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第91話 防御壁の内側から攻撃なんて卑怯なのでやめて下さい

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。


今更ながら新キャラにギャルが登場したわけですが、キャラってか口調がブレブレで泣ける。一応、ギャルの知り合い(バリバリ10代)の子をモデルにしているのですが、自分はギャルの経験がないのであまり上手くキャラ付けができないのです……。


あんまりステレオタイプ過ぎてもなぁ、と思えば思うほど普通の口調になるのですよ……個性があるキャラは難しい(遠い目)


本日もどうぞよろしくお願いいたします。


8/6追記 90話が抜けておりましたので本日投稿いたします。珍しく書き溜めができたので確認せずに投稿してしまった……。なんておバカなんでしょう(泣)

よろしければ90話も読んでやってください。

「あ、あわわわわっ」


 目の前でうねる5本の黒く太い鞭を見上げて俺は情けない声を出して震えた。なんとフィニィはシルマの鉄壁とも言える防御魔法を地面の下を通って突破したのだ。なんつー荒業だよ。さっき集中して唱えていた呪文はこの術を使うためだったのか。


「あんまり考えたことなかったけど、防御壁って足元って守られてないもんなのか?だとしたらそんなの防御って言わんだろっ」


「うう、すみません。まさか内側から襲撃されるなんて思ってもみていなくて。本当にすみませんっ」


 パニックになっていたが故の1人ツッコミの様な言葉だったのだが、俺の腕の中つまり至近距離にいるシルマは自分に言われたのかと思ったらしく必死で謝った。


「あっ、違うんだ。これはお前に言ったんじゃなくて、ほぼ自虐と言うか嘆きみたいなもんなんだよ。掟破りヤメてーみたいな悲痛な叫びなんだ」


「は、はあ……」


 慌ててシルマのせいではないと弁解したが、彼女は戸惑いながら見上げて来た。うん、ごめん。そりゃそんな反応になるよな。自分でも何言ってるかわからん。


 しかし相手のことを責めてみたものの、鉄壁の防御技対策において、恐らく守られていないであろう地面を伝って内側から攻撃すると言うのは一番卑怯で的確な対処法である


「おい、地面を伝ってら攻撃なんて卑怯だろ!」


 向こうは俺たちの命を取りに来ているわけだし、文句を言ってもしょうがないことだとはわかっているシルマの鉄壁の防御をこんな風にいとも簡単に突破されては文句を言わずにはいられない。


「これは勝負なんだから、私は間違ったことはしていないよ。それに、喧嘩を売るだけ売ったくせに守ってばっかりで何も仕掛けて来ないそっちの方が卑怯で弱虫だと思うけど」


「うっ、そ、それは……」


 フィニィの言うことは確かに正しい。戦闘が始まってから俺たちは守ると様子見以外何もできていない。一言に余分に罵られた気がするがぐうの音もでない。


「そっちが何もしないんならこっちから行くよ。覚悟して」


 不敵な笑みを浮かべてフィニィが言うと不気味なうねりを繰り返していた黒い鞭が突如動きを止めた。な、なんだ、何で止まったんだ。不自然な動きに疑問を持った瞬間シュティレがハッとして叫んだ。


「シルマ殿、防御魔法を解け。みんな、攻撃が来るぞ!散れっ」


 叫びにも似た鋭い指示。同時に黒い鞭が呆然と天を見上げる俺たちめがけてそのデカい図体を叩きつけて来た。


「ぎゃーっ!?」


 涙目になりながらもシルマを抱えた状態で横に転がり飛んだ。シュティレの反応と指示が早かったおかげで間一髪で回避することが出来た。マジで危なかった……のしいかになるところだった。


 シルマも咄嗟に防御を解いた様で俺たちを守っていた金の盾は消え去り、気がつけば仲間たち散り散りになってしまうと言う最悪の事態に陥っていたが、全員鞭の攻撃を回避できた様だったので不幸中の幸いだ。


「ううう、痛かったそして怖かった」


「わたしも、目が回ってますぅ」


 肩の上でアムールが俺にしがみつきながらクラクラと目を回していた。しまった、攻撃を躱すのに必死でアムールの存在を忘れてた。寧ろ良く振り落とされなかったな。


「わ、悪い。アムール、自分を守ることに精一杯でお前にまで気が回らなかった。怪我はないか」


 気を回すのが遅いとは思いつつもアムールに声をかけるとアムールは眩暈からゆらゆら揺らしていたが、頭をぷるぷると横に振ってから体をしゃんとさせてにこりと笑顔を向けて来た。


「はい!しっかりご主人様にしがみついておりましたので!お気遣い感謝です、こういう時でも優しいご主人様、好きです」


 流石、容姿は人気アイドルであるペセルさんと同じだけあって眩しい。これぞアイドルスマイルと言うやつか。うん、推せる。


 でもそれはそれとして、毎回ラブコールするのはやめてくれないかな、純粋な愛情ってなんか恥ずかしいから。


「あ、あのぅ…クロケル様、そろそろ話して頂けると凄く助かります……主に精神的に」


「えっ」


 アムールのラブコールに戸惑っていると腕の中で弱々しい声がした。視線を落としてみるとそこには体が沸騰しているんじゃないかと思うほど顔面を真っ赤にして小刻みに震えるシルマの姿があった。


 そこではたと状況を理解する。どうやらずっと抱きしめていた様だ。そう、ずっと抱きしめて……そこまで思考が回り、俺はさっと血の気が引いた。シルマとは真逆、顔面真っ青でシルマを腕の中から解放した。


「わわわわ。ごめん、シルマ!何か色々必死でずっと抱きしめっぱなしで……苦しくなかったか?いや、それ以前に俺なんかが抱きしめるとか嫌な思いをさせてごめん。別に下心とかそう言うのは全くなくてだな……」


 やばいやばい!家族でも恋人でもない女の子を抱きしめるとか事件だよ、犯罪だ犯罪!訴えられたら即敗訴、即投獄、極刑確定っ!ダメだ、とにかく謝らないと。


 お縄になりたくないあまり、俺は両手を上げてしどろもどろになりながら言い訳じみた言葉を並る自分が情けない。こんなので誠意が伝わるのだろうか。


 心臓がひやひやドキドキしていたが、シルマは顔は赤いが怒っている様子はなく、モジモジとしながらゆっくりと首を左右に振って言った。


「い、いいえ。嫌とか、深いとか、そんなこと思ってません。その……助けて頂いてありがとうございました」


「そ、そうか。無事ならいいんだ。よかった」


 どうやら俺の非礼を怒っている様子はなく、寧ろ丁寧な御礼を返されて何だか恐縮してしまう。シルマって本当に良い奴だな。


「あうっ、まさかわたし当て馬にされましたか!?ショックですぅ」


『はいそこー、いちゃつかない。いや、いちゃついてもいいけどそう言うのは後にしてもらえる?』


 女子を抱きしめ続けると言う犯罪かもしれない行動を咎められることはなく、ホッとしている俺にAI2人がそんな言葉を投げつけてきたのでまた俺の中に焦りが生まれる。


「はあ!?いちゃついてねぇーし。下心はないって言っただろ。守るための行動だっつーの。妙なこと言うなよ、シルマにも悪いだろ」


 妙な誤解を招きたく根くて「な!」と必死でシルマに同意を求めると彼女は一瞬目を瞬かせた後に頬を染めたまま目を逸らしてコクコクと頷いた。


 何だか反応がぎこちないのが気になる、何でだ?やっぱり何か不満があるのか。何となくそんな空気を感じ取り、モヤッとしたその時、狂気的で楽しそうな少女の声が響いた。


「あーあ。残念、誰も仕留められなかったかぁ。でも、うふふ。邪魔な防御壁もなくなったし、誰から消えてもらおうかな」


 フィニィはにやぁっと口角を上げながら、指先でリズムを取りながら「だ・れ・に・し・よ・う・か・な」と歌っていた。ヤダ怖い、指名されたらどうしよう。


「あたしがとヘラクレスが相手よ。アンタなんて軽くひねって早々にお縄にしてやるんだから」


 フィニィが誰かを指名するよりも早くエクラが意気揚々と名乗りを上げ、一歩足を踏み出して自らが呼び出した巨人ヘラクレスの隣で腕組みをして仁王立ちでフィニィの前に立ちはだかる。


「ヘラクレスって言う神様は私でも知ってるよ。でも、来たところソレはただのコピーでしょ?紛い物の神様に負けるわけないじゃん。冗談はやめてよ」


「はあ!?紛い物ってどういう意味よ。あたしが召喚したヘラクレスを舐めないで貰える?」


 自分とヘラクレスを見て鼻で笑い、更にバカにして見下す発言をしたフィニィにエクラは相当ご立腹の様で、目と眉を吊り上げて噛みつく。


「だって、本当のことでしょ。悔しかったら早く私に攻撃してみたら。ご自慢のヘラクレスで」


 威嚇を返されても余裕の笑みを崩さず、更に嫌味を重ねて来たフィニィを見て、軽く舌打ちをした後にエクラはビシッと人差し指を向けて、浅く息を吸った後に勢いよく声を放った。


「マジで生意気!絶体シメる。行きなさい、ヘラクレス。あなたの力を示してやって!」


 瞬間、先ほどまで魔力回路を繋げていなかったため微動だにしなかったヘラクレスの巨体が突如として動き始めた。


 筋肉質量からするに明らかに100キロ以上は体重があろう体からは考えられない速さで地を蹴り、フィニィに向かって突撃する。


「筋肉質な男って嫌いなの!暑苦しいからっ」


 迫り来るヘラクレスに向かってフィニィは悪体をつきながら、地面から生える黒い鞭を呼び寄せて応戦したが、ヘラクレスは足を止めることなく、無表情でその全てを拳で打ち砕き無効化した。


 どう考えても刃物でしか切れない極太の動く鞭を拳1つで細い枝を折る様に木っ端みじんにする(さま)はまさに圧巻だった。


「うそっ」


 まさかこんなに簡単に鞭を無効化されてしまうとは思っていなかったのかフィニィはここで初めて動揺を見せた。


「ボコせ!ヘラクレスっ」


 エクラの物騒な叫びと共にヘラクレスの拳がフィニィに向かって振り下ろされた。しかし、寸前のところフィニィが背後に飛び退き、それを躱すが不利遅された拳は止まることなく、そのまま先ほどまでフィニィが立っていた地面を叩き割る。


 辺りを揺らす轟音と共に土煙が上がる。拳を打ちつけただけなのに、地面に大きな鉄球を落とした様な穴が開いていて、そのとんでもない威力を目の当たりにした俺は頬を引きつらせた。


「す、すごっ」


 思わず漏れたドン引きの本音。ふとエクラと目が合い、驚愕している俺に向かって彼女は満面の笑みでサムズアップと星が飛びそうな茶目っ気たっぷりなウィンクを飛ばしてきた。


「どう?影的な存在とは言え、戦うには十分な威力っしょ~」


 自慢げに胸を張るエクラに俺は苦笑いで頷きを返した。目の前に写る光景が怖すぎてもう声もでない。


 って言うかお茶目さを演出してるが、さっきめっちゃブチ切れたてたよなボコせ、とか大分物騒な言葉を気がするけど。頭に血が上りすぎてフィニィの捕獲・保護の件忘れてないよな。


「危ないなぁ。私、女の子だよ。大怪我させるつもり?これだから脳筋は嫌いっ」


 攻撃を躱し、空中で体を一回転してからの着地と言うアクロバティックな動きを見せたフィニィがぬいぐるみを抱きしめながら激しく抗議する。しかし、その態度にはどこか余裕が窺える。


 あんな殺傷能力抜群の攻撃を前にしてもまだ余裕だなんてすげぇな。よっぽど自分の力に自信があるんだろう。ああ、なんかちょっと寒気が……嫌な予感がして来た。


 だって二次元の世界で味方側が最強の力を手にしたり、協力な味方がいるにも係わらず敵が余裕な場合って負けフラグな気がするから。


 なんだったら多分、負けイベントで勝利アイテムor魔術を手に入れてからの再戦フラグだろ、絶対。だって俺たちの未来は一応、敗北もしくはエクラの力を借りても苦戦だろ。ほら、色々と決定しちゃってるじゃん!!


『そんな後ろ向きじゃダメだよ、クロケル。ほら、戦いは始まったばっかりだよ!』


 完全に絶望後ろ向きモードだったが聖に諭す様に言われてモヤモヤとした感情を抱きながらも


「エクラ殿、私も応戦する」


 敗北へ向かう未来に心が折れそうになっている俺とは裏腹にシュティレが槍を手に勇ましい言葉とにフィニィに向かって駆け出した。


「うわ、鬱陶しいのが増えた。邪魔だよっ」


 フィニィが顔を歪がめてシュティレを睨みつけ、ヘラクレスを巻き込む形で黒いエネルギー弾を投げつける。


「多い!多いってぇ!!」


 繰り出されたエネルギー弾は視た限りでは数百発以上はある。確実に流れ弾がこっちに来る量じゃねぇか、飛び道具卑怯だぞー!!


「だ、大丈夫です。外側からの攻撃なら防御壁で対応できるはずです」


 慌てる俺の傍でシルマが杖を握りしめてその場で構え、攻撃に備える。同時にシュティレの鋭い声が響く。


「ぬるいっ」


 大きく槍を振りかぶり、シュティレは槍を薙いだ衝撃波だけで全てのエネルギー弾を消し去って見せた。ヘラクレスも拳で向かってくるエネルギー弾を水風船でも割るかの様に全て弾きつぶした。


「流石はシュティレさんです……」


「毎回思うがあいつ、恰好良すぎない?騎士としての役目果たしすぎだろ」


 相変わらずのシュティレの有能さに驚いていると、鞭の攻撃に続きまたも攻撃も無効化されたことに悔しさを滲ませたフィニィがその場でまたヒステリックに地団太を踏む。


「むーーーーーーー!!なぁーんーでぇー!!弱いんだからさっさと倒されてよぉぉぉ」


 苛立たし気なフィニィとは対照的に初めてシュティレの動きを目の当たりにしたエクラはその確かな強さに目を輝かせた言った。


「シュティレさんやるじゃん!それだけの実力があるならヘラクレスについてこられるよ。それじゃ、ここは連携して行こっか。パワー全開、防御控えめで力で押し切るよ」


「ああ、了解した」


 エクラの提案に反論することなくシュティレは頷いた。なるほど、はごちゃごちゃ考えずに強い相手にはパワーで押し切る作戦か。攻撃は最大の防御、つまりはゴリ押し。


 俺もゲームでは大分パワー&スピードタイプだったが、それは諸刃の剣だぞ。押し切ろうとして敵の特大の攻撃を回避できずに何度コンティニューしたことか……。


「ま、待った。2人共、ちょっと待ってくれ」


 防御を捨ててフィニィに立ち向かおうとする2人を俺は必死で叫んで止めた。この世界は現実だ。当然ながらコンティニューはできない。そう、一度失われた命は戻らないのだ。諸刃の剣戦法によって命を奪われると言う結果は絶対に招いてはならない。


「どしたの、クロケルさん。グズグズしている暇はないんだよ」


「敵を目の前にしての待機はリスクが高い。伝えたいことがあるなら手短に済ませてもらおう」


 エクラとフィニィに怪訝な表情で急かされ、呼び止めただけで何も考えていなかった俺は焦り、必死で思考を巡らせる。


 そうしてもたもたとしている間にも、フィニィは幾度となく攻撃を仕掛けて来て、その度にシュティレとヘラクレスが攻撃を弾く。


「クロケルさん、早く用件を言って!」


「いい加減、持つのにも限界があるぞ」

 

 俺の言葉を待っている間、ずっと敵の攻撃を防ぎ続け、中々口を開かない俺に痺れを切らしたエクラとシュティレが我慢の限界だと苛立たしく言葉を投げ駆けて来た。


 決断を急がなければならないことぐらいわかってる。でも待ってくれ、みんなで生きて帰る方法を今考えてるんだから。


 フィニィの力はまだ未知数。それに目の前の2人は知らないと思うが、フィニィは魔術と魔力の気配や軌道を読むことができるんじゃなかったか。


 つまり、こちらは物理攻撃しか使えない。一度ケイオスさんが魔術で自ら攻撃強化をして攻撃を仕掛けたが強化魔法も見切れるフィニィには攻撃の強化無意味。強化された体の魔力を読み取られて攻撃を防がれてしまう。要は魔術を使った時点でアウトなのだ。


 手数が少ないからこそ防御も捨ててはならない。シルマの盾の女神の加護(アイギスエヴロギア)は既に攻略法を見つけられてしまっているし、魔力の軌道を読まれて発動のタイミングを見切られる可能性があるので乱用はできない。


 いや、待てよ。相手に攻撃の必要がない防御強化なら見切られることはないかもしれない……そうだ、防御強化だ。


「シュティレ、エクラ、よく聞いてくれ実は……」


 閃くものがあった俺は今まで見て来たフィニィが持つ能力の片鱗を2人に話した。そして相手が魔術と魔力の気配や軌道を読むことが出来ると知った2人はひどく驚いていた。


「それ、ヤバいじゃん。強化ナシの物理攻撃しかできないってことだよね。やっぱり攻撃の力を全振りで戦うしかないじゃん」


「ああ、攻撃を食らえばこちらも危ない。速攻勝負になるな」


「待って待って、話を最後まで聞いて!」


 今にもフィニィに飛びかかろうとする血の気が多い2人をもう一度引き留めて自らの考えを口にした。


「2人が安心して攻撃に力を全振りできる様に俺たちもサポートする。だからもうちょっと待て」


「仲間同士の連携は大事だと思うし、サポートしてもらえるのは有難いが……」


「強化魔術も見切られるんじゃなかったの?」


 シュティレとエクラは互いに顔を見合わせてから俺に視線を戻す。不思議そうに俺を見つめる2人に少し緊張を覚えながらも俺は己の考えを口にした。


「いや、相手に攻撃を仕掛けない、自分を守るためだけの防御魔術なら見切り様がないと思って」


「でも、シルマちゃんの防御魔術はさっき攻略されちゃったし……」


「うう、ごめんなさい」


 気まずそうにエクラが言い、シュティレは身を縮めて申し訳なさそうに何度目かの謝罪の言葉を口にした。


「いや、バフを掛けるのに適役がいるんだよ。ってことでアムール、防御強化の歌を頼めるか」


 肩の上に腰かけるアムールにそう指示を出すと、頼られたことが嬉しかったのかアムールの顔がパッと明るくなる。そして肩の上で立ち上がり、元気よく頷いた。


「お任せください!アムールの初ライブ、とくとご覧あれっ」


 アムールが空中に手を掲げると小さな手にピンク色で星の飾りがついたリボンが巻かれたハンドマイクが現れ、同時にどこからか楽しくリズムに乗れるポップな曲が流れて来た。


「な、なに?歌?」


 これには流石のフィニィも動揺して攻撃の手を緩め、何事かと辺りをきょろきょろと見回していた。


「みんなを守る愛に溢れたポップなナンバー、いっくよーっ」


 アムールは俺の肩から掌に伸び乗って、マイクを手に歌い始めた。縦ノリのポップなリズムに合わせてクルクルと回って踊っている。すげぇ、信じらんねぇ。アイドルのコンサートが俺の掌の上で開催されている。異世界ヤベー。


『君、やっぱり所々呑気だね』


 俺の心を読んだ聖が溜息交じりに呆れたツッコミを入れたが気にしない。何故ならそれは俺もちょっと思ったから。


「おお、凄い!あたしもヘラクレスも守られてる感じがする」


 エクラが自分の手を開いたり閉じたりしながら興奮気味に言った。隣で佇むシュティレもこくりと頷く。


「ああ、力を十分に発揮できそうだな。行くぞ!エクラ殿」


「合点!ヘラクレス、行くよっ」


 アムールから防御強化のバフを受けたシュティレとヘラクレスが今度こそフィニィに向かって突進して行った。もちろん、俺が2人を止めることはなかった。


「なんだか私たちも防御力が上がっている気がしますね」


『うん、上がってるみたい。この歌の効果は味方全体の防御力強化みたいだね』


 不思議そうに自らの体を見るシルマを聞いてアムールの力を即分析した聖が言った。指定強化かと思ったらまさかの全体強化か。


「凄いな、アムール。よくやったぞ」


 掌でアムールは歌唱中で答えられない代わりに「凄いでしょ」と言わんばかりにウィンクをした。


 そして戦況を窺おうとシュティレたちに視線を戻す。そこにはフィニィと一切距離を開けずに武器を振るうシュティレとヘラクレスの姿があった


 アムールの歌によるバフは効果抜群の様で、防御を捨てて行動しているため多少相手の攻撃が当たることはあったが、軽く弾かれるか擦り傷ができる程度だった。


 正直、この効果には驚きである。防御強化って体が石になるのかよ。ってぐらいシュティレもヘラクレスもダメージが通らない固い体になっていた。


「くっ、むかつくっ」


 攻撃を当ててもダメージが通りにくく、距離を取って遠距離攻撃を仕掛けようとしてもシュティレとヘラクレスが連携して挟み撃ちをして来るので直ぐに間合いを詰められると言う状況にフィニィが苛立って舌打ちをする。


 これは、押してる……?ちょっとずつだが確実相手の体力を削れている。シュティレとヘラクレスに必死で応戦をしていたフィニィだったが、最強の竜騎士と屈強な巨人からの威力抜群の攻撃を止めどなく受け続け、明らかに疲れが見え始めていた。


 フィニィの表情と態度から余裕も笑みもすっかり消え失せ、今は鬱陶しい様な悔しい様な表情を浮かべて必死で応戦していた。


 このままいけば体力が尽きたフィニィを捕獲できるかもしれない。そんな希望が差し込んだ時、ヘラクレスに魔力を送り続けていたエクラが突然苦しそうな表情を浮かべて膝をついた。同時にフィニィと対峙するヘラクレスの動きも鈍る。


「エクラ、どうした」


「大丈夫ですか!?直ぐに回復をっ」


 顔面蒼白になっているエクラに慌てて俺とシルマは駆け寄る。最初は息も絶え絶えだったが、シルマ回復魔術によって呼吸が落ち着き、額に大量の汗をかいた状態で申し訳なさそうに言った


「ごめん、あたしの魔力の限界が来たみたい」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


聖「次回予告!こっちが優勢だったのにまさかのピンチ!?クロケルたちはアストライオスの未来視を覆し、勝利を掴むことが出来るのか。勝負の行く末はいかに」


クロケル「未来を覆すってそんな奇跡が現実に起こりうるのだろうか……」


聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第92『敗北の運命に抗え、狂気の少女・フィニィとの対決』クロケルの主人公力が今、試される!?」


クロケル「主人公力って。いや、ないだろ。俺にそんなもの。モブだから他人の運命に巻き込まれて1回人生終了してんだよ」


聖「他人ってひどいなぁ。僕たち、一応親友でしょ。それに、運命に勝つのは主人公の特権だよ。上手くいけば主人公属性ゲットかも!頑張りなよ。」


クロケル「そう言えば主人公補正は聞いたことあるけど、モブって何か補整かかるのか」


聖「しらなーい」






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