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第84話 いざ登山へ!ちょっと待って……あなたはどこのギャルですか

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。


まずは謝罪を……このお話は本来昨日あげる予定だったのですが、投稿ボタンを押し忘れると言う痛恨のミス……アホ過ぎる。活動報告に昼頃あげるとか抜かしたくせにっ。今後はこのようなミスがないように精進します。


また、活動報告にも書きましたが、感想受付の「ユーザーのみ」を昨日からログインなしでも書き込めるように設定しました。7月22日から8月中旬or下旬までの期間限定の設定です。


恐らく1件も来ないと言う予想はしております。ですが、この作品を読んで頂けるだけで十分光栄なので設定を変えたのは、ほぼ興味本位です。なので、感想は書かずとも作品だけでも読んでやって下さい。


ですが、奇跡的に感想や質問?を頂けた場合はなるべく全てにお返事させて頂きます。


本日もどうぞよろしくお願いいたします。

 報告会が無事に終わり、ワンダーミラ夫妻は暫く俺たちと雑談を交わした後、レポートをまとめると言ってティーパーティーの場から退席した。


 その後もパーティーは静まるどころかテンションが上がって行き、カルミンにせがまれ、これまでの旅の話をしながら恋愛トークを適当にかわしつつ山の様に並ぶお茶とお菓子を楽しんでいると、温かいココアを飲みながらアリスが口を開いた。


「ところで……色々とトラブルに巻き込んで引き留める形になってしまいましたが、お話を聞く限り、みなさんは目的を持って旅をされているのですよね。どこへ向かわれているのですか」


『星の国ルシーダだよ』


 聖が明確な目的は告げずにさらりと答える。それを聞いたアリスは目を大きく見開いて驚く。


「それは……また大変なところへ行かれるのですね」


「大変?ああ、そう言えばルシーダって国は外部からの入国を意図的に制限してるんだっけか。入国し辛い環境だとは聞いたが、隣国であるここからでも向かうのは困難なのか?」


 何気なしに聞くとアリスは複雑な表情を浮かべて俺たちを見つめた後、とても言いづらそうに視線を泳がせた後、とんでもないことを口にした。


「とても大変だと思います。おとぎの国からルシーダに向かうには登山をする必要がありますから」


「まさかの登山!?えっ、聞いてない聞いてない」


 受け入れがたい現実に首を左右に振ってから、空中に浮かぶ聖の方をガバッと勢いよく見ると、鼻歌を歌いながらちょっとずつ俺から離れて言った……こいつ、知ってやがったな。


「登山か。興味深いな。どんな山なんだ」

「にゃー。俺ちゃんも興味があるにゃあ。他の世界の山なんて初めてにゃん。是非登ってみたいにゃん」


 騎士であるシュティレは根っからの体育会系なのか、興味津々で言った。自称旅好きのチェシャ猫さんも尻尾をピンと立てて目を輝かせていた。


「あの山ですよー、あのひと際大きいあの山。天山オリュンポスって言います」


 アリスが口を開くよりも先にカルミンが立ち上がって応接間の正面にある大きな窓まで駆け寄ってある一点を指差した。


 カルミンが指し示す先には連なる山の中心、恐らく奥まったところに位置し、どう見ても他の山よりも抜きんでているどっしりと尖った物体があった。


 ナニアレ、ほぼピラミッドじゃん。俺たちエジプトの王の墳墓に登山すんのかよ。罰当たりにも程があるわ。


「多分この世界で一番高い山なんじゃないかなぁ。山自体は登山用に整備はされているし、モンスター対策も万全だから危険なことはないと思いますけど、それなりの準備も必要だし、時間と体力はかなり使うと思います」


 そう言ってカルミンは手に持っていた塩味のプレッツェルをカリッとかじって元の位置に着席した。


「途中で宿泊する必要もあるし……気軽に行けないと思いますよ。チェシャ猫さん」


「うにゃ~。気軽に行けにゃいのは残念だにゃあ、山の散歩は楽しいのに~」


 1人で気軽に行く気満々だったチェシャ猫さんにアリスがやんわりと注意して、チェシャ猫さんはむくれてその場に身を長くして転がった。


「あの山の天辺に国が栄えていると言うことですか」


 シルマが質問しながらここからでは見えもしない山頂を覗くように少しだけ背筋を伸ばす。それにつられたのかシュバルツも同じようにして山を眺めていた。ミーアキャットか、かわいいなチクショウ。


「あの山を登った先にルシーダに続く検問所があって、そこで事前入国審査の有無や身元、所持品などを確認してから専用のロープウェイでさらに上へと向かうのです」


 ココアを一旦テーブルに置き、アリスが次なる目的地であるルシーダへの道のりをスラスラと説明して行く。


 しかし、入国までにどんだけ段階を踏ませるんだよ。外部からの入国を拒否してるわけじゃないって聞いたけど、ほぼ拒否ってない?行くまでの手順だけで「来られるもんなら来て見ろやぁ」って圧を感じるぞ。


「山を登ったのにまだロープウェイで登る必要があるのか。どんだけ高いところにある国なんだよ。ほぼ雲の上じゃねぇか」


『その通りだよ。ルシーダは星の国の他に天空の地の異名も持つからね。住民たちは魔術結界で守られているから暮らせているけど、本来は空気が凄く薄い場所なんだよ。でも空に近いし、町の景観を守るために人工的な光が少ないから星が綺麗に見えるよ』


「なるほど、だから星の国か」


 恐らく星空の名所みたいな場所なのだろう。そう思って納得しているとアリスがやんわりと否定の言葉で返答した。


「いいえ、それだけではないですよ。ルシーダが星の国と呼ばれているのは星の加護を受けているからなのです」


「星の加護?なんだそれ」


 何と言うオタクと中二心をくすぐるワードだろうか。詳しく知りたくてつい前のめりになってしまい、突然テンションが上がった俺に驚いて座った状態で身を引きながらもアリスは苦笑いで説明をしてくれた。


「ルシーダは遥か古代、この世界がまだ神々の手にあったと言われる頃から存在した土地でそこの住まうのは神の血族、コンステラスィオン。当時は荒れた土地にたった13人で生活をしていたと伝えられています」


「13人にはそれぞれに星の加護がついていて、神力を使い土地を広げ、田畑を潤し、海や川も造り、時には生活に困窮する神族ではないヒトを助け、自分たちが住まう土地に招き入れ、共に土地発展のため仕事と報酬を与えたって聞いたことがあるなぁ」


 淡々と語るアリスに続いてカルミンもにこにことしながら真面目な話をクッキーを片手に語る。


 対する俺たちはおとぎ話じみて来たその話にお茶やお菓子に口をつけるのも忘れて、興味と関心からどんどんとアリスとカルミンの話に引き込まれる。


 因みに、シュバルツは話も聞かずに大量の食べ物を一生懸命食べていた。お気に入りはチョコチップマフィンらしく、それだけが皿の上から異常に減っていた。そんな

シュバルツの様子を横目で見ている間にもアリスの語りは続く。


「神の血族普通のヒト族が協力し、土地も人口も増え、時は流れてルシーダは1つの国となり、今の形となったのです。その様な経緯もあり、ルシーダは建国者である13人の星の加護を持つ神々の恩恵を今も受けているのです」


「なるほどなぁ。神が建国したからこその星の加護ってことか。それって具体的にはどんな加護なんだ」


 ルシーダと言う国が星の加護を受けられる理由は理解できたがその内容に関してはさっぱり見えて来ないので納得しつつ、更に質問を重ねると今度はカルミンが答える。


「きちんと聞いたわけじゃないからないけど、天災とかモンスターとか、侵略者とか、そう言う危険な存在から国と住民を守るってウワサです。もし本当だとしたら本当に神がかってますよね!」


 ワクワクと弾む様に語るカルミンの気持ちはもの凄く理解できる。ほぼ迷信様な神秘的で非現実な話は興味を惹かれるよな。


 しかし、国造りの話ってどの世界にも存在するんだなぁ。こういう例えはよくないかもだが、何もない土地から国を創るって某無人島開発ゲームみたいだ。


 俺もプレイしたことあるけど意外に頭使うし難しいんだよ。変にお金や道具収集が必要なところが妙にリアルなでおもしろい。センスがないせいで理想の島を完成させられなかったが……。


「そしその世界を代々治めているのが、コンステラスィオンの血を引く星の一族だと言われています」


 話を最後まで話を続けたいのか、ワクワクしている俺とカルミンの間にアリスが冷静に割って入って来た。


「今度は星の一族か」


 また新しいワードが出て来たぞ。今回は専門用語多すぎじゃね?オタクで横文字と中二ワードに慣れている俺も流石に混乱して来たぞ。


 俺の混乱に気がつく様子もなく、アリスはこくりと頷き、そして再びココアを手に取り一息ついてから話を進めた。


「星の加護を受けた13人の神の血族の直系に当たり、国を治めておられるのがアストライオス様です」


「アストライオス……」


 聞いたことがある名前の響きだなと感じ俺は記憶を辿った。そしてペセルさんの姿と言葉が蘇る。


『あ。そうだ。クロりんに伝言』


『伝言?誰からですか』 


『アストちんから』


『アスト……、えっ誰?』


 アハ体験の如く脳が活性化し、モヤモヤが晴れて行くのが分かる。ペセルさんは知り合いを緩いあだ名で呼ぶため理解するのが遅れたが、恐らく間違いはない。


「あの時ペセルさんが言っていたアストちんって、まさかアストライオスさんのことか」


『そうだよ~』


 かつて共に旅をしていた聖はもちろんそれを知っていたのであっさり平然と肯定した。知ってたんなら先に言え。大事な物事には受け身になるな。


「長い歴史の中で神族とヒト族は固い絆で結ばれるようになって、子供を授かる様になったんだって。だから、今のルシーダに暮らすヒトのほとんどが神とヒトの混血。私たちみたいな純度100パーセントの人間よりも身体・頭脳・魔術に優れているらしいですよ」


 うらやましいなぁ~と付け加えてカルミンは一口サイズのカボチャのスコーンを口へ放り込んでサクサクと咀嚼した。


「しかし、混血となると神力も半減します。ですがアストライオス様は一度もヒトと交わることがない家系で生まれた純潔、正真正銘の神族なのです。かつて神子様と共にこの世界をお救いになられたこともあるそうでかなりの実力者らしいです。気難しい方だと言うウワサもありますが、国民には慕われているとお聞きしてます」


 なるほど、次に会うべき相手は神族なのか。格式とプライドが高そうなイメージしかない。きっとピリピリして息ができないぐらい怖いオーラとか持ってるんだ。


 そしてやっぱり気難しいのか。前にちょこっとだけアストライオスさんのことをペセルさんから聞いた時も開口一番に出た言葉が“気難しい”だったし、聖も“(性格以外は)悪い奴じゃない”とかわざわざ言葉の前に括弧をつける様な言い方をしたもんなぁ。


 もしかしたら怖い人なのかもしれない。ちょっと会うのが嫌になって来た。で、でも一応、聖の仲間だったわけだし、世界を救うために戦う様なヒトだから大丈夫だよな!多分。


 まだ見ぬアストライオスさんを勝手に想像するほどに不安が沸き上がり、その度に大丈夫と自信に言い聞かせた。


「私たちが知っていることはこれぐらいです」


「知ってるって言っても、私たちからすればほとんどおとぎ話に近いもんねぇ。どこまでが本当かはわからないので、参考程度にして頂けるとありがたいです」


 アリスとカルミンがそう締めくくった。確かに少々ファンタジー感は強かった気がするが、何の変哲もない世界から異世界に転生した俺からすればありえない話でもないと思えるのが不思議だ。


 だって、ウサギの力で異世界に転移する時点でもうファンタジーだろ。なんでもありだと思うぜ。この世界。


「はい、ルシーダの話はこれで終わり!ねぇ。クロケルさん、もっと旅のお話を聞かせて下さい!恋バナも!!」


「は、はあ!?もう十分しただろ。あと、恋も愛も俺たちの旅には存在しないっての」


 話に一段落がついた瞬間、好奇心旺盛なカルミンがまた話をせがんできた。正直もう話す様なことは俺の最弱な俺にまつわる間抜け話しない。それを話せるわけもなく、狼狽えていると応接間の扉が開かれ、退席したはずのワンダーミラ夫妻が現れた。


「盛り上がっているところ申し訳ないが、アリスとカルミンとそろそろ寝る時間だよ」


「うーちゃんのことも一段落したし、早く学校に戻らないと大切な学びの時間が減ってしまうわよ」


 夫妻は学生であるアリスとカルミンを咎める様に言った。2人は口を尖らせ、不満を全開にして反論する


「えー、もっとクロケルさんたちとお話したーい」


「あと1日ぐらい特別休暇を増やしてはダメ?」


 カルミンがハート形のクッションで身を隠す様にしてソファーの上で縮こまり、アリスも眉を下げて悲しそうに瞳を潤ませた。


「特別休暇は君たちが大人になってから存分に使いなさい。魔法学校は君たちが学びたいと思って入学した場所なんだろう。何か辛い思いを抱えているのであれば私もそれなりの対応は考えるが、怠惰による我がままは許しません」


 ワンダーミラさんは懇願する少女2人を正論でバッサリと切り捨てた。厳格な家庭の父親は娘に甘いものだと思っていたが全然そんなことはなかった。柔和な見た目に反してもの凄くしっかりとした父親だった。


「お父様の言う通りですよ。それにクロケル殿たちは旅を続けなければならないのです。お聞きしたところ、旅はかなりの危険を伴うとか。彼らにとって休息はとても大切で貴重なのですよ。もっと周りを見てから発言なさい」


 厳しくも保護者の責任が込められた大人たちの言葉にアリスとカルミンはすっかり説き伏せられてしまい、しょんぼりと立ち上がった。


「ごめんなさい……。そうだよね、クロケルさんたちもお休みしなきゃいけないのに」


「はあ、楽しい時間は過ぎ去るのが早いよね。うん、ちょっと我がままが過ぎたかも。明日のために寝ます」


 先ほどまで渋っていた2人は俺たちに「おやすみなさい」と丁寧に頭を下げて挨拶をした後、名残惜しそうに応接間を後にした。


 2人が各々の部屋に入ったことをメイドに確認し、ワンダーミラさんは俺たちに気まずそうに笑いかけた。


「すまないね。ティーパーティーの余韻に浸っているところを変な空気にしてしまって。しかし、私も親だ。夜更かしをする我が子とその友人を見過ごせないのだよ」


 そう言われて改めて窓に目をやれば、とっぷりと日が暮れて外は闇に包まれていた。すっかり話し込んでしまった様だ。


「いいえ。俺たちもつい話に夢中になってしまって……気を回せずにすみません」


 何だか気まずくなってしまい、こちらも頭を下げるとワンダーミラ夫人がおっとりとして言った。


「クロケル殿が謝る必要がございませんわ。さあ、みなさまのお部屋もご用意いたしましたので、どうぞお休み下さいな」


「えっ、泊まらせて頂けるんですか!?」


 さも俺たちを止めることが当然だと言う様に話を切り出され、思わず目を見開いて確認した。


「ああ、私たちは最初からそのつもりだったよ。相談もせずに勝手に決めてしまってすまない。驚かせてしまったかな。それとも止まるアテがあったかい?」


 バツの悪そうな表情を浮かべるワンダーミラさんに向かって俺は思いっきり首を左右に振って言った。


「いいえ!アテなんてないです。寧ろ突然色んなことが起こりすぎて泊まる場所を探すこと自体頭から抜けていました。ご配慮に感謝します!」


「うふふ、良かったわ。お部屋はたくさん余っているの。1人部屋と相部屋、お好きな方をご利用下さいな。ああ、そうそう。もう一度お風呂に入って頂いても構いませんわ」


「はい、本当にありがとうございます」


 ワンダーミラ夫人が上品に笑って言った。この旅でお金持ちの家に泊まらせてもらってばかりだが、何でみんなさんこんなにも懐が深いのか。度重なるご厚意に俺たちは態度と言葉でしっかりと感謝を表した。


 その後、各々が好きな部屋で好きな様に休息を取り、改めて体を休めることにした。なお、シュバルツと聖は当然の様に俺と相部屋である。


 ミハイルとアンフィニはまさかの1人部屋を選んでいた。ここは宿ではないし料金も発生しないからいいっちゃいいが……フクロウとぬいぐるみが1部屋使うなよ。ってか何のために1部屋使うんだよ。


 そんな小さな不満を抱きつつ、俺は仮眠室以上にふかふかなベットでゆっくりと眠りについたのだった。



 翌日、俺たちはまだ空が薄暗い時間にワンダーミラ家の門の前に集合していた。登山着口に続く森の入口まではワンダーミラ家の自家用車で送ってもらえることになったのだが、この国で一番高い山を登らなければならないことを考慮し、早めの出立となったのだ。


 正直言うとまだ少しだけ眠い。シュバルツなんて立ったまま船を漕いでいる。こんなに朝が早いにも係わらず、アリスとカルミン、そして穏やかに微笑むワンダーミラ夫妻と猫の姿のチェシャ猫さんが俺たちを送り出してくれる。


「みなさん、本当にお世話になりました。私がうーちゃんと無事帰ってこられたのもみなさんのおかげです」


 アリスは腕の中にいるウサギを撫でながら俺たちに改めて御礼の言葉を口にし、深々と頭を下げた。


「いや、そんなに何度も御礼を言わなくていいよ。十分すぎるぐらいのおもてなしも受けたしな。ところで……お前たちは今日から学園に戻るのか」


 制服姿の2人にそう聞けばお互いに見つめ合った後、昨晩の休みたいと言っていた気持ちはすっかり消え去ったのか、笑顔で同時に頷いた。


「はい、今日からまた学生生活&寮生活です。私は挨拶程度にちょこっとだけ家に顔を出すつもりですが」


 元気いっぱいのカルミンに続いてアリスが苦笑いで言った。


「昨晩は久々のティーパーティが楽しすぎて少し我がままモードになってしまいましたが、今はもう大丈夫です。また魔法学校に戻れると思うとワクワクします」


「そっか。ならよかった。ケイオスさんにもよろしく頼むな。ついでに俺たちはルシーダに向かっていると伝えておいてくれ」


「はーい。了解でーす!」


「みなさまが元気だと言うことも合わせてお伝えしておきますね」


 カルミンが元気よく右手を突き上げて返事をした。アリスも小さくお辞儀をする。その姿を微笑ましくて、思わず口元が緩んでしまった。


「さ、名残惜しいがそろそろ行かないと。頑張って早く起きた意味がなくなる」


 このまま終わりのない会話を続けるわけにも行かない。日も徐々に昇り始めている。俺が出発を促せばその場の全員が少しだけ名残惜しそうに頷き、アリスたちに背を向ける。


 門の前には白いリムジンが用意されていた。こんな高級車は漫画やテレビでしか見たことがないからちょっと緊張した。会話の邪魔にならない様に気配を消して控えていた老年の執事兼運転手さんが無駄のない動きでドアを開ける。


中を覗いて見ると車の床が赤い絨毯だったの一瞬靴を脱ぐかどうか迷ったが思い止まって靴のまま乗り込んだ。


「それではみなさん、お気をつけて」


「あなたたちの旅に、どうか幸多からんことを」


 開けてもらった窓からワンダーミラ夫妻が最後の挨拶をくれる。カルミンとアリスも小柄な体でリムジンの中を覗き込んで手を振ってくれた。


「また一緒にティーパーティーしましょう!今度は私のお家に招待します」


「今度は異世界観光ではなく、このおとぎの国を観光しましょう。案内は私とカルミンちゃんに任せてください」


 カルミンが輝く笑顔を見せ、その隣でアリスも愛らしく微笑んで言った。その隣でいつの間にか長身のヒトの姿に戻ったチェシャ猫さんも車の中を覗き込んでヒラヒラと手を振った。


「お互いに元気だったらまた会おうにゃあ~」


「ああ、こちらこそありがとう。皆さんもお元気で」


 俺に続き、仲間たちも口々に感謝の言葉と別れの挨拶を済んだ頃を見計らい、窓が静かに閉まる。車はゆっくりと発車し、俺たちはアリスの屋敷を後にしたのだった。




 それから2時間ほどで車は目的地である森の入口に辿り着いた。ここから先は車の侵入禁止と聞かされた。登山口までは森の中を歩くことになる。ここまで運転してくれた執事さんに御礼を言い、車を見送った後、俺たちは森のへと足を踏み入れた。


 車中で執事さんから事前に説明を受けた通り、登山者のために整備されている森の中は舗装もしっかりされ、優秀なハンターたちの手で駆逐され凶暴なモンスターはいなかった。


 しかし、山までの道は徒歩で向かうにはかなりの距離があり、長い道のりをひたすら歩いて、早朝で薄暗かった空がすっかり明るくなった頃、俺たちはようやく目的の山であるオリュンポスの登山口まで辿りついた。


 既にシュティレ以外は暑さのせいもあり、徒歩のみで既にヘロヘロになっていた。なお、空を飛べる聖とミハイルとシュバルツに抱えられていたアンフィニは当然ながら「以外」には含まれない。


「はあ、なんとか登山口まで着きましたね。今から山登り本番だと言うのに、ここまでの道のりでひと山超えた気分です。汗をかいてしまいました」


 シルマはトレードマークの白いローブを脱ぎ、ピンクのインナー姿になって左手で自分をパタパタと扇ぎ、腰につけたホルダーから水を取り出して喉を潤していた。


 水を始めとする入山のための装備等はワンダーミラ家がご厚意で用意してくれたのだ。1日では登頂できないとのことで途中で休める様にテントと数日分の食料、更には登山用の服や靴、ピッケルも提供してもらえた。言っておくが全て新品である。


 完璧に準備ができたのはいいものの、割と大荷物になってしまったので、かさばるものは全て聖が一旦データ化して預かってくれることになった。毎度のことながら便利な能力である。


「シュバルツ、水飲むか」


「うん、飲む」


 真っ赤な顔をしたシュバルツは俺から水を受け取るとそれをこくこくと勢い良く飲み干してゆく。


「水分補給は大切だが、一気飲みよりはこまめに補給した方が効果的だぞ。喉が渇く前に飲むことが大切だ。それに提供してもらった水に余裕があるとは言え、無計画には飲まない様に。水も食糧も限りがあることを忘れるな」


 登山には慣れているのだろうか。シュティレがキビキビと指示を出す。一応俺がリーダーなんでけど、役立たずだし強くて頼り甲斐しかないシュティレがリーダーになった方が今後の為では?と思わなくもない。否、そう激しく思います。


 俺が恰好悪いことを思っている俺とは対照的にシュティレはキビキビと格好良く指示を続ける。


「ここからは動きにくい恰好はNGだ。なるべく身軽に、それでいて体を最低限守れる装備で登山に挑むぞ」


 そうだった。今からが本番だ。俺たちは目の前に構えるこの世界で一番高いと謳われるこの山を登らなければならないのだ。


 山を見上げてみるがそのほとんどが雲と冷たい空気に覆われ、妙な圧と神聖空気を感じ、なんとなく気が引き締まる。ここから先は一応、神様が作った土地に繋がってるんだ。失礼がないようにしないと。


「よし、じゃあ聖。預けておいた登山用の道具を出してくれ」


『はいはい~』


 呼吸を整え、決意を固め、いざ登頂の準備をしようとしたその時だった。


「はろはろ~、キミたちがクロケルご一行?」


 背後で神聖な空気のこの場所に不釣り合いなぐらいキャピキャピとした声がした。名前を呼ばれたので反射的に振り向いが、俺はその声の主を5度見ぐらいした。キラキラした派手オーラを放つギャルが目の前に立っていたのだ。


 第二ボタンまで全開の白いブラウスにクリーム色のニットガウン、青系のチェックのスカートは下着が見えるのではと心配になるぐらいの丈だった。


 まつ毛は風を起こせそうなぐらいバシバシで、瞳孔の大きさからして多分カラコンも入れている。キュッと切れ長のキャットラインに暗めのアイシャドウは良く映えている。下瞼にもラメシャドウが施され、まつ毛に負けない存在感があった。


 白地のファンデーションだが頬の周りにはピンクのチークをガッツリ施し、ロングウェーブの髪の毛は黒とピンクのグラデーションになっていた。


「え、ええぇ……」


 突然のギャル登場に俺は狼狽する。思考も動きも完全に停止した。え、何、何事。前世も現世もギャルに知り合いはいませんよ?


 総体的に派手。絵に描いた様なギャルでちょっと怖い。なんでギャルがこんなところにいるんだ。手には携帯しか持っていなし、どう見ても登山をするような装いには見えない。いや、その前にいつも間に現れたんだ……さっきまで俺たちしかいなかったよな。


「ねぇ、ちょっとぉ。無視とかひどくない?ヒトが質問してんだよ。なんか答えるのがジョーシキっしょ」


 山奥に突如現れたキラキラギャルについ呆然としてしまったが、機嫌が悪そうなギャルの声に意識が引き戻される。


「あ、す、すみません。ちょっと見慣れない姿だったものでびっくりして……確かに俺はクロケルと言います。それで、その、あなたはどちら様でしょうか」


 驚きのあまり確実に年下の相手に敬語になってしまった。無視してしまったことを詫び、自己紹介をしてからこちらも名前を聞く。


 すると先ほどまでの不機嫌な様子から一変し、にこっと活発そうに笑い、自らを指差して意気揚々と自己紹介を始めた。


「あたしはエクラ。おじいちゃんからのお遣いであなたたちを迎えに来たの。よろ~」


「あ、はい。よろしくお願いします……じゃなくて!何で俺たちの名前を知ってるんだ」


 溢れ出る戸惑いと疑問を1つずつ解決しようと質問するとケロリとした返答があった。


「名前はおじいちゃんに聞いたんだよ。クロケルだけじゃなくて、ここにいる全員の顔と名前が一致してるよ?」


 そう言ってキラキラギャルのエクラは俺たち1人1人を指差して名前を言い当てた。やだ、怖い。この子何者……。


「はい、謎も解明されたところで本題に入りまーす」


「待って、ちょぉっと待って!君のおじいちゃんってどなた?」


 少しでも状況を理解したい一心で、ちょっとした武器になりそうな長いピンクの付け爪がついた手をヒラヒラさせてよくわからないことを言いながら話を進めようとしたエクラの話を止める。


 エクラは一瞬大きな目を瞬かせてから何が面白いのかその場で手を叩いて大爆笑した。俺、何にも面白いこと言ってねぇよ?


「あっははは、ウケる~。そこからかぁ……えっとぉ、あたしのおじいちゃんの名前はアストライオス。星の国で一番偉い人だよ。凄いっしょ?」


 場違いなキラキラギャルからの耳を疑う発言にその場の空気が凍り付いた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


聖「次回予告!突然現れた謎のギャルの発言に開いた口が塞がらないくろけるたち。僕も信じられない、だってあのアストライオスに孫ができたことだけでも衝撃なのにギャルって何事……果たして、彼女の言葉は真実なのか!?」


クロケル「アストライオスさん、ちょっと怖いヒトかと思ったけど俄然興味が湧いて来たんスけど」


聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第85話『星の国ルシーダ、天に輝く清浄なる地』何がどうなってギャルの孫が」


クロケル「おお、聖が珍しく動揺している」


聖「こう言う時、仲間との連絡って大事だなぁって思うよ」


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