第97話 策がないのに啖呵を切るのはよくないです
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
田舎に住みながらオタクをやっておりますと、コンビニでやる1番くじが近くでやってない!と言う絶望を味わいますが、基本全店舗で行われるキャンペーン系(対象商品を買うとクリアファイルとかが貰える系)は競争率が低いからいいですね~
そもそも近所に若いオタクさんが住んでいるかも怪しいですし。中高生の学生さんぐらいですので……。
そんなオタクの呟きでした。毎度どうでもいい話を申し訳ございません。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
「な、何とかして見せるって……クロケル様、何か策でもあるのですか」
アストライオスさんに向かって本日2度目の啖呵を切った俺をシルマが心配そうに見つめて言った。
心配ありがとう、シルマ。実はね、君の心配通り策なんてないのだよ。だから今、考えなしに発言した自分を内心で激しく攻めているし、興奮も相まって心臓もバクバクである。体の外側は暑いのに内側は凄く冷たい。
「お前さん、やはり威勢だけはいいのう。それとも、そこなお嬢さんの言う通り何か策でもあるのか」
「うぐ、そっそれは……」
意地悪い笑みと視線を送って来るアストライオスさんに何か言わなければと必死で考えを巡らせる。
フィニィをなるだけ無傷で捕まえるにしても、まずはこの止めどない攻撃を何とかしなければ近づくことは叶わない。
考えろ、閃け俺!機転が利かない貧弱な脳みそを必死で回転させながら、どうすればこの攻撃を止めるための突破口をなんとしてでも見つけ出そうと試みる。
何かないかな、防御壁以外で都合よくこの攻撃をできれば安全に防いでフィニィに近づく方法……でも俺にできることなんて結界を張ることぐらいだし。
……ん、結界を張る?俺の脳裏にある閃きと言うか、あるアニメのビジョンが浮かんだ。昔、敵を結界で囲んで倒す漫画があった気がする。結界で囲んで消すヤツ。俺の能力ってソレに近くない?
いや、漫画と一緒にするのは良くないかもだが、俺の結界は触れた攻撃を暴発させることがきるから、多分あのエネルギー弾を上手いこと結界で包めば何かいい感じになるのかもしれない可能性がなきにしもあらずなのでは。
『回りくどい言い方だなぁ。もう少し自信もちなよ……でも、それは良い手かもしれないね!試してみたらいいじゃない。“なんかいい感じ”になるかもしれないよ』
「だから、ヒトの心を読むなっての。んで、ちょっと馬鹿にしてるだろ。俺は真剣なんだよ、真面目に絞り出した閃きなんだよ」
悶々とする俺の隣で軽口を叩きやがった聖を睨むとえへへと気持ち悪い笑みを返され、イライラが増した。この状況で馬鹿にしてくるとかどう言う神経してんだよ。ああ、なんで俺はこんなのと親友なんだろう。ああ、ストレスで頭がクラクラする。
『やだなぁ、馬鹿にしてないよ、これはホント信じて。ただ、この土壇場で面白いこと思いつくなぁって思っただけ。ほら、早速試して見なよ!君の思い描いた通りになったら突破口は開けるし、みんな驚くよ!株が爆上がりするかも』
聖夜がタブレットの体を俺にグイグイと押しつけて「早よやれ」と背中を押すが、イマイチ一歩踏み出せない。何故ならば俺にはまだ躊躇いがあった。
「待てって!それを実行するにしても俺、結界の発動のさせ方とかよくわかってないんだ」
『ケイオスから言われたじゃない、魔力回路を読めって。あの時はちゃんと読めてたんだし、イケるでしょ』
二の足を踏む俺に聖が何を戸惑っているのかとキョトンとして言ったが、俺にとってはそう簡単な話ではないのだ。
「それはそうなんだが……まだ魔力回路を読んだり感じたりすることに慣れてないんだ。この状況で」
ケイオスさんとの訓練で教えてもらった魔力回路の読み方はもちろん覚えている。落ち着いて集中した時に見えたあの青い脈は今もはっきりと脳裏に焼き付いている。
あの時は確かに読み取ることができたが、訓練だったので敵はいないし、集中することは容易だった。魔術のエキスパートであるケイオスさんが隣でアドバイスをくれていたことも精神的な支えになっていた。様は環境が良かったのだ。
だが、今は自分たちに殺意を向けた敵を目の前にしている上に味方から戦闘行動を委ねられ、尚且つ急かされている状況だ。防御壁の中で身の安全は保障されているとは言え、どうしても焦ってしまう。
こんな状況で集中して魔力回路を読んで、しかも動いているエネルギー弾を結界で包むなんて曲芸みたいなことできるわけなかろうもん。
『なぁんだ。そんなこと?大丈夫だよ、君の考え自体は良いと思うし、自信がないならここに2人ほど魔術のエキスパートがいるじゃない』
「2人?」
聖は余裕たっぷりにケラケラと笑って体をとある方角へと向けた。その行動に促される形で視線をやると、その先にはアストライオスさんとシルマがいた。突然話題になったことに驚いたのか2人共キョトンとして目を瞬かせている。
『忘れたの?この2人は魔術師なんだよ。君の思いついた作戦を話して、魔力回路の読み方と魔術のコツを教えてもらいなよ。幸い、この2人は君の事情を知っているんだから』
俺が抱える複雑な事情を他の仲間に聞かれない様に、聖は小声で俺の耳元でそう助言した。その言葉を聞いたモヤついていた心がふわっと軽くなる。
「そうだった!シルマ、アストライオスさん、この状況を突破できる方法を見つけたかもしれません。それを実行するため、俺に魔術のコツを教えてもらえませんか」
勢いよく頭を下げる俺の頭上でシルマとアストライオスさんよりも先にミハイルが怪訝そうな言葉が耳に届く。
「……魔術のコツ?お前、魔法騎士なのに魔術がつかえないのか。そう言えばお前、俺が見た限りでは魔術を使ったことがないな。いや、その前に戦っている姿もあんまり見たことがないような」
「えっ」
予想外のタイミングで鋭いツッコミを受けた俺は顔を上げ、ミハエルを凝視したまま思わず固まってしまった。多分、目には見えていないと思うが漫画の分かりやすい描写だと滝汗状態になっていること間違いなしだ。
なんでよりにもよってこの状況でそれに気がつくかな。せっかく固まった決意とか見いだせた希望とかその他もろもろが崩れ去るから今そう言うこと言うのやめて欲しいんですけど!!
ミハイルが余計なことに気がついたせいで、事情を知らないエクラ、アンフィニ、シュティレが驚いた視線をこちらに向けて来る。
なお、ころころと変わる状況にオロオロとしているシュバルツも事情を理解していないと思うが、バレても平気な気がするからスルーで良いと思っている。
「お前、まさか魔術が使えない、と言うか戦えないんじゃ……」
「あーーーーーーーっ」
固まったまま動かない俺を見て確信したのか、ミハイルが遠慮なく確信をついて来ようとしたので大絶叫でそれを妨げた。
「なんだよ、うるさいなっ。指摘されて都合が悪いことでもあるのか」
言葉を遮られたミハイルは眉間に皺を寄せ、不快を露わにして俺を怒鳴って睨む。しかもわざとらしく叫んだせいでますます怪しまれ、ジトリを通り越してギロリと睨まれて更に汗が噴き出る。
「つ、都合が悪いと言うか、恥ずかしいんだよ」
「はあ?恥ずかしい?どういうことだよ」
苦し紛れに取り繕った言葉をミハエルが苛立たしげに追及する。あーうーと明らかに誤魔化す様な態度をとりながらも、最終的にはこれしかないと思ってヤケクソになって早口で言い切った。
「お、俺、魔術を使うのが苦手なんだよ。剣術ばっかり修行してたら魔術の方が疎かになって、あんまり使えなくなったんだ」
「魔術が、苦手だと」
苦し紛れの言い訳だったが、ミハイルの声色から疑念が和らいだ様な気がしたので更に畳みかける。
「そうなんだよ!魔法騎士なのに魔術が使えないなんて恥ずかしから黙っていたんだ。ごめんな」
嘘である。本当は魔術どころか剣術も使えないヘッポコである。ケイオスさんとの訓練のおかげで体術ならそこそこできる様になったが、それでも素人レベル。レベル1なので攻撃力は低いし、敵にダメージを与えることは叶わないのが現実である。
「は、はい。私はクロケル様と初めてお会いした時にそれをお聞きしたので、魔術師としてサポートできればと思い行動を共にしているのです」
ハラハラして状況を見守っていたシルマが間髪入れずに俺の言葉を補い、そのフォローに激烈に感謝しつつ、俺は更に言い訳をすべくミハイルに詰め寄った。
「今から使う魔術はちょっと難しいから歴とした魔術師の2人に手伝ってもらいたかったんだ。ほら、今って大分ピンチだし、この際恥も外聞も捨てようと思ってな!ここで暴露してみた!」
全身にダラダラと汗をかき、心臓を限界までバクバクと脈打ちながら体を突き破りそうになっている感覚に耐えながら不自然なまでに力強く答えた俺をミハイルは感情が読み取れない微妙な視線でじっと見て来る。
痛い、視線が痛い。頼これ以上追及されたら喋り過ぎでボロが出そうだから適当に納得してくれ、お願いします。
「なるほど。クロケル殿が積極的に魔法を使わないのはそう言う理由があったのか」
無言のミハイルの隣でシュティレが納得して頷いた。こんなに動揺してあやふやな発言をする奴えを信じるなんて、素直でまっすぐなんだ。それだけ俺を信頼してくれているということなのか。だとしたら良心が痛む。
「さっきの言葉で納得できるのか?」
うんうんと頷くシュティレにミハイルが険しい顔で聞く。わぉ、やっぱりまだ疑われてるじゃねぇか。お前はもう少し他人を信用しろよ。隠し事を抱える身としてはその疑り深さにハラハラするわ。
「ミハエルくんが微妙に納得してないのはよくわからないけど、知られたくないことを話してくれたヒトに追及するのは良くないよ。ミハイルくんだって追及されたら嫌なことあるでしょ」
「……」
エクラがミハエルの疑り深さを穏やかな口調で注意し、ミハイルは珍しくそれに噛みつくことなく押し黙った。
こいつのことだからてっきり文句を並べるかと思っていたのがどう言う風の吹き回しだ。
不自然なぐらいに大人しいな。まさか、エクラの言う通りミハイルも“追及されたら嫌なこと”があるのか。
「ってことで、この話は終わり!敵さんは相変わらず攻撃をやめる気配もないし、疲れる様子もないみたいだから、クロケルさんが思い付いた方法、試してもらっていい?」
明らかに様子がおかしいミハイルに気を取られていると、エクラが少し大きめの声でパンッと両手を叩いて話を強制終了させ、俺の方を見て小首を傾げてそう申し出てきた。
「ああ。上手くいくかはわからないけど、アストライオスさんとシルマの協力があるんなら、何とかなるかもしれない。協力してもらえるなら、俺も頑張る」
「もちろん、協力するよ!ねぇ、おじいちゃん」
エクラがにっこりと笑ってアストライオスさんを覗き込んだ。凄い、笑顔なのに半端ない圧を感じる……怖い。
「むう、本来はワシが直々に戦っても良いのじゃが……まあ打開策を思いついたと言うのであれば仕方があるまい。(エクラも怖いし)協力してやろう。ありがたく思えよ、小僧」
協力するとは言いつつも、その態度からは納得がいっていないと言う様子がありありと溢れ出ており、顎髭をいじりながらアストライオスさんは暫くブツブツと文句を言っていたが、エクラに真っ黒な笑みで「ん~?」と詰め寄られたことにより押し黙った。
「わ、私も可能な限り協力させて頂きますよ!頑張っちゃいます」
爺孫の気まずい雰囲気の中を払拭する様にシルマが戸惑いながら割り込み、ガッツポーズを作って意気込みを語った。
「じゃあ……シルマ、アストライオスさん、ご指導お願いします」
誠意を込めて頭を下げるとシルマとアストライオスさんが頷き、俺への魔術指導が始まった。
円になってごにょごにょとしている俺たちの姿を見たフィニィが攻撃の手を休めることなく狂気的に笑いながら言った。
「あはははは!なに、作戦会議?何を考えているかは知らないけど、私を止められるものなら止めて見なよっ」
ドンドンッとエネルギー弾が何発も防御壁にぶつかり、その度に爆発が起こる。その音と衝撃に耐えながら、俺は必死でシルマとアストライオスさんから即席で指導を受けた。
元より魔術の知識はゼロなので、どんなに基本的且つ丁寧な指導を受けてもぶっちゃけ何を言われているか全くわからなくて泣きそうだった。
「う、うーん。やはり即席でゼロ知識から魔力を理解すると言うのは困難でしょうか」
シルマが困り顔で微笑んでいる。そうですか、俺はそんなに出来が悪いですか。自分の才能のなさにがっくりと肩を落としていると、自尊人ボロボロの俺にとどめとばかりにアストライオスさんが言った。
「まあ、そうじゃのぉ。しかも、今からこやつがやろうとしていることは魔力も集中力も相当必要になるからのう。無駄打ちはできぬぞ」
「う、ううう。やっぱり、作戦の実行は不可能なのかっ」
魔術師2人に才能ナシの烙印を押され、心がバッキバキに折れて地面に崩れ落ちそうになったその時だった。
『諦めるのはまだ早いよ!頑張れ、クロケル』
「ああ、クロケル殿ならきっとできる」
「頑張って、クロケルっ」
「ご主人様ならきっとやり遂げることが出来ますっ」
「そうだよ。根性だ!クロケルさん」
聖、シュティレ、シュバルツ、アムール、エクラが口々に励ましの言葉を送ってくれるがごめんなさい、精神的に立てそうにありません。
「そう気を落とすでない。敵を倒すのではなく、この状況を凌げばいいだけなのじゃろう?なら、初心者でも扱いやすい魔術の発動の仕方を教えてやろう」
すっかり自信とやる気を喪失している俺にアストライオスさんが俺を勇気づける様に言ったので俯けていた顔を上げてその頼もしい人物を見る。
「こんな土壇場でも魔術を扱える方法があるんですか」
「ああ、お主が根性で感覚を掴めばな」
アストライオスさんが俺の肩をポンッと叩き、白く輝く歯を見せながら親指を立てて来た。ちょっとだけ暑苦しさを感じたが、同時に勇気と希望を貰えた。
「わかりました。根性で何とかなるのなら、見せます、根性!」
勢いよく叫んで宣言した俺にアストライオスさんは「よく言った」と豪快に笑い飛ばし、気合いを入れるかのように今度は俺の両肩を強く叩いて笑った。
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聖「次回予告!仲間の為ならどこまでも誠意を見せる行動ができるクロケルだけど、戦いになるとまたヘッポコになるクロケル。アストライオスの言う通り、クロケルは根性を見せることができるのか。そして、根性で魔術を使うとはどう言う意味なのか」
クロケル「戦闘力のない俺には精神論しかねぇんだよ。後、ちょいちょいディスるのやめろっつってんだろ。腹立つ」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第98『第98話 見せろ根性、発動せよ、即席魔術』なんやかんやで力はついてきてるし、レベル1でもイケるんじゃない?レベル上げしなくても大丈夫かもよ」
クロケル「ほほう、具体的に何がイケるて大丈夫か言ってみろよ」
聖「あー。うん、根性で生きてこ~みたいな」
クロケル「てめぇ、絶対適当に喋っただろ」