第96話 止まぬ攻撃、下すべき決断
この度もお読み頂いて誠にありがとうございます。
天気予報で一番嫌いな言葉は「局地的に雨が降るでしょう」です。局地的ってどこ!!朝方は曇っていたから外干しやめたら晴れるんかーい!!みたいなことが最近凄く多いです(泣)
アプリは便利ですが、職場と家が凄く離れているので『今から雨が降ります』の情報は個人的に無意味な情報で……。どんなに世の中が便利になっても自然の力には勝てないんだなぁって思います。悔しい。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
「うーーーっ!!この状況で既存の術式を書き換えるなんてありえない。そんなこと、平凡な魔術師が短時間でできるわけないじゃんっ。あなた、やっぱり低レアじゃないじゃん。嘘つき!嘘つきっ!」
自らが攻略された術を更に攻略されてしまったことが余程悔しいらしく、フィニィは空中に浮いた状態で髪の毛をかき乱しながら顔を歪ませ、ヒステリックに叫んだ。
「シルマさんヤバ、見た目にそぐわずまさかホントは強い系?レアリティ聞いてもいい?
レベルは?」
「シルマ殿は戦闘中、時折強力な魔術を使う姿は見受けられたが……やはり相当の実力者と言うことか。そう言えば私もシルマ殿のレアリティとレベルは聞いたことがなかったな。聞いても良いか」
エクラとシュティレに興味津々で詰め寄られたシルマは先ほどまでの強気の態度などすっかり消え失せ、自分の実力がバレることに怯えビクビクと体を振るえさせて後ずさる。
あんな禍々しい攻撃には勇敢に立ち向かえるのに自分のレベルを追及されると小動物みたいに怯えるのはどう言う感情なのか。シルマの恐怖観念ってどうなってんだ。
「あう……えっ、ええっと。全く大したことはなくてですね。単純に術式を書き換えるのが得意なだけと言いますか……たまたまと言いますか……」
シルマは暫くごにょごにょと言い訳をした後に俺をチラチラと見ながら助けを求めて来た。え、嘘だろ。この状況で俺に助けを求めるか?自分で言うのもアレだが誤魔化しとか嘘が超絶下手なこの俺に、助けろと。
そんな風に戸惑っている間にもシルマがおろおろと潤んだ視線を送って来るので仕方ないと腹をくくり、俺はんんっと咳払いをしてから興味津々にシルマに詰め寄る2人の間に割って入った。
「あー。お前ら、その辺にしてやれ。と言うか今はそんな場合じゃないだろう」
自分が誤魔化しや嘘が下手なのは十分理解しているので、俺は事実を述べると言う選択をした。でも、これって今この瞬間では凄く正論なんですぜみなさん。
そう、2人が興奮したせいで空気は緩みかけたが、今は戦闘中なのである。絶賛戦闘中なのである。いくら防御壁内の安全が保障されたとは言えぐたっとしてもいい場面ではない。
目の前で浮くフィニィも悔しさからもの凄い形相でこっちを睨んでるし、マジでこんなことしてる場合じゃねぇんです。
「っとと、そうだった。絶望状態から助かったからついテンションが上がっちゃった」
今更フィニィの殺気に気がついたエクラが「うっかり★」とテヘペロしながらシルマに詰め寄るのをやめた。
「ふむ。色々と話を聞きたいのだが、この状況を終息させるのが先だな」
シュティレも残念そうに頷いて追及をため、シルマはホッと胸を撫で下ろした後に小さく俺に会釈をした。
いいよ、気にするな。俺にできることなんてこれぐらいだから。そんな意味合いを込めて親指を立てて返すとシルマは柔らかい笑顔を返した。
「ほほう、またも窮地を凌ぐとは……お前さんたち、中々の運命力の持ち主じゃのう」
この状況を見たアストライオスさんが髭を撫でながら感心して言った。え、何か褒められてる?俺たちまた運命を変えることが出来たのか。だとしたらコロコロ変わるな、運命。
『あははは!それは言えてるかも。確かに、クロケルたちは個々の力はバラバラだけどトータルの運命力は強いのかもしれない』
感心しているアストライオスさんの隣で何故か大爆笑をしていた。笑いすぎだろうと言うぐらいの大爆笑だった。多分、タブレットの向こうで腹を抱えて足をバタバタさせている画が浮かぶ。うわっ、想像したらイラッとして来た。
「運命力って(主に二次元で)聞いたことがある言葉だな。要は運がいいってことだろ」
運命力は作品によって意味合いが異なっていることが多い。なので一応確認してみると聖が説明に困った様にうーんと唸ってから答えた。
『運がいい……うん、そうだね。若干語弊がある様なきがしないでもないけど、捉え方としてはそれが一番しっくりくるかも』
「なんだよ。その微妙な回答は」
『だって説明が難しいんだもん』
頭を突き合わせてごにょごにょと言い合う俺と聖の背後からアストライオスさんがひょっこり現れて説明を付け足した。
「運命力とは、知識のない素人にわかりやすく説明するなら運命に抗う力を指すと表現すればよかろう。悪い方向に傾きそうになった時に生存本能が通常の人間よりも強めに働く傾向がある者のことを“運命力が強い”と表現するのじゃ」
「な、なるほど。生存本能と言われると心当たりがあります。と言うか寧ろそれしかない」
様々な場面において俺が嫌な予感を感じやすいのは自覚していたが、まさかパーティまるっと運命力が強い可能性があるとは……ある意味最強のパーティだな。
何だか急に感慨深くなって呑気に頷いていると体がぞわっとする殺気を感じて、俺は今の状況を思い出した。
いかん、他人に注意しておきながらフィニィの存在を記憶から消していた。ようやっと自分の存在に意識が戻ったところで、フィニィは宙に浮いたまま俺たちを見下ろし、フンと鼻で笑って言った。
「くだらない。運命力なんて根こそぎ削り取ればいいだけよっ」
気張る様に言い放った後、再びぬいぐるみの口に黒いエネルギーが集まり始め、今度は力の吸収に時間をかけることなく、瞬く間にエネルギー弾が連続で打ち出される。
先ほど受けたものと比較すると小ぶりだが、纏うオーラは変わらない。禍々しさを放った弾が数十発、こちらへ向かってくる。
しかし、それらシルマが改良した盾の女神の加護によって全て弾かれる。小ぶりなエネルギー弾でも威力は抜群なのか、防御壁にぶつかって被弾する度に衝撃で防御壁が振動する。
「しかし、弱ったな。シルマの防御壁が最強なのは良いとして、防御してばかりだと戦いのはならないぞ」
どんなに攻撃を繰り出されようと、進化したシルマの防御壁の前では内側に影響はまったくないので恐怖はなかったのだが、フィニィの止めどない強力な攻撃には戸惑いを覚えてしまう。
反撃したいのは山々だが、一瞬でも防御壁の外に出ると一撃でやられてしまいそうで中々反撃行動に移れない。
それがもどかしくて、無意識に唇を噛みしめる。俺以外の仲間たちも強力な攻撃の雨の中、どうフィニィに抵抗するか決めあぐねている様で渋い表情のまま武器だけを構えて立ち尽くしている。
「はっ。何をそんなに迷うことがある。良く見ろ。あいつ、ヒステリックになって魔力を惜しまず使ってめちゃくちゃに攻撃しているじゃないか。安全圏にいるんだからわざわざ反撃しなくても放っておいてもその内魔力切れを起こすだろ」
攻撃手段を慎重に探っている俺たちを鼻で笑いながらミハイルが言った。それを聞いたシュティレは不満そうに唸る。
「むう……魔力切れで倒れたところを確保か。まあ、下手に抵抗するよりはいい手だとは思うが」
叶うことなら騎士らしく正々堂々と戦いたい、そんな態度が駄々洩れである。ホント、シュティレって律義で真面目だな。敵にもそれだけの誠意を見せることが出来る奴なんてそういねぇよ。
「むーん、それでもいいんだけどぉ。このまま暴れ続けられると空き地とは言えせっかくの土地が整備不能になるぐらいまで荒らされそうだし、居住地からは離れているから大丈夫だとは思うけど、ヒトがいる場所に流れ弾が行く可能性もゼロじゃないしぃ」
シュティレの騎士精神に感心しているとエクラがむぎゅっと眉間に皺を寄せて困惑の表情を見せる。続いてアストライオスさんもここに来て初めて表情を曇らせた。
「それは困るのぅ。せっかくの土地が荒らされたり、居住地の方まで影響が及ぶのはこの国の長としてそれはちょっと許容できんな」
エクラとアストライオスさんは同時に「むうー」と首を捻っていた。ただアストライオスさんは何か見えているのだろうか、困っている姿にどこかわざとらしさを感じるのは多分気のせいではないだろう。
この爺さん、多分いや絶対余裕がある。そんな疑念を浮かべてアストライオスさんをじっと見つめているとバチッと目が合い、にこりと笑った後に何が楽しいのかワクワクした様子で言った。
「そこのフクロウが言う様に魔力切れを待ってもいいが、このまま闇雲に攻撃されては我が国の住民が住まうに影響が出るやもしれん。正直、それは避けたいのじゃがお前たちに目の前のアレを止めることはできるか」
アレ、と言いながらアストライオスさんは鬼の形相でエネルギー弾を打ち出し続けるフィニィをちょいちょいと指差す。
「俺たちだってこの国の土地や居住地を無暗に荒らされたくないです。何とかしてフィニィを止めたいと思ってはいますが、この攻撃の雨をくぐる抜ける方法なんて現状では思いつかなくて……」
穏やかな口調ながらどこか急かす様な圧に負けそうになりながらも俺は必死で声を絞り出して答えた。
「つまり、行き詰まっていると言うことじゃな。ではどうじゃ、ワシが一瞬で終わらせてもいいのじゃぞ」
アストライオスさんは笑っていた。だけど、それは表情筋が上がっているだけの張り付いた笑みで、目の奥は全く笑っておらず、寒気が走るぐらい怖かった。
「……確かにアストライオスさんほどの方なら、この攻撃を掻い潜って戦いえお一瞬で終わらせることは可能でしょう……けどその場合、フィニィの命の保障はありますか」
「そうじゃのぅ。ワシも長として命を散らすわけにはいかんからのう。状況によっては五体満足とはいかぬやもしれぬなぁ」
恐る恐る聞いた俺にアストラオスさんは顎髭をいじりながら少しだけ意地悪い口調で答えた。
淡々と冷たい口調にアストライオスさんの本気を感じ、思わず喉がヒュッとなる。目の前にいるのは確かに味方のはずなのに、目の前にいるフィニィよりも恐怖を感じる。
アストライオスさんの圧は防御壁内にいる全員を飲み込んで、誰も口を開けずに冷や汗をかいてその場に固まっていた。
「おじいちゃん、またそんなに意地悪言って!フィニィちゃんを助けるのに協力するって約束したでしょ」
「そうは言うがな、フィニィよ。和解に耳も貸さずに好き勝手暴れ回る者に情けをかけることと、国や国民に被害が及ぶ前に国を守ること、優先すべきはどちらかと言うのは星の一族であるお前ならわかるだろう」
唯一、この場の圧に気圧されていないエクラが容赦のない言葉を紡ぐアストライオスさんを咎めた。
しかし、いくらアストライオスさんが孫に弱いとはいえ、国の存続がかかっているのであれば話は別な様で、優しい口調ながらも諭す様に返した。
「そ、それはそうだけど……この場所は居住地から離れているから今のところ被害は出でいないし、私たちも強力な防御壁で守られてるから安全だよ。あの子を助ける方法を考える時間はあるよ」
縁もゆかりもない“個人”の救済と同じ国で暮らす“複数”の救済を天秤にかけられたエクラは痛いところを突かれたのか言葉を詰まらせ、言い淀んだがすぐさま意見を返す。
だがアストライオスさんはそれを聞いても首を緩く左右に振り、必死にフィニィを救おうとしてくれているエクラに言う。
「その方法はお前には思いつくのかい?いや、お前でなくてもいい。ここにいる者の中で、この攻撃の波を掻い潜ってあの子を止める方法を思いつく者はおるのか」
その言葉にその場の誰もが口を紡ぎ下を向く。残念なことに現状、良い解決策を思いつく者は誰もいない。
そしてこうしている間にもフィニィからの攻撃は続き、防御壁に守られていない地面がぼこぼこに抉れて行く。その様を横目で見やり、ため息交じりにアストライオスさんが言った。
「先ほども言うたが、ワシは自分の国に被害が及ぶのだけは許容できん。いつまでも考えたばかりでは土地が破壊される一方じゃ。ここに立ち向かえる相手が居るのに、みすみす土地が破壊を許すのは、もう我慢ならぬのじゃ」
「どうしても、魔力切れを待っては貰えませんか」
叶うことなら、最初にミハイルが提案した様にフィニィの魔力切れを待って、彼女が力尽きたところを捕獲したい。と言うかそれが現状での最善だと思う。
「待てぬな。よう見てみぃ、奴はまだまだ余裕じゃぞ」
重ねて待って欲しいと願いでた俺をアストライオスさんがキッパリすっぱり斬り捨て、顎でフィニィの方を示した。
「消えて、消えて、消えてっ!みんな、消えてぇぇぇぇぇぇぇぇxっ」
フィニィは相変わらず絶叫しながら俺たちに向かって攻撃をぶつけて来る。その勢いは全く衰えておらず、残念ながら魔力切れを起こす気配はない。
「敵、怒りのボルテージ上昇中。魔力切れの気配はありません。どうしますか、ご主人様」
アムールが冷静にフィニイを分析し、改めてこの最悪な状況を認識する。どうしますか、と言われれも困る。さっきから頑張って考えているが何も思いつかないんだよっ。
「あの感じゃと魔力切れはまだ先かのぅ。お前はそれまでワシの国の土地が破壊されて行く様を見ていと言うのか」
アストライオスさんがふざけるなと言わんばかりに冷たい視線で俺を睨む。思わず後退ってしまったが、会話を聞いていた他の仲間たちも気まずそうに視線を逸らして黙り込んでいた。
エクラもアストライオスさんの言うことに一理あると思っているのか、悔しそうに口を噤んだまま俯いている。
改めて思う。アストライオスさんは豪快な性格の割には冷酷な部分があり、目的の為なら手段を択ばない精神の持ち主であると。
例え相手にどんな過去があっても、どんな事情があろうとも、決して情けはかけずに最善の方法で実行する。初めてフィニィのことを話した際にもそんなことを言っていた。
あの時はフィニィの命を何とも思っていない様な態度に腹が立って、思い切り噛みついてしまったが、一見、人でなしの行動に見えるかもしれない。
冷静になってよく考えてみれば敵に情けをかけてもどうにかなる保証はない。何か対策があるなら話は別だが、フィニィの場合は何度も和解や話し合いの場を持ちかけても耳を傾けようともしない。
何かを背負い、護りながら戦う者にとって「非道」は正しい判断で、必要なことなのかもしれない。
でも、だとしても、アストライオスさんの判断が最善だったとしても、正しいとは思えないし思いたくもない。俺はやっぱり非道にはなれない。考えが甘いのかもしれないし、何の能力もないくせに良い恰好をしたがる偽善者なのかもしれない。
否、偽善がナンボのもんじゃい!アストライオスさんが自分の信条を貫くんだったら、俺だって自分の信条を貫くまで。偽善者の底力、見せてやる!
俺はすっと息を吸い、冷たい視線を浴びせ続けるアストライオスさんを見つめ返し、両足で踏ん張って体を支え、できる限り力強く叫んだ。
「俺が、この状況を何とかして見せます!」
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聖「次回予告!アストライオスの非道な決断に真っ向から立ち向かったクロケル。一体何を思いついた言うのか。クロケルの決意、そして行動に注目だよ」
クロケル「何か我ながら乗せられやすい性格と言うか……なんであんな啖呵を切ったんだろう、頭が痛くなって来た」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第97話『策がないのに啖呵を切るのはよくないです』クロケルは優しさと根性は目を見張るものがあるからね。期待してるよ」
クロケル「褒めてるんだよな。それ」
聖「もちろん、優しさは何よりも強いって僕は思ってるよ」