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にぎやかなクラスの物語  作者: 颯待 彗
一学期~太陽と魔法と。~
1/48

1話 今日も彼女たちはにぎやかで

にぎやかすぎる彼女たちの日常を温かく見守ってあげてください。

 其の熱病は1年にも満たぬ内に発生し、拡散し、蔓延し、そして終息した。


 人類が経験したことのないその病は多くの人間に感染し、だが死者は歴代の世界的パンデミックに比べ少なすぎるぐらい居なかった。熱に浮かされるだけのその病は蔓延し、だがあっという間に収束していった。


 異変が起こったのはその熱病終息から半年後の事。熱病に罹患した者たちから次々と当初は超能力と呼ばれた異能力が発現された。その力は古の物語にあるような魔法に似ていて、おおよそ人類の全てがその能力を手に入れるのに同じく1年も掛からなかった。


 各国政府はこの能力を正式に魔法と定め、その力を正しく使えるよう指導する魔法省の設立が相次いだ。もちろん中には宗教的な理由でその力を嫌う者たちも居た。だが大半の国がその力を許容したことにより一部地域を除き宗教と魔法に折り合いをつけて受け入れていった。


 斯くして人類は魔法と呼ばれる力を手に入れた。魔法省の指示のもと魔法をより深く学べる魔法学校が相次いで設立され、魔法科の設立も相次いだ。


 そして、人類が魔法という力を手に入れ普及し、定着してから5年の月日が経過した。



 極東の地、日本。この国は魔法という力にいち早く順応した国の1つである。宗教観で抵抗があった欧米より宗教があいまいなこの国は不思議な力にも造詣が深く、いち早く自分たちが手に入れた力を超能力ではなく魔法であると定義していた。故に法整備や教育機関の整備も世界で早い方に入る。元々の教育機関の多さも相まって魔法学校の数は人口に対する比率で世界一を誇っていた。


 魔法学校にはいくつかの専門科が存在する。主だったものは、現実世界あるいは空想上の生物を呼び出す召喚科、怪我や病気を治す魔法や魔法薬の研究開発を行う治癒魔法科、魔法を学問として扱い詠唱による威力や効果の実験を行う魔法文学科、魔法そのものにアピールを施そうとする魔法研究科、そして魔法を戦闘の手段として認識し実践教育を行う魔法戦闘科だ。


 人類は魔法を手に入れた。ならばそれを正しく使うものも居れば悪用するものも居る。言ってしまえば全人類が武装できている状態である。そんな世界で魔法を戦闘の方法と考え、実践教育で正しき力とする戦闘科は保護者からは賛否あるものの警察や特殊部隊にて重宝される魔法戦闘員になれる、子供たちに人気の職業への近道として親の反対を押し切っても入学を希望する生徒が後を絶たない。それが魔法戦闘科、主だった専門科の中で一番人気の学科だった。


 日本に数多ある魔法教育機関の1つ、東京に隣接する某県の端に存在する総泉女学園。ここは元々存在していた学校を丸々魔法学校にしてしまった例の1つである。近隣では特別に人気のこの学校、総泉女学園は女子校ながら戦闘科の存在する珍しい学校だった。

 総泉女学園は元々『男性に依存しない自立した女性を育てる』をスローガンに掲げる女子校で、魔法という力が世に普及した際いち早く魔法戦闘科の設立を決定した。これからは男女平等にこの力で世界に渡り合うと考えた当時の学長の判断は正しかった。中等部から存在するこの学校の入試倍率は近隣の学校から頭二つほどとびぬけている。


 総泉女学園高等部は東京との境目にある川沿いに存在している。とある朝、登校する生徒の一団に一際総泉女学園の制服であるセーラー服をたなびかせて弾むように歩く少女が居た。彼女の名前は(おおとり)真唯まい。総泉女学園高等部魔法戦闘科1年に所属する生徒の1人である。


 決して背が高い方ではなく近隣の男子校や共学校などに登校する生徒たちに埋もれそうな彼女は日本人では珍しい地毛である明るい茶髪を揺らしながら学校への坂道を駆け上がっている。髪質は硬いのか、ショートに切られている髪はところどころ外側にはねている。表情や顔立ちから初めて彼女を見た人物は9割9分9厘『あぁ元気な子だ』という印象を持つだろう。


 そんな彼女は毎日楽し気に学校へ向かう。校門を抜け、1年生の校舎に入り階段を駆け上がる。そして勢いよく戦闘科教室のドアを開けた。


「おっはよ~っ」

「おはよう真唯。朝からあんたは元気だね」

「元気が一番っ」

「はいはい」


 真唯のクラス、1年D組の教室には25人分の机が並んでいる。その半分がすでに生徒の姿で埋まっている。中等部からの持ちあがりだが中学の段階で攻撃魔法に向いていない者は他のクラスへ移っていて、他の学科が35人程度ずつの所、攻撃魔法科だけは25名の編成だった。


 真唯は一番後ろの自分の席にカバンを置くと教室を入ってきたときに声を掛けてくれた友人たちの元に向かった。


 黒髪をボブカットし少しだけ吊り目のクールビューティ、大埜おおの爽子そうこ。肩につくかつかないか位な長さのふわふわの茶髪のおっとり系、鈴鹿すずか美穂みほ。中学3年間同じクラスで過ごしているが故、ほとんどが真唯の友人とも呼べる関係にあるが特に親友と呼べるのが爽子と美穂だった。


 普通女子校で同じクラス全員仲良しというのはあり得ない。女子の集団というのはどこかと敵対をしていなければならない決まりでもあるかの如く必ず敵対する。だがここは魔法戦闘科クラス、実践魔法で戦闘を行うクラス。実技や実践で生死を共にした彼女たちの団結力は硬く、適性のない少女達は他のクラスに移動していき、残った25人は学園屈指の協調性と結束力を有していた。


「1限何だっけ?」

「魔法基礎学」

「あ~駄目だ。寝る」

「また学年主任に怒られるよ?」

「無理無理」


 適性と成績は別である。真唯の成績はABC5段階の内のD。それもぎりぎりでEに行かない低空飛行。単に魔法戦闘科にも存在する学科成績の悪さゆえの成績だった。

 魔法戦闘科は実技で魔法を扱うだけでない。他学科の授業も週1コマは存在していてその他に一般的な国数英理社が週1コマ存在している。他には魔法基礎学、召喚学、詠唱学、治癒学、研究学、実験学が学科として設定されている。真唯は、一般教養の国数英理社はもちろんのこと、魔法学科6学もテストで1桁のいわゆる酷い成績をマークしていた。


 それでも彼女が魔法戦闘科でやっていける理由。それは残りのコマ数を占める魔法戦闘学での成績の良さからだった。ずば抜けた運動神経に戦闘センス、そしてある特性により魔法戦闘学のみでいうならばS++という最高ランクの成績を維持していた。


 Eに近い成績を記録する学科とS++という最高成績を叩き出す実技。平均してDという成績。それが鴻真唯の成績だった。これには学年主任も頭を抱えている。何せ彼女のように専門学科の好成績と他学科の低成績を平均して中間成績という生徒は学年全体を見れば真唯だけでは無かったからだった。


 朝の登校時間、次々とクラスメートが登校してくる。朝の鐘が鳴り、全員が席に着く。入ってきたのは薄い茶髪の青年。だが彼はこのクラスの担任ではない。


「おはよう皆。今日も元気そうで何より」

「学年主任毎日同じこと言うよね」

「このクラスは毎日元気そうだからね」


 見かけ年若い青年である彼は高等部1年の学年主任である雪柊ゆきひいらぎ神哉しんや。中学からずっとこの学年を見守ってきた青年は今戦闘科クラス担任代理を行っている。


 中学から高校に上がる際、魔法戦闘科クラスは完全に選別された。実力Sランクが大半を占めるこのクラスに高校で充てられていた担任は最初こそなんとか戦闘科クラスの担任を遂行していた。だがある実践戦闘を境に学校に来なくなった。あまりにも圧倒的な実力に恐れをなしたからだった。


『アレ等は化け物』


 それが登校を促す学年主任が最後に聞いた元担任の言葉。そして初夏に差し掛かる現在に至るまで戦闘科は担任不在。本来魔法を扱うクラス、特に戦闘科クラスは担任が居ることを前提にしている。魔法省が制定した学校法にもそれは記されている。だがどんな人物を見繕っても、1日と持たずに辞めていく。中には心無い言葉を吐きながら逃げ出した教師も居て、あまりにもと学年主任、神哉は5月の頭から担任代理として本来の魔法基礎学と共に魔法戦闘学も見ている。彼は中学の1年からこの学年を見守り続けている。この代の魔法戦闘科クラスが異質な力を持っていることは最初から身に染みて痛感していた。


 神哉からみれば戦闘科クラスだけではない。A組の魔法基礎科、B組の治癒科、C組の召喚科、E組の詠唱科、F組の研究科、G組の実験科、H組の解析科。そのすべてのクラスにおいて天才という人物は居る。それは歴代他の学年でもそうであるように。だがこの学年はその割合が多すぎる。1クラスに3人居れば最良と呼ばれるのにもかかわらず、この学年全体、1クラスに半数以上がその学科の天才級。全体成績は真唯などを除いたならば平均Aを誇る元担任の言葉を借りるならば化け物学年だった。


 そんな学年が存在することを役所も学園も信じてもらえない。真唯をはじめとする天才が故の他学科低空飛行者の存在で平均成績がBになっているのも原因だった。どのクラスにも特級の天才であるがゆえに他に興味を示さない者、一般教養が苦手なものは存在している。だが所詮学校の成績は点数とランク付けがすべて。どんなに神哉がこの学年の異常性を訴えても誰も信じてくれない。


 つらつらと考えながらの板書が終わる。1限目の魔法基礎学は神哉の本来受け持つ学科。そのまま授業に突入したが振り返れば真唯含め何人かは眠りの淵へ旅立っていた。いつもの光景の為、もはやあきらめの境地で神哉は板書を終え振りかえる。


「とりあえずここまでが中間の範囲になるよ。君達には簡単すぎるかもしれないけどごめんね」

「いや今更じゃないかな学年主任」

「コレ中3の夏休みに宿題で出たところじゃん」

「一部を除き君たちの理解能力が早すぎるんだよ」


 あくまで彼が進めているのは魔法教育省から配布された指導要綱に乗っ取った進行速度。だがこの学年全体魔法基礎学の呑み込みが早い。気まぐれで中2の春休みに高校の内容を宿題に出したところほとんどの生徒が正解を叩き出した。それ以来通常授業は指導要綱通りだが宿題に上級学年で習う、調べれば判る問題を出していた。


「先生もいろいろ大変なのですよ。じゃあ今日は此処まで。寝ている子達にも範囲については教えておいてね。特に……鴻さんには念入りに」

「わかってま~す」


 チャイムが響く。挨拶もおざなりに神哉は教室を出て教員控室に向かう。D組の次の授業は2コマに渡る戦闘実技授業だ。教員用更衣室でスーツからジャージに着替えると校庭に出た。早着替えでも会得しているのかすでにD組の生徒達は数名校庭の戦闘フィールドに立っていて、中でも元気に跳ね回っているのは先ほどの魔法基礎学では開始5秒で眠りにいざなわれた真唯。


「おはよう鴻さん。元気そうで何よりだよ」

「うげ……だって仕方ないじゃんか……戦闘は口頭で説明してくれるけど他は文章並んでて……読んでると眠くなるんだから」

「はいはい。もうちょい学科頑張ってね。というかどちらかと言えば他の実技科目も頑張りましょう、かな」

「ぐぬっ」


 真唯の成績は悪い。ただそれは学科だけにとどまらない。他の学科、例えば召喚科、こちらにも魔法を使う実技科目も存在している。魔法を使って幻想生物を召喚する為に幻想生物やそれらの召喚法を学ぶのが学科、実際に幻想生物や地球に現存している生物を召喚するのが実技となる。そんな中、真唯は後者の実技召喚すら指定された物とは全く別のモノを召喚するという不器用さを発揮している。過去にそういった不具合を起こす生徒はおらず、故に真唯はただただ己の実力を発揮できる戦闘科だけで高得点を叩き出していた。


 今日の戦闘科の実技は肩慣らしの的当て、その後幻想生物を想定した戦闘訓練となる。全員が揃い、始業のチャイムと共に的当ての準備が整う。


「じゃあ今日も的当てから。出席番号逆からね」

「いつも逆からじゃんかぁっ」

「鴻さんの被害が甚大すぎるから苦肉の策です」


 的当ては5人ずつ。真唯の出席番号は5番。最後の組になる。クラスメートたちは各々得意な属性の魔法を玉と成して的へと飛ばしていく。水、風、土、雷と言った基本の属性で皆肩慣らしを行う。その当たりは必中。あくまで肩慣らしの名目だが指導要綱ではこの的当てがメインに据えられている。予定の幻想生物との戦闘訓練は高3の内容であるが他の学科クラスと同様に専門学科だけは実力に見合った指導を行うよう他の教員にも指示を出している。それは一重にこの才能を殺したくないが故。役所から苦情が入ったなら戦闘科を解き放つのもやぶさかではないと神哉は考えていていた。彼女たちの機嫌を損ねて自分たちに矛先が向かうぐらいならば役人を生贄にしようという魂胆である。


「じゃあ1番から5番」

「っしゃぁっ」


 真唯は指定された場所に立つ。其処は他の生徒より的から離れた場所。それでも真唯の的の後ろには3重の防御障壁が張り巡らされていた。


 魔力が真唯の手に宿る。いつも通りの力を発揮しようとしたその時だった。


 爆発音が響く。真唯たちのいる戦闘フィールドとは校舎を挟んで真逆。其処には武装した男たちが魔法で学園に張り巡らされた防壁を破壊しようとしていた。


 魔法を使いながら魔法を受け入れない者も居る。自分たちだけの占有能力にしようとする者、手段として残しつつ人類から魔法を駆除したい者。そう言った者たちは魔法テロリストとして魔法学校や魔法省の要所に現れる。

 今学園に現れたのは後者、魔法は悪の力と標榜し人類から魔法を取り除くとして魔法学校を襲い続けるテロリストの一団だった。


「くそっこの学校防壁が厚すぎるっ」

「あの噂は本当かもな」

「噂?」

「あぁ。この学校は魔法使いより醜悪な魔女を育てる学園だと」

「失礼だなぁっ魔女だなんて。誉め言葉だけどさぁ?」


 男たちの正面、昇降口の屋根の上に立つのは戦闘科1年の木原きはら悠華ゆうか。学科実技共に優秀なクラス主席にして学級委員長。彼女はサイドで纏めた髪をたなびかせ男たちを見下ろした。


「ただの女子高生に大人が随分な言い草じゃないのっ」

「生徒か。大人しく下がっていろ。そうすれば怪我をしなくて済むぞ」

「それはこっちのセリフだよオジサンたちっ」


 テロリストたちの背後で破られた防壁が再生される。3重展開されたその向こうで少女が2人笑っていた。


「なっこんな速さで」

「家の戦闘科は威力と速度がウリだからね」

「くそぉっ」


 焦れた男の手から水弾が射出される。だがそれは悠華の元に着弾する前に水蒸気となって消えた。


「なんっ」

「暑っ……じゃあオジサンたち。実技の授業がフイになって切れている家のエースのお相手よろしく」


 汗が流れる。冷や汗ではない。男たちの周囲の気温が着実に上がっている証。


 人類は確かに万能の魔法の力を得た。だが万能の魔法でもできないことが3つ存在していた。


 1つは生死を操ること。死した人は魔法では帰らず、新たな生命体も生み出せない。どんなに研究が進んでもいまだ死者蘇生の魔法は禁じるまでもなく発見すらされていなかった。


 1つは原子を操ること。今まであった化学の範囲、原子の力は魔法をもってしても操れない。水を手に出すことはできても水素と酸素に別けることは誰にもできてはいない。もちろん放射能の含んだ物質を操ることもいまだ誰も出来てはいない。無から有は生み出すことが出来ない。


 そして最後の1つは火の力。特性によって操ることのできる水、風、土、雷の力の他に火の力も存在はしている。だがほぼすべての人物がライター以上の火力を操ることができない。


 最初の熱病で熱量を使い切ったとも言われるその火力。全世界全てを合わせてただ1人だけ、気温すら操作できるほどの火力を持っている少女が居た。


「ぜってえぶっ飛ばすっ」


 ゆらりと立つ陽炎の先、テロリストの前に現れたのは真唯だった。


 灼熱と共に炎がテロリストたちを取り囲む。炎に囲まれるという初めての経験にパニックになった男たちはがむしゃらに水弾を放つが次々と水蒸気になって消えていく。手に水を集めた瞬間水蒸気になったところで彼らの恐怖は最高潮に達した。


「ば、化け物っ」

「もう聞きなれてなんにも感じないよっ」


 真唯の蹴りが男の顎に炸裂する。武器に炎弾を当てて溶かしていく。他の戦闘科1年メンバーは延焼を防ぐため障壁を張り、炎を超え逃げ出した男たちを捕縛するといったように役割分担を行っていた。


 そんな生徒たちの様子を神哉は屋上から眺めていた。基本的に高等部は今年から敵性侵入者への対処を1年の生徒達に任せていた。下手に教員が出るよりも速やかに確実にどのクラスであっても対処し終えるからだった。特に現在対処中の戦闘科1年のクラスは今の5倍の人員が攻め込んできても適切に対処可能。今の程度ならば真唯1人でも対処できる範囲だった。そして学年主任は其の様子を実技の成績として記録していた。


「さっすが現在学園最強クラス……」


 真唯の戦闘センスはどこで鍛えたのか誰よりも優れている。今も拳銃を取り出される前に抑えて溶かし、そのまま蹴りを加えている。真唯の基本戦闘スタイルは蹴り技。必要とあれば足に炎を纏わせて蹴りを繰り出す。対人戦闘は炎弾や炎は威嚇や補佐で、ほとんどは蹴りで決めていく。


 次々と男たちを沈め、最後の1人をかかと落としで沈める。炎は一瞬で消え、後に残ったのは気絶した男たち。


「学年主任~終わったよ~」

「判っているよっ後片付けしておくから教室戻って」

「埋め合わせ絶対だかんねっ」


 ワイワイと賑やかに教室へ戻っていく1年D組の面々。見送った学年主任は最初の侵入人数と今気絶している人数が同じことを確認し、転送魔法で警察の専門課に通報と共に転送する。


「あとでまた課長さんから苦情来るんだろうなぁ……仕方ないじゃんか……学生だけで秒殺しちゃうのだから」


 転送を終え、ついでに焦げた地面も物質構成改変魔法で綺麗に戻す。慣れてしまった対処作業に苦笑いを浮かべ、おそらく暴れ足りないと文句を言ってくる戦闘科クラスの面々を思いながら校舎へと戻っていった。


 D組の教室では学年主任の予想通り暴れ足りないと文句を述べていた。その中心は真唯。


「あんたね……あれだけ暴れてまだ足りないっての?」

「だって今日の実技予定特別な日用のワイバーンだったじゃん!?せっかく思いっきり燃やせると思ったのにっ」

「対人は最高火力で燃やせないもんねぇ」

「真唯って威力調節苦手かと思っていたけど威力調節していたんだ」

「あんまりできてない。単純に蹴り飛ばすのに使ってないだけ~」

「……普段幻想生物ぶん殴ってる時の加速魔法は?」

「アレ威力調節できないから人間相手だと内臓破裂させちゃう」

「……あんたの課題は威力調節じゃないかな」


 笑いあう生徒達。それはいつもの光景。


 ある時、誰か教師がなんであんな戦闘をして笑っていられるのか問われたD組の生徒は逆に笑って答えた。


『そうですね。きっと真唯の力は恐れたりするそんな力なんでしょうね』


 別の生徒も同じように笑って答えた。それが彼女たちにとって当然のごとく。


『でもそれは真唯以外が使っているならば、です』


 また別の生徒も、綻ぶ様に笑いながら答えていた。


『真唯が使っているなら、あの子が使っているならば、全然怖くないんです。だってあの真唯だもの』


 4年間同じクラスである彼女たちは真唯を全面的に信頼している。それが鴻真唯を知っている人間のいつもの反応。どんなにとんでもない結果をもたらしても、真唯だからと笑って流せるように。


 その回答を聞いた神哉はその笑顔に答えるようにほのかに笑っていた。


「その心がきっと鴻さんの支えになる。だから君たちは笑っていて」


 教室への階段を上る。そしてノックの後ににぎやかなクラスの教室の扉を開けた。実習着のまま緊張をほぐし切っていた彼女たちに神哉は笑いかける。


「時間あるからワイバーンは無理だけどシープスライムなら出せるよ~」

「暴れられるなら何でもいいっ」

「今日も羊スライムさんが生贄に……」

「ヤギスライムに変更するべき?」


 笑いが零れる。今日も、彼女たちは空に輝く太陽のように笑顔だった。





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