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第54話 可愛いお婆さんは好きですか

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。


この作品、物語はノープランですがキャラについてはある程度プロットを考えていたのですよ。ですが、段々プロットにないキャラや設定が増えて行き(作者が)大変なことに……。


扱いきれるのかこれ、風呂敷が広がって行く一方な気がしてならない(震)


本日もどうぞよろしくお願いいたします。

「よいしょっと……結構買ったなぁ」


「すみません、荷物を持ってもらって」


 シルマが申し訳なさそうに言ったが、俺は首を横に振った。


「いや、気にするな。お前にはいつも助けてもらっているし、これからも頼ることになりそうだからな。これぐらいはさせて欲しい」


 これは本心である。ステータスで見れば俺よりもシルマの方が筋力はあるが、流石にこんなこと(荷物持ち)まで頼っていては俺の中で男としての尊厳が消える。


「ねぇ、クロケル。キャンディ、もう1個食べてもいい?」


 シュバルツが俺の服の裾を引っ張って許可を求めた。実のところ、シュバルツはキャンディの味も見た目も相当気に入った様でもうずっと食べていた。


「はいはい、好きにしろ」


「わーい。ありがとう」


 シュバルツは俺からキャンディの袋を受け取って、にこにことしながらキャンディを1つ口の中に入れた。それを口の中でコロコロと転がし、幸せそうに味わっていた。


「貴重なものがたくさん買えてよかったですね」


「ああ、買いすぎたぐらいだな」


 俺は両手にぶら下がるパンパンの買い物袋×6を苦笑いで見つめた。


 キャンディ屋で紙袋いっぱいのキャンディを買った後、俺たちは色々な店を見て回り、旅支度を整えた。

 

 と言っても治療薬や回復アイテムはシルマがいれば事足りるのでおまじない程度しか購入しておらず、袋の中のほとんどが食べ物だ。


 一応、日持ちするものを選んだが、今後この大荷物を抱えて旅をしなければならないと考えるとちょっと大分憂鬱になってきた。


 ゲームとかなら重量を感じない無限に入る鞄があるのに。とシルマに聞こえない様にため息をつくと、聖がすいっと俺の視界に入って来た。


『じゃあ僕が預かっておいてあげるよ。リストアップもしてあげるし、好きな時に必要なものを言ってくれたらその時に渡すから』


 突然の申し出に有難いと思うと同時に一瞬だけ思った。なんと言うご都合主義な展開だと。まあ、今まで俺たちが手に入れた(俺の)強化素材やある程度のお金も預けてあるし、驚くような提案ではない。寧ろ助かる。


 しかし、物体を一度データ化してまた物体に復元するってどう言う原理なんだかさっぱりわからん。近未来でもそんなこと実現不可なんじゃないか。色々複雑そうだし。


 手っ取り早く聖に荷物を預けた後、俺たちは夕食を取ろうと言う話になり、露店を覗くことになった。


 夕食は宿で用意してくれるとのことだったが、夜も遅かったし、お祭り気分を味わいたかったので前もって断っていたので各自好きなものを夕食として食べることにしたのだ。


 俺は野菜や肉、魚介を薄く伸ばした小麦粉の生地で巻いたクレープとお好み焼きの中間の様なものを食べた。こう言うやつは俺の世界にもあったし、未知の食べ物ではないと判断してこれを選んだ。


 中には甘く、とろみのある少し濃い味のソースが塗られていて、味はとんかつソースに近かった。異世界の食べものなのに馴染みのある味がしておいしかった。


「クロケル様の物は食べごたえがありそうですね。私だったらお腹いっぱいになっていると思います」


「ああ、結構腹にくるな。流石粉もの……。シルマのはスープか」


「はい。白湯野菜スープです」


 差し出されたカップを覗くと食べやすいサイズに切られた人参、キャベツ、トマト、コーンが色鮮やかにカップの中で泳いでいた。一口サイズの鳥肉からも出汁が出ていそうでスープなのにボリュームがあった。


 少しだけ、嗅ぎなれない香辛料の匂いがしたが、多分薬膳料理なのだろう。シルマらしい、健康に良さそうなチョイスだと思った。


「食べやすそうでいいな。体も温まりそうだし」


「はい。ショウガも入っているのでポカポカです」


 シュバルツは全ての食べ物に興味を示していた。特に興味を惹かれたのは肉料理だったらしく、ケバブや唐揚げを小動物の如く頬を膨らませながらモクモクと食べていた。野菜もちゃんと食えよ、と注意したら今度はボウルいっぱいのサラダをバリバリと食べていた。


 狂気的なほど食欲旺盛なシュバルツに、やっぱりこいつの本質はモンスターなんだなぁ、と思いつつも今度から「限度」と言うものを教えようと固く心に誓った。


 アンフィニは相変わらずシュバルツの腕の中で大人しくしていたし、聖は俺たちの様子を見守る様にただふよふよと浮いていた。


 そうやって旅支度と夕食を同時に済ませてようやく宿に辿り着いた頃には、時刻は深夜を示していた。商店街や宿の明かりのおかげで真っ暗ではなかったが、流石に人通りも少なくなっていた。


「クロケル様御一行ですね。ケイオス様よりお話は聞いておりますお部屋にご案内しますね」


 連絡をしてから大分時間が経っての到着にも係わらず、宿主は笑顔で出迎えてくれた中年で小柄、坊主頭の優しそうな男性だった。


 案内されるがままフローリングの廊下を歩くこと数十分。俺たちは他の部屋とは少し離れた位置にあるところへ通された。


 通された部屋は洋式で、クイーンサイズのベッドが2つと液晶テレビが1台、ちょっとした作業をするには十分な机、そしてシャワールームとトイレが別になっていると言うシンプル且つ快適な造りになっていた。


 おいおい、この部屋中々の金額なんじゃないのか。まあ、予算的には余裕があるから問題ないど、グラキエス王国の時と言い、良い部屋には泊まり慣れていないからそわそわする。全く落ち着かない。


「ケイオス様よりなるべく人払いをする様にと仰せつかっております。御用の際はお部屋に備え付けの電話にてご連絡下さいませ」


部屋に入るなり宿主が深々と頭を下げてそう言ったので俺は少し驚いた。


「え、もう夜も遅いですよ。こんな時間にも対応して下さるんですか」


「はい。当旅館は24時間体制でお客様にご対応させて頂いております。ご遠慮なく、いつでもなんなりとお申し付けくださいませ」


「は、はい。ありがとうございます」


 あまりにも丁寧な対応をされてしまい、こちらの方が申し訳なくなってくる。恐縮しすぎてガチガチになって頭を下げると、店主がクスリと笑って言った。


「いいえ、お気になさらず。これが私どもの役目ですから」


 何か微笑ましい視線を向けられている様な気がする。店主はそのまま数秒、にこにこと俺を見つめた後、シルマに向き直った。


「シルマ様はお隣のお部屋をご用意させて頂いております。こちらが鍵です」


そう言ってシルマに鍵を差し出す。


「ありがとうございます。突然の訪問であるにも関わらず、この様にご対応を頂き誠にありがとうございます」


 シルマは鍵を両手で受け取り、深々と頭を下げた。宿主はまたにこりと笑った。


「いいえ、お気になさらず。それではごゆるりとお過ごしください」


 礼儀正しく一礼をし、店主は部屋を出て行った。扉がゆっくりと閉められ、ヒトの気配が消えた後、妙な緊張から解放された俺とシルマは大きくため息をついた。


「はあ、やっと休める」


 俺はベッドに腰を掛けて天を仰いだ。同時にシュバルツに抱かれたままだったアンフィニも体をほぐしながら気だるそうに言った。


「ああ、俺もやっと自由に動ける」


 ぬいぐるみでも体は凝るんだなと思いつつ、俺は疑問を投げかけた。


「なんでぬいぐるみのフリをしていたんだ。この世界は意志を持つぬいぐるみなんてめずらしくないだろ」


 実際、魔法学校でカルミンとアリスは動いて喋るアンフィニを見ても無反応だったし、喋る動物と同じぐらい当たり前のことだと思うが、違うのか?



「あくまでも警戒のためだ。周囲にはただのぬいぐるみだと思わせておいた方が、何かあった時に相手の不意を突きやすいだろ」


 平然と返されたその言葉に更に疑問と戸惑いを持つ。


「何かあった時って……何?」


「就寝している時の奇襲とか」


 不穏な言葉に怯えながら聞く俺にアンフィニはバッサリと言った。その短くも恐ろしい返答に俺の血の気が引く。


「こ、怖いこと言うなよ!安心して

寝られなくなるだろっ」


「怖いとか言う問題じゃないだろ。信頼できる者からの提供先が安全な場所とは限らない。警戒を怠るなと言っているんだ」


「う、それはそうかもしれないけど」


 アンフィニの言うことは最もだ。最もだけど……でも、ドタバタ騒動があったあとぐらい心穏やかに休んではいけませんか。いや、休みたい!


 不満爆発寸前だが、正論を前に何も言い返せずに震えていると呆れた様な声が耳に入って来た。


「騒がしいな。何をしている」


開けて置いた窓から入って来たのがミハイルだ。この騒がしさが癇に障るのか非常に迷惑した表情をしている。なお、動物(ミハイル)がいると言うことは宿主には伝えているので部屋に迎え入れることは問題ない。


『おおー、これでまたメンバー勢ぞろいだねぇ』


 相変わらずのんびり姿勢な聖に若干八つ当たりに近い苛立ちを覚えているとシルマが控えめに笑った。


「それにしても、これだけ至れり尽くせりな対応をされてしまうと緊張と言うか、罪悪感がありますよね」


 シルマもさすがに疲れ気味な様子だった。それもそうだ、あの襲撃を回避できたのはシルマが張った結界のおかげだもんな。今回のMVPは間違いなくシルマだ。


 俺は心の中で盛大に感謝しながら返事をした。


「ああ。そうだな」


 実のところ、この宿には多大なる迷惑と無理を言っていると言う自覚がある。まずは夜遅くに当日泊りの許可を貰っているということ。聖の調べによればこの宿は老舗の格式高い宿であり、基本は予約制らしい。通りでちょっと豪華な造りの宿だと思った。


 そんな歴史ある宿にケイオスさんが話をつけてこの至れり尽くせりな状況を用意してくれたのだ。もうその時点で罪悪感がすごい。


 さらに部屋割りについてもケイオスさんに希望を聞いてもらえた。俺とシルマはもちろん別部屋にしてらい、聖、シュバルツ、ミハイル、俺の男チームは同室と言うことにさせてもらった。


 宿を提供してもらっている上に注文を付けるのはおこがましいとは思ったが、ケイオスさんも宿主も快く了承をしてくれた。


 因みに、1人1部屋でもいいと言ってもらえたが、流石に個別にこのメンツ(タブレット、動物、ぬいぐるみ、ヒトの姿を借りたモンスター)で部屋を1部屋ずつもらうのは気が引けるので丁重にお断りした。


 正直なところ、宿にもケイオスさんにもここまでの対応をしてもらうような立場でもないのに、なんでこんなことになっているのかわからない。ご厚意はとても嬉しいが、大きすぎる恩を受けたその後のことを考えるだけで体に寒気が走る。


 こんなに恩恵を受けて後から返せって言われたらどうしよう。俺たち、馬車馬みたいに働かされるのかな。


『大丈夫だよ。ケイオスはそこまで性格悪くないから。気に入った相手には面倒見がいいんだよ。あいつ』


あらぬ未来を想像して小刻みに震える俺に聖が言った。意外な言葉に俺は思わず聖を見る。


「そ、そうなのか?見返りとか要求されないよな」


『されないよ。まあ、これからネトワイエ教団とか諸々で僕たちと協力していかないといけないから、その分労ってくれているんだと思うよ』


「ならいいけど……」


 聖がそう言うなら真実なのだろうが、その言葉を要約すると“これから苦労をかけることになるから今の内に贅沢して休んでおけよ”ってことになるのでは……?


 フィニィやネトワイエ教団のことに協力すると決めたものの、俺は聖人君子ではない。危険があると臭わされる度に尻込みしてしまう。


 我ながら臆病で情けない自覚はあるが、俺の前世(?)はただの学生、一般人だ。平凡にのうのうと暮らしてきた人間に、ましてやレベル1で紙耐久の人間に“過去の因縁に首を突っ込んで戦え”と言う方にも問題があると思うぞ。


 大体、こう言うのって拒否権ないよな。RPGでもお遊びで「世界を救ってくれないか」の問いかけに「いいえ」を選択すると話が進まないからな。拒否権がないなら最初から選択肢出すなよとさえ思う。


 王様も女神もこちらが了承するまで永遠と同じ問いかけをしてくる恐怖。メタ的に言えばゲームのシステム上、断ると言う選択肢がないのは理解できるが、他人に世界を背負わす国や世界の神は正直、ちょっとおかしいよな。俺、まさにその状況だよな。


『まあまあ、せっかくこんないい宿に泊まれたんだからゆっくり休みなよ』


 内心グチまみれの俺を聖がケラケラと笑いながら宥めるが、おちょくられ感が半端ない。俺の怒りボルテージは間違いなくお前のせいで上がっている。


「はあ、もういい。夜も遅いし、お前の言う通りゆっくり休むことにする」


 イライラすることにも疲れた俺は夜も遅いこともあり、就寝を決めた。シルマもにっこりと頷く。


「そですね。せっかくのお宿泊まりですもの。ゆっくりしましょう。では、私は隣の部屋で休ませて頂きますね、おやすみなさい」


 シルマは小さく手を振った後に自分用に用意された部屋へと姿を消した。


「よし、俺もシャワーを浴びたらもう寝る。お前たちも好きにしろ」


 聖たちにそう声をかけた後、俺は手早くシャワーを浴びてベットに入って就寝した。暫くしてシュバルツがもう1つのベットに入って寝息を立て始めたことを確認し、俺もゆっくりと意識を手放した。



 翌朝、宿で奇襲も何も起きなかったことに感謝しつつ、用意してもらった朝食を有難く頂いてから俺たちは宿主に頭を下げて宿を後にした。


 ケイオスさんからの紹介であること、宿に泊まっていた時間が少なかったことから高級宿とは思えないぐらいの価格で宿泊できたことに驚いた。なんだか得をした気分である。


 宿を出て暫く、とりあえずケイオスさんに会いに行こうと魔法学校に向かいながら町中を改めて観光することにした。


 夜の非現実な雰囲気も魔法の国らしくて魅力を感じたが、朝の活気あふれる街並みも新鮮だと思ったその時、背後から悲鳴が聞こえた。


「きゃーーーっ!泥棒っ、誰か捕まえてっ」


 なんだこの物語が動く時にありがちなお約束の展開は!何のフラグだ!?と思いながら勢い良く後ろを振り返れば、黒布で顔をグルグル巻きにしたゴリラ並みにガタイの良い(多分)男がサブバックを小脇に抱えてこちらへ向かって全力疾走して来た。


 彼方には地面にへたり込むお婆さん。騒ぎ気がついた周囲のヒトに助け起こされていた。個々から確認した限りは怪我等はしていない様だ。


「どけぇぇぇぇぇっ」


「えっ、わあっ」


 泥棒男はあっという間に距離を詰めて来て、突然の出来事に俺は何もできずそのまま男に突き飛ばされて豪快に尻もちをついた。ケツが痛い、全身がめっちゃ痺れている。


「クロケル様、大丈夫ですかっ」


 シルマが血相を変えて俺に手を差してくれた。ありがたくその手を取り、ヨロヨロになって立ち上がる。


「あ、ああ。なんとか……ちょっとふらふらするけど平気だ」


 ヤバい、マジでふらふらだ。さっきので大きなダメージを食らったらしい。突き飛ばされただけでこれとか、本当に大丈夫か俺っ。今後想定されるであろう戦いのことを思い、既に不安しか感じなかった。


「はっ、情けねぇやつ。お前、強そうなのは見た目だけなのかよ」


 事情を知らないミハイルは俺をバカにするように言ったがまさにその通りなので何も反論ができない。


「急いで回復します」


 シルマが即座に回復魔法を発動させ、体が楽になって行くのが分かった。危ない、大いなる敵と戦う前に人生を終えるところだった。


「ありがとう、シルマ。大分楽になったよ」


「よかったです」


 俺の顔色を確認したシルマが安堵の表情を浮かべた。その表情に何故だかじんわりと胸が温かくなった後、ハッとして泥棒男の逃げた方を見る。


 自分が弱いせいで犯罪者の逃走を許してしまった。今のは絶対止められたはずだ。シルマのおかげで回復したし、今からでも追いかけないと。


 妙な使命感に駆られ、泥棒を追いかけようとしたその時、俺の目の前に信じられない光景が映った。


「女の子?」


 泥棒が向かう真っすぐその先、つまり真正面に5歳ぐらいの女の子が腕組みをし、仁王立ちで立っているのだ。見方によっては泥棒を待ち構えている様にも見える。


 髪の毛はエメラルドグリーンで巻髪。それを、ツインテールで纏めている。瞳はルビーを思わせる深紅でどんぐり眼だが少しだけ吊り上がっており、勝気な印象を受けた。


 服も緑を基調とした白のフリルが印象的なドレスで、二次元でよくあるスカートの部分が前空きタイプのものだ。下にはやはり緑のショートパンツを履いている。


 よほど緑が好きなのかと思いきや靴だけは何故か茶色のショートブーツである。


 見た目が少し印象的だが、小さな女の子が大柄な泥棒男を止めようとしている光景に、俺は動揺のあまり踏み出そうとした足が動かない。


「どけ!クソガキ!!」


 行く手を阻まれた泥棒は女の子を押しのけるべく、走りながらタックルの姿勢を取った。ヤバい、あんなゴツイ男に体当たりされたらあの子が大怪我をしてしまう。


 体は成人魔族でレベル1の俺がふらふらになったんだ。あんな小さな体などひとたまりもないに決まっている。


「た、助けないと!でも間に合わない」


「な、なら私の魔法で」


 なんとか女の子を助けようと慌てる俺とシルマに聖が落ち着いた様子で言った。


『あの子なら大丈夫だよ』


「はあ!?お前何を言って……」


 抗議をする俺に聖は静かに言った。


『まあ、見てなよ。直ぐに終わるからさ』


 あまりに真面目な口調で返され、俺とシルマは顔を見合わせて不安を抱きながら困惑する。もう一度女の子の方を見た。


「やれやれ、世界は平和になったと聞いたが、子悪党は残っているのか。実に嘆かわしいのう。これは少々、灸を据える必要があるなぁ」


 耳に届いた幼女に似つかわしくない貫禄のある口調に違和感を覚えた瞬間、女の子が腕組みを解いて、左の人差し指で迫る泥棒男を指差した後、そのまま指をすいっと横に流した、その瞬間。


「うわわわ、ぎゃあああっ」


 泥棒男の体がグンと左に引っ張られ、偶然積み上げられていた木材の山に悲鳴を上げて突っ込んで行った。


 舞い上がった土埃が晴れて泥棒男の姿が改めて確認できたが、目を回した状態で逆さまになって意識を失っていた。


 女の子はツカツカと泥棒男に近づき、その手からバッグを取り上げると吐き捨てる様に言った。


「ふん。盗難など頭も精神も未熟な者がする行為じゃぞ。この痴れ者めが」


「す、すげぇ……あの子何者だよ」


 相手に触れずに倒したぞ。俺たちだけでなくこの捕り物騒ぎに気がついた全員が俺と同じように呆けて泥棒退治をした女の子に注目する。


「警察です、泥棒はどこですか」


 人ごみをかき分けて黒い服の警官が走って来た。そしてバックを片手に佇む少女と逆さまになって木材の上で目を回す男を交互に見つめて目を瞬かせて言った。


「え、えーと。君がこの子を捕まえたのかい」


 小さな身長に合わせて、身を屈ませて確認する警官に女の子はニカッと悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。


「ううん。私じゃないよ。お兄ちゃんたちが助けてくれたの」


 女の子は首を横に振った後に真っすぐ俺たちを指差した。そう、俺たちを指差したのだ。


「えっ」


 その発言と同時に周囲の人々の注目を集めてしまい、思わず戸惑いの声が漏れる。とんでもない展開にシルマもおろおろと視線を泳がせた。


 な、何なんだあの子!何で俺たちをロックオンしたんだ。後、喋り方変わってないか。さっきはあれだけ貫禄があったのに今の口調は幼女そのもの。声のトーンも2オクターブぐらい高くなっている気がする。


「ああ、あなたたちが。ご協力、感謝いたします」


 警官たちは俺たちを見て(俺の見た目に騙されて)色々と納得したのか、泥棒を取り押さえた後に深々と頭を下げた。


「あ、あははは。いえ、そんな感謝をして頂く様なことは何もしてないですよ」


 本当に何もしていないが面倒くさい空気を感じ、肯定とも否定とも取れる曖昧な返事でその場を凌いだ。


 その後も鞄の主であるお婆さんにはしつこいほどに頭を下げられ、御礼にと段ボール2箱はある大量のリンゴを貰った。遠方に住む息子に送るはずだったものらしいが、家にたくさんあるからと押し切られた。


 町の人々の称賛も恥ずかしいぐらい浴びてしまい、恥ずかしくなった俺たちはとりあえず女の子を引っ張って足早に商店街を駆け抜け、魔法学校へと続く途中の森の影に身を潜めた。


 因みに、大量のリンゴはもの凄く重かったので聖に預けた。


 やっとヒトの気配から解放されたことを確認し、俺は女の子に詰め寄った。


「おい、どう言うつもりだ。俺たちは何もしてないぞ」


「ははは、すまぬのぅ。だがヒトの子に我の存在を知られるわけにはいかぬのだ。故に、手柄を譲ってやった。感謝しても構わぬのじゃそ」


 そう言って女の子おかしそうにケラケラと笑った。む、やっぱり口調が独特だ。それに雰囲気も年齢と合っていないと言うか、変に圧を感じる。


 それに存在を知られるわけにはいかないってどう言う意味だ。二次元作品でありがちなヒトの子と言う独特な表現から推測すると、まさかこの子は子供じゃないどころか人間ですらないのか?


『はい。ご明察~、そうだよクロケル。君の思っている通り、彼女は人間じゃない。ヒト型の竜族だよ』


「ヒト型竜族!?希少種じゃないですか」


 聖の言葉を聞いたシルマが目を丸くして驚いた。俺はこの世界での各種族の希少価値は分からないが、ヒトの形をした竜族ってどの作品においても貴重だし強キャラなんだよな。それに割と理不尽な過去を持っていて人間嫌いなイメージ。


 でも見た目はどう見ても普通に可愛い人間の女の気なんだけど。角とか尻尾とか翼とか、それらしいものが一切見当たらないぞ。


「ふふ、我の可愛さに惚れたか。少年よ。良いぞ、もっと見るがよい。希望するのであれば擬態の力を緩めて翼や角を見せてやっても良いぞ」


 興味心身で見つめる俺に女の子は気分よく言った。そんなやり取りに聖が大きなため息をつく。


『そうやって遊ぶのも大概にしなよ、シェロン。君はもういい年なんだからはしゃぐのもいい加減にして』


「ああ、すまないな。久々に面白いヒトの子と会えたものだから年甲斐もなくテンションがあがってしまったのだ」


 聖の割ときつめな言葉に怒る様子もなく、シェロンと呼ばれた女の子はヘラヘラと謝った。


「んん、いい年?」


 聖の言葉が引っかかり、眉をひそめるとシェロンは胸に手を当て、何故か誇らしげにそして得意げに言った。


「我が名はシェロン。ヒト型竜族の長にして数千年の間世界の行く末を見届けて来た者。そして、アキラなる神子と共に世界を救った存在でもある」


「えええええええええええええええっ」


『うるさっ』


 驚くべき事実が多すぎて俺は大絶叫で驚いてしまった。聖が嫌そうな声を出し、ミハイルも大げさだと言わんばかりにこちらを睨んでくる。


 いやいや、驚くよ。驚くべき点しかないよ。聖の仲間で、竜族の長で数千年の間世界を見届けたって何だ!どこかツッコめばいいんだっ。


「す、数千年って、でもその姿……」


 俺は質問を散々悩んだ挙句、一番気になっていることを聞いた。だって、見た目はどう見ても5歳の女の子ですよ!?数千年ってもう本来ならお婆さんですよね。見た目と年月が嚙み合ってないですよー。

 

 シェロン……さんは一瞬だけキョトンとしてからすぐに自信たっぷりの笑顔で答えた。


「ああ、この姿か。ヒト型の竜族は姿を自由に変えることがでくるのじゃ。若い姿は身体能力が、年老いた姿は魔術能力が向上する。まあ、我は好みでこの姿になっておるのだがな。あっはっは」


 なるほど、見た目は幼女、中身はお婆さんと言うわけか。つまりロリ婆……


『ストープ、その表現は時代的に良くないと思うなぁ。可愛いお婆さんってことにしておこう』


「いや、その表現もどうかと思うが」


 コソコソとする俺と聖にシェロンさんがこてんと首を傾げて可愛らしく言った。


「何じゃ、可愛い(ばば)は嫌いかの?」


 いいえ、イケおば&おじ推しである俺のストライクゾーンは広いです。毅然として泥棒を取り押さえて圧倒した姿、あっけからんとした豪快な性格……。


 あえて言おう、最高であると!!


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


聖「次回予告!クロケルの前に現れた可愛いお婆さん、シェロン。彼女は何のために姿を現したのか。こんなゆるゆるで本当にネトワイエ教団に戦いを挑むことができるのか」


クロケル「うーん、心強い味方が現れたような、なんとなく不安なような」


聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第55話『風の国アエラスへ ~竜に乗って気ままな旅へ出かけよう~』空の旅って気持ちいだろうなぁ」


クロケル「なんだその旅行会社の宣伝みたいみたいなタイトルは」


聖「あ、それいいねぇ。旅行気分で現状を楽しみなよ」


クロケル「楽しめるかぁっ」





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