第5話 レアリティ3だがレベルはカンスト!最強ヒロイン、シルマ登場
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
やっぱり説明くさくなるのが私の悪い癖ですね……。自分のどの作品を読んでもそう思います。あと、やっとヒロインを出せました。登場させる事が出来てホントによかった。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
「上限レベル解放?なんだよ、それ。聞いてないぞ」
空中に浮かぶタブレットを睨みつけてやると聖はとぼけた声で言った。
『あれぇ、言ってなかったっけ。レアリティに設定されているレベルをMAXまで上げて、条件を満たせばさらにレベルを上げることができるんだよ』
「初めて聞いたわ!」
「ひぅっ」
思わず怒鳴ってしまった俺に驚いたのか、シルマがビクリと体を震わせる。そしてビクビクと俺を見つめて来た。
やばい、怖がらせてしまった。とりあえずなんとかせねば。
「わ、悪い。お前に怒鳴ったわけじゃないんだ。こいつに腹を立てただけで」
親指で空中に浮かぶタブレットを指させば、シルマは杖を握りしめ、青い顔をして震えながらタブレット見つめた。
ってか何でこんなにビクビクしてるんだ。さっき高レア且つ凶悪なドラゴンを秒殺したのは俺の幻だったのか?
「え、えっと。このタブレットはクロケルさんの所持品なんですか」
細い声で俺の様子を窺いながら聞くシルマに俺は返答することにした。
「所持品、と言うか相棒かな。一応、ナビゲートと敵の分析をしてもらっている」
『こんにちわー。聖でーす』
俺が手短に紹介すれば聖は空中に浮かんだまま、間延びした呑気な声で挨拶をした。
「わ、AIさんでしたか。こんにちは、シルマです」
この世界では宙に浮いて喋って意志を持つタブレットは珍しくないらしく、シルマは調子よく喋るこのウザいタブレットをAI扱いですんなりと受け入れた。
寧ろ危険がないと理解したのか、のんびりと挨拶までする。多分、シルマはものすごくマイペースな奴なんだな。
「でも、あきら……ですか。この世界をお救いになられた神子様と同じ名前なんですね」
『あっ、ヤバッ』
自分の失言に気が付いた聖はヒュンと素早い動きで俺の背後に身を隠した。卑怯にも程があると思った。
「アキラ・ミコシバ様。この世界、クレイドルの救世主にして、現在の長様ですよね」
反応が遅い俺たちを不思議に思ったのか、シルマにコテンと首を傾げて確認して来た。痛いところを突かれたと頭を抱えたので思わず頭を抱え、背後に隠れたタブレットを睨みつける。
腹が立つことに口笛を吹いていやがった。
タブレットの姿をしていても聖はシルマの言う通り、かつてこの世界の危機を救った神子であり、今はこの世界の長だ。
そして俺は聖の異世界召喚に巻き込まれて消滅した元・異世界の住人。聖は俺への罪悪感と使命感から第二の人生を与えた上に、異世界に慣れていない上にレベル1である俺を心配してナビゲート役を買って出てくれた。
長と言う立場上、本来全種族に平等であるべき聖が、俺を特別扱いしているのは明白。それに俺も存在としてはかなり特殊で説明が難しい。
俺たちが抱える状況はかなり複雑で、場合によっては角が立ちまくりであるため、最初からもろもろ黙っておこうと2人で決めていたのに、この馬鹿。
「あ、あきら……様はこの世界の英雄だからな!それに肖りたくて相棒にそう名付けたんだ。な、アキラ」
『うん、そうだよ。もうっ、ご主人様ってミーハーなんだから』
聖が俺の背後から飛び出して話に乗ってくる。ってかミーハーってなんだよ!せっかくフォローしてやったのに変なキャラ付けしてくんなよ。この恩知らず!!
ま、まあ、聖に言いたい事は山ほどあるが、今はこの場を凌ぐことが最優先だ。
頼む!これで誤魔化されてくれと強く祈っていると、不思議そうにしていたシルマの瞳がキラッと輝く。
「まあ。そうでしたか。確かにアキラ様は全国民の憧れの的ですものね」
ポンッと両手を合わせて納得した様子のシルマに俺と聖は胸を撫で下ろした。よかった納得してもらえた。
「ってそんなことより、レベル上限解放でカンストってどういうことだよ」
小さなピンチを乗り越えられたので、俺は聖を捕まえて改めて問いかける。
カンスト。つまりカウンター・ストップ。それ以上がレベルが上がらないと言うことだ。
ここで暮らす様になってから色々と聖から異世界のことを聞く機会があったのだが、この世界の生物はレアリティによってレベルの上限が異なる。
一番低いレアリティ1の上限値は30、レア2が50、レア3が70、レア4が90、そして5が100となるらしい。
当然だがレベルが高いほどステータスも優秀で強い。それについては聞いている。だが、上限値解放と言う単語は初めて聞いたぞ。どういうことだコラァ。
『いやぁ、クロケルにはまだ先の話かなぁと思ってあえて言わなかったんだけどなぁ』
空中でふよふよと浮きながらふてぶてしい態度を取る聖に心の底から苛立ちを覚えつつも、俺はなんとか冷静さを保つ。すごく頑張った。でも胃が痛い。穴が開きそう。しんどい。
「……一定の条件ってなんだよ」
滅びゆくメンタルに耐えながらも俺は聖に疑問を投げかければ、すんなりと答えが返って来る。
『まず絶対必須条件はレベルがMAXであること』
「ああ」
まあそれはほど遠い話だとは思うが、取り合えず頷いておこう。
『そしてもう一つの条件は専用のアイテムを用意すること』
さらりと述べられた困難な条件に俺はふらつきを覚えた。
アイテム、またアイテムがネックになるのか。ただでさえレベルアップに必要な素材が入手できずに低レベルで止まっていると言うのに。
この世界はクソゲーか。課金か?課金すれば楽に育成ができるのか。ってそんな金もねぇわ!世知辛いなチクショウ!!
『この世界にはね、不思議な力を持った石の破片がたくさん散らばっていて、それを集めて1つにすれば上限解放が可能なアイテムになるんだ』
内心で1人ツッコミをする俺を無視して聖は話を続けたので、俺も心を落ち着かせながら聞き返す。
「その破片とやらをどれぐらい集めれば上限解放のアイテムになるんだ」
『具体的な数は僕にもわからないかなぁ。どこにあるかもわからないかも。でも石は丸い形をしていて、それをパズルみたいにはめて言って最終的に形になればピカッって光るはずだから、それが完成の合図としか言い様がないかな』
うわぁ。なんだそのざっくりでぼんやりとした説明は。話を聞く限りではアレだな。某犬耳主人公に出て来た何某の欠片的なやつか。欠片がどんな大きさかは知らんが面倒くさそうなことだけはわかる。
『上限解放は個人の自由だからね。レベルに合った生活水準はあるし、欠片を集めるにはレベル上げの素材を集める以上に苦労や危険が伴う。無理に上限解放をする必要はないと思うんだけど』
そう言って聖はシルマを見つめる様にタブレットの画面を彼女の方へ向ける。俺たちの会話をぽやんとしながら聞いていたシルマに俺は声をかける。
「えっと、シルマって呼んでもいいかな」
「はい」
一応、呼び方を確認すればシルマはほんわかとした笑みを浮かべて頷いた。うん。やっぱこの子可愛いかもしれん。
「聞いた感じだと、レベルの上限解放は大変そうだけど、シルマ1人でやり遂げたのか」
「はい。私1人でやり遂げました」
「え、マジで」
にこやかに即答され、俺は固まった。聞くだけでも入手が困難とわかる欠片集めを1人でやり遂げた?嘘だろ!?
でも、確かにシルマの周りを確認しても彼女の他に人の姿は見当たらない。誰かと連れ立っている様には見えない。
シルマの見た目はピンク髪の毛でおっとりマイペースキャラで実にヒロインらしいと思うし、どう見ても非力。守られるべき存在。
しかも聖のアナライズによれば彼女のレアリティは3だ。強くもなく、弱くもなく、俗に言う平凡なステータスのレアリティ。
レア3のレベルアップ素材はレア度が低く、入手しやすいものが多いため、個人が頑張れば最高値であるレベル70までは育つだろう。
この世界でレベル70は割と普通の戦闘力のはず、と思いながらも先ほどシルマが一撃でドラゴンを倒した姿が頭を過る。
そしてその件のドラゴンは息1つ出ずに俺たちの傍で冷たくなって横たわっている。
ドラゴンは動かない。ただの屍の様だ。
改めてドラゴンの屍を見ていると俺の体も冷えてきた気がする。嫌な予感と言った方が良いのかもしれない。
「な、なあ。シルマ。お前の今のレベルを教えてくれないか」
確か聖がシルマのレベルはカンストしてるって言っていたよな。どれほどの高レベルなんだ。
俺の質問にシルマはビクッと体を震わせ、右を見て左をみて、そしてもじもじとかなり不振な動きを見せながらおずおずと答えた。
「500です……」
「ごひゃっ」
俺は言葉を失った。外見は天使のようにかわいいのにレベルは全然かわいくない。寧ろ雄々しい。
まさかの100オーバーですか。そうですか。そりゃあドラゴンを一撃で倒せるわな。
『ねー。すごいねぇ。上限値を突破してもそこからまたレベルアップに必要な素材を集めて行かなきゃいけないのに、シルマちゃんはそれを達成したんだもんね』
聖はシルマに称賛の言葉を送り、そしてどこかの誰かさんとは大違いだね。と小声で言いたがった。軽い、いや、かなり重い殺意が湧いた。
俺と聖の視線を受けたシルマが恥ずかしそうに言った。
「だ、だって私、低レアに生まれて来たので危険な目に遭うことも多くて……死にたくないから頑張ってたらこんなことになっちゃいました」
「oh……」
シルマの発言に俺は意味もなくいい発音で嘆いてしまった。
なっちゃいましたじゃねぇよ。頑張ってもレベルが上がらない俺は頑張りが足りないということカナ。
『シルマちゃんが隠形のスキルを発動中のクロケルを見つけることができたのも君が持つスキルのおかげだね』
聖がすっかり忘れかけていた疑問をシルマに投げかける。
そうだった。俺は隠形のスキル発動中に声をかけられたんだった。
「はい。私があなたのことが見えるのもレベルを上限解放したことによって解放されたレアスキル、千里眼のおかげなんですよ。と、言ってもレアリティ3では隠れている相手を見つけるのが精一杯ですが」
千里眼。それはまだ使えないが俺にも備わったスキルだ。聖曰く、同じスキルを持っていてもレアリティによって質は変わり、俺の場合は隠れている相手を見つけるほか、未来予知も可能らしい。そんな良いスキル持ちでもレベル1のせいで未開放なのが悲しい。
シルマは隠れている相手を見つけるのが精一杯と謙遜したが、いや十分だろ。戦場に立つ上では十分すぎる能力だわ!今の俺には嫌味にしか聞こえない。
でも、レベルの上限は500なのか。そしてレア3のシルマがあれだけの強さなら、レア5の俺も頑張ればアレ以上に力をつけることができるってことだよな。
「その欠片とやらに限りはあったりするのか」
『ないよ。僕よりも前の神々が残して行った神々の力の破片?らしいから。ほぼ無限にあるんじゃないかな。ただ、様々な形で散らばっているみたいだから、探すのは大変だと思うけど』
よかった。もし早い者勝ちみたいなことになっていたら将来的に俺の上限解放も困難になっていたところだった。欠片に限りがないのであれば焦らずレベルアップしていけるな。
探すのが大変なのは素材も同じだ。もうこの際どんな苦労も厭わない。
レベルは高ければ高い方が生存率も上がるし、今後はレベルの上限解放も視野に入れておこう。
『あ、クロケルも興味あるの?』
こっそり人生設計を立てている俺の心を読んだらしい聖が呑気に聞いて来たので思わずずっこけた。
どうして余計な時だけテレパスを使うんだこのアホは。心の中を読むなと再三再四言っているのにまだわからんか。こいつ。
『まだレベル1なんだし、そんな先のこと考えなくても……』
「あっこら、馬鹿ッ!」
また余計なことを言い始めた聖を俺は慌てて抑え込んだがもう遅い。シルマにバッチリ聞かれてしまった。レアリティ5の俺がレベル1だと言うことを。
「レベル1?」
シルマが大きな目をさらに見開いて俺を見る。
あ、バレた。俺が高レア低レベルって言うクソ事実が。終わったわコレ。
見た目がこんなに強そうな上にレアリティも高いとそれなりに牽制になる。モンスターや動物などは本能で俺が弱いとわかるらしく襲いかかってくるが、大概の種族はアナライズでもしない限り、見た目とレアリティに騙されて俺に襲いかかって来ることはない。
ゴロツキに襲われそうになった時も凄みを聞かせて
「戦うつもりか。レア5の俺と、お前らが?」
と言っておけば大概は尻尾を巻いて逃げる。なお、その時の俺は足がガックガクであるが気にしてはいけない。
だから俺はレベルは公言していない。というかするわけがない。黙っているだけで自分の身が守れるんだから、それは得なことだ。
それなのにこいつ!この馬鹿は平然とバラしやがった。シルマが悪い奴とは思えないが、見た目で人を判断してはならないのが世界の常だ
自分が本当に信頼できると思うまで与える情報は少ない方が良いに決まっている。自分の判断で信じて裏切られたら、まあ……ショックがデカいが、信じた自分も悪いと諦めもケジメもつく気がする。
だが、何が起こるかわからない異世界では基本的に自分の情報は隠して生きていこうと決めていたのに。俺のレベルは他言無用と頼んだのにっ。
叩き割ったろか!このタブレット。と怒りに震え拳を握りしめた時、呆けていたシルマから予想外の反応が帰った来た。
「やっぱり!クロケル様はレベルが1だったのですね」
「はい!?」
シルマは瞳を輝かせながら大きな声で嬉しそうに俺を見た。
え、なんでこいつこんなに嬉しそうなの。なんで目がキラッキラしてんの。あと、やっぱりってなんぞや。あと、大きい声でレベル1って言わないで貰えるかな、恥ずかしいから。
「私の目に狂いはありませんでした。ずっとあなたを見ていて良かったです」
「は?見ていたって。わっ」
ドン引いている俺の手をがっちりと握りしめてシルマが真剣な表情で俺の顔を覗き込んだ。小柄な女にしたから見上げられてちょっとだけときめいた自分が情けなかった。
って言うか見ていたってなんだ。まさか、シルマがこの森にいたのは俺を追いかけてきたからなのか。何のために?
「あ、あの。私のお話を聞いて頂けますか」
俺の手を握るシルマの手に力が込められ、俺の心臓が跳ね上がる。
ヒロイン属性の美少女に手を握られてた状態で見上げられて心臓がバクバクしない奴がいるだろうか。俺の感情は正しい、正しいよな!?
『わぁお!僕お邪魔かな』
タブレットの体をくねらせながら聖が冷やかすが不思議と気にならない。普段だったら多分、いや確実に怒鳴っているところだ。
変に体が熱くなり、汗もかいて来た。動揺し、緊張していると言うことが自分でもわかる。
だって、俺こんな経験初めてだし!って生娘か俺は!!男だけど。
頭の中が甘く痺れる様な感覚に支配され始め、俺はシルマの言葉を待った。
シルマも緊張しているらしく、なんどか目を泳がせていたが、決意をしたのか浅く息を吸い、ギュッと目を固く瞑りながら力一杯叫んだ。
「私があなたを最強の騎士に育てます。なので、私の身代わりになってもらえませんか」
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聖「次回予告!かわいい女の子から熱烈アプローチを受けたクロケル。異世界転生でモテるのはお約束だけど、うらやましいぞっ★果たして、クロケルの返事はいかに!?」
クロケル「確かに熱烈なアプローチではあったが。どこにモテ要素があったか教えてくれねぇかな。最後のセリフを聞いてそう感じたんなら言葉の意味を勉強し直して来い」
聖「次回レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第5話 『ドッキドキ!クロケルとシルマの珍道中』あーあ、リア充爆発しろ」
クロケル「リア充違う。珍道中って表現しておきながら何をぬかしおる。貴様」