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第77話 鮮血の薔薇王

この度もお読み頂いて誠にありがとうございます。


ついに77話まで来ました!目指せ80話!あわよくば100話越えを目指したい。そして新作も書きたい。


 こういう自作の場合、小説も漫画もキャラクターは湧く様に思いつくのですが、本編の作成に行き詰まるから中々登場させてあげられないのです……。


登場人物を増やしすぎても処理できないとはわかっているのですが、出したい!となってしまうジレンマ。個人的に女の子キャラが好きなので増やしたいなぁ。と常に思っております。


しかし、やはり下書きなしの文章は粗が目立つな。投稿前は「まあまあの出来かな」と思っているのに、投稿してから見ると「うわ、ちょっ、雑ゥ!!」となるのは何故なのか……。


毎度のことながら思いつき執筆の拙い文章で大変申し訳ございません。


本日もどうぞよろしくお願いいたします。


「あのヒトが女王様……」


 突然のご登場に戸惑いと恐れを抱きながらも高台を見上げ、改めてその姿を確認する。お世辞抜きで容姿端麗と言う言葉がよく似合う人物で、綺麗なだけでなく気品も感じる。王の風格と言うところも含め、シャルム国王に雰囲気が近い。


 ただ、シャルムは氷の様な冷たい雰囲気は持っているが、心を許した相手には砕けた態度を取るし、国民への慈愛が感じられるのだが、あの女王はなんと言うか……強い圧力を感じる。王である自分に国民が従うのは当然だ。そんなことを言いそうな雰囲気がある。


 だってあのヒト、高台から国民を見下ろしなが視線だけで圧をかけ続けているんだぞ。比較的穏やかだったはずの広場の空気がファンファーレが鳴り響いた後からずっとが重いんだよ。


 王族を目の前に緊張するのは分かるが、狼藉を働いたわけでもないのに恐怖を抱くのはおかしくないか。流石、要注意人物……異世界から来た「異物」である俺たちが最も気をつけなければならない相手……あ。


「待って、一番気をつけないといけない相手に早速会っちゃったよ!?」


「んー、直接対面してないからセーフにゃん」


 ヤベェ状況に気がついて慌てふためく俺にチェシャ猫さんが緩い返事をした。何でそんなに余裕かましてんの。女王が要注意人物って言うたのあんたやん。


「猫の手招きポーズで可愛さを演出してもだめです。と言うか、月に一回の演説ってなんですか」


 イラッとしていたので口調が若干荒っぽくなってしまった自覚はあったがチェシャ猫さんはのんびりとした態度を崩すことなく平然として答えた。


「女王様は月に一度、国民たちに向けて演説をしているのにゃん。内容は様々だけど、大体は今日までに何人公開処刑にしたかとか、処刑になったヒトの罪状を述べるとかえげつない内容が多い気がするにゃん」


「内容はすごく気になるところですが……どうしてわざわざ演説をする必要があるんだ。国民に恐怖と不信感を与える演説に意味があるとは思えませんよ?」


 圧力たっぷりに高台から民衆を見下ろす女王を見ながら怪訝な顔をする俺にチェシャ猫さんはうーんとわざとらしく首を傾けてから言った。


「俺ちゃんは人間の考えはよくわからにゃいけど、統率を取るためじゃにゃいかにゃあ」


「統率?民衆に恐怖を与えることが統率に繋がるんですか」


「少なくとも同じことをしたら自分も処刑される、女王の機嫌を損ねると自分も危ない、みたいな意識は植え付けられると思うにゃ。俺ちゃんはどうでもいいんだけどにゃ~」


 そう言ってチェシャ猫さんは自分の前髪をちょいちょいといじってへらりと笑った。うわ、めっちゃ他人事じゃん。まさか、このヒト(猫?)自分の人生に対しても怠慢な感じか。ダメだよ、命大事に。


「でも、なんでわざわざ広場で演説してるの?私の世界でも王様の民衆演説はあるけどお城に民衆を集めてたよ。そもそも、国のトップが外に出ることなんてあんまりないと思うけど、この世界は違うの」


 カルミンは顔をしかめて疑問を口にし、同じ疑問を持っていたのかシルマもそれに同意して首を傾げる。


「そうですよね、外に出ると言うことは護衛もつけなければなりません。チェシャ猫さんのお話では、この世界の治安はあまり良くないと聞きますし、逆らう者が少ないにしても外に出るにはリスクが大きい気がします」


 リスクを伴って広場までやって来る女王の意図が分からず困惑している2人にチェシャ猫さんは「なんだそんなことか」と笑って緩い態度のまま返答した。


「聞いた話だと民衆に自分の敷地を踏ませたくないからしいにゃ。あの高台も演説用にわざわざ作らせたんだにゃ。金持ちは凄いにゃぁ~」


「そ、それだけの理由でわざわざ広場まで赴いているのか。はあ~ご苦労なこったな」


 しかしなるほど、大分傲慢なヒトなんだな。普段からそう言う感じなら民衆が畏怖するのもわかる。それに自分の回りで軽率に処刑が行われて、さらに死後に処刑の理由を演説と言う名の公開処刑で晒されるなんて御免被るわな。


 まさに恐怖政治。女王の目につかない様に外面は穏やかに暮らそうとする民衆の気持ちはわからなくもない。ある意味、そのおかげで平和が保たれているとも言えなくもない。真の平和とは言えないが……。


「別の世界からの訪問者を嫌う、と言うのは何となく理解できますが、そもそも女王様にとっての“気に食わないこと”って何なんですか」


「それはぁ、今から聞いていたらわかると思うにゃん。でも、一応用心のためにあの辺の茂みに隠れて演説を聞こうにゃん」


 どう考えても女王の思考が理解できない俺はチェシャ猫さんに聞いてみたが、自分が言うよりも聞いた方が速いと俺たちを近くの茂みに誘導した。


 言われるがままそろりと移動し、身を隠した茂みは高台のほぼ真横だった。距離的には十数メートル離れているが、女王の顔が肉眼ではっきりと認識できるぐらいに近い。


「ここなら特等席にゃん。でも、女王様に近いと言うことは見つかるリスクも伴うから、静かにするにゃんよ」


 チェシャ猫さんがしーっと人差し指を立て、小声で俺たちに注意を促した。そこで浮かんだのは1つの疑問だ。


 シルマの魔術と自前のスキルで気配を消しているため、女王にもそれを守る兵士にも、もちろん民衆にも俺たちの姿は見えていないはずだが。


「あの、俺たちの姿は魔術によって周りには見えていないはずですよね。必要以上にコソコソしなくてもいいのでは」


 何気なく聞いたのだが、チェシャ猫さんはふるふると首を横に振り、眉間に皺を寄せて小声でその理由を述べた。


「魔術はあくまでも魔術にゃ。こうして緊張をしている時は大丈夫かもしれにゃいけど、ふと気が緩んだ時に見つかることもあるにゃんよ。特に極端な畏怖や殺気が漏れると危険にゃ。女王様は鋭いからにゃ~気配を悟られたら終わりにゃん」


 マジかよ。気配遮断が無意味なことあるのか。頭を抱えながらも、俺はとあることを思いだす。そう言えばシャルム国王の朝の鍛錬に(無理矢理)付き合わされた時、気配と姿は消せても殺気が消せていないと言われた様な……。


 そのせいで俺の位置が特定されたんだっけ。つまり感情の変化に気をつけないとあの時と同じ様な状況になる可能性があると言うことか。


「あわわわっ、そうなったら一大事じゃないですか」


 色々と恐怖を植え付けられていることもあり、万が一見つかったらどうしようと言う不安と緊張が走る。


「そうならにゃい様に適度な緊張感を忘れずに。いつでも逃げられる準備もしておくにゃんよ」


「は、はい。心得ておきます」


 おふざけモードが多いチェシャ猫さんが真面目なトーンで言うので余計に緊張が増して体がカチコチになる。ヤバい、こんなガチガチだといざと言うと言う時に逃げることなんてできない。落ち着け、俺。深呼吸、深呼吸……。


「アリスは前に来た時はあの女王様に会ったの?」


 息を潜めながらもカルミンが一所懸命メモにペンを走らせるアリスに問いかけると、集中していたのか数秒その言葉を無視した後、ハッと顔を上げる。


「ごめん、メモに夢中になってた」


「もう、メモに集中していざと言う時に逃げ遅れた、みたいなことにならないでよ」


 カルミンが人差し指でアリスの額を軽く小突き、甘んじてそれをくらったアリスは身を縮めながら申し訳なさそうな表情を浮かべてから今度はしっかり返答した。


「え、え-っと。前に来たときは会ってないよ。チェシャ猫さんから今と同じ注意は受けたけど、姿を拝見したのは初めてだよ」


「うんうん。前は運がよかったにゃ。あの時は月1の演説は終わっていた時期だったし、基本的に女王様は城内で過ごすことが多いからにゃ~。寧ろこうして女王様と鉢合わせる方がレアケーズだと思うにゃん」


 まさか俺の面倒事引き寄せ体質がそうさせているのではあるまいな。最近思うんだよ、俺の巻き込まれ体質は一種のスキルなんじゃないかと。「不幸体質」とか言うマイナススキルが付与されてないか、俺。


 自分の生まれ持った星の元にうんざりしていると、威圧たっぷりに静かに佇んでいた女王がついに口を開いた。


「皆の者、良く集まってくれた。その忠義、褒めて遣わそう」


 態度も威圧的だが声にもかなりの圧が感じられる。この言葉も一見、集まった民衆に感謝している風な発言だが、多分そうじゃないな。あれだ、ペットがお利口にしてたから褒めるあの感じに似ている。


 女王が口を開いても、民衆が頭を上げることはない。頭を垂れ、膝をついたまま広場にいる誰一人としてピクリとも動かず、耳だけを傾けている。


 頭の下げていないし、膝もついていないが俺たちも女王の演説に茂みの中から耳を傾ける。さっきから心臓のドキドキがヤバい。脈打ちすぎて口から出そうなんだけど。


「今日この日の演説までに私を怒らせた者の数は10人。先月よりは減少しているが、それだけの人数に裏切りを受けた。これは実に嘆かわしいことである。そうだとは思わないか」


 女王は高台から民衆に呼びかけるが民衆からは肯定も否定もない。しかし、何も発言しないことこそが肯定なのか、女王は少しだけ口元を緩ませて演説を続ける。



「女王たる私に逆らう者と暮らすのはそなたらも不安であろう?だが。安心するがよい。規律を乱す異物を排除するのもまた女王の役目。全ての愚か者には報いを受けてもらった。今から罪人の名と罪障を、この私が直々に述べる」


 そう言って女王は控えていた兵士に優雅に左手を差し出し、その動きとほぼ同時にその白い手に紐で綴じられた羊皮紙が渡される。


 手渡した兵士を一瞥もせずに女王はそれを受け取り、そして紐を解いて下に振り払う様にしながら勢い良く振り開き、無表情だが凛とした声でその内容を読み上げる。


 読み上げられた罪状はつい最近まで平凡な世界で暮らしていた俺には理解できない、些細で理不尽な内容ばかりで耳を疑った。


 1人目は広場を訪れた獣人族の男性。先だっての演説で頭を下げるタイミングがコンマ1秒遅かったから処刑。


 2人目は広場で遊んでいたヒト族子供。広場に植えてある薔薇にボールを蹴り入れて花を散らし、枝を折ったので処刑


 3人目は城に仕えるヒト族メイド。女王様の好みとは異なった温度の紅茶を飲ませたため処刑


 4人目は城に仕える半モンスターの庭師。城内の薔薇園の選定を頼まれていたらしいが、女王の想定よりも余分に枝を切り落としてしまい、景観を損ねたからと言う理由で処刑


 5人目は森で薬草採りをしていた妖精族女性。その日は女王さまの趣味であるクロケットが森で行われていたのだが、それを知らずにクロケットの場に足を踏み入れてしまう。試合を一時中断したと言う理由で処刑


 6人目は居住地で暮らすヒト族子供。お城の前を友人とふざけて歩いていたところ、バランスを崩して城の門に激突。その場で取り押さえられ門を汚したと言う理由で処刑。


 7人目は妖精族が営む仕立て屋の男店主。オーダーメイドでドレスを発注したのだが、納期の時間より1分遅れたので処刑


 8人目は自分の半獣人の部下。趣味であるクロケットので自分からポイントを先取したので処刑


 9人目も部下でヒト族。日々仕事をこなす女王を他所に休みを取得しようとしたため処刑


 10人目は居住地に住む人族の老人。女王様の前を歩き、尚且つ歩く速度が遅く進路を妨げたため処刑。


「処刑理由が理不尽すぎだろう。そんな簡単に処刑って成り立つのか」


 こじつけとしか思えないめちゃくちゃな理由で10人も処刑の対象となっていることに俺は開いた口が塞がらなかった。それも老若男女、種族に関係なく刑が執行されている。


「この世界は女王様の言うことが絶対だからにゃ~。言ってしまえば目をつけられた方が悪いのにゃ。処刑されたくなかったらコソコソ生きていれば問題ないのにゃ」


 辛辣なことを平然と言ってのけるチェシャ猫さんを横目で見ながら、俺は身震いする。彼が言っていた“気に食わないことがあればすぐに処刑”の意味がこの演説を聞いて良く分かった。


 この女王、超気が短いじゃん。感情が爆弾だとしたら導線が1ミリぐらいしかないタイプだよ。そうじゃなかったら瞬間湯沸かし器。


 多分、俺の世界だとちょっとした相手のミスや態度に切れ散らかして、誰彼構わず攻撃して炎上させるネットの放火魔だな、確定だよ。ヤバい奴が国の頂点に君臨してるんだなこの国。そりゃ治安も悪いわ。


「見た目も高圧的だなとは思いましたが、行動も過激な女王様なのですね。怖いです」


「あれが自分の国のトップだったら私は嫌かなぁ。逃げたいけど、ああ言うタイプって国を出ることも許さない感じだよね。やだなぁ~」


 シルマが顔を真っ青にして震え、カルミンも吐きそうなジェスチャーを交えて正直な印象をそれぞれ口にした。うん、俺も自分の国のトップがあんな感じなのは嫌かな、怖いし窮屈だし。


 ああ、でも確か「不思議の国のアリス」に登場する女王も癇癪で暴君と言う設定だった気がする。自分の言い分を正当化するために裁判とかもしてたんだっけ?


 みんな首をハネられたくないからご機嫌取りをしたり表面上は言うことを聞いていたけど、本当は首ハネを言い渡された者を女王に見つからない様に逃がしていたとか言う話だった様な……。


 明確には書かれていなかったけど、結局はみんな女王に不信感を持っていたことが分かる。恐怖を与え、押さえつければヒトはそれに屈するかもしれないけど、決して信頼は得られない。「アリス」に書かれた女王を見ていると本当にそう思う。


 やっぱりここは「不思議の国のアリス」に類似した世界なんだろうか。ただのファンタジーだと思っていた世界が別次元に存在している可能性がある、と言うのはちょっと冒険心をくすぐられる。


「しかし、女王も大概だと思うが、話を聞いている民衆もおかしいと思わないか。あんな話をされているのに誰一人反応がないんだぞ」


 シュティレ民衆の方へと目を向けたので、俺たちもそれに倣う。言われてみればそうだ名前と罪状が女王の口から淡々と告げられても、頭を垂れる民衆が反応することは一切なかった。


 広場に集まった民衆はみんな充電中のロボットなのではないかと錯覚してしまうほど静かで、無反応だった。何でこんなに落ち着いていられるんだろう。仮にも同じ空間に住む仲間だろうに。


 平然と理不尽な理由で処刑し、それを堂々と語る暴君、その言葉を黙って聞く民衆。異様な光景を前にして困惑する俺たちの空気を察してか、チェシャ猫さんがにやりと面白そうに笑って細長い胴体をくにゃっと曲げて言った。


「ありゃ、みんなテンションが低いにゃあ。何もおかしいことはないにゃん。みんな自分さえよければそれでいいにゃんよ。例え処刑された者が仲間でも家族でも関係ないにゃん」


「そ、そんな」


 そんなことないです。と言おうとしたが言葉が出なかった。もし、仲間が危機的状況に陥った時、俺は自分を犠牲にするだろうか。何の迷いもなく命を賭して仲間を守れるだろうか。


 仲間を犠牲にしたいとは思わないが、いざと言う時に自分を犠牲にして強者に立ち向かう自信も実力もない。そう思うと言葉に迷いが生じ、反論ができなかった。

 

「以上である。本日この時より、先に述べた罪状は全て法律違反となる。後で新しい法律書を配布する。目を通しておけ。同様の罪を犯した者は即刻処刑となる故、心して生活をする様に」


 己の弱さと向き合えず、言葉を詰まられている間に女王は演説を終えた。持っていた羊皮紙を投げる様に傍で控える兵士に渡す。そしてもう一度、鋭い眼光で民衆を見渡した後、毅然として改めて宣言した。


「では、本日の演説は以上。我は城に戻る」


 短く言うと女王は悠然とマントを翻し、裾の長いドレスを引きずりながら足早に高台から姿を消した。


 それと同時に空気にかかっていた圧力がふっと消え、頭を垂れていた民衆は先ほどまでの状況がまるでなかったことの様に平然として広場から去って行った。


「あわわ!女王様がこちらへ来ますっ」


 シルマが視線で指示しながら小声で注意を促した。その視線を追ってみると、確かに女王が兵士を引きつれて悠然として俺たちが隠れている茂みに近づいて来る。


 まさか、見つかったのか!?と心臓が高鳴る。魔術のおかげで余程のことがない限り姿は見えないはずなのにっ。真っすぐ、迷いなく無表情でこちらへと歩みを進める女王の姿を見て、その場の空気が氷河期かと思うほどに凍り付く。


「大丈夫、あのカンジは俺ちゃんたちを見つけたわけではないにゃん。もしバレていたら即刻取り押さえられているだろうし、安心してにゃん」


 全員がガチガチに体と心を固まらせる中、唯一緊張感を全く持っていないチェシャ猫さんが小声で俺たちを落ち着かせる。


「で、でもこっちに来てますけどっ」


「それは多分、アレを目指して歩いてるからにゃんね」


 緊張から来る冷えと、痺れと吐き気でプチパニックを起こしながら小声で尋ねる俺にチェシャ猫さんはちょいちょいと、女王の進行方向を指差した。


「アレって……あ、馬車」


 チェシャ猫さんが示す先には赤と金で彩られた豪華な馬車が止まっていた。馬車を引くのは俺にとっては珍しい赤毛の馬だ。


「そうにゃ、女王様の移動手段。ここはどうやらその通り道だったらしいにゃ。いやあ~隠れる場所失敗したかもにゃぁ」


 にやはは~ん。と冗談めかして笑うその姿を見て、俺はほんの一瞬思った。このヒト、わざとやったんじゃないよな。スリルを味わう俺たちを見たいがためにここで隠れるように指示したんじゃないよな!?


 なんとかチェシャ猫さんの表情からその真意を読み取ろうとしたが、ヘラヘラとした表情は俺には謎過ぎて、まったく心が読めなかった。ああ、聖がいたらテレパス能力でチェシャ猫さんの心が読めたかもなぁ。


「でも、油断は禁物にゃん。最初に言ったにゃんが、姿が見えないと言っても気配を悟られたらアウトにゃん。女王様がこの場から去るまで、気を抜いちゃだめにゃ」


 ヘラヘラした表情から突然真面目な表情に変わるチェシャ猫さんを見て思う。このヒトの感情一体どういう構造してんのかな。


 しかし、気を抜いてはいけない状況であるのは確かだ。俺たちは互いに頷き合い、屈んだ体制のまま動きを止める。俺たちの存在に気づかないまま、女王は無表情で俺たちのすぐ近くまでやって来た。


「クロケル……あのヒト、怖い」


 緊張感に耐えられなくなったシュバルツが小声で俺の腕をすがる様に掴む。俺も流石に度重なる緊張と息苦しくなり、精神的な限界が近かったが、怖がるシュバルツを落ち着かせようとその手を固く握った。正直、自分も不安だったのでこの温もりは心強い。


 ついに女王様が茂みに潜む俺たちの真横をゆっくりと通過して行く。物音ひとつ、いや呼吸すらも悟られてなるものかと全員が全ての最大限に音を消す。ここに来てメモ魔と化していたアリスもさすがにペンを走らせるのをやめている。


 警戒心から真横を通過する女王に何気なく視線を移したその時、彼女と目が合った気がして思わず背筋に悪寒が走る。血を思わせる赤黒い瞳に吸い込まれそうな感覚を覚え、全身がビリビリと痺れた。ヤバい、そう思って秒速で視線を逸らす。


 間を開けてから今度は横目で女王の様子を確認したが、特にこちらを気にする様子もなく通り過ぎて行ったので、先ほど目が合ったと思ったのは俺の思い過ごしの様だった。


 それから女王が兵士と共に馬車に乗り込んみ、走り去ったことをしっかりと見届け、最大の危機が去ったことを確認してから、俺たちは盛大にため息をついてその場にへたり込んだ。


「はあ~、やっと解放された……」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


アムール「次回予告!緊張感満載の演説をなんとか凌いだご主人様たち。ウサギ探しを再開するも、そこはとっても危険な場所で……交錯するスリルとリスクを主人様たちは突破できるのか」


クロケル「ここ最近緊張感がサイコホラーに近いんだよ。俺のSAN値大丈夫かな」


アムール「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第78話『女王の法律(クィーンオブゲゼッツ)』女王様の言うことはぜぇ~ったい!?」


クロケル「そんな王様ゲームみないなノリやめて」






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