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にぎやかなクラスの物語  作者: 颯待 彗
二学期~神様と『魔王』~
13/48

13話 あらたな脅威は

2学期の開始です


1学期の復習的な部分も少しあります

 魔法の力を手に入れた人類は知らない内にあわや太陽を喪う寸前まで行ってしまっていた。それを水面下で救ったのが総泉女学園の1年Ⅾ組戦闘科、取り分けて世界で唯一炎の力を持った鴻真唯。彼女たちの少しの冒険の末、太陽は変わらず人類を、そして1000年ぶりに8階層全てを照らしていた。


 太陽にまつわる一学期が終わりをつげ、二学期に物語は移りゆく。



 夏休みも終わり新学期。実力テストのある短縮登校期間は所属学科の実技しかやらない。すなわちD組、戦闘科1年も1年の戦闘フィールドで授業を行っている。


「よっとぉっ」


 真唯の炎がスライムを抉る。今日のスライムはバードスライム。速度が最高峰のスライムだが真唯の炎からは逃れられない。


「そういや先生。林間学校の時の武器に魔法付与はしなくて良いの?」

「アレは魔法世界に殴り込むための緊急措置だったからなぁ……一応希望者は武器のこっそり練習許可するぞ?まぁ普段は許可出ないだろうが」

「あ、やっておきたい。光魔法に変ってから練習上手くできなかったから」


 魔法には種類がある。真唯の火は担任である衛理も同じ属性だがごく少数。後の人類は水、風、雷、土。そこに加えて魔法世界から太陽の力を取り戻した褒美として水の上位種の氷、土の上位種の地、風の上位種の嵐、さらに光と闇の魔法も人類に与えられていた。7月末に起きた突然の属性変更や上位種の付与など、世界は今だ混乱から抜け出せないでいた。当事者である総泉女学園高等部戦闘科1年以外は。


「そう言えば雷以外は上位種ってのになってるんだよね皆」

「おかげさまで魔力計耐久特訓にご招待承ったけれどもね」

「真唯ちゃんすごいよね。これより上の魔力揮って全然振り回されないんだもん」

「慣れだよ慣れっ」

「お前はもうちょっと押さえろ」


 担任である黒風衛理のバインダーが真唯の頭を小突く。規格外の実力を持つ真唯、そしてそれについていける程度には規格外の戦闘科1年D組。4月から5月上旬までの短い期間で15人の教師が逃げ出し、辞めていった。其処に学年主任、雪柊神哉が昔馴染みとして連れてきたのが魔法科を担当する際設定されている魔法教師レベルが最高値の10でなかなか担任にも講師にもなれなかった衛理だった。彼は規格外のD組に対応し、5月上旬から彼女たちを見守る担任として過ごしている。彼の目下の悩みは低空飛行を続ける真唯の他科の実技と学科成績をどうやって上げるかだった。


「でもさ、なんか新しい魔法テロリストが現れてるって朝のニュースで言ってたじゃん?」

「……お前、ニュース見るのか」

「占いと天気予報のついでに。今朝のニュースでちょこっと特集してたし」

「あぁ。なんだっけ名前」

「『幽暗ゆうあん』だったな」

「なんか言っちゃ悪いけどありがちな名前」

「とはいえ危険度ランクは最高値のEX++だ。さすがに『幽暗』が来たら全員で対処するからな」

「そんなに危ない奴等なんだ。ニュースの特集納得」


 彼女たちは思い思いに戦闘科のカリキュラムをこなしていく。武器への魔法付与のように3年の課題を先取りしたりするのは彼女達だからとしか言いようのない日常風景だった。そんなところへ慣れたスーツ姿の青年がやってくる。


「衛理」

「神哉、どうした?」


 学年主任、雪柊神哉は辺りを見渡す。戦闘科1年が誰も聞いていないことを目視と魔法で確認すると声を潜めた。


「ちょっといろいろご相談」

「……聞こう」


 認識阻害魔法を使い、神哉と衛理は戦闘フィールドを出る。彼等の肩書は規格外のクラスを多数抱える1年の学年主任と最高ランクの教師、いくら戦闘科が並外れた実力者集団とはいえ出し抜くのは容易かった。


「で?」

「さっき、犯行声明が届いた。明日、家の学校を襲撃するというね」

「……それだけじゃないな」

「その犯行声明を出してきたのが『幽暗』なんだよ」

「なるほどな。そりゃ厄介だ」

「いくら何でも危険度EX++で今一番ヤバい相手だ」

「……俺の武器携行の許可を。生徒には出さなくて良い。最悪何かあれば俺が対処する」

「うん……まだ出たてで情報少ないんだよ……襲撃された側は全滅して病院のベッドの上だし」

「家の大事な生徒をそんな目には合わせないよ。任せろ」

「わかった……明日、頼んだよ」


 それは彼等しか知らない会話。


 衛理は戦闘フィールドに戻っても彼女たちに犯行声明の事を言うことは無かった。彼女たちは突発的な事態に果てしなく強い。突然『幽暗』が目の前に現れても適切に対処できるだろうことが予測できるのも1つ。そして、そもそも衛理は危険度EX++なんていう危険な存在の対処を彼女たちにやらせるつもりは殆どなかった。出来るならば戦闘は自分ぐらいで、彼女たちには援護を。もちろんその願いが叶わないことを衛理は痛感していた。何故なら真唯が居る。必ずテロリスト襲撃の際に飛び出していく特攻隊長。彼女を押さえることは難しいだろうと、衛理はため息と共に翌日を迎えるのだった。


 明けた翌日。今日も戦闘科1年は戦闘フィールドに居た。他の学年の戦闘科は今日戦闘科にも存在する座学の授業で3か所ある戦闘フィールドに居るのは1年だけだった。


 そこに爆発が起きる。敵性勢力の魔法と学校の防御障壁がぶつかり合うと必ず起きるようにしている爆発。それは敵性勢力の侵入を知らせる合図となる。衛理と真唯が先頭になり、爆発の震源地に向かう。其処に居たのは短いローブを纏った人間。ローブのフードは深くかぶられ顔は見えない。


「……何か毛色の違うテロリスト来たね」

「……そりゃそうだろうな……鴻、下がっている気は」

「無いっ」

「……だろうな」


 ざわざわと敵性勢力は入ってくる。その数15名。普段のテロリストより人数が多いと、いつも戦闘を指揮する学級委員長、木原悠華は高い場所からその光景を見ながら思案していた。普段のテロリストは多くて10人。それも構成員フル投入してその数だった。だが、目の前のテロリストたちに頭目が居る気配は無い。もちろんリーダー格は居る。それでもそれは頭目ではないと感じられた。


「我ら、は。『幽暗』……襲え、奪え」

「おぉぉぉぉぉっ」

「……何だ……?」


 ローブが脱げる。次の瞬間テロリストたちから翼が生えた。鬼のように角を生やす者も居る。中には竜種の尾を生やす者も居る。15名いたテロリストは余すことなく異形へとその身を転じた。


「何!?何これっ」

「一旦下がってろ鴻っ」


 襲い掛かる牙を衛理は転移させて取り出した木刀で防ぐ。真唯を一旦下がらせ、木刀を構えた。


「……人間との境は、異形部分か」


 探索魔法をかけた視界には目の前の異形と化した敵性勢力の詳細が映し出される。彼らは厳密には異形ではない。誰かに異形である部分を植え付けられた人間だった。


「燃やしたら拙い?」

「拙いな。半分人間だ」

「……武器は」

「却下だ。今回は下がっていろ」


 真唯との会話を終えると衛理は改めて木刀を構えた。彼の剣術は一応学生時代に剣道部に所属していた以外は自己流だった。それは彼の前世の事に関係する。黒風衛理は前世、コラキエルと言う名の殺戮を許された特級天使だった。最高神の采配で武芸を嗜む太陽の姫、アエトスの従者として過ごすことになるが、その時の剣術は天界軍で行われる日々の魔物退治で培った独学だった。全てを覚えて黒風衛理として生れ落ちた彼にはその独学の剣術が生まれながらに備わっている。戦闘科魔法教師レベル10を叩き出した剣術の腕は文字通り人外の強さだった。


 向かってきた爪と牙をへし折る。続いたのは翼を切り裂く火を纏わせた一撃。すり抜ける間に尾を、翼を、角を的確に狙い切り裂いていく。もちろん座して待つD組ではない。援護に回った生徒たちは昏倒魔法を倒れたテロリストに掛けていく。真唯もまた立ち上がろうとしたテロリストを物理的に沈めて衛理の援護に回った。


「な、なん、だ、お前は」

「ただの、担任教師だっ」


 リーダー格に肉薄する。リーダー格は尾も翼も角も生えている。防御されるが火の力によって押していく。まずは翼。次いで尾。


「これでっ」

「そん、な、『魔王』様っ」


 角が落され、衛理の回し蹴りが決まる。最後の1人が倒れ、戦闘は終了された。


「……すっげ……」

「やるじゃん黒風先生っ」

「そりゃ、お前等の担任やるからにはな」


 そしてしばらくすると今日は学校側が通報したのか警察の魔法対策課がやってくる。いつも通りテロリストを全滅させていることは今更なので驚きはしていないがそれが今話題の『幽暗』である事にはさすがの総泉女学園の担当になってなかなか驚かなくなっていた担当の魔法対策課も動揺を見せた。


「……『魔王』……?」

「って、魔界に居るっていうあの魔王かな?」

「そんなわけないじゃん」


 衛理と真唯の後ろに現れたのは神哉。若干どころか相当に機嫌が悪い。何かあったと察した衛理は真唯をはじめとした魔法対策課就職希望者に魔法対策課の仕事を見せるという名目で引き離し、神哉と共にフェンスに寄りかかった。


「で?」

「アレ、人工的に魔族と人間を融合させている」

「出来るのか?」

「……不可能ではない。と言ったところかな」

「でも、人間に出来ない3つの事は」

「1人、例外となる炎の力が居るんだ。人類を探せば1人位生命を操る人間が居てもおかしくないよ」


 生命を操ることの中には人工的に異形を作るという事も含まれている。それが出来る人間が居てもおかしくない。そう言われてしまえば炎の力を持つ真唯を見続けている衛理は頷くしかなかった。


「……だったな……で?お前の機嫌の悪さはそれじゃないだろ」

「……『魔王』って言ったじゃん。アイツ等」

「言ったな。あの魔王殿と関係あるのかね」

「無いよ」

「根拠は?」

「今、魔王も魔法省に居るから」

「……は?」


 第4階層魔界の主が神哉と衛理にとって馴染み深い魔王と言う存在。良くも悪くも何もしない、ただ人間界のバランスを見守るだけの彼が魔法省に居ると初めて聞かされた衛理はさすがに驚きを隠せなかった。


「なんで、そうなってる?」

「僕だけ人間界に降りるとバランス悪くなるから来てる」

「……それは……豪勢な魔法省だな」

「なのにさっ聞いてよ衛理っ直前に『幽暗』の頭目が『魔王』って呼ばれてるって聞いたからなんか思うところさすがにあるかなと思って電話したらなんて言ったと思うあの魔王。『そうか』だけだよ!?こっちが気にしてやってんのにあの無気力はっ」


 学年主任、雪柊神哉は第2階層天界の主、最高神である。故に第4階層の魔王とは因縁深い。それは魔法省に彼が現れてからも顕著で、様々な因縁があるものの、根本的に魔王と最高神は反りが合わなかった。


「はいはい落ち着け」

「どうせ『幽暗』の『魔王』だって碌なもんじゃないよっ」

「そこまでは知らん」

「鴻さんに一面焼け野原にしてもらって僕の権能で跡形もなく消し去りたい」

「流石に止めろ」


 荒ぶる神哉にどうしたものかと衛理が思案すると、ちょうど魔法対策課がテロリストたちを収容し撤退しようとしていた。一応担任と学年主任と言うことで神哉を引っ張り魔法対策課課長の前に向かった。


「あぁ雪柊さん……と」

「お目にかかるのは初めてですね。魔法戦闘科1年担任の黒風衛理です」

「あぁ。魔法対策課課長の南場なんばと申します……普段から通報していただきたいものですがね。もっと言えば魔法対策課の到着を待ってほしいものですがね」

「申し訳ない。堪えるという単語を辞書から破り捨てた生徒ばかりで」

「そうですか……ですが『幽暗』の危険度は最高ランク。今後は魔法対策課にお任せを」

「善処します」

「…………今日は良いでしょう。では」

「ありがとうございました」


 魔法対策課課長は車に乗って立ち去る。基本的に魔法テロリストへの対処は魔法学校に限り殺さない限りお咎めは無い。おそらく今後も通報は無いだろうと解ってはいても課長は言わざるを得ない立場だった。


「……さて……暴れ足りないと言いかねない鴻の為に何か出してみるかね」

「ワイバーンが良いですっ」

「それは神哉に頼め。俺は滅多に使わない属性魔法の分で疲れているからバードスライムの群れが限界だ」

「群れっていう時点で限界じゃないと思います」

「そうか?」

「ってちょっと衛理ぃっ」

「お前の愚痴ならあとで腐るほど聞いてやるから。今は暴れ足りない家のクラス優先だ」

「も~っ」


 衛理は戦闘科1年を連れて戦闘フィールドに戻っていく。もちろん衛理が神哉の愚痴を聞かないわけがない。後で職員室か帰りの飲み屋かどちらかで話は聞くつもりである。ただ今は、暴れ足りないと不貞腐れ始めた真唯をはじめとした戦闘科クラスのご機嫌を取る方が重要だった。


「じゃあ異形の部分を攻撃すれば良いわけか」

「そうなるな……武器は使用を認められないが嵐の属性になったのならかまいたちが使えるだろう?」

「アレ雑草切るのにめっちゃ便利なんですよねぇ」

「活用していて何よりだ。翼ぐらいならアレで切り取れる。それ以外は鴻の通常対人間戦闘が使えるだろう」

「じゃあ次からはっ」

「俺の補佐の立ち位置だが、特別に戦闘に参加を許可しよう。嵐属性組は命中精度を見てから決めるからな」

「ぃやったぁぁぁっ」


 喜びのあまり真唯はくるくるとその場を回る。その様子を見ていたクラスメート達はいつもの真唯の姿に笑みをこぼす。衛理だけはそんな真唯の姿にいつも通り溜息を吐く。普段通りのD組の日常が戻ってきていた。


「真唯ちゃん暴れ足りないって顔してたもんね」

「ま、来ないことが一番なんだがな」

「あの感じじゃまだ居ますよね」

「あぁ……『幽暗』はかなりの規模になっていると噂されている。これからも襲撃はあるだろうな」


 衛理の言葉に一瞬だけクラスが静まり返る。だがそれを破るように声が響いた。それはクラスの中心人物である彼女の声。


「大丈夫っ僕が蹴散らしちゃうからっ文字通りっ」

「……真唯の戦闘基本スタイルは蹴り技だものね」

「頼りにしてるぜ特攻隊長っ」

「程々にな。危なくなったら無理をせず下がっているように。万が一何かあれば学年主任がまた薙ぎ払うから」

「あぁ、あの人類未踏その2の雷の権能」

「ホント、あれズルい。雷であの威力出したい」

「美穂……神様の権能目指すの頑張ってるもんね」

「人類未踏は鴻と神哉だけにしてくれ」


 笑いが溢れる。そんなD組と担任の様子を見ていた神哉は湧き上がっていた魔王への怒りが収まっていくのを感じていた。あのD組の笑顔に比べれば自分の悩みなど些末に思える。


「……今日も、D組は元気そうで何よりだ」


 その言葉は彼女たちを表す最高の言葉。彼女たちは今日も元気に立ち回る。それが彼女たちの日常だった。





新たな戦いのはじまりはじまり

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