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第62話 英雄たちの戦略論争

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。


今回はちょこっとだけ長いです。本当は5000文字ぐらいに収めたいのに無理です。前も書いた気がしますが、私は文章を詰め込む傾向があるみたいです(泣)


そう言えば感想文とかも半端ない枚数を書いて先生にドン引きされていた記憶があります。うーん、成長していない……。


お暇つぶしにゆっくりと楽しんで頂けると幸いです。


本日もどうぞよろしくお願いいたします。

 竜の谷で一晩休んだ後、俺たちはシェロンさんに呼び出されて彼女が身を置く洞窟に集まっていた。


 シュティレも呼び出されていた様で、シェロンさんの隣に正座をして座っていた。昨夜のワンピーズ姿ではなく、騎士モードの鎧姿だった。


 そして目が合ったのだが全力で逸らされた。俺、何か悪いことしたかな。したわ、思いっきり押し倒したわ。


『で、僕たちを呼び出してどうしたの。今後のことならもう決めたよね。エレットローネに向かうって』


「それは分かっておる。じゃが、定期報告は大事じゃろう。ライアーと戦闘になったこと、そやつのターゲットにクロケルも含まれたこと、ネトワイエ教団の元団員に話を聞いたこと、シャルムとケイオスに報告すべきことはたくさんあるではないか」


 早く旅立ちたいのか、面倒くさそうに言う聖を宥める様にシェロンさんが穏やかな口調で言った。


 確かにそれは正論である。ヴェレームトを旅立ってからわずか1日、こんな短期間でこんな密度の濃い日を過ごすことになるとは思ってもみなかった。


 色々と進展したのは良いことだが、もう少しゆっくり事が進んでも良いのではなかろうか。新たな目的地が決まって旅立とうとしているのにもう既に心身ともにヘトヘトである。


『はあ、まあ……シュティレさんにもある程度状況を把握してもらわないといけないし、状況を整理する意味でも報告するのはありかも。で、2人には連絡してあるの』


「ああ、昨日の間に端末から連絡しておいたぞ。今の時間であれば2人共都合がいいらしいからの。既にスタンバイはしてもらっておる故、後はこちらから連絡するだけじゃ」


 シェロンさんはにぱっと八重歯を見せて頷いた。そしてトントンとゆっくり端末をタップするとブゥンと電子音が洞窟に響き、空中に映像が2つ浮かび上がる。


 一瞬だけ画面が揺らぎ、画面が鮮明になるとそれぞれの映像にシャルム国王とケイオスさんの姿が映し出された。


「おう、2人共、久しいのう」


 シェロンさんが画面に向かって満面の笑みで両手を振る。


『まあ、電話では何度も会話をしているけど、こうして顔を合わせるのは久しぶりかもね、ごきげんよう、シェロン。面倒なことになったものよね、もう少し平和な話題で再会したかったわ』


 シャルム国王が肩を竦めてうんざりした表情でシェロンさんに答える。そして俺たちの方に視線を移して微笑んだ。


『あなたたちも、無事で何よりね』


「おかげさまで……あ、今日はクラージュはいないんですか」


 先だって連絡をした時はシャルム国王の隣に立っていた気がするが、今日はその姿が見えないので気になった。


『ああ、彼女は今、遠征に出ていて席を外しているわ。同席してもらいたかったけれど、アナタたちからこんなに早く連絡を貰えるとも思っていなかったし……画面越しとは言え、こうも再開する機会が多いと感動も薄れるものね』


 はは、確かに。別れてから間もなく電話、話がまとまって数日経ってまた電話。旅の別れは一期一会だと思っていたが、目的が目的なだけにガッチリ繋がりができているもんなぁ。


 強キャラといつでも連絡可能と言うのは俺的にはものすごーく心強いから嬉しい状況ではあるけども。


『連絡するスパンが短いってことはそれだけ進展があるってことだろ。よう!お前ら最速の再会だなぁ』


 シャルム国王に言葉を返した後にケイオスさんは笑ってこちらに手を振っていた。つられて俺も小さく手を振り返す。


「はい、ちょっと報告することも多いのでご連絡をさせて頂きました」


 俺の言葉にシャルム国王が頬に手を当ててため息をついた。


『そうなの。こっちは進展がないって言うのに、なんだか申し訳ないわ』


「い、いえ。お気になさらず。面倒事が多いのは俺が巻き込まれ体質と言うか、不幸体質のせいかとおもいますので……」


『あっはは、お前ホントに面白いななぁ。人生が楽しそうで何よりだ』


 俺の自虐にケイオスさんが大笑いをした。しかも涙まで流していらっしゃる。そんな笑わんでもええやろ。解せぬ。


『こら、笑わないの。もう、こんなのだから話が進まないのよ。クロケル腹が立つかもしれないけど、こいつのことは無視して、早速話を聞かせてもらってもいいかしら、できればそちらの女性の紹介もお願い』


 シャルム国王が大人しく座るシュティレに視線を移す。そうだったシュティレはこの2人とは初対面だったな。


「はい。こちらはシュティレ。竜の谷の騎士で先日仲間になりました。今後は共に旅をする予定です」


「紹介に与りました、シュティレと申します。お二人のことはシェロン様より伺っております。レアリティ5、レベルは90。未熟者ではございますが、世界を救うため、この力を存分に役立てたい所存でございます」


 俺の紹介を受け、シュティレは片膝を立てて画面に映るシャルム国王とケイオスに向かって凛とした言葉を紡ぎ頭を垂れた。


 堅苦しい言葉の中でさらっとステータスを申告していたが、やっぱり高レア高レベルじゃねぇか。昨日の決闘、よく無事でいられたな……俺。


『あら、竜の谷では他者に従うには契約決闘をする掟があったはずよね。まさか、勝ったの?』


 さすがシャルム国王、他国や異なる人種の掟にも詳しいんだな。見るからに驚いているのは雑魚な俺が決闘で勝利したことに対してなんだろう。


 うん、気持ちはわかる低コストパーティだけで高難易度バトルを制した動画を見た時並の驚きだろうと自分でも思う。


 更に言えば、厳密に言えば勝利と言うには微妙な展開だったが、シェロンさんが勝利宣言してくれたことは事実なので俺はぎこちなく返答した。


「はい。一応、勝ちました」


 ちらりとシュティレの方を見れば、目を見開いてビクゥッと肩を振るわせた後、顔を赤くしたまま、また視線を逸らされてしまった。うん、まだ怒ってるみたいだな。


『すげぇな。ちょこっと別れた間に決闘で仲間を増やすとか面白すぎだろ。こりゃ報告を聞くのが楽しみだ。早く話をしてくれよ』


 ケイオスさんがワクワクとしながら笑い、シャルム国王もそれに頷いて賛同した。


『そうね、面白くて有益な情報が聞ける様な気がして来たわ。話を続けて』


「あ、はいっ。実はこの谷に到着してから……」


2人に促され、代表して俺が話をする。聞き込み調査に出た町でライアーに奇襲されたこと、神殿でネトワイエ教団の元団員の話を聞けたこと、決闘の末に竜騎士であるシュティレを仲間にできたことなど、なるべく詳細に話した。


 尚、町での出来事についてはみんなと分断されてしまった俺の視点、突然駆け出したアンフィニを追いかけた聖の視点でそれぞれ話した。


『なんて言うか……よくこの数日でそこまで濃い経験をしたわね。特にクロケル、ご苦労様。同情するわ』


『特にライアーと戦った辺りが激ヤバ案件だな。無事だったのはシルマがいたこともあるだろうが、俺の鍛錬の賜物だな』


 一通り話を聞き終え、画面の向こうでシャルム国王が複雑な表情で右手で頭を押さえて言った。隣の画面に映るケイオスさんはドヤ顔で胸を張っていた。聞いている話は同じはずなのに、こうも反応が違うのは何故なのか。


『クロケルの方は随分エキサイトしていたみたいだけど、アキラ側は結局戦闘にはならなかったんでしょ』


 シャルム国王に話を振られ、聖はそれを肯定した。


『うん、フィニィについては手掛かりなしだよ。僕たちとクロケルを引き離すためだけに姿を現しただけ見たいだし、追いかけた先で見失った』 


 声のトーンを落とし、しょんぼりとした雰囲気の聖に今度はケイオスさんが問いかける。


『だが、クロケルの話によると町で見かけたフィニィは本物だったんだろう?追いかけている際に何か気がついたことはなかったか?』


『うーん、僕は何も……特に変わった気配もなかったし』


「お前は?」


 聖が鈍い反応を見せたので、ケイオスは即座に岩の上で毛繕いをするミハイルに視線を向ける。


「俺もそこのタブレットと同じだ。気になることはなかった。と、言うかそう言うのは身内の方が気がつきやすいんじゃないか」


 ミハイルが隣に座るアンフィニをジトリと見やる。それにつられる形でその場の全員の視線がアンフィニに集中した。


「……悪い、俺も特に変化は感じなかった。あいつを追いかけるので精一杯だったからかもしれない」


 視線を集めてしまったせいか、アンフィニは罰が悪そうに言葉を紡いだ。


「ふむ、と言うことは囮役をになっておったフィニィと言う少女には特に変わった様子はなかったと言うことでいいのかのう」


 立て続けにNOの回答が続いたため、シェロンさんが今はフィニィについて議論する必要がないと判断し、この話題をまとめようとした時、俺の隣でシュバルツがおずおずと口を開いた。


「……あの子、持っているぬいぐるみ変わってたよ」


「えっ」


 ぬいぐるみ?その場の視線が今度はシュバルツに集中する。たくさんの目に見られたせいで緊張したのか、ビクリと肩を震わせて青い顔で口を閉ざしてしまった。


「落ち着け、シュバルツ。ゆっくりでいいから、もう少し詳しく話してくれるか」


 これが重要な話なのか俺には判断し兼ねるが、アンフィニに少しでも変化があったのなら、念のため認識をしておく必要がある。


 俺は震えるシュバルツの背中をさすりながら、なるべく優しい口調で話をするように促した。


「う、うん。ボク、話すよ」


 シュバルツはぎこちなく頷いて、そして自分が気づいたことを語り出した。


「あの子、ずっとアンフィニを持ってた。けど、お別れをした時は何も持っていなかった」


「お別れって、魔法学校でフィニィがライアーについて言った時のことか」


 たどたどしいシュバルツの言葉を補足する様に確認する。確かに、あの時フィニィは俺たちと協力関係を結んだアンフィニを裏切り者扱いし、ライアーと共に去って行った。その際は手ぶらだった気がする。


俺の言葉にシュバルツはまだ緊張しているのか、表情を硬くしたまま首を縦に振って頷き、話を続けた。


「うん、そうだよ。その時はなにも持っていなかったのに、町で見かけた時はうさぎのぬいぐるみを持ってたよ」


「そうなのか、聖」


 走り出したアンフィニを追いかけていない俺はフィニィの姿を見ていない。なので聖に事実確認をする。


「僕は後ろ姿しか見ていないからなんとも言えないなぁ。ああ、でもたしかに、白くて長い耳みたいなのが肩口からなびいていたのが見えていたような気がする」


 聖は曖昧に答えたが、フィニィが手に何かを持っていたのは間違いないみたいだ。その言葉ないケイオスさんが唸って首を傾げる。


『ぬいぐるみか……。確かに引っかかるな。あの()の資料から推測するに、クマのぬいぐるみを大事そうに抱いていたのはスラム街で暮らしていた頃からの“宝物”であることと“中身が兄であるアンフィニであること”が理由だと思っていたが、違うのか?」


「それらも理由に含まれると思うが、あいつがぬいぐるみを持つに別の理由があるんだよ」


 疑問が浮上し、静寂になりかけた空気をにアンフィニの淡々とした言葉が打ち消す。視線がアンフィニへと移る。


「理由ってなんだ」


 この場の全員が思っていることを俺が代弁して聞く。アンフィニはわずかに頷いて、そしてゆっくりと話を始める。


「フィニィはぬいぐるみを介して魔術を使うんだ。実験の末に魔力適正があったとは言え、あいつは人工魔術師だ。生身で魔力を使えば一瞬で体がボロボロになるからな。そうならない様に施設の人間が媒介として持たせたんだ」


「媒介?でもお前の依り代になっているそのクマのぬいぐるみは特別なものじゃないよな」


 俺には魔術知識がないが、(オタクの)勝手なイメージだが、大きな力を使う時の媒介は特定の場所へ行かなければ手に入らないアイテムとか、謎の儀式を施した何かとか、とにかく特別条件を満たしたものだと思っていた。


 でも、アンフィニが依り代にしているぬいぐるみはどこからどうみても何の変哲もないぬいぐるみだ。媒介と呼ぶには些か普通過ぎるきがする。


『特別な魔術を使うわけではないみたいだし、媒介も特別なものじゃなくていいんじゃないかな。魔術としては人形使いに近いのかもしれないね』


 首を傾げる俺に俺に聖が補足をするように言った。なるほど、人形遣いと言われると何となくイメージがつく。まあ、きちんと理解ができていないことには変わりないが。


「ぬいぐるみを介してですか……なるほど、グラキエス王国で戦った際にアンフィニさんの口から放たれた光線はフィニィさんの力だったんですね」


 シルマが納得した様に頷いて言い、俺もグラキエス王国でフィニィたちと戦闘になったことを思い出す。


 巨大化したアンフィニが落下してくる光景、そしてフィニィがエクレールさんとプロクスさんに背後を取られた際にアンフィニの口からビームいま思い返しても恐怖が蘇る。


「巨大化もビームもてっきりお前の力かと思っていたけど、違うんだな」


 意外な事実に驚く俺にアンフィニがプイッと顔を背けてぶっきらぼうに言った。


「俺が魔力を持たないことは魔法学校に保存されていた実験体資料でお前たちも知っているだろう」


「あ、そうか」


 そうだ。フィニィとアンフィニは元々は魔力を持っていなかったんだった。それ故、人工魔術師の実験台にされたんだったな……。


 フィニィに意識が向きがちだが、アンフィニも人工魔術師候補だった。確か魔法学校で見た資料によれば、妹のフィニィは魔力こそ持たなかったが適正はあったらしく、人工魔術師となった成功例。


 対するアンフィニは双子の兄と言えど、適正がなかったらしく実験中に死亡。魂が残ると言う奇跡は起きたが体を失った、言わば魔力を持たない“一般人”だ。ざっくり言えば最も俺と近しい存在と言えるだろう。

 

「巨大化も、ビームも、フィニィが俺に魔力を送ったから実現したものだ。俺は流れて来る魔力に身を任せただけだよ。俺は何もしていない、できないんだ」


 できない、そう表現した時のアンフィニの声は震えていた。戦闘能力が低く、できることが限られているもどかしさは痛いほどわかる。同時に、下手に慰めてはいけないと言うこともわかる。


「で、でも、ヴェレームトで戦った時はお前(ぬいぐるみ)を使わず攻撃してきたよな。媒介なしでも魔術は使えるんだな」


黙り込んでしまったアンフィニに掛ける言葉が見つからなかった俺は不自然に話を逸らすしかなかった。


 でもそれが気になっていたことは事実だ。俺たちと一緒にいるアンフィニを見て激高し、黒く、ブラックホールにも似たエネルギー弾を生み出し、それで俺たちを消し去ろうとしてきた光景が浮かんだ。


 それだけじゃない。あの時、念力の様な力も発動していた。フィニィの感情が昂れば昂るほど周りのモノが宙に浮き、地面は割れ、とにかく大変なことになっていた。あれもフィニィの魔術の一端だと言うのであれば、媒介なしでも魔術を使えると言うことになる。


 アンフィニは疑問をぶつけた俺の方に向き直って、眉間に皺を寄せて強い口調で言った。


「媒介がなくても魔術は使える。だが、言っただろう。生身で魔力を使えば体がボロボロになると。あの時はただでさえ不安定なアンフィニの精神が乱れて、内側に流れる魔力が暴走していたから起きた現象なんだ」


「つまり、あれはとても危険な状態だったと言うことですね」


 シルマがその時のフィニィを想い、悲しげな表情で言うとアンフィニは首を縦に振ってそれを肯定した。


「ああ。正直、ライアーが現れてくれたおかげで色々とうやむやになったし、よかったと思ったよ。あのまま媒介なしで戦い続けたらフィニィの体が持たなかっただろうしな」


「となると……うさぎのぬいぐるみを持たせたのは、あいつらと言うことになるのか」

 胸を撫で下ろすアンフィニの隣で冷静に自分が分析したことをミハイルが口にし、聖もそれに同意する。


『うん、ライアーは彼女のことを全てわかった上で行動したんだね。新たに持たされたうさぎのぬいぐるみも特殊なモノかもしれないし、アンフィニも戦いに本格的に参戦する可能性もある。慎重に行動しないと』


 真剣な口調で言う聖を見て、シェロンさんがにこりと微笑んで、この真面目な空気をぶち壊すぐらいの元気な声で言った。


「ふむ!慎重な行動が必要なら丁度良いな!実はかつての仲間が揃うこの機会に、今後の戦略を考えようと思っていたのじゃ」


「今後の戦略?」


 突然放たれた言葉に理解ができず、首を傾げてしまった。戸惑いながら周りに視線を向けてみればシャルム国王とケイオスさん以外は頭上にハテナマークを浮かべていた。よかった、さっきの言葉が理解できないのは俺が鈍いからかと思った。


『つまり戦い慣れしている俺たちで戦略論争をするってことだな』


 ケイオスさん、凄い良い笑顔で頷いていますけど、どうして「論争」って表現したんですか。そこは「議論」でよくないですか。無駄に争おうとしないで。仲間なんですから穏やかに話し合いましょう?


不穏な単語にハラハラしていると、シャルム国王がすっと手を上げて優雅に意見を述べ始めた。


『アタシの推奨する戦略は今までと変わらないわ。相手の行動を呼んで先回り。相手は手練れだから、情報を集めて、それなりに作戦を立てて未然に相手の行動を阻止する。一番確実で確かだと思わない?』


 それはシャルム国王らしい、王道かつ確実な戦略だった。相手の行動は聖が読めるわけだし、先回りをすることは容易い。それに未知の相手に対して無策よりは作戦を立てた方がこちらも動きやすいと思う。


 納得と共感できる部分が多かったのので、シャルム国王の意見に傾きかけたが、次に手を上げたのはケイオスさんの発言に心が引き留められる。


『俺の戦略もシャルムに近いな、先回りってとこは同じ。でも作戦なんて練るだけ無駄だ。特に戦いに慣れていない奴はイレギュラーが起きた時に臨機応変に動けない。作戦に少しでも綻びが出ればドミノ倒しで台無しになる』


 ケイオスさんの言うことは最もだった。現に今回相手の策によって簡単に分断されてしまったし、俺なんてシルマがいなければライアーから逃れることができなかったと思う。


 前以て作戦を用意しておくのは良いかもしれないが、ケイオスさんが指摘した様に俺たちは(多分)戦い慣れしていない者の集まりで、しかも即席チームだ。作戦に綻びが出ても、それを補える様な連携体制も取れない気がする。


 特に俺なんて作戦が失敗したら絶対パニックになるだろうし、一番チームの足を引っ張ると思う。ああ、やっぱり俺って情けない。


 自分の戦略の一部をやんわりと否定されたシャルム国王が、少しだけムッとしながらも興味深そうにケイオスさんに問いかける。


『アンタの言うことにも一理あるかもしれないけれど……じゃあ、アンタが考える具体的な戦略を教えて頂戴』


 その言葉を受け、ケイオスさんはよくぞ聞いてくれましたと言わんばかり胸を張り、堂々とした態度で言った。


『そんなの、待ち構えてタイマン勝負が一番簡単で手っ取り早いだろ』


 サムズアップをしながら声高に言ったケイオスさんの言葉が洞窟中に響き渡る。声が通り過ぎてキーンてなったぞ。


 画面に映るケイオスさんからはドヤァァッと言う効果音が聞こえる錯覚に囚われた。あくまで俺の幻聴だが、それぐらい自信に満ち溢れた表情だった。


 冗談ではなく、本気で物理1本で全てを解決できると思っているケイオスさんを前に、その場の全員が気まずそうに口を閉ざす。


『アンタ、本当に脳筋ね。そんなのでよく教師が務まっていると思うわ。しかも校長なんて信じられない』


 頭を抱えながら口を開いたのはシャルム国王だった。眉間をピクピクさせながら今にも椅子からずり落ちそうになっている。


 場に流れる微妙な空気を感じ取ったケイオスさんが、不満そうに腕組みをして意見した。


『なんだよ。いいじゃないか、直接対決。確実に相手を仕留められるんだぜ』


『それはアンタの場合でしょう。この場にいる全員が規格外の戦闘能力だと思わないで。それに、ネトワイエ教団と戦うのは状況からしてクロケルたちになるのだから、アンタの戦略じゃリスクが高すぎるのよ』


 むくれるケイオスさんをシャルム国王はバッサリと切り捨てた。ケイオスさんには悪いが、俺も直接対決は避けたい。と言うか直接対決したって報告しましたよね!?


 全く勝てる気がしまぜんでした。そして凄く怖かったので、できればその戦略は却下でお願いします。


『我は戦力を増やす方が良いと思うぞ。我ら、否……神子も長い旅を続け、色んな土地を巡り出会いと別れを重ね仲間を集め、縁を築いて世界を救うことができたのじゃからな。先回りはやめて仲間を増やすことから始めてはどうじゃ』


 最後に手を上げたのはシャロンさんだった。何故か楽しそうに自身の考えを述べた。

 仲間を増やして旅、おお何か王道RPGっぽくて個人的に心が躍る。でも戦略補充は大事だと思う。


 今のパーティで実質戦力になるのはシルマとシュティレだ。なんてこったい!主戦力が見事に女性だけ。これはいかがなものか。


 シュバルツは今後の成長に期待できるが、ミハイルが戦いに参戦してくれるかどうかは微妙なところだな。いざと言う時はラピュセルさんに頼もう。


 聖は戦わないだろうし、俺とアンフィニは戦えない。この状況を考えると戦力強化は最優先事項だ。


 直ぐに目的地に向かわず、仲間を集めると言うのはいいかもしれない。それに旅をしている間に俺の強化素材も集まるかもしれないし。


『確かに、仲間を集めるのは良いことだわ。でも、相手の目的も行動も分かっているのに放置は良くないと思うわ』


『そうだな。ぐずぐずしている間に世界が滅んだら、仲間を集める意味もないだろうし』


 シェロンさんの意見に気持ちが傾いた瞬間、シャルム国王とケイオスさんがその戦略を否定した。


 うう、でもそうだよな。のんびりと回り道している間に世界が破滅する可能性はあるもんな。それにネトワイエ教団に身を置いているフィニィを放置して旅をするなんてアンフィニが許すはずないし。


 アンフィニに視線を移せば目が合い、俺の考えを察したのかジトリと俺を睨んだ後に首を横に振った。うん、これは「却下」ってことだな。


『一応、色々と戦略をだして議論したわけだけど……それぞれに良い点と悪い点もあるわねぇ。当たり前だけど。仕方ないわ。クロケル、アンタが選びなさい』


「えっ、俺ですかっ」


 シャルム国王がため息交じりにまとまらない意見に迷いを見せたかと思うと、突然俺を指名して来たので俺は焦って大きな声を上げてしまった。心臓がバクバクと速く脈打ち始める。


 激しく動揺する俺にシャルム国王はケロリとして言った。


『だって、今のパーティのリーダーはアナタでしょう』


 初耳ですけど。俺、いつリーダーになったんだ。記憶にないぞ。寧ろなんでそう見えたんですか教えてください。


「違います、リーダーなんていません」


 全力で首を左右に振って否定するとシャルム国王は涼しい顔で更に俺の精神にダメージを与えにかかる。


「あら、決まってなかったのね。でも、消去法で行くとアンタしかいないでしょ。そこのタブレットにリーダーをやらせるわけにも行かないし」


 シャルム国王が宙に浮くタブレットを流し見て、視線を受けた聖がへらっと笑って言った。


『そうだねぇ。リーダーはごめんかなぁ。うん、クロケルがリーダーをやるのが一番いいよ』


「マジかよ!?」


 衝撃発言なと心底お断りしたい提案に目を見開いて固まる俺に聖が意地悪い口調で詰め寄りながら説得して来る。


『だってまとめ役に向いてるの君ぐらいだよ。誰とは言わないけど協調性ない奴が約2名いるし。それに君、ツッコミ体質だし丁度いいと思う。シュティレちゃんは加入したばかりだし、まさかシルマちゃんに任せるつもりじゃないよね』


「う、そっそれは……」


 シルマの方を見れば困った笑顔を返された。うん、まあこんな濃いパーティーメンバーをシルマに任せるのは気の毒過ぎるし、一番無能なのは俺なんだからまとめ役ぐらいはしておくべきなのかもしれない。


「わ、わかった。俺がリーダーになるよ。文句があれば挙手してくれ」


 一応確認を取ったが誰も反対しなかったため、残念な事に俺がリーダーになることが確定した。反対する奴が出てきて欲しかった、と思わなくもない。


『めでたく決まってところで……さあ、リーダーさん。アナタの決断を聞かせてもらおうかしら。どの前略を選ぶの』


 シャルム国王が改めて問いかけて来る。突然リーダーに任命され、大事な決断を委ねられ、俺は色々と納得がいかない状態で必死で考え、そして腹を決めた。自信はないけれど、話を聞いた中で自分が最善だと思った戦略を口にする事にした。


「お、俺は……」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


聖「大事な今後の戦略、クロケルは何を選び、決断するのか。そして次に向かうは電子の国。そこで神子の元仲間を尋ねることになったよ。ライアーたちのも追わなきゃいけないし、クロケルのレベルアップはどんどん遠のくのだった」


クロケル「もうレベル上げは気にしないことするよ。ストレスが溜まるだけだし。それより電子の国って何だ……、近未来的な国なのか」


聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第63話『電子の国エレットローネ!電脳アイドル降臨』キラキラの世界がクロケルたちをお迎えするよ」


クロケル「で、電脳アイドルってまさかあの有名音声ソフト的なアレか」


聖「うーん、近いようで遠いかな。でも僕と一緒に旅したコだよ」


クロケル「アイドルまで世界の救済に関わったのか!?お前のパーティ濃すぎない?」






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