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第69話 ミニペセルの初期設定は前途多難!?

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。


先日、友人に「ユーザー以外にもコメント書き込めるようにしたら」と言われたのですが、誰が私の小説に感想を送ると言うんだ。


こんなぐだぐだな小説はアンチコメだらけだわ!でも、もしかしたら私の小説を面白いと思って下さるお優しい方が1人ぐらいはいらっしゃる可能性があるのなら、期間限定で誰でもコメントを書き込めるようにしてみようかな~と思って見たり?


夏休み期間の7月か8月に実験的にやってみようかな。と考えております。コメントが全くなくても読んで頂けるだけで十分嬉しいですが。何事もチャレンジですので!


そう言えば私もファンの絵師さん等にコメント(マシュマロ含む)を送ったことないしな。勇気がね、出ないんですよ(泣)常に画面越しに応援しております。


本日もどうぞよろしくお願いいたします。


 合格……合格!?本当に!?


「本当ですかっ」


 あっさりと合格判定を貰えたことに驚いて俺は身を乗り出してペセルさんに確認した。ペセルさんはにこにこと笑いながら空中に画面を出して動画を見せて来た。さっきの俺の歌唱動画だ。


 昨日も思ったがアーカイブ動画まで設定バッチリなのが凄いな。視聴者に優しい。まあ、俺の歌唱動画が残ると言うのはちょっと抵抗があるが。


「ホントホント、ほらみんなの評価も高いでしょ。昨日と全然違う」


 そう言われて書かれているコメントを恐る恐る確認する。ペセルさんの反応からして悪いものはなさそうだが、やはり他人からの評価は緊張が伴う。


“昨日のイケメン、1日で雰囲気を変えて来た。これは泣ける”


“昨日に続き聞いたことがない歌だったけど、まさかの泣きソングで来るとはこのヒトが作った歌なのかな”


“バラードなのに熱量がすごいな。歌唱は普通なのに圧倒された”


“歌唱は普通なのに何故こんなにも感動できるのか”


 やはり「普通」と言う言葉が多く並び若干心を抉られたが、良いところを見れば昨日と違い俺の容姿だけを褒めたり、曲の物珍しさを褒めているだけのコメントは見られなかった。


 泣ける、切ない、そんな言葉を見るたびに「わかってくれますか!そうなんです、このキャラはめっちゃ悩んで生きているんです。第1期の前向きキャラな彼を見た後だとこの葛藤に重みが増して更に泣けるんです!」と語りたくなったが頑張ってそれを飲み込んだ。


『オタクのパワーすごいな。表現力まで味方につけるのか』


 隣で画面を覗き込んでいた聖が驚愕している。俺も驚きだよ、萌えとエモさを折りませたら事態が好転するとか誰が思うかよ。オタクの熱量やべぇよ、自分でもちょっと気持ち悪いもん。


 歌唱が普通の割に圧倒されたと言うコメントもチラホラみられるが、それは多分熱量の中に「デュフ味」を感じるからだろう。若干ゴリ押し感と無理やり感を感じなくもないが、とにかく合格は合格だ。


「ね、悪くないでしょ。ちゃんと心に響いてる。ってことでぇ~。クロりん手を出して。ああ、もちろん両手ね」


 ペセルさんが俺を覗き込んで微笑んだので俺は一瞬戸惑ったが、そっと両手を差し出す。するとその手の上にペセルさんの手が重ねられ、それに驚いた俺の肩が携帯のバイブレーションの如くビクゥッと揺れる。


「あっ、動いちゃダメだよ。落ちたら可哀そうでしょ。大切に扱ってね」


「は、はい。すみません……あっ」


 一体なんなのか、そう思って自分の掌の上を見ると、小さいペセルさんもといミニセルが俺の手の上でちょこんと正座していた。重さは特に感じない。綿でも乗せられているような感覚だ。


 改めて見ると可愛い……このもち感がたまらん。そう言えば俺の世界でもあったな。キャラが座っているフィギュアとか、壁に頬を押し付けてペチャッてなってるデザインの缶バッチのガチャ。


 めっちゃ回した記憶あるわ。種類が少ないやつだったら全種出るまで回したわ。そう言えば、コレクションしてたやつ、どうなったんだろう。


『残念ながら“千賀和樹”が消滅した時点でそれもなかったことになってるから部屋ごときえてるんじゃないかな』


 俺の心を躊躇いなく読んだ聖がさらりと残酷な事を告げて来たので、大声を上げそうになったが、昨日、仲間の前で大声のオタク語りで痛い目を見ているのでとか抑えて小声で、しかし絶望をしっかりと交えて聖に詰め寄った。


「マジかよ!諭吉を銀貨に大量転生させてまで集めてたのに!?」


『うん、ご愁傷様』


 軽く言ってくれるな、こいつ。と言いうか、芋づる式に気がついたがソシャゲのログボも切れてるってかナシになってるってことだよな。欠かさずログインして連続ログインボーナス貰う努力してたのに!!通算ボーナスのガチャ石が無駄に!?


『でも君は存在事消えているわけだから“お金を使った”と言う事実も消えてるから、プラマイゼロ?』


「それは慰めの言葉のつもりか。結構ひどいこと言ってるが自覚はあるか?」


 なかったことになっているとしても俺の手には残ってるんだよ!幾度となくレバーを回した感覚がな!!


 あとガチャの石!せっかく配布石をコツコツ貯めてたのに……次の通算ログボで300連分の石ができたのに……。さようなら、俺の推し。そして俺の苦労。


「クロりん、どったの?さっきから百面相してるけど大丈夫?」


 ペセルさんの心配そうな声が聞こえて俺は我に返った。いかんいかん、またオタクモードに突入して周りが見えなくなっていた。


 百面相で悶えたことによりまた注目を集めてしまったらしい。心配と戸惑いが入り混じる視線を関しながらも取り直してペセルさんに頭を下げる。


「ん、んんっ!いえ、何でもありません。力を貸して頂いてありがとうございます」


「御礼なんて言わなくてもいいよ。約束だからね!クロりんが頑張った結果だよ」


 にこりと笑って俺をageするペセルさんはアイドルではなく女神でしょうか。相手を極力否定しないスタイルは流石王道アイドルと言ったところか。自己肯定感あがるわ~。


「これからよろしくな。えーっと……ミニセル」


 手の上に乗る小さな命に俺は恐る恐る挨拶をしたが、数秒待っても特に反応が返って来ることはなかった。どれほど待っても手の上のミニセルはちょこんと座ったまま微動だにしない。


 あまりに動かないのでツンツンと頬を突いてみてもやっぱり動かない。もちもちのほっぺに俺の指先が吸収されるだけだった。


「うわ、もち感やべぇ」


「うふふ、良い触り心地でしょ。プログラミングをいじればこうしてデータに触れることもできるんだよ。万人受けする絶妙なぷに具合を追及してみました」


 ぷにぷにとミニセルの頬を突き続ける俺を見てペセルさんが楽しそうに笑って言った。俺は納得し、頷く。


「そうねんですね、通りで触り心地がいいなと……じゃなくて!あの、この子全然動かないんですけど」


「うん、初期化したし。今のその子はただのお人形だよ」


 ペセルさんがあっさりと答えた。え、何その当然でしょうみたいな態度は。そんな態度をされても俺にはまったくわかりませんよ?


「初期化!?えっ、でも、昨日見せてもらった時は元気に動いていた様な……」


「昨日はペセルちゃんから切り離したばっかりだったからね。記録の残り香的なもので動いていたけど、初期化したからその子は能力意外は真っ白なAIちゃんなの」


「能力意外……。では戦闘能力に支障は出ないんですね」


 よかった、初期化とか言うから全部リセットされたのかと思った。戦力が補充のはずが一から育て直しとか言われたら俺の胃痛が限界突破するところだった。


「うん。能力については保証するから安心してよん★」


 ペセルさんは安心してと俺にピースサインを送って来た。うん、安心した。本当に良かった。俺の苦労が増えなくて。


「どうすれば動くんですか、この子」


「そりゃ初期設定してないとでしょ~」


 俺の手に乗るミニセルをじっと見つめて聞けばやはり当たり前のことを聞くなと言いたげな反応が返って来た。


「初期設定ってなんですか」


「クロりん、まさか機械の初期設定したことないの?専門家に任せちゃうタイプ?」


 珍しい生物を見る様な視線で俺を見つめ、首を傾げるペセルさんに俺は一応答える。


「いえ、自分で設定した経験は(生前に)ありますけど……この子はペセルさんの分身なんですよね。初期設定をする必要があるんですか?」


「あるよぉ。だって、ご主人様が変わるんだよ。ミニセルちゃんにも生まれ変わってもらわないと!そっちの方が愛着が湧くでしょ?」


「は、はあ……。でも、その初期設定とやらのやり方が分からないのですが」


 機器の初期設定の経験があっても説明書がないと無理だろ。プロならともかく素人がそれをやると故障の原因になるからな。


 俺はどんなものの基本使いながら覚えるがだが、機械だけは説明書をガッツリ読む派である。まあ、そんなことどうでもいいが。


「じゃあ、やり方を教えてあげるよ、とっても簡単だから安心して!」


 そう言ってペセルさんは俺の手の上に乗るミニセルに手を翳した。すると小さな体の上に小さな画面が現れた。


 書かれていることを確認するとそこには性格、衣装、体系、髪色など様々な設定項目が並んでいた。何だ、この既視感。俺ゲームでこんな感じの画面で何回か設定って言うかカスタマイズしたことありますよ?


 って言うか初期設定ってそう言う意味?もっと複雑なやつかと思ってた。経験あるある、何だったら教えてもらわなくてもイケる気がする。寧ろ力入れすぎて時間かかりそう。


 キャラカスタマイズが大好きな俺が目を輝かせて画面を覗き込んでいると、俺のワクワクな雰囲気を察したペセルさんが嬉しそうに笑った。


「お?始める前から楽しそうだね、クロりん、こう言うの好きなの?」


「はい、カスタマイズは結構好きです!」


「そっかあ、良かった!ならさっそく始めちゃおう」


 何故かペセルさんも嬉々としながら空中に浮かぶ画面を手早く操作する。軽くフリックして各項目が見やすくなる様に操作してくれる。


「性格はどうする?デフォルトだと、まんまペセルちゃんになるよ。元気なスーパープリティアイドル★」


 ウィンクをしながら自己PRをするペセルさんを見ながら俺は少し悩んだ。ペセルさんのこの感じには慣れつつあるが、このテンションのキャラと長旅(?)はつらい。テンションに押されまくって疲れそうな予感しかしない。


「そうですね、明るい性格がいいです。でも、ペセルさんよりは若干抑えめでお願いできますか。オリジナルと同じ正確ってつまらないし」


 つまらない、と言うのは嘘である。前向きキャラがいない面子(メンツ)で明るいムードメーカーは必要不可欠だと思ったのだが、いつまで続くかもわからない旅でハイテンションアイドルキャラと付き合っていける自信など俺にはない。


「はいはい。じゃあ、愛嬌のある性格にするね。ちょっと甘えん坊要素も入れてみる?あざとくならない程度に」


「あ、はい。そうですね」


 せっかく共に旅をするのだから、心の距離は遠いよりも近い方が良いし、見た目はペセルさんでも掌サイズの生き物が懐いて来るのは正直性別の関係なくかわいいと思うので俺はペセルさんの申し出に頷いた。


「了解~★後は容姿と衣装と……」


「わ、バリエーションが豊富ですね」


 俺とペセルさんは頭を突き合わせながらミニセルをカスタマイズしていった。話について行けない聖以外の仲間たちはその様子を遠くから退屈そうに俺たちの様子を見ていた。



 そしてこだわりのミニペセカスタマイズをすること数分。俺の掌の上には銀色の長髪をツインテールにし、深紅の瞳を持つ2P カラーのペセルさんが座っていた。


 服装はペセルさんの様なピンクのフリフリのアイドル衣装ではなく、白を基調としたパンツスタイルのスタイリッシュなアイドル衣装だ。所々に入れた赤い生地はアクセントのつもりだ。突然の戦闘でも対応できる様に手に持つタイプのマイクではなく耳に掛けるタイプのインカムをつけてみた。


 なお、衣装等で多少のアドバイスもらったが、見た目に関しては全て俺の好みである。銀髪で深紅の瞳は性別年齢問わず俺の好みのキャラなのである。


「よし、これである程度の設定は完了だね!では、再起動ぽちっとナ★」


 ペセルさんが画面に浮かぶ『Enter』の文字を押すと、ミニセルの体がピクリと動く。


「あ、動いた」


 正座をしていたミニセルは俺の掌の上ですっと立ち上がる。瞳が一瞬だけキラッと光ったかと思うとすっと俺の方に顔をみけて柔らかに微笑んだ。


「わぁ、かわいい……」


 思わず声を漏らすとペセルさんは自慢げに笑って言った。


「そりゃあ、ペセルちゃんの分身だからね!かわいいのは当たり前だよ。でもこの子は生まれたばかりのひよこちゃん。これから色んな世界を見せて、言葉を教えて、学習させてあげてね」


 なんか育成ゲームっぽいこと言われた。でも、まあ戦闘能力を育成する必要がないんだったらちょっと楽しそうではある。


「さぁ、ここからが一番大事。難所と言ってもいいよ。名前を決めてあげて」


「難所?名前をつけることがですか?」


 何が難しいんだろうか。確かに、今すぐ名前を考えろと言われると困るが、考えられなくもないし、と首を傾げる俺にペセルさんが続けて説明する。


「そ、この子が満足する名前をつけるの。気に入ってもらえないとご主人様認定を貰えず、言うことを聞いてもらえませーん」


「な、なんですと!?」


 両手で大きくバツマークを作るペセルさんを凝視するとミニセルが手の上でぴょんぴょんと飛び跳ね、両手を上げてアピールする。


「わたしに名前をつけてください!」


「えっええええ?ミニセルじゃだめですか」


 ペセルさんにそう聞けば彼女は首を横に振った。


「それはあくまで愛称だよ。その子はペセルちゃんの分身だけど、設定した以上は同じ性能を持つ別な存在。だから、ちゃんと名前を付けてあげて」


「う、うーん」


 そう言われても、女性の名付けなんて二次元でもしたことないぞ。メスと言うくくりならモンスターとか動物に限定してあるけど。


 俺は手乗りミニセル(仮)をしばらく眺めた後に背後で待機する仲間の方に振り向き、大きな声で叫んだ。


「みんなー!ちょっと集合~」




 その後、俺の号令で集まって来た仲間たちと円になり、俺たちはミニセル(仮)の命名会議を開くことになった。


「名前、ですか。責任重大な上に難しい問題ですね」


 シルマが眉間に皺を寄せてうむむと唸る。


「見た目のままでいいじゃないか、チビとか」


「嫌です!かわいくありません。却下」


 適当に発言したミハイルをミニセル(仮)がプイッと顔を背けてバッサリ斬り捨てる。


「ふむ、ミニセル(仮)よ。何か希望はあるのか。名付けて欲しいイメージがあれば申して見よ」


 チビと言われ、ご機嫌斜めなミニセル(仮)にシェロンさんが聞くと、視線をこちらに戻し、うーんと小首を傾げた後言った。


「かわいいは大前提。後は~、ファンシーで愛されそうな名前がいいなぁ」


 性格の設定にわがままって入れたかな。希望を出してもらえたのはいいけどなんでそんなふわっとしながらも難しい注文を付けるなよ。確かに、これは難所かもしれない。


「ミニセル(仮)ちゃんがわがままになるのは仕方がないよ。名前は生命が誕生するのに不可欠なものだからね。この世で過ごすための魂の相棒みたいなものだし、真剣になってるの」


 ペセルさんが苦笑いでフォローする。するとその言葉に反応し、シュバルツがうんうんと深く頷いた。


「それはわかるよ。ボクもクロケルに名前を貰った時、凄くうれしかったから」


「へぇ、君はクロりんに名前を貰ったんだ。なら、今回もそのセンスに期待しちゃおう!」


 興味深そうに笑ってシュバルツと一緒になって俺に期待の眼差しを向けて来る。やめろ、そんな目で俺を見るな!


「かわいい……か。菓子の名前は可愛いものが多いぞ。クラフティ、ロリポップ、グラニテ、シャルロット……。響きもファンシーだし、菓子と言う意味では多くの者から愛されているぞ」


 お菓子作りが得意だと言うシュティレらしい着目点だ。確かに、お菓子は名前の響きがかわいいものが多いし、いい感じいにファンシーだ。


「確かに可愛いけど……食べ物と同じ名前かぁ。却下かな」


 ミニセル(仮)は少し考えた後に却下した。提案したシュティレは残念そうに肩を落とした。


「では、銀の髪が美しいのでそこから取ってプラータさんなどいかがでしょうか。もしくは瞳の色から取ってガーネットさんとか。響きが可愛いと思うのですが」


 シルマの提案は俺がシュバルツに命名した時と同じ理由だった。相手の特徴から名付けると言うのも悪くはないと思う。


「うーん、無難なのはちょっと……愛され感もないし」


 ミニセル(仮)からまた却下の判断が下される。シルマはしゅんとして引っ込んでしまった。いいじゃないか、無難。無難ってことは少なくとも悪くないってことだろ!?


「では小さいを異国の言葉に変えてプティットならどうじゃ。響きも可愛いし、小さい者は愛されると相場が決まっておるからな」


 微笑みながらそう提案したのはシェロンさんだ。確かに破裂音は響きが可愛いもんな。でも、その考え方はミハイルとシルマの案と被るから多分……。


「わたし、チビって言葉嫌いなの!響きは可愛いかもだけど却下!大却下!」


 小さい体を大きく震わせ、ミニセル(仮)はシェロンさんの意見を却下した。


『君の分身、気難しくない?』


「こればっかりは仕方がないの!どんな性格にしてもこの名付け儀式では100パーセントこうなるから。言ったでしょ、ミニセル(仮)ちゃんは真剣なの」


 ここまでの流れをみて半笑いで言う聖にペセルさんは頬をぷくっと膨らませて返答した。


「おい、なんでもいいから早くあのチビを納得させろ」


「ああ、ミハイルに同意だ。そもそも、最初にあいつを手にしたのはお前だろ。責任をもってお前が名付けろよ」


 話が進まないことに苛立ったのか、ミハイルとアンフィニが何故か俺を睨む。アンフィニに至っては名付けの責任を俺に押し付けて来た。


「そんなこと言われても……」


 でもみんなも考えてくれたし、俺も何か考えて意見を出さないと。えっと、可愛くて愛される名前、愛される名前……漢字よりもカタカナの方がこの世界には合っているよな。


 かわいい、愛され、愛され……。懸命に俺の脳内を検索した結果、愛と言う単語に引っ張られる形で1つの単語に辿り着いた。


「アムール。アムールって言うのはどうだ」


「アムール……」


 ミニセル(仮)が俺を見上げ、俺の言葉を繰り返す。


『異国の言葉で愛とか愛情って意味合いが強い単語だね』


 聖が俺の言葉を補足するとミニセル(仮)の顔がパッと明るくなる。


「アムール、響きもかわいいし、愛を感じる名前です!うん、わたしはアムール!アムールです!」


 おおう、気に入ってもらえたみたいだな。意外とすんなり受け入れてもらえてホッとした。そしてよかった。オタクの性なんのかしらんが一時色んな外国語(と言うか単語)を勉強しておいて。かっこいい響きの奴は軒並み頭に入れたからなあ。輪舞(ろんど)とか交響曲(シンフォニー)とか。


 難所と言われた場所を突破し、胸を撫で下ろす俺にミニセル改めアムールは言った。


「では、続いてわたしのご主人様の名前を登録してください。以後、わたしはその方に従います」


『これはクロケルで良いでしょ』


 俺に確認せずに聖が言うと全員が頷いたので、俺は何も言えずに素直アムールのご主人様になることを受け入れた。


「クロりん、アムールに向かって自分の名前を言って」


 ペセルさんにそう促され、俺は頷いて手の上で言葉を待つアムールに言った。


「俺はクロケル。クロケルって言うんだ。よろしくな」


 アムールの深紅の瞳がキュルルッと音を立てる。そしてアムールは俺を見て宣言した。


「わたしのご主人様はクロケル様、設定完了。認証にロックを掛けました。変更はできませんのでご了承下さい。ご主人様、これからよろしくお願いいたします」


 アムールはにっこりと笑って礼をした。そして顔を上げたと思えばひよこの様に可愛らしく飛び跳ね、俺に顔を近づけて欲しいのかと手招きをした。


 何のつもりかと一瞬悩んだが、変なことはされないだろうと思い、素直にそれに従いアムールに顔を近づけると唇に柔らかいものが触れた。


「えっ」


 それは一瞬だったが、掌の上で得意げにそしていたずらっぽく笑う を見て俺は気がついた。まさか、キスされたのか。


「アムール!?」


 思わず口を押えて硬直していると、アムールは平然として当然の行動だと言わんばかりに胸を張って言った。


「忠誠の証です」


「お、お前な……小さくて色違いとは言え見た目はペセルさんなんだからもう少し気をつけて行動しろよ。はい、これ学習して!」


「ああ、そうなのですか。はい!この姿でキスはしません」


「……どの姿でもキスはダメだぞ」


 アムールはAIらしく素直に俺の言葉を受け入れ、学習した。まあ、ちょっとびっくりしたがこのサイズのもちもちの生き物にキスされたところでペットに舐められたぐらいの感覚なんだが。


 問題はサイズはともかく見た目がペセルさんだと言うことだ。トップアイドルである彼女らしき何かとキスしてるなんて完全にヤベェ奴だからな。


「どんな姿でのキスはダメ、わかりました。今後は気をつけます」


「よし、えらいぞ」


 素直な態度のアムールの頭を撫でてやればくすぐったそうな反応が返って来た。


「うふふ、学習すると褒められるんですね!覚えました。なでなでの為にこれからもどんどん色んなことを学びます」


「ああ、色んなことを吸収してくれよ」


 小動物的な反応が可愛くて、自分でも気持ち悪いぐらいデレデレしてしまった。よくペットに対してビックラブな飼い主を見かけるが、なんとなく気持ちが分かった気がする。そう思った瞬間。


「ひゃう!?」


 俺は寒気を感じた。ゾクゾクところの寒気ではない、これが刺す様な極寒の冷たさだ。恐る恐る後ろを振り向いてさらに戦慄した。


 目に映ったのは何か形容し難い黒だから紫だかよくわからない色の、とにかくすごいオーラを出しながら の頭を撫でる俺を睨んでいた。


 あれ、この感じものすごく怒ってませんか。俺、何にもしてませんよね。何か深いにさせるようなことしましたっけ。


「クロケル殿は女性に対する扱いが軽いのだな」


「ええ、本当に。誠実な方だと思っていましたが、違ったんですね」


 シュティレとシルマがそれぞれ刺々しい言葉を投げつけて来る。視線と言葉がとんでもなく重いし冷たいし痛い。


感覚としては特大で極太のつらら2本に体を貫かれている気分だ。なんで、なんで2人してそんなにご立腹なんですか!?


『あはは、クロケル。君やっぱギャルゲかラブコメの主人公向いてるよ』


 背筋が凍らせ、イマジナリーつららに体を貫かれている俺を他所に聖が盛大に笑っていたが、何が面白いのか全く分からず、俺の口からこぼれたのは震えまくっている情けない言葉だった。


「す、すみません。よくわかりませんが許してクダサイ……」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


聖「次回予告!順調に戦力も増え、人間関係も色んな意味でヒートアップ!ハーレムからのジェラシーストームとか痺れるね!」


クロケル「てめえ、他人事だと思って楽しんでるだろ」


聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第70話『次なる目的地を目指したいのに人間関係ギッスギス』だって、他人事だもん」


クロケル「シメる。今度と言う今度は絶対にシメる」


聖「あ、シルマちゃんシュティレちゃんがこっち見てる」


クロケル「ひっ!って誰もいねし!あっ!!あいつ、逃げやがったな」









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