第87話 星の一族、エクラがパーティに加わった!!
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
暑い日が続きますね。8月の気配が近付いて来たと実感します。暑すぎて部屋の窓が開かないと言う毎年の我が家の風物詩がやってまいりました。毎朝「ふんっ!!」て気合い入れ合いと開かない。気合いを入れてむゴッガッて詰まるのががつらい。手が痛いし熱い。
え、前書きに書くことがないから日記にするな?アッ、はい。すみません……。
本日もどうぞよろしくお願いします。
「なるほどねぇ……そんな事情があったんだぁ」
孫から祖父への大説教大会の後、エクラを交えて改めてこれまでの経緯を説明した。全てを真剣に聞き終えたエクラは複雑そうな表情を浮かべて頷いた。
「うんうん、それは辛いよ。頑張って来たんだね」
そしておもむろに長椅子に座るアンフィニの頭をポンポンと撫でた。エクラの突然の行動に驚き、そして首を左右に動かして振り払った。
「な、何するんだ。勝手に撫でるな。俺は見た目はぬいぐるみだが中身は子供じゃないんだぞ」
ぶるっと体を震わせながらアンフィニは二度と撫でられまいとエクラと距離を取る。結構は激しめな拒否を受けたにも係わらず、エクラはきょとんとして言った
「なんで?見た目も中身もカンケーないっしょ。あたしがアンフィニくんの頭を撫でたいって思っただけ。深い意味はないよ」
「俺が嫌なんだよ」
「ふぅーん、なら仕方ないね。ごめんね」
不愛想に返した後、プイッと外方外方を向くアンフィニにエクラはそう言うヒトもいるよね、みたいな反応をして気分を悪くさせてしまったのならと頭を下げた。本当に律義な子だと思った。
「こぉ~んな切ない事情を抱えて、クロケルさんが一生懸命それに応えようとしてお願いしたのにそれを断るヒトがいるんだねぇ。まあ、あたしのおじいちゃんなんだけど!」
エクラは何度目かの鋭い視線を受けたアストライオスさんは、気まずそうにすっと目を逸らして目の前のガトーショコラを黙々と口にしていた。孫に怒られて相当反省した様である。
「も、もう勘弁してやってくれ。アストライオスさんも間違ったことは言ってないと思うし、俺ももう二度あんなことを言われない様に努力するから」
俺たちのせいで家族の関係をこじれさせたくない。そう思って俺は必死でアストライオスさんを蔑みの視線を浴びせ精神攻撃を続けるエクラを宥める。
「むぅ、クロケルさんがそこまで言うなら、今回のお説教はここまでにしてあげるか。ってことでおじいちゃん、一旦は許してあげる。優しいクロケルさんに感謝しなよ」
『ふふ、正義感が強くて優しいお孫さんじゃない。ねぇ、アストライオス』
「うるさい、ワシと比べればまだまだ若造のくせに生意気じゃぞ」
面白そうに笑う聖をアストライオスさんがギロリと睨んで威嚇した。しかし聖は感情を堪えきれず、笑いで声を震わせながら続けた。
『あははは、ごめんごめん。んんっ、でもここからは真面目な話。君の星詠みの力で視えている未来って、どんなの?』
突然の真面目な質問。そうか、アストライオスさんはこれからの未来が視えているんだった。例えそれが最悪の結果を招くものであったとしても、事前に未来を教えてもらうことによってそれを回避できるかもしれない。
未来を知る。その非現実的で、少し怖い言葉にその場の空気がピリッと張り詰めて、痺れる様な緊張感が走る。
「……未来視はどこかの誰かもできるのではないか」
数秒沈黙した後、アストライオスさんが言葉を濁した。“どこかの誰か”とは恐らくここに浮いている聖のことだろう。だが、その素性は俺以外には極秘扱い。気を遣ったのかわざとそう言う表現をしたのだ。
『未来視を好まないヒトがいてもいいでしょ。僕が今聞いているのはあくまで君が視た未来の話だよ』
聖の声は極めて穏やかだった。しかし、それでいてどこか冷たさが感じられる声で少しだけ震えが来た。「余計なことを言わずに早く答えろ」そんな意図が含まれているような気がする。
「ふぅ、最近の若者は……老人に圧をかけるなど無礼だとは思わんのか。だが、仕方ない。別に隠す様なことでもないし教えてやろう」
エクラもおるしなぁと小声で呟いた後、アストライオスさんは気だるそうにゆっくりと深呼吸をして短く言った。
「ワシが星詠みで視た未来。それは白じゃ」
「し、白?」
あまりの戸惑いから俺の声が裏返る。俺だけではない、まさか未来を色で表現されるなど誰も予想していなかったのか、その場にいる全員がポカンとしてアストライオスさんを見つめる。
「なにそれ、わけわかんないんだけど。もっとちゃんと教えて」
誰よりも先にエクラが口を開きその言葉の真意を厳しめに確かめる。相変わらずの孫からの厳しい言葉に少し悲しそうな顔を見せた。
「そんな厳しい言い方をしなくてもいいじゃろう……じいちゃんは悲しいぞ」
「それはおじいちゃんの態度次第だよ。誰かに迷惑をかける度にあたしからのアタリが強くなると思ってね」
既に精神的にしおしおなアストライオスさんをばっさりと切り捨ててエクラは言った。強い、なんて意志が強いんだ……エクラ、恐ろしいギャル……。
情に訴えるための渾身の攻撃“おじいちゃん悲しい”を強靭な精神と意志を持つ孫に呆気なく跳ね返されてしまい、半泣きになりながらアストライオスさんは続けた。
「うう。もう少し詳しく説明するとだな……ワシが戦闘に参加しなくなったため未来が変わったんじゃよ」
「えええっ!?未来ってそんなに簡単に変わるものなんですか。普通、未来って確定されているものなんじゃ……」
本日何度目かの以外な言葉にまた驚いてしまう。戦闘に参加しないって、ついさっき決まった流れだよな。そんな直ぐに未来って変わる者なのか!?
「うむ、確かに未来は確定している。だが生物の生涯、ヒトで言うなら人生じゃな。それは数億通り以上に枝分かれしており、個人の選択によって常に未来が変わって行くのじゃ」
おおお?なんか聞いたことがある様な話だな。バタフライエフェクトとか、タイムパラドクス的な話か。個人的に好きなジャンルだが、何回勉強しても理解できないんだよな。次元の原理ってやつ。
アストライオスさんの説明を受けても全く理解ができない。俺以外のみんなも完全にハテナマークを浮かべている。
『よく言われる例えが人生が一本の木の幹。そこからたくさん枝が別れていて、複数の葉っぱに繋がるってことだね。選んだ枝によって行き着く未来が変わる。未来も複数存在することになる』
「もっと言えば、この時空で選ばれなかった選択も別の時間軸のお前たちは選んでいることになるのだ。だから、未来は複数存在する」
複雑な話に混乱する俺たちを見兼ねた聖が噛み砕いた説明をしてくれたが、付け加えられたアストラオスさんの言葉で混乱が増す。
2人は分かりやすく説明をしてくれているつもりだろうが、正直微妙だった。わかった様な、わからない様なモヤモヤとした気持ちになる。
「あわわ、なんだか複雑ですね……」
シルマが口元を押さえながら震えていた。そのとなりでシュティレも唸りながら頭の中を整理し、そして確認する様に口を開く。
「うむ。つまりその原理で言えば、この時間軸ではアストライオス殿がネトワイエ教団に単身で乗り込むと言う未来が消えたということだな」
『そうそう、そういうこと。相変わらずシュティレちゃんは理解が早いねぇ』
相変わらず冷静に物事を分析し、最速で理解するシュティレに聖は気分よく感心する聖にエクラが自分の分のガトーショコラを一口食べた後に首を傾げる。
「でもぉ、1つ未来が消えたとして、なくなったわけではないんだから別の未来に繋がるはずだよね。なんで未来が白なの?」
『それは現時点で未来が決まってないからだと思うよ。僕たちはまだ木の幹を進んでいる状態、人生の岐路にある。つまるところ選択のやり直しだね』
聖はあっさりと答えた。アストライオスさんも特に否定せず頷いているので間違いではないのだろう。
「な、なるほど。つまり今、この瞬間の選択が俺たちの運命を左右するということか」
『そう言うこと』
うわあ、怖いこと聞いちゃった。運命って一秒毎に変わるし決まって行くのかよ。人生って分岐点だらけなのかよ。そんなこと言われたら今後意見を求められた時、慎重になりすぎて吐くわ。
『そんなに大げさに捉えなくても選択肢なんていくつも選んで来たでしょ』
大混乱な俺の心中を察し、もの凄く呆れた声色で今さら何を言っているんだと言う風な態度の聖に少しイラッと来た俺は強めの否定の言葉をぶつける。
「確かに選択肢は嫌と言うほど目にして来たがゲームと現実は違うぞ」
この世に存在するゲーム(主にプレイヤー視点のゲーム)に置いて選択肢はほぼ存在する。希望のルートに入るまで、こまめにセーブしてクリアしたら分けて置いたセーブデータから別ルートを楽しんでいた過去は俺にもある。
だが、セーブができるのはあくまでゲームの世界のみ。誤った選択肢は選べないのだ。人生とゲームを同一視するのは非常に良くない。そう思って注意したのだが、聖がは至って真剣な言葉で返して来た。
『いや、ゲームもそうだけどさ。リアルの人生だって選択の連続なんだよ。あの時にあんな行動をしてなければって瞬間、良くあるでしょ』
そう言われてフラッシュバックしたのは俺の一番新しい記憶の、一番大きな選択。親友に、聖に手を伸ばしたあの光景。
あの時手を伸ばさなければ、俺は消滅することなく平凡な学生として生き続けていたのかもしれない。以前、異世界に召喚された時点で元居た世界から存在が消えると聞いたし、もしかしたら聖という存在をすっかりわすれて暮らしていたかもしれない。
俺が消滅しなければ、聖はこの世界の長にはならず、元の世界の戻っていたのかもしれない。大きな仕事を成し遂げて帰ってきて、また俺と学生生活を送っていたのかも。
別な見方をすれば、俺が消滅して聖が蘇らせてくれなければこの異世界に転生して冒険することのなかったし、この仲間たちと会うこともなかった。そう思うと、自分のちょっとした行動や言動が運命を変えていると言うことが良く理解できる。
これまでの選択が正しいかどうかは正直わからないけど。悶々とそんなことを考えていると、反応がない俺に痺れを切らせた聖が覗き込む様にして言った。
『ねぇ、うだうだ考えるのは後にして、早く決めなよ。君はこれからどうするつもりなの』
「あ、ああ。そうだな……聖、ネトワイエ教団の奴らは今どのへんだ」
今は過去を振り返ってもしょうがない、これからのことを考えよう。だが、行動を起こすにしてもまずは敵側の行動を把握しないとこちらも危険だ。そう思って居場所を聖に尋ねると聖は数秒間を開けて唸った。
『うーんと、近くまでは来てるね。門の近くで一旦止まってる。山の上の検問所かな』
「まあ、あの険しい山を登りきったのでしょうか、凄いです」
驚く場所がちょっとズレてるぞ、シルマ。後、敵が近付いているのに感心しちゃだめ。そこは焦ろう。
「敵が近くまで来ているんなら、当初の予定通り待ち伏せがいいかもしれない。ああ、でもこの国の住人に被害があるといけないから、どこか人気のない、戦いやすくて開けた場所におびき出せたらいいんだが」
俺が懸命に今後のことを喋っていると、話の途中からずっと目を閉じていたアストライオスさんがゆっくりと口を開いた。
「ふむ、新たな未来が視えたぞい。お前たちがこのまま進んだ場合、待っている結末は敗北だ」
「は、敗北!?なんで」
無慈悲に告げられた敗北宣言に俺は絶望すると共に大きな声を上げてしまう。しかしアストライオスさんは落ち着いた様子で淡々とその理由を告げた。
「理由は簡単で単純なことじゃよ。戦力が足りていないからじゃ。間もなくネトワイエ教団の者が検問を突破し、この国へと入って来る」
「そこまで視えているのなら、検問で止めた方が良いのではないか」
あっさり的の侵入を許可しようとしているアストライオスさんにシュティレがやんわりと意見を出すが、彼は考えを変えるつもりはない様だ。
「ここのおびき寄せると今しがた決めたのはお前たちだろう。なら、ワシはこの国の長としてその作戦に乗ってやるまでよ」
『いや、でもこのまま迎え撃ったら敗北コースまっしぐらなんでしょ。何で急に傍観を決めた。先が視えてるんだから助言しろよ』
聖がアストライオスさんに厳しい言葉をかけるが、大分ブーメラン発言をしている気がするぞ。お前も事情があるから仕方ないとは言えチートのくせに基本傍観者だろう。とはツッコめず、俺はそっと言葉を飲み込んだ。
「注文の多い奴らじゃのう。しかし、あまり明確な未来を告げたり中途半端に運命を変えると、結末を意識しすぎて動きにくくなるじゃろうて。お前たちが自分たちの手でこの状況を乗り越えたいと言うのであれば、流れに身を任すことも大事じゃぞ」
「そ、それはそうかもしれませんが、少しぐらいアドバイスが欲しいです」
「おじいちゃん、アドバイスは?」
格好悪いとは思うがダメ元でアストライオスさんにそう望むとエクラが目が笑っていない怖い微笑みを浮かべて俺の質問を後押ししてくれた。孫の圧に負けたアストライオスさん「はぁ~」と小さなため息の後に渋々と言葉を紡いだ。
「まあ、助言するとすれば誰かが隠し事を明かせば勝率はもう少し上がるのではないか。お前たちの弱点はチームワーク。要は個々の力をしっかり発揮できれば問題ないからのう」
「隠し事……」
小さく呟いたのはミハイルだった。なんだ、珍しく話に反応したな。いつもは大体右から左のくせに。隠し事と言う言葉に何か思うことでもあるのか。
いつもと少しだけ様子が違うミハイルを横目で気にしていると、アストライオスさんが呆れた様に続けた。
「それにしてもお前たち、仲間内で隠し事が多すぎなのではないか。ほとんどが仲間に言えぬ秘密を抱えておるではないか。信頼も何もあったものではないなぁ」
「うぐぅ」
アストライオスさんの言葉が胸に刺さる。だって、心当たりがありすぎるから。俺、シルマ、聖それぞれが個々の事情を抱えている。しかも全て戦闘に関わる様な案件で。
俺はレベル1で戦闘においてクソの役にも立たない。ケイオスさんとの訓練で習得した防御壁を上手く活用すればなんとかなるかもしれないが、その能力もまだ発展途上。戦いに活かせるレベルではない。
シルマは戦闘能力は文句なしの実力者。しかし、その実力が知れ渡ってしまうと神殿から実力者認定をされて優先的に難易度の高い依頼が来てしまい、毎日死と隣り合わせの人生を送ることになるためそれを避けたいがために実力を隠したい。
聖は言わずもがなこの国と長であり、普通は個人に手を貸してはいけない。俺を消滅させてしまった罪悪感から俺を蘇生・転生させてこの世界に馴染むまで、必要最低限の面倒を見てくれることになったが、それは俺とかつての聖の仲間たち以外には極秘である。
こうして振り返ってみても隠し事だらけなのである。俺の場合、レベル1がバレたところで恥をかくだけだが、それがバレることによって俺と聖の繋がりも芋づる式にバレそうなので自分が抱える事情は可能な限り内密にしたいのだ。
「もぉー、またおじいちゃんはそうやって調和を乱そうとするんだから。隠し事なんてあって当たり前だよ。仲間内でなんでもオープンにする必要なくない?」
隠し事と言う単語のせいで仲間を探る様な変な空気が流れ始めたのだが、それをエクラの鬱陶しそうな声が断ち切った。
『そうだよ。君もかつて神子たちと旅をした時、腹を割った仲だったって言える?言えないよね?隠し事ぐらいあったでしょー』
流れを変えるチャンスとばかりに聖もその言葉に必死に乗っかる。確かに、今まで出会った聖のパーティーメンバーを見るに濃いって言うか色んな事情がごちゃごちゃしてそう。信頼度は高いけど親愛度も低そうだし、もの凄く広く浅い関係っぽい。
その指摘を受けてもアストライオスさんは自分の発言を撤回することはなく、俺たちからツンと目を逸らして言った。
「ワシらは全員が強かったから問題ないんじゃよ。だが、お前たちはワシらとは違う。実力と戦力が曖昧な人間が、曖昧なまま強敵に立ち向かうと痛い目を見るぞ。だから、お前たちの未来は敗北なのだ」
きっぱりと告げられた言葉にシン、と静まり返る部屋。その場の誰もが困惑した表情や険しい表情で下を向く。普段は俺たちの行動に興味がないミハイルすら難しい表情を浮かべているのだ。事はとても深刻だと分かる。
そもそも負け戦とわかって誰が前を向けるものか。「それでもやります。運命を変えて見せます」と宣言できるのは二次元限定かつ光属性の主人公だけだ。俺の様な一般人に運命は変えられない。
と言うか、話を聞く限り負ける一番の原因は実力と戦力不足。それって最弱の俺のせいっぽい。ハッ、まさか俺が戦線離脱したら好転するのか。
いやいや、待て待て。あんなに恰好つけてアストライオスさんに啖呵を切っておいて「やっぱり自信がないので戦いは辞退します。後は皆さんで頑張って下さい」なんて言えるか!
でも、俺が戦線離脱することで勝率が上がるなら、それはそれでいいのか?いや、でもシルマが俺と言う影武者なしでどこまで本気を出すかわからないし、シルマの事情を考えるとやっぱり俺は参加すべきなのか?
あああ!わからん。考えすぎてわからなくなって来た。未来が分かるってこんなに辛いのか。
これから待ち構える敗北と言う未来に絶望に頭を抱え、悩んでいるとエクラがひょいっと手を上げてけろりと発言した。
「戦力に差があるのが問題なんでしょ?なら補強すればいいだけのハナシじゃん。あたしが手を貸してあげる。どう、おじいちゃん。未来は変わった?」
エクラにそう聞かれたアストライオスさんは再び目を閉じ、集中する。そして数分後、すっと目を開いて言った。
「確かに、お前が参加すれば惨めな敗北はせんな。だが、お前たちが捕獲・保護を望む少女には逃げられるぞ」
「……!フィニィがここへ来るのか」
その発言にいち早く反応したアンフィニがアストライオスさんに詰め寄る。
「ああ、今検問に少女の姿が視える。魂の形が似ておるぞ。お前の妹だろう?」
「フィニィ……」
肯定の言葉を聞いたアンフィニは窓を見つめてもどかしそうに体を揺らしながら直ぐ近くまで来ている愛しい妹の名を口にした。
「言っておくが、お前の行動もこの戦いの行く末に繋がっているから気をつけた方がよいぞ。自身をチームの一員であると言う自覚を持たなければ行く先はやはり敗北じゃ」
「そ、れは……」
アストライオスさんが静かな声で注意し、アンフィニが言葉を詰まらせる。それは自覚があるからこその反応だ。
シェロンさんの案内で風の国アエラスを捜索していた時、フィニィの姿が見えたと一目散に駆け出したアンフィニ。それはライアーによる俺たちを分断する罠で、俺たちは見事それにハマったのだ。
アンフィニがフィニに執着する気持ちは異常と言っても過言ではない。戦闘中、もしもフィニィが目の前で怪我をしたら、もしかしたらわざと情に訴える様な行動を取るかもしれない。その時、アンフィニは冷静でいられるだろうか。
どんどん増えて行く不安要素に気持ちが悪くなり始めた時、快活なギャルの声が部屋に響く。
「気にすることないよ、アンフィニ君。妹ちゃんのことで暴走しちゃうのはそれだけ大事存在だからでしょ、カッコイイじゃん」
「お前……」
明るく笑うエクラをアンフィニは呆けて見上げる。エクラは更にブイサインを作って元気よく言った。
「へーき!敗北が回避できるんなら万々歳。それに未来は行動次第で変わる。妹ちゃんを助けたいんなら、未来も変わる意外性と可能性を見せつければいいんだよ。楽勝っしょ!!」
「恐ろしいぐらい前向きだな……」
光発言しかしないエクラが眩しすぎて見えない。ミハイルもその前向きさに呆れを通り越してドン引きして呟いていた。
「え、待って。ぬるっと色々決定したけど、エクラは俺たちの仲間になったのか?」
話が色々と流れたり飛んだりして脳内整理ができない。戸惑いながらも確認するとエクラはにこにこ笑顔で大きく頷いた。
「うん、あたしがしっかりアンタらをサポートする。星の一族の血を引くものとして、責任をもって戦いに参加させてもらうから。まっかせなさぁ-い!!」
エクラは大きく胸を張ってそう宣言した。自身が現れ過ぎて鼻が高くなっている幻覚が見える。
しかもギャルが仲間になるなんて初めてデス。ゲームでもあんまりねぇよ、こんな経験。特にRPGでは個人的に初体験だわ。
『クロケル、見た目に引っ張られちゃだめだよ。エクラちゃん、レアリティ5だからね。ステータスもえっぐい。流石、神の血族……』
「えっ」
耳元でこっそり呟かれた言葉に俺は耳を疑った。3度見ぐらいして嘘だろと口をパクパクして動揺する俺に聖は小声で続ける。
『詳しく言うと、レアリティは5の魔術師であるアストライオスがレベル400。エクラちゃんは5のレベル150、職業は学生兼召喚士。魔術に長けているみたいだけど、素早さも一級品だね』
まだ神の血族よりもシルマの方が強いのかよ。いよいよシルマのレベル500が異常さを増して来たぞ。もう本気で戦ってくれないかな。その後に俺が影武者でもなんでもなるからさぁ。
少しだけ他力本願な自分が出かけたが、危険な場所に飛び込んで死にたくないと言うシルマの気持ちはわかるので、その黒い感情にそっと蓋をした。ごめんな、情けない男でシルマ……よく考えたら最近は影武者にもなれてねぇよな。
「さ、そうと決まれば善は急げ!フィニィちゃんを上手くおびき寄せよう!戦うのに良い感じの場所知ってるんだ」
ブルーな気分の俺を他所にエクラが飛び切り明るい声で言った。そんなカフェに行くみたいなノリで言わないで。
しかし、すぐそこまで来ていると言うのならじっとしてはいられない。いの一番に立ち上がったエクラに続き俺たちも重い腰を上げる。
全員が立ったのを見計らい、エクラは拳を高く上げて言った。
「それじゃ、みんなで頑張って運命を変えにいこー、えいえいおーっ!!」
「「お、おー?」」
「「おーっ」」
絶対こんなことをする場面ではないのに、エクラの勢いに負けて全員が掛け声と共に拳を天に突きあげた。アストライオスさんとシュバルツと聖は凄く楽しそうだった。
敵を目の前にしてこう思うのもちょっとアレだと思うがちょっと言わせて欲しい……ギャルって怖い。
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聖「次回予告!新たな仲間は何とギャル!しかも戦闘能力も優秀な上に性格も真っすぐで面倒見が良いスーパー光属性だった。これはますますクロケルのへっぴり逃げ腰が目立っちゃうぞ★そして、目標であったフィニィ捕獲作戦も動きを見せる」
クロケル「いい感じにディスりと予告を織り交ぜて来やがったな、この野郎。誰がへっぴり逃げ腰だよ。普通に考えてレベル1で勇敢に立ち向かえるわけないだろ」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第88話『来るものは拒まず、おびき出し作戦』奮起してこその主人公でしょ~ガッツだぜ!クロケルっ」
クロケル「どっかの歌の歌詞みたいに言うなーッ!!」