第7話 温泉宿はトラブルだらけ
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
急発進で書き始めたお話のため、1話1話にまとまりがない……。面白いと思って頂けるお話が書きたいのにこんなのではダメですね……。
皆さんどうやって文章を書かれているんでしょう……。本当に尊敬します。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
『クロケル!クロケルってば。生きてるー?』
「う、うう。雷、怖い……ってハッ!ここはっ」
意識が混乱している。えっと、何があったんだ。大浴場に行ってシルマに鉢合わせて雷に打たれた。そう、雷に打たれた。
思い出した!俺とんでもねぇ目に遭ったんだった!ああ、よかった。生きてる!俺生きてるよ……。
勢いよく起き上がって若干の恐怖におびえながら、辺りを見回せばそこは自分にあてがわれた宿の部屋。
傍には当然の様に浮遊する裏切り者のタブレットと、申し訳なさそうに正座をするシルマの姿があった。
『あ、目ぇ覚めたみたい。いやぁー、生きててよかったよ。ずっと呼んでるのに反応がないからもうダメかと思った』
「てめぇ……呑気なことぬかしてんじゃねぇぞ。マジで人生終了かと思ったわ」
『あっはははは。お風呂場で女の子と鉢合わせて撃退されてお陀仏なんて、カッコ悪いもんね』
「こいつっ……」
大爆笑する聖に殺意の感情が湧かない。大体そんなアホみたいな死に方は本当に笑い事ではない。
何が悲しくて異世界転生でレア5になって碌に活躍できないまま人生を終えねばならんのだ。そんなの情けないし、恥ずかしすぎるわ。
「あっ、あのぅ」
俺が怒りに震えていると、隣でか細い声が聞こえた。反射的に視線を送ればシルマが正座のまま申し訳なさそうにこちらを見ていた。
「し、シルマっ」
今は全く怒っていない様だったが、先ほどの稲光が俺の脳裏に蘇り、思わず後ずさりしてしまった。
「思わず雷撃してしまい、大変申し訳ございませんでした!」
ガバッとシルマは勢いよく土下座をし、謝罪の言葉を述べた。
普通ならここで気にしなくてもいいよ。と言う場面であるが、コレに関しては謝罪されて当然である。
だって、俺は1つも悪くないもの。ちゃんと男湯に入ったわけだからな。男湯にいたのはこいつだし。しかも結局温泉にも入れなかったし。
ちょっと色々見たが、不可抗力だし。それに、状況的にそれをラッキーだとは一瞬も思わなかったし、思えなかった。なのに問答無用で雷をくらわされた俺の気持ちがわかるか!いや、わかるまい。
『あの後結構な騒ぎになったんだよ。大浴場に雷が落ちるし、クロケルは倒れてるし、男湯の時間のはずなのに何故か半泣き状態のシルマちゃんがいるし』
「呼んでも反応がないクロケル様を宿の方がお部屋まで運んで下さったんです」
「そうだよ。シルマ!お前、あの時間に大浴場にいたんだよ」
あの間抜けな姿を宿の従業員に見られたのかー、運んでもらっちゃったのかーとか色々と気になるところがあるが、一番の疑問はそれである。
「それが……男湯と女の時間が入れ替わっているとは気がつかなくて」
シルマはそろりと顔を上げてしょんぼりと言ったが、そんな顔をされても俺は騙されない。こっちは死にかけたんだ。しかも心なしか体が焦げ臭い。
「気がつかなかったって、アナウンスがあったはずだろ」
確か女湯と男湯の時間が入れ替わると館内アナウンスがあった。俺はそれを聞いて大浴場に向かうことにしたわけだし。
それに湯の時間が入れ替わることは館内の案内板にも記されてある。自分で注意しようと思えばいくらでも注意できるはずだ。
「温泉で癒され過ぎて聞こえていませんでした」
聞こえなかったって、そんなことあるか普通。温泉に入るだけどんだけ集中力使ってんだよ。
「お前、最初に大浴場に入ったのが俺でよかったな」
と言いつつもシルマなら大概の相手を撃退できるか、と思った。例え屈強な男ですら一撃で仕留める気がする。いいなぁ、レベル500……。
「回復魔法が間に合ってよかったです。あと少しでも衝撃があれば本当に危なかったですから」
笑顔で何を言ってるのかなこの子は。どうやら俺は割と生死の境をさ迷ったみたいだ。あっ、何か背筋が寒い。すごく寒い。
『シルマちゃん、攻撃魔法だけじゃなくて回復魔法も使えるんだね。今回ばかりは助かったよ』
「えへへ。一応、魔術師ですので。攻撃・回復・防御は魔法を習得済みです」
え、何。話が逸れ始めたんですけど。俺が大ダメージ受けた事はもう流される感じなの。嘘だろ。
「シルマ、俺はお前が先にいたことを知らなかったんだから覗きじゃないからな。不可抗力だぞ!」
今後シルマと行動を共にするのであればこんな序盤でわだかまりは作りたくなし、ギスギスするのも御免だ。特にこう言う誤解は解いておきたい。
「はい。お風呂の時間を間違えていたのは私ですし、クロケル様には下心が一切なかったとアキラさんよりお聞きしました。大丈夫です。ちゃんと理解しております」
うわ、すっごい良い笑顔。そして信じられないぐらい素直でいい子。誤解が解けたのはいいけど、こんなに簡単に人のこと信じちゃっていいのか。
逆に心配だわ。警戒心もう少し持てよ。それともアレか、それも高レベルである者のみが持つ余裕なのか。
『そんなことより、食事の用意ができたんだって。早く食堂に行こうよ。こんなに立派な宿なんだ。きっと食事も豪華だよ』
そんなこと!俺の苦悩をそんなこと扱いしやがったこいつ!お前タブレットだろ。飯食えねぇだろ。なんで飯にワクワクしてんだよ。
「そうですね。私もお腹が空きました」
「うん、まあ、そうだな。とりあえず、飯にするか」
なんか色々と流された気がするけど、まあいいか、俺も腹へってるし。最近は野宿中心な上に碌に食べてなかったしな。木の実意外のものを食べるのは久々だ。
レベル1じゃ獣を捕えるのも一苦労だし、そもそも俺、獣も魚も捌けないし。あーあ。記憶保持で転生できるならある程度のサバイバル能力は身に着けて置くべきだったかなぁ。
前世は平凡でオタク気質な自分を悔やみつつも、まだ少し痺れる体で部屋を出て食堂へ向かおうとしたその時だった。
「待ちなさい!それは旦那様から預かった大切なものです!返しなさいっ」
廊下の奥、曲がり角の先から年若い女の鋭い叫び声がした。
「ん、何の騒ぎだ」
「さ、さあ?」
俺たちがその声に反応して立ち止まれば、同時に足元をゴルフボールぐらいの大きさの黒くて丸い何かが跳ねる様にして駆け抜けて言ったが、動きが早すぎてそれが何か確認することができなかった。
「な、なんだ?」
「なんでしょう」
黒くて丸い何かが駆け抜けた方を確認してみてもそこには何の姿もなく、俺とシルマは顔を合わせて首を傾げた。
『一瞬だけどモンスターの反応があったよ。多分はぐれモンスターじゃないかな』
聖はさらっと言ったが、はぐれモンスターて。宿にモンスターなんて大問題じゃねぇか。ちょっと小さいけど、モンスターだったんかアレ。
「モンスターが宿にいるんだ。ヤバいんじゃねぇのか。と、とりあえず宿の主に報告しないと」
モンスターと言う言葉に恐怖しか覚えない。どんなに小さかろうがモンスターと言うのであれば迅速な対応が必要だ。
ここは宿。それなりに戦える奴もいるかもしれないが、ちらほら子供の姿もあった。襲われでもしたら大変だ。あと、俺も襲われたら大変だ。
そうなる前に報・連・相っ!俺は食堂に行くことを後回しにして全力で宿主がいるフロントへと全力疾走した。
『クロケル、走ったら危ないよ。あ、前見て!前っ!』
聖の静止の言葉が聞こえた時にはもう遅かった。バッと俺の眼前に小さな人影が飛び出してくる。
「げっ」
「わぁっ」
曲がり角から飛び出てきたのは栗色の髪の小柄な少女が飛び出てきた。俺の存在に気がついた少女の猫の様などんぐり目が見開かれる。
だが、向こうはすごい勢いで飛び出てきたため当然止まれず、突然の出来事に俺もかわすことが間に合わない。この間、世界の全てがスローモーションに見えた。
ほほう。これがゾーンと言う奴か。
とか呑気に思っている場合ではない。これはヤバい。レベル1の俺ではこの程度の衝撃も大ダメージに繋がる。廊下は走ってはいけません。この言葉の重要性を改めて感じた。
「クロケル様っ」
シルマの必死な叫びと共に俺は体が軽くなるのを感じた。と言うか体が浮いていた。
「うぎゃっ」
俺のすぐ真下でビタンと言う鈍くて大きな音と共に呻き声が聞こえたため、ふと視線を下に落とせば、俺とぶつかりそうになった少女が地面に顔面から倒れ伏していた。すごく痛そうだった。
「え、なに。何で俺、宙に浮いてんの」
「私が浮かせました。ぶつかってクロケル様がKOしては一大事ですので。今おろしますね」
シルマが安堵した表情で俺を見ながらそう言った。ゆっくりと俺の体が地面に降りて行く。
俺に気を遣ってくれたのは嬉しいけど、俺が浮いたことによって盛大に転倒した子は助けてやらなかったのかな、とは思わなくもない。結構すごい音がしたけど大丈夫かな。あの子。
「ありがとう。シルマ、助かったよ」
「いいえ。ご無事でよかったです」
シルマがにこりと微笑み、不覚にも俺の胸は高鳴ってしまう。レベル500だろうが雷を落とされようがシルマの見た目は、ゆるふわ系美女ヒロイン。やっぱりかわいい。
俺はゆるふわ系ヒロインに弱い。地味系、姉系、妹系、ツンデレ系、報われない系など近年では様々な系統のヒロインが存在するが、俺としてはピンク髪、天然、ゆるふわは外せない。
だって序盤は天然だったヒロインが徐々に主人公に惹かれていって赤面したり、自分の気持ちに戸惑う姿とか良くないですか。良いですよね!頑張れって気持ちと護らねば……って言う感情がせめぎ合いますよね!
近年ではピンク髪ヒロインは減っているってかあんまり見ない気がするが、かわいいと思いませんかピンク髪!薄い系でも濃い系でもどっちも良しだと思うんですよ。個人的に!
恋愛系なら絶対一番に攻略するし、予告なしのガチャでこれ系のキャラが来たら貯めていた石を全投入してでも引き寄せて見せる。そう!すべては推しのため!
『ねぇ、クロケル。君のヒロイン愛を語るのは良いんだけど……その子、ほったらかしにするのは男として、いや、人としてどうかと思うよ?』
「あっ」
聖に言われてすっかり自分の世界に入り浸っていた俺は、廊下に倒れたままの少女の存在を再確認する。
「おい、大丈夫か。悪いな俺、急いでて」
手を差し伸べてみれば少女の体がピクリと反応し、小さな体が鼻を押さえながらのそりと起き上がる。
「うう、いいえ。私の方も前方不注意でしたので。ごめんなさい」
栗色の髪の少女は細く小さな手で俺の手を掴んだその時、俺は違和感を覚えた。なんだ?小柄な少女の割に、手の感触が……。
『ん、どうしたのクロケル』
「あ、いや何でもない」
ある違和感を覚えてぼんやりしていた俺はハッとして栗色の髪の少女を助け起こす。
「ありがとうございます。ご迷惑をおかけしてしまい本当に申し訳ございません」
立ち上がった少女はパタパタと体を払いながら今度は深々と頭を下げて俺たちに謝罪した。
うん。改めて見ても小柄で華奢な少女だ。
栗色のショートヘア。何故かもみ上げだけが長い。あとくるんとしたアホ毛がある。白いシャツに淡い青地のベストには氷の結晶の様に輝く銀の糸でバラの模様が施されている。
清潔な白のズボンと足首までの茶色いブーツ、そして口を開く度にチラリと覗く八重歯。全体的にボーイッシュで活発な印象を受ける。
身長は160ないぐらいだと思うし、幼い顔立ちかは年齢は15、6歳だと思う。
「いや、別に迷惑をかけられたとは思ってない……。寧ろこっちの方が悪いような気もするし」
こっちは前方不注意な上に盛大に転ばせてしまったわけだし。助け起こすのも起こすのも遅れたし。
「いいえ。廊下は走るわ、大声出すわ、自分でも情けないです」
「さっき叫んでいたのはお前か」
「あう、聞こえていましたか。重ね重ねお恥ずかしい……うう。こんなんじゃまた旦那様にはしたないって呆れられてしまいます」
小柄な少女はしょんぼりと肩を落として泣きそうな顔を浮かべていた。
旦那様、そう言えばさっきも叫んでいたな。旦那様から預かったとかどうとかって。
「何かあったのですか」
心配そうに聞くシルマの隣でそれを聞くか、と俺は天を仰いだ。
この状況はそこはかとなく嫌な予感がする。宣言しよう。こう言う場合は絶対に面倒くさいことに巻き込まれる。
「お話を聞いて頂けるんですか」
「ああ。まあ、話を聞くぐらいなら」
瞳を揺らしながらこちらを見上げる少女に少しだけドキリとしながらも俺は冷静に頷いた。こちらから聞いてしまった以上スルーするわけにも行かない。話を聞くだけ聞こう。話はそれからだ。
「ありがとうございます!私1人ではどうしようもないと思っていましたので嬉しいです」
少女はパッと笑顔になって話始めた。一瞬だけ耳と尻尾が見えた気がした。
おいおい。話は聞くと言ったが協力するとは言ってないぞ。
だが……うむ、こいつは子犬系ヒロインか。ちょっと目が合っただけなのに訴求力がえっぐい。
『クロケルって節操ないね』
「うるせぇ。ちょっとかわいいなって思っただけじゃないか。あと心読むな」
小声で言いをする俺と聖を他所に少女は神妙な面持ちで話を始めた。
「実はですね……」
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聖「次回予告!またまた新しい女の子登場でウハウハなクロケル。これは異世界でモテフラグ確定か!?」
クロケル「いつ、どこで、誰がウハウハしたんだよ。お前の目は節穴か。今のところ疲労感しかおぼえてねぇわ」
聖「次回!レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第8話 『子犬系少女騎士の事情』お楽しみにぃ」
クロケル「面倒事はいやだぁぁぁぁ」
聖「自分から首つっこんだくせに」
クロケル「やかましいわ。ああ、俺はいつレベルアップできるんだ……」