第76話 不思議の国探訪
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
私、仕事上で結構お若い方と接する機会が多いのですが今の若い方が使ってる言葉って完全にネットスラングってかヲタクが使ってる言葉が多くない?と思いました。
何だったら(ちょっと大げさかもしれませんが)ヲタクは数十年前ぐらいから使ってるよ?みたいな言葉も使っている気がしてヲタクってまさか時代の先を言っていたのか!?と錯覚してしまいました。
まあ、若い方は1週間後ぐらいには全ての言葉が古くなっている場合が多いんですけどね。ちょっと飽きるの早すぎない?と思わなくもない。常に新しいものを見つけようとする姿勢はある意味バイタリティがあると思います。
マナーとかそう言う社会的なことは一旦置いておいて、いつも思うのです若いっていいなぁ。
本日もどうぞよろしくお願いいたします、
「この国の女王様が要注意人物!?」
チェシャ猫さんの言葉に驚きつつも、俺の脳裏に過るのは「不思議の国のアリス」の物語。そう言えば、あの話に出て来るハートの女王も相当ファンキーなキャラだった。確か首ハネが趣味みたいなキャラだったよな。
まさかこの世界の女王もそんな感じなのか。だとしたら今から不吉だよ。原作を知っているせいか「女王」って聞くだけで嫌な予感しかしないわ。
「見つかってはいけないのは何故なのでしょうか」
シルマが不安な表情を浮かべて問いかけ、それにチェシャ猫さんが真面目な態度のまま返答する。
「それはこの国のトップが一番物騒だからだにゃ~。そもそも彼女は自分が作り上げたこの国が完璧だと言う自負と誇りがあるのにゃ。だから自分が気に食わないと思った者や他所から入って来たものは異物として排除しようとするのにゃ」
「他所から入って来たと言うだけで排除とは確かに物騒だな。外部からの情報をこの国に取り込みたくないということか」
シュティレが口元に手を当て、考える様な素振りで冷静に女王様とやらを分析した。何でそんなに冷静なんだよ。俺なんて話を聞いただけなのに女王の為人に恐怖しか湧かねぇんですけど。
「要は他所者である俺たちはこの世界に来た時点で危ないってことですよね。女王様に見つかったら即排除コースまっしぐらと」
あまり確認をしたくない事実でがあるが、一応聞いてみる。どう言う返答があるか予想はついているのだが、一応確認はする。
「そう言うことにゃ。女王様の名前はローゼ・ブルート。罪人と判定した者をどんな手を使ってでも情け容赦なく必ず捕まえ、民衆の前で公開処刑を自ら執行する姿から、鮮血の薔薇王と言う異名を持っているにゃ」
わーい、なんか中二っぽい二つ名が俺のオタク心をくすぐるぅ。じゃなくて!鮮血っとは何ぞや。物騒過ぎるよ。確実に色んな意味で血の気が多い女王様だよ。あと短いセリフの中に物騒な言葉が混じりすぎだ。
もう既に外に出たくなくなってきたぞ。まあ、ウサギを探す必要があるから外に出る運命は確定しているんだが。
「そ、そんな怖いヒトなら、ウサギさんは危なくないの?」
俺と同様、話を聞いて怖くなったのかシュバルツが震えながらも行方知らずのウサギを心配する。自分も不安だろうにウサギの心配をするなんて優しいなぁ、シュバルツ……俺なんて一瞬ウサギのことを忘れかけてたよ。
「お前はえらいな、本当に尊敬するよ」
危機的状況になると自分のことしか見えなくなる俺はつくづくモブ属性なのだろうな。と自己嫌悪になりつつ、俺は健気すぎるシュバルツの頭を撫でてやる。すると不安だった表情がパッと明るくなって俺に眩しい笑顔を向けた。
「ボク、褒められた。嬉しい」
「まあ、動物に関してはこの世界によほど害を及ぼす様な生態系出ない限りは処刑の対象にはならないと思うのにゃ。あるとすればモンスターに捕食される可能性ぐらいかにゃあ」
チェシャ猫さんがシュバルツの心配を加速させることをを平然と発言し、俺に褒められたと喜んでいた顔が秒速で曇る。
「うーちゃんは逃げ足が速いので並のモンスターに後れを取るようなことはないと思いますが……できることなら早く見つけてあげたいです」
アリスが心配そうにティーカップに視線を落とす。アリスが小さくため息ついたせいで彼女を映す紅茶の水面が僅かに揺れた。
あのウサギはアリスの家に代々受け継がれる大切な存在で名前を付けるぐらい近しい家族なんだろう。そりゃあ心配にもなる。こうしてはぐれている間にもウサギの身にもしものことがあればショックは相当のものだろう。
ん、もしものことがあったら……?アリスの心情を察しながら、俺はとあることに引っ掛かりを覚えた。その引っかかりは次第に嫌な予感へと変わり、俺は思いついた考えが間違いであってくれと祈りながらアリスに聞く。
「なあ、アリス。縁起でもないことを聞いて悪いが、どうか気を悪くしないで答えて欲しい。ウサギの身にもしものことが起こった場合、俺たちはどうなるんだ」
さすがに直接的な言葉は使えず、あえて「もしも」と言葉を濁したが、アリスは俺の言わんとしていることを察した様で表情を暗くしたまま答えた。
「異世界転移の力を持つのはうーちゃんだけ。要は異世界の扉の役目をはたしている存在です。“アリス”は扉を開く鍵でしかありません。つまり、扉が存在しなければ鍵は意味をなさない」
「あ、ああ」
俺は身を固くしてぎこちなく頷いた。仲間たちの間に重く、そして痺れるような緊張が走る。アリスは一度遠回しな回答をした後、仲間たちの顔を1人1人ゆっくりと見て、簡潔に結論を述べた。
「うーちゃんの命が失われるようなことがあれば、私たちは永久にこの世界から出ることは叶わなくなります」
すっぱりと告げられた言葉にチェシャ猫さんを除くその場の全員が息を飲む。やはり、俺の嫌な予感と予想は的中した。
「ヤバいじゃねぇか!早くウサギを(生きている状態で)見つけないと」
焦って意味もなく立ち上がっておろおろとする俺にチェシャ猫さんはふわぁっとあくびをしてからのんびりとした口調で言った。
「まあ、そうなったら俺ちゃんが面倒を見てやってもいいにゃん。だから安心してこの世界に残ればいいにゃん」
何故そんなに楽しそうなんですか。机にだらーんとしながらそんなこと言わないで貰えますかね。と言うかちょっと飽きて来てますよね。他人事かもしれませんがもう少し親身になって下さい。
「悪いが我々にはやるべきことがあるのだ。この世界に留まる訳にはいかぬ。最悪の結果を避けるためにも早急にウサギを見つけたい。チェシャ猫殿、休憩はこれぐらいにしてこの世界を案内してくれないだろうか」
ダレ始めているチェシャ猫さんに内心で文句タレタレな俺とは対照的にシュティレがハッキリ意見を述べた。
「うーん、俺ちゃんも冗談言っている訳ではないんだけどにゃあ。でも、まあいいにゃ。約束は約束にゃ。そこまで言うなら今からこの世界案内してあげるにゃ」
準備は良いかにゃ?とニマニマしながら俺たちを見回す。この異形の世界を出歩くは正直怖いし、不安もある。だが、ウサギの命が失われて元の世界に戻れないはもっと嫌だし怖い。
それに尊い命が知らぬところで淘汰されると言うのも後味が悪すぎる。守ることができる命は守りたい。それにあのアリスの大事な家族だしな。
「よし、みんな。行こう、そしてアリスのウサギ見つけて元の世界に帰るんだ」
「「はい/うん」」
全員で決意を固める俺たちを見てチェシャ猫さんは「ふーん」と興味がなさそうに鼻を鳴らした後、机にもたげていた体を正してすいっと立ち上がった。
「みんなやる気だにぁ~。それだけ勇気があればこの世界でもやり過ごせるとおもうにゃん。それじゃ、心していくにゃ」
その後、外に出る前にシルマの魔術で全員の気配と魔力を周囲に気付かれない様に遮断する。俺は自分の隠形スキルとの重ね掛け、チェシャ猫さんは自分で姿を消せる能力を持っているので問題ないらしい。
更にもしもの時のためとチェシャ猫さんの計らいで顔をや服装を隠すため、全身に羽織れるマントを貸してもらった。特殊な生地でできているらしく、ある程度の魔術攻撃や物理攻撃ら身を守ってくれると聞いた。
因みに、姿や気配を消せる魔術を使っているのにお互いを認識できるのは共通認識できる魔術を別途施しているからである。それ故、仲間内だけであれば互いの姿はしっかりと確認できるのだ。都合のいい魔術もあるもんだな。
こうして身の安全を必要最低限保障された状態でチェシャ猫さんの家から出て暫く歩いたが、周りの景色は自然ばかり。すれ違う生物も様々で、ヒトの体をしている生き物はほとんどいない。二足歩行の動物だったり、歌を歌いながら水煙草を上機嫌に吸う芋虫だったり、喋る草花もいたりと様々だ。
たまにヒトの形をした生物がいると思っても、俺の膝丈ぐらいの身長だったりと、異世界転生経験者の俺でも見慣れない生態系ばかりで、まさに不思議の国だ。
気分を損ねたら即喧嘩、悪けりゃ死人が出ると言われた割に、今のところシルマの魔術の効果もあってか、誰の目につくこともいちゃもんをつけられることもなく、死人が出る様な喧嘩をしている生物も見かけない。
「話に聞いたよりはみなさんのんびりとしていますね」
周りの生物の様子を窺いながら、余計な音や声を出さない様に小声でチェシャ猫さんに話しかけると、にこりとした笑顔と共に間延びした返答があった。
「この辺りは血の気の多いモンスターはいないから気を抜いてもいいにゃんよ。それより案内と言ってもほぼ自然の中だからにゃ。色んな生き物がいるから、見逃さない様に注意深くウサギを探してくれにゃ」
「治安の良い地域とそうでない地域があるんですね。言われてみれば迷いの森と比べて空気も生き物ものんびりしているかも」
アリスのウサギを探しつつ、不思議の国の観光気分で楽しんでいる自分がいて、人間は不安が超越すると神経が図太くなるんだなと実感した。
ふとアリスの方に視線をやれば、キョロキョロとしながら真剣にメモ帳に必死に色々と書き込んでいて、その真面目さに苦笑いをしてしまった。
「争いを好む奴らの方が異常なのにゃ。そう言う奴らに限って実力があるのが痛いところにゃ~」
チェシャ猫さんは歩きながらうんざりとした表情で肩を竦めて首を横に振っていた。乱暴な奴がいるんだな。迷惑この上ない。
この世界は雰囲気こそ不気味だが、危険生物がうじゃうじゃいるわけではないと知り、安心していると少し開けた場所出た。
「ここは……公園、いえ広場でしょうか。先ほどまでの道と随分雰囲気が変わりましたね」
シルマが辺りを見回しながら小声で言った。俺もそれと同じ感想を持っていた。チェシャ猫さんに案内されるまま辿り着いたのは煉瓦が敷き詰められた地面と整備された花壇が植えられた広場だった。花壇には真っ赤な薔薇が美しく咲き誇っている。
広場の中心には数十メートルはあると推定できる見上げれば絶対首が痛くなるであろう、高く細長い高台があった。そこらにはベンチや時計も設置してあり、遠くに見える丘にはお城の様な建造物と家らしきものがチラホラ確認できる。
先ほどまでの自然ばかりの景色とは異なり、突然人工物に溢れた世界が広がったのでそのギャップに驚きと戸惑いを覚える。
「ここからは居住地域になるにゃん。ヒト型の生物が多く住まう場所にゃんよ。モンスターも暮らしてるにゃんが、理性がある者が多いから目立ったトラブルは起きてないみたいにゃんよ」
「異なる種族同士の共存か。難しいことだとは思うが、この世界ではそれが成り立っているのだな」
シュティレが関心して呟いた。確かに、異種族の共存はどの世界でも永遠の課題と言える。弱者が強者を恐れるのは当然のことだし、強者は弱者を守ることもあれば、支配しようとする場合もある。
逆に弱者が正義感のある強者を利用し、時には弱みを握ったりしてわざと危険な仕事をさせて自分は高みの見物をせんとするズル賢い者もいる。
珍しい種族や能力を持つ者は周囲に恐れられ「周囲とは違う」と言う理由で迫害される場合もあるし、捕らえられて虐待や実験をされたりすることもある、この異世界に転生した時にそう言う事実もあるのだと聖から聞いたことがある。
それは聖が長になってもなくなることはなく、異なる種族や個人の価値観がある限り、異種同士が真に共存するのは未来永劫無理なのかもしれないとも言っていた。それはシュティレたち竜の一族がヒトの文化を好みながらもヒトから隠れ住んでいると言う事実からも察することができる。
それほどに困難な「異種共存」をこの不思議の国は実現しているのだからシュティレが感心するのにも頷ける。俺も驚いたし、血の気が多い輩が住まう世界で目立った争いがないなんて、にわかには信じられない。
「不気味な世界だと思っていましたが気が短い者が多い、と聞いた時は不安しかありませんでしたが、異なる種族同士で共存ができる寛容さがあるなんて、驚きです。」
失礼を承知で正直な感想を述べればチェシャ猫さんが尻尾をくるんと撒いて俺たちを振り返り、そして立ち止まった。
「んー、寛容とはちょっと違うんじゃないかにゃあ。共存が実現しているのは居住地域だけだと思うにゃ。実際、さっきまで俺ちゃんたちがいた森ではほぼ毎日色んな種族が阿鼻叫喚してるにゃん」
「え、“平和”は居住地域限定と言うことですか」
雲行きが怪しくなったのを感じ、少し恐れを覚えながら聞けばチェシャ猫さんは張りた笑顔で返した。
「にゃんとも言えにゃいけど、俺ちゃんが思うに、少なくとも理性のある奴らがこうして共存しているのは多分、怖いからだと思うにゃ」
「怖い?」
何がですか、と聞こうとした瞬間突如として広場にファンファーレが高らかに鳴り響いた。突然の爆音にチェシャ猫さん以外の全員が思わず肩をビクッと上下出せて動揺する。
「な、何だ?」
胸を突き破りそうな勢いで脈打つ心臓を押さえながら辺りを見回すと、深紅の甲冑を身に纏った数十人の兵士が高台の下を守るようにしながら円状に囲んでいた。
何人かの兵士が手にラッパを持っている。さっきの爆音はあの謎の団体が鳴らしたのか。突然鳴らすなよ、びっくりするから。無駄に胸が冷たくなるからやめて。
動揺する俺たちとは対照的に、ファンファーレが鳴り響いた直後から周囲の生物が立ち止まり、高台に引き寄せられる。高台の下に集まった生物たちは揃って上を見上げ、一斉に膝立ちになって頭を垂れた。
「え、ええっ、何事!?」
異様な雰囲気につい気を取られていると、チェシャ猫さんが思い出した様にどんぐり眼を見開き、パチンと指を鳴らして言った。
「あ、忘れてたにゃ。今日は月に1度の演説の日だったにゃ」
にはは~と笑いながら両腕を頭の後ろで組んで、参ったにゃあと笑っていたが全く参っている様には見えない。寧ろちょっと……いや大分楽しそうだ。凄くワクワクしている様な気がする。どう見てもこの状況を楽しんでいるとしか思えない。
嫌な予感を募らせながらも俺たちは高台を見上げる。最初に高台のてっぺんから最初に姿を現したのは、深紅甲冑の兵士が2人。兵士は高台の両角にそれぞれ移動し、手を後ろに組んでその場に佇んだ。
数秒間を開け、高台からゆっくりと姿を現したのは、深紅の生地をベースに黒の生地や金の糸で刺繍が施された遠目からでも目がチカチカしてしまうほど派手なドレスを身に纏った壮年の女性だった。
見た目は俺たちと変わらない普通の人間だ。頭には赤と金の王冠が存在感抜群に輝き、深紅のマントと腰まである長い黒髪をなびかせ、威圧的なオーラを放ちながら高台の両脇に控える兵士たちの間に毅然と佇んでいた。
「あれが世界の女王、ローゼ・ブルート様にゃん」
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アムール「次回予告!ウサギを探し異世界を旅するご主人様たち。立ち寄った広場に現れたのは何と要注意人物の女王様だったのです。会ってはならない人物を目の当たりにしてしまったご主人様たち。上手くこの状況乗り切ることができるのかなぁ」
クロケル「なんでこう、俺はトラブルがある方に引き寄せられてしまうんだろう」
アムール「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第77話『鮮血の薔薇王』トラブル引き寄せやすいと言うことは過程をショートカットして本題に直面するということです。つまり!問題解決が速いと言いう利点もあると私は思います」
クロケル「恐ろしいぐらい前向きな考えだな」