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第55話 風の国アエラスへ ~竜に乗って気ままな旅へ出かけよう~

本日もお読み頂いて誠にありがとうございます。


本編と全然関係ないですが、スイートポテトって牛乳の量さえ気を付ければ割と適当に作れますよね。簡単にできるのでいっつも作りすぎてしまいます。


そんな話はどうでもよくて、次のお話でやっと新しい国へと向かいます。結局魔法の国らしい描写が書けないまま話が流れていったのは大きな反省点です。情けない……


本日もどうぞよろしくお願いいたします。

『そんなことよりもシェロン。どうしてこんなところにいるのさ。君は僕たちとの旅を終えた後にアエラスの山奥か何だかに引きこもったはずでしょ』


 自己紹介をした後、気分よくドヤ顔を決めるシェロンさんに向かって聖がそう問いかける。


「おお、そうじゃった。まずはそこから説明せねばならぬな」


 んんんっ、と咳払いをしてからシェロンさんは意気揚々と、まるでベテラン講談師の様に話を始めた。


「我がここにおる理由は単純じゃ。昨日、シャルムから連絡を貰ったからだ。色々気になることはあったが、お前の新たな仲間に興味が湧いてのぅ。お前たちがアエラスを尋ねて来るのを待って居れずに、自ら会いに来たと言うわけじゃ」


 シェロンさんの言う「お前」とは恐らく聖のことだろう。で、「仲間」は俺たちのことだな。


 シャルム国王、他の仲間にも連絡するって言ってたけど、話し合いの後直ぐに連絡したんだな。めっちゃ仕事が早いな。そしてこの感じだと俺の諸々の事情はバッチリ伝わっているな。興味が湧くってそう言うことだろ。な?


「でも、この国とアエラスは随分と距離があります。昨日連絡を貰って直ぐにこちらを訪れることは不可能だと思いますが」


 シルマが不思議そうに首を傾げる。俺はこの世界の土地勘がないからよくわからないが、俺たちが今後のことを話し合い、話がまとまったのは夜だ。


普通に考えて正攻法で来られるわけがない。どうやってきたんだろう。魔法で瞬間移動とかか?


「うむ!良い質問じゃ、答えてやろう。それはな、飛んできたからじゃ」


「飛んで来たぁ!?」


 唐突に切り出されて俺は大声で復唱する。驚かれたことが嬉しいのかシェロンさんはものすごくドヤ顔をしていた。


「ああ、シャルム国王みたいに自家用ジェットをもっているとか」


 言葉の意味を数秒考えて唯一思いついたことを聞いてみればシェロンさんは首を横に振った。


「違う違う。そんなもの我には必要がない。我は竜なのじゃぞ。自ら飛べるのじゃ。竜の姿に戻り、本気を出せばシャルムのところのジェット以上の速さで飛べるぞ」


 マッハ2以上のスピードが出せるだと。後、何でそんなに胸を張っておられるので?ジェットと張り合わなくても良いと思いますよ。このヒト、もしかして自信家で負けず嫌いか?


 そう言えばシャルム国王もケイオスさんもその気があるよな。もしかして神子の仲間ってみんなそうなの?だからあんまり協調性が見られないのか。ダメじゃん。そんなんでよく世界を救えたな。


「そんなわけで、昨日の今日で我がここに来られたのは当然なのじゃ。と言うか、この地を踏んだのは昨日なのじゃぞ。お主らに会いたくて爆速で飛んできたのじゃからな」


『ああそう。それはご苦労様、ケイオスには会いに行ったの』


 得意げにするシェロンさんに素っ気なく聖が言った。あまりに冷たくあしらわれたせいか今までにこにことした姿勢を崩さなかったシェロンさんが唇を尖らせる。


「ケイオスにはまだ会っておらぬ。しかし、何じゃ、かつての仲間と久々に会えたと言うのにその態度は。もっと再会を喜ばんか」


『あっ!バカ!』


 不意に紡がれた聖が慌てて止めたがもう遅かった。俺も流れる様なネタバレ展開に頭を抱える。


「かつての仲間?アキラさんも神子様の仲間だったのですか」


 シェロンさんの言葉を聞いてシルマが不思議そうに首を傾げる。それを受けてアンフィニとミハイルもそれぞれ疑問を口にする。


「そう言えば神子の名前もアキラだったよな。そしてクロケルが持つタブレットも“アキラ”」


「ああ。俺がラピュセルと地下で過ごしていたころに神子の噂はバチェルから聞いていた。異世界から来た人間だったと聞いたが、元の世界には戻らずにこの世界で長としての役目を果たしていると聞いたが、まさか」


 閃いた様なミハイルの言葉の後に事情を知らされていない者たちの視線が集中する。みなさん答えを導き出すのが速すぎませんか。もっと行き詰まろうぜ。


 あわわわ。どうするんだよこの状況、と言うかシェロンさんっ!唐突にネタバレやめて。いるよね、各所でうっかり(場合によっては当然の様に)ネタバレしちゃ言うヒト。


 ダメだよ。話を聞いて欲しいかもしれないけどそう言う情報共有は時期と相手の意志を尊重しようね、こうして事故るから。


 と言うか待て待て、聖の現状とか俺のレベルの話を神子一行の間で共有するのは分かる。でもそれを易々と口外しないのは共通認識じゃなのか。その辺はどう取り決めてんだよ。


「そこのタブレット。まさか、お前……」


「あーっと!シェエロンさんに向かって敵の攻撃がぁ、危なーい」


「お?」


 ミハイルが確信を点こうとしたので俺は超絶棒読みでシェロンさんを自分のへ引き寄せた。俺よりも小さな体はふいに引っ張ったと言うこともあり、簡単に俺の胸にダイブした。


 傍から見ると犯罪スレスレの行為だとは思ったが、今はそんなことを気にしている暇はない。そのままの勢いで俺はシェロンさんをみんなから引き離す。聖も逃げるように俺に引っ付いてその場を離れた。


 茂みに体を寄せ、気まず過ぎる視線を受けながら、みんなに背を向けた状態で俺は必死に小声で注意した。


「シェロンさん!それダメです。シャルム国王からどうお話を聞かされたか不明ですがダメ!NG」


「ん、おお。そうじゃった。聖とお主のことについては内密にと言われておったのじゃった。ははは、すまぬのぅ。忘れておったわ」


 からからと高らかに笑う様子を見るに全く反省していない。見た目が幼女なだけあっていたずらっ子感が半端ない。何をしでかすかわからない感じが妙にハラハラする。


『もう!気をつけてよね。僕のことやクロケルのことが一般人にバレると色々とややこしくなるんだから。この件については生涯こころに秘めておいて!約束だよ』


「でものぅ、竜は気まぐれじゃから約束はできないかのぅ」


 タブレット越しからもしっかりと伝わる圧を放ちながら聖は念押しをしたが、シェロンさんは体をくねらせ、困った表情で曖昧な態度を取った。


「気まぐれとかそう言う問題じゃないです。約束してください!」


 これについては確約してもらわないと困るので俺からもしっかりと念押しをすると、シャロンさんはうーんと唸った後にニカッと歯を見せて笑った。


「わかった。覚えていたら約束してやろう。故に今後は安心して我と行動を共にするとよいぞ」


 あ、八重歯がある。獣っぽいところが見た目も相まってポイント高い、かわいい。じゃなくて!覚えていたらって何だよ、不安だわ。何も安心できねぇわ。


「おい。いつまでコソコソとしているつもりだ」


「うぇい」


 茂みに向かって身を寄せて不審な態度で話し合いを続ける俺たちに遠くでミハエルが刺々しく声をかけてくる。


 疚しいことがありまくりな俺は唐突に聞こえて来た声に過剰に反応して体をビクつかせ、変な声を上げると言う最高に怪しい反応をしてしまった。


「ヤバい、何とか誤魔化さないと……」


 俺の中で焦りが加速する。何度も聞かされたが、世界の長が個人に過剰に介入するのは規則違反。聖もそれをギリギリ守ってここまで行動して来た。


 もし、今日をきっかけに聖の正体や俺を特別扱いしていることが世界に知られてしまったら、人々から大きな反感を買うかもしれない。


 それに個人に過度な協力をしていると「世界」に判断された時はどうなるかわからないと聖本人も言っていたし、下手をしたら今後聖と行動を共にできない可能性もある。場合によっては長の座を退くと言うこともあり得る。


 謎の集団や前長の関係者と対立すると言う、ただでさえややこしい事態を招いていると言うのに、これ以上の面倒事は全力で回避したい。


 良い誤魔化し方はないかと必死で思考を巡らせるが、あせっているせいもあってか、まったく何も思いつかない。


「ど、どうしよう。何て言えばいいんだ。いい案はないか」


『僕も今考えているところだよ!ちょっと待って』


 焦りから半ばパニック状態の俺と、珍しく動揺と苛立ちを見せる聖を他所にシェロンさんがのんびりとした口調で言った。


「なんじゃ。2人して忙しない。そんなに慌てるようなことでもなかろう」


『はあ!?君のせいだろ。何とかしてよ』


 聖は声を荒げ、シェロンさんに詰め寄りって怒りの感情を露わにし、感情をぶつける。対するシェロンさんはひるむ様子もこの事態を大事と取る様子もなく、「ふむぅ」と小さく唸ってから、にっこりと笑った。


「よし、我に任せよ。そなたたちの為にこの事態を鎮めて見せようぞ。さあ、みなのところへ戻るとするかの」


 そう言ってシェロンさんは上機嫌に小刻みなステップを踏みながら、疑わしげな視線を送り続けて来るミハイルたちの元へと歩を進めた。


 一抹の不安を覚えながら、俺と聖も渋々とその後に続いた。気まずいし足が重い。精神的につらい。何で仲間からこんな目で見られないといけないんだよ、誰か助けて。


「いやはや、待たせたの。先ほどのアレはどうやら我の勘違いだった様じゃ」


 うわぁ、苦しい上に鉄板の言い訳だぁ。そんな古来からあるいい加減な誤魔化しが通用するわけがないだろう。主にミハイルとアンフィニに!


「タブレット聖さんとはお知り合いではなかった、と言うことですか」


 シルマが首を傾げて聞き返す。え、まさかさっきの言葉を信じたのか。シルマ、お前ちょっと素直過ぎるぞ。


「そう言うことになるな。ヒト違いならぬ、タブレット違いじゃ」


「そ、そうなんですね。驚きました」


「そうなんだー」


 ケラケラと笑いながらシェロンさんが頷き、シルマは微妙な反応をしたが納得はした様だった。


 シルマの隣に座るシュバルツは最初からこの話について来ることができておらず、“シルマが納得しているのならいいか”みたいな反応だった。


「随分と苦しい言い訳だな」


「ああ、まるで答えになってないな」


 出たな強敵(いしあたま)コンビ。厳しく刺々しい言葉を向けて来たのはミハイルとアンフィニだ。案の定、先ほどのシェロンさんの言葉には納得できないと言うか信用をしておらず、確信をつく気100パーセントでこちらを睨みつけて来る。


 モフッとした動物と見た目が愛らしいクマのぬいぐるみに睨まれるってシュールだよな。怖い、怖すぎて目を逸らしてしまう。


 ああ、推理もので探偵の推理ショーに立ち会う犯人ってこんな気持ちなのかな。隠し事を丸裸にされるかもしれないと言う恐怖。なんとも耐えがたい、体が震える。


「なんじゃ、その疑わしげな目は。我が思い違いといっておるのだからそれでよかろう。何を不審に思うことがある」


 今度はシェロンさんが腕組みをして疑うことをやめないミハイルとアンフィニを睨み返す。


 お互いに一歩も譲ることのないにらみ合いが数分続き、先に折れたのはミハイルたちの方だった。


「はぁ、もういい。面倒くさくなってきたから今は聞かないで置いてやる」


「そうだな。俺はフィニィのことが解決すればそれでいい。それを想えばタブレットの正体なんてどうでもいい」


 それそれが聖から興味が逸れたことを確認すると、シェロンさんは俺たちに向き直り、ウィンクをした後に得意げに笑った。


「どうじゃ、これで万事解決じゃ」


 いやいや、解決も何もゴリ押しじゃん、話が進まないから2人が折れただけじゃん。全く疑いは晴れてないぞ。根本的な解決にはなってない。


『まあ、いいよ、2人が納得してくれたんならそれでいい。じゃあ、そろそろケイオスのところに向かおう。シェロンも来るだろう』



 ゴタゴタの空気の中、聖が当初の目的を口にした。中々上手い話のそらし方だと思った。聖に話を振られたシャロンさんが嬉しそうに頷いた。


「うむ、せっかくヴェレームトに来たのだから、ケイオスにも直接挨拶がしたい。我もそなたらと共に行くぞ」


『ああ、そう。なら、行こう。ケイオスも待ってると思うし』


 こうして俺たちは小さな困難を乗り越え、ケイオスさんが待つ魔法学校へと徒歩で向かうことにした。




 魔法学校へと続く道を俺たちは他愛のない話をしながら進む。見た目が幼女で人懐っこい且つ積極的なところがあるためか、シェロンさんはすぐにシルマとシュバルツと打ち解け、楽しそうに会話をしている。


 それをぼんやりと眺めて歩いていると聖が俺の耳の元に近づいて来て小声で言った。


『ねえ、僕思うんだけど、見た目子供で中身は老人ってイケおじ&イケおば好きにはどういう受け入れられ方をしているの。見た目が若くてもおじおば判定?』


 ああ、そう言えば聖は美少女趣味が強めだから、そう言う感覚はわからないのか。同じオタクでも好みのジャンルが違うと理解できないこともあるのが切ない。まあ、俺は美少女キャラも好きだけどな。もっと言えば声優さんに引っ張られる傾向すらある。


「それについてはヒトによって価値観は違うからなんとも言えないな。でも、見た目と中身は伴っていて欲しいってヒトの気持ちもわからなくはない。因みに、俺はどっちもアリだと思います」


 でもまあ、よく考えると見た目も中身も渋いもしくはおちゃめで強いおじさまキャラは割といる気がするが、強いおばさまキャラってあんまり見ないよなぁ。


 メディアに出ている大体シェロンさんみたいに見た目が若い、と言うか美少女が多い気がしなくもない。シャルム国王のところのメイド長、エクレールさんを見た時も思ったが、見た目も込みで強いおばさま・おばあさまキャラがいても良いと思うんだ。必要以上に美少女化する必要はないと思うんです。個人的に。


 キャラ全部をイケおばにしろとは言わないが、もう少し増えてもいいんじゃないかなぁ。と思わなくもない。


「ふうん、そんなもんかなぁ」


 俺の返答に聖は納得がいかない様子で頷いていた。なんだよその反応。興味がないなら聞くなよ。語り損だろ。


 そんなくだらないことを話している間に俺たちは魔法学校へと辿り着いた。魔法学校の門の前でケイオスさんが手を振って出迎えてくれた。


「よう!用意した宿はどうだった。中々快適だっただろ」


「はい。全てにおいて快適過ぎて恐縮しました」


 最高峰の宿にも係わらず、お値段もサービスも最高すぎましたとも。と、正直な感想を述べる俺にケイオスさんがまた豪快に笑った。


「ははははは、大げさだなぁ。まぁ、快適に過ごせたならそれでいい。で、今から旅立つのか」


『うん。そうだね、そのつもりだよ。お世話になったし挨拶に来た』


 ケイオスさんの問いかけに聖が答えた。


「そうか、本来なら俺もついて言ってやりたいところだが、魔法学校の校長が無期限に席を空けるわけには行かないからな。それについては申し訳ない」


「いいえ、ケイオスさんには鍛錬にも付き合って頂きましたし、十分です」


 頭を下げるケイオスさんに俺は首を勢いよく左右に振って言った。ケイオスさんには本当に感謝している。死にそうな目に遭わされたが、魔術も発動できた。まだ使いこなせてはいないが、自分にも魔術が使えると言う自信が持てたのは間違いなくケイオスさんにおかげた。


「そうか。お前にはもう少し鍛錬してやりたかったところだが、残念だよ」


「あはは……それはまたの機会にお願いします」


 頭を上げ、意地悪く笑って悪意のある言葉を向けて来るケイオスさんから目を逸らして俺は乾いた笑いで返す。


「心配はいらぬぞ!我がついておるからな」


 話の最中、俺の後ろからシェロンさんがひょっこり顔をだしてそう言った。シェロンさんの姿を確認したケイオスさんが驚いて目を丸くする。


「おお、シェロンじゃねぇか。久しぶりだな」


 この反応を見るに、シェロンさんは本当にアポなしでこの国へとやって来たようだ。よほど浮かれ気分だったんだろうなぁ。


「はは、そうじゃのう。世界を救った後はすっかりご無沙汰だったからのう」


「でもシャレムとは定期的に連絡をとっていたんだろ」


「あいつはマメじゃからな。国を背負うものとして、パイプを繋げておきたいのじゃろう」


 そう言って2人は和やかに笑い合った。うーん、シャロンさんの人柄のおかげなのか、これまでお約束のようだったギスギスした関係ではないんだな。


 シャルム国王とケイオスさんの会話は関係がちょっとツンドラなところが見え隠れしたけど、今回はそれを感じない。寧ろこれまでの仲間たちの再会シーンと比較すると一番友好的な雰囲気だ。


『まあ、シャロンは良くも悪くも性格に裏表がないし、実力も当時はパーティメンバー1だったからね。みんな今でも一目置いているんだよ。僕にとっても今後の戦いのことを考えると頼もしい存在だよ。ちょっと我がままで大雑把なところがあるけど』


 その言い方……さっき自分の素性を暴露されかけたことを根に持っているな。確かにあれはハラハラしたけど。


「シャロンさんが、実力ナンバー1……」


『そうだよ。レアリティは5、僕が神子だったことろからレベルはカンストでシルマちゃんと同じ500だよ』


「またレベルカンストかよっ」


 出会ってからずっと見た目に引っ張られているが、彼女は見た目は幼女でも竜族の長で数千年を生きていると言う事実を思い出す。


 オタクの思考で竜族ってだけでも強いイメージがある。それに加えて先ほど泥棒を捕まえる際にも指一本で吹き飛ばしていたもんな。本気で戦ったら相当強いんだろうな。


 本気で戦う姿を見てみたいと思う反面、シェロンさんが本気を出す状況など訪れて欲しくないと言う感情もある。うん、やっぱりそんな状況に一瞬も直面したくない。


 と言うか、その情報を踏まえるとシルマは竜族の長並に強いってことになるぞ。ああ、俺の中でシルマの存在がどんどん遠くなって行くっ。気持ちとしてはもう殿上人だわ!


「よぅし!我もケイオスの久々に顔を見て満足した。それでは行くとするかの」


「えっ、どこにですか」


 いつもの如くいらぬ考えことをしていたせいで元気よく放たれたシェロンさんの言葉の意味が全くわからなかったので聞き返す。


「どこって、アエラスだよ。シェロンの住処があるところで、ネトワイエ教団が次の目的地にしているとことだ。昨日さらっと話しただろ」


 ケイオスさんは呆れた様に俺を見て言った。ああ、そう言えばそんな話をしたような気がする。


「風の国まではどのルートを辿りますか。今、地図を……」


 旅の始まりを予感したシルマが地図を取り出そうと腰のポーチを漁った時、シェロンさんがリズムカルに舌を鳴らした。


「チッチッチ~。その必要はないぞ。()に乗って行けばよい」


「我って……シェロンさんに?」


 俺が聞き返すとシェロンさんは大きく頷いた。


「そうか。確かに、その方が()()アエラスに到着しそうだな。よし、こっちへ来い。一目のつかないところへ移動しよう」


『えー、全員で乗るの危なくない?」


 何のことか全くわからない俺たちだったが、ケイオスさんと聖は理解ができている様で、話は決まったと言わんばかりにスタスタと歩き出した。俺たちは理解ができないまま、足早にケイオスさんたちの後を追いかけた。




「でっか」


 連れて来られたのは実験棟の裏。俺たちの目の前には全長20メートルはあるエメラルドグリーンの体を持つ大きな翼竜が佇んでいた。


 何を隠そうこの翼竜、先ほどまで幼女の姿をしていたシェロンさんなのである。ヒト型の竜族だが、竜の姿にもなれるらしい。


 こんな姿で戦闘中に本気を出されたら色々終わるわ。あっ、前に翼竜に襲われたことを思い出して寒気が。


「な、なるほど。人気のないところへ来たのはそう言うことだったのですね」


 シルマも竜の姿となったシェロンに激しく動揺しながらそんなことを言った。


 そう。今の時間は実験の授業は1コマも入っておらず、生徒は共通講義棟で授業を受けているため、誰もいないらしい。


 実験棟の裏はこの大きさの竜が余裕で飛び立てるぐらいの(都合の良い)スペースがあり、建物も高いのヒトの目につきにくい。だからケイオスさんはこの場所に俺たちを連れて来たのだ。


「さあさあ、遠慮なく我の背に乗るがよいぞ」


 シェロンさんは上機嫌にそう言って俺たちが乗りやすい様にその身を屈め、手(?)を梯子代わりに差し出す。


「は、はあ。じゃ、失礼します」


 竜に乗ると言う戸惑い、竜に乗れると言う喜びを胸に抱きながら俺はシェロンさんの背中によじ登った。


 そして一番前に聖を抱えた俺、その後ろにアンフィニを抱えたシュバルツ、最後にミハイルを抱きしめたシルマの順番で乗り、飛び立ちの準備が整った。


「俺も今回の件については色々と調べてみる。何かわかったら連絡するよ。シャルムからお前の端末の番号は聞いてるから」


 ケイオスさんが笑顔で手を振った。


「はい。お願いします」


 俺も頭を下げる。そしてシェロンさんが言った。


「では、そろそろ行くかの」


「はいっ」


 シェロンさんが翼を広げ、飛び立ちの体制を取る。ぐっと下に重力がかかり、まさに飛び立つ。そう感じたので、ケイオスさんに一時の別れと感謝の言葉をもう一度述べようと思った時だった。


「ケイオスさん、お世話になり、うあああああああああああっ!?」


 唐突に全重力が空へと向かう感覚に襲われた。さながらその衝撃は逆バンジー。弾き飛ばされたのではないかと思うほどの衝撃を体に受けた。


 せっかくの感謝の言葉は絶叫へと変わり、その場で溶けて消えた。


「達者でなー。また会おうぜーーーーーっ」


 遥か下からケイオスさんの消え入るような声が聞こえる。その言葉に答えたくても答えられない。と言うか風圧で口が開かない。


 数秒風圧に耐え、シェロンさんの体が水平になったので、風圧と重力から解放されるかと思ったがそれは大きな間違いだった。


「あがががが、速い!速すぎますシェロンさんっ」


 体が水平になった後もシェロンさんはどんどん加速した。さすがは自分でジェット並のスピードだと言っていただけある。でも、凄い速い上に怖い。


 生身の体が耐えられているので多分マッハは出ていないが、これはちょっとしたジェットコースターにシートベルトなしで乗っているのと同じだ。


 俺もシルマもシュバルツも、各々腕に抱えている仲間をしっかり守りながら、自分も振り落とされない様に必死でシェロンさんの背にしがみつく。ウロコのおかげで滑らずに済んでいる気がする。ありがとう、ウロコ先輩。


 で、でもいつまでしがみついていればいいんだ。目的地はまだかぁぁぁぁっ。


 その後も必死でしがみ続け、いよいよ体力の限界を感じてこの世に別れを告げようと覚悟した時、シェロンさんから嬉しい知らせがあった。


「見えたぞ。あれが風の国と呼ばれるアエラスじゃ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


聖「次回予告!竜族、シェロンの背に乗ってケイオスたちは次なる目的地、アエラスへとやって来た。気分が良いシェロンの提案で彼女の故郷を訪れることになったけど、ネトワイエ教団の影も見え隠れしている様子。この旅、どうなるだろうね」


クロケル「はあ、はあ、なんで移動するだけでこんなに死にそうな目に遭わないといけないんだ」


聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第56話『竜の谷へご招待』竜の谷は秘境中の秘境、貴重な経験になるよ」


クロケル「竜の谷……他のヒト型竜族に会えるってことか。それは興味深いかも」


聖「そうだよ、楽しみでしょ。ほら、オタクパワーで頑張って」


クロケル「いや、ぜってぇ流されてやんねぇからな」

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