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第93話 戦闘後に勝ったと思って気を抜くのはとても危険なフラグです

この度もお読みただいて誠にありがとうございます。


暑い日が続きますね。私の職場は冷房は事務室にメインスイッチがあるのですが各部屋ごとの温度調節ができない仕様ですので、1階を利用しているどなたかが「寒いです」とおっしゃりますと、1階全ての冷房を切るしかないので、この季節はそこそこ地獄です。


そんな私の日常はどうでもいいですね、すみせん。暑くてこのままでは豚まんになりそうです。


本日もどうぞよろしくお願いいたします。

 緊迫の戦いが終わったかと思うと、どっと疲れが溢れて来る。俺は何にもしていないのにどうして毎回疲れるのか。


『毎回緊張し過ぎなんだよ。もっとリラックスしないと』


「戦闘の最中にリラックスできる奴がどこにいるんだよ。いたらお目にかかりたいわ」


 ゲームの世界でもボス戦の前はセーブもこまめにするし、コントローラーを握る手に力が入るわ。


 それに強敵を目の前にして「わくわくする」って言う主人公がたまにいるけど自分も強いからであって決しておバカ発言ではないのだ。


「いやはや、しかし敗北もあり得た未来をよくぞ覆した。これは褒めるべきことじゃな」


 小声で言い合う俺たちの間に割って入り口を開いたアストライオスさんは、ほぼ無傷な俺たちを見て満足そうにうんうんと頷いていた。そして俺の支えなしでも立てる様になったエクラに近づいて頭を撫でる。


「おじいちゃん、あたしもう子供じゃないんですケド。あああっ、せっかくセットした髪が乱れるしゃん、マジありえない。やめて!褒めてくれるのは嬉しいけど頭撫でるのやめてー」


 口では髪型が崩れることを理由に嫌がりつつも、少し嬉しそうにしているエクラの姿が窺えて爺孫(じいまご)のほのぼのな雰囲気に何だか癒された。


「しかし、こう言っては悪いが、アンフィニが協調性を見せるなんて意外だな。どんな心境の変化があったんだ」


 俺が最も気になっていたことを思っていたことをシュティレがあっさり口にする。そんな世間話みたいに聞ける精神力がうらやましい。


「……別に、心境の変化なんてない。そこの未来視ができる爺さんがこのままいけば敗北するとかふざけたことを抜かしたからな。俺がいつもと違う行動を取れば未来にも変化があるんじゃないかと思っただけだ」


 アンフィニは特に気を悪くした様子もなく、プイッと外方(そっぽ)ぶっきらぼうに答えた。うん、いつもと全く変わらない態度だな!


『いつもと違う行動が“仲間を信頼すること”と“協力”なんて悲しいにも程があるよ。そうすれば戦略も増えるし、危険を切り抜けられるってわかったんなら今後も仲間を信じて協力してくれてもいいんじゃない?』


 聖が少しからかう様にしてシュバルツの腕に収まっているアンフィニにタブレットの体を押し付けてウザったらしく聞いた。


 うりうり~とからかう様にしている姿をみると、何故だかこちらもイラッとする。あいつ、あんな態度取るからキレられるってわかんねぇのかな。いや、わかっててやってるよな、キレるのも込みで絶対相手の反応を楽しんでるタイプだ。我が親友ながら質が悪い。


「ええい、その平面な体を押し付けてくるなっ!鬱陶しい。フィニィを止めるにはそれが最善の行動だと思っただけだ。それに。俺はお前たちを協力者だとは思っているが仲間だとは思っていない。もちろん、今この時もな!!」


 アンフィニは聖を押しのけながら苛立たしく叫んだ。絵面で言えばギャグだったが、アンフィニから出た言葉は真っ向から俺たちの関係を否定する辛辣な言葉で、緩みかけていたその場の空気が一瞬で凍る。


『あー……ちょっとウザ絡みしすぎたかなぁ』


 聖が気まずそうにアンフィニからゆっくりと離れて俺の隣に戻って浮遊する。やっぱりウザ絡みの自覚はあったんだな。


 ああ、そうだよ。やり過ぎだよ、どうすんだよこの空気。地獄じゃねぇか。アンフィニから出た言葉は恐らく本心だ。咄嗟にああ言う言葉が出ると言うことは少なからず普段から思っているからだろう。


 もちろん、アンフィニの表情や態度は出会った頃から比べると大分柔らかくなったとは思うし、言葉のキツさほど俺たちと距離を置いているわけではないのだろうが、心のどこかではそう言う思いもあるのかと思うと、ここまで旅を共にした者として少し寂しい。


「あ、アンフィニ。聖がウザかった気持ちはわからないでもないが、今のはちょっと言い過ぎだぞ。色々あるとは思うけど、一時の感情に流される発言は良くないぞ」


 アンフィニの仲間を真っ向否定した言葉の後、水を打った様な静寂が流れ続け、このkぃまずい空気を一刻も早く何とかしたいがために俺はなるべく優しい口調でアンフィニの発言を咎めた。


「俺が本心を言ったまでだ。フィニィのことに決着がお前たちとは別れるつもりだ。だから、お前たちと協力をするつもりあっても慣れ合うつもりは毛頭ない」


 やはり言葉を指摘したことが良くなかった。アンフィニは更にツンとして俺たちから顔を逸らす。言葉と考えを改めるつもりはないらしい。


『うーん、アンフィニらしいと言えばらしいけど』


「頑固だな。割り切ると言うことが出来んのか、お前は」


 つっけんどんなアンフィニの態度に聖が苦笑いを浮かべ、シュティレが頭を押さえながら渋い表情で言うもアンフィニは俺たちと視線を合わせ様とはしなかった。


 空気が、空気がどんどん気まずくなってゆくのを感じる。チームワークが崩れ去るどころか木っ端微塵になる音がする。


どうすれば良いのかおろおろとしていたシルマもこの凍り付いた現場を何とかしたいのか、フォローをしようと焦り、戸惑いがちに口を開く。


「かっ、価値観はヒトそれぞれですものね。言い方は不器用化もしれませんが、協力してくれたことは事実ですし、ここはそのぅ……仲良くしませんか」


 シルマが紡いだ言葉の後半は凄くもごもごしていた。もしかしたら言っても無駄だと言うことを理解しているのかもしれない。


「ちょっとアンフィニくぅん、その態度はないんじゃない?ほら、シュバルツくんも泣きそうになってんじゃん」


 エクラがからかう様にしながらアンフィニの頬を長い爪で軽くツンツンと突いたがその手すら鬱陶しそうに払いのける。


「アンフィニは、ボクたちのことが嫌いなの?」


「うっ」


 シュバルツが悲しそうな声で言った。見ればエクラが言った通り、今にも泣きそうな顔をしてアンフィニを抱きしめている。その表情を見たアンフィニが僅かに言葉を詰まらせ、動揺を見せた。


 あれ、こいつもしかして甘えん坊の年下に弱いのでは?いや、シュバルツはモンスターだし、厳密な年齢は知らないがどう見ても末っ子気質だし。アンフィニは完全な兄気質だ。多分、何かの神経が刺激されるんだろうな。


「好き嫌いの問題じゃない。今後協力するかしないかは俺の自由だと言いたいんだ」


 残念、シュバルツの涙に負けそうになっていたが何とか持ち直したみたいだ。重ねて否定をされてしまった。


 まあ、仕方がないか。こう言うのは気持ちの問題だろうし。一時でも協力してくれた事だけでも進歩だよな。


『いいんじゃない?協力しないって明言されたわけじゃないし』


「はあ……そうだな」


 聖の言う様にアンフィニは「今回限り」とは言わなかった。今後も協力してくれる可能性はある、と思いたいんだが何かこう釈然としない。


 ギスギスの空気に耐えきれなくなり、日常茶飯事になりつつある精神的疲労から無意識にため息が漏れる。そんな俺を見たアストライオスさんが豪快に笑った。


「わはははは。そんなに気を落とすこと等なかろう。敗北の運命から()()()()は逃れることはできだんじゃ。胸を張れ」


「ええ、まあ。それは喜ばしいことですが」


 そこまで言って俺はある引っかかりを覚える。フィニィの動きを封じて以降、アストライオスさんは敗北の運命を覆したとは言っているが、妙に変な言い回しをしている様な気がするのだ。


 敗北の運命からひとまず逃れられたとか、ひとまず未来は変わったとか、なんでやたらと“ひとまず”言う表現を枕詞につけるんだろうか。


 ふむ、と何となく考えてから、不気味なほど静かに浮かぶ影の繭を改めて眺めて、俺はある1つの最大級の最悪な推測を導き出す。


 同時に数秒前まで精神的疲労からくる倦怠感で重かったはずの体から一瞬で血の気が引き、頭の先からつま先まで痺れる様な冷たさを覚える。


「あ、アストライオスさん……ちょっと確認したいことがあるんですけど」


「ん、なんじゃ」


 おずおずとする俺にアストライオスさんが向き直る。笑顔を浮かべていたが、どこかわざとらしい、張り付いた笑顔の様にも感じた。


 その何とも言えない表情に怖さを感じ、緊張を高めながら俺は震える声を押さえながら当たって欲しくはないとある「予感」を口にした。


「さっきからあなたの言い回しが妙に気になると言いますか……まさか、この繭の中からフィニィが自力で出て来るなんてことないですよね?」


 俺の言葉でまたその場の空気が凍り付く。せっかく穏やかになりかけた空気を再び凍らせてしまい後悔したが、これは聞いておかなければならない気がするのだ。


 疑問を投げかけるとアストライオスさんの目が見開かる。そして、何かを楽しむ様なにやりとした笑みを返された。


「ほほう。お前さん、中々に良い勘をしておるのう。正解じゃ」


「えっ」


 正解、正解ってなんだ。アストライオスさんの言葉に混乱した時、今まで何の反応も示さなかった影の繭がガクンと揺れた。


「「!?」」


 突然反応を示し始めた繭に驚き、警戒してその場から全員が距離を取る。そしてそれじれが武器を構え、現場は再び臨戦状態となった。


「な、何で急に動き出したんだ」


「そりゃあアレじゃよ。中で彼女の抵抗が始まったんじゃ」


「抵抗!?」


 1人全く焦りを見せていないアストライオスさんがあっさりと答えたが、言葉が簡潔すぎて全く意味が分からない。


「と言うことはフィニィさんは繭に閉じ込められてからずっと、逃れるチャンスを窺っていたと言うことでしょうか」


 不安げに言うシルマの言葉に繭を警戒しているせいか、険しい顔のままシュティレが答える。


「だが、シュバルツによればこの繭に魔力は通らない仕組みなのだろう?どうやって抵抗を……!」


 言葉を言いかけてシュティレの動きが止まり、ある一点に視線が集中した。突然固まってしまったシュティレを疑問に思い、その視線を辿ってみるとその先にあった者を見て俺も思わず固まってしまった。


「ぬいぐるみが、光ってる」


 そう言った俺の声は多分、動揺で震えていた。それだけ目の前に写る光景は異様だったのだ。


 フィニィが眉の中に閉じ込められた際に彼女の腕から落ちたウサギのぬいぐるみが、いつの間にか黒く禍々しい光を放って浮いていた。そして、その光は全て黒い繭に吸い込まれている。


 この状況でも何故か余裕のアストライオスさんを除き、一体なにが起こっているのかと呆然とする中、シルマが誰よりも早くこの状況を分析した。


「あのぬいぐるみ、自分の魔力を繭の中に送っています」


「魔力を送るって……でも、さっきシュティレも指摘してたが、繭は魔力は通らないんじゃないのか?」


 もう訳が分からなくなって、繭を作り上げた本人、術者であるシュバルツに視線を向けると眉を下げて思いっきり首を横に振った。


 そうだった。現状シュバルツは技をまねることはできてもその性質までは理解していないんだった。


『ねえ、クロケル。この技、あのアニメだと内側は固いけど外側は弱いんじゃなかった』


「そうか、そう言えばそうだったな」


 傍にいた聖に小声で言われ、俺はシュバルツのコピー元である「影坊主」が登場するアニメ「青春奇譚妖怪学園」の内容を思い出す。


 影のエキスパートで影が存在する場所においては作中最強と言われるキャラ。何度も言うがこの黒い繭も「影坊主」の持ち技技の1つだ。


 確か、影の繭の中に閉じ込められた者は内側からの攻撃は魔術も物理も全て遮断されてしまうと言う、敵の捕獲にはもってこいの能力。


 ただし、内側に魔力を注いでいるせいか外側からの刺激や、影をかき消して消してしまうレベルの光や闇には弱いと言う難点がある。


 まさか、ぬいぐるみから出ている光は外側から魔力を送って繭を崩そうとしているのか。その考えに行き着いた瞬間、俺の焦りは頂点に達する。


 どうしてぬいぐるみから魔力が送られているのか、誰がどこからぬいぐるみを操っているのか。わからないことはたくさんあったが、このままではヤバい。


「ぬいぐるみを破壊するんだ。このままじゃ、繭がっ」


 俺が言い終わる前に事態を察したシュティレが即座にぬいぐるみを破壊しようと槍を構えて一歩踏み出そうとしたその時、パリッと何かが破ける音がした。


 同時に繭の中から凄まじい風が吹き出す。その風圧は目を開けていられないほどの威力で、1人を除きその全員が吹き飛ばされない様に踏ん張るのに必死だった。


 ぬいぐるみを破壊と踏み出したシュティレは暴風に押し戻され、槍を杖代わりにしてなんとかぬいぐるみに手を伸ばそうとしたが、やはり届かない。


「ふむ、意外に早いお目覚めじゃのう」


 この中で唯一、繭から噴き出る暴風を物ともしないアストライオスさんが、やはり少し楽しそうに言った。関心した様に「ヒュウ」と口笛を吹いたのもばっちり聞こえた。


「アストライオスさんっ、あんたやっぱりこうなることが最初から視えてたでしょっ」


 風圧に耐えながら必死でアストライオスさんを咎めると彼はけろりとし、風で髪と髭をなびかせながら言った。


「まあの~。もっと言うならここからが正念場じゃぞ」


「えっ」


 平然とそしてのんびりと返され、言葉を失ったと同士に目の前に浮かぶ繭が、ひとりでに羽化する卵の様にパリパリと音を立ててはがれて行く。


 吹き荒れる風のせいで全く動けない俺たちはなす術がなく、その止めるべき恐怖の羽化を眺めることしかできなかった。


『ヤバい、完全に割れるっ』


 聖の焦った声が耳に届いたと同時にバリバリッと落雷に近い音が響き、思わず目を閉じ身を縮こまらせた。その後、妙な静寂があり、不思議に思い恐る恐る目を開ける。


 そこには目を閉じて佇むフィニィの姿があり、俺たちは同時に息を飲んだ。嫌な汗が噴き出て、背中も体も冷たくなる。俺は改めてこの絶望の状況を理解した。



 ――――――――――彼女を捕えていた影の繭が完全に消え去ったのだ。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


聖「次回予告!安心したのも束の間、せっかく捕らえていたフィニィが最悪の大復活を遂げてしまった。再び訪れた急展開と大ピンチをクロケルは乗り越えることができるのか。ねぇ、何で悪い予感ばかり的中させるの。どんな才能?」


クロケル「悪い予感が当たるのは多分生存本能だと思う。そして生存本能があるならそれに抗う能力も身についていて欲しい……欲しいのにっ」


聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第94話『振り払われた手はもう二度と掴めない』誰かの手を掴むのは勇気がいるのに、振り払うのは簡単にできてしまうのはどうしてだろうね」


クロケル「何故に突然シリアスになる。でも、それは分かるな。フィニィは本当にアンフィニを拒絶したいんだろうか」


聖「どうだろうね……自分や他のヒトと向き合うのはきっと難しいことなんだよ」


クロケル「……そうだな」




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