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第71話 おとぎの国の災難

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。


6月なのに暑いですね。職場でも家庭でもついにクーラー稼働ですよ。電気代も気になりますが体調も第一なわけで……難しいですねぇ。寒いだけなら着こめば何とかなりますが暑いと脱ぐにも限度がありますからね。


皆様も猛暑の体調には十分にお気をつけくださいませ。せめて水分は取ろう(経験者は語る)


本日もどうぞよろしくお願いいたします。

「クロりんの端末にリニアのチケットを送ったから確認しておいてね」


 ペセルさんがにこっと笑うと同時にポケットにしまっていた俺の端末がブブッと振動する。画面を確認してみるとリニアのチケットらしきものが表示されていた。


「電子チケットなんですね」


「そうだよ!駅にいる駅員ロボットに見せたら通れるよ。隣国まではもちろんリニア1本でいけるからね」


 画面に表示された電子チケットには“おとぎの国行き”と書かれていた。送られて来たデータを間違っても消してしまわない様に即座にロックをかける。もちろん、念のためスクショもしておいた。スクショしたものにチケットとしての効果があるかは不明だが……。


「しかし、隣国からしか行けないとは言え、ネトワイエ教団の連中が先に星の国とやらに入国したらどうするつもりだ」


 ミハイルが深刻な表情をして言えば聖がしっかりとした口調で返す。


『その可能性は高いけど、星の国敵の入国審査は厳重で厳しいから手続きに時間はかかる。それに入国後も町人のフリをした警備隊が入国者を監視しているから、下手に動けないと思うよ』


 聖はしれっと言ったが、ちょっと待って何それ怖い。罪人でもないのに国を挙げて監視されてるのかよ。ちょっとした監獄じゃねぇか。星の国とか言うロマンチックな国名のくせに(と言う表現は失礼かもしれないが)そのガチガチ過ぎる情勢がロマンの欠片も感じられない。


「一応、今日の日付でチケットを取っておいたけど、日付は変更できるから急いで出国しなくてもいいよ。どうする?もう出国しちゃう?」


 その場の全員を見回しながらペセルさんがにこやかに確認する。ネトワイエ教団の動きには注意しなければならないが、必ずしも急ぎの旅ではない。なんだったら、電子の国をもうちょっと見てみたいと思わなくもないが。


「せっかくチケットを取って貰ったので、今日中には出国したいと思っています。みんなもそれでいいよな」


 一応、確認するが特に反対意見はなかったため、問題なく本日中の出国が決定した。何でこんなに慌ただしい旅をしているんだろうか。


ネトワイエ教団とか言う意味の解らん連中と出会わなければ、もっとゆっくり旅をしてシルマの補助付きで自分の強化素材を集められてそこそこレベルも上がっていたのかな。と思うとちょっとモヤッとする。


 だって、グラキエス王国を旅立って以降は一切強化素材を手に入れられてないし、もっと言えば集めたでの素材も必要な数は揃っていない。俺はいつになったらレベルが上がるんだ……。


「あの、星の国にいらっしゃる神子様のお仲間さんに確認のご連絡を取るのはいかがですか。これから向かうとご報告していればお互いに安心できると思います」


 自分の状況を客観視し、気分が沈んでいる俺のとなりで、お怒りモードから気分を落ち着かせたシルマが小さく手を上げておずおずと提案した。


 それを聞いたペセルさんは両手を胸の前で合わせて大きく頷く。


「うん、そうだね!ナイスアイディアだと思う!アポイントメントは大事だもんね!じゃあ、ペセルちゃんが代表して連絡を入れてあげるよ」


 今の内に荷物をまとめておいてね!とこちらに手を振った後、ペセルさんは端末を立ち上げてどこかへ連絡を始めた。


 俺たちはペセルさんのお言葉に甘え、部屋に戻って荷物をまとめることにした。まあ、かさばるものは聖がデータに変換して預かってくれるからまとめると言っても武器や必要最低限の回復アイテムぐらいなのだが。


 部屋をざっと見て回り、ある程度の掃除をすませて忘れ物がないかの確認をした後、俺たちはペセルさんの元へ再び集まった。




「お、みんなもう準備できたんだ。早いねぇ~」


「はい、自分で持つ荷物はほとんどないですので。ペセルさんの方はどうですか、上手く話はつきましたか」


 それが一番の不安要素だったので恐る恐る確認すると、ペセルさんはにこっと笑って答えた。


「うん、バッチリだよ!シャルっちから情報は貰ってるから問題ない、わざわざ連絡するな。そんなに心配なら入国の際に門番に自分の名前を伝えてくれって言ってた。待ってるから早く来いってさ」


「そ、そうですか」


 入国を拒否されなかったのはいいとして、なんだろう。言葉に端々に感じられるトゲは。面倒くさいと言う思いが全面に押し出されているような……。


『気にしなくてもいいよ。あいつが素っ気ないのはデフォルトだから。でも(性格以外は)悪い奴じゃないから、安心していいよ』


 聖がフォローを入れたがなんだその括弧の中の言葉は。正確は悪いんか!だとしたらこれから会うのがちょっと不安だわ。


『ああ、悪いって言ってもケイオスに近い感じかな。ただケイオスは竹を割った様な性格だからある程度の愛嬌はあるけど、そいつの場合はなんだろう……愛想がなくて厳しい?みたいな』


「なるほど、気難しい性格だと言うことは理解した」


 これ以上不安は抱きたくはないので、星の国の長についてはこれ以上追及しない様にしようと決めた。後々の心労は未来の俺に託そう。


「よし、じゃあ、準備もできたことだし、駅に移動しようか!案内するよん★」


 ペセルさんが元気にそう言って歩き出す。俺たちも素直にそれに続き、ペセルさん宅を後にした。


 


 駅まで案内された俺たちはホームでペセルさんとシェロンに見送られることになった。リニアは既に到着しており、俺たちはそれに乗り込んで、他の客がいないことを確認して立ち話をする。ここまで同行してくれたシェロンさんとはここでお別れだ。


 なお、駅にスーパーアイドルがいると大騒ぎになるのでペセルさんは自分の容姿に関するデータを一時的に書き換えて、黒髪ロングの黒縁メガネの大人めな少女へと姿を変えている。


「それじゃあ、みんな気をつけてね。おとぎの国から星の国へ向かうまでの道のりはアムールがナビをしてくれるから、ね、よろしく」


 ペセルさんが俺の肩の上に座るアムールに笑いかけるとアムールは胸を張って自信満々に答えた。


「任せてください!ご主人様はこのアムールがしっかりと送り届けます」


「はは、頼もしいな」


 小さな体で得意げな表情をするペセルが背伸びをする幼子の様で可愛くて、俺はつい噴き出してしまった。


「ひっ」


 そして同時に背筋が凍る。この寒さは()()()()……。スイッと後ろを振り向くと、シルマとシェロンがまたブリザードなオーラを纏いこちらを睨みつけていた。ひぃ、何でだよぉぉぉっ!!


「ふふふ。若いのう、しかしシュティレがあれほどまでに感情をむき出しにするとは。クロケルよ、お主、中々面白い奴じゃのう」


「面白くない、何も面白くないです!」


 涙目で訴える俺にシェロンさんが笑いながら「すまぬなぁ」と謝った時、ホームに発車を告げるベルが鳴り響く。


「おっと、もう時間か。ひとまずの別れとなるが、困った時はいつでも連絡するがよい。直ぐに飛んで行ってやるからの。シュティレ、我のしっかり力になってやるのじゃぞ」


「うん、ペセルちゃんも!アイドル業があるから頻繁にお手伝いは無理だけど、サイバー関連なら役に立てると思うから、追加情報待っててねっ」


 シェロンさんとペセルさんが手を振って俺たちに励ましと別れの言葉を継げる。俺たちは、世話になった頼もし2人に深々と頭を下げた。


「本当にお世話になりました。今後ともよろしくお願いいたします」


 俺に続いてシルマ、シュバルツ、シュティレも感謝と別れの挨拶を述べた。ミハイルとアンフィニが素気なのは通常運転なので仕方がない。


「あ。そうだ。クロりんに伝言」


「伝言?誰からですか」


 ペセルさんが何かを思い出した様で、俺に呼びかけて来た。この土壇場で何を思いだしたと言うのか。もうすぐ扉が閉まるぞ。


「アストちんから」


「アスト……、えっ誰?」


 聞きなれない名前の人物からの伝言。俺は全く意味が解らず、その場でぎゅむっと眉間に皺寄せて困惑しているとペセルさんは笑顔で続ける。


「星の国の長だよ!さっき連絡した時に言われたの。ここに来るまで災難に巻き込まれる気をつけろよって。それなりに時間がかかるのは理解しているから焦らなくてもいいって」


「え、災難?災難ってナニ」


 不穏な言葉に俺の心が不安と言う感情に塗りつぶされた瞬間、無常にも扉が音を立ててしまる。え、ちょっと待って!大事なことが何も聞けていないんですけど!?


 ペセルさんの言葉が気になりすぎて扉に張り付き、少しでも事情を知ろうと試みたが、ペセルさんはそれ以上話すつもりはないらしく、笑顔で手を振っていた。


「ま、待ってーーーーーー!!気になるんですけどぉぉぉ。これから俺に何があるんですかぁぁぁっ」


 俺の絶叫も空しくリニアは音もなく発車し、ペセルさんとシェロンさんの姿はあっという間に見えなくなった。




 リニアには生前も含めて初めて乗ったがすごい速さだった。磁石の力やべぇ……浮いてるなんて嘘だろと言う感覚すら覚えた。


 はあ、これでペセルさんの謎の言葉がなければもっとよかったのに……。なんだよ、災難って。と言うかアストさん?ってどなた。もうそれが気になりすぎてリニアの中でずーっとそわそわしてた。座り心地は良かったのに精神的には全然最高じゃなかった。


 とは言え、電車と違って激しい揺れはないし、シェロンさんみたいな外部装甲なしの大爆走ならぬ大爆翔(だいばくしょう)でもないので、そう言う意味合いでは本当に快適に、そしてあっという間におとぎの国へと辿り着いた。


「ここがおとぎの国か、すげぇな……エレットローネとは別世界だ」


「そうですね……自然が多くてのどかな国です。気持ちがのんびりしてしまいますね」

 

 呆ける俺の隣で同じくシルマも感嘆の声を漏らして辺りを見回していた。シュバルツとシュティレも声こそ出していないが、目の前の光景に心を奪われているのか、その場で固まっている。


 駅に降り立ち、改札を降りた俺は目に飛び込んできた世界に驚いた。駅の花壇には丸みを帯びた色とりどりの花が咲き、町と自然が調和してのどかな空間を作り上げている。


 正面に構えるイルカをモチーフにした大きな噴水が訪問者を迎え、その前を小さなウサギが1匹ぴょこぴょこと跳ねて行く。こんな人通りの多い場所にウサギがいるなんて、この国の動物はヒトに慣れているのだろうか。


 建物の多くは丸みを帯び、中にはキノコの形をしている家や、かまくらの様にまん丸の家が並んでいた。壁も屋根の色もとてもカラフルだが、派手と言うよりかはなんだろう……見ていて楽しい色合いだ。多分、パステルカラーというヤツだ。


 地面は発泡セラミックでできた赤茶色の煉瓦をバスケットウェーブに並べたデザインになっていて、町に点々と並ぶポール型の街灯もライトの部分を黒い籠で覆った様な形をしていた。


 ざっと町を見渡しただけでも町全体がかなりポップなデザインになっていた。そしてこの国全体からは独特の空気感だった。この場にいるだけでほんわかとした気持ちなる。どこか非現実的……言うなれば絵本の世界に入った様な気分になるのだ。


『おとぎの国は妖精や精霊の加護で成り立っている国だからね、非現実的な雰囲気に飲まれやすいのもわかるよ』


「建国したのはヒトではなく妖精か……なるほど、道理で神力を感じると思った」


 聖の説明を聞いたミハイルはむず痒そうに体を捩り、何度が羽をバタバタとさせた。なんでアレルギーみたいな反応をしてるんだ。


 神力ってことは……ミハイルは魔族だから神属性に弱いとか?いや、でもそれだったら俺も一応魔族だが体調に変化はないが……。


 ぼんやりそんなことを考えて頭をひねっていると、聞き覚えのある弾むような元気な声が耳に届いた。


「あれぇ、クロケルさんだ。ヤッホー」


「カルミン!?とアリス」


 声の主を確認して俺は驚いた。そこには魔法学校で出会った生徒でケイオスさん直属の教え子でもある少女コンビ、カルミンとアリスがいたのだ。


 以前会った時は制服だったが、今は完全な私服だ。カルミンは白地でフリル付きのブラウスにデニムのパンツ姿、トレードマークの赤いパーカーもしっかりと羽織っている。


 アリスは青を基調とし、白地にトランプのマーク刺繍が施されたエプロン(?)が印象的なゴスロリ姿だった。白と黒のストライプのニーハイがアクセントになっている。


 知り合い(と言ってもこの2人の場合顔見知り程度だが)の私服姿ってなんか新鮮だよな。活発な私服とファンシーな私服、それぞれの性格と趣味を体現している様なきがして、見ていて興味深いものがある。


 そんな俺の思考回路など知る由もなく、カルミンはちぎれんばかりに手を振り、アリスは俺たちと目が合うと丁寧に頭を下げた。驚きつつも、小走りに近寄って来た2人を迎える。


「こちらは?」


 シュティレが不思議そうにカルミンとアリスを見る。そうか、シュティレは2人とは初対面だったな。


「ああ、紹介するよ。カルミンとアリスって言うんだ。先だって訪れた魔法学校で出会ったんだ。ちょっとトラブルに巻き込んじまったけど、ケイオスさんの教え子でとても優秀な生徒なんだぜ」


「カルミン・ロートでぇす。よろしくお願いします」


「アリス・ワンダーミラと申します。よろしくお願いいたします」


 2人は俺の紹介の言葉に続く形で初対面であるシュティレに向かってぞれぞれお辞儀をして挨拶をした。


「これは……丁寧な挨拶、痛み入る。私はシュティレ、クロケル殿らを補佐するため、共に旅をしている騎士だ。よろしくな」


 俺の言葉から2人がこの度の事情をしらない一般人だと即座に察したシュティレが詳しい内容は言わずに簡潔に、しかし決して嘘のない挨拶をした。流石は騎士、一瞬で状況を把握するとは恐れ入る。


「ほら、お前も初対面だろ、挨拶しろ」


「はい!わたしはアムールです。ご主人様の旅のナビゲートを担当しております」


 アムールも2人とは初対面。挨拶する様に促すとアムールは俺の肩の上でぴょこんと立ち上がって元気に挨拶をした。


「わあ!ペセルちゃんそっくりなAIですね。かわいい!」


「本当だ。色違いでマニッシュな衣装だけどペセルちゃんそっくり!ん、でもペセルちゃん型のAIの販売なんてあったかな?」


 カルミンが目を輝かせながらアムールを覗き込み、アリスが鋭い言葉を呟いたのでちょっとドキッとした。と言うか、ペセルさんって本当に人気アイドルだったんだな。注目を集めるぐらいならもう少しペセルさんとかけ離れた見た目にした方がよかったかも……。


「暫くぶりだな。でもなんでこんなところにいるんだ」


「おとぎの国は私たちの実家がある場所なんですよー」


 アムールのことを適当に誤魔化し、思いがけない再会を嬉しく思いつつも驚く俺にカルミンは元気いっぱいに答えた。なるほど、と思った矢先に新たな疑問が浮上する。


「魔法学校は全寮制のはずだろ。どうして実家にいるんだ。学校はどうした」


「あー、それはですねぇ……」


 二回目の質問に歯切れが悪くなったカルミンは隣で大人しく佇むアリスの方にちらりと視線を向けた。


「大丈夫だよ、カルミンちゃん。クロケルさんたちだったら言っても大丈夫だと思う」


 そう言ってアリスはきょろきょろと辺りを見回した後、俺たちに手招きをする。それに従って俺たちが耳を寄せるとアリスは小声で言った。


「我が家のウサギがいなくなったのです。それに伴い、休学と外出許可を頂きました」


「う、ウサギ?ペットのウサギがいなくなっただけで、寮から出られるって言うか学校を休めるのか?」


 いやペットとはいえ家族か。“だけ”と言うのは失礼なのかもしれない。とは言え、やはりペットがいなくなったと言うだけで学校を休めるとは到底思えない。不用意な自分の発言に後悔しながらもアリスの返答を待つ。


「いえ、通常であれば、このような理由では許可は下りないと思います」


 アリスは気分を害した様子もなく、しっかりと首を横に振った。


「え、じゃあどうして……」


 質問を重ねる俺にアリスは仕切りに周囲を気にした後、声を落としたまま続けた。


「ワンダーミラ家のウサギは特殊な存在なのです」


『特殊って具体的には?』


 常に周囲を気にしており、重要なことを中々口にしないアリスに向かって聖が踏み込んで聞くと、アリスはやはり言葉を渋りモゴモゴとした後にガバッと勢いよく頭を下げた。


「申し訳ございません、人通りが多いところではちょっと……なるべくヒトが少ないところに移動しないと……」


 アリスが頭を下げた辺りから行き交うヒトに注目され始めている。そりゃそうだ、おっとり系な少女が男(俺)に頭を下げる光景なん理由をしらないヒトから見れば異常に決まっている。


「わ、わかった、わかったから頭を上げてくれ!もしお前に話してくれる気があるなら、人通りが少ないところに移動しよう。2人は心当たりはあるか?」


 焦った俺はアリスに頭を上げる様にお願いし、落ち着いて話せる場所へ移動しようと提案した。


 その言葉にアリスは少しだけ表情を曇らせ、そして迷う様な素振りを見せながら俺に向かって言葉を続けた。


「これ以上話すと、クロケルさんたちを巻き込んでしまうことになりますが……それでもかまいませんか」


「巻き込む?」


 その場の空気が俺にとって嫌なものに変わるのを感じた。遥か彼方に「トラブル」と言う文字が浮かび、磁石よろしく俺を吸い寄せようとする幻覚が見える。


「はい。ウサギのことを話すと言うことは、ワンダーミラ家の秘密を伝えることになります。なので、必然的にこの件に巻き込んでしまうかと……」


 申し訳なさそうに身を縮めるアリスとは対照的に、カルミンは良いことを思いついたと表情を輝かせて元気に言った。


「そうだ!もういっそ巻き込んじゃ言うよ!クロケルさん、ウサギ探しを手伝って下さいませんか」


「えっ」


 今すっごい図々しいこと言われた様な気がするぞ。予想外の言葉に面を食らって固まっていると、アリスはあわあわとしながらカルミンを窘める。


「か、カルミンちゃん、ダメだよ。こう言うのは私たちが判断するようなことじゃないし、協力してもらうにしてももっとちゃんとお願いをしないと」


 アリスは面食らっている俺たちの様子を気にていたが、カルミンはお構いなしにけろりと続ける。


「だから、今お願いするの!人手は多い方が良いし、クロケルさんとシルマさんの戦闘には目を見張るものがあったし、力を貸してもらった方がいいよ!ほら、せっかく得た機会だよ、ちゃんとお願いして」


「ちょっ、カルミンちゃん!?」


 グイッと背中を押されアリスが不安そうに背後のカルミンを見るが、カルミンは鋭い眼光で“言え”と訴えた。


 ぐっと言葉を詰まらせた後、アリスは戸惑いながらもしっかりと頭を下げ、己の気持ちを伝えて来た。


「みなさま、勝手なお願いだとは十分に承知しております。どうかそのお力を貸して頂きたいのです。ワンダーミラ家のため、どうか、お願いいたします」


 涙声で必死に訴えるアリスを見て、俺の中に気の毒だと言う感情と諦めと言う名の感情が生まれる。


「し、仕方がない。これも再会できた縁だ。協力してやる。みんなも、それでいいな」


 同じく話を聞いていた仲間たちに確認すると、過半数は首を縦に振って賛同した。ミハイルはこの状況自体に興味がないのか、好きにしろと興味なさげに吐き捨てた。


 アンフィニは早急にネトワイエ教団と接触し、妹のフィニィを救いたいのか不満そうな表情を浮かべていたが、賛成派が多いからなのか、反対と口にすることはなかった。


「はあ、じゃ、決定だな。アリス、詳しく話を聞かせてくれ」


「は、はい!ありがとうございます。では、私の屋敷に参りましょう。関係者しかおりませんのでゆっくりお話ができると思います」


「よかったね、アリス!」


 ホッとするアリスの肩を満面の笑みで叩くカルミンの姿を微笑ましいと思いながらも、俺は眩暈を起こして悟った。これは面倒事のフラグが立ったな、と。急激な心労に膝から崩れ落ちそうになった時、俺の記憶を何かが霞める。


 ん?ウサギ、ウサギか……何か引っかかる様な?モヤッとしていた記憶が鮮明になって行く。脳裏に浮かんだのは駅に降り立った時、噴水の前を飛び跳ねていたあのモフッとした小さな生物。あれ、ウサギだったよな。


 アリスの言葉と俺の記憶が繋がり、閃いてしまった。俺は人通りが多い駅前にも係わらず叫んだ。


「あーーーーーーーーっ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


聖「次回予告!ネトワイエ教団から解放され、一旦は小休止……とは行かなかったみたいだね。クロケル、トラブル吸引とか言う特殊スキル持ってるんじゃない?」


クロケル「ねぇよ、そんな迷惑スキル。ねぇと信じたいよ」


聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第72話『ワンダーミラ家のウサギ』じゃあ、そう言う星の元に生まれたんだね。カワイソー」


クロケル「人生そのものがトラブル続きってことかよ!!」




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