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にぎやかなクラスの物語  作者: 颯待 彗
二学期~神様と『魔王』~
27/48

27話 大掃除

 期末テストさえ終われば後は冬休みに向けての短縮授業期間に入る。その間休みのある日、真唯は司と共に実家へと戻っていた。


「でも黒治先生に付き添ってもらって悪いかも」

「構わない。講師はこの時期やることが少ない。神哉と衛理の方がやることは山積みだ」


 久々の実家に足を踏み入れる。白く見えるほどではないものの、確かに埃は降り積もっていた。


「じゃあ黒治先生手伝いよろしくっ」

「どれほど役立つか解らないが尽力しよう」


 彼女と彼の目的、それは実家の大掃除だった。



 期末テストの直後まで時間は遡る。


「え?ご実家の掃除?」


 真唯は予てからの懸案事項だったそれをまず学年主任の神哉へと相談した。その場には衛理も司も居て、何ごとかと聞いていた。


「兄ちゃん年内に戻ってくるかわからないから先にやっておきたくって。冬休み入ってからでも良いかなとも思ったけど」

「ふむ……確かに間休みにやっちゃうのが一番かも」

「ったって護衛どうするよ。それに人手」

「……私が共に向おうか?」

「「……は?」」

「え、良いの黒治先生っ」

「構わない。前々から掃除道具も興味深く見ていたのだがあの部屋では掃除のし甲斐が無くてな」

「やったっ」


 話が進む司と真唯に、置いて行かれた衛理と神哉は唖然としたまま。意も介さず真唯は神哉へと向き直る。


「あとさ、家のお墓も掃除に行きたいんだけど良いかな?そっちは1人でも手が回るけど」

「え、っと。さすがにそっちは、僕が一緒に行く。1人にするの、不安」

「そっか。じゃあ黒治先生、学年主任、よろしくお願いしますっ」

「あぁ」


 嬉しそうに真唯は教室に戻る。唖然とする神哉と衛理を他所に司は学年主任室へと向かっていった。



 そして、真唯と司は真唯の実家へ掃除にやってきた。当然のように司の手には本人が興味深いと認識した掃除用具が握られている。


「黒治先生って意外と凝り性?」

「人類の発展が興味深いだけだ。箒から掃除機への進歩も興味深いのに自動掃除機なる存在まで」

「あ、なんか黒治先生の部屋に有りそうで無いのそれだ。あの部屋綺麗だから自動掃除機要らないもんね」

「暇が出来たのならば調理家電を使うか簡単に掃除をするかのどちらかだからな」

「じゃあそんな黒治先生が興味深いと感じた掃除用具で掃除始めちゃおうっ」

「あぁ。キッチンはやっておくから自室をやると良い」

「うんっ」


 真唯が自室の掃除に向うと司はおもむろに腕まくりをした。向かうはキッチン。綺麗に使っているがそこの主は如何せん男子。隅々に汚れが見て取れて、前回来た時から司は気になっていた。そして今、司には掃除をして良い大義名分と、掃除用具がある。


「では、やるか」


 その声色は、かつての天魔大戦に挑んだ時より真剣だったと、もし神哉辺りが聞いていたならば思うものだった。



 1時間後。何とか散らかっていた自室の片づけを終え、着替えの入れ替えをしてキッチンに向かった真唯が見たのは新品と見間違うばかりにピカピカにされたその場所だった。


「……すっげ」

「ふむ……このスポンジは便利だな。衛理に薦めておくか」

「え、何この1時間で何が起きたの」

「なに。一度この手のスポンジやシートは使ってみたかったのだ。試せて僥倖だった」

「いや、まぁ黒治先生が良いなら良いけど。うわ、冷蔵庫の中まで綺麗になってる」

「腐りかけは捨てたが問題なかったな?」

「流石にね」

「ならばあとは床を掃いて終わりにしよう。廊下は私がやろう」

「じゃあ居間は僕が掃除機やるっ」

「任せよう」


 2人は手分けして掃除を再開する。そして30分後、綺麗になった居間で、真唯はすっかり慣れた両親の位牌のある祭壇を手入れしていた。塩と米を盛り、水を取り替える。普段ならばすべて料理で使うのだがさすがに米は痛み切っているため塩と米を同じ袋に入れて置いておく。そして榊を取り替え、手を合わせた。


「よっし……これで家の方は完了。後はお墓の方だな。榊絶対枯れてる」

「神道式、と言ったか。仏教式とはやはり違うのだな」

「みたい?僕も仏教版知らないんだけど。あ、お線香は無いよ。蠟燭はあるけど」

「そう言えばそうだな。アレとは違う神を拝するとはいえ、諸々の違いすら興味深いな」

「本物の神様と魔王に言われるとなんか面白いけどね」

「そうか?」

「そうだと思う」


 居間に2人は座る。空気の入れ替えの為窓は網戸に変えていて、本格的な冬になり始めている冷たい空気が2人の頬を撫でた。


「それに魔王に掃除してもらったキッチンってなんかすごい」

「……側近が知ったならば卒倒しかねないがな」

「あ、やっぱり居るんだ側近」

「一応な。こう見えて魔界を統治する身だ。1人で賄えない部分は側近に任せてあるし、こうして人間界に上がってくる時はすべて側近たちに任せてある」

「学年主任も結構側近みたいな人……人?居たし。統治者って奴なんだよなぁって思ってる。太陽のお姫様はセンセー以外に補佐とか、居たのかな?」

「……いや。確かあの姫はそう言ったものを嫌がっていたはずだ。神哉が誰か補佐や世話係を任命しようとするたびに魔界に来ていやだいやだとごねていたからな」


 大体そう言った愚痴の場合彼女は魔界に来ていた。ごねるだけごねて、魔王補佐の青年たちに宥められて何とか上に帰って行くを繰り返していた。魔法界や冥界ではそういった素の彼女を出せなかったが故、魔界しか発散場所が無かったともいえる。


「そう、なんだ」

「確かコラキエル就任前も来ていたぞ。強いのはわかるけれども誰かを傍に置きたくないと。あまりにごねるから最初に手合わせしろと言ったら本当にまず手合わせをしたそうでな」

「あ、でもわかる。黒治先生のお墨付きがあったら、まず手合わせする」

「……そう言う部分がお前と姫を相似にする要因なのだろうな」

「そうかな……」

「そのようだ。まぁ、前も言ったが、お前はお前だ」

「知ってる」


 司は表情こそ動かさず真唯を見ていた。その司を見て、真唯は笑った。


「やっぱりさ、黒治先生ってよく笑うよね」

「…………私が、か?」

「うん。ちょっとしたときとか、クラスを見てくれてる時とか、あと学年主任とかセンセーと一緒の時とか」

「……笑っている?」

「うんっ」


 かつてを思い出すのは司の性分ではない。だが司はかつて、あの姫が遊びに来て居た頃を思い出していた。魔王の座す城で、その一角に設けさせた茶席で、彼女は言ったのだ。


『魔王さんってほんとよく笑うのね。しかも楽しそうに』


彼は感情を理解できない。それが故最高神の座を追われ、魔界へと降り立ち魔王となった。それでも感情を理解できないのは変わらない。ただ見えるのは他人の感情の数値だけ。


 それでも、そうだったとしても、かつての彼女も、目の前の彼女も、自分がよく笑っていると、そう言うのだ。表情を動かしたことのない自分が、笑っていると。


「……お前にはそう見えているのだろうな……」

「そうかな?みんなもそう言うんじゃないかな……」

「そんな奇特な娘はお前ぐらいのものだ」

「う~ん……そうかなぁ?」


 納得をしていない真唯を、司は感慨深げに見守っていた。確かに真唯は真唯でありアエトスはアエトスであり、全くの別物なのだろ。だけれども、それでも、時折同じことを言うのが彼女たちなのだ。


 ふと真唯は表を見る。そこに立っていたのは地図であろう紙を片手に立っている青年。その姿に見覚えがあって、網戸を開けて顔を出した。


「あれ、えっと、陽咲先生?隣の学年主任の」

「あぁ、鴻さん。良かった。今日家の掃除で戻っているって聞いていたから」

「どうしたんですか?」

「神哉がずいぶんと心配していたから様子を見にね」

「清志」

「黒治先生もお疲れ様です。掃除は終わったんでしょうか」

「今さっきな」

「陽咲先生と知り合いだったんだ。学年主任は学年主任同士だからかなって思ったんだけど」

「何を言う。この前コレの為に冥界まで行っただろう」

「冥界……え」


 思い当たることは1つだけ。先代の最高神の魂の確認。そっと司から清志へと視線を戻した。困ったように笑う彼を見て、流石にD組断トツ最下位の頭脳を持つ真唯でもその可能性に気が付いた。


「……先代最高神さん?」

「うん、まぁフルじゃないけど、ほとんどを持っている清晃こと、陽咲清志です」

「……え、居たんだ。良かったじゃん学年主任。あ、だから期末の時」

「あぁも簡単にお願い聞いてもらえちゃうと逆に悪くなっちゃうなぁと」

「案ずるな。適度にしておけと私と衛理でみっちり説教しておいた」

「気持ちは解らなくも無いんですがね。あとはコラキエル君に会えればコンプ」

「陽咲先生も太陽のお姫様に会ったことあるの?」

「俺が最高神になる前にね、まだ子供だった頃のアエトス様になら。それでも、期末の時、連れてきてくれた君を見て一目でわかったよ。太陽の力を持ったのはこの子だってね」

「そっか……改めて、鴻真唯、お姫様から太陽の力を貰って日々暴れてますっ」

「程々に暴れることだな。お前がそのように暴れるから私が補佐講師になった事をふまえるように」

「は~いっ」

「元気が一番だ。君の今の状態は神哉から聞いていたんだ。受け持っている生徒と同い年だから心配になってね。でも、黒治先生も居てくれることだし。心配は無さそうかな」

「でも、心配してくれてありがとうございますっ」

「君を心配する人は沢山いるんだ。いろいろ気を付けてね」

「はいっ」


 元気な返事に清志は笑顔で、司は相変わらずの無表情で、彼女を見守る。玄関から通り、キッチンに移動し、司の手でお茶が淹れられる。さすがのその光景に清志は二度見したが大人しくお茶を頂いた。


「……意外な特技をお持ちで」

「茶ぐらいなんてことは無い」

「陽咲先生、黒治先生めっちゃ料理上手いの」

「え、本当?」

「うん。肉じゃがも美味しかったし、この前差し入れって貰ったお好み焼きめっちゃ絶品だった」

「……本当に意外な特技をお持ちで」

「まぁ、人類の発展を見るのは存外愉快でな」

「このキッチンの掃除もピッカピカにしてくれたの黒治先生だもん」

「……満喫しすぎでしょう黒治先生」

「人間界には90年程しか居られないからな。その分満喫して何がおかしい?」

「そりゃそうでしょうけれども……」


 こめかみを押さえる清志、意に介さない司。そんな彼らのやり取りを、お茶を飲みながら見ていた真唯は彼らの関係を整理していた。


「学年主任の主さんだったのが陽咲先生、で、それを殺しちゃったのが黒治先生、でもなんか陽咲先生の方が下っぽい?」

「あぁ。黒治先生、史真様が魔王になる前、最高神だった頃、俺はこの方の側近だったんだよ」

「ついでに、私を最高神の座から追いやったのもお前だったな清晃」

「……つまり、黒治先生に仕えていた陽咲先生は謀反を起こして、結果最高神の座に就いたと。んで百日後に黒治先生に殺された。学年主任の目の前で。なるほど……解ったようなわかんないような……」

「今は、先代は次代の主だったとだけ覚えていればいい」

「そうですね。貴方の側近だったのは事実ですからね」

「というか、今この状況、神哉にとっては発狂ものの状態ではないか?よく神哉が素直に鴻の実家の場所を教えたな」

「そこはほら、神哉にお願いして」

「……今頃学年主任室で荒れていそうだな……衛理に連絡を入れておこう」


 司がキッチンを出る。ふと清志はこの家に入った時から感じている違和感の方へ目を向けた。


「鴻さん、あの部屋は?」

「え?兄ちゃんの部屋だけど」

「……ちょっと専門的な知識はまだ思い出せていないんだけれども、少しだけ雷の気配がする。お兄さんは雷の属性だった?」

「ううん、水」

「……じゃあおかしい……うん、やっぱり雷の気配がする」

「……それって……黒治先生が言ってた、巨大洗濯機の中で魂欠けたかもって」

「……きょだいせんたくき?」

「なんだっけ、えっと」

「輪廻転生の輪だな」

「それ」


 戻ってきた司はため息と共に真唯の発言を訂正する。その訂正された内容を知っている清志は固まった。


「……アレを巨大洗濯機扱いして良いんでしょうか」

「冥王が震えるほど笑っていたから問題なさそうだ……それよりも、あの部屋から雷の気配が?」

「残滓程度ですがね……この家にすんなり来られたのも少し妙なんです。ご存じの通り、俺って生まれ変わっても方向音痴で」

「あぁ。円形の神殿で迷子になりすぎるから神哉を補佐に付けたのだったな」

「だから紙貰っても正直たどり着けないと思っていたんですけどすんなり辿り着けて。まるで」

「……この家に残った残滓に引き寄せられたように、か?」

「……え、待って。じゃあ」

「可能性はあるな……鴻の兄だけ『魔王』は特別に扱っていた節がある」


 それは、探し物が目の前にあった可能性。その可能性は司によってすぐに神哉へと知らされた。


「……怒ってる場合じゃないね……でも可能性は高い。そもそもどうやって『魔王』は清晃様の魂を探そうとしていたのか。引き寄せる欠片を持っていたから確実にその魂を引き当てられると踏んでいたのではないか」

「ま、鴻の兄ってだけでその可能性があっても驚けないがな」

「そうだね……でも尚更不自然かもしれない。ある意味清晃様の魂の一部が手に入っているわけだから、なんでその本体をわざわざ手に入れようとしているんだ……太陽の力、そして階層主の権能を手に入れてまで」

「わからないことが多すぎて対処が難しいってのが難点だな」

「あぁ。でも襲撃が有った時、守るべきものはわかっている。やり易くなるよ」

「だな」


 彼等は備える。いつ『幽暗』が襲撃を掛けても良いように。


 そして、まもなく終業式を迎えようとしているある冬の日だった。





真唯ちゃんのお家が神道式なのは書いてる人間がそちらしか知らないからです。

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