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第86話 星詠みの魔術師アストライオス

本日もお読み頂きまして誠にありがとうございます。


相変わらずのノープラン執筆のせいで展開を考えるのが辛い(自業自得)

いつになるかわからない最終回の内容すら見えて来ない……。とりあえず、キャラクターたちには頑張って動いてもらおう。うん、そうしよう。


毎度のことながらぐだっとしている部分が多いとは思いますが、どうか暇つぶしとしてゆるっと軽く読んで頂ければと思います。


本日もどうぞよろしくお願いいたします。

 椅子に腰かけ、豪快な笑顔を浮かべて振り向いたその人物は年老いたゴリラだった。……間違えた。ゴリラみたいな体格の老人だった。


「あ、あなたがアストライオスさんですか」


「いかにも、ワシこそ神の血を引く星の一族の血統にてこの国の長、アストライオスじゃ」


 俺の問いかけにゴリラ老人、アストライオスさんはゆっくりと立ち上がって大きく頷き、堂々と名乗った。しわがれているが、重みのあるどっしりとした声で、耳がぞわぞわする。いちいち声に反応してしまうのは声優好きの悲しい性である。


 ねぇ、聞いて。純血の神の血筋とか、星の一族とか、おじいちゃんって言う事前情報が頭にあったせいでちょっと気難しいけど気品があって、儚げな雰囲気を持った大人しい雰囲気の小柄なおじいさんかなって思ってたの。思うよね!?


 それが違うんだよ。外見は白髪&長髪で口元の白いおひげがトレードマークだし、間違いなく老人なんだけど筋骨隆々なおじいさんだったんのです!なんと言うことでしょう!


 体に巻いてある布がパツパツだ。とにかく胸筋が凄い、ちょっと力を入れたら即YouがShock的なことになるわ。豪傑、まさに豪傑だ。笑い方にもご貫禄と豪快さが窺える。


 総評、イケおじ判定。かっこいい、豪快な筋肉爺さんドストライク。またもやイケおじに巡り合えるなんて異世界万歳、転生してよかった。


「マジ無理。超かっこいい……」


『君のオタク精神も大したものだねぇ。でもそう言うのはパンピの前で口に出しちゃダメだよ?』


 感動で思わず漏れる自分でも気持ち悪いぐらいのうっとりとした声、すぐさま聖からのツッコミ。それによってハッと意識を取り戻す。同時に妙な空気も感じたため、周りを見渡してみると仲間たちが困惑の表情で俺を見つめていた。


 この空気と視線は多分、勘が悪いやつでもわかる。さっきの呟き、絶対聞かれた。いや、もしかしたら呟きじゃなくて普通に声に出していた可能性もある。だとしたら、声を大にして言おう、俺の大バカ野郎。


「ご、ご主人様!わたしはそれでもご主人様が好きですよ。頑張ってご主人様の性癖に関係なくハートをゲットして見せます」


 アムールが肩の上で半泣きでぴょんぴょんと飛び跳ねながら恐ろしい単語と共に何かをアピールして来た。


「いや、性癖って。あのな、確かに俺の言い方と反応はヤバめだと言う自覚はあるが勘違いをしてもてもらっちゃ困ると言うか……」


 衝撃、と言うかショック受けているアムールのあらぬ誤解を解こうとした矢先、右隣で静かに佇むシュティレが少しだけ言葉を詰まらせながら言った。


「そ、その様なことを言うものではないぞ、アムール。し、趣味は人それぞれなのだからな。こちらが意見したり捻じ曲げたりするのは良くない」


 シュティレさん、あなためっちゃ動揺してますやん。腕組みしている手が小刻みに震えてまっせ。


「クロケル様はシュバルツくんとロマンスだったはずでは……」


 今度は左隣からシルマの小さな震え声が聞こえる。そして以前された勘違いがまだ続いていたことが発覚して思わず二度見した。


「ほ~、お前こう言う爺さんがタイプなのか。変わってるな」


「いや、普通に憧れ的な意味だろうこれは……憧れだよな」


 普段はあまりこう言う話に参加しないミハイルとシュバルツも何故かこのカオス空間に入って来る。


 言葉の意味をちゃんと理解しているだろうミハイルは意地悪そうに言い、それでいてにまにまと俺を見つめ、その真下に立つアンフィニも正しく言葉を受けたりながらも何故か1言葉を詰まらせて度俺に確認して来た。


 ねぇ、なんでみんなそう言う風に取っちゃうの。まさかみんな腐がつく方々なの。それとも俺がそう見えるの?何でも言いけどそう言う系の勘違いは勘弁してください。


 ああ、生前そう言えば聖と()()()()()()見られていたな。あの時は遊び半分、サービス精神旺盛に対応していたけど、正直自分が対象のなるのは「おおぅ」ってなる


 別に腐作品に偏見はないし、ケチをつける気はさらさらない。生前、俺と聖で妄想していた女子たちみたいに黄色い声で「きゃー」みたいな反応だったら俺もまだ乗っかってやれるが、こんな風に変な空気になるのはちょっと大分辛い。


 この空気の意味が分からず困惑しているシュバルツよ、どうかお前はこれから先もそのままでいてくれ。


「……そろそろ話を進めてもええかのう?」


「きゃはは、みんな反応が面白すぎ~マジでウケる」


 何とも言えない空気が部屋に流れ始めた時、アストライオスさんが眉間に皺を寄せて話に割って入って来た。その隣では一連のやり取りを見ていたエクラが大爆笑している。


 声をかけられて今更気がついた。そうだった、今目の前にいるのはこの国のトップ。偉いヒトの前でこんなぐだぐだ展開を見せつけるなんて失礼にも程がある。


「も、申し訳ございません。お国の長の前できちんとした挨拶もなく、とんだ失礼を」


 慌てて膝をついて非礼を詫びると事態に気がついたシュティレとシルマも素早く膝をついて頭を垂れる。


「長の御前で騒いでしまうとは騎士として恥ずべき行動です。私からも謝罪を。誠に申し訳ない」


「騒がしくしてしまい、申し訳ございませんでした」


「え、えっと。ごめんなさい」


 失礼シュバルツな行動など何ひとつしていないシュバルツも俺たちの行動をマネて膝をついておどおどとしながら、たどたどしく謝罪の言葉を述べて頭を下げた。


『まあ、こんな物置みたいな部屋で謁見とか言われてもねぇ。このヒトが実感なんて湧かないのはわかる』


 並んで綺麗に頭を下げる俺たちの頭上で聖がふわふわと浮きながらとんでもないことを口走った。


「聖っ、てめえ!それは失礼すぎるだろっ」


 非礼を詫びているのが見えんのか。この空気クラッシャーが!!ぶっちゃけちょっとだけ、ホントにちょっとだけ似たようなこと思ったけど口に出しちゃダメだろ。


「ほっほっほっ。お前も相変わらずじゃのう」


 バッサリと言い放った聖を前にしてもアストライオスさんは特に怒る様子もなく、寧ろ懐かしそうに笑っていた。そうだった聖は神子としてこのヒトとも旅を共にしたんだっけ。相変わらず仲間には辛辣だな……聖。


「およよ。おじいちゃん、あのタブレットくんと知り合いなの?」


 エクラが目をぱちくりさせながら聖とアストライオスさんを交互に見た。うん、喋る毒舌タブレットと自分の祖父が知り合いだなんて普通に驚くよな。


 しかし、聖がタブレットを介して俺を助けている事実は世界を守る者としてはご法度の可能性があるため極秘。


 そこら辺のややこしい事情はシャルム国王やケイオスさん、ペセルさんと言った共に世界を救った同士たちから事前に連絡が行っているはずだ。仮に聞いていないとしても星詠みの力とやらで把握はしているだろう、多分。


「まあ、あやつにも事情があるからのう。旧知の中とだけ言っておこうかの」


 やはり聖の背景を理解していたアストライオスさんはエクラの疑問を適当に流していた。曖昧な返事を返されたエクラは眉間に皺を寄せて首を傾げていた。


「ホレホレ、そなたらもいつまでの頭を下げていないで楽にするがよいぞ。適当に座れ、何かその辺に椅子があるじゃろ。ああ、ここじゃ」


 そう言ってアストライオスさんはきょろきょろと辺りを見回し、貴重そうな巻物が山積みになっているところへツカツカと歩いて言って、その山を腕でなぎ倒した。


 どれだけの期間放置されていたのだろうか。巻物の山はホコリを散らしながらどさどさと地面にを立てて床に崩れ落ちる。あまりに雑……書物は大切にしましょうぜ?


 ホコリと巻物の山の中から長い机1台と長椅子2台が姿を現した。同時にエクラが素早くふきんとハケで机と椅子のホコリを取り除く。


「はい、綺麗!どうぞ座って~」


 エクラは床に散乱した巻物を拾い集めながら笑顔で着席を促した。なんと言う手際の良さ。アストライオスさん、多分普段から雑なところがあるんだろうな。そんでエクラはもう慣れっこなんだな。


「ワシも座らせてもらうぞ」


 エクラのことを見直しつつ、俺たちはアストライオスさんが自分の席に座ったことを確認してから各々長椅子に腰かけた。


「それじゃあ、おじいちゃん。あたしはお茶とお菓子を用意して来る。話進めててね」


「おお、悪いな。頼むぞ、エクラ」


「はいは~い。昨日仕込んでおいたケーキ出しちゃおっと」


 じゃ、みんなごゆっくり~と手を振ってエクラは部屋を後にした。ふとアストライオスさんを見ればもう、デレッデレのにっこにこな表情で幸せそうに呟いていた。


「いや~、孫は可愛いのう。目に入れても痛くないと言う言葉は真実だったんだのう」


 目の前の人物はもはや国の長でもなんでもない。ただの孫大好きのおじいちゃんである。エクラもアストライオスさんのことを尊敬しているみたいだし、本当に仲が良いんだなぁ。


 ……あれ、聖やペセルさんがアストライオスさんは気難しいと言っていた割には気さくと言うか親しみやすいぞ。少しでも機嫌を損ねたら門前払いを食らうかと思って覚悟していたのに拍子抜けだ。


 そんなことを思いながらもやはり一国の長を前にすると緊張はしてしまう。身を固くしながら何から話そうかと悩んでしまう。


「さて、お前たちがここに来た理由はネトワイエ教団とやらの陰謀を阻止するため、そしてそこのぬいぐるみの妹の復讐と言う名の暴走を止めるためじゃろ」


「あ、はっはい、その通りです」


 先に口を開いたのはアストライオスさんだった。シャルム国王たちから先だって連絡を貰ったからなのか、それとも星詠みの力で視たのだろうか。俺たちが伝え様としていたことを簡単に言い当てる。


 その言葉に間違いはないので頷くと、アストライオスさんはそうか。と呟いた後、更に質問を投げかけて来た。


「それで、お主たちはどうしてワシのとことへ来たのじゃ」


「どうしてって……えっと、ネトワイエ教団の現在の目的がかつて世界を救った神子とその仲間の命を奪うことなので、目的地に先回りして敵を捕獲するため……です」


 先ほどまでの親しみやすい雰囲気とは一変、突如威圧的なオーラのせいか自分の言葉に自信が持てなくなった。自然に口調もたどたどしく、尻すぼみになる。


 俺、間違っていないよな、そう思ってチラリと仲間たちに視線を送り確認すると頷きが返って来たのでちょっとだけホッとした。


 アストライオスさんは渋い顔で顎の髭を数回触った後、蔑む様な視線を俺たちに向けて呆れた声色で言った。


「しかし、お前たちはこれまでも同じ作戦で行動し、先回りしたにも係わらず、敵を捕獲することも明確に倒すこともできなかったみたいではないか。随分と手間がかかって苦労してきた割には成果を出せていないのではないか」


「うっ」


 痛いところを的確について来る。な、なんでこんな急に圧をかけて来たんだ、このヒト。 この感じは確かに気難しさと性格の悪さは感じなくもない。


 あれか、自分の意見は全て正しいと思っているタイプか。この手のタイプは何を言っても無駄なんだよな。絶対に自分の意志を曲げないもん。辛い、言葉ってこんなに痛いんだな……。


「ワシが視たところ()()()()()()()()()()戦闘能力威力は悪くないと思うのじゃが……過半数がお人好しと言うか、達成すべきことがあると言うことを忘れて寄り道をし過ぎているのだろう。まったく、考え方もツメも甘いやつらじゃ」


 その1人は俺のことですねー、すみません。戦闘能力もないくせにお人好しの巻き込まれ体質で!


 でもアストライオスさんの言うこともわからないでもない。やることがあるのに寄り道をして死にかけるのは“任務を任される者”として良くないとは思う。お人好しと蔑まれても仕方がない。


『ちょっと、それは言い過ぎなんじゃない。お人好しはクロケルの長所なの!危険は全部掻い潜ってるし結果オーライでしょ!それに僕らは一応、君を守りに来たんだけど』 


 グサグサ刺さる嫌味を言い続けるアストライオスさんに対し、何も言い返せない俺たちだったが聖がビミョーなフォローと共に苛立たし気に言葉をぶつける。しかし、アストライオスさんの態度が変わることはなく、寧ろけろりと言い返して来た。


「確かにワシは老体だが、この通り鍛えておるし、別にお前たちに助けてもらわずともポッと出の教団の相手なぞワシ1人で十分じゃ。色々と視えておるしな。そこで提案じゃ」


 アストライオスさんは一度言葉を切り、もったいぶってか数秒溜める。無駄に緊張が走り、冷たい汗が俺の頭から顎に到達した時、再び口を開いた。


「ワシにネトワイエ教団とやらの掃除を任せてみんかの。星詠みによるとその方が良い未来となるぞ」


「アストライオスさんが、ネトワイエ教団を……?」


 悪くない案だ、とは思う。総体的な能力はアストライオスさんの方が断然上だと思うし、俺たちからすればネトワイエ教団の実力は未知数だが、このヒトには視えているのだろう。淡々と告げられた主役交代の言葉はレベル1の俺の心に甘く響き、心が揺らぐ。


「……お願いします、と言ったら本当に受け入れてもらえますか」


「く、クロケル様!?」


 震える俺の言葉にシルマがいち早く反応し、俺を凝視する。その場の全員の視線が突き刺さるのを痛いほど感じたが、俺は言葉を続けた。


「もし、俺たちの代りにネトワイエ教団を倒すと言うのであれば、アンフィニの妹だけは救ってください。怪我を最小限に抑えて確保して頂きたいんです。話し合いの場が欲しいと言いますか……」


 これは自分たちで決めたこと。可能ならば中途半端に首を突っ込むのではなく、なるべく自分たちの手で最後まで任務を全うしたかった。


 最初はこんな死と隣り合わせなことはしたくないと思っていたが、仲間と出会い、旅や経験を積むうちに異世界転生らしいかもと嬉しく思い始めていた。


 でも楽しいだけでは世界は守れない。世の中には適材適者と言うものがあるのだ。物事がスムーズに進むのであれば、強者の提案を受け入れるのも悪くないかもしれない。


 ただ、この件で一番心残りはアンフィニとの約束を自らが果たせないことだ。思い出したくもない己の過去を語ってくれて、仲良しこよしとまではいかずとも俺たちを信じてここまでついて来てくれた彼には申し訳なさしかない。


 ここで主役交代となったとしても、アンフィニとの約束だけでも果たしたい。そう思って願い出たのだが、アストライオスさんは信じられない方に即答した。


「断る」


「えっ」


『……』


 予想外の言葉に俺だけではなく、その場の全員が目を見開いて固まる。聖はこの展開を予想していたのか、やっぱりかと言いたげに唸った。


「どうしてですか、俺たちにはフィニィと言う少女を救うと言う約束があります。こいつと、アンフィニとの約束なんです」


「お前……」


 アンフィニが俺を見上げて来る。俺たちに対しては辛らつだし、態度もデカいがアンフィニの妹を思う気持ちは本物なのだ。それに、フィニィも自分が抱える闇に葛藤している様にも見えた。


 身勝手な研究者たちの手によって運命を狂わされた兄妹を救いたい。この気持ちはお人好しとは言わせない。


 湧き上がる怒りに任せてアストライオスさんを睨みつけたが、怯む様子は微塵もなく、興味がなさそうに視線を逸らして吐き捨てる様に返された。


「そんなものは知らん。どんな事情があろうとも、所詮敵は敵でしかない。相手がワシの命を奪うというのならそれなりの覚悟があるのだろう?なら、望み通り返り討ちにしてやるまでよ」


 意地悪く笑うアストライオスさんの瞳が野獣の様にギラついている。どうやら本気で言っているようだ。


「はあ!?アンタ、星詠みができるならあの子の過去も知っているんだろ。フィニィもアンフィニも苦しんでいるんだ。助けてやれよ!アンタにはそれだけの力があるじゃねぇかっ!」


 溜めていた怒りが爆発し、思わず立ち上がって怒りの言葉を叫んでぶつける。仲間たちが切なそうに見守る中、興奮が治まらず肩で息をする俺を聖が静かに宥める。


『クロケル、落ち着いて。こいつの挑発に乗らないで』


 これが落ち着いていられるか!俺はすっと息を飲みこんで、もう一度アストライオスさんを睨み、思いっきり啖呵を切る


「誰があんたに頼るもんか!これは俺が請け負った任務で仲間との大事な約束だ。最後まで完璧に全うして見せる!」


「ひゅー!ご主人様かっこいい!」


 俺の肩でアムールが陽気に口笛をならし、他の仲間たちも心なしか嬉しそうだったり、よく言ったと言いたげに大きく首を縦に振って頷いていた。


 感情に任せた結果、格好つけた様になってしまい、恥ずかしさと興奮が入り混じって痺れる様なドキドキが止まらないし、体も暑い。


「ほほほ。面白いことを言うなぁ、だが粋がるなよ、小僧。()()()()()()()()()()()()()()()()()


 アストライオスさんはからかう様に笑った後、すっと目を細めて俺を見据えて冷たい言葉を浴びせて来た。恐らく、俺のレベルが1であることを遠回しに揶揄しているのだろう。


 だが、彼が言っていることに間違いはない。それが悔しくて恥ずかしくて、何も言い返せないことが情けなくて……握りしめていた拳を開いて力なく椅子に崩れ落ちた時だった。


「そんな意地悪言わないでもっと真剣に話を聞いてあげなよ。神の血筋だからって偉ぶるなんてダッサいにも程があるし」


 アストライオスさんの正論に滅多打ちにされ、重くなった空気を断ち切るぐらいキラキラしたギャル、もといエクラがとうんざりとした声と共にお茶とケーキを持って現れた。


「だ、ダッサいかのぅ」


 先ほどまでの威厳はどこへやら。孫であるエクラに厳しい言葉を投げつけられたアストライオスさんは一瞬でしおしおになってその場で肩を竦めた。両手の人差し指をツンツンとしながらいじける様子はもはや親に叱られた子供である。


 ギャップがえぐい。このヒト、孫の前限定で気さくなおじいちゃんのなるのか。なんで身内の前で猫被るんだよ。


『アレじゃない?よくある、孫に嫌われたくない心理』


「あー、なるほど」


 聖がどうでもよさげな言葉を聞いて妙に納得した。そう言えば俺のじいちゃん親父には厳しかったけど、俺には優しかったっぽいもんなぁ。どんなヒトでも孫ができると丸くなるんだろうか。


「おじいちゃんがイミフなこと言ってごめんね。はいこれ、お詫びにもならないかもだけど、ドーゾ。あたしお気に入りのピーチティとガトーショコラ。上手く焼けたと思うんだよね、よかったら感想聞かせてちょっ」


「あ、ああ。ありがとう」


「因みに、ガトーショコラは豆腐入り★へるしーでおいしーっ!みたいなっ」


 怒っていたエクラだったが、一旦機嫌を直してギャルテンションで俺たちの前に手早く紅茶とケーキを並べ、会釈や御礼を言う俺たちに満面の笑み返した後、キッとアストライオスさんを睨んで説教を始めた。


「ねぇ、立ち聞きしてたことは誤るけどさぁ。ちょっと上から目線過ぎじゃね?自分を頼って来てくれたヒトをよくそこまで蔑ろにできるね」


「な、蔑ろと言うかこ奴らの詰めの甘さを指摘してやったと言うか」


 エクラに叱責されながらも、アストライオスさんは自分の発言の意図と理由を述べる。……詰めが甘くて悪うございましたね。


 しかし、どんなに弁解しようともエクラが納得する様子もなく、鋭い視線と厳しい言葉の攻撃は更に鋭利なものになって行く。


「それにさぁ、最初からおじいちゃんが悪いヤツを倒すつもりなら、このヒトらをわざわざこの国に招待意味も分かんない。わざわざあたしにお遣いまでさせてさ」


「い、一応、他の連中から協力してやれと連絡を受けた手前、門前払いをするわけにはゆくまい?ワシのも体裁があるんじゃ」


「はあ!?自分の見栄のためにこんな嫌味を言うためだけにこんなことしたんなら、おじいちゃんって性格サイアクだわ。神としてもヒトとしてもアウト。マジ無理なんですけど」


 エクラは吐き気を押さえる様に口元に手を当ててアストライオスと距離を取る。それがショックだったのか、アストライオスさんはこれ以上の弁解は無意味だと判断したのか、ガバッと勢いよく頭を下げた。


「す、すまんかった。確かに、ワシは少し偉そうじゃったと思う。エクラ、許してくれ」


「あたしにじゃないよね?」


 エクラが両手に腰を当て、眉を吊り上げてアストライオスさんの顔面すれすれの距離で凄む。怖い、重圧的なものがこちらまで伝わって来る。


 例えどんなに厳しい言葉をかけてきたヒトでも、体が筋肉で守られていても、目の前で老人が震える姿は良心が痛む。かと言ってこれはどう頑張ってもエクラを宥めることが出来る空気ではない。割って入ったら確実に視線で射殺される。


 アストライオスさんは「ううう」と言葉を詰まらせた後、おずおずと俺たちの方に向き直り、観念した様に深々と頭を下げた


「不遜な態度を取ってしもうて申し訳ない。嫌な思いをさせたな」


「は……はははは。い、いいですよぉ。全部ホントのことですし。だから、その……お願いです、早く頭を上げてください」


 謝られたとて許すしかあるまい。そもそも一国の主に頭に頭を下げられるなんて、まずありえないし。逆に申し訳ないと言うか、普通に後が怖いわ。


『うっそ。ホントに謝った。こわ~、エクラちゃんヤバーい』


 かつて行動を共にしていた目の前の光景は聖にとって、よほど衝的であり得ないものだったのか、乾いた笑いが聞こえた。


「よし!じゃあ、改めて話を続けよっか。あたしも同席するからね、おじいちゃん」


 元気よく笑った後、エクラは“NOとは言わせないぞ”と言う圧を縮こまるアストライオスさんに掛ける。ああっ、筋肉質なご老人が可哀そうなぐらい震えている。大きいのにちっちゃく見えるのは気のせいではあるまい。


「も、もちろんじゃ。是非、エクラも同席しておくれ」


 アストライオスさんは言葉を貰ってからすぐ秒速で頷いた。孫、強し。これは俺たちが出る幕はないな。そう思ってほぼ無意識にガトーショコラを口に運んだ。甘すぎず、滑らかな舌触りだ。


「あ、うまい」


 少しだけ舌に残るほろ苦さが孫に論破され、目の前ですっかり意気消沈しているアストライオスさんの状況と重なり、ちょっぴり切なくなった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


聖「次回予告!アストライオスの弱点は何と孫だったと言う驚きの展開。そのおかげで事態は意好転する。流石、孫パワー。エクラちゃん万歳!!」


クロケル「今回に限ってはマジでそうとしか言い様がないな」


聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第87話『星の一族、エクラがパーティに加わった!!』愛があればヒトは変わるんだねぇ。なんか可能性を見た気がするよ、愛に」


クロケル「愛は一旦置いておいて……またタイトルでネタバレしてんぞ」


聖「この程度のネタバレはいいでしょ。僕は多少のネタバレは平気だよ。ある程度展開を把握してるほ方がストレスなく楽しめるもん」


クロケル「そりゃお前の価値観だろ」


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