第75話 気ままな猫の人助け
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
クセのあるキャラは好きなのですが、自分で表現するとなると理想から遠ざかるのは何故なのでしょう。今回新しく登場するキャラの持つ怪しさがいい感じに表現できていればいいのですが……。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
モンスターにエンカウントされることもなく、俺たちは“チェシャ猫さん”の家の前へと辿り着いた。
不気味な雰囲気を醸し出している扉を度ここを訪問したことがあるから大丈夫だと自信を持つアリスがノックをし、扉の向こうに声をかける。
「チェシャ猫さん、いらっしゃいますか。以前にお世話になりましたアリスです。また助けて欲しいと思い、訪問させて頂きました」
数秒応答を待つも扉の向こうからは反応はない。と言うか気配もないし、物音1つしない。そのことを不思議に思い、戸惑う視線が仲間同士で交錯する。
「お留守なのでしょうか」
シルマが扉を見つめながら首を傾げ、アリスもしゅんとしながらその言葉に頷いた。
「そうかもしれません。チェシャ猫さんはお散歩が大好きですから。思いつくまま歩き回るので一日中家にいないこともあるっておっしゃっていた記憶があります」
扉の取っ手を押し引きしてみたが、しっかりと鍵がかかっているようでびくともしなかった。いや、別に無断で他人の家に入る気なんてなかったけど。本当に中に誰もいないのか気になってつい扉を無意味にガチャガチャしてしまった。
「うん、本当に留守みたいだ。思いつくままってことは、アリスでも居場所に心当たりがないってことだよな」
「はい。残念ながら」
アリスは肩を落としてため息をついて肯定した。シュティレも腕組みをしながら眉間に皺を寄せて言う。
「ふむ、行く当てが外れてしまったということか。こうなってしまっては、目的を変えるしかないだろう。どうする、クロケル殿」
シュティレが俺に指示を仰いできた。え、何で俺にそんなこと聞くんだ、と一瞬と戸惑ったが、すぐにその意図に気がつく。
すっかり忘れかけていたが旅をするメンバーの中では俺がリーダーと言うことになっている。重要な行動を取る際にリーダーの指示を仰ぐのは部下(と思ったことは一度もない)が指示を仰ぐのも自然なことだ。
しかし、残念ながら俺は見せかけだけの中身ペラペラリーダーだ。生前の人生経験の浅ければ誰かに指示をしたことなどない。
ましてや緊急事態の対応などわかるわけもない。聖がいればその辺りを含めてサポートをしてくれただろうが、その頼みの綱は今ここにはいないのだ。しかし、みんなの視線は無常にも俺に集まる。
「“チェシャ猫さん”のことは一旦保留にしておいて、ウサギを探すことを優先するか。アリス、できる限りの道案内はできるか」
「はい、見覚えのある場所であれば案内できます」
アリスは特に反論することなく頷いたが、カルミンが難しい表情をして意見を述べた。
「確かに、うーちゃん探しは最優先事項だけど、異世界をウロウロするのって危険じゃないですか?アリス、チェシャ猫さんはあなたよりもこの世界に詳しいんでしょ」
「うん、この世界の住人だからね。知識は私よりもあると思う」
「だよね!クロケルさん、私としては家の前でチェシャ猫さんを待った方が良いと思います。うーちゃんがどこにいるかわからないし、歩き回って体力を消耗するのはよくないですよ」
カルミンが的確にキビキビと考えを述べ、ああ、確かにそうかもな。と心がその意見に傾きかけた時、今度はシュティレが口を開く。
「カルミン殿の言うことはわからないでもないが、話によればチェシャ猫殿は気ままな正確故、一日中家を空けることもあるのだろう?なら、ここで待っていても出会えるまで時間がかかるのではないか」
「そうですね。チェシャ猫さん、お散歩で1ヶ月ぐらい家を空けることもあるっておっしゃっていましたし、この世界からの脱出を優先する現状であの方を待つ、と言うのは少々リスキーかもしれません」
アリスが眉を下げてシュティレの意見に乗っかる。カルミンの意見に傾きかけていた心がまた水平に戻り、選択肢と言う名の心の天秤が、この瀬戸際でグラグラと揺れている。
と言うか、1ヶ月も家を空けることは散歩とは言わん。旅と言うんだ。ここにいない“チェシャ猫さん”にツッコミを入れながら俺は悩んだ。
「帰って来る保障のない人物をここで待つか、どこにいるかわからないウサギを求めて当てもなく異世界を彷徨うか……究極の二択だろ」
「そうかー、それは困ったにゃあ」
誰に言葉を向けるでもなく、ただぼんやりと声に出して呟いた時、聞き覚えのない声が耳に届いた。声の低さからして男性だとは思うが、若干高音でのんびりとしている口調の中にどこか狂気を感じる、そんな奇妙な声だった。
「え、うわあああああああああああああああ!?」
その声に反応して反射的に振り返り、声の主を確認してから一瞬固まってから仰け反って絶叫した。
ヒト生首が浮いていたのだ。しかも三日月みたいに口角を上げてニタリと不気味な笑みを浮かべて楽しそうな笑みを浮かべながら喋っている
「にゃは~、驚かせちゃったかにゃ。アリスの匂いがしたと思って走ってきたら思いのほか大人数でテンションが上がっちゃったんだ。許してにゃ」
「は、はあ!?」
俺はバクバクと脈打つ心臓を必死で抑えながら声を荒げて呑気に笑うその人物を見据えた。
先ほどまでは確かに首だけだったが、改めて姿を確認した今はしっかりと全身がある。ダボッとした白い肩出しシャツの下には紫の縞々タンクトップを着ており、膝丈までの紫のジーンズにこれまた紫のスニーカーを素足で履いている。
肌は陶器の様に白いが、髪はクセ毛の無造作ヘアに薄い紫。そして前髪に濃い紫のメッシュが入っている。瞳はどんぐり目で金色。黒い瞳孔は閉じて細長くなっているところがなんだか猫っぽい。
そんな紫リスペクトでド派手サイケファッションの男の身長は多分、180cmぐらいと見受けられる。ひょろっとしているが、膝丈ジーンズから覗く足はとても筋肉質で、見た目パリピの細マッチョと言う印象を受けた。
そして特徴的なのはピコピコと動く金と銀のピアス付きの猫耳と、ゆらゆらと不規則に揺れる長い尻尾。どちらもやはり紫色だ。そして語尾にわざとらしく「にゃあ」とつけているところと、この胡散臭いオーラはまさか……。
「チェシャ猫さん!よかったぁ戻られたんですね、お帰りなさい。そしてお久しぶりです」
アリスがパリピ猫耳男に嬉しそうに微笑みかける。やっぱりそうか、まあここまであからさまな容姿をしていてチェシャ猫じゃなかったら逆にビビるけど。
「にゃは。アリス、久しぶりだにゃあ。またこっちに来ちゃったんだにゃ?」
チェシャ猫も嬉しそうにアリスに微笑みを返す。2人の雰囲気から仲の良さが伝わってくる。
「あ、あの。すみません、あなたは“チェシャ猫さん”で間違いないですか」
2人の関係性はについて気になることは多いが、まずはここに来た目的を果たそう。再会を喜び、和やかムードを醸し出す2人に若干の遠慮を覚えながらも頑張って間に割って入った。
「ん、そうだよん。俺ちゃんはチェシャ猫。この世界の自由気ままな住人でアリスの友達だにゃ」
アリスと見つめ合っていたチェシャ猫さんは俺に向き直ってにたりと笑った。大きい口から覗くギザギザの歯が怖いんですけど。この方、本当に猫ですか、肉食獣みたいな何かを感じるのですが。気を抜いたらガブッといかれそうな気がしてならない。
「俺はアリスの……えーっと知り合い?でクロケルと言います。それから、俺の仲間たちです」
俺の名乗りの後それぞれが自己紹介をして、ここに来た経緯を話す。チェシャ猫さんはうんうんとわざとらしいぐらい大きな相槌を打ちながら最後まで話を聞き終え、わざとらしく頷いた。
「なるほどにゃあ。またアリスのウサギが逃げ出して、この世界に転移して来て、戻るためにウサギを探したいからこの世界の住人である俺ちゃんに協力して欲しいと言うわけだにゃ」
「はい。そういうことになります。ご協力頂けますでしょうか」
と、確認してみてもこれで断られたらどうしよう。チェシャ猫さんは気ままだと聞くし「今は乗り気じゃないにゃ~」とか言われたらその先は絶望である。もしそうなれば必死で頼むしかない。最悪、俺が代表して土下座をしよう。そうしよう。
うにゃーん、ともったいぶって唸るチェシャ猫さんの返答をハラハラとしながら待ち、いつでも綺麗な土下座ができる様に右足を一歩引いて心と体の準備を整える。
「いいよん。アリスの友達は俺ちゃんの友達、君たちが帰れるように手伝いをしてあげるにゃ」
断られる可能性もあったため、土下座の覚悟を決めて構えていたのだがあっけらかんとした態度で答えが返って来たので俺の心が安堵と喜びでふわっと舞い上がる。
「本当ですか」
「うん。今はすごくそう言う気分だから本当にゃ。でも途中で気が変わったらごめんにゃ」
チェシャ猫さんは恐ろしいことを悪びれることなく笑顔で言った。さすが気まぐれ。助けると言う感情すらも気分できまるのか。頼むからずっと俺たちを助けたい気分であってくれ。途中放棄されたら泣くぞ、マジで。
「でもまずは家の中に入って休むと良いにゃ。迷いの森を抜けて来たんならお疲れにゃん?さ、どうぞにゃ~」
あっさり物事が進んだことが嬉しくて前のめりになっていらのに、さらっと告げられた「気が変わる」と言うとんでもなく不穏な言葉に上げて落とされた気分になっている俺を他所に、チェシャ猫さんはにこにことしながら、玄関の鍵を開けて俺たちを招き入れた。
チェシャ猫さんの家の中は至ってシンプルだった。扉の先は居室全体が1つの空間になっている所謂ワンルームだった。ちなみに靴のまま入る海外仕様である
勝手に部屋中が紫だと言うイメージを持っていたが、部屋のカラーリングは明るい青と白を基調にした落ち着いた色合いだった。
家具もねじ曲がった不思議の仕様かと思っていたが、普段俺たちが使っている様なシンプルなデザインのものだ。外に広がる異空間とのギャップが激しくて変な感じだ。存在するもの全てが不思議なわけではないんだな。
「てっきり部屋も派手な紫仕様かと思っていましたが違いましたねぇ。予想外です」
俺の心中とシンクロしたのか、アムールが部屋をキョロキョロと見回しながら正直なッ感想を口にし、それを聞いたチェシャ猫さんは気を悪くする様子もなくにゃははと笑う。
「俺ちゃんは気まぐれだからにゃあ~。家具とか部屋のカラーリングは不規則に変わるんだよん。でも確かに、紫一色の部屋も面白そうだにゃ」
「以前は赤と黒のコントラストがダーク感を演出するお部屋でしたものね。明かりもランタンのみでしたし」
前にこの家に訪問したことがあるアリスがその時のことを思いだしたのか気が笑いを浮かべていた。
赤と黒の部屋に明かりがランタンだけって確かに不気味だ。だとしたらインテリアコーディネイトのふり幅が凄いな。流石気まぐれ……趣味趣向もその都度変わるのか。
「まあ適当に座っててにゃ。お茶ぐらい用意するにゃん」
そう言ってチェシャ猫さんは鼻歌交じりに俺たちに背を向けて、小さなキッチンでお茶の準備を始める。
座れと言われた俺たちは部屋の中心にポツンと置かれたガラスのローテーブルを囲む様にして座った。椅子はないのでもちろん全員地べたに。
そわそわとして待つこと数分。チェシャ猫さんが上機嫌で俺たちの元へお茶を運んで来た。
「おまたせにゃん。遠慮なくドーゾ」
テーブルに並べられた人数分のティーカップを見る。見た目は普通の紅茶だ。匂いも普通、と言うか寧ろ茶葉の良い匂いが湯気と共に鼻孔をくすぐる。
おいしそうとは思うのだが、中々手を付けることができない。だって得体の知らない異世界で出会ったばかりのちょっと怪しい人物から出されたモノをすんなりと飲める者がいるだろうか。
親しくない人物からの飲み物は怖いだろ。何が入ってるかわからないし。飲んだら体が大きくなったり、小さくなったりするのではないか。眠くなったり、最悪毒物の可能性だってある。
そうでなくても「よもつへぐい」的なアレで飲んだら最後、元の世界に二度と戻れないとかいうパターンだったらシャレにならん。
もてなして頂いている立場でこんなことを思うのは失礼だとは思うが、異形の世界が俺の心を限界まで警戒させ、体を思う様に動かせないほど緊張している。
俺以外のみんなも同じことを思っているのか、中々紅茶を飲もうとはしない。全員がティーカップとにらめっこをしている。ただ、1人を除いては。
「わーい!いただきます」
「えっ、アリス!?」
紅茶を前に緊張と不安と悪い妄想でガチガチになっている俺の目の前で、アリスが嬉しそうに両手を上げて紅茶を口につけ、美味しそうに飲み始めた。
うわ、飲んだぁ!?あのシュバルツですら警戒して飲まなかった紅茶を何のためらいもなく飲みましたよこの子!!
その全員がアリスの行動に驚き、固まり、彼女を凝視する。その視線を感じてか、アリスはカップから口を離し、仲間たちをキョトンとした表情で見つめる。
「あら。みなさん、どうかされましたか。チェシャ猫さんの紅茶、美味しんですよ。以前にも頂いたことがあるのですが、あの時とは少し味が違いますね。でもこの味もおいしいです」
「あ~、俺ちゃん適当に紅茶入れるからにゃ~。毎回味が変わるのは仕方がないことなのにゃ」
のんびり紅茶の味を楽しむアリスにチェシャ猫さんは左手をヒラヒラと揺らし、ゆるっとした態度で返した。むう……アリスは前に来た時に一度飲んだことがあるのか。アリスの様子を見る限り、身体的にも影響はなさそうだけど……。
「ご主人様。特に変なモノは混入していないみたいですよ。この世界の果物が使われているようですが、毒物等は検出されていません。これは飲めるものですね」
空気を察してかアムールが紅茶の成分を分析した。ううっ、アムールの精度の高いAIである彼女の言うことであれば間違いはないのかもしれない。これは恐らく成分的には普通の紅茶なのだろう。だが、安全だと解析されてもやっぱり勇気がいるな、これ。
「ん?みんな飲まないのかにゃ。俺ちゃん猫舌だからぬるく淹れているはだけど、もしかして熱い方が好みだったかにゃあ」
「い、いえ。大丈夫です。頂きます」
チェシャ猫さんはこの世界での唯一の協力者。しかし、気まぐれな正確と来たものだ。もしかしたら小さなことで気を悪くしてしまうこともあるかもしれない。そうしたら協力もしてもらえない可能性も出て来る。
それはダメだ。絶対に避けたい。今後のためにも少しでのチェシャ猫さんと友好関係を築いておかなければならない。だからこそ、この厚意は無駄にできない。
俺を含めたアリス以外の全員が不安を払拭するかのように目配せをし、意を決して紅茶を飲んだ。俺なんて心の中で「南無三!!」と叫んでいた。どうか失礼だとは思わないで頂きたい。未知の世界の飲み物を飲んだだけでも褒めて、お願い。
「あ、美味しいですね。茶葉の渋みは感じますが、甘味もあって飲みやすいです」
「ああ、良い茶葉だ。少し酸味があるので口当たりもいい。焼き菓子に入れても良さそうだ」
怪訝だったシルマとシュティレの表情が明るいものへと変わり、先ほどとは一転して純粋に紅茶を楽しんでいる。
「ボクの好きな木の実の味がする。おいしい」
「うん、すっごくフルーティで私も好きな味」
シュバルツとカルミンもいつの間にか心の距離が近くなっており、微笑み合いながら紅茶の感想を言い合う。
俺としても、悪くない味だった。味はイチゴに近い甘味と酸味だった。イチゴティー(仮)は初体験だったがおいしかったのだ。しかし色々と考えすぎて純粋な心で味わうことはできなかった様な気もする。一口飲む度に不安でしょうがない。なんでこんなデスゲームみたいな心地になってるんだ。
内心ドキドキの俺になど気がつく様子もなく、自分が淹れた紅茶が好評だったことが相当嬉しかったのか、チェシャ猫さんは尻尾をピンと真上に立てて上機嫌で笑って言った。
「にゃはは、俺ちゃんの紅茶を気に入ってもらえて嬉しいにゃあ。休憩したら外を案内してあげるにゃ。でも、その前にこの国で行動する際の注意事項を聞いて欲しいにゃ」
「注意事項ですか」
俺の言葉にチェシャ猫さんは首を縦に振って続けた。
「この世界は気が短くて自分勝手な住人が多いのにゃ。ちょっと気分を損ねたら即喧嘩、悪けりゃ死人が出たりすることもあるのにゃ」
「ひえっ」
「だから、この世界で目立つのはNGにゃ。特に君たちは異世界から来たってだけで悪目立ちしちゃうからにゃあ。だからこの世界を探索するなら自分の行動には十分注意して欲しいにゃ」
にゃと言う語尾がついているおかげで緊張感がなくなっているが、めっちゃ怖いことを言われている。誰かの気分を損ねたらDEADENDってヤバくない?
ホラーゲームのエネミーですらもう少し段階を踏むよ?ある程度怖がらせて雰囲気を作ってからドーンって来るよ?
「気分を損ねたら、と言うことはあまり目立った行動を取らなければ問題ないということだろうか」
「簡単に言えばそうにゃんだけどぉ、視界に入っただけで気に食わねぇーって思うヤツもいるから、それが最善とは言えないにゃあ」
シュティレの言葉をチェシャ猫さんはへらりと笑って斬り捨てた。ちょっと、そんなのただのいちゃもんじゃん。質の悪い当たり屋みたいなもんだよ。治安悪すぎだろこの世界。
「アリス、あんたよくこんな世界から無事に帰れたね」
話を聞いていたカルミンが顔を引きつらせながら言うとアリスは苦笑いを浮かべて、罰が悪そうに頬を掻いた。
「うん。前は基本、身を隠しながら行動してた。どうしてもって時は戦ったよ。チェシャ猫さんも助けてくれたの」
「え、チェシャ猫さんも戦えるんですか!?」
アリスの言葉に驚いてにやにやとしているチェシャ猫さんを見れば、興味を持たれたことが嬉しいのか、気分良く返された。
「まあ、それなりに戦えるにゃん。この世界は弱肉強食だからにゃ~、戦えないとこの世界では終わっちゃうから、別に特別なことではないにゃ。心配しなくても、今回もサポートはしてあげるから安心してにゃん」
そうですか。ならレベル1で戦闘経験がほぼ皆無な俺は終わっちゃいますね、ははっ。
それにサポートは有難いことだけど、それもチェシャ猫さんの気分次第なんだろう。彼の実力はまだ分からないが、頼むから裏切りと言う展開だけは勘弁して欲しい。ハッ!この考えが変なフラグになりませんように!
「基本は隠れて行動すれば良いと言うことですよね。なら、魔法で姿や気配を消せば襲われるはないかと。クロケル様には隠形スキルがありますし、私も姿を隠す魔術は心得ております」
シルマがそう言うと、チェシャ猫さんはうんうんと首を縦に振り、へらりとした微笑みを彼女に向けながら言った。
「うん、その能力があれば安心かもにゃあ」
「襲われても戦って勝てば問題ないだろう。こちらもこれだけ人数がいるのだから、余程の大人数に囲まれでもしない限りは後れを取ることはないだろう」
シュティレが戦士らしい発言をしたが、チェシャ猫さんは肩を竦め、お手上げのポーズで首を横に振る。
「あまり騒ぎを起こさない方が良いと思うにゃ。でないと一番見つかってはならないヒトに見つかってしまう可能性があるにゃ」
先ほどまでヘラヘラとした態度を貫いていたチェシャ猫さんが突如、真面目な表情で言ったので、全員がこれは大事だと悟り、その場に緊張感が走り、空気が張り詰める。
「……一番見つかってはならないヒトって、誰ですか」
ひどい緊張感で急に喉が渇いて来る。しかし、出されたお茶でそれを潤す心の余裕はない。俺は生唾を飲み込んだ後、ゆっくりとその真意を問いかけた。
チェシャ猫さんは一度目を閉じ、小さく息を吸ってから静かな声で毅然として言った。
「この世界の女王様にゃ」
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アムール「次回予告!異世界の要注意人物はなんと女王様だった!?国のトップが敵になる可能があるなんて一大事ですね……ご主人様。ウサギを探し、全員で無事に元の世界に帰ることはできるのかなぁ」
クロケル「ああ、それについては本当に頭が痛くなる思いだが……いつまでお前がここの担当なんだ」
アムール「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第76話『不思議の国探訪』元の世界に戻ることができるまでは私がここで相棒を務めさせて頂きますよ!」
クロケル「元気がいいなぁ、アムールは。俺なんてもう心がバッキバキだよ」
アムール「わたしが元気が出る歌を歌いましょうか、ご主人様。シルマさんには劣りますが、回復効果のある歌なら歌えますよ」
クロケル「ああ、うん。ありがとう、精神疲労に効果があるなら是非ともお願いしたいかな」