませておかないと……塵も残らない」


 衛理の視線の先、鵜木はふらつきながら、時折言葉にもならない言葉を発し、ただ其処に居た。其処に『魔王』の姿はない。あるのは、目的を見失った青年の姿のみ。


「……あの方……あの人は何故、貴方に動揺したんですか」

「彼が探していた先代最高神の魂が今は僕の魂になっているから……かな?」

「……じゃあ、なんで俺を殺そうとしたんですか?魂が欲しいのは貴方で」

「ちょっと複雑なんだけどね。靖也さん。もしかして君、水の魔法以外に雷の魔法も使えるんじゃないかな?」


 言われて靖也は目を見開いた。だってそれは誰にも言っていない事。ひたすらに隠し続けた事実。


「……なんで……それを」

「え、属性2つ持ち?」

「在り得るの学年主任」

「在り得てしまうのが現状でね。その雷の力は、先代最高神の魂が転生する際欠けた欠片がくっ付いている証なんだ」

「……欠片……」

「そう。その欠片を魂の形で使おうとした。それこそ鵜木が君を殺そうとした理由だよ」


 妹を支える手に力が入る。そんなものの為に彼は自分を殺そうとしたのか。そんなものの為に、妹を傷つけたのか。もはや靖也に鵜木への尊敬の念は無い。あるのは怒りのみ。


「……俺の、この力は真唯の為になるんだと思っていたんです」

「鴻さん……妹さんの?」

「人類未踏の炎の力。そんなものを抱えた真唯に何かできると、属性を2つ持っていれば……でも、この属性が真唯を傷つけるならば……この力は必要ない」


 靖也の瞳がまっすぐ先代最高神と名乗った青年へ向く。その瞳を清志は穏やかに見ていた。彼にとって、靖也もまた学生だった。学生ならば清志にとってそれは守るべきもの。そんな優しさがまた清晃なのだと神哉は思いながら彼らを見ていた。


「貴方に返します。この力があれば、あの人を、鵜木を止められるんでしょう?」

「善処はするよ。それでも、構わないなら」

「構いません。真唯には、頼れる仲間も居るみたいですし」


 振りかえるD組メンツ、そして鵜木への睨みを怠らない衛理。真唯の仲間たちを見ながら靖也はようやく笑った。


「……神哉、出来るね」

「もちろん」


 最高神の槍が地面を叩く。現れたのは複雑な文様の魔法陣。神代の魔法を初めて見た靖也は息を呑んだ。同時に、彼らは本当に最高神や魔王なのだと理解した。特に真唯が中学の時に出会った学年主任がこうして神代の魔法を簡単に行使する最高神であることは驚きを隠しきれなかった。


「……移れ、力よ、あるべき、場所へ」


 詠唱と共に靖也から光る力が抜けだす。それは迷わず清志に吸い込まれていった。胸へと消えた力に手を当てた清志は笑みを浮かべた。


「……ありがとう」

「え?」

「この力を大事にしていてくれたのが分かる……だから、ありがとう」

「……俺は……真唯の為に」

「それでも、だよ」

「……はい」

「さて……衛理。鵜木の様子は?」

「錯乱したままだな……あのまま警察の魔法対策課に引き渡すか?」

「多少無力化しないと危ないよ」

「同感だ」


 治療を清志に任せ、神哉と司も前線に立つ。ブツブツと何かをつぶやいていた鵜木だったが、突如動きを止めた。


「そうだ。そうだ、そうだっ今は人、今は人っ最高神の魂を、魔王の魂を使ってくれるっ」


 途端に先ほどまでグラウンドを埋め尽くしていた人造人形が前の倍現れる。主力の真唯が居ない状況だがD組は怯まない。むしろ真唯が居ないフォーメーションを展開し始めた。


「真唯が居なくったってD組甘く見ちゃいけないわよっ」

「その通りっ」

「ったく、元気が有り余ってる生徒だなぁっ」


 そこに衛理、神哉、司も参戦する。治療を続ける清志の護衛はD組の後衛組。その中でも司令塔両翼が真唯と靖也、清志の元に向かった。


「ったく、手間のかかるエースだことっ」

「真唯だから仕方ないんじゃないかな」

「一理あるっ」


 次々と人造人形は薙ぎ払われていく。だが鵜木は次々と敵を生成し続けていった。まるで、ここで力尽きても構わないという、特攻をかけているかのように。


「そうだ、太陽、太陽の力も、使って、全部、使えばっ」

「させるかぁっ」


 衛理が斬りかかる。だがその一撃は間に入った泥人形に阻まれる。神哉の雷撃も、司の一撃もすべて人造人形が阻んでいく。


「神哉っ道開けてっ」

「前衛退避っ」


 先ほどよりも鋭い雷鳴が、鵜木を狙う。それもまた泥人形に阻まれたが、その力は神哉の力と遜色ないものだった。その力に、その威力に、神哉は何度目か解らない程涙腺を緩ませた。


「掩護するっそれしかできない俺だけれどもっ」

「っ……十分ですっ」

「隣の学校の先生に良いところ取られるD組じゃないですよっ」

「前線っ弓の援護入る前提で動いてっ」


 D組の前衛部隊、そして担任、講師、学年主任の猛攻を数多の人造人形を使い鵜木は防いでいく。特攻の覚悟で生み出された人造人形は時間を追うごとに数を増やしていく。


「やっば……学年主任っ後衛下がり始めたっ」

「流石にっこの数じゃねっ」


 後衛が押され始める。もちろん後衛に居るD組メンツも戦えないわけでは無い。だが前衛部隊に比べると些か劣るところもある。劣らないのは司令塔である爽子と悠華。光魔法と闇魔法の使い手となった2名は後衛部隊の援護へ向かう。このために彼女たちは魔法世界に行っていた。誰よりも早く新しい属性魔法を使えるようになりたくて、その大本の使い手である六嘉、六陽に教えを請うていた。


「って言ったってねぇっ」

「流石に数がっ」


 あまりの攻勢に、1歩、後衛組が後退った時だった。


 その瞬間、炎が舞った。誰も焼かない炎は正しく人造人形だけを焼いていく。それは相性が悪い筈の泥人形や水人形であっても例外ではない。もれなく、その炎は文字通り敵を一掃した。


「ん。お待たせっ」


 何も居なくなった戦場、そこに降り立ったのは怪我が綺麗に完治した真唯。最高神の治癒術式だからか服の破れも直っている。いつも通りの真唯の笑顔に戦闘部隊は息を吐いた。


「なに、なん、なんだ」

「……とりあえず」


 タンッと一気に距離を詰める。鵜木は創造の力で水人形を出すが一瞬で蒸発させられ盾にもならない。


「兄ちゃん狙った分だけは……落とし前付けてもらわなくちゃねっ」


 蹴りではなく、拳が鵜木を抉る。炎の力による推進力も使ったのか、鵜木は軽々と吹き飛び、グラウンドを滑っていった。


「……あのさ。兄ちゃん狙った分は今のでチャラだから」


 そう言って真唯は倒れ伏す鵜木を覗き込む。その姿に、鵜木は一度だけまみえたことのある太陽の姫の面影を重ねていた。


「とんでもない力を持つ者同士、1回話しして見ないかな?」


 真唯は笑う。その笑顔は空に輝く太陽のようだった。





神道式も縦型お墓あるのでしょうか……?

実家が横型なので真唯ちゃんちも同じ形にしました。

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