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第72話 ワンダーミラ家のウサギ

この度もお読み頂いて誠にありがとうございます。


書くのが楽しくなってくるとつい入れたくなるのが番外編と言うかスピンオフなんですよね……。シャルムやクラージュは元は私が別の作品のキャラの主役でした。この2人に関してはプロットがあるのです。なので、機会があれば2人のお話を書きたいなぁと思ったり、思わなかったり、時間がなかったり……(もごもご)


なるべくかける様にまずは本編を頑張ります!


本日もどうぞよろしくお願いいたします。

『びっくりした、大きい声出さないでよ』


 俺の唐突な大絶叫にその場の全員が驚いて固まり、目を丸くして俺を見る中、一番最初に文句を述べたのは聖だった。


 不意打ちで大声を出してしまったのは申し開けないが今はそれどころではない。俺はとんでもないものを見過ごしてしまった様な気がする。


「見た!見たんだよ!ウサギっ」


「「「えっ」」」


 仲間たちの驚きの声が重なり俺に注目が集まる。アリスはひどく焦った様子で俺に詰め寄って来た。


「ほ、本当ですか!?どこで!?」


「い、いや、アリスが探しているウサギかどうかは分からないが、さっき噴水のところで白くてちっちゃいウサギがぴょこぴょこしてたのを見て……」


 俺は眼前に見えるイルカの噴水を指差す。みんなの視線がそちらに向くが、当然のことだが今更ウサギの姿は見当たるはずもない。


『うーん、この国は自然も多いし、町中に動物がいても不思議ではないけど……ちょっと気になるねぇ』


「飛び跳ねて言った方向ならわかるぞ。追うか?」


 もしかしたらアリスのウサギなのかもしれない。そう思って提案したのだが、シュティレが難しい顔をして言った。


「いや、そのウサギがアリス殿の探しているウサギだと言う保証がないのであれば、無暗に追いかける必要はないと思う。まずはきっちり事情を聞いてからウサギの捜索をした方が良いのではないだろうか」

「そうですね。クロケルさんが見たと言うウサギは気になるところですが、まずはお話させて下さい。さあ、私の屋敷に参りましょう」


 シュティレの言うことは全うで、アリスも噴水の方を気にしながら俺たちを促した。関わると決めた以上、ここは素直に頷くしかない。


 ため息が出そうになった時、脳裏にペセルさんの言葉が過る。


『あ。そうだ。クロりんに伝言』


『ここに来るまで災難に巻き込まれる気をつけろよって。それなりに時間がかかるのは理解しているから焦らなくてもいいって』


 俺は確信した。これか、災難。何度目かの眩暈と頭痛を覚え、思わずその場でふらつくとシュバルツが慌てた様子で俺を支える。


「クロケル、大丈夫?気分悪い?」


「あ、ははは……何でもないんだ。平気だよ。ありがとう、シュバルツ」


「まあ、ご気分が優れないのですか?念のため回復魔法を……」


 会話が聞こえていたのか、シルマが力強く杖を握り、心配そうな表情で俺に身を寄せて来た。


「うん、シルマもありがとう。でもホントに何でもないんだよ」


 本当は何でもあるけど。精神的に大問題を抱えてるけど。って言うかこう言うやり取り何回目だよ。俺がメンタル弱すぎなのか!?


「きっと慣れない土地でお疲れなんですよ!アリスの家はここから徒歩圏内にありますし、自然の中を歩くんです!きっと良い気分転換になりますよ」


 カルミンが元気いっぱいの笑顔を振りまきそう提案した。アクションするしか道が残されていない俺は涙をのみ込み頷いた。


「ああ、もう好きにしてくれ」


「では、一応家族に事前に連絡をさせて頂きますので少々お時間を頂きますね」


 そう言ってアリスは青い端末を取り出し、そそくさと俺たちから距離を取り通話を始めた。家族に連絡か……そりゃそうだ。こんな大人数で突然押し掛けるわけにも行かないもんな。


そして数分が経ち、アリスは端末を片手にトコトコと戻って来て微笑んだ。


「お父様もお母様もウサギの件で今から屋敷を空けるみたいですが、信頼できる協力者の方なら歓迎すると、訪問許可を頂きました」


 信頼できるって、俺たちがか?アリスがそう伝えたんだと思うが、会ってもいない相手のことを娘の言葉だけで信頼するかね。ちょっと物騒でないかい?いや、悪いことをしようなんて思わないけどさ。


 未成年の「信頼」は時として危険だ。だから、一度ぐらい親が直接会って確固たる信頼を得た方が……いや、やめておこう。細かいことを気にし過ぎるなんて、なんか自分が頭の固い奴みたいだし。


 おおらかな心、おおらかな心……そう自分に念じながら深呼吸を繰り返していると、肩の上に乗るアムールが小さな手でツンツンと俺の頬を突いた。


「ご主人様、みなさん行っちゃいましたよ?」


「え、あっ!待て!置いていくなっ」


 ぼんやりと考えすぎていて気配が消えていたのだろうか。カルミンもアリスも、そして仲間たちも、俺を放置して歩き始めていた。アムールのおかげで飛ばしていた意識を取り戻した俺は、慌ててその後を追いかけた。




 なんとかみんなに追いつき、雑談を交えながら歩くこと数十分。アリスの家は本当に駅から徒歩圏内にあった、あったのは良いんだが……。


「お前の家、デカくねぇ?」


 俺たちは目の前にそびえる鉄柵の門と、その先に見える公園もしくは植物園庭かと勘違いしてしまいそうな緑あふれる広い庭と荘厳な造りの洋館を見つめて呆然として立ち尽くしていた。


「はい、幼い頃はよく迷子になっておりました。慣れてしまえば問題はないですよ」


 俺の質問にアリスは自らの過去を思い出し、苦笑いを浮かべていたが多分、思考回路と価値観にズレが生じている。と言うか俺の中で「普通」は自分の家の敷地内では迷わない。


 いや、ずっと屋敷って言葉が引っかかってはいたんだよ。自分の家を屋敷って言うのめずらしいなって。ひょっとしなくてもお金持ちなのかなって。まあ、この世界で名字持ちは位が高い証だからなんとなく予想はついていたけど。


「わかるわー、私も子供の頃は庭にハンティングのトレーニングに出たはいいけど戻れなくなった経験が何度かあるもん」


 カルミンが大きく頷きながら同意する。そうか、そう言えばカルミンも名字を持つ貴族だった。親しみやすすぎて忘れてたよ、マジで。わからない。セレブあるあるは全然理解できない。何故なら俺は庶民だから!!


「さ、どうぞ。連絡は済ませておりますので、客間をご用意させて頂いております」

 

 大いなるお金持ちのオーラを浴びて若干やさぐれている俺をアリスが優しい微笑みで招き入れる。俺たちはそのまま豪邸に足を踏み入れた。


 門も玄関も勝手に開いたがもう驚かない。この世界で城や高級宿での宿泊を経験したせいで多分、感覚がマヒしている。



 モヤモヤッとしている俺たちが通されたのは赤と白が基調のロココ調の造りの客間だ。誰の好みなのか、真っ赤な薔薇が花瓶のなかで美しく存在感を放っている。


 真っ白で低めのテーブルの上にはアフタヌーンティーセット(なんか3~4段になってる容器の上にお菓子とかサンドイッチが乗ってるアレ)と湯気を立てた紅茶が並んでいた。


「メイドさんに用意をして頂きました。人払いはすませておりますので、これで心置きなくお話ができますね!さ、お好きな場所へどうそ」


 アリスがにこりと微笑んで着席を促した。それに従い、俺とシルマとシュバルツはふかふかで真っ赤なマットの長椅子に、ぬいぐるみのアンフィニはシュバルツの膝の上に座る。


 シュティレは1人掛けの椅子に着席し、カルミンは2人掛けの椅子に座るアリスの隣に着席した。ミハイルは長椅子の手すりに止まっている。こんな高級そうな椅子に猛禽類の爪が食い込まないかと心配になった。


「先ほどもお話しましたが、お父様とお母様も今回の件で国王様のところへ赴いています。お話をする許可は頂きましたので、今から順を思ってお話しますね。えーっと何からお話していいものか」


 何から話すか決めあぐねるアリスを見て、俺から質問することにした。


「じゃあ、俺から質問。まず、なんでカルミンがここにいるんだ」


「あ!それ気になっちゃいますか。うふふ、実はですねぇ~」


 アリスが口を開く前にカルミンが楽しそうにむふふと笑いもったいぶった言い方をした後にジャーンと自ら効果音を発した後に言った。


「実は、私たち親友であり親戚なのでーす!!」


 ここに来てまさかの真実。一瞬なにを言っているのかわからなくて固まってしまったが、ちらりとアリスに視線を送ると小さく頷きが返って来た。


「はい。私のお姉さまとカルミンちゃんのお兄様がご結婚なさり、それに伴い私たちも義理ではありますが“しまい”になったんです」


「そう!私たちは家族なの。だから、私も関係者!だからここにるのです」


 カルミンはドヤッ!と胸を張った。何でそんなに自慢げなんだとツッコみそうになったが一応、スルーしておいた。


『じゃあ、次は僕から。これはさっきも聞いたことだけど、どうして2人は実家に戻って来ているの?ウサギが逃げたって言ってたけど、そんな理由で学校を休めるわけないよね?』


 詳しく知りたかった質問を改めて聖が投げかけると、紅茶を一口すすった後、アリスは長いまつげを伏せ、とてもアンニュイな雰囲気を醸し出しながらポツリと言った。


「ワンダーミラ家のウサギは異世界移動の力を持った貴重な存在なのです」


「異世界転移の力?」


 特殊な言葉に首を傾げて聞き返せば、アリスはこくりと頷いて淡々と話を続ける。


「ワンダーミラ家は代々異世界転移能力をもつウサギを継承し、それを管理すると言う役目があるのです」


『継承?ずっと同じウサギを管理し続けてるってこと?』


 キョトンとして質問をする聖にそんなわけないだろうとツッコミを入れようとした矢先、アリスはそれに頷き、肯定した。


「はい。長く続くワンダーミラ家にいつからか現れた不老不死のウサギだと聞いております。確か、初代当主がピクニックの最中に出会い、共に異世界を旅したのがきっかけだとか」


 いやマジで不老不死なんかい!ウサギが不老不死だと言うことにも驚きだが、ちょっと待て、その話どっかで聞いたことあるぞ。あれだろ「不思議の国のアリス」だろ。明らかに。


 個人的に子供の頃から本を読むのが好きだったことと、二次元で童話を題材にする作品が多いせいか秒速でピンと来たわ。


 え、不思議の国のアリスってマジで存在する世界線だったのか?それともここが異世界だからご都合主義なだけなのか?と言うかカルミンもちょっと「赤ずきん」っぽいんだよな。やっぱりそう言うことなのだろうか。


『なるほど。お家に関わる騒動だからケイオスも休学許可を出したわけか』


「でもそれって代々続く言い伝えの様なもんだろ。異世界転移なんてにわかには信じられない話だぞ」


 聖は納得してたが、俺は微妙に納得ができなかった。そして我ながら白々しい言葉を吐いた。自分も大いなる力で蘇生して別の世界から転移どこか転生したくせに平気で不思議現象を否定した。我ながらとんでもない棚上げ神経をしていると言葉を発した直後に思った。


「クロケル殿の言う通りだな。異世界転移と言う現象があるとは聞いたことがあるが、私はもちろん、周囲の連中も実体験はしたことはない。その摩訶不思議な現象をウサギが起こせるとは到底思えないのだが……」


 シュティレが難しい表情で首を傾げていた。やはりこの世界で異世界転移は異例な現象として位置づけられているらしい。


 その言葉を受けたアリスはゆっくりと口を開き、説明を続ける。


「ウサギは……うーちゃんは私が物心ついた時からこの屋敷に住み着いていました。うーちゃんが自らの能力を理解しているかは私たちにもわかりません。ですが、私も何度か知らない世界に飛ばされたことがあるのでウサギの力は本物です」


「知らない世界に飛ばされた!?しかも何度も!?」


 驚きすぎてまた大きな声が出る。それはテーブルの紅茶が揺れるほどの大きさで、流石に大きい声を出し過ぎたと自覚して思わず口を塞いだ。


「アリス、たまに行方不明になるから。そう言う時は大体、異世界に飛ばされることが多いんだよね」


 カルミンが苦笑いで言うが、いやいや行方不明はヤバいでしょ。もし誘拐とかだったらどうするんだよ。いや、異世界転移も十分危険だわ。と、内心でノリツッコミをかましている間にも話はどんどん進んで行く。


「カルミンちゃんの言う通り、私は家族の中で一番異世界転移を経験していると思います」


「そんな異世界転移をホイホイさせるウサギを野放しにするのは確かに危険だな。お前たちが必死で探す理由がわかるよ」


 ミハイルがため息をつきながら言うとアリスは気まずそうに微笑んだ。


「確かに、うーちゃんはよく逃げるウサギです。逃げる、と言うよりは気ままな性格なので好き勝手に行動すると言う表現の方が私的にはしっくりきますが……でも、うーちゃんに近づいたヒトが必ず異世界転移するわけではないので、まあ……心配は半分ですかね」


「ってことは、そのウサギの力で異世界に転移するには条件があるってことか」


 聖やそれに巻き込まれた俺みたいに突然意味不明な力に引き寄せられるわけではないと言うことか。


「条件……そうですね。はい、あります。条件」


 俺の問いかけにアリスは少しだけ考えた後に肯定した。


「その条件を聞いてもいいか」


「はい、構いませんよ。条件は“アリスの名を継ぐものが傍にいること”です」


 アリスはこくりと頷いた後、淡々とそしてしっかりとした口調でそう告げた。その言葉を聞いてますます意味がわからなくなる。


「アリスの名前を継ぐって、お前がその“アリス”だよな」


「ワンダーミラ家は代々子供が誕生した際、ウサギに子供を見せるのです。我が家ではそれを“継承の儀”と呼んでいて、ウサギが懐けば性別に関係なくアリスに、興味を示さなければアリスの名を継ぐことはできません」


「継承って“アリス”って名前を継承することでいいんだよな。どうして名前を継承する必要があるんだ。しかもそれをウサギの反応で決めるなんてよくわからんぞ」


 継承の儀と言う名前の響きがかっこよすぎて一瞬疑問に思わなかったが、よく考えてみると疑問だらけである。ただ、なんとなくわかるのはワンダーミラ家にとってウサギの存在がとてつもなく重要で大きいと言うことだ。


「初代アリスの経験が当時の国王から認められ、ワンダーミラ家は国から直々に異世界調査の役目を与えられているのです。もちろん今もこれについては極秘ですよ。我が家と、我が家の親戚となったロート家以外は知りません」


 アリスは眉をひそめ人差し指を手てて「しーっ」と言う仕草をする。国の極秘事項を聞かされているのか俺たちは。ヤベェことに首突っ込んじまったなぁオイ。


 国が絡むと言うプレッシャーに押しつぶされそうな俺を他所にアリスは淡々として話を続ける。


「“アリス”の名を継承した者は積極的に異世界へ赴き、レポートを残し、家や国の為にその力を惜しみなく使うと言う役目が課せられるのです」


「まあ、積極的に異世界に……それって危険な行為ではないですか?こことは全く違う場所へ行くってことですよね」


 シルマが心配そうに聞くとアリスは少し儚さがうかがえる表情を浮かべてにこりと微笑んだ。


「ご心配して頂いてありがとうございます、シルマさん。確かに、異世界に飛ばされる度に戸惑いますし、多少の怖い思いや危険は伴いますが、うーちゃんが満足するまで異世界を彷徨い、元の世界へ戻れる保証があるのですよ」


 さらっと言った。今、多少の怖い思いや危険は伴うって言ったし、ウサギが満足するまで異世界を彷徨うってヤバいことさらっと言った。


 貴重な力を持つとは言え、そんなハードことを子供にやらせる家と国ってなんなの。闇なの。暗黒市議だろ。怖いわ!


「異世界転移の力を持つ存在は貴重です。しかし、簡単に異世界に行くことは叶わない。しかし、ワンダーミラ家には初代アリスが作ったウサギとの縁のおかげなのか、ウサギの力と呼応する存在が生まれることがあるのです」


『生まれることがあるってことは、アリスが存在しない代もあるってこと?』


「はい。もちろん、ワンダーミラ家は歴史ある家柄とされておりますが、初代を入れて私で10代ぐらいですね」


「マジか。お前、めっちゃ貴重な存在じゃん」


「はい。こう見えてもめっちゃ貴重な存在です。だから、国は異世界の研究のため、ワンダーミラ家に依頼を出し、こちらもそれに応えているのです。私自身も少しでも国の研究に役立ちたいと本気で思っているのですよ」


 はにかんだ笑いの奥で少し疲れと言うか、寂しさの様な感情が見えた気がした。めっしゃ健気じゃん。それに比べてこの国の恐ろしさよ。おとぎの国とかファンシーな国名なのに闇が深い。


 あ、でもグリム童話とかは結構な闇があるから納得……いや、納得できないできないだって“アリスである”ってこと以外に命の保障ないじゃん。国、レポートの提出をお願いしているだけでサポートしてないじゃん。


「異世界転移ができるウサギも、それと一緒に行動できるアリスも貴重な存在だからね。悪い奴らに誘拐とかされないためにも、国家機密になるのは当然だよ」


 力になれなくてごめんね、とカルミンがアリスの肩に触れ、アリスは微笑んで気にしないでと小さく首を横に振った。


 ふむぅ、なるほど。アリスやウサギの件が国家機密なのはそう言うことか。確かに、関係者以外に知られてないなら少なくともこの世界では安全は保障されているってことか。


 よかったよかった……でも、その国家機密、部外者の俺たちに普通に話て大丈夫?極秘って言われてから大分気になってたんだけど、本当に俺たちが聞いてもいい話なのか?


「なるほど、だからワンダーミラ家で生まれた子供さんにアリスの名前を継承させる必要があるのですね」


 国家機密を聞かされ大きな事に巻き込まれて震える俺の隣でシルマが真剣な表情で頷いていた。否、シルマだけではない。シュティレもアンフィニもミハイルも話を理解し、固い表情で唸っていた。


 シュバルツにとっては相変わらずこの手の話は難しいのか、途中から飽きてフルーツケーキを楽しみ始めている。その姿今の俺の清涼剤となっている。


 ねぇ、なんで誰も動揺してないの。なんでそんなに冷静でいられるの。国家機密を聞かされてるんだよ?もしどこかでこの情報を漏洩させると多分消されるヤツだよ?場合によっては国から消されるかもしれないんだよ?


『でも、そんな重大な役目があるのによく全寮制の魔法学校へ行くことを許されたね』


 こちらは国の長としての余裕のか、国家秘密が何のそのと言わんばかりにけろりとしてアリスに質問を投げかけた。


「うーちゃんさえいればどこからでも異世界へ行くことは可能ですから。家としても定期的なレポートさえあれば、私がどこにいて何をしようとも構わないのです。役目を果たしていればある程度は自由なので、あまり窮屈に思うことはありません」


 アリスは微笑みながらしっかりと答えた。聞けばウサギは普段は貴重な存在のためワンダーミラ家の屋敷で管理されているが、定期的な異世界レポートのためにアリスが短期ではあるが一時休学をしてお役目を続けてきたらしい。


 魔法学校で出会った時はカルミンとのやり取りも含めて、お嬢様な雰囲気があるイマドキの女子高生かと思っていたが、まさかこんなハードな役目を背負わされていたとは……ヒトって本当に見た目によらないな。


「それで、お前とウサギがニコイチなのはわかった。互いの存在がないと異世界には行けないってことだよな」


「はい。そうです」


 長く複雑な話の末、きちんと理解ができていたか確認ついでに聞くとアリスは首を縦に振って俺の言葉を肯定し首を縦に振った。よかった、合ってるみたいだ。


「それならどうしてあんなに必死にウサギを探していたんだ。この屋敷に住み着いているんならいつかは帰って来るんじゃないのか」


 その質問にアリスは表情を曇らせた。あれ、俺変なこときいたか。内心で焦っているとアリスは伏せていた目を俺の方に戻し言った。


「よく逃げる、とは言いましたが今まで屋敷の外に出たことはなかったんです。なので、今回はなにか特別な異変が起きたのではないかと心配になり……うーちゃんを早く見つけないとって必死になって探していました」


『なるほど、いつもとは違う言わば異常事態だから君は家から呼び戻されたわけか』


「そうなんですよー。ワンダーミラ家、ロート家総出で捜索したらしいんですけど、見つからなくて。なので、今回は大事だからって一応親族である私も、人手としてアリスと一緒に呼び戻されたんです」


 ウサギが見つからない不安が込み上げて来たのか、しょんぼりと肩を落とすアリスの隣でカルミンが代りに説明した。


「なるほど、2人共学校があるのに大変だな……うん、ここまで話して貰ったんだし、最後まで協力するよ。だからあんまりしょんぼりするな」


 ここまで来たならもうままよ!と腹を決めた俺にアリスとカルミンは目を丸くした後、同時に嬉しそうに微笑んた。


「はい、ありがとうございます」


「さすが騎士様!懐が深いっ」


「ははは……喜んでもらえて嬉しいよ。じゃあ、まずはさっきウサギを見かけた広場に……」


 喜ぶ2人を眺めつつ、面倒事の幕開けにげんなりしながらも、ますは行動しようと提案したその時、俺の肩の上に座っているアムールが俺の頬をツンツンと突く。


「ご主人様、あちらをご覧ください。ウサギです」


「えっ」


 アムールが指を差すその先に視線が集まる。そこには小さくてモフモフした生き物が長い耳と小さな鼻をヒクヒクとさせて丸まっていた。


「うーちゃん!」


 アリスが声を上げて椅子から立ち上がる。うーちゃん……ってことはあの子が件のウサギか。


「よかった。戻って来ていたのね。うーちゃん、こっちおいで」


 安堵の表情を浮かべ、アリスは両手を広げてその名を呼ぶ。しかしウサギはぴくっと耳と鼻を動かした後、アリスの呼びかけには答えず、そのまま背を向け俺たちとは真逆の方角へぴょんぴょんと飛び跳ねて行ってしまう。


「あ、うーちゃん!待って」


「待て!アリス、おい、アリス!……っみんな、俺たちも追うぞ」


 再び逃げたしたウサギを俺たちを置き去りするほど必死に駆け出したアリスの後に続き、俺たちも全力でウサギとアリスを追いかけた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


聖「次回予告!なんとウサギは館の中にいた。必死で追いかけるクロケルたち。その先で彼らを待ち受けていたのは、更なるトラブルだった!クロケルの運命と胃の状態は大丈夫なのか」


クロケル「またトラブル。もうヤダ、本当にヤダ!」


聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第73話『不思議の国のクロケル』異世界から更に異世界へ!?」


クロケル「なんだその世界的名作に酷使したタイトルは」


聖「やだなぁ、リスペクトだよ、リスペクト。インスパイアーとも言う」


クロケル「それは誰に対するなんのいいわけだ?」





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