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第82話  地獄からの帰還

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。


とあるテレビ番組でお金持ちの豪邸に行くと言う企画をやっていてふと思い出しました。私の知り合いに1人だけガチのお金持ちがいて、このご時世前にはよくお家に招待して頂いていたのですが、ああ言う場所をテレビでみたり、実際に訪問してみて思うんですよね……。


“自分は住みたくないかな”って。豪華で便利機能がお家にあるのはうらやましいし、良いなとは思いますけど、遊びに行くだけで十分な気がします……維持費とか大変そうだし。


つくづく自分は庶民なんだなぁ。と思いました……なんで私は毎回前書きで語っているのでしょうか


本日もどうぞよろしくお願いいたします・

 死に物狂いで扉に飛び込んだ後、目を開けていられないほど眩しい光が俺たちを包み込んだかと思えば、どこかに強く引っ張られる感覚に襲われたところまでは覚えているのだが、それ以降は気を失っていたらしい。


 視界が揺らいでいるし、頭もぼんやりとする。心なしか体も痛いが、何とか頑張って体を起こす。


「う、いててて」


『あ、起きた!よかった、クロケル。無事だったんだね!』


 筋肉痛にも似た全身の鈍い痛みに思わず声を上げて蹲っていると、頭上から久しい親友の安堵の声が聞こえ、思わず勢いよく顔を上げる。


「聖!?ってことは俺たち、無事に戻って来られたのか」


『うん、そうだよ。ここは“元の世界”だ。お疲れ様、お帰りって言った方がいいのかな』


 聖は肯定に心が軽くなり、安堵した。改めて辺りを見回すとそこは異世界の入口となったアリスの家の書斎だった。床には共に危機を乗り切った仲間たちが倒れている。


 シルマ、シュバルツ、シュティレ、アリス、カルミン。みんな気を失ってはいるが一緒に戻って来られているようだ。


 なお、このトラブルの1番の原因でウサギは何事もなかったの様にとぼけた表情で床に丸まっている。


「ハッ……アムールも無事か?」


「無事でーす!」


 アムールの定位置となっている肩の上を確認すると元気に手を上げるアムールの姿が確認できた。無事でよかった。扉に飛び込んだ時は無我夢中で肩の上にいるアムールに気をかけてやる余裕はなかったからな。


 途中で振り落としていないか心配していたが、元気そうで良かった。他のみんなに大事はないだろうかと床に転がる仲間たちに視線を落とすとそこにはミハイルとアンフィニがいた。


「全員怪我はない様だな」


「ああ、目立った外傷はないみたいだ」


 2人は倒れ伏す仲間たちをそれぞれの様子を診て回ってくれていたらしい。そして、異常は見当たらなかった様だ。全員に大きな怪我がないと知り、心の底からホッとした。


『びっくりしたよ。書斎の壁に突然光の穴が開いたかと思ったらそこからクロケルたちが落ちて来たんだもん。何があったの?』


「いや、まあ……話せば長くなると言うか」


 聖夜が俺のことを心配しながらも早く話を聞かせて欲しいと興味津々に詰め寄ってくるが、色々ありすぎたせいで俺も混乱しているし、正直どこからどう話せばいいのか迷う。心と記憶の整理をさせて欲しい。


「異世界から帰還して来たばかりの人間にグイグイ質問攻めは良くないと思うにゃあ」


「ああ、まさにそれだな。できる限り全部話すから少し休ませ……って、エッ」


 何か居るんですけど。膝の辺りに視線を落として見れば長い尻尾をピンと立たせて、俺に寄り掛かって座るチェシャ猫さんの姿があった。道理でさっきから膝が妙に生暖かいなと思っていた。


「な、なななななっ。何でチェシャ猫さんがここにいるんですかっ」


 動揺でDJがレコードをスクラッチしたみたいな驚き方になってしまった。ここにるはずがないその存在に二度見どころか五度見ぐらいした。


「うにゃ~?飛び込めって言ったのはクロケルだにゃ」


「いやいやいや、そんな自分は悪くないですよ?みたいな顔しないで下さい。あと、可愛く小首を傾げるのはやめて下さい」


 全く悪びれることのないチェシャ猫さんに大きめの声でツッコミを入れていたせいだろか。気を失っていたみんなが顔を歪めつつ、のそりと体を起こす。


 それぞれが頭を押さえ、ぼんやりとしながら状況を把握している中、最初にチェシャ猫の姿に気がついたのはアリスだった。


「チェシャ猫さん!?どうしてここに……」


 四つん這いで勢いよくチェシャ猫さんに詰め寄るアリスの表情は、驚きと喜びが入り混じるなんとも言えない表情をしていた。強いて表現するなら嬉しそうな表情なのかもしれない。


「いやあ~、クロケルがあまりにもカッコよく飛び込めって叫ぶから、つられてジャンプしちゃったにゃん。そしたら白い光に包まれて、現在に至るって感じかにゃっ」


「俺のせいにするなよ!」


 濡れ衣的なものを着せられそうになって俺は思わず叫ぶ。その騒ぎに引き寄せられる形で仲間が集まって来た。


「なんだ。面倒事を持ち込んだのか」


 ミハイルが羽を羽ばたかせながらジト目で俺を見て来たので俺はあらぬ容疑から逃れようと全力で首を左右に振って否定する。


「違う!断じて俺のせいじゃない。面倒事の方からやって来たんだ」


「まあ、お前のやらかしはどうでもいいが、その猫は一体何なんだ」


 必死な俺の弁明をアンフィニが「どうでもいい」の一言で一蹴し、上機嫌でちょこんと座るチェシャ猫さんに視線を送った。


 どうでもよくないし、俺はやらかしてなんかいない。そう反論したかったが、ムキになればなるほどドツボにハマりそうだったので、もどかしさと悔しい思いを抱えながらも大人しく口を噤んだ。無意識に噛みしめた唇が痛い。


「うにゃん?君たちはクロケルたちの仲間かにゃ。俺ちゃんはチェシャ猫って言うにゃん。アリスの友達で、クロケルたちとは不思議の国で苦労と危険を共にした仲にゃん」


『これはご丁寧に。僕はアキラって言います。クロケルの相棒で有能AIだよ』


 アンフィニの問いかけにチェシャ猫さんは自ら答えた。それに対して聖は丁寧に挨拶を返したが、ミハイルとアンフィニは興味がなさそうに「ふーん」と素っ気ない態度で挨拶を流していた。


 ここは絶対自己紹介の流れだとは思うが、アンフィニもミハイルも全く名乗る気がない。さすがにチェシャ猫さんに失礼だと思い、俺が代りに不愛想ズの紹介する。


「悪いな、チェシャ猫さん。この2人はいっつもこんな感じだから気にしないで下さい。フクロウの方がミハイル。ぬいぐるみの方がアンフィニって言います。一応、良好な関係です、と言っておきます……」


 塩対応をされたことを気にする様子もなく、チェシャ猫さんは興味深そうに聖たちを見ていた。


「ふぅーん。機械とフクロウとぬいぐるみが仲間なのかにゃ。おもしろいにゃあ」


 ケタケタと笑うチェシャ猫さんを見ていると、わずかに残っていた異世界での脱出劇による恐怖が嘘の様に消え去り、代わりに脱力感へと変化する。


「はあ……ダメだ。何かもう色々疲れた」


 座ったままの状態で大きなため息をついて天井を見上げ、そんなことをぼやくと書斎の出入り口から低音で心地よく、柔らかな男性の声が聞こえた。


「みなさま、本当にお疲れ様です。ご無事でよかった」


「はいっ!?」


 突然耳に届いた聞き覚えのない声に驚いて声のする方に勢いよく首を振ってみればそこには金色のウェーブがかったボブショートで背の高い壮年の男性がいた。初対面にも係わらず、穏やかで優しい笑みをこちらに向けて佇んでいる。


 その隣には同じく金髪でウェーブがかった髪の小柄な女性。こちらもα波でも出しているのかと思うぐらい癒しの微笑みで上品に立っていた。腰までの長い髪をふわりと揺らし、目が合った俺に会釈をする。


 男性はかっちりとした茶色のスーツ、女性は淡い水色のワンピースドレスを着ていた。2人共身なりがしっかりしており、頭から足の先まで綺麗に整っている。


 オタク事案以外は語彙力が消失してしまう俺では陳腐な表現しかできないが“なんか凄そうなオーラを持ったヒトたち”と言う印象だ。


「お父様、お母様!」


 床に座り込んでチェシャ猫さんの喉を撫でていたアリスがそのまま猫を抱き上げ、弾む様に立ち上がり、穏やかに微笑む男女の元へと小走りで近づく。


 ……えっ、お父様、お母さま!?このなんか凄いオーラを持ったヒトたちアリスのご両親なのか!?でも言われてみたら雰囲気が似ているな。


「お帰り、アリス。また突然異世界に行ってしまったらしいね。無事に戻って来られたみたいでよかったよ」


「ええ、うーちゃんも見つかったみたいで安心したわ。頑張ったわね、本当にお疲れ様」


「はい、アリスはうーちゃんを見つけ、無事に帰ってまいりました」


 走って来たアリスを両親は両手を広げて受け入れた。そのまま再会を分かち合い、3人でひしっと抱きしめ合う。


『うんうん。美しい親子愛だねぇ』


「まあ、感動しなくもない光景だが、チェシャ猫さん……大丈夫かな。サンドイッチ状態を通り越してプレスされてないか。アレ」


 娘の無傷の帰還を喜ぶ両親。大冒険を終えて両親と無事に再会する娘。なんと素晴らしい光景かだろうか。本気で思う、ハッピーエンドサイコー。イベントスチル必至の感動的なシーン間違いなしだ。


 でもそれ以上に気になるのがチェシャ猫さんの現状である。何故なら彼はアリスに抱かれたままのせいで両親とアリスの胸の辺りで潰されているのだ。どんな状況でものらりくらりとした姿勢を崩さない彼だが、流石に苦しそうである。


「アリス、アリス、ご両親に再会できて嬉しいのは分かるが、そろそろ体を離すか力を緩めてやれ。チェシャ猫さんがヤバい」


「えっ、あああ!す、すみません、チェシャ猫さんっ!」


 俺に指摘されて初めて気がついたのか、アリスは慌てて両親から体を離し、抱きしめ合う自分たちの真ん中で呻き声も出せずに顔を青くして震えるチェシャ猫さんを解放した。


 感動の再会プレスからようやく解放されたチェシャ猫さんは毛並みをボロボロにさせながら、体もヨレヨレで着地してアリスたちから離れた。


「はにゃ~。今のは危なかったにゃ、酸素不足で危うく召されるところだったにゃ」


 俺の足元で丸まりブルブルと震えるチェシャ猫さんが哀れすぎて俺はその頭をよしよしと撫でてやった。


「どうしてこちらに。行方不明のうーちゃんのことで国王様にご報告とご相談に向かっていたのではないのですか?」


 意図せず潰してしまったチェシャ猫さんのことを気にしつつ、不思議そうに小首を傾げるアリスに彼女の父親であるワンダーミラさんが聖に穏やかな視線を送り、事情を話し始めた。


「実は国王様との謁見中にそこのタブレットくんから連絡を受けてね。この度の事情を聞いて急いで戻って来たんだよ」


「国王様もウサギが見つかったのなら問題ない。早く娘のところに戻りなさいって言って下さったの。そのご厚意に甘えて、早急に謁見を切り上げて戻って来たのよ」


 ワンダーミラ夫人も穏やかに事情を語り、そして俺たちの方に向き直って深々と丁寧なお辞儀をした。


「みなさまのお話も聞いております。この度はワンダーミラ家のトラブルに巻き込んでしまって大変申し訳ございません。そして、アリスにご協力頂きまして誠にありがとうございます」


 見るからに貴族の女性が平民である俺に頭を下げると言うとんでもない絵面に変な焦りを覚え、血の気を引かせながら首と両手をこれでもかと思うほど勢いよく左右に振った。


「い、いえ!俺、じゃない……私はお礼を言われるようなことは何もしていません。アリス……お嬢様とは少し縁がありましたし、異世界転移に巻き込まれたのも偶然だろうし、気にしていません。だからその……頭を上げて下さいっ」


 正直、何を言いたいのか自分でも全く分からないまま口を開いていた。だが、それは仕方がない“俺”の経験した人生は男子高校生までだ。それ故、気の利いた言葉など出てくるはずがない。


 兎に角早く頭を上げて欲しいと言う思いから俺はかなり早口でそう言った。ワンダーミラ夫人がゆっくりと頭を上げ、そして優しく微笑んだ。


「そう言って頂けると光栄ですわ。ありがとうございます。えーっと……」


 俺の顔を見て困った表情で首を傾げるワンダーミラ夫人を一瞬だけ疑問に思ったが、直ぐにその迷いの答えに辿り着いた。


「クロケル、俺はクロケルと言います。それから……」


 よく考えればアリスの両親とは初対面。ある程度の話は聞いているかもしれないが、恐らく名前までは把握していなかったのだろう。先ほどの困り顔はそう言うことだと推測した俺は自ら名乗り、それから仲間たちを紹介する。


 それぞれが重い体を引きずりながら立ち上がり、頭を下げる。全員の紹介が終わった後、ワンダーミラ夫妻は俺たちに穏やかな視線を送り頷いた。


「みなさん素敵なお名前ですね。あ、いいえ。危険を冒してまでアリスに協力して下さったんだもの。名前だけじゃなくて見た目も中身も素晴らしい方々がアリスのお友達だなんて嬉しいわ」


「そうだね、だからこそしっかり休んで英気を養ってもらわないと失礼だよ」


 そう言ってワンダーミラさんは少しテンションが上がっている夫人に微笑んだ後、俺たちに向き直る。


「異世界と言う慣れない土地での危険な冒険でみなさまお疲れでしょう。仮眠できる場所と一息ついて頂ける様にお茶をご用意させて頂きました」


「え、良いんですか。お気遣い頂いてありがとうございます」


「ありがとうござます」


「お心遣い、痛み入る」


「あ、ありがとう、ございます」


 ありがたい申し出に俺もシルマもシュティレも、シュバルツも心の底から感謝を述べ、深々と頭を下げた。不思議の国では気が休まる暇がなかったからなぁ。一息つける場所を提供して頂けるのは非常に有難い。


「特にシュティレさんにはきちんと疲れを取ってもらわないとね!だって大活躍だったんだよ。狂気の女王から身を挺して私たちを守ってくれたの」


 満面の笑みのカルミンが凛と佇むシュティレを覗き込んで言う。突然名指しで褒められたシュティレは驚いて目を見開いていたが、直ぐに無表情に戻り、素っ気なく返した。


「いや、私は騎士としての役目を果たしただけだ。特別感謝をされる様なことは何もしていない」


 うわ、かっこいい。誰かのピンチ救った通りすがりキャラが良く言うセリフだ。本当に言う奴いるんだなぁ。でも様になっていて超かっこいい。無意識で言っているあたりイケメン度マシマシなんですけど!?


「いや、今回のMVPは間違いなくお前だろ。そこは素直に喜んでおけ。本当に助かったよ。ありがとう。シュティレ」


「む、むぅ……せ、世辞はいらん!」


 遅ればせながら感謝の言葉を口にしてみたのだが。見事なまでに一刀両断されてしまった。ん、顔が赤いぞ……もしかしてまた怒っているのか?御礼を言われることがそんなに気に食わないのだろうか。


「まあ、そうなのですね。あああ、そう言えばお召し物やお体が汚れていますわね……湯の用意もさせましょう。もちろん、他の方も使って頂いて構いませんわ。それじゃ今からメイドに頼んで来ます。あなた、後はよろしくね」


「え、いや。私はこのままでも……」


 ワンダーミラ夫人はシュティレの遠慮と言う名の静止を聞かずに軽く会釈をした後、何故か上機嫌に駆けて行った。


「すみません、何から何までお世話になって……」


 出合がしらの神対応に申し訳なくなり、改めて頭を下げると、ワンダーミラさんは「気にしないで」と大人の余裕たっぷりに微笑んだ後、申し訳なさそうな表情を浮かべ付け足した。


「その代わり、大変心苦しいのだが、休んだ後に異世界でのお話をお聞かせてもらえるかな。異世界での出来事をまとめ報告するのもワンダーミラ家の役目なんだ」


 ああ、そう言えばそんなことをアリスがそんなことを言っていたな。異世界移動できる“アリス”の力を継ぐワンダーミラ家は異世界研究のため代々国に貢献して来たとかなんとか……。


「はい。俺たちができる範囲でお役に立てるのであれば、ご協力させて頂きます」


「ありがとう。その誠意に心から感謝するよ」


 先ほどの死に物狂いの脱出劇と比べれば異世界での出来事を話すぐらい容易いことだ。そう思って快諾すればワンダーミラさんは安堵の表情で深々と頭を下げ、礼の言葉を述べた。


「じゃあ、お父様。これ先に渡しておくね。一応書ける範囲でレポートを書いたんだ」


 そう言ってアリスはポケットから取り出したメモ帳を渡す。どこまで書いたかは知らんが、あの危機的状況でよくレポートが書けたな。異世界に慣れているからなのかもしれないが見上げた根性だよ……。


「ありがとう、アリス。預かっておくよ。それではみなさん、お好きな休憩場所に案内させてもらうよ。遠慮なく希望の場所を申し出て欲しい」


 ワンダーミラさんは大事にメモ帳をジャケットの内ポケットにしまい、声を高らかに俺たちに呼びかけた。


「俺は仮眠を希望する。止まり木で構わないから用意してもらえるか。もちろん、1人で休める場所を希望する」


「俺は食事も仮眠も必要がない体だが、静かな場所で体を休めたい」


 開口一番口を開いたのは常に上から目線コンビのミハイルとアンフィニだった。こいつらはいつ、いかなる時も遠慮をするつもりはないのか。どんな神経してるんだよ。


「わかった。希望通りの部屋を用意するよ」


 懐が深いのか、人間形成が神がかっているのか、ワンダーミラさんは一瞬たりとも嫌な表情を見せず、快諾した。彼の微笑みが紳士的を通り越して菩薩に見えて来た。


 上から目線コンビに対して俺たちはご厚意を頂けることに若干、遠慮の心が残っていたが、戸惑いながら視線を躱し、頷き合ってから小さく手を上げ、俺から順に希望を口にした。


「じ、じゃあ。俺は仮眠をさせて頂きたいです」


「……では、せっかくなので私は湯を頂こうか。よく考えてみれば、こんなボロボロの体で人様のお屋敷に上がるのは失礼だからな」


「私もお風呂に入りたいです」


 俺が仮眠を、シュティレとシルマがお風呂を希望したのを見たシュバルツがオロオロとして言った。


「ぼ、ボクはお茶がいいなって思ったけど、1人は嫌だな……」


 仲間と離れることに慣れていないジュバルツがしゅんとして俯くと、その肩をカルミンが優しく叩く。


「じゃあ、私と一緒にお茶して他のみなさんを待ってようよ。それならいいでしょ」


「私も着替えたらお茶を頂くつもりだよ。だから安心して、シュバルツくん」


 両脇からカルミンとアリスに微笑まれたシュバルツは少しだけ寂しそうな様子だったが表情を明るくさせて小さく頷いた。


「……うん。ボク、カルミンとアリスと一緒に待ってる」


「俺ちゃんも一緒にいてやるにゃんよ」


 少しだけ緊張しているシュバルツの膝の上にチェシャ猫さんがピョンと飛び乗って擦り寄った。周りから優しさを受けたシュバルツは嬉しそうに微笑み、膝の上でゴロゴロと喉を鳴らすチェシャ猫さんの頭をそっと撫でた。


 おお、慣れない場所で俺たちを離れることに対してもう少しごねると思ったが、耐えた。凄い、驚きの成長だ。カルミンとアリスとは短い間だが生死を懸けた大冒険をした仲だもんなぁ。臆病で警戒心の強いシュバルツも流石に慣れるか。


 だがヒトのナリをして生きて行く上で友好関係を築くと言うのは最も大切なことだ。この調子でどんどん俺たち以外にも慣れて彼がこの世界で生きやすくなって欲しい。


『クロケルったら、やっさしぃー★親心だねぇ』


「だから心を読むなっての!ああ、何か久々だなこのツッコミ」


 うんざりとツッコミを入れてみたものの、平和な空気が戻りつつあることを改めて実感して、少しだけ泣きそうになった。鼻の頭がツンとして痛ぇです。


「それではこのままご案内させて頂きますね。こちらです」


 突然の異世界転移、からの大脱出劇そして苦労と感動の帰還。様々な余韻が残るが今はとにかく体を休めよう。


 そんな思いを抱えて俺たちは緩やかに歩き始めたワンダーミラさんの後に続き、苦い思い出の残る書斎を後にした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


聖「次回予告!ついに異世界から帰還したクロケルたち、アリスちゃんの家で至れり尽くせりな対応を受けた後に開かれたのは、報告会だった。ビビりのクロケルはきとんと記憶を辿り、上手く異世界体験を語ることができるのだろうか」


クロケル「誰がビビりだよ!!あんな目にあったら誰でもビビるだろ。俺が特別怖がりなわけじゃないっ!!」


聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第83話『小休止。報告会と言う名のティーパーティー』ええーホントぉ?異世界で1回もパニックにならなかった?現実逃避の高速オタクツッコミもなし?」


クロケル「うっ。お前、千里眼かなんかで見てたか?俺のこと……」


聖「そんなことに千里眼使わないよ。それに次元を超えての千里眼は疲れるから絶対にしない。と言うか、君の行動パターンと思考回路は大体予想できる」


クロケル「ああ、そうかよっ」


アムール「えーん!!わたし、まだここでご主人様とおしゃべりしたいですぅ」


クロケル「うわ、アムール……まだいたのか」



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