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にぎやかなクラスの物語  作者: 颯待 彗
一学期~太陽と魔法と。~
11/48

11話 決戦前

 その瞬間、真唯は夢を見ていたという。


 ふらりと階段に駆け寄った時、その階段の前に居た少女。髪の長い、自分と鏡合わせの少女。


 彼女と真唯は暗い場所で対峙していた。


「誰……?」

『私は良いの。もう何もかも無くなって真っ白になってしまったのだから。でもね、彼は違う。覚えてしまっている』

「彼……センセー?」

『そう……お願いよ。彼を悲しませないで。私は最後泣かせてしまったから。私は彼の笑顔が見たいの』

「……たまに笑ってるよ。センセー。本人は気付いてないかもしれないけど」

『えぇ。貴女達のクラスで、彼は笑えるようになった。だから』

「ん。約束する。センセーを泣かせないって。泣かせるときは嬉し泣きだけ」

『えぇ約束よ』


 ふわりと少女がぼやける。そして真唯は目を覚ました。




 どさりと真唯は床に落とされた。続いたのは多数の足音。


「真唯ぃぃっ」

「よかったよぉぉっ」

「み、皆」


 クラスメート達からもみくちゃにされ守られる真唯。衛理は防御壁を張り、悠華と爽子は頭上の白の女王と玉座から動かない黒の女王に警戒を向ける。


「ふっ……六陽。ここまでのようだ」

「でも六嘉」

「悪かったな太陽の娘とその仲間たち。我らにとって太陽奪還は悲願。魂だけでも装置としてくべてしまえと思ったのだが上手くは行かないものだな」

「……真唯は人間だよ。女王様達のように人外じゃない」

「何。その点をすっかり忘れていた。詫びに上位種の魔法を与えてやろう」


 ふわりとクラスメートと真唯の上に光が舞う。その光に呼応するように水、地、風の属性の少女達は胸に輝きを宿した。


「え、何、なに?」

「……上位種の付与か……」

「何その上位種って」

「火の上位種が炎、そして太陽なように水、地、風にも上位種が1段階存在する。水の上位種氷、土の上位種地、そして風の上位種嵐」

「上が無ければ下も威力を出せぬであろう?人がいまだ魔法の力を最大限発揮できない理由よ」


 嗤う六嘉に真唯を除けば唯一光らない雷属性組が声を上げた。


「……雷は無いんですかぁっ」

「雷の上位種はもはや神の権能よ。人が立ち入るべき領域にあらず」

「神様の?」

「第2層を治める最高神のな。さて。魂だけ使えないとなれば太陽の娘をそのまま第1層に上げなくては」

「方法はあるのか黒の女王」

「……我らには無いな。知っての通り、100年に1度の権能譲渡の儀は我らが招かれ第1層へ向かう。階層移動の権能も上には3層までしか働かない故な」

「……ならばこの後の対処、最高神に預けてはくれないだろうか」

「先生?」


 衛理は真っすぐ六嘉を見つめていた。その瞳の鋭さは在りし日の太陽の従者そのもの。ふうと息を吐いた六嘉は嗤った。


「仕方ない。あの神に対応を任せよう」

「英断感謝する。ほらお前等立つっ」

「どゆこと?」

「太陽を取り戻す為にもう1ヶ所行かなきゃいけない場所があるってことだ。一旦帰るぞ」

「なんかわかんないけど用事が終わったなら了解」

「また来るがよい太陽の娘。その時には、我もアレも正気であろうからな」

「それって……交互に話が通じないのって」

「すべての階層に送った光魔法の反動でな。人間界にまで太陽が失われてしまえばそれこそ2人同時に狂うしかないほどの魔力を使う……我らをも救え、太陽の娘」

「判ったっ白の女王さんにはその時に謝ってもらうっ」

「其れで良いの?」

「うん。正気の時の白の女王さん優しい人だったから」


 そしてD組の面々は広間に立つ。衛理は帰り用と渡されていた魔法陣を布いた。とたんに光が舞う。


「ではな。励めよ太陽の娘とその仲間たち」


 黒の女王のその言葉を最後に、にぎやかなクラスの面々は人間界へと帰っていった。



 それは彼女たちが知らない、黒と白の交わらない話。


「姉殿……否、六陽……其方の言うとおりになったな」

「うふふ……夢みたいね。太陽が帰ってくる」

「あぁ……1000年……短いと思っていたが……こうして振り返ると長かった」

「お祝いのお茶会をしなくてはいけないわ」

「そうさな……いつかあの娘と、仲間たちも招いて、盛大に茶会を開きたいな」


 黒の女王は真っ暗な空に思いを馳せる。魔法世界の時計が正しいのであればまもなく夕刻、日が沈むころだ。



 真唯が気付けばそこは人間界。空は夕暮れに色を変え、オレンジの空が広がっていた。


「おかえりなさい。どうだった?魔法世界」


 声。それは自分たちを魔法世界に送った張本人の物。見ればその学年主任はレジャーシートに何処から持ってきたのかピクニックセットを装備し、優雅に紅茶を飲みながら待っていた。


「神哉、それが」

「ん。大丈夫。大体把握してるよ。今日はもう休むと良い。鴻さんとか皆お疲れだろう?」

「でも学主」

「100年の範囲にとって半日なんて誤差にもならない。太陽を復活させるんだ。昼間の方が良いだろう」

「……だね……もうめっちゃ疲れたぁぁっ」

「あ~……確かに真唯だけ1戦多かったからね」

「俺は背中が一部痛い……誰だ消火程度の水魔法をウルフスライム3連撃破の勢いで当てた奴っ魔力計調整の特訓にご招待するぞっ」

「あ、たぶん私だ」

「大埜……ただでさえ上位種授けられてお前らの威力上がるんだぞ?今からその威力調整でどうする」

「めっちゃ焦ってたから仕方ないと思いますっ」

「それは同意」

「……ったく。今回限りだからな」

「あははっ……さ。今日はもう休むんだ。明日、通常林間学校最終日にして特別林間学校二日目を開始しよう」


 少女達は今更ながらに疲れが追いついた身体を引きずるように合宿場へ戻っていく。本来ならば夕食当番に加わる衛理だったが神哉のレジャーシートへ倒れ込んだ。


「悪い……夕食当番の手伝い任せていいか?」

「野菜の皮剥くぐらいしかできないけれども、良いよ。衛理も疲れただろう」

「……とびきりの嫌がらせを2連続で受けたからな」

「見ていたよ。まさかコラキエル君の映し身を出すなんてね……でも鴻さん勝てたじゃないか。結局姫ちゃんとコラキエル君の対戦って何敗だったの?」

「……確か姫の1498敗だな……あと2敗で1500敗だったから覚えている」

「映し身とは言えコラキエル君に勝てたんだ。姫ちゃんもガッツポーズじゃないかな」

「あり得る……」

「ん。じゃあここで休むか片付けてコテージで休んでなさい。夕食当番行ってくる」

「……頼んだ……」


 神哉が合宿場に向かい、衛理はランチボックスとレジャーシートを手にし、コテージへ戻った。魔法世界で会った出来事を反復し、ソファに沈み込むと人知れず涙を零した。


「生きてた……っ……」


 矢に射抜かれる少女は衛理にとって最大の地雷。それが生き残ってくれていたことだけが救い。あの日2度と開かれなかった瞳は1000年の時を経て今日ようやく開いた。



 コテージの衛理を思いながら神哉は気力が無いからカレーと断言されたジャガイモの皮むきに従事していた。食事当番もほとんどの生徒が前半戦の魔物討伐祭りで消耗しており悠華と爽子、陽菜が入るだけだった。


「学主っ何この厚い皮はっ」

「うぐっ……料理って苦手なんだよね未だに」

「黒風先生の代理ならもうちょい頑張ってよ」

「まぁまぁ悠華ちゃん。雪柊先生には最初から期待してないよ。だからジャガイモ担当にしたんだし」

「陽菜……あんた料理になると性格変るわね」

「そうかな?じゃあ雪柊先生には玉ねぎ切ってもらおうかな。櫛切りで」

「一番辛いの来てない?」

「うん。一番面倒なの」

「学年主任ならできる」

「が、頑張らせていただきます」


 陽菜主導で厨房は回る。煮込みだけになりご飯の盛り付けが始まるころカレーの匂いに釣られたのか生徒達が1人、また1人と顔を出す。余力のある生徒は配膳を手伝うが大半はテーブルに突っ伏したまま。代表格はテーブルに溶けてなくなるのではないかと思うぐらい疲弊した真唯だった。


「はい真唯ちゃん。大盛にしておいたから」

「陽菜っち神か」

「あはは。本物の神様に明日会うかもしれないんだから」

「そういや。そんな話だっけ」

「黒風先生が最高神に任せておけ~って」

「前世で知り合いだったのかなやっぱり」

「じゃない?」


 そしてカレーと同時進行で作られていたサラダが配り終わる。号令は衛理の役目だが居ないため神哉が代理となる。唯一疲労していない神哉は端で号令をかけた。


「じゃ、今日もお疲れさまでした。いただきますっ」

「「いただきますっ」」


 号令と共に勢いよく食事が消費されていく。此方は生徒達の分。神哉がコテージに戻れば何とか持ち直した衛理が同じくカレーを作っているところだった。


「もうすぐできるぞ。あっちどうだった?」

「戦場」

「だろうな。俺もカレーが限度だ。教員用にレトルト置いておいてくれ真剣に」

「生徒手作りで教員レトルトだと手抜きだからインスタントやレトルト系は学校側で禁止しているのですよ」

「そんなもんか。まぁ腐っても女子校だからな」

「ま、僕みたいな料理下手が憂き目にあうんだけど、1年の先生は皆料理上手なので僕はお零れにあずかるのです」

「なるほどな。ほい、出来たぞ」


 ことりと神哉の目の前にカレーが配膳される。自分が切った野菜たちの結果と目の前のカレーを比較して神哉は哀愁を漂わせた。


「わぁジャガイモ大きい……玉ねぎ綺麗……」

「お前な……藤森に怒られるだろそれ」

「すごく怒られました」

「一般教養の家庭科、アイツぶっちぎりのトップなんだぞ?」

「知ってる。学年全体でもトップクラスだよ。」

「ったく……ほら食べろ。罪滅ぼしに皿洗い手伝ってこい」

「そうします。いただきますっと」


 もくもくと食べ進める。神哉に好き嫌いは無い。嫌いなものも無ければ好きなものも思い当たらないという意味だった。とにかく何でも食べる。


「……ごちそうさまでした」

「お粗末様。こっちの片づけはやっておくから行ってこい」

「は~いっ」

「安心しろ。プラスチック皿だから割る心配はない」

「うぐっ見透かされている……普通のお皿でも割らない……はずっ」

「断言しろそこは」


 神哉はコテージを出て食堂へ再び向かう。既に何人かは食べ終わっており、爽子と悠華が食器を洗い始めようとしたところだった。


「手伝いに来ましたっ」

「よしじゃあ一番大変なカレー鍋頼んだっ」

「が、頑張るっ……って綺麗に食べたねぇ……炊飯器も空だし」

「あそこで食後の睡眠に入り始めてる特攻隊長が大半ね」

「なるほど」


 示されたのは満腹でお休みモードに入っている真唯。それをほほえましく見ながら神哉はカレー鍋と格闘を開始した。全員の食事が終わり、片付けが終わるまで真唯はその場で突っ伏していた。


「鴻さん。寝るなら部屋で寝な」

「ん~……学年主任に聞きたくて……明日僕どうしたらいいの?」

「……まず天界に行き、そこから長年使われていない第1層に至る扉を太陽の力で開ける。そして太陽の神殿で専用の錫杖を手に祈りをささげる……かな。流れとして」

「……祈りって何祈るの?」

「太陽この世に存在しろ~的な」

「儀式なのにアバウト」

「衛理が言ってたから間違いないと思う。必要なのは太陽の力だから」

「……わかった頑張る……眠い……」

「まったく……仕方ないな」


 神哉はひょいとジャージ姿の真唯を担ぐと部屋へ向かった。同室の爽子と共に部屋に入ればお休みモードの同室達が布団を敷いていた。


「あれ真唯おねむ?」

「頭使ったもんねいろいろ。体力もだけど」

「でも学主、俵担ぎは無い」

「生徒にお姫様抱っこするのもどうかと思ったから妥協案なんだけど」

「まぁ、確かに」

「じゃあ鴻さんお届けしましたっと。今日は早く寝るんだよ~?衛理見回りに来ると思うから」

「判っています。と言うかすでに眠い」

「じゃ、お休みね」


 部屋を辞した神哉は一旦食堂に戻り、1人最終点検していた陽菜と共に最終点検を手伝う。そして陽菜と別れ、神哉は1人訓練場に立っていた。


 明日、神哉にとって一番隠したい事実が彼女たちに伝わるだろう。その時彼女たちはどうするだろうか。衛理の時のように変わらず接してくれるか。果たして、今まで通り学年主任と呼んでくれるだろうか。それだけが神哉の心配事。太陽の力に関して神哉は全く心配していなかった。


 むしろ不安なのは魔法世界からもたらされる新しい属性の魔法。それの普及や属性が変わってしまう生徒達への対応の方が大変と苦笑いを浮かべる程度だった。


 コテージに戻れば衛理がソファでうつらうつらと船を漕ぎながら座っていた。長い付き合いになる彼のそんな姿を見るのも初めてで、声を掛ければ覚醒した。


「……悪い、ちょっと寝てた」

「寝ていても良いのに」

「明日の確認が必要だろ……なんで笑うんだお前は」

「鴻さんもさ、片付け終わるまで食堂で寝ているから何かなと思ったら明日何すればいいのだって」

「……鴻と思考が被ったのは遺憾の意なんだが」

「あはは。ま、仕方ないってことで。明日9時に天界に行って、そっから固定通路使って第1層。防御壁の中から儀式。で、帰ってきてバス乗ってご飯食べて帰宅。以上」

「……とんでもない林間学校だなおい……魔法界に天界、そして第1層か」

「あのにぎやかでとんでもないクラスにお似合いの林間学校だろう?来年魔界行ってもらおうか。魔王殿も暇してるはずだし」

「俺の胃が死ぬから引率お前やれよ」

「いやほら僕魔界入れないし」

「……とりあえず魔界は却下だ」

「じゃあ魔法界にお願いして今回の倍の魔物用意してもらおうか。太陽の力が戻れば太陽の光でしか生きられない魔物も復活するだろうし」

「……それも良いな」


 衛理が未来を見ることを諦めていることは神哉にも察しがついていた。失いたくない恐怖から衛理は未来を考えない。それでも、来年の事であっても衛理がその次の話をする。それが嬉しくて、神哉は明日に響かない程度に話を進めていった。


 夜遅く、消灯時間に衛理は合宿場の見回りに向かった。昨日は殆どの部屋が電気で溢れていたにも関わらず、今日はどの部屋も消灯し、気配をたどればほぼすべての生徒が眠りについていた。



 決戦は明日。その前に静かな眠りをと祈りながら、衛理はそっと合宿場のドアを閉めた。





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