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第63話 電子の国エレットローネ!電脳アイドル降臨

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。


最近暑いですね。蒸し蒸しではなくじっとり暑いのが辛いですね。湿度さえなければ洗濯物を乾かすのには適しているので嬉しいですが。


あとまた新キャラが登場です。今回、影が薄いキャラもいますがきちんと旅には同行しておりますので、心の目で見て頂けますと幸いです。


本日もどうぞよろしくお願いいたします。

「俺は、全部採用したいと思います」


『「「は!!??」」』

 

 悩みに悩んだ俺は結局、俺は全ての選択を選ぶことにした。今後の戦略を委ねられ、戸惑いとプレッシャーに押しつぶされそうになりながら勇気をもって決断したのだが、その場の全員に声を揃えて凝視されてしまった。


「あ!適当に言っているんじゃないですよ。みなさんの意見を聞いた上でどれも捨てがたいなぁって思ったんです。それなら、それぞれの良いところを全部採用しようって」


 何人かが「こいつ何言ってんだ」的な視線を送って来たため、俺は慌てて訂正した。暫く誰も言葉を発さず、自分の意見に自信がなくなって来て心がポクッと折れそうになった時、シェロンさんがケラケラと笑って言った。


「何じゃ、よくばりさんじゃのう。だが中々に面白い意見じゃ。詳細を教えてくれぬかの」


 その反応で場の空気が軽くなり、固まっていたシャルム国王とケイオスさんもようやく口を開く。


『そうね、シャロンの言う通りだわ。ビックリしたけど、理由を聞かずに否定するのは良くないわね』


『そうだな。クロケル、お前の考えを聞かせてくれ』


 よかった、誰からも反応がなかったのはビックリしていただけなんだな。即決で否定されなくてよかった。と思いながら俺は自分の考えを述べた。


「ざっくり言いますと、ライアーの陰謀を阻止するためには回り道は良くないと判断しました。相手の行動はこちらで把握できるので、先回りをして未然に相手の陰謀を阻止するべきです」


『それはアタシの提案した戦略ね』


「はい」


 シャルム国王が気分よく言い、俺はそれに頷いて話を進める。


「次に作戦は立てない方向で行こうと思いました。何かあった時は自己防衛。生きることを優先してその場で対応が現状、得策だと思います。ただし、これはあくまでも緊急時。勝手な行動や単独行動は避ける、と言った決まりは作ろうと思います」


『お、それは俺の戦略だな』


「はい。ケイオスさんの意見を参考にさせて頂きました」


 今度はケイオスさんが嬉しそうに言った。その言葉を肯定して話の締めくくりを目指して更に話を続ける。


「最後に参考にしたいと思うのは戦略補充です。相手の実力が未知であるため、戦力は多い方が良いと思いますが、仲間探しをしている間にネトワイエ教団の計画が進んでは大変なので電子の国で戦力補充をしたいと思います」


「ふむ、それは我のアイディアじゃの。採用してもらえるのは光栄じゃが、戦力補充のアテはあるのかの」


 シェロンさんが最もな指摘をするが、俺は一応、その辺りのことも考えていた。少し図々しいかもしれないと思いながらもその考えを口にする。


「アテはないです。なので大変差し出がましいようですが、電子の国に口利きをして頂けませんでしょうか。神子一行として共に旅をしたお仲間がいらっしゃるんですよね」


 自分で提案しておきながら内心はバッサリ断られてしまったらどうしようかとドキドキだった。


 断られてしまった場合は自力で仲間を探そうとは思うが、手間(と言ってしまっていいのか言葉に迷うが)は少しでも省きたいと言うのが正直な思いである。


『いいわよ。なら、アタシがぺセルと連絡を取ってあげるわ』


「ぺセル、さん。かつて神子と旅をした方のお名前ですか?」


 聞き慣れぬ名前にもしやと思い確認してみればシャルム国王は頷いてそれを涼やかに肯定した。


『ええ、かつて共に世界を救った者の1人、つまりアタシたちの仲間よ。ネトワイエ教団やアナタたちのことは事前に連絡をしてあるし、あのコなら良い返事をくれると思うわ』


「ほ、本当ですか!?」


 あっさりOKが出た上に話が良い方向に進んだため、俺はモロに顔を緩め、安心感丸出しで画面越しにシャルム国王を期待に満ちた目で見つめた。


『本当よ。期待して待っていなさい』


『仲間が増えるときにまた試練とかあったりしてな』


 にこやかに頷いて俺を安心させる様に言うシャルム国王の隣でケイオスさんが意地悪そうに言った後に、面白そうにケラケラと笑った。


 多分、ケイオスさんの性格上、悪気がある訳ではなく、正直な発言だとは思うが、心から思う。なにワロてくれとんねん。なんもオモロイことないわ。


『なんで関西弁なの』


「いや、何となく」


 心を読んだ聖に軽くツッコまれたがどうでもいいことなので適当に流した。


「ふむ。お主の考えは良く分かったぞ。クロケルの意見にクロケルの意見に意義がある奴はいるかの」


 俺が言い終わった後、シェロンさんが全員にそう呼びかける。数秒ほど間が空いたが、特に誰も挙手したり、反論するヒトはいなかった。


『アタシはクロケルの意見に賛成。困った時に連絡してくれれば補助してあげる』


『俺も異論はないな。俺の意見が採用されてるなら文句ナーシ』


 かつての英雄2人もあっさりと了承してくれて俺はホッとした。反対意見なんて出ようものなら、最初の案以外俺にひねり出せる考えなどまったくなかったため、何の滞りもないことに対し、非常に安心している。

 

「では今後、基本的にはクロケルの提案通りに事を進めよう。何かあれば我らが補助、そう言う心持でな。さて、報告も済んだし、今後の方向性も決まったところで会議はこの辺にしておくかのう」


 そう言ってシェロンさん座っていた岩からぴょんと飛び降りて言った。


『そうね、あんまり長々と話しても意味がないし、色々と情報は得ることができたから私はこれで満足よ。こちらからは何も提供できなくてごめんなさいね』


『俺も仕事があるしな。ああ、人工魔術師についてはまだ調査中だから待っておけよ』


「は、はい。ありがとうございました」


 お開きの空気を察して慌てて頭を下げるとシルマとシュバルツもそれに倣って頭を下げた。画面の向こうにいる2人は微笑んで小さく手を振り、通信を切った。


「はあ、何とか一段落か……」


 ただの話し合いだと言うのになんでこんなに疲れるんだ。と言うか毎回なにもしてないのに疲れるってどう言うことだ。俺、そんなに神経質だったんだろうか。


 チクリと胃が痛くなる感覚を感じて思わず腹部を押さえて小刻みに震えていると、クイッと服の裾を下に引っ張られた。視線を移すとそこには俺を見つめるシュバルツがいた。


「クロケル、ボク、役に立った?」


「ああ、お前がぬいぐるみのことに気がついたから、話が進んだんだよ。ありがとう」


「そっか、役に立てたんだったら、嬉しい」


 俺の様子を窺う様に見上げて来るシュバルツの頭をポンポンと撫でてやると、嬉しそうに瞳を輝かせて嬉しそうに頷いた。


「よし、これからの方針が決まったのであれば善は急げじゃ。エレットローネには我が送ってやる。秒速、いや音速でお主らを送り届けてやろうぞ」


 善意しかないその言葉に俺は固まる。旅路をショートカットできるのは嬉しい。しかし、またあのジェットコースターの旅が確定したかと思うと、少しだけ憂鬱になった。


 確かに竜になったシェロンさんは速いが限度がある。うう、酔わないように気をつけないと。楽をして移動しているはずなのに目的地に着いたらヘロヘロとか訳が分からん。


「はい。ありがとうございます」


 何はともあれ厚意であることには変わりない。俺は有難い申し出に感謝し、深々と頭を下げた。


 そして、出立のため洞窟から外へと移動している最中、前を歩くシュティレを目にしてふと思った。


「あ、シュティレ!」


「……なんだ」


 俺に呼び止められたシュティレがゆっくりと振り向く。突然声をかけたことが悪かったのか、彼女の反応はひどくぶっきらぼうだった。眉間に皺も寄っている。


 まだ不機嫌なのかな、と思いつつもこの機会を逃してはならないと思い、俺は引っ込みかけた言葉を何とか口にした。


「昨日のお菓子とお茶、ありがとう。おいしかったよ」


「えっ」


 シュティレの動きがピタリと止まる。上ずった声を出してその場で固まってしまったので俺も足を止めた。

 

 そう、俺は昨晩貰ったお菓子とお茶の御礼が言いたかったのだ。貰った時にも御礼は言ったが、実際に食べてみて本当においしかったので、改めて御礼を言おうと思っていた。


「俺さ、甘い好きなんだよ。だから、お前さえよければまた作ってくれるか」


「あう、ううぅ」


 シュティレが顔を真っ赤に染めて俺から目を逸らした。あ、この反応……もしかして怒らせたか?やっぱりまた作って欲しいとお願いするのは流石に図々しかったかな。


 御礼だけ言っておけば良かった。そう後悔した時、シュティレがプイッと外方を向いて早口で言った。


「あれは今度仲間として旅をする者への贈り物だと言っただろう。何故、お前個人作らなくてはならなのだ。だが、菓子作りは私の趣味だから試作品を食わしてやらないこともない。ああ、では私は先に洞窟の外で待っているから、ではな!」


 一息で紡がれた長セリフに圧倒されていると、俺が呼び止める間もなくシュティレは鎧の音を豪快に鳴らしながら全力ダッシュで洞窟の出口へと走って行ってしまった。


 呆ける俺の隣で聖が気持ち悪いぐらい黄色い声でからかう様に言った。


『クロケルってば天然タラシー』


「はあ!?人を軟派者みたいに言うなよ。御礼を言っただけだろう」


 意味の分からないことを可笑しそうに言う聖に食った瞬間、俺は背筋に寒気を感じた。寒気どころか何か針のようなものがチクチクと刺さる感覚もする。


 後ろを振り向けばシュバルツとシルマが並んで立っていた。シュティレと会話した際に立ち止まっていたので道を塞いでいたらしい。


「クロケル様、アキラ様、速く参りましょう。みなさまを待たせては悪いです」


「あ、はい。すみません」


 いつもは穏やかで控えめなシルマが冷たく、よそよそしい態度で言ったことに妙な怖さを感じ、俺は秒速で謝罪し体を横にして道を開ける。


 通り道を確保したシルマはツカツカと速足で俺の前を通り過ぎる。な、なんでそんなに機嫌が悪いんだ。さっきまではいつもの大人しいシルマだったよな・


 何か怒らせる様なことをしただろうかと必死で考えると1つ、思い当たることがあった。あの時のライアーの“異世界の騎士”と言う発言がまだ引っかかっているのだろうか。


 大分気になっていたみたいだし、うやむやにしたままここまで来たからな。全部は無理だが所々ぼかしながらでも説明した方がいいか。


「あ、あのな、シルマ。ライアーが言っていた件についてなんだが」


「その件につきましては気にしていません。説明も結構です」


「えっ」


 シルマが早口に言い、俺は思わずたじろいでしまう。この言い方と態度は相当ご立腹の様だ。や、ヤバい、何がヤバいか自分でもわからないけど取り繕わければならないと言う焦りが生まれる。


「話せる部分は話すぞ。だから……」


「いいえ、言いたくないことは誰にだってあります。それは理解しておりますので」


 シルマが一瞬だけ足を止め、背を向けたまま強い口調のまま早口で言った。そして言い終わるとまた足早に歩き出す。


「ちょっ、シルマっ」


 必死で呼び止めるもシルマが足を止めることはなかった。シュバルツは張り詰めた空気を感じ、気まずそうに俺とシルマを交互に見た後に、申し訳なさそうに俺の方を見てからいつもと様子がおかしいシルマの後を追いかけた。


『女心って難しいよねぇ』


 聖の呆れた声が洞窟と俺の耳に響いた。



 シルマのこともあり、若干気分がブルーな俺は何とか洞窟の出口に辿り着き、みんなと一緒にシェロンさんの前に並んだ。


「では、エレットローネまでひとっ飛びするかの」


 シェロンさんはにっこり笑った後に、ボンッと言う音と煙を立て竜へと姿を変える。やっぱり間近で見ると迫力があるな。


「ホレホレ、我に乗るがよいぞ」


 竜の姿になったシェロンさんがノリノリで搭乗を促す。見た目はこんなに威厳がある感じなのにノリが軽すぎる。ギャップが凄い。


「では、私も竜の姿になり後を追いかけます」


 シュティレがクールに言い、シェロンに軽く会釈した後に背中から黒い翼を生やし、その身を包んだかと思うとピカッと身体を光らせて漆黒の翼竜へと姿を変えた。


「おお、すげぇ!かっこいい。これが本来のシュティレの姿なのか。黒いウロコが綺麗だな」


 目の前で変身したシュティレに感動して見上げれば長い首をブォンと背けて言った。


「お前に褒められてもうれしくない」


 おう、ご機嫌斜めなままか。と言うか何で俺は最近女の子を怒らせてばかりなんだ。身に覚えがないが、俺はもしかしてクズ男なのだろうか。え、めっちゃ嫌なんですけど。


「そうじゃ、クロケルはシュティレの背にのるかの」


「それはお断りさせて頂きます。例えご命令でも断固拒否します」


 シェロンさんが楽しそうに言い、そしてシュティレが食い気味で拒絶した。そんなに嫌がらなくてもよくないデスカ。ちょっとハートブレイクかも。


「むう、仕方ないのう。では、全員我の背に乗れ」


 そう言ってシェロンさんは首を降ろし、乗りやすい姿勢を取ってくれた。俺たちは有難くその背に身を預けることになった。


「全員乗ったな、では行くぞ」


 シェロンさんが大きな翼を広げて踏ん張る。ああ、これは()()()()()。そう予感した俺は身構えた。


「ああああああああああっ」


 ……身構えたが無意味だった。飛び立つ瞬間にまた逆バンジーを味わわされ、俺は大絶叫の後に空のジェットコースターの旅へと再び誘われた。





「はぁ、はぁ、ここが電脳の国か……」


 猛スピードを耐え、秒速の旅を終えた俺は満身創痍になりながらも、目の前にそびえる数十メートルはある大きな鉄の門を見上げていた。良く見たら門の縁に青い光がチカチカと走っている。なんつー門だよ、すげぇ派手だな。


 そして派手さも然ることながら、俺はあることに気がつく。どの国にも門番がいたのだが、この国には見当たらない。


 目の前に見えるのは時折光りを走らせる鉄の門だけだ。こんなに目立つのにノーガードでは不審者が入りたい放題では……と思っているとヒトの姿に戻ったシェロンさんが軽くステップを踏みながら門に近づいた。


 そして、迷いなく端末を門の光る部分に近づけるとチカチカとしていた光りがパッと全点灯し、単調な女性の声の機械音が流れる。


『訪問者ヲ、認識シマシタ。訪問予約シェロン様、以下6名、入国を許可シマス』


「わ、門が喋った」


 俺が驚いたと同士に鉄の門がピピッと電子音を立てて開く。


『エレットローネの門は世界一のセキュリティと言われているからね。例外を除いて事前に訪問申請をしないと入国ができないんだ。無断で入国しようものならこの門が一瞬で侵入者を排除する。多分、肉片すら残らないと思うよ』


「な、なるほど……通りで門番がいないはずだ。必要がないんだな」


 どんな排除の仕方なのか気になったが、肉片が残らないとグロいことを言った気がしたのでスルーすることにした。グロゲームやアニメは見られるけど、現実にそれを見聞きするのはご遠慮したい。


「ホレ、突っ立っておらずに行くぞ」


「え、シェロンさんもついて来てくれるんですか」


 今までの流れを考えるに、てっきり現地解散だと思っていた。まさか同行してくれるなんて驚きだ。


「竜の谷の管理も必要じゃし、あまり長くは動向できんが少しの間だけなら付き合ってやろう」


「あ、ありがとうございます!」


 予期せぬ言葉にテンションが上がった俺は勢いよく頭を下げた。


「なんじゃ、おおげさじゃのう」


 シェロンさんはそう言うが、いつ襲われるかわからないこの状況で実力者であるシェロンさんが傍にいてくれるのは有難い。心強い存在が共にいる。そのことに安心感を覚えて心が軽くなる。


『入国、シテクダサイ、入国、シテクダサイ』


 ぐだぐだとしていたせいか、開きっぱなしの門がけたたましい警告音を鳴らす。それに反応した俺たちはバタバタと門をくぐり、入国を果たしたのだった。


 門の先はまさに近未来電脳空間。空飛ぶ車、自動で動く床、生身の人間もいるが、人間そっくりなアンドロイドや丸っこいロボットが行き交っている。


天井はドームの様なものに覆われていて、日の光は入って来ていないため、少し薄暗さを感じるが、立てにも横にも駆け巡っている光の線が常時辺りを照らしている。


この非現実感が凄く異空間と言う感じがして心が躍る。魔法の国であるヴェレームトとはまた違った魅力がある。


「近未来感覚がすげぇな……あと目がチカチカする」


「ここは完全に電子と共存をするために作られた世界だからのう。AIと連動するために箱庭の様な造りになっておるのじゃ。日光を浴びられないのは辛いのう」


 日光を恋しがり、うんざりとしているシェロンさんを気の毒だと思う反面、言葉に疑問を感じる部分があった。


「AIと連動?」


『エレットローネが電子の国と呼ばれているのはこの国の全てをAIが管理しているから。そして、この国の住人が全て生身とは限らないことが由来しているよ』


 小首を傾げる俺に聖が説明したが、全く意味が分からない。理解できる部分が欠片もない。俺がアホなだけなのだろうか。


「生身とは限らないってどういうことだ」


 突拍子のない言葉の連続で、何とか1つでも理解しようと踏み込んで聞くと、更に解説をしてくれた。


『特殊なポッドに入って自分の体を電脳化させて入国することができるんだよ。まあ、本体は現実世界にあるから、生身で過ごしているヒト以外は永住は不可能なんだけどね』


「俺たちの世界で言うバーチャル空間的なものか」


『そうそう、生身でも電脳体でも過ごせる都合がいいリアルバーチャル空間ってとこかな』


 俺の解釈に聖が頷く。バーチャルか……心が躍るな。生前はVRのハードなんて高校生の俺では高価すぎて手が出なかったから実は未体験なんだよな。映画館の4DX止まりだ。


「で、特殊ポッドってどこにあるんだ」


『あのビルの中に収容されているよ』


 聖がタブレットの体を向けた先にはこの国を象徴する様な黒くて大きいポール状の建物があった。


 高さがありすぎて見上げてもてっぺんが見えない。天まで突き抜けているそれは恐らくは数百メートルは優に超えている。


 時折、赤と青のランプをチカチカと点滅させているが1階(?)部分に自動ドアの様なものが数個ある以外は窓も何もない無機質な鉄の塊だった。


「なに、アレ。ちょっと不気味なんだけど」

『何って……電脳化したヒトたちの入り口』


「ええ~、あんな不気味な建物から出て来るの怖くないか」


 感じたことを口にすれば聖がやれやれと言った口調で言った。


『もー、クロケルは腰抜け……じゃない怖がりだなぁ。一応、電脳体になってこの国に訪れるのは人気なんだよ。ポッドを使えば入国申請もいらないしね。そう言う観光プランも組まれるぐらいなんだから』


 今、こいつ俺のこと腰抜けって言ったな。聞き逃さねぇぞ俺は。それはそれとして、電脳世界旅行とかすごいな。さすが異世界、スケールが違う。


「電脳体で旅行って、ちょっと興味あるかも……」


「ですが、入国のためのポッドは限られていると聞きます。入国のためのポッドを管理する無料の施設はありますが、利用する方も多く連日満員だとか。個人でポッドを購入することも可能ですが、かなり高価なものらしいですよ」


 俺の独り言にシルマが反応する。よかった、いつもの丁寧で落ち着いた口調に戻っている。機嫌が戻ったらしい。


 ツンドラシルマは形容しがたい怖さがあったからな。何で怒っていたのかは検討もつかないが、彼女の態度から察するに多分俺が怒らせたっぽいので、今後は己の言動と行動には細心の注意を払おうと思った。


「そう言えば電脳体と生身で訪れるのはどう違うんだ」


『さあ?好みじゃないかな。入国ポッドの施設は各地の都心部にあるから遠方からでも来られるし、体が電脳ならここで事故とか事件に巻き込まれても命を落とすことはないだろうし』


 なるほど、電脳体の便利なところは死なないと言うことか。ちょっと魅力を感じるな。少しだけ、本当に少しだけ電脳体に憧れを抱いているとシェロンさんの言葉が俺を現実に引き戻す。


「まあ、電脳体になって入国するには多少のリスクがあるからの。生身で訪れるのが一番じゃと思うぞ」


「リスク、ですか?」


 電脳体は少なくとも“この世界では”死なないんだよな。どんなリスクがあると言うのだろうか。


「単純なことじゃ、意識のみをこの世界に飛ばしておるわけじゃからの。ポッドに入っている本体は言わばスリープ状態の隙だらけ。この世界を楽しんでいる最中にポッドに眠る本体を襲撃されたら終わりじゃよ」


「ひぇっ」


 シェロンさんが恐ろしい事実を言ってのけ、俺はその未来を想像して悲鳴を上げて青ざめる。そんな俺に追い打ちをかける様に聖が言った。


『それもあるけど、この国でシステムトラブル……例えばあのポッドを収容するビルがハッキングされて機能停止をしちゃうと意識が本体に返れなくなる可能性があるから最悪脳死するかも』


「わー!やっぱり生身が1番です!だからもう言うな。俺のバーチャルへの夢を壊すなっ」


 遠慮なく現実を突きつけて来る2人の言葉を俺は耳を塞いで拒絶した。二次元に限りなく近い世界で夢を見るどころか、壊されるなんて思いもしなかったわ!


「ねぇ、クロケル。あの子だぁれ?いっぱいいるよ」


 現実を突きつけられて夢見るオタク精神を滅多打ちにされ、項垂れる俺の服の裾を引っ張ったのはシュバルツだった。


「あの子?」


 そう言われてシュバルツが指で指示した方を見ると、至るところにある宣伝広告が映されている電光掲示板やモニターにはフリフリ甘々ロリータ衣装の10代半ばぐらいの女の子の写真がいくつも写し出されていた。


 改めて町を見渡して見れば、売られている本のほとんどの表紙がその女の子で、グッズ専門店もある。ビルを見上げれば備えつけられているに大きなモニターにはその女の子がスポットライトを浴びて歌唱する姿が映し出されていた。


 更に“新曲『私の想いは0と1』好評発売中”と言う宣伝ポスターが至る所に貼られ、縦揺れ必至のキャッチーな歌と動画がしつこいぐらいに繰り返し流れていた。


 思い返せば入国してからずーっとこの曲がリフレインしている。初めて耳にした曲だと言うのにワンフレーズ歌えるようになったぞ。


 その女の子の顔が描かれたデコトラまで走っているぞ。人気なのは察したが怖ぇよ。やりすぎの域だわ。何で町一色(俺目線で)謎の女の子で埋め尽くされているんだ。


 人気アイドルとかアニメの宣伝でもここまで町中をジャックしないと思うぞ。売り出しをするにしても限度があるぞ。それともサブリミナルを狙っているのか。だとしたらあくどいぞ。


「な、なあ。町中に宣伝されているあの女の子、アイドルなのか?随分と人気みたいだが」


 ツッコみたいところは多々あるが、聖はこの世界の長だ。それぐらいの知識はあるだろう。そう思って話を振ると乾いた笑いと共に返答があった。


『うん、そうだよ。この国を代表ずる人気アイドル、()()()()()()()()トップオブトップを維持する女性アイドルのぺセルだ。ははー、相変わらず派手だなぁ』


「ん?ぺセルって、お前の仲間と同じ名前じゃ……」


 俺の記憶違いでなければ、さっきの話し合いの場でシャルム国王がそんな名前を口にしていた気がする。


「いやー照れるなぁ。大人気アイドルだなんて」


「んあ?」


 考え込む俺の背後から突然、照れくさそうに笑う声がして振り返ると俺の真下、しかも体の距離ゼロの位置から腰までの長い紫の髪をハーフアップにした、小柄な少女が俺を見上げていた。


「うわわわっ」


 今までいなかった場所に気配もなく現れた少女に俺は思わず仰け反った。シルマたちもその存在に気がついていなかったらしく、俺の絶叫を聞いて少女を認識した。


「な、なんだ。いつの間に現れた」


 シュティレが何もないところから槍を取り出して構える。うん、待って、こんな町中でいきなり武器を出すのは危ないからやめようね。


「この方って……あの方ですよね?」


 シルマもが戸惑いながらビルのモニターを指差す。そこには入国してから何度も目にした大歓声を受けてステージでキラキラと歌う少女の姿。


 俺は目の前の少女とモニターの少女を見比べる。1回、2回と視線を移動させ、そして纏うオーラと類まれなるキュート系な容姿を見て確信する。


「え、君、まさか人気アイドルのぺセル……さんなのか」


 本人らしきヒトが目の前にいるので一応、継承をつけて確認すると少女は嬉しそうに笑い、小走りに俺から離れ、くるりと回りながら言った。


「やほー!こんにちは。みぃーんなの心の電脳アイドル★ペセルちゃんだよっ!あなたのハートにログインしちゃうぞ!」


 ピンクのフリルとリボンがたくさんついているド派手なドレスをなびかせ、アイドルっぽい挨拶をして、テヘペロよろしく舌を出しながらバチコーンと効果音がつきそうなウィンクを俺たちに向かって投げる。


 自分の頬が引きつるのを感じた。多分、俺以外の奴らも反応に困っている。そんな空気を感じる。そしてドン引きしているせいか俺の心の声が漏れる。


「うわ、キャラ濃いな」


『あれ、素だからね。慣れて』


「マジかー」


 聖が諦めた口調で言い、目の前の状況が冗談ではないと言うことがわかり、俺はこれからの展開に疲労しか見いだせず、天を仰いだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


聖「次回予告!ぺセルとの接触に成功したクロケルたち。早速戦力強化に協力してくれることになったんだけど、その条件がかなりトンチキだった」


クロケル「また条件……どうしてみんなスッと協力してくれないんだ」


聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第64話『歌えクロケル、魂の歌唱』クロケルは無事トンチキ試練から脱却することはできるのか!」


クロケル「何故俺が歌うことになってんだよ。あとトンチキ試練って日本語初めて聞いたわ」


聖「困難を乗り越えた先にこそ掴むものがある!だよっ」


クロケル「それは時と場合によるだろ」







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