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第88話 来るものは拒まず、おびき出し作戦

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。


昨日はバタバタしていて投稿できませんでした……。やっと落ちついて投稿ができます。


投稿は飛び飛びですが、本編は少しずつ動いておりますので気長にお読み頂ければ幸いです。時間が合ったら過去の投稿を修正したり、小説を書き溜めたりしたいです。遠い夢かなぁ(泣)


本日もどうぞよろしくお願いいたします。


 エクラの勢い任せの号令と共に、俺たちは案内されるがままギリシャ風の街並みを列になって歩く。


 やっぱり住宅街が迷路っぽいのってロマンを感じるよな。なんだろう、この言い表しようのないドキドキ感は……異国情緒的な奴かな。


 先だって巻き込まれて迷い込んだ不思議の国みたいに不気味な色に包まれた世界は二度と遠慮したいが、こういう神聖で異国風の場所に迷い込むのは冒険感が増して楽しい。


 列の先頭を歩きながらエクラが俺たちの方を振り向き、これから敗北と言う未来もあり得る戦いに向かっているとは思えない。意気揚々とした態度で言った。


「今から向かうのは使われていない広場ね。あそこはあたしたち星の一族の土地だから、住民は誰も近づかないんよねぇ。周りへの被害も最小限に抑えられると思うんだ」


 出たよ。“使われてない広場”異世界に来て何度も戦闘に参加して来たが、戦いに都合のいい場所が多すぎない?ゲーム見たくご都合主義が働いているとしか思えない。だとしたら流石異世界。もうなんでもありである。


「しかし、星の一族の土地、と言うことは神の血族の由緒ある土地ではないのか。戦場にしてしまっていいのか?かなり激しい戦いになると思うが」


「そうですね。せっかくの土地が荒れ地になってしまうかもしれません」


 一族に伝わる土地を平然と戦場として提供しようとするエクラにシュティレとシルマが本当にいいのだろうかと不安そうな表情で質問する。


「ダイジョーブ!土地は使うためにあるんだから。それに優先すべきは一族の土地よりも住民の安全。荒れた土地は努力すれば再生できるし。ね、おじいちゃん」


 そう言ってエクラは隣を歩くアストライオスさんに笑いかけた。彼は顎髭を何度か撫でる様に触り、少し考える素振りを見せてから言った。


「……まあ、そうじゃの。危険な人物が侵入すると分かっていながら招き入れているのじゃから、長として住民を守る責任と義務がある。エクラの言う通りだ。喜んで土地を提供しよう。遠慮なく戦ってくれ」


「ほら!この国の長もこう言ってるし、みんな、実力解放100パーで頑張ろうね」


 アストライオスさんが正式に許可を出し、言質を取ったエクラがブイサインで嬉しそうに微笑んだ。


 実力100パーセントか……俺の全力はマジで赤子の素振りレベルなんですけど。体当たりしか技をもたないスライムと互角の勝負を繰り広げる奴ですぜ、俺は。


 改めて己の実力を客観視し、自然と頭と気が重たくなって眩暈を覚えた時、ふと先ほどのアストライオスさんの言葉が脳裏を過る。


『それにしてもお前たち、仲間内で隠し事が多すぎなのではないか。ほとんどが仲間に言えぬ秘密を抱えておるではないか。信頼も何もあったものではないなぁ』 


 今思い返しても心臓が震える。ギクリともドキリとも取れる、腹の底と心の奥がひんやりしてぞわぞわとする感覚。


 これから始まるのは恐らく今まで経験した中で大きな戦い。よく考えればそんな状況で自分がレベル1であることを黙っているのはチームプレー必須となる戦闘であることをぁんが得ても非常に良くない。


 やっぱり正直に言った方がいいのかな。シルマや聖のことは上手く誤魔化す感じで、自分のレベルのことだけでも伝えるか……?


 ハッ、この選択もまさか運命に繋がって来るのか。余計な考えがぐるぐると目まぐるしく脳内を駆け巡り、思い悩む俺にスッと聖が近付いて来て、小さな声で囁いた。


『とりあえず、君のレベルのことは黙っていなよ。下手に士気を下げるのも良くないと思うし』


「う、で、でも、隠し事があることも敗北する原因の1つとか言われてるんだぜ。少しでも不安要素は潰した方がいいと思わないか」


 何が吉で何が凶かわからなくなった俺は自分での情けないほどオドオドとして聖に縋る様な言い方になってしまった。


『大丈夫だよ。このパーティで最強のシルマちゃんは事情を知っているし、今までもどんな状況でも君を守ってくれただろう?シュバルツも多分、性分的に君を優先して守ると思うし、身の安全は保障されていると思うよ』


「……それはそれで情けない話だな」


 言われてみれば確かに聖の言う通りかもしれない。シルマはいつだって俺との約束を果たそうとするし、シュバルツも俺ために強くなろうとしてくれているはある。それは心強いことだが、やっぱり自分が情けない。


『情けなくていいの。君だってそれなりに能力を持っているじゃないか。全くの無能じゃないんだから、自分ができる範囲で頑張ればいいんだよ。厳しい言い方をするけど、戦いにおいて、弱者はでしゃばらなくていいんだよ。寧ろよけいなことしちゃダメ』


「じ、弱者ってひどい言い方だな」


 しかし、聖の言うことは最もである。アニメやゲームの世界でも戦闘能力はそこそこなのに主人公や仲間のためにと勇気を出して行動した結果、命を奪われたり、捕まったりするキャラはいるもんな。


 脚本の書き方もあるんだろうけど、製作者側の意図としては感動もしくはハラハラして欲しかったりするんだろうけど「そこじゃない、今動くのは違う!!」って思うことも稀にあるんだよなぁ。


『いいの。とにかく、戦いにおいて君は余計なことをしない。頼れるところはしっかり頼る。それの姿勢を忘れなければ、少なくとも君がみんなの足を引っ張ることはないと思うよ。変にプライド持ち出さないで』


 聖は悶々とする俺に念を押す様に言った。厳しい言葉だとは思うが、的を得ていると思う。戦いが始まった際は自分の行動には十分に気をつけようと思った。


 そんな風に聖から注意をうけたこともあってが、戦いへの緊張感が徐々に増して来た時、エクラがまた口を開いた。


「因みに、作戦はとっても単純!“おびき出し”ね。国のために儀式をしているって体で広場に1人にして放置するの」


「ワシがわざと気配を国中に放って敵に居場所を特定させる。向こうがワシに攻撃を仕掛けようと姿を現したところを確保。簡単じゃろ」


『相手の隙をつく作戦だね。そしてこちらの希望通り、フィニィを捕獲するための戦法だ』


 フィニィ確保を作戦に組み込んでいることにを感心する聖にエクラがブイサインをし、満面の笑みで返した。


「あったり前っしょ。救える命は救う!でも本音を言うと戦うと勝率が下がるなら、まずは極力戦わない戦法を取ろうと思ったんだよね。こちらの敗北を避けるためのスピード戦法“即捕獲作戦”ともいえるかな」


「捕獲した少女の力を押さえるのはワシに任せよ。相手の魔術や体力を奪うのは得意中の得意じゃ」


 エクラとアストライオスさんはさも簡単なことのように言ってのけ、成功前提で話を続けているが、未知の能力を持つ相手におびき出し作戦はリスクがありすぎる様な気がする。


「でも、それって危険じゃないですか。アストライオスさんにもしものことがあったらどうするんです」


 敵の暗殺から守りに来た相手を囮に使った挙句、そのまま命を奪われた。なんてことになればシャレにならない。


 しかし、囮役となるアストライオスさん本人は不安や不満は全くないようで、心配をする俺を他所に平然として言った。


「平気じゃ。ワシがは自分で自分を護衛できるからの。言うたであろう。自分の身は自分で守ると」


「うん、おじいちゃんは強いから大丈夫だよ。それに、もしもの時の為にあたしたちが周りで隠れているわけだし、問題ないって」


 エクラも相当アストライオスさんの力を信頼しているらしい。そりゃまあ、未来予知の力を持っているわけだし、神の血族と言われるぐらいなのだから俺なんかが心配する必要がないとは思うが……。


 例えどんな実力者で見た目ゴリラで筋骨隆々でもご老体を囮にするって気が引けない?なんか罪悪感が凄いんですけど。


「この爺さんに囮になって貰うのはいいとして、作戦が単純すぎないか。相手が罠だと勘付いたらどうするんだ。と言うか気づくだろ、こんなわかりやすい作戦。即捕獲も失敗したらどうするつもりだ」


 ミハイルが疑問を口にすると、エクラは歩きながら「んー」と眉間に皺を寄せて考えてから、親指を立てて、てへぺろ顔で短く言った。


「その時はその時っしょ★」


「うわ、行き当たりばったりなのかよ」


 げんなりとするミハイルにアストライオスさんが豪快に笑った。


「ははは、確か作戦としては単純じゃが安心せい。ワシの未来視では敵は()()()()()()引っ掛かるようじゃからのう」


『うーん。こんなわかりやすい作戦に引っ掛かるなんて、どうしてだろう。あ、まさかわざとハマりに来る感じかな。向こうにも何か作戦があるとか』


 ミハイルと聖が言う最もである。俺たちが神子の仲間と接触することぐらい向こうも分かっているはず。人気のない広場にアストライオスさんが護衛もなしに1人だけで儀式、なんてアホでも罠であると思うだろう。


 だが、未来視ではフィニィはアストライオスさんと接触すると言う。あえて罠に飛び込むとするならば無策ではないと思う方が普通だ。


「未来のフィニィの行動はどんな感じですか。やっぱり特別な作戦で襲ってきていますか」


 どうせこれからわかることではあるが、敵の行動や作戦はできる限り把握しておきたい。そう思って聞いてみたのだが、アストライオスさんは顎髭を手でいじりつつ、首を傾げて言った。


「いや~、ワシが視た限りだと無策じゃのう。獲物を見つけた野獣の如く飛びかかって来ておるわ。若いもんは元気でええのぅ。あっはっは」


 いや、あっはっはじゃなくて。あなた未来で大分危険な目に遭っていますが大丈夫なんですか。


「まさかの無策……。なんでそんな無謀なことを」


 これから立ち向かうべき相手にこんなことを思うのも変な話だが、仮にもアストライオスさんは神の血縁だぞ。そんなヒトが仕掛ける罠に無策で突っ込んできるとかおかしいだろ。何でそんなリスクを背負ってまで戦おうとするんだ。


「……フィニイは感情の制御が苦手なとことがあるから、なりふり構わず目的を実行することしかできないんだと思う」


 未来のフィニィの行動に理解ができず困惑しながら歩く俺たちに、シュバルツの腕の中にいるアンフィニが苦い表情を浮かべて分析した。その言葉にシルマがハッとする。


「そうか、フィニィさんは実験の影響で精神が……」


 俺も同じことを思い出していた。孤児であったフィニィは人工魔術師の被検体として様々な実験や魔力投与を受けて来た。


 アンフィニによれば元々スラムで辛い状況下で生きていたせいか精神が不安定で、それに拍車をかける形で毎日の魔力投与、そして兄であるアンフィニの死。


 さらには自分たち兄妹を研究所から救い出してくれた親代わりとも言えるこの世界の前長も世界の破滅を望んだことにより、神子である聖とその仲間たちの手によって倒された。不幸が全て重なって、フィニィの精神は完全に崩壊した。


 全てを奪った聖とその仲間を自ら手にかけるために、彼女は兄であるアンフィニと少しずつ力をつけながら各地を回っていたのだ。


 そして現在、彼女は世界の破滅と現長である聖、そして聖の仲間たちを消さんとするネトワイエ教団に志が同じと言うことでスカウトされ、団員として暗躍している。


 復讐に燃える自分を止めようとした兄の想いを拒絶し、偽物と罵った彼女の姿が今も焼き付いている。


「ふん、本能でしか動くことができぬとは、まるで動物そのものだな」


 アンフィニの抱える事情を再確認し、みなが掛ける言葉に迷っているとミハイルが鼻で笑って悪びれることなく嫌味を言った。


「お前っ」


「うわわ、暴れないで。危ないよぅ」


 今にもミハイルに掴みかからんと暴れるアンフィニをシュバルツが必死に抑え込む。うん、今のはミハイルが100パー悪いな。相変わらず思ったことをドストレートに発言するフクロウである。


「本能で動く、と言うのは戦闘においては存外悪いことではないぞ。それだけ容赦のない攻撃ができると言うことだからな。戦士としては優秀だと私は思う」


 真顔でシュティレが冷静にフィニィを戦士として評価した。確かに、強敵を目の前にしても向かっていける本能は評価すべきだと思う。だが、それは同時に死をも恐れぬ捨て身の攻撃だと言うこと。


 自分を大切にしない戦いの何に価値があろうか。現実であろうが、二次元であろうが、復讐者の末路なんて碌なものではないのだから。


「ふん、綺麗事だな。動物は動物だろ」


「今のは言い過ぎだぞ、ミハイル。言葉を撤回しろ。そして誤れ」


「俺は本当のことを言っただけだ」


 ミハイルが自分の発言を詫びる気配は一切ない。よぅし、あまり輪を乱す様ならこちらも切り札を出させてもらう。


「あまりそう言う態度を取るとラピュセルさんに言いつけるからな」


俺は端末を取り出して横柄な態度で羽ばたくミハイルにそれを見せつけた。途端にフクロウ特有の大きな目が更にギョッと見開かれ、体を固まらせたミハイルを見て俺は確信した。効果は抜群だ。


「な、んだと……」


「いーのかなぁ。ラピュセルさんはお前が俺に協力して旅を続けているって信じてると思うけどなぁ。今の発言を知ったらどう思うだろうなぁ」


 ラピュセルさんはミハイルが唯一心を許すことが出来る相手で彼の想い人。守るべき女性だ。惚れた弱みで彼女に逆らえないミハイルは、俺たち力を貸して欲しいとの“お願い”を受けてこうして渋々俺たちと行動を共にしているのだ。


 想い人に絶対に愛想を尽かされたくないだろう。それをわかっているからこそ、先ほどの態度と言葉を反省させるべく、俺は意地悪く畳みかけた。


「怒るかなぁ、悲しむかなぁ。ああ、嫌われたりしてな」


「お、お前っ、卑怯だぞ」


 めずらしく俺にビビるミハイルをみてちょっといい気分になりつつ、俺はキッパリと言ってやった。


「はっ、何とでも言え。さあ、ラピュセルさんにチクられたくなかったら、アンフィニにさっきの言葉を詫びろ。それと、今後は余計な暴言を吐かないと誓え」


 本当は告げ口する気なんてないが、本気度を出すためになるべく強気で圧をかける。ララピュセルさんの名前を出されたミハイルは「ぐぬぬ」と悔しそうに唸り、まだプライドに縋っていた様なので、更に端末を近づけて凄むと軽く舌打ちが返って来た。


「ちっ、わかった。誤ればいいんだろ」


 そう言って明らかに面倒くさそうで納得がいっていない溜息をついた後、ミハイルはシュバルツの腕の中で己を睨むアンフィニの傍まで飛んで行き、ぼそっと言葉を発した。


「……すまなかった」


 それは小さく口ごもった、拗ねた様な謝罪の言葉だった。あまり反省の色が窺えないことに頭を押さえつつ、俺はアンフィニを覗き込んだ。


「どうだ。許してやってくれるか」


「いい。こんな奴の言うことを気にしても仕方がないからな。気にしないことにする」


 アンフィニは許すとも許さないとも言わず、ぶすっとした態度のままそう返答した。ああ、また仲間内で溝が深まった気がする……。


「ふぅー!!クロケルさんって結構容赦ないところがあるんだね!でもかっこいいよ。相手の弱みに付け込んて謝らせるなんて痺れるぅ」


 先頭を歩きながら俺たちの会話を聞いていたであろうエクラがちょっと楽しそうに言った。さっきの会話のどこに楽しさを覚えたと言うのか。


「いや、だがクロケル殿の言葉と行動は正しい。今のは完全にミハイルが悪いからな。私はラピュセルと言う者のことは存ぜぬが、あのミハイルがあそこまで動揺するのだ。あやつにとって相当大切な者なのだろうな」


 シュティレが半ば脅しで謝罪させられ、ぶすっとしたままのミハイルを見ながらクールに言えば、シルマがそれに頷く。


「はい。とても穏やかでお優しい方でしたよ。ミハイルさんが魅力を感じてしまうのも分かります」


「やはり、最近の若いもんは他人を脅すのが得意な様じゃのう」


「はー、クソ野郎を叱咤するご主人様も素敵です。私の中でまた好感度が上がりました。好感度限界突破です」


 アストライオスさんがボソリと呟き、アムールが俺の肩の上でうっとりとしてそう言った時に俺は思った。なんだこの空気は……これから戦いが待っていると言うのに何故こんなに緩い空気になれるんだ。


「はあ……こんなんで本当にこれからの戦いに勝てるのか。俺たち」


 こんな風にバラバラプラスお気楽じゃ絶対に負けるに決まっている。フィニィはもちろん、ライアーも相当強かった。一度戦った時は絶対に手加減してたし。ああいう強敵にはチームワークがないと勝利は見えな……ん、ライアー?


 何か引っかかりを覚え、ふいに黙り込んだ俺を聖が横から覗き込む。


『ん?どうしたの。さっきまでのちょっとカッコいい自分に酔っちゃった?』


「違げぇよ、酔ってねぇし。ただ、どうして今回はフィニィ1人だけなんだろうって思っただけだ。俺たちの行く場所って毎回ライアーがいたから気になってさ」


 俺の疑問を受けた聖が「ああ、なるほど」呟いた後、少しだけ思案してから言った。


『そうだなぁ。単純に考えたら、他にやることがあるから今回はこの戦いには参加しない、とかじゃないの?』


「他にやることってなんだよ」


『それを僕に聞かれても困るよ。僕は未来視は基本しない主義だし。あとでアストライオスにでも確認すれば』


「お前も頑固だなぁ」


 極力、未来視の能力は使わないと言う意見を曲げない聖に呆れかけたその時、エクラがピタっと立ち止まり、笑顔で振り返った。


「着いたよー」


 数十分の徒歩の間で多少イザコザを起こし、疑問を残しながらも、俺たちはくだんの広場へと辿り着いた。


『わお、本当に広場だね。何にもない』


 聖が目に映る風景を見た感想を正直に述べる。そう、聖の言う通り、目の前に広がるのは全方位を森で囲まれ、足元が一面固い土の簡素な風景。先ほどくぐったバリケード以外は何もない。広場と言うより更地と言われた方がしっくりくる。


「ふむ、住居からも離れているし、周囲は森に囲まれている以外は特に遮蔽物がないな。戦いには適している場所だ」


 騎士であるシュティレがざっと辺りを見回してこれからの戦いの場を分析をした。表情は冷静だが、脳内では色々な戦略を練っているんだろうな。本当に尊敬するよ。


 俺なんて同じ騎士の称号を持つのにこの場所を更地としか表現ができずにただボケーっとしているだけのエセ騎士です。本当にすみません。


「それじゃ善は急げって言うし、さっそく作戦開始と行こっか!あたしたちは木の陰に隠れようね。同じ場所に固まるより色んな場所から様子を窺った方がいざと言う時に行動しやすいから、テキトーにチームを作って分かれよっか」


 毎度のことながら自分の役立たずさを自覚し、うじうじと自虐している間にもエクラがひょいひょいと提案を出し、テキパキと話を進めて行く。


「俺はこの戦いには参加しない。敵の動向を窺うのには協力してやるが、戦闘からは外してくれ」


 ミハイルがぶっきらぼうに申し出て、それに続いてアンフィニも丸いぬいぐるみの手をひょいっと手を上げて言った。


「フィニィが相手なら、俺は参加したい。残念ながら魔力は持たないが、俺はこの体に魔力を分けてもらえれば一時的に魔術が使える仕組みになってるから、魔術師と組ませてもらえれば、それなりに役に立つと思う」


「うんうん。なるほど、オッケー。適材適所ってあるもんね。みんなも何か希望があれば言って。あたしが良い感じに組み分けするから」


 それを聞いて各々が自分の特技や特性を意見して行く。俺も一応、防御魔法が得意とだけ述べて置いた……嘘は言っていない。“得意”見栄は張ったが使えないわけではない。


 出た発言をメモにまとめているのだろうか、エクラは長い爪のまま器用にカカカッと端末をタップしていた。それから少し待ってエクラがみんなの意見と希望を元にチーム分けをしてくれた。


 アンフィニは魔術師であるシルマと。まだ力を使いこなせてはいないが、影を操り、相手の動きを止めることが出来るシュバルツは攻撃力とスピードに特化しているシュティレの補助役としてペアになった。


 俺は騎士として優秀なシュティレに勝ったことがある(と言うことになっている)ので実力は申し分ないとされ、聖とアムールが補助につく形で、戦闘要員としては実質1人待機と言うことになった。正直、ちょっと怖い。事情を知っているシルマがもの凄く心配そうな視線を送って来るのがわかった。


 ミハイルは申し出の通り戦いには参加しない。そのかわりに戦闘中にフィニィの動きを監視・分析してくれるらしい。ミハイルは魔族で、戦える力もあるはずだがどうして戦わないのかと言う疑問は今は流すことにした。


「配置としては四方を囲む形になってるから。未来視の通り、敵がおじいちゃんに近づいて隙を見せたら、良い感じのタイミングであたしが合図を出すから。一斉に飛び出して確保ね」


 エクラは簡単かつ単純な作戦を俺たちに伝え、そしてアストライオスさんに向き直って真剣な表情で言った。


「それじゃあ、おじいちゃん。囮役よろしくね。おじいちゃんのことは信じてるけど、一応おまじない程度にあたしの護身の術を施しておくから」


 そう言って小さな魔法陣を空中に作り上げた。魔法陣はそのままアストライオスさんに吸い込まれるようにして屈強な老人の体に消えて行った。


「ふふふ。孫から心配されると言うのもいいもんじゃのう」


「ちょっとぉ、油断は禁物~。あたしを悲しませたくないんだったら、ちゃんと無傷で帰って来てよね」


「任せておけぃ」


 エクラは冗談ぽく笑って言っていたが、明らかに笑顔が引きつっている。実力はある人物とは言えやはりアストライオスさんのことが心配なのだろう。


 孫の心配を受け、嬉しそうに笑った後、アストライオスさんは俺たちに背を向けて自らが囮になるべく、広場の中心へと歩を進めた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


聖「次回予告!信じられない。あのアストライオスが自分の意見を撤回して、囮役まで受け入れるなんて……孫って偉大なんだ。ヤバい、ありえない。この作戦で本当にフィニィと接触することはできるのか、そしてクロケルの出番はいかに」


クロケル「個人的に今の自分の状況で戦いの場で出番は欲しくねぇかな」


聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第88話『兄妹の再会、意地と想いのぶつかり合い』想いの強い方が勝つ!」


クロケル「カッコよく締めたなぁ。どっかで聞いたことある様な気がするけど」






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