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第56話 竜の谷へご招待

本日もお読み頂きまして誠にありがとうごさいます。


思いつきで小説を書き進め、毎回未来の自分に続きを託し、過去の自分を恨むと言う無限ループ。みなさん、文章を書く時はある程度のプロットと下書きは大切にしましょうね(泣)


でも書いている時は楽しいんですけどね。読んでいる方が読みやすい、わかりやすいものに仕上げたいと毎回思うのですがこれがまた困難で……。


毎回お付き合い頂いている方、誠に感謝いたします。是非、今後ともよろしくお願いいたします。


本日もどうぞよろしくお願いいたします。

全然気ままじゃない竜飛行で俺たちは風の国アエラスへとやって来た。目的地に着いたためか、ジェットコースター並のスピードから、風に身を任せた気球の様な緩やかな浮遊に変わり、俺たちはようやく空から景色を眺める余裕ができた。


 上空から見るアエラスは緑が多く海や川なども多く見られ、自然豊かな国だった。風を受けてクルクルと回る数十基の風車が印象的で、牧場なども確認できた。


 このスローライフ感……自分で農場や島を開拓する某ゲームを思い起こすなぁ。どうせ転生するなら戦いとは無縁なスローライフを送ってみたかった。アエラスの平和な空気を感じ、改めて己の現状を悔やんだ。


「このまま竜の谷へと向かうぞ」


「竜の谷?」


 シェロンさんの言葉に首を傾げて復唱すると俺の腕の中で聖が


『アエラスのどこかにあるヒト型の竜族が住まう場所だ。シェロンの出身地で今も暮らす場所。本来はヒトの侵入が許されない神聖な場所だよ』


「侵入禁止って……じゃあ、俺たちも入れないんじゃ」


 聖の言葉を受けてシェロンさんに視線を向けると彼女は前を向いたまま頷いた。


「ああ、そやつの言う通りじゃ。基本的には人間の立ち入りは許されておらぬが、状況が状況じゃからな。竜族の長として特別に立ち入ることを許可してやろう」


「で、でも突然人間の俺たちが現れたら他の竜族のヒトの迷惑になりませんか」


 これはあくまで各二次元作品で人外キャラと関係を気付いて来た俺が持つイメージなのだが、人間嫌いの種族ってプライドが高い上に慎重で、大概はこう言うシチュエーションではどんな理由があっても拒絶の反応を示すことが多い。


 そうなった多くはヒトが竜族を迫害したり、奴隷のように扱ったりしたことによって生じた確執が原因でヒトの自業自得であることが原因なのだが、もの凄い蔑んだ目でもの凄い拒絶の言葉をくらうことがよく(ゲーム内で)ある。


 先ほどは失礼になるかもしれないと思い「迷惑」と言う言葉を選んだが、ぶっちゃけ反感と言う言葉の方が正しいだろう。


しかも「どこか」ってぼかされるってことは、竜の谷の場所は隠されているってことだよな。


所在が不明だなんてこの世界の長である聖と同じじゃないか。わざわざ隠すってことは関係者以外に簡単に知られてはいけない場所ってことだろ。


そんな場所に人間且つよそ者の俺たちが突然アポなしお宅訪問なんてしたら、大ブーイングで即追い出し間違いなしの未来しか見えないが、本当に大丈夫か。


 生前のオタク的ステレオタイプも相まって不安を募らせる俺にシェロンさんはケラケラと笑って言った。


「ははは、そんなに心配せずとも良い。竜族は長の言うことには絶対服従じゃからの。我がお主らの訪問を許したのであればそれは一族の許可も同然よ」


「ほ、本当ですか?」


「ああ、本当だとも。きっと谷のみんなもお主らを歓迎してくれるじゃろう」


 そうかなぁ、どうかなぁ。無意味に敵意を向けられるのは嫌なんですけど。


『でも、竜の谷は特別な結界が張られてあるし、外部からの干渉は千里眼も含めてほぼ不可能になっているんだ。毎回出現する場所も変わる。だから、ネトワイエ教団から身を隠して行動するにはもってこいの場所だと思う』


「場所が変わるってどういうことだ」


 聖が普通ではありえないことをさらっと言ったので俺は聞き漏らすことなく質問をする。


『竜の谷は存在したいがとても特殊でね、この世界の時空の中を絶えず移動しているんだ。移動する場所も時間もランダム。その場所の出現を読めるのはそこに暮らす竜族だけだって言われてる』


「なるほど、まさに秘境だな。でも、やけに詳しいな。お前、行ったことがあるのか」


 もしかして、神子だったころに縁がったのか。それとも世界の長としての知識なのか。そう思ってなるべく小声で聞くと、聖は小さく返答した。


『うん、まあね。()、暫くの間身を置いていたことがある。シェロンの言う通り、当時は居心地は悪くなかったし、十分過ぎるぐらいのおもてなしをしてもらえたよ。変な目を向けられ足り、得に危害を加えられることはなかった』


「そ、そうなのか。なら、いいけど」


 やっぱり、聖は神子だったころに竜の谷を訪れて一時を過ごしたことがあるらしい。当時まだ人間だった聖が問題なく過ごせていたのであれば安心……なのか?


 微妙に不安が和らいだその時、強い風がぶわっと顔面を襲い、目を開けていられなくなった。何なら一瞬息もできなくて死ぬかと思った。


「うわっ」


「ううっ」


「きゃあっ」


 俺の背後にいるシルマとシュバルツの顔面にもしっかり風が命中した様でそれぞれの悲鳴が聞こえる。


 そして風が止み、やっと目を開け、息をすることができたと思ったその時、シェロンさんが嬉しそうに言った。


「お、見えたぞ。ホレ、見るがよい。あれが竜の谷じゃ」


 言われて下を覗いて見ると俺は目に飛び込んできた光景に思わす感嘆した。


「おおおっ、すげぇっ」


 そこには切り立った丘や透明な水が流れ落ちる大きな滝、どう言う原理で浮いているかわからない謎の岩場や、草花が生い茂り色とりどりの絨毯を思わせる自然が溢れた世界があった。


 所々に集落の様なものがあり、ヒトが何人か行き交うのが見える。シェロンさんはそのまま集落の上をゆっくりと通過し、山の近くにある洞窟まで飛んで行きそこで俺たちを降ろした。


 全員が降りたことを確認し、シェロンさんはポンッと煙を上げて巨大な翼竜から幼女の姿に戻った。やっぱり人間の時のデフォルトは幼女なんだな。


 若い体の方が身体能力が上がると言っていたが、ちょっと若すぎないか。もう少し大人寄りの方が不便が少ない気がしなくもないが、幼女の姿が本人的にお気に入りなのかもしれない。


「ふぅ、久々にヒトを乗せて飛んだせいか少し肩が凝ったのぅ。6人は流石に乗せ過ぎたか」


 シェロンさんは首をポキポキ、肩をブンブンと回しながらため息をついた。発言が凄くお年寄りくさい。でも、ここまで俺たちを乗せてくれたことには感謝している。だって本当にあっと言う間についたから。


 体感で言えば数十分だぞ。飛び立つ前にシルマに地図を見せてもらったが、出立地のヴェレームトと目的地のアエラルの距離はかなり距離があった。


 徒歩で向かえば1ヶ月はかかりそうだったし、馬車や飛行機(シャルム国王の自家用ジェットは除く)を使っても随分と時間を要するし、宿代や乗り物代でお金もかかる。


 それを全てショートカットしてくれたのだ。スピードが速すぎて若干意識が飛びかけたが、それはそれとして、本当に感謝すべきことだと思う。


 俺はガバッと頭を下げて御礼の言葉を述べた。


「お疲れ様です、シェロンさん。ここまで運んで頂いてありがとうございました」


「ありがとうございます」


 俺の後にシルマも頭を下げる。数秒頭を下げてから顔を上げるとシェロンさんが目を丸くして俺とシルマを見ていた。そして、くすぐったそうにふふっと笑う。


「わざわざ礼を言うなど律義じゃのう。良い良い。空の旅は楽しかったか」


「はい、とても楽しかったです。ね、シュバルツくん」


「うん。楽しかった、凄いスピードで楽しかったし、景色も綺麗だった」


 シルマとシュバルツがそれぞれ笑顔で頷く。気を遣っている様には見えないので恐らく本心だ。


 でもちょっと待て。え、マジで。さっきの空の旅、楽しむ要素あったか?主に前半。ほぼジェットコースター状態で余裕なんて1ミリもなかったのは俺だけ!?あの猛スピードの中景色を見る余裕あったの?


嘘だろ。俺なんてアエラスに到着してやっと目が開けられて景色を目に映すことができたのに。


『クロケルって絶叫系苦手だっけ』


「いや、絶叫系にも限度があるって話だよ。ずっと猛スピードで動き続けるジェットコースターなんて怖すぎるだろ」


 呑気なことを聞いて来るシュバルツに軽くツッコミを入れつつ、俺は改めて目の前の洞窟を見る。


 それは青い色をした水晶の洞窟だった。青いと言ってもペンキで塗りたくった様な青ではなく、サファイアの様な濃い青色で透き通った、繊細に輝く青である。


 神秘的とはこう言うことをいうのだと思った。少し覗き込んだだけで空気が変わった気がする。洞窟の空気を感じるとスッキリすると言うか、心が軽くなった浄化された心地になる。パワースポットにいるってこんな感じなんだろか。


「あの、この洞窟はなんですか。どうして俺たちをここへ?」


「お主たちは客人であろう。まずはこの谷の長である我の住処へ案内するのが常識であろう。ホレ、ついて来るがよい」


 俺の質問に当然のことだと言う態度でシェロンさんは水晶の洞窟の奥へと歩き出した。俺たちは戸惑いながらもその後に続く。


 洞窟の中は意外と適温だった。気温が低くてひんやりしているか、熱がこもって熱いかのどちらかだと思っていたので意外だ。水晶の洞窟だから岩の洞窟とは違うのだろうか。


「そうじゃな。この洞窟は我の魔術がかかった特別性なのじゃ。踏み入れた者の適正気温に合わせる仕組みになっておる。快適であろう」


 なるほど、最新式のエアコンみたいな感じか……じゃなくて、ちょっと待て。


「え、どうして俺、口に出していましたか」


「ふふ。テレパス能力を持つのはどこかの誰かだけではないと言うことじゃな」


 シェロンさんは歩きながらこちらを振り向き、悪戯っぽい笑顔を向けて来た。俺の心と背筋がひやっとする。


 マジか、ここにも人の心を勝手に読む奴がいるのか。俺は心の中ですら独り言や不満を漏らすことをできないのか。もう、常に心を無にするしか道はないのか。そんなんストレスで命を落とすわ。


『大丈夫だよ。人間はそんなに簡単に心を無にすることも偽ることもできないから』


 くそ、さっそく心を読まれたよ。あと、何が大丈夫なんだよ。全然大丈夫じゃねぇよ。テレパス能力がコントロールできるんだったら勝手に人の心を読むな。


大体、他人の心を読んだって損することの方が多いだろ。顔は善人でも腹の底では思ってることは違う、みたいなパターンだったら俺には耐えきれん。人間不信になるわ。


『だから僕は基本、信用できないヒトの心しか読まないよ。クロケルは思っていることが面白いからテレパスるだけ』


「勝手に面白がってんじゃねぇ。それからテレパスるってなんだ。勝手に新しい動詞を作るな」


 少しだけイライラしながらシェロンさんの後に続き洞窟を歩くこと数分、シェロンさんが突然立ち止まって言った。


「着いたぞ。ここが我のマイルームじゃ」


「マイルームってここが?」


 そこは部屋と称するにはシンプル過ぎる空間だった。そこはただの広いだけの空間。正面には竜の谷全体を見渡せる映画館のスクローンぐらいの大きさの穴はあった。しかし、ガラスなどが張られている様子はなく、風が吹く抜け状態。本当にただの穴だ。


 床には干し草が山になっていて、こんもりとした形から推測するに恐らくベッドや家具の役目を果たしているのだろう。


 なんかこう言うの博物館でみたな。“原始時代の生活”みたいなやつで。まさにそれだ、文明と言うものが感じられない。


「シンプルな部屋ですね」


 どう言う反応をしていいかわからなかったのでとりあえず無難な言葉を選べばシェロンさんはにこにことして言った。


「我は竜であるからのう。ヒトが生み出した道具も素晴らしいが、我にとっては基本的には必要のないものなのじゃ。この洞窟内では常に竜の姿で過ごして居るし、必要最低限なものを選別したらこうなってしもうた」


 選別し過ぎじゃねぇですか。いや、でも竜だしな。テレビは必要なさそうだし、竜の姿で寝ていると言うのならベッドも必要なさそうだ。


「まあ、我が持つ唯一の文明の道具はこの端末ぐらいのじゃな。いざと言う時の連絡手段にとシャルムに端末は持たされたが、ほとんど使っておらぬ」


 シャロンさんはポケットから端末を取り出し、不服そうな表情でため息交じりにそれを見つめていた。


 なんと、その端末シャルム国王に持たされていたのデスカ。あのヒトならそう指示をしそうだとは思うけども。良く見たらシェロンさんが手に持つ端末にグラキエス王国のマークが見える。


「では、先ほど見えた集落に住む方々も人間の文化から離れて過ごしているのですか」


 シルマの素朴な疑問にシェロンさんが首を横に振って答える。


「いいや。そんなことはないぞ。少なくとも竜の谷で暮らす竜族はヒトには友好的であるし、その文明も積極的に取り入れてヒトと変わりない生活を送っている。我がものぐさなだけじゃ。ああ、すまぬな。その辺りに座ってくれ」


 シェロンさんが山になった干し草にドサリと体を預けて言った。俺たちはそれに従い、各々が干し草が敷き詰められた場所に腰を掛ける。


 尻の辺りがチクチクするんじゃないかと思ったが、繊維が細く柔らかいためかふわふわとしていて、座り心地は悪くなかった。


「さて、シャルムからある程度の話は聞いておるが、なにやら面倒くさいことになっている様じゃの」


 シェロンさんがそう切り出し、聖が代表で口を開く。


『そうなんだよ。シェロンはネトワイエ教団の存在を知っていた?』


「うーん、我は千年もの間この世を見て来たが、その様な存在は見たことも来たこともないのう。我が興味がなかっただけかもしれぬが」


 首を左右に振ってシェロンさんは否定の言葉を口にした。


「千年の時を生きるシェロンさんも知らないなんて、もうお手上げじゃねぇか」


 素直な言葉を口にして頭を抱える俺にシェロンさんは笑みを浮かべながら言った。


「そう落ち込むことはなかろう。我が認識しないぐらい力のない教団だと言う可能性もある。教団を率いるライアーなる者は凄腕の様だが、団員の力はそうでもないのかもしれぬぞ。聞けば魔法学校の生徒に後れを取る様な連中らしいではないか」


 あ、そのこともバッチリ伝わっているんですね。確かに、魔法学校で教団員に襲われた時、数が多く、武装も凄かったが戦いに対する対応能力は低かった。


 仲間が魔法学校の生徒であるアリスの魔法にかかった際、ひどく慌てて戦意を喪失していたし、その後はケイオスさんに素手でフルボッコにされていた。ケイオスさんが強いと言うこともあると思うが、確かに実力者揃いではないのかもしれない。


「今はそうかもしれないが、今後はわからないぞ。教団を設立して今日(こんにち)まで、仲間や準備を整えて着実に野望を叶えようとしている可能性もある。油断はできない」


 ネトワイエ教団にそこまで怯える必要はないのでは?と思い始めた俺の考えに冷や水を浴びせたのはミハイルだった。そして安心していた俺へのトドメと言わんばかりに聖がそれに同意する。


『そうだね、徹底的に暗躍を続けて、完璧に準備が整ったら実力全開放!!って考えている可能性が高い。それに相手の戦力も不明だし、警戒はすべきだ』


「むぅ、そんなものかの」


 ミハイルと聖の厳しい言葉を受け、シェロンさんはあまり納得をしていないのか、口を尖らせ少しだけふてくされていた。


 そうですか、警戒は必要ですか。やっぱり危険が伴うんですね、素性が分からない以上、一瞬の安心も許されないと。


 はい、わかります。わかりたくないけどわかります。ああ、俺はいつになったら安寧を手にすることができるんだ。


「わかっているのはネトワイエ教団の目的がこの世界を滅ぼすと言うことだけか。しかし、そんなもの長が生存する限り不可能に近いだろうに。やはり、さきほどお主らは言うた様に、その野望を成功させる算段があるということなのかのう」


 シェロンさんがやれやれと肩を竦める。ここまで来ても解決策も行き先も見えない状況にその場の全員がため息をついた。


『何にしてもネトワイエ教団の情報は少しでも多い方が良い。竜の谷は長くこの世界を生きる者が多いだろう。1人ぐらいは何か知っている竜がいるかもしれない。君以外の竜に話を聞けないかな』


 聖がシェロンさんにそう願い出ると、心良い返事が返って来た。



「ふむ、そうじゃな。それはいい考えじゃ。よいだろう。その願い、聞き届けよう。では、調査ついでに竜の谷を案内してやる。今一度、我についてく来るがよい」


 座ったばかりだと言うのに、シェロンさんはさっと立ち上がり、竜の谷が見渡せる大きな窓(と言うか穴)におもむろに手をかけて小さな体でよじ登り、そして落ちた。落ちた!?


「えええええええええっ!シャロンさん!?」


「お、落ちてしまいましたよ!?」


 突然落下したシェロンさんを追いかける。この洞窟は山の上、標高もそれなりに高い。ここまで飛んで来たからわかる。落ちたら肉片も残らないぐらい潰れてなくなること確定だ。


 俺とシルマは真っ青になって穴から身を乗り出す。同時に俺たちの視界を緑の巨大な翼竜が下からにゅっと現れて笑顔で言った。


「さ、我の背中に乗れ。下の集落までひとっ飛びじゃ」


「わああっ」


「きゃっ」


 突然視界を鋭い爪を持つ喋る竜に塞がれた俺たちは絶叫しながら飛び退いた。シェロンさんは竜に変身するために窓から飛び降りたのだ。入ったところから出ればいいのに横着しただけだったのだ。やめてくれ、色々と心臓に悪いから。


「どうした。早く乗らんか。善は急げと言うだろう」


 心配をかけた当の本人はけろっとして俺たちを急かした。同じ思いを共有した俺とシルマは顔を見合わせ、そして脈打つ心臓を押さえながら、来た時と同じ配置でシェロンさんの背に乗って、竜族の集落を目指した。



 ~ 一方、クロケルたちが集落を目指しているころ、とある場所 ~


 風の国アエラスの国境の門の前、通行許可を門番から貰った2人の男女は門をくぐり、市場の中を歩いていた。


 男女は布を頭に巻き顔を隠していたが、この国ではそれもファッションの1つのため、特に目立ってはいなかった。


 女の手には白いウサギのぬいぐるみ。男はその様子を窺う様にして言った。


「どうですか、フィニィさん。そのぬいぐるみはあなたに馴染みましたか」


「うん、大分いい感じ。ありがとう。ライアー」


 男女の正体は目的を果たすためにアエラスの地を踏んだフィニィとライアーだった。出会ったばかりの2人はすっかり意気投合し、他愛のない話ができるほど親しい間柄になっていた。


「しかし、竜の谷の侵入がこれほどまでに困難だとは思いませんでした」


「どうするの。竜の谷を見つけることは難しいし、発見できて仮に侵入に成功したとしても竜族が相手だと戦闘に手こずりそう」


 気を落とすライアーのとなりでフィニィもぬいぐるみを抱きしめながらしょんぼりと肩を落とした。


「そうですね。谷を襲うにしてもかなりの実力を持つと言われる竜族をまとめて相手にするのは避けたいです。それに竜の長の傍に余計な荷物がついてるようですし」


「余計な、荷物」


 肩をすくめるライアーの隣でフィニィがぬいぐるみをシワが寄るほどぎゅうっと強く抱きしめる。


「せっかく差し向けた私の可愛い部下も全員捕らえられてしまった様ですし、神子側もかつての繋がりをバッチリ利用して情報共有と戦力を強化しているようです」


「それはムカつく。黙って始末されればいいのに」


 フィニィがギリッと歯を鳴らし、ライアーが肩を竦めて首を横に振り、お手上げのポーズで大げさに言った。


「困りましたねぇ。一旦目的を変更しましょうか」


「それは、神子の仲間たちを始末するのをやめるってこと?」


 全く困っている様には見えないライアーをフィニィが不満げにじっと見つめる。


「いえ、それをやめるつもりは毛頭ございません。ただ、こう邪魔をされてはこちらも本来の目的を果たすことが難しくなりそうですので、まずは向こうの戦力を減らしましょう」


 ライアーは胡散臭い笑みをフィニィに返した。彼女はそれに大した反応を見せることなく、素っ気なく頷いた。


「そう。じゃあ、誰から狙うの」


「そうですねぇ……」


 その問いかけに迷う様に腕組みをし、人差し指でトントンと軽く顎を叩いた後ライアーは怪しく微笑んでとある人物を指名した。


「クロケル、と言いましたか。あの青年は中々面白そうです。彼から始末しましょう」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


聖「次回予告!ネトワイエ教団の情報と動向を掴むべく、竜の谷とアエラス国を探索することになったクロケルたち。果たして、彼らの尻尾を掴むことはできるのか……って、どうしたの、クロケル。そんなに震えて……風邪?」


クロケル「い、いやよくわからないけど、突然寒気がして」


聖「いつ戦闘になるかわからないんだから、体調管理には気をつけてよね。次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第57話『狙われたクロケル、絶対絶命、危機一髪!!』鍛錬の成果を見せるときかも」


クロケル「待って、なにその不穏な四字熟語。俺の身に何が起こるだ。怖いんですけどー!!」


聖「大丈夫、多分死にはしないよ」


クロケル「“多分”はやめろっての」



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