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第74話 ウサギを探して何千里

この度もお読み頂きまして誠にありがとうござます。


暑い日が続きますね。ご飯を作る際にガスをつけるだけでも地獄です。あと家族に言いたい「簡単なモノ」なんて料理はこの世にねぇよ?フライパンとか包丁を使っている時点でそれはもう「簡単」ではないからネ(圧)


とまあ、そんなことはここに書く様な事ではないですね……。暑さも本格的になってまいりますが、皆さんも十分に気をつけてお過ごしください。


本日もどうぞよろしくお願いいたします。



「な、なんだっ着信!?」


 このタイミングでしかもこんな場所で着信があると思っていなかった俺は自分での情けないぐらい声を裏返らせて端末の画面を確認する。電波は入っていた。しかし、誰からの着信かは画面に表示されていない。


 ホラー映画みたいに謎の人物からの着信とかやめてくれよ。そう祈りながら俺は恐る恐る通話ボタンを押した。


「も、もしもし」


『あっ!繋がった。よかった~。クロケルだよね、無事?今どこにいるの』


「えっ、聖!?聖なのか!?」


 予想もしていなかった人物からの着信に端末を握る手に力が入る。俺の反応に驚き、その場の全員が俺を見る。


 俺はゆっくりと深呼吸をした。落ち着け、まだこの着信が本物からかかって来たとは限らない。ホラー映画だと幽霊やサイコ野郎が声を変えて成りすましていると言う恐怖のパターンが存在しているからな。手放しには喜べない。


「アムール、これをかけて来た相手の端末をハッキングできるか」


「はい!お任せください」


 一応念のためだ。俺はアムールにそう指示を出した。優秀なAIであるペセルさんの一部である彼女なら、異世界からでも性格なハッキングができる可能性が高い。そう思ったのだ。


 アムールは愛らしく敬礼をし元気よく了解した後、スッと目を閉じてチキチキと機械音を鳴らして集中する。数秒後、アムールはゆっくりと目を開けて普段よりも毅然とした大人びた口調で言った。


「ハッキング完了。通話位置、確認。わたしたちが先ほどまでいたお屋敷からのお電話です。多少の時空の歪みをありましたが音声認証もできました。この声は間違いなくアキラさんです」


「ほっ……よかった。本物なんだな」


 この電話の主が聖本人だと保障されてたので俺は胸を撫で下ろした。そんな俺に聖は早口で詰め寄って来る。


『そんなことより、君たち今どこにいるの。僕たちは書斎の前にいるんだど、君たちが床に出現した穴に吸い込まれた後、それが塞がったんだよ。だから何かヤバいことでも起きたんじゃないかと思って……状況は?』


「あ、ああ。俺たちもさっき目が覚めたところで、現状を把握したばかりなんだよ。とりあえず、今わかっていることを話す」


 俺はここまでの経緯をできるだけ詳細に話した。端末の向こうでは聖の頷く声の他にミハイルとアンフィニの会話も聞こえて来る。やはりあちらは特に何事もなかった様だ。


『ふぅん、なるほどねぇ。あの穴は異世界に繋がっていたのか。全員無事なのと、アリスちゃんが一度訪れたことがある世界だったのは不幸中の幸いだね』


 話を一通り聞き終えた聖はため息交じりに納得していた。この状況にうんざりしていることが声だけで伝わって来るが、こっちだって気分はブルーだよ。もうディープブルーってかダークブルーだよ。


「ああ、だから今からアリスにこの世界を案内してもらいながらウサギを探そうと思う」


『そう、確かに、今はそれが最善の方法だと思う。気をつけてね。魔術は?そっちでも問題なく使えるの?』


「魔術?」


 聖の言葉を聞いて初めて気がついた。そうか、異世転移によって力が制限されることもパターンとしてはありえる話だもんな。


 俺は自分の掌を見て、それから無意味にぐっぱを繰り返す。うん、わからん。まだ魔力回路の感覚を掴み切れていない俺には確かめ方がわからん。


「以前、私がこの世界に来た際は問題なく魔術を使えていましたので恐らく今回も使えると思いますが……」


 アリスが自信なさげに首を傾げる。一度この地を踏んだ人間がそう言うのであれば問題はないのだろが、ここは念のためだ。


「さっきシルマが回復魔法を使えていたから、俺も大丈夫だとは思うが……みんな、魔力に違和感はないか?」


 振り返って確認するとみんなは俺と同じ様に自分の掌を確認し、一番最初にシュティレが毅然として頷いた。


「魔力回路は正常だ。問題ないだろう」


「ボクも。魔術は使えるみたい」


 そう言ってシュバルツはおずおずとしながら自分の影を動かして魔術が使えることを証明して見せた。


「私はあまり魔術は使えませんが、これが取り出し可能なら問題ないです」


 カルミンはにこっと笑って何もないところから猟銃を出現させる。一度みた絵面ではあるが、こんな風に武器が取り出せるってかっこいいなぁ。うらやましい。もっと言えば魔術は使えなくても武器を正確に扱えるのがすごいと思う。


「因みに私も魔術は使えそうですね。今のとこと魔力回路もしっかりと感じることができます」


 この世界に来たことがあると言うアリスも念のため確認してくれたようでしっかりと頷いて返答してくれた。


「よし、問題なさそうだな……シルマも回復魔法以外の力は使えそうか」


 最後にこの“不思議の国”に辿りついて一番最初にみんなのために魔術を使ってくれたシルマに確認すれば彼女は首を縦に振った。


「はい。特に違和感ありませんし、問題はないかと」


 よかった。全員が魔術を問題なく使える状態であればいざと言う時もパニックに陥ることはないだろう。


「聞こえたか、聖。戦力面では特に問題はないみたいだ」


『そう。なら、問題はなさそうだね』


 ここまで焦りが感じられていた聖の声が安堵に変わったのが分かった。ああ、こいつでも心配をすることがあるのか。


「心配かけて悪かったな」


『心配するよ、長い付き合いなんだから。でも、もう心配をかけないでね』


 付き合いの長い素直に謝罪すれば、柔らかい口調で返答があり、少しだけむず痒くなってきて、照れ隠しで話を逸らすことにした。


「そ、それはそうと……よくこの端末に繋がったな。異世界転移したらこう言うのは使えないかと思ってたよ」


『僕も最初は同じことを思っていたけど、ダメ元で繋げてみてよかった。ねじ曲がってはいるけれど、その異世界とこちらの次元は続いているのかもしれない』


「次元が続いている?」


 聖が意味深な言葉に思わず疑問系になる俺とは違い、話を聞いていたシュティレがなるほどと頷いた。


「空間としての世界は違えど、次元としての世界が同じであれば移動は容易い。元居た場所へ戻ることができる可能性も上がるということか」


『流石シュティレちゃん、理解が速いね!クロケルにも分かりやすくいえば、裏世界みたいなものだよ。別次元に存在するもう1つのおとぎの国とも言える』


「な、なるほど?」


 理解できたような、そうでないよな……とにかく、元の世界に戻れる可能性が上がったのであればそれでいい。希望はなるべく多く持ちたい。


『でも、残念だけどこちらからは通話以外のサポートは残念ながらできないみたいだ。君たちが消えたことは一応、この屋敷のヒトたちには報告したから、今から協力してできることを探すよ。だから、君たちも頑張って脱出して』


「ああ、わかった。とりあえず、一旦通話を切るぞ。バッテリーをなるべく持たせたい」


 本当はずっと繋げておきたいが、俺が持つ端末のバッテリーは無限ではない。貴重な連絡手段を無駄に消費はしたくない。


『うん、わかった。こっちで君たちが戻って来られる手がかりを見つけたら連絡するよ』


「ああ、頼む。じゃあな」


 俺は溢れ出しそうな名残惜しさを押さえながら通話を終了した。無言で端末をポケットにしまい、すぅと息を吸って、そしてゆっくりと吐き出す。


「よし、話は終わった。行こう、早くウサギを見つけてみんなで元の世界に帰るんだ」


 不安で押しつぶされそうになる自分を奮い立たせるため、俺は力強くそう言った。みんなも決意を込めた瞳で頷いてくれた。




 聖との通話を終えた俺たちは先だって決めた並びで列を作り、不気味な森の中を歩き始める。


 ウサギを探して注意深く辺りを見回しながら歩くが、そんなに都合よくウサギを見つけられるわけもなく、歩く度に不安だけか積み重なっていく。


 周りには植物しかなく、目印になる様なものはないもない。景色が変わらないせいか同じ場所をぐるぐる回っているような感覚に陥る。


「なあ、アリス。本当にこの道順で合っているのか」


「はい。今のところは大丈夫です」


 同じような景色が続く中、一瞬も迷いを見せずに歩みを進めるアリスに話しかけるとアリスは歩みを止めることなく、前をまっすぐ見据えたまま返答した。しかし、何か含みのある言い方が気になり俺は重ねて質問する。


「今のところってどういう意味だ」


「ここは迷いの森です。一瞬でも怯えたり、迷いを見せるとその者を一瞬でこの森の迷宮に閉じ込める力を持つ、生きた森なのです」


「生きた森!?」


 アリスは一瞬だけ振り向き、顔を引きつらせて声を上げる俺を見つめて真剣な表情でこくりと頷いた。


「はい。実際に生きている訳ではないですが、そう言う魔力を持っている森なのです。ですので、なるべく心を落ち着かせて頂いた方が安全にこの森を抜けることができます」


「いや~、この空気で心を落ち着かせるのは無理だろう……」


 モンスターであるが故に、ここにいる誰よりも繊細で敏感なシュバルツは真っ白い顔をしてカタカタと震えている。心配したカルミンがその手を握って歩いてくれているが、ほぼ限界に近い反応だ。


 俺も平然としているが、めっちゃ怖い。不安と恐怖がごちゃまぜになって、ものすごく気持ち悪い。仲間がこれだけいるから怖さは半減しているが1人だったら多分、足がすくんで動けないだろう。


「不安になる気持ちはわかります。だからこそ、みなさんなるべく身を寄せてください。森に囚われないように。仲間同士で不安から心を守って下さい」


 真剣なアリスの言葉を聞いて全員が無意識に歩く距離を狭めた。緊張をしながら、辺りを警戒しながら、そして仲間たちに心を預けながら、俺たちは黙ってアリスの後に続く。


 そうして歩き続けること数分。一応、ここまで特に問題なく来られたが、出口らしい場所に辿り着く気配はない。


「随分迷いなく進んでいるがどこへ向かおうとしているんだ。異世界に行く当てでもあるのか」


 未だに歩みを止めず、俺たちを先導するアリスに聞いてみるときっぱりとした返答があった。


「うーちゃんを探したいのは山々ですが、この森を闇雲に歩き回るのは危険です。なので、一度森を抜けて、チェシャ猫さんのところへ向かおうと思います」


「チェシャ猫……え、それ大丈夫なのか?」


 俺は急な不安に襲われた。なぜなら個人的にチェシャ猫にあまり良いイメージを持っていないからだ。


 原作でも二次創作でも“アリス”と度々関わる存在であるチェシャ猫。しかし、その多くは掴みどころがなく、常ににやにやと笑う不気味で気ままなキャラとして描かれていることが多い。


 時にアリスを助け、時に困り果てているアリスの状況を楽しんでいるその姿は、物語が終わるまで敵か味方かわからず、どの次元に置おいてもハラハラとさせられる。


「大丈夫ですよ。以前にもチェシャ猫さんのおかげでうーちゃんを見つけることができましたし、元の世界に帰ることができました。信頼できる方だと思います」


「ならいいけど……」


 チェシャ猫と言う存在への先入観のせいだろうか。助けてもらったと言うアリスの発言を聞いてもモヤモヤとしてしまう。まだ合ってない相手への不信感がすごい。先入観と思い込みって怖いなー。


 そんなことを思いながらさらに歩き続けること数分、アリスが明るい声で前方を指を差して言った。


「見えました!出口です」


 アリスが指し示す先を見れば草木が生い茂るその先に縦に裂けた空間があった。それはヒトが1人通れるぐらいの大きさをしており、そこからが淡い紫の光が漏れていた。


 うわあ。出口から漏れる光が紫ってことはやっぱり森を抜けた先も紫の世界が広がっているってことだよな。太陽の色が紫だからまあ、そうなるとは思うが、この光からはおどろおどろしさしか感じないが、身体に影響はないのだろうか。消毒的な意味でもまともな太陽の光を浴びたい。


 歩き続けてようやく見つけた出口の出現に喜びよりも不安を抱いたまま、俺たちはそれを潜り抜けた。


 一瞬だけ生ぬるい風が頬を凪ぎ、森を抜けた先に広がった光景はやはり紫と黒が入り混じった世界だった。森の中とさして変わらない世界に俺はぞわっとしてその場で固まる。


 目の前にはうねうねとした道が都合よく一本道になっており、その先にはやはり紫色をした少し不自然に歪む煉瓦造りの家がポツンと建っていた。


「着きました!ここがチェシャ猫さんのおうちです」


 アリスが嬉しそうな声色でそれを指差し、俺は「マジか」と言う気持ちと同時に腹の底と背中が凍って行くのを感じた。


 見るからに不気味な家からは「こっちだよ」というオーラが伝わって来る。見た目は本当に気持ちが悪いし、本音は近づきたくないのだが、何故か「行った方が良いのでは」と言う思いが沸き上がって来る。


 ホラー作品の登場人物ってこんな感じなのだろうか。よくわからない力に「呼ばれている」感覚。怖い、不気味だ、近づいてはならない、でも行きたい。そんな気分に囚われる。


 おいおい“チェシャ猫さん”は信頼できるヒト(?)なんだよな。こんなホラー作品のお約束みたいな感覚になるのヤバくない?なんで誘われてるんだよ。ホントに無事に元の世界に帰れるんだよな。


「行きましょう!ここら辺はモンスターも少ないですので安全です」


「あ、ああ」


 さらっと恐ろしい発言をされて一瞬動揺してしまった。ああ、やっぱりこの世界にもいるんだな。モンスター……。


 少々ふらついてしまったが、どんな危険があったとしても生きている限りは元の世界に戻る努力をするしかない。頑張れ、俺!みんなだっている、大丈夫だ!そう強く自分に言い聞かせ、俺は振り返って全員に行った。


「よし、まずはアリスの言う様に“チェシャ猫さん”に会いに行くぞ。十分に用心してな」


 コクリと全員の頷きが返って来たのを確認し、列を崩さないようにしながら前方から俺たちを呼ぶ家へと歩みを進めた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


アムール「次回予告!不気味な森を抜けた先にあったのは、やっぱり不気味な建物だった。アリスちゃんが言う“チェシャ猫さん”とは本当に味方なのか……扉を開けた先のクロケル様の運命やいかに」


クロケル「うん、俺が知ってる話なら“チェシャ猫さん”は多分、掴みどころがない中立ポジションじゃないかと思う。原作でも二次創作でも大体そうだし」


聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第75話『気ままな猫の人助け』驚きです。ご主人様は“チェシャ猫さん”とお知り合いなのですか?」


クロケル「いや、間接的に理解していると言うか、ステレオタイプ?みたいな」




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