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にぎやかなクラスの物語  作者: 颯待 彗
二学期~神様と『魔王』~
20/48

20話 決意

 真唯が望んだクラスメートとの話し合いはテスト終了の2日後に行われた。戦闘科実技を学科に切り替えた衛理の代わりに真唯が教壇に立つ。端で司と衛理は見守っていた。その様子をこっそり神哉の遠見の魔法が観察していることを知る者は少ない。


「えっと、皆、ここ数日心配かけてごめん。センセー達も、ごめんなさい」

「構わない。お前の迷惑など神哉と衛理の無茶ぶりに比べたら可愛げのあるものよ」

「おいコラ司。誰が無茶ぶりだって?」

「その件は後で」

「……ったく」


 いつも通りの担任と講師の掛け合いに真唯は笑う。そして再び前を向いた。


「こうしてセンセーにお願いして時間を作って貰ったのは、僕の不調の原因を皆にも知っておいて欲しいからなんだ」

「真唯ちゃんの不調……学園祭で何かあった?」

「陽菜っちその通り。みんなと別れて兄ちゃんと学園祭回ってたんだよ。そしたら兄ちゃんが屋上を見てみたいって言い出して」

「屋上って休憩スペースになっているわよね?先生も居るし」

「うん。でもその時は誰も居なかったんだ。休憩している人も、見張りの先生も。おかしいなとその時は思った。でも、兄ちゃんが話しかけてきたから気にならなくなっちゃったんだ」

「真唯らしいっちゃらしいけど」


 学園祭、兄。察しの良いクラスメートはその単語で嫌な予感に苛まれていた。だが真唯が打ち明けると決めた事なのだ。全てを聞くのがこのクラスだろう。


「でね……話しているうちに兄ちゃんの様子がおかしくなって、言ったんだ。僕の力を『魔王』が欲しがってるって」

「『魔王』って『幽暗』の『魔王』!?」

「え、あの指名手配もされてる」

「マジでビックリした。前に襲撃してきた『幽暗』の奴らも『魔王』って呼んでたから、どう考えても階層主の魔王さんじゃなさそうだし」


 どうしようと真唯はまだ迷っていた。司の事をクラスメートたちに言うかどうか。本人は世間話を聞くかのような軽さで話を聞いている。まぁ良いかと真唯は考えた。知らなくても司は司なのだから。


「で、僕の力を『魔王』にやるやらないで揉めてたらセンセーが来てくれたわけ」

「あの時は驚いたぞ……人避けの魔法が屋上には張り巡らされているし、裂いて上がったら鴻が色合い似ている人と揉めてるし」

「センセー来てくれたから兄ちゃんの手を振りほどけたんだよね」

「だったな」

「んで、兄ちゃんの水弾を蒸発させて対応してたんだけど、なんとそこに階層移動したときの魔法陣が現れてさ」

「って、魔法世界に行った時みたいな?」

「訂正。鴻の成績では同じに見えるだろうが、屋上の魔法陣は人間が構築した空間転移の魔法陣、魔法世界や天界に行った時の魔法陣は階層主たちが使うそれ専用の魔法陣だ」

「そうっそれ忘れてた」

「どれ」

「階層主の権能って奴。『魔王』が欲しがってて、その為に僕の力を手に入れるって言ってた」

「なるほど。真唯の力は太陽の権能みたいなもんだからね。あのランタン世界に逆戻りするぐらいならって権能渡す階層主が……居るのかな?」

「知らね。センセーもその辺解んないらしい」

「そりゃ階層主の気持ちなんてわかる訳ないだろう」


 仮にも階層主2名の見守る中、衛理は笑って断言した。実際階層主はバラバラの思惑で動くことが多い。魔法世界の双子女王然り、幽王然り、冥王然り、無王然りだった。同じ思惑で動くことが多いのは実は最高神と魔王だけ。その件ばかりは不本意だと思いながら司は真唯の話を聞いていた。


「でさ、その空間転移の魔法陣から『魔王』が出てきたの。すっげぇ普通の人。逆に怖いアレは」

「あんたが怖がる怖さが怖いわ」

「だってなんか街中に居たら埋もれそうなのに『魔王』だしっしかもセンセーの前とかお姫様の事とか知ってるしさぁっ」

「先生の前も?それって」

「……アレにはさすがの俺も驚いた」


 そっと一部知らなかった生徒達は司を見る。衛理がコラキエルという天使だった前世を持つことを司は知っているのかと。だがそんな視線も介さず司は真唯を見ていた。その様子に心配は要らないとクラスメート達も真唯を見る。


「んで、その魔王がなんか泥人形?みたいなの呼び出して、センセーと切り払ってたら雷の魔法が炸裂しまして」

「察した。学年主任か」

「でも気付かなかったよ?」

「隠蔽魔法を掛けていたからな。気付かなくても仕方がない」

「あの時は黒治先生も撃ってたから……黒治先生も雷なんだよね」

「……まぁな」

「ってことは援軍で来たのは」

「学年主任と黒治先生」

「鴻の炎の力は察知していたが何分学園祭中で魔法の力が溢れすぎていてな。あまり使われない空間転移の魔法の気配で向かった次第だ」


 実際、あの時瞬時に隠蔽魔法を掛けた神哉と司は建物を壊さない程度のフルパワーを出して泥人形を一掃している。最高神と同じだけの威力を出せる魔王という存在である司は暢気に真唯の感情を見ていた。その身に溢れる感情は決意。ならばそれを邪魔するは無粋と必要な事だけ口を出すことに決めていた。


「で、流石にこの人数が相手じゃってことで……『魔王』と一緒に兄ちゃんも行っちゃったんだ」

「……だからあの時、1人で帰ってきたんだ」

「うん……凄く混乱してた。だって兄ちゃんが『魔王』と一緒に居るなんて今も思いたくない。でも、それは事実だから」

「……真唯。ちょっとこっち来なさい」

「?うん。爽子さん」


 爽子に招かれ真唯は教壇から降りて爽子の席に向かう。そんな親友を、爽子は抱きしめた。


「……よく話してくれたわね」

「……だって、これからまた襲撃とかあるかもしれないし……その時兄ちゃん居たら皆混乱するかなって」

「そう……」

「真唯。お兄さん奪還頑張るんでしょ?」

「悠華っち」

「そんな『魔王』なんてけちょんけちょんにしてやってお兄さん取り返さなきゃ」

「美穂」

「クラス全員があんたを心配してた。だから、例えば若干遅かったとしても、話してくれて嬉しいわよ」

「う……えっと、中間でB評価取れたら皆に話そうって決めてたから」


 納得するクラスメート達。あの真唯がB評価を取ってもそこまで喜ばなかったのはこの話をすることを決めていたから。それを受け止めるのがD組の役割だった。


「てか、じゃあ今真唯1人でお家に居るわけ?」

「いや。魔法省が用意したマンション暮らしだ。ちなみにご近所は司と神哉」

「あ、めっちゃ安心。なんというか雪柊先生だけだとちょっと不安なのにそこに黒治先生足したらめっちゃ安心」

「わかる。いや学年主任が頼れるのも解るけれども」

「若干迫力不足なんだよね……最高神の筈なのに」

「その点黒治先生は安心感っ」

「……だ、そうだ」

「このクラスはいつ見ても楽しいや愉快という感情に溢れているな」


 なお、遠見の魔法でこの会の様子を観察していた神哉はショックそのままに職員室で書類の山に突っ伏した。迫力不足は前々から気心の知れている側近たちにも言われている事実であり、司が威圧感と迫力満点なのも事実である。だがそれをわざわざ突きつけられると悲しくなるというものだった。


「ともかく、真唯の目標はお兄さん奪還。私たちはその援護ってことで良いかな?」

「もちろんっ」

「まぁ、他ならぬ真唯の為だもんね」

「……じゃあその為に鴻にはまず」


 どさりと教卓に召喚されたのは雑誌の切り抜きや新聞の切り抜きをまとめた書類束。それは神哉が『幽暗』対策に纏めていた資料。


「敵を知り己を知ればって言うだろ?」

「そうだな。敵の事を知ることもまた大事だ」

「……真唯、アレ読み切れる?」

「む……無理かもしれない」

「みんなで読んで真唯に意訳しよう、それが早い」

「『幽暗』ならネットにも情報上がっているから調べていい?」

「1限までな。2限は久しぶりに座学やるからな。なお鴻の後ろには司が付くことになる」

「絶対寝れない奴じゃん!?」

「その手があったか……」

「案ずるな。命までは取らない」

「何処を安心しろと!?」


 変らない真唯の反応に笑いが溢れる。衛理もつられて笑みをこぼし、司は表情こそ変えなかったが雰囲気が少しだけ柔らかいものへと変わっていた。



 こうしてD組の面々は『幽暗』対策に明け暮れることになる。だが本命の襲撃がなかなか来ない。来るのは普通のテロリストばかり。それも『幽暗』に構成員を取られて先細りした少人数。あまりのあっけなさに悠華と爽子は真唯を下がらせて普通のテロリスト対策を他のクラスメートだけで行うことに決めた。


「……へへっ」

「どうした鴻」

「あ、いや、ほらこうしてさ、クラスの皆が戦ってる所見るのって久しぶりだなって」

「……そう言えばそうだったな」


 真唯は1学期の期末テスト終わりに魔法封じの枷を、魔法省トップである八議席の内七議席の承認をもってはめられたことがある。魔法を封じられている間、真唯はクラスメート達が襲撃を対処している姿を日陰から見守っていた。あの時強く握りしめていた手を空にかざす。


「でもさ、あの時と違って、今は何かあればみんなの所に飛んでいけるわけじゃん?それが嬉しくてさ」

「……だろうな。ま、お前の出番は『幽暗』が来るまで無いだろう。来ても俺と司とあと神哉で事足りるけどな」

「えぇっそれは無いっ僕も戦いたいぃっ」

「……私と神哉の魔法は対人戦闘にはあまり向かないぞ?」

「雷の威力出しすぎなんだよ。お前も魔力計測器特訓行くか?」

「それだけは遠慮しよう」


 背後で見守る教師達と真唯の会話に司令塔2人は笑みを浮かべる。その日の襲撃も何ごとも無く終え、彼女たちは授業に戻っていった。


 その襲撃があったのは真唯がクラスに兄の事を話してから10日後の事。いつも通り先陣をきったクラスメートは侵入者に見覚えのあるフードがかぶせられているのを見て止まった。


「爽子っ悠華っ多分『幽暗』っ」

「前衛下がってっ真唯っ出番っ」

「おうさぁっ」

「俺も行くがなっ」

「私も行こう」


 真唯と2教師が戦闘に参加する。真唯を援護するフォーメーションへと素早く位置替えをしたD組はそのまま対『幽暗』戦へと移行していった。もれなく異形に転じたテロリスト達を素早く倒していく。


「っとっ」

「嵐属性組っ鴻が倒した奴の翼を切っといてくれっ」

「お任せっ」

「ふむ……倒すだけならば獲物は無くて良かったが」


 くるりと司の手が回される。瞬きの後に現れたのは黒檀の鞘を持つ剣。衛理が息を飲む中、司はその水晶に似た透き通る刃を抜き放った。


「……それ、神哉怒るぞ」

「仕方あるまい。生徒に後始末をさせるのはどうかと思ったからな」

「せめてそれ以外の得物……は無いんだったな」

「神哉にはあの槍があるがな。私に残されたのはこれだけだ」

「そうかい……じゃ、神哉が来る前に終わらせるぞっ」

「もちろんだ」


 炎が、雷が、そして火が舞う。たちまちに20人は居た異形のテロリストたちは地に伏せった。異形部分である翼や角も衛理達は自分たちの手で、真唯はクラスメート達の手で取り除かれている。異形部分さえ引き剥がせばただの人になる事は今までの襲撃でも判っている。


 だが、襲撃はそれで終わらなかった。テロリストたちの周りから生えてきたのはかろうじて人型を保った泥人形。中には威力不足だったのかスライムのような見た目の泥人形も見て取れる。


「……あの日と同じ、純度100%の異形だ」

「っしゃぁっ燃やすっ」

「ったく元気な奴だなっ」

「同感だ」


 今度は全力と真唯は普段のスライムや魔物と同じように炎弾を使い戦っていく。衛理や司も先ほどより威力を上げて対処していく。だが上から戦況を見守っていた悠華と爽子には理解できていた。敵の数が全く減らないのだ。


「先生っ敵数50から全然減らないっ」

「端からどんどん出てきてるっ」

「持久戦ってか?発生源に支援射撃っ」

「えっと土だから、風組と水組っ」


 爽子と悠華の居る場所から該当属性組が射撃を行うが泥人形は生まれ続けていく。


「さっすがに疲れたぁっ」

「鴻でアウトなんだ、俺だってキツイ」

「……まだ行けるが」

「別次元組は黙ってろ」


 戦い続ければ如何に真唯でも疲れが滲む。それは衛理も同じこと。唯一涼しい顔で対処し続けている司はその直感で真唯の足元を見た。


「っ鴻伏せろ」

「へ!?」


 真唯の足元に現れたのは巨大な手。伏せるのは本来悪手だが、それは彼らが居ない場合。


 その手が真唯を包み込むより早く、戦っている場所の左右から雷撃が走った。左は司の剣から。そして右は、神哉の槍から。言われた通り座り込んでいた真唯を抱え、衛理はクラス全員が移動した司令塔組の居る昇降口の上の、横にある張り出したコンクリートへ登っていった。


「流石に、今回は譲ってもらうよ鴻さん」

「そうだな。そろそろ譲れ」

「さす、がに、任せる学年主任と黒治先生」

「任された」


 雷が舞う。土人形を薙ぎ払うその力を振るう神哉は背に司を置いて、そしてその手の剣を見た。


「……それ、使うんだ」

「あぁ。これが私の唯一無二だからな」

「……そ……良いもんね。最高神の槍はこっちにあるし」

「太古の剣は私のモノだが」

「ほんっと司ってそう言うところだと思う」

「どういうところだ?」


 会話の間も雷は舞い続ける。その圧倒的な力に唖然とするD組を放置して、衛理は司を見ていた。


(相変わらずだな、元最高神様も)


 衛理は知っていた。司が、現魔王、史真が、遥か昔、最高神であったことを。故に人間界に上がったとしても、雷の権能が使えることも。神哉、現最高神、深皇の腹心の側近ほどではないがある程度近しい位置に居た衛理、コラキエルだからこそ知っている。あの剣は、深皇の最高の地雷であることを。


「センセーっあれっ」


 真唯の声に前を向く。泥人形出現地点に現れたのは学園祭のあの日、屋上に現れた魔法陣と同じ。


「あ、ほんとだ、ちょっと違う」

「え、どの辺?」

「えっと中央のスペルが」

「一応言っておくが、アレ、『魔王』出てくる魔法陣だからな?」


 思わず暢気に解析を始めてしまうD組優秀組に衛理は痛む頭を抱える。


「……こんにちは。今日も、お邪魔させてもらうよ」


 そして、『魔王』鵜木は現れる。あまりの平凡さに、息を飲む。確かにこの男は怖い。あまりにも平凡すぎるのに、おそらくこの泥人形を生み出し続けたのは彼なのだろう。真唯とは違う力に、知らず彼女たちは息を呑んでいた。


「……『魔王』鵜木」

「こんにちは」

「……衛理、鴻をそのまま押さえておけ」

「今回は、僕達が対処するよ」

「わかった」


 そして、最高神と魔王は『魔王』と対峙する。





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