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第60話 竜騎士シュティレとの契約決闘

この度もお読み頂きました誠にありがとうございます。


キャラがどんどん増えて行く(汗)キャラ被りしない様に頑張りたいです。そして内容もぐだぐだしない様に努めたい。


本日もどうぞよろしくお願いいたします。

「本当に小さなことで、なんの情報にもならないと思うのですが、ライアー様にはご家族がいらっしゃったとか」


 役に立たない情報だと思っているのか、ソンバさんが遠慮がち自信なさげに言った。後半の声なんて凄く小さくトーンでもごもごしていた。


 しかし、聖は興味を示し、ソンバさんに対して追及をする。


『家族か……。その話、もう少し詳しく聞かせてもらえますか』


「は、はい。と、言いましても、詳しく話せるかどうかは……本当にたまたま聞いただけの話ですので」


『構いません。知っている範囲で詳しくお願いします』


 聖の強い口調と勢いに押され、ソンバさんはそれならばとおずおずと口を開く。


「一度だけ、ライアー様と2人でお話をする機会がありました。と言うかたまたま話しかけられただけですが。そこで言われたんです。“君には家族はいるのか”と」


「え、えらく唐突で込み入った質問ですね。どうしてそんな話を?と言うかどういう状況ですか」


 ソンバさんは自分のことを下っ端だと言っていた。しかも拠点がない組織だし、日常的に顔を合わせることはなく、連絡手段はほぼ通信のみ。と言うことはトップであるライアーと話す機会などほぼないはず。


 どういう状況で家族構成とか言う込み入った話になるんだよ。ほぼ初対面の相手にその話題はチョイスを間違えている気がする。ははーん。さてはライアーはボッチ適正があるな。


「教団の仕事で直接ライアー様と会う機会がありまして。私はその時、ライアー様の計らいで児童福祉士施設で働いており、子供たちと遊んでおりましたので、そのような話題になったのかもしれません」


 ソンバさんは困った表情ではにかみ、首を傾げていた。


「それで、あなたは何と答えたんですか」


 俺が続きを急かす様に聞けば、ソンバさんも即座に返答する。


「もちろん正直に答えましたよ。私には親も妻も子供もいませんと。そうしたら、ライアー様がおっしゃったのです。“私には娘が1人いたんですよ"と」


「“いた”ってことはその娘さんは……」


 シルマが言葉の違和感に気がつき、おずおずとして言うと、ソンバさんはゆるゆると首を横に振った。


「ライアー様のプライベートに踏み入るなど、同時の私にはおこがましくて、詳しくは聞けませんでした。ライアー様もすぐに話を切り上げたので、恐らく気まぐれだったのでしょう」


『娘、なるほど、娘かぁ』


 聖は自分の世界に入ってブツブツと呟き、考えをまとめている様だった。

 

 しかし、ライアーに家族がいる、と言うのは新情報だ。聖はこの世界の長だ本気を出せばチート並にアナライズできるのだろうが、流石に家族構成はまではアナライズはできないだろうし、教団の手がかりにはならないっぽいけど、状況的に何かのフラグな気がする。


「教団をやめた後はその児童施設も退職しましたので僕は完全に教団と縁が切れてしまいました。これが、僕が知るネトワイエ教団の全てです」


 本当にもう何も話すことがないのか、ソンバさんは静かに話を締めくくる。


「はい。情報提供、ありがとうございます。ソンバさん」


「いいえ、お気になさらず」


 ベッドの上で頭を下げる俺にソンバさんは柔らかな微笑みを返してくれた。


『ソンバさん、どうして僕たちに教団のことを話そうと思ったんですか』


 話がまとまりかけたと言うのに、聖が唐突に言った。それを受けたソンバさんは目を見開いて驚いて、そして悲しそうに視線を逸らして答えた。


「世界への償い、でしょうか。僕は教団に所属していたことをずっと隠して今日まで生きて来ました。感情に流され、一度でもこの世界の破滅を望み、それに手を貸してしまった。その罪悪感から逃れたかったのかもしれません」


『今は、世界に満足していますか』


 聖が真剣な口調で問いかけ、ソンバさんは儚さが混じった表情で頷いた。

 

「ええ、神子様が世界をお救いになられた後は治安も良くなり、僕もこうして神殿に就職することができました。とても満足です」




 ソンバさんの話を聞き終え、俺の体力も回復したところでシェロンさんが提案した。


「情報も得られたことじゃし、ひとまず竜の谷に戻るとするかの」


 町から秘密の抜け道(と言うか多分ワープホール)から帰って来た俺たちは、集落の奥にある集会所へと案内され、長い机を囲む形で着席していた。


 お茶でもどうじゃと満面の笑みで差し出された飲み物は苔かと見間違えるぐらいの真緑だったので一瞬ひるんでしまったが、匂いは普通の緑茶だったので恐る恐る飲んでみるとちょっと苦い普通のお茶だった。色んな意味でホッとした。


「竜の谷でのみで採取が可能な薬草茶じゃ。疲労に聞くぞ」


 シェロンさんが優しい気遣いを見せてくれて、町でのドタバタ劇もあり、精神的に困憊した体をお茶を飲みながらみんなで一息ついた。


「ふむぅ、中々運が良かったのう。まさか元ネトワイエ教団の人間が見つかるとは」


 緊張が解け始めたことを見計らい、シェロンさんが満足そうにうんうんと頷いた。確かに、あれほど苦戦していたネトワイエ教団の情報集めが進展するとは思えなかった。小さな情報だったが、町に出て良かったと思う。


 シルマも聖も……シュバルツは苦いお茶と格闘していたが、シェロンさんと同じく、情報を得られたことに満足していた様だが、ただ1人いや、1匹。ミハイルが厳しい言葉で言った。


「しかし、得ることができた情報は基本的なものばかりだぞ。まだ相手の様子を窺って行動することしかできない状況には変わりない」


 こいつは喧嘩腰でないと他人と話せない病にでも侵されているのか。満足ムードの雰囲気をぶち壊してくるなよ。


 ミハイルの言うことも一理あるかもしれないが、あまりに横柄イラッとしていると、俺の隣でシェロンさんがキョトンと首を傾げて言った。


「そうかのう。わずかでも得るものがあったのであればプラスに捉えた方が精神的にも楽化と思うが……さてはお主、神経質か。ストレスの溜めすぎで羽が全部抜けてしまわないか心配じゃのう」


「はっ、余計なお世話だ」


 さらっと嫌味を返されたミハエルは眉間に皺を寄せたまま外方を向いた。穏やか且つ流れる様な嫌味……シェロンさん、中々強かだな。


「そんなことはさておき……お主ら、今後の目的は決まっておるのか」


「うーん……どうするよ?」


 シェロンさんに聞かれ、俺は空中に浮かぶ聖を見る。今までは、ライアーの狙いが「神子の元仲間」であったため、魔力の痕跡から次のターゲットを推測して先回りと言う形を取って来たが、ここに来て彼の目的が変わった。


 今回に限ってかもしれないが、ターゲットは俺。ライアーは神子の仲間だったシェロンさんには目もくれず、最初から俺を狙っていた。しかし、その目的もう変更されてしまったのかもしれない。


 ライアーの目的は世界の消滅。それを達成するための最善策を考えて行動しているんだろうが、どうも行動が読めない。


 ただの一般人の俺では決めきれない。かつて世界を守り抜いた神子の意見が欲しかった。俺に視線と質問を向けられた聖はうーん、と悩んだ後に言った。


『ライアーの魔術の痕跡を辿ってみたんだけど、電子の国エレットローネに向かったみたいだ』


「ほほう、あやつがおるところか。と言うことはターゲットを神子の仲間に戻したか」


 電子の国ってなんだ。シェロンさんの“あいつ”って言う言葉から察するに、かつての仲間のことをさしているんだろうけど。


『それはわからない。まだクロケルを狙っていて、おびき寄せる作戦かもしれないし』


「怖いこと言うなよ」


 さらりと俺の命が危ないと発言した聖にツッコむとアンフィニが強い口調で言った。


「だが、フィニィを救うにはあの男を追うしかないだろう!」


「お前、まだ懲りてないのかよ。もう一回地面に擦りつけるぞ」


 フィニイの姿に惑わされ、集団行動を乱しまんまと罠にはめられたアンフィニにミハイルが刺々しく注意を促すと、アンフィニは自分の行動に責任を感じているのか反論することなく押し黙った。


「で、でもネトワイエ教団の思惑を阻止するってことは変わってないんだ。このまま魔力の痕跡を追うことは間違いではないと思うぞ」


 ギスギスした空気をなんとかフォローすれば聖も頷いた。


『うん、そうだね。このままライアーを追いつつ旅を続けよう』


 シルマもシュバルツもその意見にしっかり首を縦に振って頷いた。


「なるほど、旅を続けると言うことじゃな。では、こちらもできる限り手助けをするとしよう。入ってまいれ」


「は、失礼いたします」


 シェロンさんが扉の方へ呼びかけると、ガチャンと鉄がぶつかり合う重そうな音がして、部屋に漆黒の鎧をまとった17歳ぐらいの少女が入って来た。


「うっわ、かっこいい」


 俺の口から思わず正直な感想が漏れる。相手に不快に思われてはいけない、仲間にドン引きされたくないと言う思いから、なるべく感情を押さえて小声で発言した。


 目の前に静かに佇む少女は大きめで吊り上がった深紅の瞳と腰までの銀のポニーテールの髪が印象的で、無表情だがどこか気品を感じる整った顔立ちをしていた。まさにクールビューティと言う言葉がふさわしいと思った。


 漆黒の甲冑は所々が尖っており、全体的にゴツゴツとしている。恐らく、竜がモチーフなのだろう。足元は膝まで守られた鉄製のヒール付きブーツだ。うん、重くない?絶対動きにくいよね。


 なお、兜は二次元でよくある頭部丸出しタイプである。兜って言うか冠だな。デザイン重視の飾りっぽい。と言うか全体的にデザイン重視の複雑ファッション(?)である。


 左手には170cmはあると推測される彼女の身の丈ほどある、こちらも漆黒の大きな槍を携えていた。あれが彼女の武器なのだろうか……ちょっと待って、何で武器なんて持ってんだ。


 色々ハテナが多すぎて、突如として現れた少女を凝視していると、シェロンさんがにこにこと笑いながら少女を紹介をした。


「こやつはシュティレ。竜の谷随一の竜騎士じゃ」


「シュティレと申します。よろしくお願いいたします」


 ガチャンと鎧を鳴らしながらシュティレは深々と頭を下げた。


「はっ、はい。こちらこそよろしくお願いいたします。でも、その……。どうしてシュティレさんの紹介を?」


 ライアーの陰謀を防ぐ、と言う旅を続けることが決定し、その流れで唐突に紹介された。話が全然繋がっていないのでシェロンさんの考えがまったく見えない。



「うむ?そんなの気待っておろう。お主らの旅にシュティレを同行させるためだ」


「えっ」


 それはつまり、戦力補助をしてくれると言うことか。それは心強い。ネトワイエ教団と言う未知の敵を目の前にこちらも少しで戦力は強化しておくべきだ。至れる尽くせりな状況、旅立ちを前に配慮が完璧な胸がジーンってした来た。


「何から何までありがとうございます。シェロンさん」


 感謝の言葉を素直に御礼を言い、頭を下げるとシェロンさんはヒラヒラと左手を振りながらにこやかに言った。


「なに、気にすることはない。元神子の仲間として、世界の危機を救わんとするお主らに協力をするのは当然のことじゃからの。さて、そうと決まれば行くか」


シェロンさんがピョンと椅子から飛び降り立ち上がる。その行動と言動に何故か嫌な予感がして感動していた心がスンと冷めていく。


「行くって、もう旅立てと?」


 俺の問いかけにシェロンさんは首を横に振る。


「違う違う。旅立ちの前に、と言うかシュティレを同行させるためには条件があるからの。今からその条件を満たしに行くのじゃ。ついてまいれ」


 それだけ言うとシェロンさんはつかつかと扉へ向かいそのまま出て行ってしまった。シュティレも無言でその後に続く。


「は、えっ、条件って何?」


「さ、さぁ?ついてこいとおっしゃっていましたが」


 勝手に話しが進んでしまい、呆ける俺にシルマも戸惑いながら首を傾げていた。聖が空中で乾いた笑いの後に言った。


『あはは、やっぱりあるんだぁ。竜の掟』


「竜の掟?」


 掟、と言う不穏な言葉に思わず眉間に皺が寄る。不安過ぎてその場から動けない俺にミハイルが素っ気なく言った。


「おい。追わなくていいのか」


「あっ、ああ、そうだな。みんなで行こう」


 俺は慌ててシェロンさんとシュティレの後を追った。戸惑っているシルマ、シュバルツ、何か知っている様子の聖、面倒くさそうなミハイル、まだ少し元気がないアンフィニも俺の後に続いて駆け出した。


 そして、シェロンさんたちについて行った先で俺はとんでもない試練に見舞われることになる。





「……で、何でこんなことになってんだぁぁぁっ」


 俺たちは竜の谷の訓練場と呼ばれる場所にいた。集落からは離れ、運動場のグラウンドの様に整備された土の地面しかないだだっ広い場所だった。


そこに俺と竜騎士シュティレが向い合せで立っている、と言う状況である。俺は真っ青で、シュティレは毅然として佇んでいる。


少し離れた位置にはシルマたちが俺を見守る形で並んで立っていた。この状況はケイオスさんとの鍛錬の時とまるで同じじゃないかっ。


俺とシュティレさんの間にはシェロンさんが意気揚々と佇んでいた。どうして、どうしてこんなことになってしまったのか。


 どうか笑わずに聞いて欲しい。寧ろ同情して欲しい。この場所で今から竜の谷最強の騎士を仲間にするための決闘を行うことになった。そして代表、騎士と戦うのは俺。そんなバカな話があると思うか。いや、現にあるんだけど。


「悪いのう。竜の一族には他者に従う際は戦って相手を見極めると言う掟が存在するのじゃ」


「なんじゃそりゃぁぁぁぁぁっ」


 いや、貴重種らしい考え方だけど。二次元でもよくあるけど!仲間にしたければ自分に勝ってみせろみたいな展開。その時でも思ったよ、俺。“普通に仲間になれや”って。誇りやプライドを大事にするキャラって魅力的だけど面倒くさいとこあるよな!


 不満大爆発で大絶叫する俺にシュティレは長い銀の髪を白く細い指でかき上げながらクールに言った。


「我らは誇り高き竜の一族。自身が身を捧げてもいい思う強者にしか従わぬ」


「そう言うわけじゃ。我がついて言っても良いが、そのためには竜の掟と誇りに従い、お主と我が戦い勝利せねばならぬ。それは難しいであろう?(点々)」


『そうだねぇ。シェロンが竜の力を発揮する間でもなく秒で勝負がつきそう。ワンパンじゃないかな』


 俺の代りに聖が苦笑いで答えた。そして俺もシェロンさんが指一本で泥棒を吹き飛ばした事を思い出して頷きざるを得なかった。そもそも竜族の長と戦のえと言われただけでも全身が震える。


 と言うか、この言葉と反応……そうかシェロンさんは俺のレベルのこと等全てシャルム国王から聞かされているのか。


 え、でも待って。さっきシュティレは竜の谷随一の竜騎士とか紹介されてなかったか。シェロンさんほどではないにしてもヤバくない?シュバルツに抱き着かれただけで昇天手前の俺が相手だぞ。かーなーり無茶振りってか無理ゲーじゃないか。


 トンデモ展開に戸惑いを通り越してビクビクとする俺の背後でぼそっと呟いた。


『僕も大変だったよ。シェロンを仲間にするの』


お前も戦ったんかい!ってかそれならこう言う展開になるってわかってただろ。言えよ!


『言っても無駄でしょ。竜の一族を仲間にするなら戦闘は避けられないし、対策のしようがないでしょ』


「う、それはそうかもしれないけど」


 心の準備ってもんがあるんだよ!ああああ、逃げたい。こんなの嫌だ。なんとかならんのか、この状況。


 心に蓄積したストレスと不満が行動に出てしまい、両手で思いっきり頭を掻きむしって髪の毛をボサボサにしながら天を仰いでいるとシェロンさんが聖を見上げて言った。


「おい、無駄話はやめんか。そろそろ契約の儀を始める。お前も離れよ」


『はいはーい。じゃあ、クロケル。頑張ってね』


「えっ、ちょっ」


 軽く返事をし、聖はあっさり俺から離れて行きやがった。あっ、ヤバい、心臓が痛い。竜騎士との戦いなんて無理に決まっている。俺のこの剣はお飾りなんだよ!


 はっ、そうだ。ライアーの時みたいにシルマに影から支援してもらえば……ちらり、とシルマの方を見れば俺の視線と考えを読み取ったのか杖をギュッと握りながら大きく頷いてくれた。


 それだけで心がふわっと軽くなる。これなら、何とか戦える。そう思った時、シェロンさんがわざとらしく大きな声で言った。


「言っておくが、手出しは無用じゃぞ。己が力のみでシュティレに勝利してみせよ。わかったな」


 そして俺とシルマを冷たい視線で睨みつけた。さ、寒い。今、視線だけで殺されるかと思ったぞっ。うわぁ、シルマも真っ青じゃん。


 な、なんでわかったんだ。俺、口に出してないのに。と思いながらもハッと気がつく。そうだった。シェロンさんもテレパス能力を持っていたんだった。


 でも待って!俺がレベル1なこと、知ってますよね。なら、これは負け戦ってわかりますよね、まさかシュティレさんを仲間にさせる気がないんですか。もしくは俺の命が欲しいんですか!?


「ふふ、苦難は自らの手で乗り越えてこそ素晴らしいのじゃ。では始めるとするかの」


「えっ、ちょっと待っ」


 俺の気持ちなど無視してシェロンさんがすぅと息を吸って高らかに追った。


「これから始まるは真剣勝負。両者、力の限り戦い、そして己の実力を相手にぶつけよ!契約の儀、開始じゃっ」


「いざ、尋常に勝負!」


 合図があって直ぐ、シュティレが地面を蹴り、一瞬で間合いを詰めて来て自分の身の丈以上の漆黒槍を俺に向かって振りかざす。待って、その振り方は確実に首と体を切り離しにかかってますよね!?


 と言うか二次元作品を見てて思うけど、なんでヒール履いてるキャラは軽やかに戦えるんだ。そんな激しく動いたらグキッってなるだろう。足首持って行かれるだろ。


 バランス感覚がいいとかそう言う問題じゃないし、戦闘中衝撃とか鎧で戦う体重に耐えて支えるヒールもやべぇわ!折れるぞ、普通。


「どわっ!!」


 俺は奇声を上げながらしゃがみ、攻撃を躱す。俺の頭上でブゥンと風を切る音がして脳天に空気の振動が伝わって来る。怖い。


 窮地における自分の動体視力と反射神経に感謝しつつ、俺は転がる様にしてシュティレと距離を取った。


「今の一撃を躱すとは……」


 悔しそうに顔を歪めるシュティレに向かって俺は思う。いや、偶然です。死にたくないと思うが故の火事場の馬鹿力です。


 攻撃を避けることができて安心しつつも、直ぐに二撃目が来ると思うと内臓が冷たくなって、足も震えて来る。


「次は外さん」


 チャキンと金属の音を立て、シュティレが構える。ああもう、完全に命を取りき来てるじゃん。ってか、この戦い何がどうなったら終わりか聞いてないんですけど。


「ああ、忘れておった。敗北を認めた方が負けじゃからのー」


 俺たちから距離を取っていたシェロンさんが両手をブンブンと振りながら補足をした。言うのが遅い。勝利条件は最初に言って頂きたい!


 でも、どちらかが敗北を認めたらいいんだな。なら、認めちゃおうかなぁ。


『ダメだよ、クロケル。今後の為に戦力強化は大事だからねー』


「ちっ」


 遠くの方で俺の心を読んだ聖が俺に念を押して来た。くっそ、他人事だと思って!俺の命がここで消し飛んでもいいというのかお前!そんなことになったらシュティレを仲間にできない上に戦力がマイナスに……ならないか。俺、レベル1だし。


「はあっ!」


「ひえっ」


 アホなことを考えているとシュティレの鋭い突きが俺の胸をかすめる。咄嗟に体をひねって攻撃は当たらなかったが、びりっと言う音がして、俺の服がうっすら裂けた。どうやら槍の切っ先が引っかかったらしい。


 あ、もうダメだ。攻撃が当たるのも時間の問題だわ。怖すぎて意識が遠のきそうになる。そして、ふと思った。ああ、俺の人生って一体何だったのだろうと。


 親友の聖は“異世界に選ばれし人間”として召喚され、世界を守って見せた。そして今や異世界の長。


 対する俺はただのモブ。1度目の人生は聖の召喚に巻き込まれて消滅。そして聖の力で「千賀和樹」としての魂を維持したままレアリティ5の魔法騎士に転生と言う漫画みたいな展開を迎えたと言うのに、レベル1と言う超マイナス展開。


 その後、死の恐怖に怯えてばかりでシルマやシュバルツにほぼ守ってもらうばっかりで情けない。かっこ悪すぎる!こんな人生馬鹿しい!!


「や、やってやろうじゃねぇかっ」


「!?」


 俺は剣を構えて自分に気合いを入れるために叫んだ。それが威嚇となったのか、シュティレがクールな表情を保ちながらも警戒する様に眉をひそめ、槍を構え直す。


 もう、腹をくくるしかない。せっかくの異世界での第2の人生。モブとして情けなく散るよりは騎士として戦って華々しく散ってやろうじゃないか。できれば散りたくないけど!


 ただの高校生じゃなくてレベル1でも魔法剣士と言う立場の俺なら戦えるかもしれない。やらないよりはやる!頑張れ、俺ツ!

 

 思い出せ、ケイオスさんとの地獄の特訓を!元モブの、高レア低レベルの維持と根性を見せてやる。


「ま、魔法騎士クロケル。ここからは本気でお相手致す!」


 それは精一杯の虚勢。弱い自分を奮い立たせるための言葉だった。全身の震えを誤魔化す様に、俺は剣の柄をしっかりと握りしめた。


 遠くで聖が何か言った気がしたが、アドレナリンがドバドバになっているせいか、聞き取ることはできなかった。



『へぇ、かっこいいじゃん。さすが、あの時僕に手を差し伸べてくれた親友だ』




 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


聖「次回予告!なんだかクロケルが主人公してるぞ!かっこいい!そして、ついに戦いは決着する!勝負の行く末はいかに!?そしてクロケルに新たなフラグが立つのだった」


クロケル「フラグ!?なんの!?」


聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第61話『二次元の主人公は大体変にフェロモンを垂れ流している』クロケルに春が来る!?」


クロケル「垂れ流すっていうな。じゃなくて……何、もしかしてそっち方向で揉め事が起こる感じなのか」


聖「主人公らしくていいんじゃない?」


クロケル「いや、でも誰とのフラグが立つか心当たりがないぞ」


聖「それ、本気で言ってる?だとしたらギャルゲーの主人公の適性ありすぎ。合格だよ」



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