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第89話 兄妹の再会、意地と想いのぶつかり合い

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。


次回で90話到達!せめて100話は書きたいなと思っていたので目標が見え来ました。まあ、100話以上書く予定ではありますが、目標は目標ですので、頑張って書いていこうと思います。


本日もどうぞよろしくお願いいたします。

 その度、それぞれのチームが茂みや木に身を隠し、フィニィの襲撃に備えた。広場の中心にはわざととら良いぐらいポツンとアストライオスさんが佇む。


 その様子を少し離れた位置から緊張しながら見守る。アストライオスさんの未来視によれば、フィニィは何とぬいぐるみ擬態してここまで侵入して来たらしい。


 何故にぬいぐるみ?と思ったが、エクラの話によればルシーダはほぼ辺境の地と言っていいほどの場所にあるためか、商売をするには不向きとされ、あまり店がないらしい。


 食料や飲み水は自給自足で何とかなるものの、自分たちの手だけは娯楽だけはどうにもならず、娯楽を望むのであれば下世界に降りるしかないのだが、誰もがエクラの様に瞬間移動の能力を持ってはいないらしく多くの住民は自力で下山が必要となる。


 大人はともかく、子供たちがあまりに可哀そうだと言うことから、週に数回、子供向けに下世界から娯楽道具が運ばれてくるらしい。


 フィニィはそれを利用し、ぬいぐるみに化け、自らの手を煩わせずに登山と検問をいとも簡単に突破したと言うのだ。因みに、アンフィニの代りに新たに手にしているウサギのぬいぐるみに擬態しているらしい。


「う、なんか寒気が」


「はい。空気が変わりましたね」


 そんなこと思い返していると、その場の空気が変わった気がした。冷たくなったと言うか、重くなったと言うか、とにかく嫌な空気で思わず声を漏らしてしまう。肩の上に乗るアムールも同じ空気を感じた様だ。


『しっ、静かに。来たよ』


 聖に静止され、無意味に息を止め、アストライオスさんの方を注視すると、突然空からウサギのぬいぐるみが降って来て、ポタリと地面に落ちた。


「あれがフィニィか」


『うん。そうだよ、間違いない』


 緊張を高めながらか小声で確認すると聖も小声で頷いた。かなりファンシーな登場の仕方だと思いかけたが、よく考えたら何もないところから人形が降って来るなんてホラー物でよくある展開である。


「ん、何じゃ。人形か」


 もちろん、アストライオスさんはこれが罠だと理解しているが、囮役のためわざとぬいぐるみに近づく。ちょっと言い方がわざとらし過ぎるきがしたがスルーしよう。


 アストライオスさんがぬいぐるみを拾い上げようとしたその時、仰向けに転がっていたぬいぐるみが勢いよく体を起こした。


「お命、頂戴いたします」


 ぬいぐるみの中から煙の様に現れ、至近距離から殺害予告を言い放ったのはまごうことなくフィニィだった。手には小型のナイフを持ち、それをためらうことなくアストライオスさんに振り下ろした。


「甘いのう、小娘」


 アストライオスさんはにたりと笑って思い切り地面を踏み抜いた。瞬間、縦揺れの衝撃があった。バランスが崩れそうになり、慌てて踏ん張って前の様子を窺えば、アストライオスさんの地面が大きな塊になってめくれ上がり、それが盾になっていた。


 勢い突けて振りかぶったナイフを戻すことはできず、フィニィの獲物はアストライオスさんではなく、土の盾を捉えた……瞬間、土の盾が霧となって溶け消えた。


「ちっ」


 フィニィが悔しそうに顔を歪め、地面に転がったウサギのぬいぐるみを拾い上げた後、アストライオスさんから素早く距離を取る。


「えっ、なんで!?」


「わわー。土の壁が一瞬で出て来て一瞬で消えました。イリュージョンですっ」


 190cmは超える筋肉ゴリラのアストライオスさんをすっぽり隠す大きさだった土の盾がナイフ1本で簡単に崩れるわけがない。身を隠していることも忘れて目を剥き、声を上げてしまった。


 アムールもその光景に驚いた様で、こちらは何故かこの光景にはしゃいでいた。そんな俺たちの反応を見て聖が真面目な声色で言った。


「あの子のナイフに呪いがかかっていたんだろうね。ちょっとでも触れたら溶ける毒みたいなやつ。アストライオスはそれをわかっていたから触れずに回避したんでしょ。あ、因みに足元をぶち抜いたのは魔術でもなんでもなく、あいつの力(物理)だよ」


「うわ、やっば。どっちもやっば」


 聖からの2つの驚き発言で俺の語彙力が衝撃のあまり消失する。確実に相手を消しに来ているフィニィと、予想していたとは言え物理で即席の盾を余裕の笑みで作り上げたケイオスさん。精神的なヤバさで言えばどっちも同じぐらいである。


 手練れ2人に表情を引きつらせていると、俺の正面の草むらでチカッと小さく何かが光った。


「……合図だ!」


 俺は剣をゆっくりと抜き放ち、身を隠していた草むらから勢いよく立ち上がる。同時にエクラの意気揚々とした声が辺りに響いた。


「今がチャンス!総員、かっかれー!!」


 合図と共に俺たちは四方から飛びかかった。アストライオスさんに集中していたフィニィは突然現れた俺たちを凝視し、その場で固まっていた。


「な、何っ!?」


 どうやら本当に無策だったらしい。こんな風に俺たちが現れるとは予想していなかったのか、数秒だけ慌てた後にぬいぐるみをギュッと抱きしめ、その場から一瞬で姿を消した。


「えっ、消えた……っおわっ、ととっ」


 同じ目標に向かってきていた仲間たちは互いにぶつかりそうになったが、全員図寸前のところで何とか急ブレーキをかけることが出来て正面衝突と言う大事故を免れた。


「あっぶな、みんな無事?仲間同士のつぶし合いとかダサ過ぎるっしょ」


 エクラがギャルらしい軽い口調でみんなを気使う様にしながら辺りを見回し、全員がそれに頷いて答えたのを確認してからぷくぅと頬を膨らませた。


「信じらんない。瞬間移動ができるとか聞いてないんですけどぉ。おじいちゃん、()()。視えてたでしょ」


 俺たちの背後でにやにやと笑って俺たちを見つめるアストライオスさんをエクラはジト目で見据える。


「まあな。この結果は視えておったぞ」


 アストライオスさんはあっさりと白状した。それも超楽しそうに。わかりやすく表現をするなら“やーい、ひっかかった”みたいな雰囲気を出している。なんだか凄くイラッとする。


『はあ!?君、馬鹿じゃないの』


「そうだよ。失敗するなら前以て言ってよもう!もうちょっとで自滅するところだったんだけど」


 誰よりも早くブチ切れた聖とエクラが秒速で詰め寄ったがアストライオスさんは素知らぬ顔で返した。


「言っておくがワシはこの作戦が成功するとは一言もいっておらんぞ」


「「えっ」」


 そう言われて全員の思考が停止する。そして先ほどまでのアストライオスさんの言動と行動をよく思い出してみる。


『ワシの未来視では敵は()()()()()()引っ掛かるようじゃからのう』


「あー……」


 俺の口から思わず声が漏れる。確かに、あの時アストライオスさんはフィニィは作戦に引っ掛かるが作戦が成功するとは一言も言っていないなんか含みのある言い方だなぁ。とは思ったんだがこういうことかよ。


「成功すると勝手に思い込んだのはそっちじゃろう。まあ、これも元々決まっていた運命じゃからの。仕方のないことよ」


『ねぇ……君、本当に僕たちに協力する気あるの?君のお孫さんが考えてくれた作戦失敗じゃん』


「それな。マジでどうしてくれんの」


 悪びれる様子のないアストライオスにさんにイライラのボルテージが上がりまくっている2人が大分強い口調で圧をかけ始めた。


 ぶっちゃけ気持ちはわからなくもない。戦闘能力では俺たちの方が劣っていると判断したからこそ立てられた唯一の勝機を見出せそうな作戦“戦いを極力避ける即捕獲”は見事なまでに失敗に終わったのだから。


 未来視で結果がわかっていたなら、もっと具体的なアドバイスが欲しかった。そう不満に思ったのはこの場にいる全員の様で、何とも言えない気まずい空気が流れる。


「まあ、そう怒るな。望む未来に進むにはその過程での選択は重要なんじゃ。そんなことより、あちらさんを放置せん方が良いのではないのか」


 確実に自分が責められている空気を感じ取っているはずだが、アストライオスさんは意味深げに行った後に可可(かか)と笑って話を逸らし、俺たちの背後を指差した。


 アストライオスさんに言われて振り向くと、そこには瞬間移動で俺たちから逃れたエクラがウサギのぬいぐるみを両手で抱えてこちらを睨みつけていた。


「はあ、また邪魔するんだ。いい加減にして欲しいなぁ。そんなに命が大事じゃないなら、そのおじいさんを始末して直ぐに後を追わせてあげるから安心しなよ」


 苛立たし気な声からハッキリと敵意と殺気を感じ、彼のフィジカルを考えると必要ないかもしれないと思ったが、念のため全員でアストライオスさんを守る様に囲んでフィニィの攻撃に備える。


「おお。なんかワシ、ヒロインみたいじゃの。守られることなど今まで経験がないからのう。新鮮な気分じゃ」


 自分の命を狙う敵が至近距離にいると言うのに呑気に構えているアストライオスさんの態度でせっかくの緊張感が抜ける。


 なんでそんなにヘラヘラしてられるんだ。フィニィとの戦いが始まったと言うことは今まさに俺たちの運命が動こうとしている瞬間だぞ。あんたの命も危ないかもしれないんだ。いい加減真面目になってくれ。頼むから!


 それとも良い未来が視えているからそんなに余裕なのか?どんな未来がアンタには視えてるんだよ。フィニィの動きを気にしながらも俺は不安のあまり心の中でアストライオスさんに不満をぶつけまくった。


「おい、地面に降ろしてくれないか」


「えっ。はっ、はい」


 フィニィとの睨み合いが続く中、魔術師であるシルマといつでも連携が取れる様にと抱きかかえられていたアンフィニが不意にそんなことを言った。


 それの言葉を受けたシルマは戸惑いながらも腕の中にいるアンフィニを言われるがまま、そっと地面に降ろした。


 アンフィニはそのままゆっくりとフィニィの正面に立ちはだかり、彼女を見据えて強い口調で言った。


「いい加減にするのはお前の方だ。前にも言っただろう。復讐に心を支配されるな。ネトワイエ教団の連中に惑わされるな」


「お、まえは……」


 ピクリ、とフィニィの眉が動き、わずかに動揺したことがわかる。以前、フィニィは自分の意見を否定したアンフィニを偽物だと言って拒絶したが、やはり心の奥底では拒絶しきれていないのだろうか。


 兄妹が張り詰めた空気の中、向かい合っている。そのあまりにも重苦しい光景を俺たちは武器を構えながらもただ黙って見守った。


 フィニィが動揺を見せたことが分かったアンフィニは、今なら声が届くかもしれないと判断したのか、アンフィニはある程度の距離は取りつつも一歩踏み込む姿勢で言葉を投げかけた。


「最初はお前のためならと、復讐を果たすための修行や暗躍に協力した。それでお前が幸せなら、笑ってくれるなら、それでいいと思った。でも、復讐を掲げて生き始めてから、お前は一度も笑顔を見せなくなった」


「……」


 アンフィニの言葉にフィニィも俺たちも一切の言葉を発さずに耳を傾ける。彼の必死の訴えと、みんなの浅い呼吸だけがその場に存在した音だった。


「やっぱり復讐なんてお前の心が壊れていくだけだ。今からでも遅くない。お前が明るく楽しい人生を送れる様な生きがいを見つけよう。兄として今度こそお前をしっかり導くから、だからこっちに来い」


 アンフィニは力強く、そして切なげに想いを伝え、手を伸ばした。フィニィは黙ってウサギのぬいぐるみを抱えたまま暫く俯いて動かなかったが、やがてゆっりと顔を上げて、嫌悪感丸出しでアンフィニを睨みつけ、鋭い言葉を投げつけた。


「やっぱりお前はお兄ちゃんの偽物だ。だって、お兄ちゃんは私の行動を否定しないもん。いい加減にお兄ちゃんのフリをするのはやめろ、外道ッ」


「違う、俺はお前を否定しているんじゃない」


「うるさい黙れっ」


 言葉を投げかけようとしたアンフィニをフィニィはヒステリックに大声で遮った。その迫力に押し負け、アンフィニは言葉を引っ込める。


 余程強い力で抱きしめているのだろう。彼女の腕の中にあるぬいぐるみの首元には痛々しいほどに皺が寄り、布が破れて綿が溢れ出すのではないかと心配になるぐらいギリギリミシミシとぬいぐるみらしからぬ音を立てていた。


「私の幸せは私が決める。誰にも口出しはさせない!私は、私のやるべきことを実現させるんだ。口出しは許さない」


 目を見開き、歯をむき出しにしてフィニィは吠える様に叫んだ。見た目は幼い少女から放たれる圧倒的な狂気。フィニィが持つ怒りや悲しみがごちゃ混ぜになったこの感情は何度目にしてもこちらの心が痛くなってくるほどに悲痛だった。


 怒り、興奮し、全く自分の話を聞こうとしないフィニィを目の前にして、アンフィニは悲し気に目を伏せ、そして決意した様に顔を上げて改めてフィニィを見据えた。


「わかった。どうしても止まらないと言うのなら……フィニィ、俺は何としてもお前を止めるぞ」


 そう言ってアンフィニはゆっくりとこちらを振り返った。そして悲しそうな表情のまま俺たちに頭を下げ、言った。


「お願いだ。全力で構わない。フィニィの目を覚まさせるのを手伝ってくれ」


「……いいのか」


 確認し様がしまいが、この状況では戦いを避けられないことは確定しているのだが、念のため確認する。


「ああ。命を奪わないで貰えると、助かる」


 1つの結末を覚悟した様に暗い表情を浮かべてぎこちなく頷くアンフィニに俺は強く頷き返した。


「わかった。一緒に戦おう。それで、もっとちゃんと妹と話をしような」


 俺の言葉に仲間たちもアンフィニを見て微笑み、しっかりと頷いた。予想外の反応だったのか、アンフィニは面食らった様な表情を浮かべた後、小さく「ありがとう」と呟き、改めてフィニィに向き直って言った。


「わからずやな妹にはお説教だ。覚悟しろよ」


「やってみなよ!お兄ちゃんの偽物のくせにっ」


 鋭い声で叫び、互いに睨み合う兄妹。お互いを心のそこから家族として愛していた2人の想いは今、怒りへと変わってぶつかり合う。


 互いの譲れない想いがそうさせているとは言え、大切だからこそ戦うしか選択肢がない悲しい兄妹に言い様のない悲しさを覚え、胸が苦しくなった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


聖「次回予告!兄妹は再会し、譲れない想いと意地をぶつけ合う。クロケルたちは」


クロケル「ちょっと危ないが、これはある意味チャンスだ。なんとかしてフィニィを保護しないとな」


聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第89『召喚士エクラの能力』神系ギャル力がついに明らかになる!?」


クロケル「神系ギャルってカリスマとかそう言う意味に聞こえるけどマジもんの神様だもんなぁ」


聖「ヒトは見かけによらないよね」


クロケル「ああ、この世界に来て何度もそれを実感してるよ……」


聖「君も全然見かけによらないよね、悪い意味で」


クロケル「うるせぇわばかー」


聖「しらなーい」



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