第8話 子犬系少女騎士の事情
この度もお読み頂きまして誠にありがとうござます。
碌に設定とネタを考えず、思いつくままにキーボードを叩いております。このお話行く末はどうなるのでしょうか。最終回を目指さずに書くなんて初めての経験です……。
この物語はもの凄くながくなるか、短期連載になるか自分でも予想がつきません(汗)
それでもお付き合い頂けましたら幸いです。
本日もどうそよろしくお願いいたします。
「実は……私は隣国、グラキエス王国に仕える騎士でクラージュと申します」
「騎士!?」
話の腰を折って悪いと思いながらも俺は驚きの声を上げてしまった。その場にいた全員が驚いて俺に注目する。
『ちょっと、クロケル。話ぐらい大人しく聞けないの』
聖に注意され、俺は口元を押さえて謝罪する。
「わ、悪い、見た目にそぐわない単語が聞こえたもんでつい」
だが少女を助け起こした時の手の違和感にも納得した。小柄で華奢な見た目の割には硬い手だなとは思ったが、騎士と言われると納得できる。アレは剣を握る者の手の感触だ。
俺もレベル1とは言えど剣持つ者。それぐらいは分かる。それに思い出してみれば手には豆や切り傷が複数あった。このクラージュと言う少女は相当修行を積んでいると見ていいだろう。
と言うかよく見ればクラージュの腰にはレイピアの様な剣が備わっている。小柄で細身な彼女に合った武器だとが思うが柄に銀の薔薇の装飾が施されており、やけに豪華だと思った。
「皆様のお名前も教えて頂いても?」
クラージュが聞いて来たので俺たちも素直にそれに答える。まあ、名乗ってもらっておいてこちらは名乗らないのは失礼だもんな。
「俺はクロケルだ。一応、魔法騎士だ」
一応、と付け足した俺にクラージュが疑問の目を向けた気がするが、レベル1で魔法騎士と自信を持って名乗るのはとても気が引けるので勘弁して欲しい。
あえてクールな雰囲気を醸し出し、どうか追及してくれるなと内心ドッキドキで無視する俺にシルマがのんびりとして続く。
「私は魔術師でシルマと申します。クロケル様の旅の微力ながらサポート役を務めさせて頂いております」
そう言えばシルマも俺とは別の意味で自分のレベルを他人に知られたくなかったんだよな。しれっと嘘をついた。全然微力じゃない。
寧ろシルマは戦いの要。サポートどころかメインで戦ってもらうポジションである。あー、自分で言っておいて情けない。
『僕もクロケルのサポート役、主に戦場分析やってます。有能AIのアキラって言います。よろしくー』
聖も自らの素性に嘘を交えつつ自己紹介をした。今後は有能AIとしてキャラづくりをするんだな。
「なるほど、魔法騎士様のご一行でしたか」
この世界ではゲームの世界と同じく各種族がパーティを組んで旅をすることも珍しくはないのだ。
クラージュは嘘で塗り固められた俺たちを不審に思う事なく、すんなりと受け入れ、うんうんと頷いて1人納得をしていた。
『ふむふむ。レアリティは4、ヒト型での剣騎士か。特に魔力は持たないごく普通のヒト族だけど、相当鍛え上げられてるな。レベルは75だ』
聖がすばやくクラージュをアナライズし、こっそりとステータスを述べる。
俺は驚愕した。こんなに華奢で子犬系なのにレベル75。この世界で生きて行くには十分な強さだ。しかも王国騎士って……完全に勝ち組じゃねぇか。
確かに、軽装ではあるがクラージュが着ているベストには銀色で刺繍されたバラをモチーフにした紋章が施されている。
「あの紋章は確かにグラキエス王国のものですね。この方がおっしゃっていることは本当だと思います」
俺が黙っているのを警戒していると勘違いしたのか、シルマが耳打ちをして来る。別にこいつの素性を気にしていたわけではないが、危険人物でないと証明できるもであれば安心だ。
「あの、お話を続けても?」
こそこそする俺たちを見ながらクラージュは不思議そうに小首を傾げる。
「悪い。続けてくれ」
俺が促せばクラージュは元気に「はいっ」と頷いて話を続ける。
「実は私、騎士としてのお仕事で旦那様、あっ国王様からある物をお預かりしたんですけど、それをさっきのモンスターらしき物体に奪われてしまって」
ん、なんで今、旦那様を国王様って言い直したんだ。こいつ、普段は国王を旦那呼びしてるのか?国王に仕える騎士なのに。
俺はそこに違和感を覚えたが、それを自然と受け入れたシルマが心配そうな表情で俺よりも先に口を開く。
「国王様からの預かりものですか。それは一大事ですね」
「そうなんです、お預かりした大切な品を、あんな小さなモンスターに邪魔されてしまうなんて、国王様に顔向けできません」
大きなどんぐり眼を揺らし、クラージュはスンと鼻をならした。どうやら国王から直々に預かったものをモンスターに奪われてしまった事がよほどショックらしい。
クラージュは今にも泣きそうになっていたが、しかし騎士のプライドか涙を零してなるものかと言わんばかりに唇を噛んでそれを耐えている。
『ねえ、モンスターに奪われたある物ってなんなの』
すっかり落ち込んでいるクラージュに聖がずけずけと質問をする。国王から預かったものの詳細をすんなりと教える騎士がどこにいるだろうか。
「銀製のロケットペンダントです」
いや、言うんかい。偉くあっさりと言うんだな。それでいいのか王国騎士。
「ロケットペンダントって、チャームが開閉式になっていて中に写真とか入れられる様になっているアレのことか」
過去にプレイしたゲームや推しアニメに何度か出てきた覚えがある。中身は大概生き別れた家族だったり、想い人だったり、今は道を違えてしまったがかつて仲が良かった友人だったりと色々なドラマが詰まった代物だ。
「はい。そうです。王家に伝わるものでこれと同じバラの紋章が刻まれています。中には国王様のお写真が入っています」
そう言ってクラージュはベストの紋章を改めて俺たちに見せる。なるほど。中々に豪華で気品が溢れていそうなロケットペンダントだな。
だが1つ気になるのは国王の写真が入っていると言うことだ。
「なんだってそんなものを預かったんだ」
「今回は私の長期単独任務となりますから、だ……国王様だと思って持って行きなさいと言われました」
またこいつ国王のことを「旦那様」って言おうとしたのか。やっぱりおかしい。国王をそんな風に呼び間違えるか?
それにこいつの言うことが本当なら、国王の言葉も変だな。部下である騎士が長期任務に赴くからって自分の写真が入ったロケットペンダントを渡すか普通。
自分の部下によほど忠誠を誓わせたいとかか?うむ。考えてもますますわからん。
「あのペンダントと一緒に無事に帰ると約束したのに、モンスターに不覚を取るなんて」
クラージュはまた俯き、シュンと肩を落とす。ああ、これはまた泣きそうな顔をするだろうな。と俺が思った矢先、クラージュはガバッと顔を上げた。
しかし、その顔は俺が予想していたものとはかけ離れていた。
ペンダントを盗まれたと眉を下げ、悲しく沈んで話していた時とは一変、目と眉は三角に吊り上がり、恐らく彼女のチャームポイントであろう八重歯をむき出しにしながら歯ぎしりをしていた。
つまるところ、ものすごく怒っている。幼い顔立ちのため、小型犬の威嚇に近いものを感じたが、かなり凶暴なオーラを出している。正直、めっちゃ怖い。
「絶体に許せない……あのモンスター、八つ裂き……いや跡形も残さずに消し炭にしてやる」
吊り上がっていた目を今度はスッと据わらせ、ドス黒いオーラを放ちながらギリッと歯を鳴らす小さな少女に俺は震えた。
何、この子。めっちゃ怖いんですけど。って言うかこの世界に来てから出会う女の子が全員怖いんですけど。どういうことですかコレ。
「く、クラージュ。雰囲気が怖くなってるぞ。落ち着こうな」
この空気をなんとかしたくて俺はビビりながらもクラージュを宥めれば、据わっていた彼女の目がどんぐり眼に戻り、黒いオーラもすっかり消え失せて少し照れた様子でこちらに向き直った。
「あっ、ごめんなさい。私ってば、つい取り乱して……。そうですね。まずは落ち着かないと」
すーはーと彼女は深呼吸をしていたが、取り乱したとか言うレベルじゃねぇんだわ。怖すぎだろ。やっぱ小さくても王国騎士だな。殺気がやばい。
ブルブルと小刻みに震える俺にシルマが眉を下げ、とても心配そうな表情でクラージュを見つめながら俺に提案をして来た。
「クロケル様、クラージュ様は大切なものを奪われてお困りの様子……この件、お手伝いさせて頂いては?」
「はあ!?」
やっぱり来たかこの流れ。そうだよな。ここまで関わったなら普通は話を聞くだけでは終わらないよな。手伝う流れになっちゃうよなぁー。うん、わかってた。
だが、面倒事には巻き込まれたくない。だって相手はモンスターだぞ。百歩譲ってクラージュに協力したとして、レベル1の俺が役に立てるとでも思うか!?
『いいじゃない。協力してあげなよ。急ぐ旅でもないんだし』
「はあぁぁぁ!?てめぇ、また他人事だと思ってっ」
シルマは若干お人好しなところがあるのは分かる。死にたくないと願いくせに面倒事に首を突っ込む性格なのも正直どうかと思うが、聖、お前は違う。
ってかお前、俺を本当にサポートする気があるのかっ。
聖が余計なことを言い、クラージュの大きな瞳が見開かれ、期待を宿して輝き出す。
「え、良いんですかっ」
「うぐぅっ」
うーわー。もう断れねぇ雰囲気。これで俺が断ったら薄情者確定じゃねぇか。流石にこのキラキラ視線とこの流れで断る勇気は俺にはない。
「わかった。ペンダント探しに協力してやる」
「わあ!ありがとうございます」
クラージュはキラッと目を輝かせた後、騎士らしくビシッと丁寧で深いお辞儀をした。
「はは、いいさ。気にするな」
自然と乾いた笑いが漏れる。レベル1の俺がこの世界で生きていく上で他人の信頼は大事。敵は少ない方が良い。うん、そう言うことにしておこう。
「それじゃあ、まずはペンダントを盗んだモンスターとやらを探すか」
「あ、でもまずは……」
本当は気が進まないが話が決まったのであれば善は急げと俺が行動を促した時クラージュがそれを止めた。
まだ何かるのかと俺たちがクラージュに注目すれば、彼女はとびきりの眩しい笑顔で言った。
「ご飯ですよね!」
……お前、ペンダント取られて焦ってたんじゃないの?
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聖「次回予告!なんやかんやで面倒事に巻き込まれてしまったクロケル。せっかくの温泉宿で癒されるどころか疲れ行く彼に明日はあるのか……次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第9話『小休止、豪華で楽しい!幸せ気分の晩御飯』頑張れ、クロケル。きっと未来は明るいよ」
クロケル「なあ、この世界って胃薬とかあるのか」
聖「あるある。割とリーズナブルに買えるよ。買っとく?ネットワークを通じて注文できるよ」
クロケル「ああ、なるべく効きそうなヤツを頼む……」
シルマ「あの!体調が悪いなら私の回復魔法で治癒しましょうか」
クロケル「いや、これは精神的なものだから多分魔法は無意味かな」