第98話 見せろ根性、発動せよ、即席魔術
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
やっぱりサブタイトルを考えるのって難しいですね……内容との関連杖付けも大事だとは思うのですが、語呂とか考え始めると本編以上に頭を抱える羽目に……。そして悩んだ割には普通のタイトルで悲しくなります。
もっと勉強と努力が必要ですね、たくさん本を読もうと思います。身につくかなぁ(遠い目)
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
豪快に笑ったアストライオスさんにこしょこしょと即席の魔術発動方法を指導してもらうこと数分、今からいうことを根性で覚えろと言われた割に、それはわかりやすく単純な方法だったので、俺は逆に不安になる。
「え、そんなので本当に魔術が使えるんですか」
「そんなのとは何じゃ、失礼なやつじゃのう。即席じゃと言うとろうに。お前さんが使いたい魔術であれば十分対応できるわ。大体、お前さんに魔術の素養がないことが悪いんじゃ。文句を言わずに早うやれ」
疑う様な態度を取った俺を眉間に皺を寄せて不快そうに俺を睨んだ後、親指を下にして顎の下辺りでクイッと横に引っ張って見せた。わぁお、何て怖いジェスチャーなんだ。
でも、そのやり方なら結果の中から攻撃ができるし、自分の身の安全も保障できる。もう一度アストライオスさんをちらりと見ると視線で圧を送られた。俺は不安を抱きつつ、自分の手を見て深く息を吐いて決意を固めた。
「よし、いくぞ。えいっ」
アストライオスさんから受けたアドバイスは“手を銃の形にしてそこに魔力を集中させてそこから魔力を打ち出すイメージをする”と言うもの。俺は半信半疑の状態でそれに倣う。
すると一瞬だけ血管がブワッと開き、熱くなる感覚がした。その熱が指先に集まったと感じた瞬間、指先から青い波動が打ち出される。自分への衝撃はそれほどなかったのでアレを自分で出したと言う感覚は全くなかった。
「おわっ、本当に出た……」
正直、即席で短時間の指導だけでズブの素人である俺が魔術を使えるなんて思っていなかったのですんなり魔術が発動したことに驚いて間抜けに呟いて呆けてしまった。
そしてこんな感じで攻撃を繰り出すキャラ、昔いたなと思えてしまう呑気な自分もいることに驚くと言うか、某主人公と酷似した技を使えている自分にテンションが上がっている自覚はあった。この状況でもオタク思考にシフトするなんて我ながら呑気だと思う。
『テンションが上がっちゃうのはわかる。僕もあの作品はそうとう読み込んだからね~。憧れて酔っちゃうのは分かるよ』
「うん、主人公みたいな体験できてちょっと嬉しい」
聖がわくわくしている俺を見て感慨深く同意した。だよな、指先1つで技が使えるなんてかっこいいよな。誰でも1回は憧れるよな。
そんなしょうもないことにお互いに頷きあっている間にも俺が打ち出した魔術は乱発され続けるフィニィのエネルギー弾の内1つを捉えた。
エネルギー弾に命中したそれは青い波動から正方形の箱の結界へと姿を変え、エネルギー弾を包む。するとエネルギー弾はその勢いを失い、結界の中で爆発をした。もちろん、爆発による周囲への影響は全くない。
「えっ」
無心にエネルギー弾を打ち出していたフィニィの動きが止まる。あれほど狂気的に叫んでいたのが嘘の様に目を丸くして動揺の色を映していた。
「わ、凄いです!命中しましたよ」
「シュバルツ凄い!」
シルマが瞳を輝かせて嬉しそうにパチパチと手を叩いて喜ぶ。それにつられる様にシュバルツも両手を上げてぴょんぴょんと跳ね、喜びを露わにしていた。純粋な反応に何だか恥かしくなる。
「ああ。魔術が苦手と聞いたがこの土壇場でよくコントロールできた。元は魔法騎士であるが故、素質はあるのかも知しれないな」
「うんうん。クロケルさんも凄いけど、おじいちゃんも流石だよ。どっちも最&高だね、ヒューカッコいい」
シュティレもエクラも、何故か俺のことを褒めて来る。それについてはちょっと嬉しいが、たった1発しか攻撃を止めてないのにこの称賛の荒しは素直に受け入れていいものなのだろうか。微妙に喜べない……。
『いいじゃない。素直に喜んでおきなよ。モチベーションが高い方がやる気に繋がるでしょ。ってことで、僕からも……クロケルカッコいい~』
「お前に言われると馬鹿にされている様にしか聞こえねぇ」
『えー何でっ』
ギャーギャーと騒いでいると何かうんざりとした視線を感じ、ふとそちらを見てみるとミハイルがジト目でこちらを見て言った。
「これぐらいのことで喜ぶとかガキじゃねぇか。くだらん、喜ぶなら成果を上げてからにしろよ」
そんな厳しい言葉に続いてシュバルツに抱きしめられたままのアンフィニも頷く。
「ああ、全くだ。やった1回の成功を喜んだところでなんの解決にも繋がらんからな」
冷静にそして当然の様に厳しいハイルとシュバルツの言葉に浮かれていた心がスンッと収まる。
「あー、はいはい。申し訳ございません。舞い上がってなんかないですよー」
俺はちょっとだけイラッとしながら答えた。褒められ過ぎても戸惑うが、面と向かって厳しい言葉を掛けられると不快だと思ってしまうのは何故だろうか。心って複雑だな、マジで。
「何よ、たった1回……しかも1個しか攻撃を止めてない癖にいい気にならないで!こっちの魔力はまだ尽きてないんだからっ」
わちゃわちゃとした空気の中、暫くの間浅く息をして小さく震えながら固まっていたフィニィがすぐさま気持ちを持ち直してこちらに威嚇した後、負けてなるものかと表情を引き締めて再び雨の如く攻撃を繰り出す。
「ほれ、また来たぞ。先ほどの要領であの的を狙ってみよ」
アストライオスさんがポンッと俺の背中を押す。まだ心に残るむず痒さを押さえ、俺は手を銃の形に構えて目を閉じ、深呼吸をした。
また体中の血管が熱くなるのを感じる。そしてその熱は指先へ渡り、感覚に慣れて来たのか今度は今なら打てると言う確信が持てた。
「当たれっ」
叫んだと同士に今度は俺の指先から連続して波動が繰り出される。もちろん偶然ではない。俺が数発出ろと念じてそれが見事に形になったのだ。思わず「よっしゃ」と喜びの言葉が漏れる。
俺の波動はフィニィが打ち出したエネルギー弾を1発ずつ全て結界で包み込んで行く。結界はエネルギー弾を捉え、結界内で爆発させて無効化させてゆく。
「嘘でしょぉ……」
攻撃を全て攻略されてしまったフィニィが涙声で呟く。心なしか息も荒くなっている様だ。
それに魔力切れとまでは行かないようだが、間髪入れずに攻撃を続けているために流石に疲れが出ているのか、フィニィ打ち出したエネルギー弾は最初と比べると速さも威力も落ちていたので数も軌道も把握しやすくなっていた。
前にケイオスさんに言われたが、俺って結構動体視力が良いのかもしれない。フィニィが何発攻撃を打ち出したのか、どう言う軌道を描いて向かってくるかがわかる。何かちょっと気分がいいな。
『やったね!クロケル、前段命中!中々やるじゃん』
「ほほほ、ワシの指導が良いからかのう」
聖がテンションを上げて俺を称え、アストライオスさんが満足そうに頷いて自分で自分の指導力を称賛していた。
「最初にクロケル殿の考えを聞いた時は驚いたが、こんなに上手くいくものなんだな」
「はい。結界は基本自分を防衛するか相手を閉じ込めるものと言うイメージがありましたが、攻撃を閉じ込めるなんて私には思いつきませんでした」
「あ、あはは。シルマとアストライオスさんの指導がよかったからだな」
シルマとシュティレに何度目かの尊敬の眼差しを受けられ、微妙に気まずくなった俺はすっと目を逸らした。
褒められているのにこんなに気まずいのは何故だろう。アレかな、漫画の技をトレースしたから後ろめたさがあるのかもしれない。こんな風な結界の用途に意外性があるらしく、称賛されているが実際のところ純粋なオリジナル技ではない。ほぼパクリである。
「ああああああああっ!どうして、どうして、倒されてくれないの、どうして抵抗するの!ムカつく!許せない!許せないっ」
何度エネルギー弾を作り出し、それを繰り出しても全て結界に閉じ込められて無効化されてしまうため、これ以上の攻撃は体力と魔力を消費するだけと悟ったのか、フィニィは宙に浮いていた状態から地面に降りたち、そのまま力なく項垂れる。
『お、どうしたの。ひょっとして降参かな、クロケルの勝ちってことでいい?』
聖が挑発とも取れる軽口でフィニィに言葉を投げかける。なんでそんな言い方をするんだよ。物事を穏便に済まそうと言う気はないんか。
俯いたまま微動だにしないフィニィの様子をハラハラしながら窺っていると、案の定俺の方をキッと睨みつけて叫ぶ。半端ではない殺意を感じて身震いした。
「もー!!あなたたち、防御ばっかりでズルいよ!ちゃんと勝負してよ、この卑怯者っ」
卑怯者、卑怯者、卑怯者、卑怯者っ!!とヒステリックに繰り返しながらフィニィはぞの場で地団太を踏んだ。それは彼女の情緒が乱れた時によくみられる光景だった。
「いや、ズルくねぇよ。秘境でもないこれが俺の戦い方なんだよ」
「ズルいもん!ズルい!攻撃してるの私だけだもん。こんなの勝負じゃないじゃん」
あああっ!!と苛立たし気に絶叫してフィニィは頭を抱えて蹲る。思い通りに行かない展開にフィニィの精神が不安定になっているのが分かる。その様子を見てアストライオスさんがふぅーとため息をついた。
「みっともないのう。情緒も魔力も乱れまくっておるぞ。どうするのだ、このまま捕らえてしまうか」
「う、うーん。そうですね……それが可能であればそうしたいですけど、どうやって捕まえたものか……」
アストライオスさんにそう提案されたが、そう簡単に首を縦には触れない。と言うかどうやって捕まえるか全く考えていなかった。
今は大人しいが、その内突然キレてまた暴れ回るかもしれないし、捕まえる前に精神を落ち着かせた方はいいとは思うが、怒りの対象である俺たちが目の前にいる限りそれは絶対に不可能なことだろうな。
蹲ったままのフィニィの様子をハラハラしながら窺う。いつ爆発するかわからない爆弾を気にしつつ思考を巡らせているせいか、中々いい案が思い浮かばない。
「また暴れられたら一緒だもんねぇ~、クロケルさんもいつまでさっきの結界魔術で攻撃を防ぐことが出来るかできるかわからないもんね。おじいちゃん、なんかいい方法ないの?
サクッと手伝ってよ」
すっかり困り果てている俺に完全に苛立っているアストライオスさんだったが、それを見かねたエクラがアストライオスさんを覗き込み、軽口で頼んでくれた。
いや、サクッとってそんなお菓子じゃないんだから頑固なアストライオスさんが了承するわけが……
「はあー、仕方がないのう。可愛い孫娘のお願いじゃ。捕獲ぐらいは手伝ってやろう。もちろん、お前さんたちがしつこく望むように無傷でな」
了承するんかーい。あんなさらっとしたお願いでも聞き入れるとか孫パワーすげぇ。ありがとう、エクラ。君なくしてアストライオスさんの協力関係を結ぶことはできなかったぜ。
「ご協力ありがとうございます。じゃあ、お願いできますか」
情緒を乱したフィニィが動く様子はまだない。多分、こちらの会話は聞こえていないだろうし、捕獲するのであれば今がチャンスである。
アストライオスさんが捕獲する前、もしくは捕獲途中にフィニィの感情が爆発してしまえば、身を守るためアストライオスさんは間違いなく抵抗するだろう。それだけは避けたい、絶対に避けたい。
頼み事をするにしては態度が悪いと思いつつも、早くこの場を切り抜けたい思いから御礼の言葉もそこそこに早口でお願いをして素早く頭を下げた。
「わかっておる。エクラの言葉を借りるのであれば、サクッとすませてやろう。星の一族の術式、とくとその目に刻むがよいぞ」
不敵な笑みを浮かべた後、アストライオスさんは俺たちの傍を通過し、平然と防御壁の外へ出た。
「あ、アストライオス様、防御壁の外は危険ですよ」
何の対策もなしに防御壁の外へと出たアストライオスさんに誰もが驚き、シルマが必死で止める。
「だ~いじょうぶじゃよ。ちょっと行って来るだけじゃから」
みんなの心配の視線を受けているのは感じているだろうに、アストライオスさんはこちらを一瞥もすることなく、代わりにひらひらっと手を振りながら答えた。
そのままのんびりと歩を進め、フィニィとわずか1メートルの距離のところまで近づいた時、頭を抱えて蹲ったまま身動き1つとらなかったフィニィの肩が僅かに動いたのが見えた。
「悪いのう、可愛い孫娘が見ておるのじゃ。捕らえさせてもらうぞ」
アストライオスさんは穏やかに言いながら印を結んだ。その声に反応してフィニィがゆっくりと顔を上げる。
フィニィは無表情だった。そのまま数秒ぼんやりとアストライオスさんを見つめた後、静かにふっと噴き出した。
「ふふ、あはははは。ターゲットが自ら近づいてくるなんて好都合!このまま消炭にしてやるっ」
そのまま勢いよく立ち上がり、狂気的な高笑いをしたかと思えばフィニィの左手にまた黒いエネルギーが集まり始める。それは瞬く間に黒い雷を纏ったブラックホールへと形を成した。
「やばい、フィニィの戦意が戻ったっ」
「た、大変です!ここから防御壁をっ」
目の前のヤバめな光景に真っ青になって慌てる俺とシルマをエクラがくすりと笑って言った。
「ちょっと、2人とも慌てすぎ~。大丈夫だよ、おじいちゃんだし」
「そ、そんな呑気なこと言ってる場合じゃないだろ。と言うか、なんでそんなに落ち着いていられるんだよっ」
アストライオスさんとフィニィの距離はおよそ1メートル。そんな至近距離であんな禍々しい攻撃をくらえばいくらアストライオスさんでもひとたまりもないと言うか、躱せるのかアレっ。
確かに余裕の姿勢をアストライオスさんも余裕を崩してないけど!アストライオスさんとエクラを交互に見ながらオロオロしていると、エクラがもう一度クスッと笑って見せた。
「ホントに平気なの。あたしのおじいちゃんを誰だと思ってるの?神の一族の直系、そして星の一族の長だよ」
エクラが言うと同時にアストライオスさんとフィニィ足元に半径5メートルほどの大きな金色の魔法陣が現れ2人を囲んだ。
「何をしようとしているかは知らないけど、この攻撃さえ当たれば私はどうなってもいいからどうでのいいわ!くらいなさいっ!!」
そう叫んでフィニィが左手に溜めたエネルギー弾をアストライオスさんに繰り出そうとしたその時、その行動に呼応する様に魔法陣が光り、金の輪が空中に現れて一瞬の内にフィニィを拘束した。彼女が腕に抱えいる半身であるウサギのぬいぐるみも一緒に縛り付けられている。
ぬいぐるみともども全身をがっちり拘束され、自分の思う様に身動きが取れなくなった彼女はバランスを失って再び地面に尻をついた。
「いたっ」
予期せぬ転倒をしてしまってフィニィは涙目でその場に転がった。金の輪がフィニィの体に縛り着いたと同時に、あれだけ禍々しい電撃を纏っていたエネルギー弾が煙の様にポシュッと音を立てて消えた。
「え、えっ。なんで、どうして。私、確かに力を溜めて……」
フィニィが瞳を潤ませながら狼狽する。しかし、その状況に驚いているのはこちらも同じだ。アストライオスさんが何をしたのか全く理解が追いつかない。
必死でもがくフィニィに地面をじゃりっと鳴らしながらアストライオスさんが無言で近づく。
「ま、まだよ。魔力まだ尽きてない。もう一度っ……!?」
拘束されても強気で足掻こうとしたフィニィだったが、直ぐにその強気が消えてその場で固まってしまった。
「な、なんだ」
「……相手の動きが完全に止まったな」
戸惑う俺の隣でシュティレも不思議そうに状況を窺う。するとシルマがフィニィの方をじっと見つめて言った。
「フィニィさんから魔力を感じません」
「何ですと!?」
ポツリと言われた言葉に驚いて凛と佇むアストライオスさんを見れば、わずかにこちらを振り返ってにたりと笑ってからフィニィに向き直る。
「これは捕虜用に編み出した拘束魔術じゃ。その金の輪に拘束された者は縛られている間、一切の魔力の流れを断ち切られる。加えて筋力も低下する仕組みになっていてなぁ。故にお前さんに成す術はない、と言うことじゃ」
意地悪い口調でそう言った後、アストライオスさんは「諦めるんじゃな」と付け加え、カカカと豪快に笑って見せた。
てっきりモリモリの筋肉で解決すると思っていたが、意外に繊細な魔術で対応したことにちょっぴり驚いた。
「そ、そんな」
アストライオスさんの言葉を聞いたフィニィの表情が絶望の色に変わる。それを見たアンフィニは何か言いたげに一瞬だけピクリと体を反応させたが、感情を押し込める様に唇を噛み、そのまま大人しくシュバルツの腕に収まっていた。
口元が全く笑っていない笑みを浮かべてアストライオスさんが悔しそうに、そして不安そうに地面に転がるフィニィに不敵に言った。
「ワシの勝ちじゃな、小娘」
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聖「次回予告!ついに甲斐性を見せたクロケル。漫画の知識からヒントを得て状況を打開するなんて、オタク気質も捨てたもんじゃないね!寧ろオタクで良かったとさえ思えて来たよ」
クロケル「なんでお前は毎度引っかかる言い方をするんだ。お前だってオタクだろうがよ。ちょっと痛い奴みたいな風に言うのやめろ」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第99『フィニィ捕獲、くっころは男のロマン?いえ、個人によります』痛い奴なんて思ってないよ。ただ一度身についた中二気質って成長しても治らないんだなぁって思っただけだよ」
クロケル「やっぱり馬鹿にしてんじゃねぇか。と言うか、それはお互い様だろ」
聖「まあねぇ……異世界に神子として召喚されて、世界を救って長になっている時点で大分ファンシーな人生をリアル体験してるわけだし、今更中二とか言われてもねぇ」
クロケル「それを言われるとなにも言えねぇわ」