第79話 潜入!鮮血の女王の居城
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
久々(?)に次回予告詐欺をやってしまいました……今日ぐらいで不思議の国編を締めたかったのに、またダラダラと長くなってしまい……やむを得なくタイトルを変更しました。
元々79話(今回)のタイトルだったものを少しニュアンスを変て80話(次回)のタイトルにしました。ややこしくて申し訳ございません。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
「うーわー。関わらないと決めた相手の家に入らないとか笑えない冗談ですね」
カルミンが真っ赤な城を見上げで棒読みでげんなりとして言った。
「ああ、本当に笑えないな」
俺もすっかり感情を失い、棒読みでカルミンの言葉に頷いた。刷り込まれた恐怖のせいでこの赤い城は煉瓦の色じゃなくて血なんじゃないかと思えて来るから不思議である。そして不気味である。
「なあ、アムール。この中から反応があったのは本当に俺たちが探しているウサギのものなんだよな」
ワンチャン女王のペットのモノって可能性はないか。頼む、そうであってくれと祈りながら肩で寛ぐアムールに尋ねる。
「いいえ。このアプリに登録されているDNAは向こうの世界で聖さんたちが登録したものなので、この世界の生物を誤ってサーチしてしまう可能性は万が一にもないです」
「うっ」
悪気はないだろうが、義務的に事実を述べて俺の期待をバッサリと切り捨てたアムールの言葉に傷ついた俺は小さく唸って前屈みで固まる。
「ふむ。手がかりはないわけだし、ここは聖殿が開発したと言うアプリの性能を信じるしかないだろう。まあ、リスクは大きいが」
シュティレが気が乗っているで乗っていない様な発言をして、俺もそれしか道はないと嫌々ながら理解した。
「じゃあ、悪魔の目の前にそびえる悪魔の敷地内入るしかないが……どうやって侵入するんだ」
目の前に構える鉄の扉は固く閉ざされ、開く気配は微塵もない。周りを囲む茨の様な鉄柵も、薔薇の垣根も、無理に乗り越えれば怪我をしそうだ。それにここからでは中の様子は確認することはできないが恐らく敷地内には警備の目が行き届いていることだろう。
魔術によって姿と気配は今この瞬間も消えているはずだが、先ほどは身を隠した場所と女王が演説をしていた塔は距離が離れていたので綱渡り状態とは言え、安全は確保できていた。
だが、今から向かうのは国の頂点にしてチート魔術の使い手でこの世界1番の要注意人物が住まう場所。恐らく安全の確保はできないだろう。城内に足を踏み入れたその瞬間から細すぎるロープで行う綱渡りの始まりだ。考えただけでも地獄だな。
「侵入ねぇ……俺ちゃん、良い場所を知ってるにゃんよ。ついて来るにゃん」
気が進まないがならも強固な守りの中にある城内への侵入方法を探しているとチェシャ猫さんが首をひねった後に手招きをして城の裏手へと慣れた足取りで歩き始めた。彼のどっちつかずな心情を表す様に長い尻尾がゆらゆらと揺れている。
焦りや恐怖を一切見せることなく、軽やかにスキップするチェシャ猫さんに戸惑いを覚えながらも俺たちはその後に続く。
鼻歌交じりに歩くチェシャ猫さんは常にどこか楽しそうで、それがとても不安に思えた。この世界のことに詳しいし、ここまで手を貸してくれたことは事実だが、彼の危険をも楽しむこの姿勢が一緒に行動する上でいつかマイナスに働くのではないかとハラハラする。
「ここ、ここから入ればいいのにゃん」
にこにこと指を差された先に視線を落とすと、とある薔薇の垣根の一部に枯れ葉が詰め込まれた上手く隠されたてはいたが、よく見ると垣根に大人1人が通れそうな都合のいい穴が開いていた。
「なんでこんなところに穴が?」
カルミンが屈んでその穴をマジマジと確認する。チェシャ猫さんは得意げに胸を張って言った。
「俺ちゃんが開けたのにゃん。お城の中に入ってみたいにゃ~と思って、毎日ちょっずつ開たのにゃん。散歩でたまにここからお城の中に入って適当に城内を散歩させてもらってるにゃん」
「あんた不法侵入の常習犯だったんですか」
マジの犯罪を軽いノリで暴露され、頭を抱える俺にチェシャ猫さんは悪びれることのなく笑った。
「俺ちゃんは猫だしにゃあ~。ヒトの法律とかは適応されないのにゃあ」
「その姿はどこからどう見てもヒトの姿ですけど」
飄々とするその姿を改めて上から下まで観察する。うん、猫耳と尻尾はあるが見た目は立派なヒト、いやこの場合半獣と言う扱いになるのだろうか。
「猫の姿にもなれるから問題ないにゃん。城内を散歩する時は姿を消しているし、心配することは何もないのにゃん」
「いや、それはチェシャ猫さん側から見た問題点ですよね。そうではなくて他人の敷地内や家に気分で侵入するのが問題……って、えっ。猫になれる?」
常識と言う言葉を恐らく知らないもしくは知っていても気にしていないチェシャ猫さんにツッコミを入れようとした俺の耳にもの凄く気になる言葉が入って来て思わず目を丸くして固まった。
「ん、言ってなかったかにゃん?じゃあ見せてやるにゃん」
言い終わると同時にボンと音がして一瞬辺りが煙に包まれ、それが晴れたかと思ったら足元に紫色の長毛種類の猫がいた。しかも手足も長くスマートだ。俺たちの世界で言うシャム猫に見た目が近いかもしれない。何故だか気品すら感じる。
「わ、猫だ!」
城を前に怯えていたはずのシュバルツがパッと表情を明るくさせて近づき、触り心地が良さそうな毛並みに触れる。猫は特に拒否をすることはなく、寧ろ触ってくれと言わんばかりにシュバルツに擦り寄った。
「わー、ホントだ。猫にもなれるんだねぇ。どっちが本当の姿なの」
カルミンもシュバルツの隣に屈んでわしゃわしゃと猫をなでる。紫の猫、もといチェシャ猫さんは撫でられて気持ちが良いのかゴロゴロと喉を鳴らし、夢心地で答えた。
「どっちが本当かなんて考えたことないにゃん。どっちも俺ちゃんとしか言いようがにゃん。気分によって姿を変えているのにゃ」
うぐっ。猫の姿だとかわいいな。あのモフ猫がチェシャ猫さんだと分かっていても愛くるしさを覚えてしまう。動物ってすごい。シュバルツとカルミンがうらやましい。俺もモフりたい。動物好き……毛玉好き……。
「おい、目的が目の前にある上に女王の城の前でのんびりとじゃれ合うな。早速気を抜いてどうする」
場に流れ始めた和みムードをシュティレが冷たい声色で一刀両断する。その声にモフモフの誘惑に負けそうだった俺はハッとして我に返り、反射的に背筋をまっすぐにしてその場で起立した。
「にゃ~。残念だにゃあ。もう少し甘えて見たかったにゃん。でも適度に緊張はほぐれたにゃん?覚悟が決まったなら、早速この穴から城内に入ろうにゃん」
「え、まさか俺たちが不安になっていたから気を遣って猫の姿に?」
そこまで気を回してくれたのか?こんな風に和やかムードになったのは全部計算の内だった……?まさかと思いチェシャ猫さんの方を見ると
「さあ、どうかにゃあ。俺ちゃん気まぐれだからよくわからにゃいにゃ~」
はぐらかす様に言った後、チェシャ猫さんはグルーミングした後に猫の姿のまま、猫独特のしなやかな動きで穴をくぐって行った。
「あ、ちょっと。チェシャ猫さん」
やむを得ない事情があると言えども、不法侵入をしなければならないと言う覚悟と、敵地に身を投じなければならないと言う覚悟などそう簡単にできるわけでもない。
こちらの返事を待たずして動き始めたチェシャ猫さんを呼び止めたが、それに応えることなく垣根の中にあっと言う間に姿を消した。
「猫、行っちゃったね」
シュバルツが垣根の穴を覗き込んで言った。その隣にシュティレが立ち、眉間に皺を寄せてため息をつく。
「何の対策も用意できていないが、仕方がない。方法はどうあれ、城の中に入れるのならこのまま突き進むしか方法はないからな」
「やっぱり、黙って入るしかないのか」
俺もため息をついてうな垂れる。そうだよなぁ、俺たちの目的であるウサギはこの中にいることはほぼ確定しているんだから、目の前にチャンスがあるなら選択肢は1つしかないよなぁ。
ああ……嫌だなぁ。不法侵入、人生初だよ。できれば一生経験したくなかった。いや、これは正当な不法侵入だから!元の世界に帰るための鍵であるウサギがこの中にいるんだ。俺たちは生きるためにそうするしか道はないのだから。決して犯罪ではないんだ!
そう自分に言い聞かせた後、心の中で自分にツッコミを入れる。「正当な不法侵入」ってなんだろうと。ヒトの家の敷地に無断で侵入している時点で正当もクソもないわ。と思ったが、考えたら負けな気がしたので何も考えないことにした。
「よし、不安要素はあるがとりあえずチェシャ猫さんに続こう」
頑張って腹をくくり、号令をかけるとその場の全員が頷き、そしてシルマが冷静で涼やかな声で言った。
「では、穴を通る前にみなさんに今、みなさんにかかっている隠形の魔術の精度を上げておきましょう。用心と安全は大切ですから」
「ああ、そうだな。頼む、シルマ」
ナイスな提案に俺が頭を下げて頼むとシルマは微笑んでからコクリと頷き、杖を振るった。白いキラキラとした光が全員の体を包み、そして消えた。
俺自身も改めて自らの隠形スキルを再度発動させ、シルマの魔術と合わせて隠形魔術を厳重に施す
「これでバッチリです!」
「ありがとう、シルマ。じゃあ、改めて行こうか。あー、女子は先に通ってくれよ。色々危ないから」
そして俺たちは匍匐前進で1人ずつ穴を通って城内に侵入した。一応、男である俺とシュバルツは女子組がきっちり穴を通り抜けてから入った。
「問題なく侵入できたみたいだな」
地面を這ったせいで服についた土と葉っぱを払いながら周囲を確認する。穴の先は薔薇園風の庭になっていて、武装した何人か警備をしていたが、こちらに気がつく様子はない。シルマの隠形魔術はしっかりとその効果を発揮してることがわかる。
「みんなそろったかにゃん。じゃあ、さっそく行くにゃん」
先に入って待っていたチェシャ猫さんが長い尻尾をゆらりと揺らして軽やかに弾みながら歩き出す。
「え、そのままの姿で行くんですか」
その姿を見失ってはならないと小走りで追いかけながら猫の姿を保ったままのチェシャ猫さんに聞くと、けろりとした返答があった。
「この姿の方が身軽で小回りが利くし、何より今は猫の姿でいたい気分なのにゃ」
「ああ、そうなんですね……」
どこまでものんびりなチェシャ猫さんに緊張と不安を乱されつつ、俺たちはゆるゆるで気ままな猫の後に続いた。
とりあえずはこの広大な庭を見て回ろうと言うチェシャ猫さんの提案で暫く歩いてみたが、ウサギどころか動物の姿は全く見当たらない。たまにすれ違う見回り兵士にビクッとする心臓に悪い探索が続く。
「ウサギの姿は見当たらないな……庭にはいないのか?アムール、ウサギの居場所は特定できるか」
「はい!検索を開始しますっ」
アムールが元気よく頷いた後、瞳を閉じて意識を集中させる。数秒後、その目がゆっくりと開かれて最悪なことを口にした。
「ウサギの気配はお城の中にあります。今も動き続けていますね」
「お城の中とかもう終わってるだろ。絶対に女王と会うフラグじゃん」
「フラグってなぁに。怖いものなの?」
半ば諦めた表情でぼやく俺をシュバルツが不思議そうに見つめて首を傾げて聞いて来た。俺が放つ雰囲気からフラグ=良いものではないと感じて少し不安そうにしているので、安心させるためにも一応、誤解がないように説明した。
「大丈夫だ、シュバルツ。時と場合によるがフラグは怖い言葉じゃないんだぞ。そうだな……予感がすると思ってもらっていい」
「予感?じゃあ、この中に入ったらあの怖い女のヒトに会う予感がするってこと?」
うりゅぅと目に涙を浮かべたシュバルツを見て言葉のチョイスを間違えたことに気がつい慌てて取り繕う。
「ああああ!違うんだ。いや、考え方としては間違ってないんだが、別にお前を怖がらせたいわけではなくてだな」
「今更二の足を踏むなシュバルツ。そして無駄に不安を掻き立てるような発言は控えてくれ、クロケル殿」
両手をブンブン振って涙がこぼれる5秒前のシュバルツを宥めようと、おぶおぶする俺にシュティレが厳しい言葉をかけてくる。
「うう、大変申し訳ございません。シュバルツ、とりあえず大丈夫だから。な、怖くないぞ。みんなもいる!俺もいる!」
「う、うん……」
シュバルツはぎこちなく頷いた。俺が無理矢理シュバルツを丸め込んだのを呆れた視線で見届けてから、シュティレはやれやれと口を開いた。
「本当にこの中に私たちが探しているウサギがいたとして、どうやって城の中に入るかが問題だな」
「流石にお城のどこかに穴が開いている、なんてことはないですよね」
城を見上げ、唸りながら侵入経路を探るシュティレの隣でシルマが苦笑いを浮かべながら冗談を口にした。
「それなら任せるにゃ。俺ちゃんが内側から扉を開けてやるにゃん」
正面の両開きで木製の扉はもちろん、窓1つ開いていない城を見上げて立ち往生する俺たちの傍をチェシャ猫さんがするりと抜けて行く。
「任せるって……えっ」
鼻歌を歌いながら真っすぐ城の壁に向かって歩いてゆくチェシャ猫さんを目で追って、衝撃の光景を目にした。チェシャ猫さんがどっしりとした煉瓦の壁を擦り抜けたのだ。
「えっ、えええええええええっ!?」なんでぇ!?」
驚いて思わずチェシャ猫さんが突っ込んで行った壁を触ってみるが、がっしりと組まれた煉瓦は拳で叩いても当然、びくともしない。嘘だろ、だってさっきこの壁、スポンジみたいにチェシャ猫さんを吸い込んだようにみえたぞ!?
「どうなってんの。中に入っちゃったんだけど」
カルミンも驚きで口をパクパクとさせながら壁を指差してどう言うことかとアリスの方を見る。この中で唯一動揺をしていなかったアリスはその理由を知っているらしく、落ち着いた様子で口を開いた。
「チェシャ猫さんは姿を消している状態だと体も霊体に近い状態になるらしいです。なので建物や壁のすり抜けも可能らしいですよ」
「つまりステルス能力を持っていると言うことだな。何て便利な体なんだ」
俺の隠形スキルもシルマの隠形魔術も姿や気配を相手に認識されないようにできてもステルス機能は付与されない。スキルや魔術レベルで言えばチェシャ猫さんの方が上であることに少しだけ驚いた。
常に飄々としているせいか非戦闘員のイメージを持ってしまっていたが、最初に出会った時、それなりの力があると言っていたのを思い出す。今、その力の片鱗を見せられた気がした。
もしかして、多分アレだ。二次元で言うところの普段はヘラヘラフラフラして協調性の欠片もないけどいざと言う時に実力を開放するタイプだ。そんでめっちゃ強くてそのギャップで作中人気上位キャラになること間違いなしの存在だ。
この状況下でオタク思考を巡らせていると俺たちが佇んでいるすぐ隣の窓がガチャンと音を立てて開いた。そこから猫の姿のままのチェシャ猫さんがひょっこり顔を出す。
「この部屋が一番人気がなかったのにゃ。早く入るにゃん」
「あ、はい。今行きます」
念のため周囲を確認しながら俺たちは意を決して窓から城内へと足を踏み入れた。窓が少し高い位置にあったので背の高い者が背の低い者をサポートする。今の俺の体は高身長なので土台として役に立てた。ちょっと嬉しい。(踏まれたことを喜んでいるわけではない)
全員が部屋に入ったのを確認し、改めて辺りを見回せばそこは壁一面に本が並べられいる場所だった。四方を本に囲まれているせいか圧迫感が凄い。
それに電気が点いていないせいで何だか薄暗い。この世界の太陽が紫色をしているせいか、例え今が昼間で部屋に日差しがあっても薄暗いままなのだ。それが余計に不気味でならない。
「ここは……図書室でしょうか。本がたくさんあります」
「うん、アリスの家の書斎とちょっと似てる」
シルマとカルミンが本棚を見上げながら興味深そうにキョロキョロと辺りを見回す。どんな本があるのか俺も少し興味があったので目の前の本棚のラインナップを確認すると「拷問」や「処刑」など嫌な文字が複数目に留まったので見るのをやめた。
「アムール、今ウサギがいる場所はわかるか」
こんな不気味で危険な場所から早く出たい。そう思ってアムールに聞くとアムールはこくりと頷いた。
「はい、ここからかなり近い位置に反応があります。この部屋を出て右の突き当りからウサギの反応があります」
「出て右だな。よしっ」
全員でそろりと壁に近づいてゆっくりと扉のノブに手をかける。今、俺たちの姿は誰にも認識されないようになっている。つまりド第三者からは扉が勝手に開いたように見えてしまうのだ。
もし見られたら、不審に思われること間違いなし。勘のいいヒトなら誰かが姿を決して侵入したと気がつくかもしれないし、そうでなくてもこの重そうな扉が勝手に開けば騒ぎになるだろう。
これは絶対に見つかってはならない扉開けのミッションなのだ。俺は小さく息を吸い、ゆっくり慎重に扉を開ける。
少しだけ開いた隙間から顔を出し、目だけで左右の状況を確認して何も気配を感じなかったため扉を開いた。
「いや~、廊下に誰もいなくてよかったにゃあ」
楽しそうなチェシャ猫さんをみてふと思った。この猫はステルスができるんだから、わざわざ扉を慎重に開ける様なことをしなくても、先に部屋の外に出て貰って廊下の状況を確認してもらった方が精神的にも楽だし時間の無駄にもならなかったのではと。
ちらりとチェシャ猫さんの方を見るとにんまりとした笑みを返されたので、彼はそれに気付いていたのだと悟った。どうやら俺は他人に弄ばれるタイプらしい。悲しみ。
「……よし、ウサギを探すぞ。出て右だったな」
色々言いたいこと飲み込んで、俺は本来の目的を優先すべくアムールが探知した方角へと歩く。
部屋を出て右の突き当り、つまりは行き止まりとも言える場所に白いモフモフはいた。集団でやって来た俺たちにひるも様子もなく、ただのんびりと香箱座りでぼんやりと虚空を見つめている。
「うっそ、本当にいたよ」
ってかどうやって城内に入ったんだ。呑気な小動物を前に脱力している俺の傍をアリスが両手を広げて駆け抜けて行く。
「うーちゃん!よかった。無事だったんだね」
その声にウサギの耳がぴくっと反応し、アリス方を向いた後、両手を広げるアリスの胸にウサギがダイブした。
「もう、心配したんだよ。あんまり好き勝手に動かないでね。危ないから」
アリスは泣きそうになりながら微笑み、小さな命を優しく抱きしめる。ウサギは呑気に鼻と耳をピクピクと動かしていた。見たところ怪我はなさそうだ。精神面でもとても落ち着いている様に見える。
「よし、ウサギは見つかった。ここからは俺たちが女王に見つからない様に城の外に出よう」
女王の城に潜入しなければならないとあれだけ恐れ、不安になっていた割にあっけなく目的を達成できたことに拍子抜けしたが、何もないことが一番だ。
この平穏を保ちながらこっそり逃げよう。そう思ってみんなに早急な脱出を促したその時、一瞬にして嫌な予感が全身を駆け巡った。例えるなら某ロボアニメキャラが何かを感じ取って電気と一緒にキュピピーンってなっているアレ。アレの不快バージョン。
「そうはさせぬぞ。侵入者ども」
ウサギが見つかったことにより緩みかけていた空気を背後から威圧がある鋭い声がぶち壊す。同時に全身に悪寒が走り、息苦しいほどに空気が重くなり、その場の全員がビクッと肩を震わせた後にその場に固まる。
この感覚と声には覚えがある。と言うか記憶に新しすぎる。後ろを振り向きたくない、現実を受け入れたくない。心底そう思ったが、振り向かないわけにはいかない。
俺たちはガチガチになった体でぎこちなく振り返る。機械であればギギギッと錆びついた効果音がついているだろう。それぐらいぎこちなく、そしてゆっくりと声の主を覚悟を持って確認する。
「じ、女王……サマ」
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アムール「次回予告!ウサギを発見できたと思ったらなんとぉ!会ってはならない女王様と直接対面!しかも目の前は行き止まり……まさに天国から地獄のこの状況をご主人さまたちはどう乗り切るのか!!」
クロケル「なんで!毎回毎回!山場なんだよ!俺はいつになったら平穏を手に入れることができるんだ。ああ、変化のない普通の生活ができるって凄くいいことだったんだなぁ」
アムール「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第80話『理不尽な法律に打ち勝て!死に物狂いの脱出劇』ファイトです。ご主人様っ。頑張ってみんなで元の世界に帰りましょう!」
クロケル「とうとう“死”と“狂う”という絶望しかない単語のコンボが来たか」




